中国の都市化と環境問題

高偉俊


テキスト ボックス:   早稲田大学の高偉俊です。中国都市化と環境問題の現状について発表させていただきます。先程、中曽根先生の話にもありましたように、中国の民主化、あるいは工業化は、これからの一つの大きな問題になります。また榊原先生も、お金のほうからグローバル化という問題を提起していらっしゃいますが、やはりグローバル化で一番問題になっているのは環境問題だと私は思います。去年から鹿島学術振興財団から研究助成を頂いて、中国の都市化および環境問題の特徴について調査を行いましたので、報告させていただきたいと思います。また今年から、三菱財団からも研究助成を頂く予定なのですので、今後は、さらにアジアに広げて、アジアの巨大都市について研究したいと思います。詳細については私の大学の研究室でホームページを公開しておりますので、細かいことは申し上げませんが、ざっと、どうやって取り組んだかという話をしたいと思います。

 

テキスト ボックス:   その前に、中国はご存じのように日本の10倍、13億近く人口があるわけです。土地は大体25倍という数字がありますが、まず大きな問題として都市人口の集中があります。われわれの調査では、1995年のデータですけれども、現状では大体30%の人口が、都市の中に住んでいます、予測では2010年に50%ぐらい、数字で言いますと6億ぐらいの人口が都市に住むことになりますので、それに従ってどんどん都市化が進むことが予測されます。例えば上海では、1911年から95年に都市化が進み、いわゆるコンクリート化、どんどん道路や建物を造っていくという状況です。150年間の発展のグラフ(図1)にしてみますと、最近では、たったの20年間で同じ、その前の130年間と同じくらい発展しています。人口倍増、面積倍増しているので、それの結果として、環境問題につながるわけです。まずインフラが足りないということが予測できるわけです。例えばこの表(表1)で、人口は日本の10倍の差がありますが、道路はそれほどは増えない。ですから、これぐらい都市化していくとどんどん、日本で言えば公共工事して、道路を整備しなければならない。それによって都市が発展していくわけですけれども、交通問題など、いろいろな問題が起きています。

 

 それを支えているのはエネルギーです。エネルギーというのは、経済を支えているものでありますが、このグラフ(図2)では、アメリカ、日本、中国で、1人当たりどのくらいエネルギーを使っているかを示していますが、アメリカは、非常に高い、まだ途上国は非常に少ないというのが分かります。このグラフから見てみますと、日本はちょうどその中間にあるわけですが、GDPから、あるいはGNPから見た場合はアメリカと日本は近いわけですから、アメリカは相当大きなエネルギーを使っているということが分かります。

テキスト ボックス:

 グラフ(図3)で見ますと、GNP、つまり経済発展がエネルギー消費することを意味する直線になっています。アメリカ、日本とありますが、しかし途上国、あるいは中国はこの小さな枠の中にあるので見えないんです。そこで拡大しますと、非常にまだGNPが低い。しかしながら、中国の場合、GNPが低い割に高いエネルギーを消費していることがわかります。

 

テキスト ボックス:   さて、これからの経済発展を求めるためにはエネルギーをもっと使わなければならない。その結果は都市問題、環境問題につながるわけですから、特に日本で気になるのは、酸性雨という問題です。中国で排出されたSO 2が風に乗って日本にやってくるわけです。最近、アジアの国からやってくるのではないかという予測が九州辺りでよく言われます。実際にこのデータ(図4)がSO 2の排出量ですが、東京を見てみますと、非常に排出量は少ない。ゼロに近いです。中国の場合はまだまだです。特に通産省が指定している三つのモデル地区があります。重慶は酸性雨が最も有名な都市であります。

 

テキスト ボックス:   環境問題は、エネルギーと直接かかわっています。エネルギーを消費するほど、汚染物質が大量に排出します。こういった問題をどうやって解決していくかです。私の考えではまず、理解を深めなければいけない。宣伝ではないですが、今回発売された「日本で見つけた宝物」の中に詳しく書いてありますが、まず理解を深めるというのは、当然、国レベルで言えば先進国と途上国の間で理解しなければいけない。また実際、もっと個人個人なりの努力をしなければいけないです。

 

 第2点目としては、ステップ・バイ・ステップ

ということです。あえて中国の問題に関して言いますが、いわゆる環境問題を解決しようとして、もう既にひどい目に遭った先進国が、それはもう早く止めなさい、止めなさい、と言い続けているわけです。しかし大体、経済発展というのは環境破壊が付き物ですから、途上国は、ある程度発展をしないと理解ができないわけです。だから技術の共有についても、例えば日本の20年前、30年前の技術は環境に関しては相当進んでいますので、これを何らかの形で共有していくことが大事です。それも、一気にやるのではなくて、順々にやっていく必要があります。

 

 3番目は、価値観をチェンジしなくてはいけない。先程のグラフの中にもありますように、GNPは直接エネルギー消費につながっていくわけです。産業革命から今迄の時代の中では、その国が豊かであるか、そうでないかを測るものはGNPしかないわけです。しかしながら、果たしてこのGNPが本当に豊かさの基準であるかどうかが問題になります。特に日本の場合、サラリーマンが一生懸命働いているのに、何が自分のためなのか全く分かっていません。ですから、私が考えているのは、日本は今不況に落ち込んでいるけれども、消費も落ち込んでいるけれども、逆にそれは一番良いチャンスではないかということです。自分のライフスタイルですから。例えば変な話、残業を止めて、もっと釣りにでも行ったらいかがですか。そういうことも地球環境に寄与するというということを認識しなければいけない。人生の楽しみも良いのではないかという考えも環境に貢献するのです。

 

 4番目は、哲学の問題。まず産業革命そのものが非常に世界を破壊しているという認識があります。長くなるので深い話はしませんが、今までわれわれ東洋の、日本にも中国にも従来からあるような、長く続けてきた知恵が今こそ21世紀の世界へ続く救いではないか。ですからもっと東洋思想、いわゆる環境と共生していく、そういう思想を3番目の価値観と合わせていけば、そういう豊かさの指標を変えていけば、世界が救えるのではないかと、私は思います。ご清聴ありがとうございました。(拍手)

 

●高 偉俊(ガオ・ウェイジュン

早稲田大学理工学総合研究センター客員講師

上海市同済大学工学部卒。杭州市浙江大学工学部(建築学科)修士。同専任講師。早稲田大学理工学研究科(建設工学専攻)博士。博士論文「都市緑地の熱的環境緩和効果に関する研究」1996年より現職。渥美財団1995年度奨学生。

 

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