2023年度奨学生春季研究報告会報告


2024年3月2日(土)に、財団ホールにて2023年度奨学生の研究報告会が開催されました。2023年度の奨学生をはじめ、先生方、2024年度奨学生、財団の方々が財団のホールに参集し、報告者の指導教授の多くも当日オンラインで参加してくださいました。今年度も昨年度と同様に16名の奨学生が春季と秋季の2回に分けて研究報告をします。

始めに渥美直紀理事長からご挨拶があり、「皆さまの研究報告を期待している。」とおっしゃいました。その後、総合司会の角田英一事務局長が進行し、秋季に発表予定の奨学生が司会・タイムキープを交代しながら進め、2023年度奨学生の8名が各々の博士論文について報告しました。

最初の報告者、エンフアムガラン オノンさんは「現代モンゴル語の複数性に関する表現の研究」と題して、現代モンゴル語の複数性の特徴を示しました。コーパスや新聞の用例を分析する研究手法を用いた着実な研究内容に加えて、報告のスライドでは可愛らしいアニメーションも披露してくれました。興味津々で拝聴しました。2番目の何星雨さんは「中国の若者における児童虐待の認識と子ども観―「子ども理解教育」の構想に向けてー」と題して報告しました。文化的な背景を十分に考慮した上で、中国の児童虐待予防に対して具体的な案を提示しました。将来的に実現することが期待されます。3番目の金希哲さんはロボットによる器用な物体操作についての内容でした。実際の実験動画を披露しながら、分かりやすく説明してくれました。人間のように細かな作業ができるのはロボット研究において最も困難なところであると聞いたことがあるので、ワクワクする気持ちで伺いました。前半の最後のクラフト、ロバートさんは明治期の内村鑑三・志賀志昂・三宅雪嶺による「日本の天職」についての論述を取り上げ、その歴史的な意義を説明しました。哲学・歴史学・文学などのいわゆる人文系の研究において長らく欧米中心主義的文明論に対する反省的な議論が繰り返し行われてきましたが、明治期におけるその展開の一端を詳細に明らかにもので、刺激的な内容でした。

15分の休憩を取ってから、後半の報告に入りました。最初に筆者、馬歌陽は五〜六世紀(南北朝時代)における中国仏教美術の「中国化」についての報告を行いました。報告後渥美財団理事の平川均先生から「仏像は今の目で美術作品として見てよいのか、それとも礼拝対象として見てよいのか」というコメントを頂きました。これは博士論文の執筆にあたって、常々自問したことの一つですが、共感してくださったことは嬉しく思いました。2番目の白川誠さんは「アカマツ(Pinus densiflora)初生根における根細胞外トラップの機能と根圏細菌との相互作用」という題目で報告しました。身近ではありますが、実際にはよく理解されていない細菌のありさまを知ることができました。次の報告者、染谷莉奈子さんは「母親はいかにして知的障碍者のケアを担い続けているのか―障害者総合支援法以降に着目して―」に関する内容を報告しました。母親は知的障害のある子から離れるべきだと理解しているものの、離れることができないという結果を提示し、人間的な複雑さを感じさせる研究でした。最後に、徐子?さんは「抗がんによる早発卵巣機能不全における細胞老化の役割」と題して報告しました。実験結果を提示しながら、cyという抗がん剤による不妊に対して今後の治療戦略となりうると述べました。筆者にとって馴染みのない内容でしたが、イラストや動画、グラフなど様々な手段を駆使して、簡潔かつ明瞭に説明してくれて大きな感銘を受けました。

各発表後、指導教授と財団の先生方々から貴重なコメントや質問をいただきました。博士論文の研究意義を改めて確認できた上、研究者として真摯な姿勢や真剣な工夫・努力も生々しく伝わってきました。また、専門外の先生方や関係者の方々と話すことによって、研究者自身とは異なる視点からのご助言やご意見を頂き、今後の研究に繋がる新たな広がりが見えてきました。

最後に、今西淳子常務理事による閉会のご挨拶を頂きましました。今年度卒業予定の奨学生に対するご祝福、そして間もなく迎える財団成立30周年についてのお話を伺いました。私は、今年度の奨学生の一員として財団の皆さまと大変有意義な一年間を過ごすことができました。たくさんの思い出を十数年後、数十年後も鮮明に覚えているでしょう。この場を借りて、財団の皆さまにご支援・ご厚意をいただいたことに心より感謝申し上げます。今後もラクーンとして国際交流や国際理解の促進を図る財団の信念を引き継ぎ、ささやかな貢献ができれば幸いです。

文責:馬歌陽

当日の写真