これからの技術発展の方向
か そげん
何 祖源
東京大学大学院工学系研究科
19世紀と20世紀に、人類は未曽有の高速度で、生産力を向上させ、人類の文明のレベルを更に一段階高めた。技術文明もその中に含まれていて、輝いた成果を収めた。しかし、このような繁栄の様子を示した一方、技術文明に何らかの歪みが出たのは事実だと思う。発達した道路網を走っている無数の車から排出されるガスは大気を汚染しているし、冷蔵庫、クーラー、電子機器の製造に広く使われるフロンガスは地球のオゾン層を破壊している。この意味で、地球は人類の技術文明によって、危機に瀕していると言える。かつて人類は技術の進歩に恵まれてきたが、どうして最近これほど大きいなマイナス面を持つようになったのだろうか。
技術発展と言っても、ただ技術と技術者だけの問題ではないと思う。現代社会においては、技術発展は経済、政治との関係を抜きにしては語れないだろう。技術発展は経済を支えている一方、その発展方向は逆に経済の力に左右されやすい。現代の技術の研究開発は、もはや何人かで簡単な器具を使ってできることではなくなった。かなりの財力、人力が必要であり、経済の支えがなければ不可能である。そこで、技術が単に金儲けのために開発される場合が多い。重点に置かれる技術が商業活動に直結するものに片寄っているため、技術の発展には歪みが生じ易い。公害防止など、全社会のためにやる技術開発はまだまだ足りないのが現状である。我々科学者、技術者は政治には関与したくない人間が多いかもしれないが、技術は政治と密接な関係がある。実際、政治は社会の方向を決め、技術発展の方向もある程度政治に左右されている。しかし、政治というものはもともと問題で、時々「おかしい」という言葉でしか表現できないところがある。例えば、冷戦中、莫大な財力、人力が軍事技術に回された。もちろん、その中に電子技術、宇宙航空技術など、有意義なものに転用された技術もあるが、その大部分はやはり殺し合いの技であった。政治によって技術発展の方向が歪まれたのではないだろうか。
現状の厳しさ、バランスが取れていない従来の技術発展方向では21世紀を生き延びられない。しかし、それは単なる技術だけの問題ではなく、経済、政治及び社会の様々なことと深く絡まっているので、その発展方向は科学者、技術者達によって決められることではないと思う。人類社会の各階層の人々に共通する理念的な政策、行動をとることが要求される。さて、この理念は何なのか、それは「人類全体の幸せ」であるべきではないか。人類全体というのは国籍や人種を問わず、現在及び将来すべての人間のことである。このような理念は何も新しいものではないが、我々が一つの地球上に生活していて、お互いに関っている以上、このような理念は不可欠である。しかも、新しい時代に当たっては、この理念に新しい内容が与えられるべきである。簡単に言えば、「持続可能な開発」を求めることである。そして、さらにそこにも投資しなければならないという認識を加える。なぜ「持続可能な開発」を行わなければならないことなのかは、人類の持続的な生存を考えるなら自明なことである。経済発展にしろ、技術発展にしろ、目先の利益ばかり追求し、様々な社会問題を起こし、未解決のまま置くのは、後の世に響いてくるに違いない。
多岐点に立っている人類はその行方を正確に選択するべきだろう。21世紀の技術発展の方向は20世紀ないし19世紀の方向とかなり違うと思う。マルチメディア時代に向けて、通信手段、情報伝達などの技術水準が更に向上するだろう。莫大な経費の必要な宇宙航空技術などの開発も各国連携の形でじわじわ進歩するだろう。しかし、21世紀の技術発展はこの従来通りの単一発展方向と違って、「持続可能な開発」を求め、地球環境問題など人類の生存に関わる問題に一層配慮するようになると信じている。