2021年度奨学生秋季研究報告会報告


2022年9月24日(土)、2021年度渥美奨学生秋季研究報告会は春に引き続き、財団ホールにて開催されました。台風15号が猛威を振るったにもかかわらず多くの2021年度・2022年度の奨学生たち、先生方、財団の関係者さまが一堂に会しました。事情により博士論文を提出した直後に実家に戻った私は、当日オンラインで参加しました。結果的に今回の研究報告会は、遠くにいる先生方の反応をより近く窺い知ることもできたため、リアルで参加した春季研究報告会の雰囲気と比較できる良い対比になったと思います。

開会にあたり渥美直紀理事長からご挨拶をいただき、間もなく設立30年を迎える財団の趣旨と奨学生たちに対する理事長ご自身の期待を拝聴しました。ご挨拶を以て、渥美国際交流財団が奨学生たちに貴重な支援を行なっていることが改めて確認できました。

次に角田英一事務局長による総合司会のもと、7名の奨学生たちは博論のエッセンスを発表しました。「自分の研究内容及び研究意義を12分以内で、子供でも理解できるように説明」することが求められた例年と違って、15分で研究内容を説明するということは、一般の人々を対象にどうすれば拙論のエッセンスをより効果的に伝えるかに関して考えさせました。最初にセン亜訓さんは、「社会問題と帝国問題の連鎖―帝国主義論と民衆の政治的主体化を手がかりに」という題目で研究報告を行いました。次に蒋薫誼さんは、18・19世紀の漢籍逆輸入を中心に、清代中国における徂徠学の受容について説明しました。曹有敬さんは、20世紀音楽におけるコラージュのポエティクスとポリティクスという大題目のもと、1960~1970年代の理論と実践における「アンガージュマン(Engagement)」の諸相に関して報告しました。郭立夫さんはフーコーの権力論をもとに、中国における性的マイノリティの社会運動と性の政治について発表しました。

休憩の後、私は朝鮮戦争が遺した世界唯一の国連の墓地(国連記念公園)が、今日の生きている遺産として持つ意味を提示するとともに、日本・九州と持つ接点を中心に説明しました。李典さんは、「TDP-43 safeguards the embryo genome from L1 retrotransposition」に関して報告しました。とりわけ李典さんがレジュメに論文のプレプリントをバーコードで公開したことは、研究面で良いモチベーションになったと思います。最後に王杏芳さんは、「心儘ノ世界」と政治思想――近世日本における徂徠学から朱子学への転回」という題目で報告しました。

発表後は、森政稔先生と劉傑先生をはじめ、小島毅先生、苅部直先生、吉田寛先生、平川均先生、阿古智子先生、松田陽先生、片岡達治先生から貴重なご助言および今後の研究活動に関するご声援をいただきました。さらに、奨学生同士の文系・理系を行き来ししたコメントが行われたのも印象的でした。その例として、文系のセンさんが、李典さんの研究内容について「広い宇宙の中で新しい星を見つけたようなこと」とコメントしたことが挙げられるでしょう。そして王さんの司会役を担当した理系のヒルマンさんは、王さんの発表が、慣れていない朱子学に関して学ぶことのできる有意義なきっかけになったと説明しました。このように、発表とアクティブな相互フイードバックを通して、奨学生たちはお互いの独創的な研究分野に関して知の地平を広げることができました。

最後に、渥美伊都子顧問のご挨拶を以て、2021年度渥美奨学生秋季研究報告会は閉会しました。この場を借りて、日頃より渥美財団の皆様に多大なるご支援・ご声援をいただき、心より感謝申し上げます。これからも私たちは、渥美奨学生としての誇りと自覚を持ち、さらに研究活動を通して国際理解と世界平和の一助になりたいと思います。

文責:李貞善(2021年度奨学生)

当日の写真