2022年度奨学生春秋研究報告会報告
2023年9月30日(土)、夏の記録的な猛暑がようやく一段落して過ごしやすくなった頃、2022年度渥美奨学生秋季研究報告会が財団ホールにて開催されました。2022年度・2023年度の奨学生たち、先生方、関係者の方々が大勢集まり、開会前からすでに至る所で話が弾みました。2022年度奨学生の筆者も久々に皆さんにお会いできてとても嬉しかったです。同年度の奨学生同士、奨学金受給期間が終わった後の進路を語り合い、みんな研究や教育の場で大活躍しているようで喜ばしく、刺激にもなりました。
開会時間になり、まずは渥美直紀理事長にご挨拶をいただきました。その後、角田英一事務局長の司会で、2022年度奨学生8名が発表に挑みました。たった15分で自分の博士研究の内容を分かりやすく伝えるという課題を前にして、発表者の奨学生は悩みに悩んだことでしょう(少なくとも筆者は悩みに悩みました)。しかし、難題でありながら、自分の研究の「要点」や「意義」をさらに深く理解できるとても有意義な修行でもありました。発表者の出身国(日本、中国、韓国、イラン、モロッコ、オーストリア、ロシア)や研究分野、経歴がバラエティ豊かなので 、まとめ方も多様でとても勉強になりました。
最初に安ウンビョルさんは「想像/実現されたモビリティ」をキーワードに、1950 年代以降の日本の鉄道旅行について発表しました。旅行好きでも移動の哲学について考える機会は少ないので、新鮮な内容で非常に興味深かったです。その後、シェッダーディ・モハッメド・アキルさんは「モロッコにおけるイスラム都市の形態」と題した研究の意義や方法、研究成果の実用的な価値を示しました。普段は日本語で聞けない貴重な発表内容で、都市空間の文化的要素について改めて認識させられました。3番目の加藤健太さんは、戦後日本映画における「女々しい」キャラクターについて調べたこと、とりわけそうしたキャラクターの分類を共有しました。会場のオーディエンスは興味津々に聞いて、加藤さんが扱った素材(映画)の膨大な量や非常に分かりやすいまとめ方に感動していました。4番目のモハッラミプール・ザヘラさんは20 世紀初頭の日本における「東洋」概念について語りました。「東洋とは何か?我々はなぜそう思っているのか?」といった新たな疑問を掻き立てる、意外な切り口からの研究でとても刺激的でした。
その後、休憩をはさみ、後半の発表に入りました。最初の発表者、筆者(プロホロワ・マリア)は現代文学作家の多和田葉子とリノール・ゴラーリクの作品における動物表象を比較した自身の研究を紹介しました。話したいことが多すぎて最後は少し急ぎ足になってしまい、反省しております。次に登壇した銭海英さんは20世紀初頭の中国ナショナリズムについて語りました。発表後のディスカッションも充実しており、学ぶところが多かったです。銭さんの後、ワイネク・ノーラさんは、権力関係を軸に、沖縄の米軍基地の従業員に密着した研究を紹介しました。なかなか論じがたい米軍基地の問題とまっすぐに向き合って取材や分析を続けてきた彼女の姿勢には、研究者としてのゆるぎない逞しさが感じられました。最後の丁乙さんは「『ラオコオン』論争からみる二〇世紀中国美学」という題目で発表し、内容が斬新なだけではなく、聞いている人への細やかな気遣いも溢れる簡潔かつ明快な発表でラストを飾りました。
報告会を振り返ると、奨学生の発表後に、各自の指導教官および渥美財団の先生方がコメントをしてくださった点がとても重要だったと感じます。指導教官の発言によって、奨学生たちやその研究過程の今まで見えていなかった側面が明らかにされ、また専門外の場合が多い渥美財団の先生方のコメントによって、それぞれのテーマに新たな広がりが出ていました。また、財団の先生方はそれぞれの奨学生の面接時の様子もよく覚えてくださっていたおかげで、自分たちの成長を振り返ることもでき、かけがえのない時間となりました。
今西淳子常務理事のご挨拶で報告会は終わりましたが、その後に楽しい懇親会が待っていたのと、今西常務理事から財団の今後の予定についてもお話いただいたので、悲しい気持ちにはなりませんでした。奨学金の受給期間が終わっても博士号を取得しても、元奨学生の私たちはずっとラクーンです。一度でも渥美財団と関わりをもった人は、財団で学んだこと、出会った方々、感じた温もりを忘れることはありません。さらに、国境を越えた平和や相互理解に向かって一緒に歩んでいきたいと思う方々もたくさんいます。 今回の報告会で紹介されたような多彩な研究を手厚く支援してくださっていることのみならず、温かい絆を次々と生み出し続けて国際社会の調和を図る渥美財団に、心から感謝申し上げます。
文責:プロホロワ・マリア(2022年度奨学生)
当日の写真