韮崎ワークショップ2024「空間について考える」報告


6月28日(金)の朝、大雨の中をワークショップ参加者は新宿センタービル前に集合した。道中「日本一美しい渓谷」といわれている御岳昇仙峡に寄ることを考えると、あまり幸先の良い出発とは言えなかったかもしれない。雨天にも関わらず、スケジュール通り午前11時45分に昇仙峡・影絵の森美術館に到着し、館内レストランで美味しい昼食を頂いた。食後は好き好きに美術館を見学したり昇仙峡を散策した。昇仙峡の遊歩道は雨で少々歩きづらいところもあったが、しとしとと降る雨の中、霧がかった山々を眺めるのはなかなか趣のある体験だった。これがいわゆる「わびさび」なのだろうか。

シャトレーゼホテルにらさきの森には予定より早く到着した。アイスブレイキングでは特定のフレーズに当てはまる人物と会話するビンゴという、なかなか面白いゲームをした。詳細は割愛するが、癖の強いフレーズにも関わらず色々と話しが盛り上がっていたのは、やはり多様な背景を持つ人たちが一つの場に集まっていたからだろう。ホテルのレストランで美味しい夕食を頂いた後、翌日以降のセッションへのウォーミングアップとして、「空間(space)」とそれに関係するような単語と自分の関係性などを簡単なゲームを通し、考察・表現・発表した。

6月29日(土)の朝はラジオ体操から始まった。前日の大雨から打って変わって、湿気は残っていたものの、気持ちいい朝の空気が吸えた。第1セッションは2022年度ラクーン生のアキルさんが担当し、彼の研究テーマでもある空間やパーソナルスペースに関するプレゼンテーションを拝聴した。中でも東京の満員電車の例から、アキルさんが示唆する「物理スペースがないからこそ、メンタルスペースを作り」、「そこにいるけど、そこにいない」状態という、我々も多かれ少なかれ感じた、あるいは実行したことがあるであろう行為に関する観点は魅力的だった。

休憩後、昼食を挟んで、2セッションに亘り「公共の空間」について考えを馳せた。財団スタッフの辰馬さんが説いた「ヒューマンスケール」の概念、2020年度ラクーン生の于寧さんが指摘する、同性愛者や高齢者女性等の社会的なマイノリティへの公共施設の「アクセシビリティ」の問題等を踏まえ、参加者はそれぞれ小グループに分かれ、ホテル周辺を散歩しながらこれらの問題について議論した。一つ興味深かったのは、日本出身ではない筆者やグループメンバーが「東京の道路は極めて安全(ないしは歩行者優先)」という旨の発言をすると、日本人のグループメンバーが少々驚いたことである。異なる背景・経験を持つ以上、私たちが異なる認識を持つことは当たり前だが、それを対比させることで「空間」への理解が、お互いより深まったと思えた。その後のセッションでは2018年ラクーン生の江永博さんが、同じ公共空間への認識は状況や文脈次第では変質できることを、現代と学生運動時代の早稲田大学の例を通し説明してくれた。

ワークショップの第3セッションでは、コロナ過で顕著になったいわゆる「オンライン空間」と我々がどう付き合うかを、二つのディベートを通して全員で論じた。セッション担当の2023年ラクーン生の楠田悠貴さんは「授業はオンラインであるべきか」と「学会はオンラインであるべきか」という参加者に身近な論題を出題した。オンライン、オフラインの異なる空間がどのように私たちの生活に作用するかを、ときおり白熱した弁論も交えながら、様々な視点から考えることができた。その後の第4セッションで2018年ラクーン生の武瀟瀟さんは、これまでの物理的ないしは経験的な空間論から離れ、「風水」に基づいた空間に関する知識や認識を共有してくれた。その過程で行った与えられた絵の中から風水的に良くないものを見つける「間違い探し」は個人的にはなかなか難しかった。

二日目を締めくくったのは屋外バーベキューだった。肉や野菜や焼きそばを、お酒片手に皆で焼くのは幾つになっても楽しいことで、久しぶりに大学生時代に戻ったかのようだった。初日の夜と同様に親睦を深めるおしゃべりの他、中にはホテルの卓球室で夜遅くまで勝ち抜き戦を繰り広げたメンバーがいたのはここだけの話である。

最終日のセッションではワークショップの総括として、「公平な都市」に関して考えた。前半はグループに分かれ、それぞれ自分と「まち」との関係や体験を議論し、後半はまた別のグループに分かれ、理想とする空間を有する「まちづくり」を行った。4グループがそれぞれ描き上げた「まちの絵」はこれまた多種多様で、見ているだけで楽しくなるものだったと思う。

改めまして、韮崎ワークショップ2024に参加できたことをうれしく思います。財団スタッフの皆様、奨学生の先輩方、そして同期の皆様、素敵なワークショップの思い出をありがとうございました。これらの素晴らしい機会をくださった、渥美国際交流財団の皆様に深くお礼を申し上げます。

当日の写真

文責:ラクスミワタナ モトキ(2024年度奨学生)