2021年度奨学生春季研究報告会報告
2021年3月5日(土)、2021年度渥美財団研究報告会はまん延防止等重点措置が続いているなか、財団ホールにて開催された。桜がもう少しで咲きそうな花曇りの空の下、私は坂道を登って、ドキドキしながら会場に到着した。殆どの発表者がフォーマルな装いで、いつもとは違う緊張感が漂う雰囲気に包まれた会場だった。
今年度の研究報告会は、例年と異なって2回に分けて開催することになった。1回目の春組は3月、2回目の秋組は9月の発表となる。今回の報告会はリアルとオンライン開催を同時に行ったおかげで、各発表者の指導教員がコメンテーターとしてオンラインで参加できるようになった。
例年通り、今回の報告会においても、各発表者は「15分間で博士課程の研究を子供でもわかるようにやさしく説明する」ということを念頭において発表の準備を進めてきた。専門家を相手にする学会発表に慣れていた私たちにとって、限られた時間で子供でもわかるように自分の研究を説明することは決して簡単ではなかったが、いつもと違う視点から自分の問題意識、研究内容や意義を見直す機会となった。
発表会の最初で、渥美理事長からご挨拶をいただき、財団の趣旨や奨学生たちに対する理事長ご自身の期待を拝聴した。改めて渥美国際交流財団が国際交流の促進に尽力し、研究者を目指す若者に対する手厚い支援を行なっていることを確認できた。
次に7名の奨学生による研究発表が行われた。私は、近代中国の国語形成に関し、清朝末期の切音字運動が果たした役割に焦点を絞って紹介し、多様性と単一性とのジレンマから中国の国語問題を再考する意味について説明した。胡石さんは、リグニンの改良を事例に、持続可能な社会を構築するために、「厄介者」と扱われてきたリグニンを「英雄」として利用する可能性について報告した。陳イジェさんは、傅抱石という中国人画家を対象とし、傅が日本から受けた影響を検討し、20世紀前半における日本・中国・フランス・イギリスの美術交流の様相について報告した。李趙雪さんは中国絵画史の中軸として認識されてきた「文人画」という概念を中心に、その生成と展開のプロセスをたどって、今日の中国美術イメージの形成における「文人画」の役割について説明した。カキン・オクサナさんは、日本のアイドルのファン文化の特徴について「未熟さ」を愛でる・享受するということに着目し、それを新枠組みとして提唱し、ジェンダー視点を持った新しい日本文化論や国際的ファン文化研究に発展させる必要性について説明した。ヒルマンさんは、自動運転障害物を検出し、事故が起こらないように避けるために、「Semi-Automated Active Learning(SAAL)」というシステムを提案した。楽曲さんは、上代漢文学と律令国家との連動関係に着目し、律令国家の形成や発展にとって漢文学はなぜ必要なのか、そして、漢文学の発足と発展にとって律令国家の建設はなぜ必要なのかといった問いを中心に、博士論文の趣旨について説明した。
発表後は、中村元哉先生、劉傑先生、梶田真也先生、片岡達治先生、佐藤道信先生、平川均先生、棚橋訓先生、伊東敏夫先生、施建明先生、河野貴美子先生から貴重なコメントを頂いた。これらのコメントを通して、普段ではなかなか聞けない、指導教員や選考委員の先生の目から見た奨学生の成長について伺うことができ、今日の世界が直面している問題群について、自分の研究を手がかがりにして、私たちなりのやり方で省察する重要性と緊迫性について改めて認識できた。先生たちのお言葉を真摯に受け止め、それぞれの目標に向けて日々努力していきたい。
(文責:陳希)
当日の写真