中西医結合の道を歩む
しゅう かいえん
周 海燕
出身国:中国
在籍大学:東京医科歯科大学大学院医学系研究科
博士論文テーマ:難治性炎症疾患の発症と治療に関して
「光陰矢の如し」、日本に来てすでに4年半、過去を振り返ると留学を決意した時の心境を思い出す。
1981年9月北京中医薬大学中医学部に入学、中医学(中国伝統医学、日本では漢方医学という)を専攻として6年間勉強した。その間、西洋医学の授業及び臨床実習も同時進行で行われ1987年7月良い成績で卒業し、北京日中友好病院大腸肛門外科に配属された。主に中西医結合(中医学と西洋医学を結び合わせる方法)を用いて大腸肛門疾患の診療に従事した。特に衛生部特定疾患である潰瘍性大腸炎の診断治療に対し興味を持って研究してきた。潰瘍性大腸炎は原因不明の難治病であり、発病率は欧米をはじめ世界的にも増加しつつある傾向にある。原因については感染説、心身説、自己免疫疾患説などがあるが定説がない。治療方法としては手術療法、薬物療法、 食餌療法などがあげられる。欧米及び日本では薬物療法としてステロイド剤、サラゾピリン、及びほかの免疫抑制剤などが主流として使用されているが、その副作用及びステロイド剤漸減による再発を解決できないままいまだに大きな問題となっている。一方、中国では重症急性期に漢方薬を上記の西洋薬と併用し、寛解期に中医の弁証論治理論にしたがって適切な漢方薬で治療する方法が一般的に行われている。私たちが中西医結合法で数多くの患者を治療した結果、漢方薬は病症の軽減、西洋薬の副作用の抑制、及びステロイド剤の離脱による再燃の防止などに有効であることが認められた。そういう経験を重ねて、あらためて中西医結合の必要性を認識できた。だが、その漢方薬の作用機序に関しては現代医学で解釈できるような裏付けがとれているものはまだ少ないため、 欧米及び日本ではまだ一般的に使用されていない。「中医は決して中国人だけの医学ではなく、全人類の医学であるべき」という信念はその時私の心に根ざした。そのために先進国へ行って優れている研究技術を学び、漢方薬の作用機序及び有効成分を究明し、その合理性を証明して世界に普及させるように頑張ろうという意欲が強くなって留学を決意した。「決めたらすぐ行動しよう」、漢方に興味を持っている方の多い一衣帯水の日本国を目指して大学で勉強した日本語をしっかり勉強しなおし、中国衛生部統一試験に受かって1994年に日中医学協会研修生として日本にやってきた。
留学の夢を叶えて4年半、沢山の方々の助けを受けて研究は順調に進み、今は、国内及び国際会議に於いて成果を発表したり、学術誌に論文を発表したりして大変充実している。留学を決意して良かったと思われるのは研究のことだけでなく、人との出会いも私の人生に対して大きな収穫であった。日本に来て、日本人と付き合いはじめて日本人の曖昧さは物事をはっきりしないことではなく、 寧ろ相手の気持ちを優先しての心の優しさによるものではないかと分かった。「人之初性本善」、中国古代の道学家老子はそう云う。多くの人と出会って、話し合って、分かり合って、お互いに理解し合えたら、世界の平和も決して夢ではなかろう。そのために国際交流が如何に重要であるか日本に来て強く肌で感じた。博士学位は決して人生の最終目標ではなく、より良い中西医結合の道を探り出すことこそ、私に与えられたこれからの大きな課題であり、自分の専門知識を生かし、常に国際理解と親善に関心を持って細やかであっても単なる中国人より国際人の一員として頑張っていきたいと思っております。