2020年度奨学生研究報告会報告
2021年3月6日(土)、2020年度渥美財団研究報告会は緊急事態宣言が続いているなか、財団ホールにて開催されました。駅から上がり、江戸川橋を渡ると、桜の木の下で楽しく遊んでいる子ども声が賑やかに聞こえ、桜の蕾はちょっぴりふくらんで春を待っているかのようでした。
会場に入り、一年前と同じく全員マスクをつけて参加しました。マスク姿は2020年の生活をとても象徴的に語っています。新型コロナウィルスの世界的大流行の中、この一年間、財団のイベントはリアルとオンライン開催を同時に行うようになりました。これをきっかけに遠くにいる先輩たちと先生方はオンラインで参加できるようになりました。
発表会の最初で、渥美伊都子理事長からご挨拶をいただき、ひな祭りに関する日本文化の紹介および理事長ご自身の雛飾りに纏わるエピソードを拝聴しました。理事長の祖父母様から孫への愛を私たちがおすそ分けの形で受け継いだような感じがありました。
次に奨学生による博士研究の発表があり、パワーポイントを駆使しながら、自分の研究内容及び研究意義を12分以内で、子供でも理解できるように説明することに挑戦しました。具さんの1930年代の批評言説からみる小津映画の「日本的なもの」、于さんの中国における性的マイノリティーとネーミングの政治学、呉さんの夏目漱石とイギリスロマン主義思潮、マリダンさんのドパミン神経細胞の増加によるα―シヌクレイン分泌調節の治療への応用、趙さんの日大闘争の歴史性に関する試論、ローレンスさんの英語句動詞と日本語複合動詞の比較研究、苗さんの80年代中国における日本文学の受容、尹さんの被害者の政治学と政策的変容のメカニズム、元さんのいじめ傍観者の援助行動といじめ介入要因の日中比較、シーシキン・ヴィクターさんの光ファイバセンサーの技術開発及び実用化、私の植民地台湾における石川啄木の受容、梁さんの西鶴奇談研究、李さんの知的障害者の自己理解と他者意識に関する臨床心理学研究、雍さんの手指の主要動作パターンを実現する軽量化筋電義手の開発、様々な分野の研究成果が発表されました。
限られた時間の中、自分の研究内容をわかりやすく伝える重要さを改めて感じました。また時間をオーバーしても諦めず伝えていきたい同期生の一生懸命な姿にも心を打たれ、研究に対する情熱そのものが伝わってきました。研究発表後、先生方から貴重なコメントを頂戴しました。Zoomでご挨拶頂いた中央大学の宇佐美毅先生及び元国際連合事務総長の明石康さまから、異なる分野の研究者同士の発表を共有できる場がなかなかないので、今日の研究会のようなチャンスはありがたいという大事な教示がありました。このような交流を通してお互いの視野を広げ、自分の研究を見直すことにもつながると感じています。
一方、会場でご挨拶をいただい財団の理事片岡達治先生と平川均先生は、短い時間の制限を受け発表することには、捨てることが必要であるとおっしゃいました。そして、より効果的にプレゼンテーションをするために、全て話しだすのではなく、聞き手にもっと聞いてみたいような感情をいかに持たせることが肝心だと教えてくださいました。多分奨学生の皆さんは私と同じく、体験してきた発表の場はおそらくほとんど研究者同士の場なので、自分の発表内容に没頭することが多いだろうと思われますが、いかに語る内容を残しておき、余韻を持たせる形で話を切り上げるか工夫することが大切なのだと思います。その原点は自分が一方的に話したい気持ちに酔わないで、聞き手の立場に戻り、話の内容と形を調整することでしょう。理事のコメントを聞いて大変勉強になりました。
緊急事態宣言がまだ解除されず、親睦会が開かれなくとても残念です。報告会が終了した後、奨学生はまだまだ離れたくないような気持ちで、会場のあちこちで話を交わしていました。今西淳子常務理事は、懇親会を開きビールで乾杯したい気持ちですね、とおっしゃいました。石井慶子さまは、今年みんなで餃子など作れなくて本当に残念だったけれど、コロナの感染が収束した後、必ずみんなで集まって食事会を開こうとおっしゃってくださいました。コロナ感染の「おかげで」、普通にできることの有り難さをみんなこの一年間身をもって体験してきました。名残惜しい雰囲気が会場の中に漂っていましたが、その気持ちを温めて、今後も渥美の家族の一員として長く付き合っていきたいと思います。
最後この場を借りて、私たち奨学生のため一年間色々工夫してお世話してくださった渥美財団のスタッフの皆様に感謝の意を申し上げたいです。
本当にありがとうございました!
(文責:劉 怡臻)
当日の写真