SGRAメールマガジン バックナンバー
-
Invitation to the 8th Forum for the Kokushi Dialogue
2023年7月13日 17:03:48
********************************************** SGRAかわらばん977号(2023年7月13日) 【1】第8回国史たちの対話へのお誘い(8月8~9日、東京・オンライン) 「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか ――教育・メディア・研究」 【2】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性 下記の通り第8回国史たちの対話を会場とオンラインのハイブリッド方式で開催します。参加ご希望の方は必ず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか――教育・メディア・研究」 日 時:2023年8月8日(火)9:00~17:50、9日(水)9:00~12:50(日本時間) 会 場:早稲田大学14号館8階及びオンライン(Zoomウェビナー) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性実行委員会 共 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共 催:早稲田大学先端社会科学研究所・東アジア国際関係研究所 助 成:高橋産業経済研究財団 ※参加申込(参加費:無料) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Mc7ctZdQTRG2eCGPU7PFbA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◇開催趣旨 2016年から始まった「国史たちの対話」の目的は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、三国間に横たわっている歴史認識問題の克服に知恵を提供することである。 東アジア歴史問題の起因は、20世紀の戦争と植民地支配をめぐる認識の違いと指摘されることが多い。しかし、公表された日韓、日中の歴史共同研究の報告書が示しているように、個別の歴史事実の解釈をめぐる違いはあるものの、20世紀東アジア歴史の大筋についての認識には大きな齟齬が存在ない。それでも東アジアの国際関係がしばしば歴史問題で紛糾している理由の一つに、相手の「歴史認識」への認識が不十分ということを挙げることができる。 戦後の東アジアは冷戦、和解、日本主導の経済協力、中国の台頭など複数の局面と複雑な変動を経験した。各国は各自の政治、社会的環境のなかで、自国史のコンテクストに基づいて歴史観を形成し、国民に広げてきた。戦後各国の歴史観はなかば閉鎖的な歴史環境のなかで形成されたものである。各国の歴史認識の形成過程、内在する論理、政治との関係、国民に広がるプロセスなどについての情報は、東アジアの歴史家に共有されていない。歴史認識をめぐる対立は、このような情報の欠如と深く関わっているのである。 20世紀の戦争と植民地支配をめぐる国民の歴史認識は、国家の歴史観、家庭教育、学校教育、歴史家の研究と発信、メディア、文化・芸術などが複雑に作用し合いながら形成されたものである。歴史家の研究は国家の歴史観との緊張関係を保ちながらも、学校教育に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。今回の対話のテーマの一つは、歴史家が戦後どのように歴史を研究してきたのか、である。戦後東アジア各国では激しい政治変動が発生し、歴史家の歴史研究と歴史認識も激しく揺れ動いた。歴史家の研究と発信の軌跡を跡づけることは、各国の歴史認識の形成過程を確認する有効な手段であろう。 映画・テレビなどのメディアも国民の歴史認識の形成に重要な役割を担っている。戦後、各国は各自の歴史観に立って、戦争と植民地に関係する作品を多数創作した。このような作品が国民の歴史認識に与えた影響は無視できない。また、メディア交流が展開されるなかで、多数の映画やテレビドラマが共同で制作された。国民同士はこれらの作品を鑑賞することで、間接的に歴史対話を行ってきた。各国の文化、社会環境が歴史認識にどう影響したのか。確認したい問題の一つである。 歴史認識をめぐる国家間の対立が発生すると、相手の歴史解釈と歴史認識の問題点を指摘することが多い。しかし、自国内に発生した政治、社会変動に誘発される歴史認識の対立の方がむしろ多い。相手の歴史認識を認識する過程は、自分の歴史認識を問い直す機会でもあろう。このような観点から、第8回の国史対話は、今までの対話をさらに深めることが期待される。 会議概要、ポスター、中国語と韓国語のホームページ等は、下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2023/18402/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478―18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆フォーラムの趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」 要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」 土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」 江銘峻(台湾エン酒株式会社) 全体質疑応答 ※プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10Program.pdf ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
Invitation to the 10th Nittai Asia Future Forum in Shimane
2023年7月6日 14:01:44
********************************************** SGRAかわらばん976号(2023年7月6日) 【1】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) 【2】催事紹介:第16回INAF研究会(6月27日、オンライン) 「近現代における中国トップ・リーダーの対日観と対日政策」 ********************************************** 【1】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478―18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆フォーラムの趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」 要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」 土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」 江銘峻(台湾エン酒株式会社) 全体質疑応答 ◆懇親会:会議室でケータリング、日本酒と紹興酒の試飲 参加費3000円(フォーラム受付時にお支払いいただきます) ◆発表要旨と講師略歴 【講演1】「近代山陰の酒と漢詩」 要木純一(島根大学法文学部教授) 要旨:江戸時代から、山陰特に松江は漢詩創作が盛んな土地であった。また、米も水もよいので、日本酒もおいしく、酒に強い人が多いところである。かくして、明治時代より、遠来の人士を招いて詩と酒を楽しむ詩会がしばしば催された。その様子が詳しく記された資料があるので紹介したい。松江出身で、二度首相になった若槻礼次郎も、激務の合間に酒と漢詩を楽しむ文人政治家であった。詩会などを通じて、故郷の人との交流を楽しんだ。単に楽しみと言うだけでなく地方における政治活動・選挙活動につなげていくという面もあった。彼の詩も多数残っており、飲酒・宴会の楽しみを詠った作品とその背景について、考察する。 略歴:京都大学文学部文学科卒業。京都大学文学研究科文学修士。1990年より島根大学勤務、現在は島根大学人文社会科学系教授。専門分野は日本中国学、中国文学。 【講演2】「島根県の日本酒について」 土佐典照(島根県産業技術センター) 要旨:まず日本酒の製造方法について、次に島根県の日本酒造りの環境条件(気候、水、米)と酒質の特性を説明する。水は、日本酒の成分で約80%を占めることから原料として、また洗米などの原料処理や機器の洗浄など製造工程でも重要な要素である。古来、適度な成分を含む灘の宮水のように、銘醸地には名水が存在する。島根県の酒造りを行う会社では複数の井水(地下水)や水道水、他の地区の湧水などさまざまな水を利用している場合が多いが、「軟水」が多く、宮水のような「軽度の硬水」はまれである。島根県の酒造りの特徴は、昔から原料である「酒米」の使用が多いことが挙げられる。「酒米」は「さばけ(蒸米の状態がベトベト引っ付かず、バラバラになること)」が良いので麹作りに適していて、消化性も良いので資化率が高く、酒質は濃醇傾向となる。ここでは、島根県における酒米の品種や使用量の変遷など、歴史的な経緯について述べる。最後に島根の日本酒の酒質の特徴と時代の変化を述べ、食事、特に魚食との関係について触れる。酒質は全国平均と比較して、昭和には濃醇傾向だったのが、最近は淡麗になっている。また食事(魚食)はブリ、アジ、サバの消費が多く、郷土料理である大田の「へかやき」など、基本的に醤油味が多い傾向がある。今後、島根県の郷土料理・産物と日本酒のおいしさが世界に発信されることが期待される。 略歴:広島大学食品工業化学科卒業、鳥取大学大学院農学博士。1982年より島根県産業技術センター勤務。専門分野は酒造技術、食品加工技術。 【講演3】「台湾紹興酒のお話」 江銘峻 (台湾エン酒株式会社) 要旨:本講演では、まず台湾紹興酒の起承転結について、台湾紹興酒の生産起源、転換、そして現在について紹介します。続いて台湾紹興酒の特徴について、醸造方法から台湾の紹興酒、中国大陸の紹興酒、日本酒の同じ所と違う所を説明します。最後に台湾紹興酒の飲食文化について、その栄養価値、台湾での飲み方、食事での使い方について紹介します。 略歴:国立成功大学化学工程系卒業。2009年より台湾エン酒株式会社埔里酒廠勤務、埔里酒廠製造課課長。埔里紹興酒生産工場で十年以上の経験を有し、紹興酒の生産と品質管理と紹興酒再生産立上げで生産試験プロセスに携わる。台湾エン酒株式会社埔里酒廠在職中は内部教育研修講師として、社員への清酒と紹興酒の醸造プロセスを教える。 ※プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10Program.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介: SGRA会員で(一社)東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接お申込みください。 ◆第16回INAF研究会のご案内 テーマ:「近現代における中国トップ・リーダーの対日観と対日政策」 趣旨:INAF研究所が2023年4月に立ち上げた「日中関係の150年:中国のトップ・リーダーの対日認識から見る」研究プロジェクトに関連する中国研究専門家による最近の研究成果報告を順次に行います。中国問題または日中関係に関心のある方は奮ってご参加ください。よろしくお願いします。 日時:2023年7月27日(木)19:00~21:00 方法:オンライン(Zoom) 発表者 1.白春岩(INAF理事/早稲田大学商学学術院講師) テーマ:近代日中関係史の幕開け―「日清修好条規」と李鴻章 2.兪敏浩(INAF理事/名古屋商科大学国際学部教授) テーマ:毛沢東の対日認識と日中関係(仮) 司会:陳柏宇(INAF理事/新潟県立大学国際学部准教授) INAFメンバーではない方で参加ご希望の方は、3日前までにお名前、ご所属、連絡先メールアドレスを下記に送ってください。 参加申込:[email protected] 又は [email protected] ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
XIE Zhihai “How to keep up with Chat GPT”
2023年6月29日 16:59:16
********************************************** SGRAかわらばん975号(2023年6月29日) 【1】エッセイ:謝志海「チャットGPTと付き合うには」 【2】催事紹介:「人新世統合学」研究会(7月5日、オンライン) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#742 ◆謝志海「チャットGPTと付き合うには」 日本では今年になってからだろうか、チャットGPT(生成AI)の存在(話題)である。実体が何だか分かったようで分からない間に、開発された当の米国では、地方自治体が学校での利用規制を定めたという。同時に「チャットGPTを上手に活用する方法」といった授業を用意し、積極的な活用を促す教員もいるらしい。チャットGPTの存在はアカデミックな世界では脅威とも言える。スマートフォンの新機能や最新家電に弱い私も、チャットGPTについては学生に使い方を教えてもらう場合ではない。むしろ先回りして授業、課題、テスト対策を考え直さなければならない。もちろんチャットGPTの存在はアカデミック界だけでなく「全ホワイトカラーに衝撃!」(「週刊東洋経済」の見出し)とも言われている。専門的なテクノロジー業界やAI研究者のものではなく、誰でもアクセスでき、使えるAIだ。チャットGPTよってAIがより身近になった2023年、「もう後戻りは出来ないんだよ」とチャットGPTに宣言されたかのようだ。 脅威だ衝撃だと怖がってばかりでは始まらないので、早速アカウントを作ってみた。Eメールアドレスと名前、生年月日の登録に加え、携帯電話番号を入力し、その携帯に送られる認証コードを入力する。携帯電話を持っている人にしか作れないということになる。難しいことは特になく、あっさり開設でき、すぐに使える状態となった。ここから以下のエッセイをチャットGPTに仕上げてもらえたらかなりの時短になるだろう。そういう訳にもいかないので、早速質問を打ち込んでみた。「大学生に向けて、チャットGPTを使うにあたり注意すべき点を教えてあげたい」。すると20秒足らずでものの見事に回答してくれた。 ----------------------- 大学生がチャットGPTを使用する際には、以下の点に注意してください。 ソースの確認: チャットGPTは2021年までの情報しか持っていないため、最新の情報を正確に提供できない可能性があります。重要な情報については、信頼性のあるソースで確認することをおすすめします。 個人情報の保護: チャットGPTは機密情報を保護するためのツールではありません。個人情報やプライベートな情報を共有しないようにしましょう。 バイアスの認識: チャットGPTはトレーニングデータから学習しており、バイアスの影響を受ける可能性があります。情報を判断する際には、客観的な視点を保ち、独自のリサーチも行うことが重要です。 時間管理: チャットGPTは非常に便利なツールですが、時間を適切に管理することも重要です。過度に依存せず、自分自身で問題を解決する能力を養いましょう。 クリティカルシンキング: チャットGPTの提供する回答はあくまで機械が生成したものであり、必ずしも正しいとは限りません。疑問を持ち、情報を疑ってかかるクリティカルシンキングを心がけましょう。 以上が、チャットGPTを使用する際に大学生が注意すべき点です。これらのポイントを頭に入れながら、ツールを上手に活用してください。 ----------------------- なんとも滑らかできれいな日本語に驚かされた。まるで人(もちろん日本人)が一生懸命に考え、まとめた文章にしか見えない。これまで出会った、どこかぎこちないAIの受け応えとはまるで違う。また、分かりやすく箇条書きにしてあることにも驚いた。私は「箇条書きで」とは指示していない。最も驚いたのは5番目にある、注意点というよりはアドバイスで「クリティカルシンキングを心がけましょう」。我々教員が常に授業中に言っていることだ。なんだか教員の手法を見抜かれたかのような気すらして、怖いぐらいだ。 チャットGPTへのたった一つの質問で私は大きなパンチを受けた。米半導体大手、エヌビディアの最高経営責任者(CEO)、ジェンスン・ファン氏が今年3月、開発会議での基調講演で、生成AIは「AIにとっての『iPhoneモーメント』が始まった」と発言したニュースを、ちょっと大げさだなと聞き流していた自分が恥ずかしい。でも今なら分かる。スマートフォンと同じで、使い過ぎるのも怖い、だからと言って全く使わないのはもっと怖いのがチャットGPTをはじめとする生成AIなのだろう。 5月にチャットGPTの開発元「オープンAI」のCEOが米連邦議会の公聴会で、AIを規制するように訴えた。これはどれだけ重い意味があるだろう。危険性と短所を一番認識している人がそう言うのだから米政府はすでに生成AI開発会社の代表者たちと対話を重ね、AI利用に関する具体的な指針の策定段階に入っている。実際のところ、チャットGPTの技術を取り入れた検索エンジン、ビング(bing)を提供しているマイクロソフト社の幹部も「AIを安全に人々に提供するための政府や規制当局の役割を歓迎する」としている。政府も開発側の企業も注意深く前進しようとしているようだ。日本はどう対応していくのだろう。4月に発行された週刊東洋経済の「チャットGPT仕事術革命」特集では「警戒する日本企業」として大手各社のチャットGPTの利用方針についてまとめている。パナソニックをはじめ、いくつかの企業は「社内規定を定めた上で利用可」という。日本の良い所はこのように「社内規定」を作って従業員がそれを遵守することだ。 大学はどうだろう。私の勤務先は文科省のガイドラインを待っていた。しかし、教育の現場ではもはや待てない状態になり、急遽、生成系AIに関する方針を検討し始めた。「早稲田大学」、「チャットGPT」をグーグルで検索してみると、大学ホームページの「生成AIなどの利用について」というページがヒットする。4月18日付の学生・教職員へ向けたメッセージだ。そこにはチャットGPTの使用を認めるか否かだけを明記したのではなく、生成AIの強み、弱み、活用の仕方、やってはいけない使い方を分かりやすく伝えている。 企業、学校が定めた規定を個人がどの程度守りながら誰でもアクセスできる生成AIを活用出来るかはまだ分からない。twitterやLINEが世に出た時も、まずはみんな飛びつき、その後使い方によって問題があらわになった。チャットGPTの場合は開発会社の代表自らが規制を求める仕組み作りを公の場で訴えている。そのぐらい「社会と人類に深刻なリスク」をもたらす可能性があるということだ。 実際に使ってみて思うことは、人間のように上手に言葉を操るチャットGPTよりも自分は賢くならないといけない、ということ。チャットGPTに頼り過ぎるのはもちろん、支配されてはならないと強く思う。あくまでも今のところではあるが、チャットGPTより賢いユーザーの在り方は前出の週刊東洋経済の表紙に記してある。「正しく恐れて、知ろう、使おう」。生成AIの開発はこの瞬間も世界のどこかで、いや世界中で行われているのだから。 <謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai> 共愛学園前橋国際大学教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師、准教授を経て、2023年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介: SGRA会員で埼玉大学名誉教授の外岡豊先生から研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接外岡先生にご連絡ください。 ◆「人新世統合学」研究会のお知らせ 発起人:外岡豊・西原智昭 地球システム・倫理学会会員 開催日(いずれもZOOM オンライン形式): (一回目)2023年7月5日(水)19時―21時 (二回目)2023年8月30日(水)19時―21時 本年3月14日(火)と4月18日(水)、二回に分けて星野克美著『人新世の絶滅学』(鳥影社)出版記念講演を、著者自身の解説で実施しました。その継続として、著者と<統合学>の先駆的な研究者である秋山知宏(氏も地球システム・倫理学会会員)とも相談して、人新世を統合的に考察する<人新世統合学>の提唱に向けて研究会を企画しました。 手始めに、二回の講演会の概要をお伝えし、その時の参加者からの質問や意見に対して、著者から回答し、討論する機会を二回程設けることにしました。それを踏まえて、今後<人新世統合学>として、どのようなテーマを主軸に、どのような方向性で研究を進めて行けば良いのかを模索して行く基礎にできれば幸いです。 この研究会では、上記一回目と二回目の講演会に参加されなかった初めての方も歓迎です。どうぞお誘い合わせの上、参加ください。また当日、あらたに質問や意見をいただくことも大歓迎です。 参加を希望される方は、お名前・ご所属・メールアドレス・電話番号を併記の上、下記までお知らせください。 外岡豊あて [email protected] 西原智昭あて [email protected] ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
AHN Eun-byul “Diary of Just One Day on a Hospital Bed”
2023年6月22日 14:53:35
********************************************** SGRAかわらばん974号(2023年6月22日) 【1】エッセイ:安ウンビョル「たった一日の病床日記」 【2】寄贈本紹介:梁誠允『西鶴奇談研究』 ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#741 ◆安ウンビョル「たった一日の病床日記」 3月17日。子宮筋腫とポリープの除去手術を受けた。簡単な手術でたった一日の入院だったが、博士論文で心の余裕がなかったことを口実に、ほぼ1年間先延ばしにしていた。しかし体を大事にしろというシグナルか、博士論文審査原稿の提出前日に、びっくりするほどの出血があって、急いで再検査を受けて手術を予約した。 日本での入院は初めてだったこともあり、10年前に韓国で入院した時の記憶を思い起こし比較することになった。韓国の大学病院は、賑わう複合施設のような場所で、医師も看護師も忙しそうで、患者をかすめていくような感じがある。しかし、今回お世話になった東京郊外の病院は、人が多い時間帯にもなぜかゆったりとしていて、そこで働く人たちは私に最大限注意を払ってくれているように感じた。最近、20年以上日本に在住している韓国人女性が、日本ではすべての病院で断られた手術を韓国の大きな病院に行ってようやく受けることができたという話を聞いたが、韓国では経歴を誇示するために手術を重要視し、日本の場合はなるべく手術を避けようとする傾向があるという。日韓の医療現場を比較してみると、韓国は手術を、日本はケアや介護をより重視するという文化的傾向が見つかるかもしれない。 また、問診票に答える時、これまで受けてきた健康診断のものと「想定されている回答者の身体的状況」があまりにも違うという点に気がついた。普段の痛みや病歴、体に装着している補綴物などを細かく問う問診票に答えながら、高齢者の日常や速度をほんの少し想像することができた。問診票が場所によってどのように変わるのか比較したらどうなるのだろう。 いかなる状況に置かれていても、このように「比較文化的レンズ」を通して観察したり、こんな研究をしてみたらどうだろうか、と思考を巡らせたりするのが、日本に来て大学院で勉強し始めた頃からの癖である。もちろん、だいたい有効な考えには発展せず終わるけど。今回と10年前の経験の「違い」の意味は、個人的なものでもあった。そもそも疾患も手術法も違うし、10年も過ぎたから記憶が風化したということはある。けれども2回、手術や入院を「違うもの」として経験したということは、これからの人生において重要な記憶の糧になるだろう。どんな記憶を残すのか、それでどのように想像するかは、未来に起きることを「対比する」だけではなく、その経験を作っていく「力」を持つ。 なかでも麻酔の覚め方の違いが、一番記憶に残る。 10年前に全身麻酔から覚めた時は直ちに回復室に運ばれ、30分間放置された。その時経験した恐ろしい気分と寒さが手術をためらわせた理由の一つでもあった。しかし、今回は手術後すぐ病室の(一時的だが)「自分の場」に移され、とても穏やかな気持ちでいられた。不思議な幸福感ともうろうとした気分、起き上がった時に何を読もうかといった空想などが混合し、これからは全身麻酔という言葉自体に怖がる必要はないと思った。 手術が終わったのは正午だったが、夜眠れないことを憂慮して昼寝はせず、本を読んだりユーチューブ動画を見たりした。読んだものの一つはジョルジュ・ペレックの『考える/分類する』。収録されている「読むこと―社会-心理的素描」で、ペレックは「読む<行為>」を「肉体」と関連させて、また周辺(状況的なもの)と関連させて分類している。後者のものとしては、「間の時間」(何かを待っている間に読む)、「交通手段」、そして「その他」の「病院に入院している時」などと分類されているが、私の状況はこれが一つにつながっているようだった。夜を待つ長い「間の時間」であり、身体的な不動性によって生まれる長距離飛行のような状況でもあった。退院という目的地に向かって、回復という通路を通る長距離飛行。この時間こそ、「読む」そのものだと思った。実は私は短い飛行や乗車においても「降りたくない」と思うことが多い。目的ではなく過程が重要だという表現は、私にとってはしばしば、ただの比喩ではなくなる。 入院中、先日亡くなった大江健三郎が中期に書いた『新しい人よ眼ざめよ』も読んだ。闘病中の「H君」は「僕」に、次のように言う。 「生きる過程で、他人を傷つける、あるいは他人に傷つけられる、ということがあるね。それをやはり生涯のうちに、貸借なしとする。…… しかし、生きてるうちに精算がつくという問題じゃないね。結局のところ、自分が傷つけた他人には許してもらうしかないし、こちらはもとより他人を許す。そのほかにないのじゃないかと思ってね。……」 この作品で、障害を持った息子がいる「僕」は生きることの恐怖を克服するために、英国の詩人ウィリアム・ブレイクの詩に頼る。「僕」の恐れは、自分の死後に息子のイーヨーが一人で生きていくことである。ブレイクを読むだけでなく、この小説を書くこと自体が「僕」にとって「克服する」旅程であっただろう。もちろん生きることの恐怖は、「生きてるうちに精算がつくという問題じゃない」。しかし、誰かが「言葉」に頼って生きている姿を記録した「言葉」を読んでいる「間」には、勇気と希望とともに歩んでいくことができる。 病棟は静かすぎてキーボード音も畏れ多いほどだったが、深夜には生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。病院の前には碑石があり、ヨハネ福音書の言葉が刻まれている。「私は復活なり、生命なり」と。 <安ウンビョル AHN Eun-byul> 2022年度渥美奨学生。東京大学大学院学際情報学府博士課程に在学中。学際的なモビリティ・スタディーズの観点から、鉄道に乗って移動する経験とそれが社会的世界を生産する過程を研究。韓国では元『PRESSian』出版担当記者で、現在も物書きとして活動中。韓国語での単著『IMFキッズの生涯』(2017)共著『拡張都市仁川』(2017)『研究者の誕生』(2022)『すぐ手を振るかわりに』(2023)など。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員で檀国大学校日本研究所研究教授の梁誠允さんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆梁誠允『西鶴奇談研究』 著者:梁誠允(ヤン・ソンユン) 発行所:(株)文学通信 2023年5月25日発行 A5判・上製・272頁 ISBN978-4-86766-012-6 C0095 定価:本体5,800円(税別) われわれは西鶴奇談がもたらす感動をどのように説明できるだろうか。 単なる典拠論、素材論を超えて、現代のわたしたちが見失ってしまった、あるいは忘れてしまった様々な表現の層位(可能性)をさぐりながら、西鶴を探る。西鶴は人情世態を描くための表現を新たに獲得しようと、どれほど奮闘していたのか。言葉が織りなす運動に注目して、西鶴奇談の一話一話を詳細に考察する書。 【西鶴奇談では、類似の題材を扱う場合でも、二番煎じのような方法は殆ど用いられていない。問うべきなのは、一話一話における創作の有り方である。すなわち一話ごとに西鶴がどのような問題領域(話題)を開き、そこに同時代の人情世態に関わる問いかけがいかに生成しているか。題材の比重が大きい西鶴の奇談において、その現在的意味はどのように見出されているのか。また、西鶴奇談の中には〈同時代の人情世態〉が素直にあらわれてはいない。作品の背後に隠されている当時の現実と、作品として形象化された虚構の世界とはどのように相関しているのか。これらを明らかにすることにより、後代の読者である我々も、創作された奇談世界のどこがどう奇異であり、西鶴は当時の読者に何を感得させようとしたのかを理解できるようになるだろう。 本書では、言葉が織りなす運動に注目して西鶴奇談の一話一話を詳細に考察し、作品の中の不可思議で説明できないものを可能なかぎり明確に説明することで、西鶴奇談の備えている表現の挑発力を再び活動させることをめざす。】...「序章」より 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-86766-012-6.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
CHEN Hongyu “What AI Can and Cannot Do”
2023年6月15日 22:27:28
********************************************** SGRAかわらばん973号(2023年6月15日) 【1】エッセイ:陳虹宇「AIでできること、できないこと」 【2】催事紹介:第3回<東アジア学>全国研究生研修会「国境を越えた協力と東アジア研究」 (6月17日、台北およびオンライン) 【3】催事紹介:第15回INAF研究会「現在の台湾問題を見る多角的な視点」(6月27日、オンライン) 【4】催事紹介:国際シンポジウム「日韓の歴史教育における「新安沈船」」(7月2日、東京) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#740 ◆陳虹宇「AIでできること、できないこと」 人工知能(artificial_intelligence:AI)は1956年、計算機科学者・認知科学者のジョン・マッカーシー教授によって提案された言葉で、「知的な機械、特に知的なコンピューター・プログラムを作る科学と技術」と定義されていた。AIに関する研究が進んだ現在、その定義が研究者・研究領域ごとに異なり、さまざまな分野でAIを活用した自動化や効率化が進められている。例えば自動車の自動運転、工場における不良品検知、クレジットカードの不正使用検知などだ。これらの技術はコンピューターが画像や音声認識、あるいはパターン読み取りなどによって、大量の情報を自動的に取得し、学習することで実現されている。また、最近登場した人との自然なコミュニケーションや文章の自動生成、要約、情報収集ができる「ChatGPT」は専門的な知識が無くても活用できるAIとして、世界中で話題だ。 私の研究分野は有機化学。化学反応の開発の新たな潮流として、機械学習・データ科学の利用が注目されている。特に、現状では研究者の試行錯誤をもとに行われている立体化学を制御できる不斉触媒反応の開発をデータ科学により促進することは、有機合成の難題と位置づけられる。私は博士課程で複雑分子をグリーンに供給する立体分岐型不斉触媒システムの設計に機械学習を導入する方法論の構築と実証、および開発した不斉触媒システムを用いた新規有機合成に先鞭をつけることを目指して研究に取り組み、複雑な新規触媒システムの効率的な開発に成功し、AIの便利さを実感できた。 一方、「AIが発達することで人間の仕事が奪われるのではないか」と不安を持つ人が増えている。現在開発されているAIはほとんど問題特化型で、1つのモデル化・数学化した問題の解決にのみ機能しているが、将来、シンギュラリティ(技術的特異点=人間の脳と同じレベルのAIが誕生する時点)が近づくにつれ、人間にしかできなかった多くのことが機械に代替され、人間の生活環境は大きく変わるだろう。清掃や配達などの単純作業だけではなく、医療・金融など専門性が高い領域にも適用される可能性が高い。 では、どんなに技術が進歩してもAIに代替されない仕事があるのだろうか。原理的にはシンギュラリティに到達すると、コンピューターが人間と同じレベル、あるいはそれ以上の知恵を持つことになる。手間や人為的なミスを削減できるため、人間と比べコスト削減や効率向上が実現できる。しかし、仕事によっては、こういった「ミスが起きない」完璧さが逆にデメリットになる可能性がある。例えば、幼稚園教員。事前にシステムを設定すれば、AIが子供たちに知識やマナーを教えたり、遊んだりできる。しかし、幼稚園時代は発達において重要な時期であり、「人間教員」が無意識に表す感情やミスなども子供たちの性格や社会性の形成にとっては必要不可欠だ。AI教員を導入すると、この時期の子供たちにふさわしい生活リズムを獲得させにくい可能性が高い。 AI技術は急速に発展している。シンギュラリティに到達するまでにはまだ長い年月が必要かもしれないが、人間がどのようにAIと共存し、互いに補完しあう存在になるかが重要な課題だ。 <陳虹宇(チン・コウウ)CHEN_Hongyu> 2022年度渥美奨学生。大塚製薬株式会社CMC本部合成研究部研究員。東京大学大学院博士課程修了(薬科学博士)。研究領域は有機合成化学、計算化学。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 SGRA会員で台湾東呉大学教授の徐興慶先生から公開研修会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。希望者は参加登録をお願いします。 ◆第3回<東アジア学>全国研究生研修会「国境を越えた協力と東アジア研究」 日時:2023年6月17日(土) 会場:中国文化大学(台北市)およびオンライン 参加費:無料 プログラム参照、オンライン参加申込は下記リンクからお願いします。 https://forms.gle/nedzcY2pKYneLikC6 中国文化大学東アジア研究院が開催した第2回(2022年)全国大学院の研修は、国内21大学の大学院生から好評を博しました。第3回研修は、2023年6月17日(土)日本、韓国、中国大陸、台湾の著名な学者6名を招き、政治、外交、貿易、儒教、建築、移民など領域を超えた専門知識に関する特別講義を行います。「国境を越えた協力と東アジア研究の将来」として、東アジア研究の発展を深める方法について議論し、資源の共有に関連する問題を考えます。また、台湾の10大学の日本学科長と東アジア研究部長を招いて「東アジア研究に関する学生育成のための対策とリソース」について話し合います。 本研修会は、台湾以外の各国の大学生、院生の皆さんのオンラインでのご参加を歓迎します。奮ってお申込みください。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】催事紹介 SGRA会員で東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲先生から研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。希望者は主催者へ参加申込をお願いします。 ◆第15回INAF研究会「現在の台湾問題を見る多角的な視点」 日時:2023年6月27日(火)19:00~21:00 方法:オンライン 近年、台湾を巡る国際関係が東北アジアおよび世界において最も注目され、とりわけ米中覇権争いと対立のなか、この2大国の対台湾政策は今後の東北アジア国際問題および平和と戦争の決定的な要因になっています。中台両岸関係、とりわけ「独立」と「統一」を巡る中国の姿勢と台湾国内政治および国内世論が錯綜しており、平和と戦争の駆け引きが始まっているように見えます。 台湾海峡の平和と安定を維持するために何が必要なのか?東北アジア関係諸国の対応のあり方について、 発表と討論を通じて、認識を深め、知見を高めることが本研究会の趣旨であります。 発表者 1.陳柏宇(INAF理事・新潟県立大学) 「台湾におけるナショナル・アイデンティティから見る中台関係」 2.李鋼哲(INAF理事・所長) 「台湾をめぐる国際関係の見取り図」 司会:松本理可子(INAF理事・早稲田大学現代中国研究所招聘研究員) 詳細は下記リンクよりご覧ください。 http://inaf.or.jp/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【4】催事紹介 国史対話メンバーで立教大学教授の佐藤雄基先生から国際シンポジウムのお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加希望者は直接会場へお越しください。 ◆国際シンポジウム「日韓の歴史教育における「新安沈船」」 日時:2023年7月2日(日)14:00~17:00 会場:立教大学池袋キャンパス 12号館地下1階 第1~2会議室 https://www.rikkyo.ac.jp/access/ikebukuro/ ・事前参加申込は不要です ・お問合せ:事務局 [email protected] または佐藤まで [email protected] ・趣旨 日本史、なかでも中世史は既存の教科書叙述の見直しを迫る成果が数多く公刊されているが、新しい研究動向を組み込んで教科書叙述を見直す動きは十分とはいえない。とりわけ、日本史上の中世にあたる時期の日本と高麗・朝鮮との関係史は20世紀末以来、最も発展の著しい分野の一つでありながら、古代や近世・近代に比べて教育の場で取り上げられる機会は著しく乏しい。本シンポジウムでは、1975年に韓国の全羅南道新安郡の沖で発見された沈没船(新安沈船)が日韓の歴史教育においてどのように取り上げられているのかを切り口にして、日韓の歴史教育・歴史研究者による「対話」の場をつくるとともに、歴史教育における日麗・日朝関係史について再考するきっかけとしたい。 ・プログラム 趣旨説明:佐藤雄基(立教大学文学部史学科教授) 1.鄭淳一(高麗大学校歴史教育科副教授、国際日本文化研究センター外国人研究員) 「韓国の歴史教育は「新安沈船」をどう語っているのか」 2.大西信行(中央大学文学部特任教授) 「日本の中学・高校教科書における「新安沈船」」 コメント:皆川雅樹(産業能率大学経営学部准教授) 総合討論 詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.rikkyo.ac.jp/events/2023/07/mknpps00000296dq.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
CHO You Kyung “AI Music from an Aesthetic Perspective”
2023年6月8日 16:09:46
********************************************** SGRAかわらばん972号(2023年6月8日) 【1】エッセイ:曹有敬「美学的観点からみるAI音楽」 【2】第71回SGRAフォーラムへのお誘い(6月10日、ハイブリッド) 「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」(最終案内) 【3】寄贈書紹介:李軍_編著「『ことばの力』を育む国語科教材開発と授業構築」 ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#739 ◆曹有敬「美学的観点からみるAI音楽」 私の研究人生は2008年に来日した日本で、「美学(Aesthetics)」という学問と出会ったことから始まる。「美学」という学問を一言で定義するのは容易ではないが、端的に言うと人間はどのようにして「美しいもの」を知覚するのか、そしてその時に働く「感性」はどういうものなのかを考える学問である。それゆえ、人間が営むあらゆるものが対象となりうる。そして、範囲は無限に広がる。そのため、「美学」という学問は時代や国によって議論の中心が思想だったり、芸術だったりしている。また「芸術」の定義が多様化されつつある中で、本エッセイで紹介するような研究も可能なのである。例として人工知能(AI)音楽を美学的観点から見てみよう。 AI音楽とは既存の音楽を大量にAIシステムに入力し、AIがそのデータの分析を基に作り出す類似様式の音楽を指す。例えば、作曲家デイヴィッド・コープが創り出した「AI作曲家エミリー・ハウエル」はベートーヴェンやマーラーなど、昔の作曲家の様式に基づいて数多くの作品を短時間に作ることができる。また、大衆音楽の分野においても、韓国光州科学技術院のアン・チャンウク研究チームが開発した「AI作曲家EvoM」がアルゴリズムを通してKポップを含む様々な大衆音楽を作ってきた。このAIによるほとんどの作品に対して、学問・非学問の領域を問わず、世間はAIの歴史、科学的潜在力、そして商業的価値などといったAI自体の科学技術的側面や実用的価値に主な関心を寄せてきた。しかし、近年では環境哲学者による社会・倫理的問題や美学・哲学の領域におけるポストヒューマニズムの枠組みまで議論は拡張している。 AI音楽と人間との関係から、「美学」の主要概念の一つである「創造性」を再考することができる。西洋芸術音楽すなわちクラシック音楽におけるAI音楽への評価では、AIによる曲は偉大なクラシック作曲家の曲を単純に模倣した趣味の悪い曲だと批判されている。実際AIが作った曲を聞いてみると、確かに「人間作曲家」が作った曲に比べ、作品の質ははるかに劣っているかもしれない。しかし、こういった批判は実は18世紀後半以降問題にされてきた「人間作曲家」における独創性の問題にも繋がっている。18世紀後半に「天才」や「独創性」という概念が台頭したことにより、中世から綿々と行われてきた既存の音楽を用いて作曲する行為が、批判の的となった。 つまり、借用行為自体がオリジナリティーのないものとされたのである。例えば、後期ロマン派作曲家のグスタフ・マーラーの引用技法は彼の生前において「ユダヤ性」――否定的意味として――と結び付けられ、オリジナリティーが疑われたのである。このような傾向は1950~1960年代のモダニズムまで続いていた。常に新しさを求めたこの時期の進歩主義作曲家及び批評家にとっては、調性音楽の使用は「過去への回帰」を象徴するもので、既存の音楽を引用する作法はある種の「汚れた音楽」だった。 AI音楽における「創造性」への熟考は、この問題を再び考えさせるきっかけになるだろう。AI音楽にまつわる1)創造性とは何か2)作曲家の役割は何か3)作品とは何か4)聞き手はどう受け止めるのかといった様々な美学的問いに対して、次のように答えられるだろう。AIに情報を入力する際にその情報を選択するのは「人間作曲家」である一方で、そこから実際に一つの新たな曲を作り出すのはAIである。上述のコープが示しているように、たとえ「人間作曲家」が情報を収集・選択し入力するとしても、AIは予想外の結果物を作り上げることができる。 この原理からAIは「創造性」を有することができる。コープによれば「創造性」は人間の霊感のみに依存するものではなく、機械という他の要因によっても発生する。そして「創造性」はそれを巡る文脈において成立し、また無から生まれるものではなく、他者の作品の合成から生まれるものである。さらに重要なのは「創造性」の有無は美的なものを受容するか、拒否するかを判断する他者の判断に依拠するということだ。こういったコープの主張は「創造性」を完成した作品という結果物ではなく、創造のプロセスから見いだすものである。このAIの「創造性」に関連する議論は、人間の「創造性」をより深く理解するための重要な端緒を提供している。またこのことは、無から新しいものを創造するという近代的神話に縛られたわれわれの鑑賞態度を見直すために、大きな示唆を提供する。 <曹有敬(チョー ユーキョン)CHO_You_Kyung> 東京大学大学院人文社会系研究科に在籍中。2021年度渥美奨学生。日本学術振興会特別研究員DC2(2019年4月?2021年3月)。研究領域は戦後西ドイツ音楽文化、音楽とテクノロジー、現代音楽美学、グスタフ・マーラー研究など、音楽学、美学、文化史学にまつわる学際的研究を行なっている。刊行物としては共著『テクノロジーと音楽の新しい出会い』(2023、韓国語)、「B.A.ツィンマーマンの時間哲学の再考――哲学、文学、音楽の結節点に注目して」『美学』261号(2022、日本語)、共訳『デジタル革命と音楽』(2021、韓国語、2022年度セジョン優秀学術図書に選定)、他多数。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第71回SGRAフォーラム「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」へのお誘い(最終案内) 下記の通り第71回SGRAフォーラムをハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。オンラインはカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」 日 時:2023年6月10 日(土)午後2~5時(日本時間) 方 法:会場参加(先着20名)とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催 会 場:渥美国際交流財団ホール(プログラム参照) 言 語:日本語 ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_R5tHvBp_R8qo6r-uEIWyAQ#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 ロシア帝国は中国とのネルチンスク条約、アイグン条約、北京条約によって極東の大きな領土を手に入れることができた。その極東の国境沿いの領土にはあまりにも人口が少なかったため、定住者を増やすことが政治地理的な大きな課題となった。ほぼ同時期の1861年に農奴解放令が発布され、当時ロシア帝国に付属していたウクライナの農奴はやっと農地を手に入れたものの、配給された土地は非常に小さく不満を抱く人が多かった。そこでロシア帝国政府は「帝国の南側から極東に家族ごと移住すれば、かなり大きな農地をもらえる」と宣伝し1870年からロシア革命までに大勢のウクライナ人が極東に移り住んだ。1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東に定着した時、その政権から逃れた100万人のウクライナ人がハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていた。 本フォーラムでは、いろいろな民族が住み、さまざまな文化が存在し、新たなアイデアもたくさん生まれていた、20世紀前半の極東アジアに存在した特別な空間について話し合いたい。 ■プログラム ◆講演1「『緑のウクライナ』という特別な空間」 オリガ・ホメンコ(オックスフォード大学日産研究所) 1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「グリーンウェッジ」(森が多いので緑、ウェッジは農業ができるところ)と呼ばれていた地域に「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東にやっと定着した時、その政権の下に住みたくない100万人のウクライナの人はハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていたが、「緑のウクライナ」の夢を捨てられなかった。ロシア帝国でマイノリティ―だったウクライナ人は、極東に開拓民として移動し、初めていろいろな民族に対してマジョリティ―になり、初めて多くの今まで知らなった民族や文化に触れ合うことになった。新たなアイデアもたくさん生まれ、ウクライナのアイデンティティーを実感し、自分の国を作ろうとした。極東開発のプロセスで農民以外に、知識人の技師や鉄道関係者もウクライナからやってきた。第一次世界大戦と共に軍人の数も増えた。活発なボランティア活動のおかげで極東満州では20以上のウクライナ語のプリントメディアが出版された。 本フォーラムでは、そのメディアを起こした人達を紹介し、そこで想像されていた「緑のウクライナ」という特別な空間について考えたい。長らく忘れられていた人々―多民族国家の夢を見て「極東のウクライナ人」という新聞を自費出版していた技師のドミトロー・ボロウィックや「満州通信」の編集者だったイワン・スウィットの姿を見ながら「緑のウクライナ」について検討する。 ◆講演2「マンチュリア(満洲)における民族の交錯」 塚瀬 進(長野大学環境ツーリズム学部) マンチュリア(満洲)の範囲は時代によって一定ではなく可変的であった。また、そこに住む人々の移動も激しく、日本のように単一的な人々が長く暮らした時期は少なかった。領域の範囲が変動したこと、住民の移動が激しかった地域の歴史は、民族自決による国民国家の形成という過程を主軸に理解することは難しい。 通説的な理解は、マンチュリアはもともと人口稀薄な場所(「無主の地」とも称された)であったが、中国人の移住が20世紀以降増加し、中華人民共和国の東北三省となり現在に至っているというものである。かかる中華人民共和国の一地域へと収斂されていく方向性、言い換えるならば最終的にマンチュリアは中国に統合され、中国人の地になるという理解は、マンチュリアの多様性を取捨している。中国への統合という側面だけではなく、マンチュリアを主体にした歴史理解を本報告は追究している。こうした議論の方向性は、現在世界各国で生じている多くの紛争の基底にある、同質的な国民国家を形成することが難しい地域の歴史的要因の認識につながる。 ◆話題提供1「中国東北地域における近代的な空間の形成:東北蒙旗師範学校を事例に」 ナヒヤ(内蒙古大学蒙古歴史学系) ハルビン、長春、瀋陽を中心都市とした20世紀前半における中国の東北地域でモンゴル族は文化、教育、出版をはじめとする様々な活動を行なってきた。しかし、自力では強力な活動を展開するのが難しく、各地方政権と取引を行わざるを得なかった。張学良を理事長、メルセを校長とする東北蒙旗師範学校はその典型的な例である。 ◆話題提供2「『マンチュリア』に行こう!」 グロリア・ヤン ユー(九州大学人文科学研究院) 20世紀前半のマンチュリア(満洲)には、ロシア・「極東」・モンゴリア、中国(特に華北地方)・朝鮮半島・日本から、さまざまな人々が移住してきた。また、鉄道の発展によって国境を越える旅も盛んに行なった。本コメントは、視覚資料、小説、紀行文などを取り上げ、「マンチュリア」の日常生活空間の多様性を描き出す試みである。また、この「越境する現場」の多様的な空間の視覚表象は、日本帝国の拡張(のちに満洲国の成立)によって取捨され、そして単一化されつつあったことを明らかにしたい。 ◆自由討論 司会/モデレーター:マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学) ※プログラムの詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAForam71Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAFo71PosterLITE3.jpg -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】寄贈書紹介 SGRA会員で早稲田大学教育・総合科学学術院講師の李軍さんから編著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆李軍_編著「『ことばの力』を育む国語科教材開発と授業構築―変革期に問う教材と授業のかたち―」 「言語文化」「古典探究」といった古典・漢文を扱う科目においてどのように「論理的思考力」を育成したらよいのか。学ぶ意義が分からず古典嫌いの生徒が多い中、学習意欲を向上させるにはどう工夫すればよいか。 「論理的思考」を支える「ことばの力」の学習回路を起動する原動力でもある「興味・関心」を喚起する鍵は、学習者の実態把握、そして教材研究、教材開発と授業づくりである。 本書では授業づくりに役立つ開発教材と数々の授業構想を提案し、変革期における教材開発と授業構築の在り方のヒントを提供。 執筆者:李軍、吉田茂、林教子、町田守弘 ジャンル:教育学 シリーズ・巻次:早稲田教育叢書 41 出版年月日:2023/03/30 ISBN:9784762032332 判型・ページ数:A5・180ページ 定価:2,200円(本体2,000円+税) 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.gakubunsha.com/book/b622626.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
GUO Lifu “Teaching as a Sexual Minority in a Trans-Hate Discourse”
2023年6月1日 22:30:42
********************************************** SGRAかわらばん971号(2023年6月1日) 【1】エッセイ:郭立夫「トランス嫌悪言説の中で性的マイノリティーとして教えること」 【2】催事紹介:東アジア日本研究者協議会 第7回国際学術大会 参加者募集中 (会期:11月3日~5日、会場:東京外国語大学:参加申込締切7月19日) 【3】第71回SGRAフォーラムへのお誘い(6月10日、ハイブリッド) 「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」(再送) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#738 ◆郭立夫「トランス嫌悪言説の中で性的マイノリティーとして教えること」 非常勤講師の仕事が大変です。その理由は一般的に労働条件が悪いだけでなく、私自身が性的マイノリティーとしてジェンダー論を教える時に「絶望」を感じるからです。その「絶望」の方が私のストレスになっています。 2022年の春学期、非常勤講師として2つの大学で「トランスジェンダー」をテーマにしたジェンダー論の授業を始めました。2021年の東京オリンピックでニュージーランドの重量挙げのトランス女性選手が「女性」として出場したことが、中国と日本の会員制交流サイト(SNS)で炎上したからです。「男性」としてトレーニングされてきたトランス女性選手は「シスジェンダー(出生時の体の性別と性自認が一致する人々)」の女性選手の「脅威」として語られ、まるで「加害者」であるかのように批判されました。それを目にした私は、一人の研究者、そして大学の教員として授業を通じて何かできることがないか模索したいと強く感じました。しかしそれは簡単なことではなく、本エッセイを書いている今(2022年5月)、春学期が始まってもう1カ月ほど経っていますが、いまだに学生のコメントに「シス女性を守るために、トランス選手の試合参加は認めてはいけない」などの意見が見られ、その難しさを感じています。 英語では女性の権利を掲げながらトランスの権利を否定する人たちを「TERF(Trans Exclusionary Radical Feminists)」と呼んでいます。この言葉の略称が多くの問題(例えばこの人たちはフェミニストといえるのかどうか)を生むのは言わずもがなで、もはやこの言葉を使うこと自体が大変な物議を醸すようになってきています。特にトランス嫌悪的な発言をする人たちは、この言葉を常にトランス活動家たちによる自分に対する「攻撃」だと認識し、その言葉の使用を拒否し、強く反対しています。彼らは女性の権利保護を掲げつつも、フェミニズム思想と運動が何十年もかけて作り上げてきた「ジェンダーもセックスも社会的・政治的に構築された」という思想を否定し、「女性とは誰か」というフェミニズム思想の根本的で定番の質問に対して、安易な生物決定論で答えているのです。 今、TERFについての研究は欧米を中心に展開されています。それらの研究から分かるのは、TERFの概念は政治的・宗教的保守勢力から大きく影響を受けているということです。ジェンダーに真に批判的である「Gender_Critical」であり、同時にTERF思想を掲げる活動家たちは多くの場合女性が主体となっていますが、不思議なことに彼女たちは政治的な保守勢力(多くの場合はこれまで女性運動に抑圧的な態度を取っていた政治的・宗教的勢力)と連動しており、女性運動をこれまで抑圧してきた保守勢力とも手を繋ぎ、今やトランスジェンダー女性を排除しようとしているのです。 一方、東アジアでは欧米でのこうした活発な動きに比べると学術的な研究がまだまだ不足しています。実際、韓国の女性運動をまとめた『根のないフェミニズム』という本では、「ゲイとトランス女性はジェンダー・イデオロギーのカルトであり、トランス男性こそ本当の女性だ」というあたかも誰の性自認も承認しないような発言すら見られます。そして日本語にも翻訳され、今まさに販売されているのです。 私はオリンピックの事件を契機にプログラミング言語を学習し、TwitterとWeiboで調査を行いました。そこから分かったことは、中国と日本のトランス嫌悪的な言説も各国の保守勢力と緊密に連動しているものの、英国や米国の活動家がフェミニズムや女性の権利を主張し自らのヘイトスピーチを合理化しようとするのに対し、日本や中国のトランス嫌悪的な言説はあくまで「生物学的」、つまり科学言説に論拠している、ということです。 もう少し詳しく見てみると、中国では米トランプ前大統領の発言を引用し、トランス排除を合理化しています(Weiboにおけるトランス嫌悪的なコンテンツではトランプ支持の内容が最も多かった)し、日本は中国よりも「女性の権利」を掲げる声が大きいものの、生物学やルールの公平性などそもそもジェンダーの観点に触れない言説が圧倒的に多いのが印象的です。そして、それらの言説はトランス批判を契機に、LGBTとフェミニズムを左翼勢力とし、右翼こそ日本を救うものだとする典型的な「ネトウヨ(インターネット上で活動する右翼団体)」言説が多いと思われます。そして、三分の一程度の割合で、中国の陸上選手に関するデマが見られます。つまり、日本のネットにおけるトランス嫌悪は「嫌中」とも連動しているのです。まだまだ研究をする余地がありますが、トランスジェンダーに関する議論が東アジアでもジェンダー・ポリティクスを考える上で必要不可欠なものとなっていることは間違いありません。 冒頭のエピソードに戻りましょう。私自身も性的マイノリティーなので、ジェンダー論を教える事、とりわけトランスジェンダーに関する知識を教える事とは自分自身の再確認でもあります。教えている時に感じた「絶望」とは、自分の自己再確認が学生によって疑問視されていると感じたからかもしれません。学生から批判的な意見が届くたびに怒りで震えてしまいます。しかし、その怒りこそ私を動かすものなのです。良い意味でも、そして悪い意味でも。 <郭立夫(グオ・リフ)GUO Lifu> 東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程。日本大学、神奈川大学、東洋英和女学院大学などで非常勤講師。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 ◆第7回東アジア日本研究者協議会 参加者募集中 会期:2023年11月3日(金)~5日(日) 会場:東京外国語大学 参加方法:パネル発表/個人研究発表/次世代パネル発表/次世代研究発表/一般参加 参加申込:5月23日(火)~7月19日(水) 本協議会は、東アジアを中心とした国々の研究者に、多様な分野において蓄積されてきた日本研究に関する成果を発表・議論する場を提供し、日本研究と日本研究者の国際的交流の発展に寄与することを目的としています。 上記の趣旨のもと、東アジアの日本研究機関が順次執行を担当することにより、年に1回の国際学術大会を開催することになっています。第1回はソウル大学(2016年・仁川)、第2回は南開大学(2017年・天津)、第3回は国際日本文化研究センター(2018年・京都)、第4回は台湾大学(2019年・台北)が主催機関となり開催されました。2020年のCOVID-19のパンデミックによる延期を挟んで、2021年の第5回は高麗大学主催で、昨年の第6回は北京外国語大学北京日本学研究センター主催で開催され、これまでいずれも300名にのぼる日本研究者が東アジア各国・地域から集まりました。 第7回となる今回の大会は、日本・東京の東京外国語大学において開催いたします。第5回と第6回の大会はパンデミックにより、オンラインでの開催でしたが、今大会は対面の開催を予定しています。東アジアの日本研究者の皆様が東京に集まり、日本研究の新たな広がりと深化が実現されることを期待しています。 また、これまでの大会を踏襲して、次世代の日本研究者も積極的に支援したいと考えています。 詳細はホームページをご覧ください。 https://eacjs2023.jp/about.php -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第71回SGRAフォーラム「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」へのお誘い(再送) 下記の通り第71回SGRAフォーラムをハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。オンラインはカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」 日 時:2023年6月10 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法:会場参加(先着20名)とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催 会 場:渥美国際交流財団ホール(プログラム参照) 言 語:日本語 ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_R5tHvBp_R8qo6r-uEIWyAQ#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 ロシア帝国は中国とのネルチンスク条約、アイグン条約、北京条約によって極東の大きな領土を手に入れることができた。その極東の国境沿いの領土にはあまりにも人口が少なかったため、定住者を増やすことが政治地理的な大きな課題となった。ほぼ同時期の1861年に農奴解放令が発布され、当時ロシア帝国に付属していたウクライナの農奴はやっと農地を手に入れたものの、配給された土地は非常に小さく不満を抱く人が多かった。そこでロシア帝国政府は「帝国の南側から極東に家族ごと移住すれば、かなり大きな農地をもらえる」と宣伝し1870年からロシア革命までに大勢のウクライナ人が極東に移り住んだ。1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東に定着した時、その政権から逃れた100万人のウクライナ人がハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていた。 本フォーラムでは、いろいろな民族が住み、さまざまな文化が存在し、新たなアイデアもたくさん生まれていた、20世紀前半の極東アジアに存在した特別な空間について話し合いたい。 ■プログラム ◆講演1「『緑のウクライナ』という特別な空間」 オリガ・ホメンコ(オックスフォード大学日産研究所) 1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「グリーンウェッジ」(森が多いので緑、ウェッジは農業ができるところ)と呼ばれていた地域に「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東にやっと定着した時、その政権の下に住みたくない100万人のウクライナの人はハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていたが、「緑のウクライナ」の夢を捨てられなかった。ロシア帝国でマイノリティ―だったウクライナ人は、極東に開拓民として移動し、初めていろいろな民族に対してマジョリティ―になり、初めて多くの今まで知らなった民族や文化に触れ合うことになった。新たなアイデアもたくさん生まれ、ウクライナのアイデンティティーを実感し、自分の国を作ろうとした。極東開発のプロセスで農民以外に、知識人の技師や鉄道関係者もウクライナからやってきた。第一次世界大戦と共に軍人の数も増えた。活発なボランティア活動のおかげで極東満州では20以上のウクライナ語のプリントメディアが出版された。 本フォーラムでは、そのメディアを起こした人達を紹介し、そこで想像されていた「緑のウクライナ」という特別な空間について考えたい。長らく忘れられていた人々―多民族国家の夢を見て「極東のウクライナ人」という新聞を自費出版していた技師のドミトロー・ボロウィックや「満州通信」の編集者だったイワン・スウィットの姿を見ながら「緑のウクライナ」について検討する。 ◆講演2「マンチュリア(満洲)における民族の交錯」 塚瀬 進(長野大学環境ツーリズム学部) マンチュリア(満洲)の範囲は時代によって一定ではなく可変的であった。また、そこに住む人々の移動も激しく、日本のように単一的な人々が長く暮らした時期は少なかった。領域の範囲が変動したこと、住民の移動が激しかった地域の歴史は、民族自決による国民国家の形成という過程を主軸に理解することは難しい。 通説的な理解は、マンチュリアはもともと人口稀薄な場所(「無主の地」とも称された)であったが、中国人の移住が20世紀以降増加し、中華人民共和国の東北三省となり現在に至っているというものである。かかる中華人民共和国の一地域へと収斂されていく方向性、言い換えるならば最終的にマンチュリアは中国に統合され、中国人の地になるという理解は、マンチュリアの多様性を取捨している。中国への統合という側面だけではなく、マンチュリアを主体にした歴史理解を本報告は追究している。こうした議論の方向性は、現在世界各国で生じている多くの紛争の基底にある、同質的な国民国家を形成することが難しい地域の歴史的要因の認識につながる。 ◆話題提供1「中国東北地域における近代的な空間の形成:東北蒙旗師範学校を事例に」 ナヒヤ(内蒙古大学蒙古歴史学系) ハルビン、長春、瀋陽を中心都市とした20世紀前半における中国の東北地域でモンゴル族は文化、教育、出版をはじめとする様々な活動を行なってきた。しかし、自力では強力な活動を展開するのが難しく、各地方政権と取引を行わざるを得なかった。張学良を理事長、メルセを校長とする東北蒙旗師範学校はその典型的な例である。 ◆話題提供2「『マンチュリア』に行こう!」 グロリア・ヤン ユー(九州大学人文科学研究院) 20世紀前半のマンチュリア(満洲)には、ロシア・「極東」・モンゴリア、中国(特に華北地方)・朝鮮半島・日本から、さまざまな人々が移住してきた。また、鉄道の発展によって国境を越える旅も盛んに行なった。本コメントは、視覚資料、小説、紀行文などを取り上げ、「マンチュリア」の日常生活空間の多様性を描き出す試みである。また、この「越境する現場」の多様的な空間の視覚表象は、日本帝国の拡張(のちに満洲国の成立)によって取捨され、そして単一化されつつあったことを明らかにしたい。 ◆自由討論 司会/モデレーター:マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学) ※プログラムの詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAForam71Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAFo71PosterLITE3.jpg ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
KIM Woonghee “The 21st Japan-Korea Future Forum ‘Emerging Risk and Emerging Security’ Report”
2023年5月25日 16:55:49
********************************************** SGRAかわらばん970号(2023年5月25日) 【1】金雄煕「第21回日韓アジア未来フォーラム報告」 「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)―これからの政策への挑戦―」 【2】催事紹介:国際ソーシャルワーク研究セミナー(6月10日、オンライン) 「カナダにおける先住民ソーシャルワークの歴史的発展と進化する実践モデル」 【3】第71回SGRAフォーラムへのお誘い(6月10日、ハイブリッド) 「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」(再送) ********************************************** 【1】金雄煕「第21回日韓アジア未来フォーラム報告」 長く続いたコロナ禍もようやく落ち着きはじめた2023年4月22日(土)、第21回日韓アジア未来フォーラムが渥美財団ホールにてハイブリッド・ウェビナー方式で開催された。2019年3月23日にソウルで第18回フォーラムが開催されて以来2回続けてオンライン開催だったが、今回は4年ぶりに日韓両国の研究者が顔を向き合わせて開催できるようになり、感無量の思いだ。 今回のテーマは「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)―これからの政策への挑戦―」。多岐にわたり複雑に絡み合う新しい安全保障のパラダイムを的確に捉えるためには、より精緻で包括的な分析やアプローチが必要であるという問題意識から、韓国における「エマージングセキュリティ「新興安全保障」」研究と日本における「経済安全保障」研究を事例として取り上げ、今日の安全保障論と政策開発の新たな争点と課題について考察した。 テーマ設定に際して以下のいきさつがある。渥美国際交流財団・SGRAはアジアの主要都市を巡回してアジア未来会議を開催しており、昨年は第6回を台湾で開催した。そこでコロナパンデミックに代表される安全保障への新しい脅威と新たな国際協力について、ソウル大学の金湘培(キム・サンベ)教授(韓国国際政治学会会長=当時)が非常に挑戦的で印象的な講演を行った。それが契機となり、さらに議論を深めるために今回のフォーラムを開催する運びとなった。 「エマージングセキュリティ」は新たな安全保障及びその創発メカニズムを指す新しい概念であり、韓国の学界や政界の一部では「新興安全保障」と呼んでいる。一般に新しい概念は受容と変形、または外部の衝撃とそれに伴う内部の対応から生まれるものだろうが、それにはさらに複雑な事情が介入してくる。新しい概念は、切迫した必要性がない限り導入されない。こうしたためか今回のテーマ名を決める際にも「新興安全保障」概念をめぐって相当の議論を重ね、最終的には「エマージングセキュリティ」にした。 フォーラムでは、韓国未来人力研究院の徐載鎭(ソ・ジェジン)院長による開会の挨拶に続き、韓国と日本から2名の専門家による基調講演が行われた。金湘培教授は「エマージングセキュリティ」創発の条件、そのメカニズムとプロセス、そして複合地政学との連携性、エマージング平和構想の必要性についての問題提起を中心に基調報告を行った。東京大学の鈴木一人教授は新たな安全保障の最前線に位置する経済安保について、地経学的観点から昨今の経済安保脅威の本質と日本の先導的対応について講演した。お二人の講演は問題認識が非常に似ていながらも、一方は理論的アプローチ、もう一方は具体的かつ政策的議論という違いがあったが、韓国と日本のそれぞれの現実に立脚した興味深い議論を展開した。 基調講演に続き、4人の討論者からコメントがあった。まず「エマージングセキュリティ」論や経済安保論の観点から見て、韓日関係の現在をどう評価できるのか、また韓日関係の未来ビジョンはどのように設計すべきかについて国民大学の李元徳(イ・ウォンドク)教授のコメントがあった。次に複合地政学への対応としての日韓協力とその可能性について慶應義塾大学の西野純也教授がオンラインでコメントした。公州大学の林恩廷(イム・ウンジョン)副教授は、韓国と日本の共通した挑戦とエマージング平和に向けた日韓協力の可能性の観点から興味深い議論を展開した。最後に釜慶大学の金崇培(キム・スンベ)助教授は複雑化する「安保」概念について、国内および国際関係におけるリベラリズム的思考と実践が持つ意味、そして韓日が協力可能な「安保」とは何かについて問題提起を行った。 振り返ってみると、鈴木一人教授を基調講演者として招待し、日本の経済安全保障に向けた政策的対応について具体的な話を聞くことができたことは、フォーラムをより豊かで有意義にする決め手の一つだった。鈴木教授を招待するのにご尽力くださった渥美財団の渥美直紀理事長、船橋洋一評議員に深く感謝したい。そして当日に台湾から会場に直行する厳しい日程を快く受諾し、万が一に備えてオンライン講演のための30分の録画まで準備してくださった鈴木教授にも感謝の言葉を申し上げざるを得ない。 素晴らしい総括を務めてくださった平川均先生、会議のために苦労を惜しまなかった渥美国際交流財団スタッフの皆さん、同時通訳のイ・ヘリさん、アン・ヨンヒさん、発表資料の翻訳を担当してくださった尹在彦(ユン・ジェオン)さん、Q&Aを翻訳してくださったノ・ジュウンさん、そして最後にコロナ禍の中でもフォーラムが持続できるように後援を惜しまなかった今西淳子常務理事と李鎮奎(リ・ジンギュ)教授に心より感謝申し上げたい。 忘れてはいけないことがもう一つ。帰国日の日曜朝、一人のパスポートがないことに気づき、大騒ぎとなった。フォーラム終了後に銀座の飲食店で落としたのではないかと思われるが、探す時間も方法もなく、韓国大使館領事部に緊急連絡し、臨時パスポートを作っていただき、予定通りの帰国便に乗ることができた。一時はパニックになったが、スリル満点だった。遺失物届け出で日本の交番にも大変お世話になった。この場を借りて感謝申し上げたい。 写真アルバムを下記リンクよりご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/JKAFF21PhotosLite.pdf アンケート集計結果を下記リンクよりご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/JKAFF21Feedback.pdf <金雄熙(キム・ウンヒ)KIM_Woonghee> 仁荷大学国際通商学部教授、副学長。ソウル大学外交学科卒業。筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、博士号取得。仁荷大学国際通商学部専任講師、副教授、教授を経て2022年9月より副学長。最近は国際開発協力、地域貿易協定に興味をもっており、東アジアにおける地域協力と統合をめぐる日・米と中国の競争と協力について研究を進めている。1996年度渥美国際交流財団奨学生。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 SGRA会員で日本社会事業大学准教授のヴィラーグ ヴィクトルさんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申し込んでください。 ◆国際ソーシャルワーク研究セミナー 「カナダにおける先住民ソーシャルワークの歴史的発展と進化する実践モデル―社会政策と先住民固有の知に基づく精神保健福祉アプローチに焦点を当てて」 日 時:2023年6月10日(土)13:00~15:30(オンライン) 言 語:日英同時通訳付き 【日本語チラシ】 https://www.jsssw.org/wp/wp-content/uploads/2023/05/International-Social-Work-Research-Seminar-2023-jp.pdf 【英語チラシ】 https://www.jsssw.org/wp/wp-content/uploads/2023/05/International-Social-Work-Research-Seminar-2023-en.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第71回SGRAフォーラム「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」へのお誘い(再送) 下記の通り第71回SGRAフォーラムをハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。オンラインはカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」 日 時:2023年6月10 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法:会場参加(先着20名)とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催 会 場:渥美国際交流財団ホール(プログラム参照) 言 語:日本語 ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_R5tHvBp_R8qo6r-uEIWyAQ#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 ロシア帝国は中国とのネルチンスク条約、アイグン条約、北京条約によって極東の大きな領土を手に入れることができた。その極東の国境沿いの領土にはあまりにも人口が少なかったため、定住者を増やすことが政治地理的な大きな課題となった。ほぼ同時期の1861年に農奴解放令が発布され、当時ロシア帝国に付属していたウクライナの農奴はやっと農地を手に入れたものの、配給された土地は非常に小さく不満を抱く人が多かった。そこでロシア帝国政府は「帝国の南側から極東に家族ごと移住すれば、かなり大きな農地をもらえる」と宣伝し1870年からロシア革命までに大勢のウクライナ人が極東に移り住んだ。1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東に定着した時、その政権から逃れた100万人のウクライナ人がハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていた。 本フォーラムでは、いろいろな民族が住み、さまざまな文化が存在し、新たなアイデアもたくさん生まれていた、20世紀前半の極東アジアに存在した特別な空間について話し合いたい。 ■プログラム ◆講演1「『緑のウクライナ』という特別な空間」 オリガ・ホメンコ(オックスフォード大学日産研究所) 1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「グリーンウェッジ」(森が多いので緑、ウェッジは農業ができるところ)と呼ばれていた地域に「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東にやっと定着した時、その政権の下に住みたくない100万人のウクライナの人はハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていたが、「緑のウクライナ」の夢を捨てられなかった。ロシア帝国でマイノリティ―だったウクライナ人は、極東に開拓民として移動し、初めていろいろな民族に対してマジョリティ―になり、初めて多くの今まで知らなった民族や文化に触れ合うことになった。新たなアイデアもたくさん生まれ、ウクライナのアイデンティティーを実感し、自分の国を作ろうとした。極東開発のプロセスで農民以外に、知識人の技師や鉄道関係者もウクライナからやってきた。第一次世界大戦と共に軍人の数も増えた。活発なボランティア活動のおかげで極東満州では20以上のウクライナ語のプリントメディアが出版された。 本フォーラムでは、そのメディアを起こした人達を紹介し、そこで想像されていた「緑のウクライナ」という特別な空間について考えたい。長らく忘れられていた人々―多民族国家の夢を見て「極東のウクライナ人」という新聞を自費出版していた技師のドミトロー・ボロウィックや「満州通信」の編集者だったイワン・スウィットの姿を見ながら「緑のウクライナ」について検討する。 ◆講演2「マンチュリア(満洲)における民族の交錯」 塚瀬 進(長野大学環境ツーリズム学部) マンチュリア(満洲)の範囲は時代によって一定ではなく可変的であった。また、そこに住む人々の移動も激しく、日本のように単一的な人々が長く暮らした時期は少なかった。領域の範囲が変動したこと、住民の移動が激しかった地域の歴史は、民族自決による国民国家の形成という過程を主軸に理解することは難しい。 通説的な理解は、マンチュリアはもともと人口稀薄な場所(「無主の地」とも称された)であったが、中国人の移住が20世紀以降増加し、中華人民共和国の東北三省となり現在に至っているというものである。かかる中華人民共和国の一地域へと収斂されていく方向性、言い換えるならば最終的にマンチュリアは中国に統合され、中国人の地になるという理解は、マンチュリアの多様性を取捨している。中国への統合という側面だけではなく、マンチュリアを主体にした歴史理解を本報告は追究している。こうした議論の方向性は、現在世界各国で生じている多くの紛争の基底にある、同質的な国民国家を形成することが難しい地域の歴史的要因の認識につながる。 ◆話題提供1「中国東北地域における近代的な空間の形成:東北蒙旗師範学校を事例に」 ナヒヤ(内蒙古大学蒙古歴史学系) ハルビン、長春、瀋陽を中心都市とした20世紀前半における中国の東北地域でモンゴル族は文化、教育、出版をはじめとする様々な活動を行なってきた。しかし、自力では強力な活動を展開するのが難しく、各地方政権と取引を行わざるを得なかった。張学良を理事長、メルセを校長とする東北蒙旗師範学校はその典型的な例である。 ◆話題提供2「『マンチュリア』に行こう!」 グロリア・ヤン ユー(九州大学人文科学研究院) 20世紀前半のマンチュリア(満洲)には、ロシア・「極東」・モンゴリア、中国(特に華北地方)・朝鮮半島・日本から、さまざまな人々が移住してきた。また、鉄道の発展によって国境を越える旅も盛んに行なった。本コメントは、視覚資料、小説、紀行文などを取り上げ、「マンチュリア」の日常生活空間の多様性を描き出す試みである。また、この「越境する現場」の多様的な空間の視覚表象は、日本帝国の拡張(のちに満洲国の成立)によって取捨され、そして単一化されつつあったことを明らかにしたい。 ◆自由討論 司会/モデレーター:マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学) ※プログラムの詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAForam71Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAFo71PosterLITE3.jpg ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
The 7th Asia Future Conference: Call for Papers
2023年5月18日 15:33:28
********************************************** SGRAかわらばん969号(2023年5月18日) 【1】第7回アジア未来会議「再生と再会」論文募集のお知らせ (2024年8月9日~13日にタイ国バンコク市で開催) 【2】催事紹介:第14回INAF研究会のご案内(5月20日、オンライン) 【3】第71回SGRAフォーラムへのお誘い(6月10日、ハイブリッド) 「『緑のウクライナ』という特別な空間」(再送) ********************************************** 【1】第7回アジア未来会議 論文募集のお知らせ 第7回アジア未来会議(AFC#7)は、論文、小論文の提案(発表要旨)を下記の通り募集します。 会期:2024年8月9日(金)~13日(火)(到着日、出発日を含む) 会場:チュラロンコーン大学(タイ国バンコク市) 発表要旨の投稿締切: ・奨学金・優秀賞に応募する場合 2023年8月31日(木) ・奨学金・優秀賞に応募しない場合 2024年2月29日(木) 募集要項は下記リンクをご覧ください。 画面上のタブで言語(英語、日本語)を選んでください。 http://www.aisf.or.jp/AFC/2024/call-for-papers/ ◆総合テーマについて 本会議全体のテーマは「再生と再会」です。 新型コロナウィルスのパンデミック後、アジアと世界は大きな変革期を迎えています。このような社会、経済、文化、教育などの多様な変化に、私たちはどのように向き合い、乗り越えていけばよいのでしょうか。アジアのみならず世界の活性化を、多様な視点から検証することが求められています。専門分野を超えて、世界中の学者・研究者が「再会」し、議論を交わすこと自体が、アジアと世界の「再生」の源となり、共に解決策を見出すことができればと願っています。 ◆アジア未来会議について アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心のある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。アジア未来会議は、学際性を核としており、グローバル化に伴う様々な課題を、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化の課題も視野にいれた多面的な取り組みを奨励します。皆様のご参加をお待ちしています。 2023年5月10日 第7回アジア未来会議実行委員会 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 ◆第14回INAF研究会のご案内 SGRA会員で(一社)東北亞未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申し込んでください。 日 時:2023年5月20日(土)14:00~17:00(オンライン) 発表者: 1.李蓮花(東京経済大学経済学部教授) テーマ:「東アジアにおける構造的少子化と家族政策」 2.松本理可子(INAF理事・早稲田大学現代中国研究所招聘研究員) テーマ:「境界を生み出す社会的メカニズム――日中韓の伝統医学を事例として」 詳細は下記リンクからご覧いただけます。 http://inaf.or.jp/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第71回SGRAフォーラム「『緑のウクライナ』という特別な空間」へのお誘い(再送) 下記の通り第71回SGRAフォーラムをハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。オンラインはカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「『緑のウクライナ』という特別な空間」 日 時:2023年6月10 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法:会場参加(先着20名)とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催 会 場:渥美国際交流財団ホール(プログラム参照) 言 語:日本語 ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_R5tHvBp_R8qo6r-uEIWyAQ#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 ロシア帝国は中国とのネルチンスク条約、アイグン条約、北京条約によって極東の大きな領土を手に入れることができた。その極東の国境沿いの領土にはあまりにも人口が少なかったため、定住者を増やすことが政治地理的な大きな課題となった。ほぼ同時期の1861年に農奴解放令が発布され、当時ロシア帝国に付属していたウクライナの農奴はやっと農地を手に入れたものの、配給された土地は非常に小さく不満を抱く人が多かった。そこでロシア帝国政府は「帝国の南側から極東に家族ごと移住すれば、かなり大きな農地をもらえる」と宣伝し1870年からロシア革命までに大勢のウクライナ人が極東に移り住んだ。1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東に定着した時、その政権から逃れた100万人のウクライナ人がハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていた。 本フォーラムでは、いろいろな民族が住み、さまざまな文化が存在し、新たなアイデアもたくさん生まれていた、20世紀前半の極東アジアに存在した特別な空間について話し合いたい。 ■プログラム ◆講演1「『緑のウクライナ』という特別な空間」 オリガ・ホメンコ(オックスフォード大学日産研究所) 1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「グリーンウェッジ」(森が多いので緑、ウェッジは農業ができるところ)と呼ばれていた地域に「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東にやっと定着した時、その政権の下に住みたくない100万人のウクライナの人はハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていたが、「緑のウクライナ」の夢を捨てられなかった。ロシア帝国でマイノリティ―だったウクライナ人は、極東に開拓民として移動し、初めていろいろな民族に対してマジョリティ―になり、初めて多くの今まで知らなった民族や文化に触れ合うことになった。新たなアイデアもたくさん生まれ、ウクライナのアイデンティティーを実感し、自分の国を作ろうとした。極東開発のプロセスで農民以外に、知識人の技師や鉄道関係者もウクライナからやってきた。第一次世界大戦と共に軍人の数も増えた。活発なボランティア活動のおかげで極東満州では20以上のウクライナ語のプリントメディアが出版された。 本フォーラムでは、そのメディアを起こした人達を紹介し、そこで想像されていた「緑のウクライナ」という特別な空間について考えたい。長らく忘れられていた人々―多民族国家の夢を見て「極東のウクライナ人」という新聞を自費出版していた技師のドミトロー・ボロウィックや「満州通信」の編集者だったイワン・スウィットの姿を見ながら「緑のウクライナ」について検討する。 ◆講演2「マンチュリア(満洲)における民族の交錯」 塚瀬 進(長野大学環境ツーリズム学部) マンチュリア(満洲)の範囲は時代によって一定ではなく可変的であった。また、そこに住む人々の移動も激しく、日本のように単一的な人々が長く暮らした時期は少なかった。領域の範囲が変動したこと、住民の移動が激しかった地域の歴史は、民族自決による国民国家の形成という過程を主軸に理解することは難しい。 通説的な理解は、マンチュリアはもともと人口稀薄な場所(「無主の地」とも称された)であったが、中国人の移住が20世紀以降増加し、中華人民共和国の東北三省となり現在に至っているというものである。かかる中華人民共和国の一地域へと収斂されていく方向性、言い換えるならば最終的にマンチュリアは中国に統合され、中国人の地になるという理解は、マンチュリアの多様性を取捨している。中国への統合という側面だけではなく、マンチュリアを主体にした歴史理解を本報告は追究している。こうした議論の方向性は、現在世界各国で生じている多くの紛争の基底にある、同質的な国民国家を形成することが難しい地域の歴史的要因の認識につながる。 ◆話題提供1「中国東北地域における近代的な空間の形成:東北蒙旗師範学校を事例に」 ナヒヤ(内蒙古大学蒙古歴史学系) ハルビン、長春、瀋陽を中心都市とした20世紀前半における中国の東北地域でモンゴル族は文化、教育、出版をはじめとする様々な活動を行なってきた。しかし、自力では強力な活動を展開するのが難しく、各地方政権と取引を行わざるを得なかった。張学良を理事長、メルセを校長とする東北蒙旗師範学校はその典型的な例である。 ◆話題提供2「『マンチュリア』に行こう!」 グロリア・ヤン ユー(九州大学人文科学研究院) 20世紀前半のマンチュリア(満洲)には、ロシア・「極東」・モンゴリア、中国(特に華北地方)・朝鮮半島・日本から、さまざまな人々が移住してきた。また、鉄道の発展によって国境を越える旅も盛んに行なった。本コメントは、視覚資料、小説、紀行文などを取り上げ、「マンチュリア」の日常生活空間の多様性を描き出す試みである。また、この「越境する現場」の多様的な空間の視覚表象は、日本帝国の拡張(のちに満洲国の成立)によって取捨され、そして単一化されつつあったことを明らかにしたい。 ◆自由討論 司会/モデレーター:マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学) ※プログラムの詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAForam71Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAFo71PosterLITE2.jpg ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
Invitation to the 71st SGRA Forum “A Special Space Called ‘Green Ukraine'”.
2023年5月11日 16:48:38
********************************************** SGRAかわらばん968号(2023年5月11日) ********************************************** ◆第71回SGRAフォーラム「『緑のウクライナ』という特別な空間」へのお誘い 下記の通り第71回SGRAフォーラムをハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。オンラインはカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「『緑のウクライナ』という特別な空間」 日 時:2023年6月10 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法:会場参加(先着20名)とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催 会 場:渥美国際交流財団ホール(プログラム参照) 言 語:日本語 ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_R5tHvBp_R8qo6r-uEIWyAQ#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 ロシア帝国は中国とのネルチンスク条約、アイグン条約、北京条約によって極東の大きな領土を手に入れることができた。その極東の国境沿いの領土にはあまりにも人口が少なかったため、定住者を増やすことが政治地理的な大きな課題となった。ほぼ同時期の1861年に農奴解放令が発布され、当時ロシア帝国に付属していたウクライナの農奴はやっと農地を手に入れたものの、配給された土地は非常に小さく不満を抱く人が多かった。そこでロシア帝国政府は「帝国の南側から極東に家族ごと移住すれば、かなり大きな農地をもらえる」と宣伝し1870年からロシア革命までに大勢のウクライナ人が極東に移り住んだ。1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東に定着した時、その政権から逃れた100万人のウクライナ人がハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていた。 本フォーラムでは、いろいろな民族が住み、さまざまな文化が存在し、新たなアイデアもたくさん生まれていた、20世紀前半の極東アジアに存在した特別な空間について話し合いたい。 ■プログラム ◆講演1「『緑のウクライナ』という特別な空間」 オリガ・ホメンコ(オックスフォード大学日産研究所) 1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「グリーンウェッジ」(森が多いので緑、ウェッジは農業ができるところ)と呼ばれていた地域に「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東にやっと定着した時、その政権の下に住みたくない100万人のウクライナの人はハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていたが、「緑のウクライナ」の夢を捨てられなかった。ロシア帝国でマイノリティ―だったウクライナ人は、極東に開拓民として移動し、初めていろいろな民族に対してマジョリティ―になり、初めて多くの今まで知らなった民族や文化に触れ合うことになった。新たなアイデアもたくさん生まれ、ウクライナのアイデンティティーを実感し、自分の国を作ろうとした。極東開発のプロセスで農民以外に、知識人の技師や鉄道関係者もウクライナからやってきた。第一次世界大戦と共に軍人の数も増えた。活発なボランティア活動のおかげで極東満州では20以上のウクライナ語のプリントメディアが出版された。 本フォーラムでは、そのメディアを起こした人達を紹介し、そこで想像されていた「緑のウクライナ」という特別な空間について考えたい。長らく忘れられていた人々―多民族国家の夢を見て「極東のウクライナ人」という新聞を自費出版していた技師のドミトロー・ボロウィックや「満州通信」の編集者だったイワン・スウィットの姿を見ながら「緑のウクライナ」について検討する。 ◆講演2「マンチュリア(満洲)における民族の交錯」 塚瀬 進(長野大学環境ツーリズム学部) マンチュリア(満洲)の範囲は時代によって一定ではなく可変的であった。また、そこに住む人々の移動も激しく、日本のように単一的な人々が長く暮らした時期は少なかった。領域の範囲が変動したこと、住民の移動が激しかった地域の歴史は、民族自決による国民国家の形成という過程を主軸に理解することは難しい。 通説的な理解は、マンチュリアはもともと人口稀薄な場所(「無主の地」とも称された)であったが、中国人の移住が20世紀以降増加し、中華人民共和国の東北三省となり現在に至っているというものである。かかる中華人民共和国の一地域へと収斂されていく方向性、言い換えるならば最終的にマンチュリアは中国に統合され、中国人の地になるという理解は、マンチュリアの多様性を取捨している。中国への統合という側面だけではなく、マンチュリアを主体にした歴史理解を本報告は追究している。こうした議論の方向性は、現在世界各国で生じている多くの紛争の基底にある、同質的な国民国家を形成することが難しい地域の歴史的要因の認識につながる。 ◆話題提供1「中国東北地域における近代的な空間の形成:東北蒙旗師範学校を事例に」 ナヒヤ(内蒙古大学蒙古歴史学系) ハルビン、長春、瀋陽を中心都市とした20世紀前半における中国の東北地域でモンゴル族は文化、教育、出版をはじめとする様々な活動を行なってきた。しかし、自力では強力な活動を展開するのが難しく、各地方政権と取引を行わざるを得なかった。張学良を理事長、メルセを校長とする東北蒙旗師範学校はその典型的な例である。 ◆話題提供2「『マンチュリア』に行こう!」 グロリア・ヤン ユー(九州大学人文科学研究院) 20世紀前半のマンチュリア(満洲)には、ロシア・「極東」・モンゴリア、中国(特に華北地方)・朝鮮半島・日本から、さまざまな人々が移住してきた。また、鉄道の発展によって国境を越える旅も盛んに行なった。本コメントは、視覚資料、小説、紀行文などを取り上げ、「マンチュリア」の日常生活空間の多様性を描き出す試みである。また、この「越境する現場」の多様的な空間の視覚表象は、日本帝国の拡張(のちに満洲国の成立)によって取捨され、そして単一化されつつあったことを明らかにしたい。 ◆自由討論 司会/モデレーター:マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学) ※プログラムの詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAForam71Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAFo71PosterLITE2.jpg ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************