2018年度渥美奨学生研究報告会


理事長の開会挨拶から始まった2018年度研究報告会は、財団の願う意義がよく反映された行事となりました。8か国から来た13人の奨学生による13分野の研究内容が発表された本研究報告会は、”国籍や学術分野が異なる人との出会いの場、自分の専門以外のことを話し合う場“そのものでありました。文学から歴史学、社会学、工学など、普段は一つの場で交流する機会のない多様な分野の博士研究を聞ける貴重な時間だったと思います。

毎年の研究報告会において、各発表者は “15分間、子供でも分かりやすく自分の博士研究を紹介する”ことを念頭において発表を準備しています。去年、次年度奨学生として2017年度の研究報告会に参加した際には、聴衆の立場であったのでその難しさが実感できなかったのですが、実際に発表資料を作成してみると限られた時間内に分かりやすく内容を組みこむことは容易なことではありませんでした。

研究背景から、実験手法、そしてそれから得られた結果及び考察となる膨大な内容を短い時間に凝縮させることは、“自分の研究を貫通する核心となる内容を把握し、上手に分かりやすい言葉で話していく“とのことで、一見簡単に見えました。しかしこのことを念頭において実際に資料を作成してみると、普段は思っていなかった難関に直面してしまいます。それは、自分がいつも使っていた単語が、実は日常ではあまり使われていない専門用語であったり、基礎知識として考えていた内容も実は専門知識であったりすることです。 発表前に、他専攻の人たちにも意見を聞き、修正を繰り返してやっとのことで資料を完成させましたが、もう少し一般的な言葉で説明できなかっただろうか、と今でも心残りです。この研究報告会を準備しながら、今までやってきた研究をもう一回整理することができ、自分にとっても有益な時間になりました。

今年の研究報告会は、江さんの日本の支配を受けていた時期の台湾の歴史文化をはじめ、趙さんの金石範文学の発端となるジェジュ島4.3事件の紹介、アメリさんの政治学から見た日本における国際結婚の諸規制、ラリターさんの外部刺激が与える創造性への影響、私(金)の低コストでかつ高効率太陽電池の作製のための科学、梁さんの奈良平安朝前期の漢文学、閔さんの韓国開放前後時代における歴史意識と知識人の朴致祐の紹介、ダリヤグルさんのカザフスタンを例とした非実用的学習環境における日本語教育についての考察、武さんの日本の美術(芸術)に瀟湘八景が受容される過程、ヴューラーさんの日本の作家・笙野の作品から見た日本のジェンダー意識、解さんの安部公房の作品から見た文学作品への社会的・政治的抑圧、楊さんの芸術表現活動が日本在住外国人に与える影響、そしてロヴェさんの実際のデモ現場の取材からのポピュリズムとパフォーマンスの研究など、多様な分野の研究が発表されました。どこでも聴くことが出来ない、学問領域の境のない貴重な時間であったと思います。

13人の研究報告が終わった後は、ラクーンの先輩、財団の来賓の方からの貴重なコメントをいただき、さらに交流の場が設けられました。限られた時間内に13人もの発表者が各自の研究を紹介したため、来賓から意見をいただく時間を設けることが出来なかったのですが、この時間のあいだに、発表の内容について質問をしたり、コメントを交換するなど更なる学問交流を行いました。また、本研究報告会にはラクーンの先輩だけではなく、2019年度の奨学生も参加し、先輩と後輩がともに交流することが出来ました。学問交流の場でありながら、人と人の出会いの場、そして日本でのもう一つの家族のような温かさが感じられた場であったと思います。

2018年度奨学生としての期間はこの会をもって終了しましたが、今後も渥美財団の家族として長く付き合っていきたいと思います。


当日の写真


(文責:金ボラム)