日本留学の感想

こ けつ
胡 潔

お茶の水女子大学 博士(日本文学)
お茶の水女子大学人間文化研究科助手

 

  月日の経つのは早い。今年で私の日本留学は8年目を迎えました。今年の3月に私は念願の博士号を取り、研究者として新しいスタ−トを切りました。長いような、短いような8年でした。来日当初まだ30代だった私も主人も今は40代に入り、白髪が目立つようになりました。息子も5才の子供から13才の少年になりました。ずっと子供の世話をしてくれた両親もだいぶ年を取り、博士号を取ったと国際電話で報告をしたら、父も母も感激して「おめでとう」と喜んでくれました。

  振り返ってみると、この8年間は私の人生にとって、かけがえのない貴重な8年間でした。8年前にただただ勉強したい、学位を取りたいという好奇心と功利心を持って日本留学に来た私は、日本の大学で、先生がたの指導のもとで、学問の厳しさに磨かれ、勉強することはただ単なる知識の獲得、また学位の獲得だけではなく、真理を追究することであると分かるようになりました。

    みがかずば、玉も鏡もなにかせん  学びの道も  かくこそありけれ

 これはお茶の水女子大学の校歌で、私のすきな歌です。勉強することはまさに自分を磨くことだと思います。この8年間の日本留学の生活は、私に学問の道の尊さと厳しさを教えてくれたと思います。4年前に博士課程に入った時、入学のオリエンテ−ションで、ある先生が、これから君達は学問の道を歩むことになるが、学問の道は時には孤独に耐えねばならぬ道だとおっしゃっいました。その時は先生の言葉の意味をあまり理解できなかったのですが、博士論文を進めていくうちにだんだんと分かるようになりました。勉強は受動的で、外から知識を受けるだけではなく、自分の頭で考えて、問題を解決しなければなりません。問題の解決口を探るために、迷い、疲れ、時には絶望を味わねばなりません。その意味では学問の道を歩むためには、苦労を厭わず、挫折を恐れず、孤独に耐えられる強い精神力が必要だと思います。しかし、このような苦労と引き換えに、学問は私達に大きな喜びと充実感を与えてくれます。ある問題点を発見した時、自分の調査によってある事実が判明した時の喜びはまた大きいです。要するにこの8年間の留学を通じて、私は研究者しての自覚、学問に対する真摯な態度を学んだと思います。

  この8年間の日本留学はまた私に愛と理解の大切さを教えてくれました。生活費の高い日本での留学生活は、夫婦ともに私費留学に来た私達にとって、確かにそんな甘いものではありませんでした。私がここまで辿りつけたのは、私一人の努力だけではありません。恩師の鞭撻、家族の理解、日本の皆さんの応援があったからこそ自分の今日があると思っています。指導教官の先生は留学生である私のことを配慮し、日本語の表現から内容まで細かく論文の指導を行ってくださいました。また私達夫婦の経済事情や勉強の時間を心配し、私達を勉学に専念させるために、定年後両親は私達の子供の面倒を見てくれました。去年、博士論文を最終的に仕上げるために、アルバイトをする暇もなく、経済的な困難に直面している私達に、渥美財団が支援の手を差し伸べてくださいました。それは経済面の支援ばかりだけでなく、精神面でも大きな支えとなりました。もし渥美財団の支援がなければこの論文はもっと時間がかかっただろうと思います。

  博士号を取ったある日のことですが、私が恩師に感謝の言葉を述べたところ、恩師は微笑んで、「私に感謝するより、今度あなたが教える時に、次の人にしてあげなさい」とおっしゃいました。この言葉を心に銘記したいと思います。将来自分が帰国し、日本と中国の文化交流のために貢献することで恩師に、渥美財団に、そして日本の皆さんに恩返しをしたいと思っています。