SGRAメールマガジン バックナンバー

  • CHEN Yijie: EACJS Session Report “Distribution and Acceptance of Different CulturesーFocus on Japan”

    ********************************************** SGRAかわらばん997号(2023年12月28日) 【1】陳イジェ:第7回東アジア日本研究者協議会パネル報告「異文化の流通や受容:日本を中心に」 【2】催事紹介:第20回INAF研究会(2024年1月13日、オンライン) ◆◇◆◇◆ 今年もSGRAかわらばんをお読みいただき、ありがとうございました。 新年は1月11日から始めます。 皆さまにとって、世界にとって、少しでも平和な年になりますように。 ********************************************** 【1】陳藝?:第7回東アジア日本研究者協議会パネル報告「異文化の流通や受容:日本を中心に」 2023年11月3日から5日まで、東アジア日本研究者協議会第7回国際学術大会が東京外国語大学で開催された。私が企画したパネルセッション「異文化の流通や受容:日本を中心に』は司会1名、討論者1名、発表者4名で構成され、SGRAの派遣チームとして参加した。 日本は古くから積極的に海外と接触し、多文化交流の重要な交差点といえる。異文化を受容することを通じて「日本文化」が築かれた。本パネルは美術を切り口として、6世紀から20世紀にいたる時代の中で日本と中国、朝鮮の交流の様相を検討する試みである。 発表は研究テーマの時代順に行われた。最初は馬歌陽氏(早稲田大学博士課程)の「飛鳥・白鳳時代の仏教美術における宝塔の造形化―東アジア的視点を中心に」。仏塔、あるいは宝塔は釈迦の象徴物として古くから造形化され、信仰されてきた。仏教が日本へ公伝すると、図様としての宝塔もしばしばみられるようになることが飛鳥・白鳳時代の仏教造形作品に確認できる。この時代の宝塔には三つの特徴がみられる。1)塔身の屋頂に覆鉢とよばれる半球形の膨らみがない、2)相輪が5本立つ、3)塔身部に円拱龕を表す。この特徴をもつ宝塔は日本のみならず、中国六朝時代の都であった建康(現在南京市)や西の四川地域、そして朝鮮半島の作例に見出せる。馬氏は飛鳥・白鳳時代の宝塔を手掛かりとして、古代東アジア仏教美術の受容と展開の一端を論じた。 2番目は孫愛琪氏(日本学術振興会外国人特別研究員)の「福建甫田画家趙珣と江戸画壇への影響」。明末の福建画家趙珣は現在の中国ではほとんど無名だが、彼の作品は江戸時代の日本に数多くもたらされ、異国で新しい命を獲得した。趙珣の作品は長崎~京都の黄檗僧と教団に関係する文人たちの絵画学習の手本となった。江戸後期の儒学者・頼山陽や、文人画家・田能村竹田らは趙珣を高く評価し、コレクターであり書家の市河米庵は作品を積極的に収集し、江戸の南画家・谷文晁一門は趙珣作品の模倣作を残している。孫氏の発表は趙珣を一つの切り口として17、18世紀の福建絵画及び黄檗絵画と江戸絵画との間に様式的展開と変容を観察しようとする。 3番目は王紫沁氏(総合研究大学院大学博士課程)の「池大雅における伊孚九の学習を再考する」。江戸時代の画家池大雅が学んだとされる明清画家の中で、伊孚九は沈南蘋と同じほどの名声を持ち、とりわけ山水画に長じたことで知られる。しかし、実際に大雅が伊孚九の絵をどのように、どれくらい学んだかについて詳しく研究されていなかった。王氏の研究は来舶清人画家の受容の一例、伊孚九の画風を整理し、当時の上方文人圏における伊孚九作品の鑑賞・学習を考察した上で、池大雅における伊孚九の学習を考え直そうとする。 最後は私の「高島北海の皴法認識――日本留学した中国人画家傅抱石の理解を参照に――」。日本留学をした中国人画家傅抱石(1904年~1965年)の理解を参照しながら、画家・地質学者高島北海(1850年~1931年)の皴法に対する認識を分析するものである。皴法とは毛筆の特性を生かして山、石、樹などの景物の立体感や質感を写実的に表現する伝統的な中国絵画技法である。高島北海は画論『写山要訣』(1903年)の中で、皴法を山水写生の具体的な技法として紹介。しかし、傅抱石も当時の日本画壇の評論家も疑問を唱えているので、文字や絵画を通じて検証した。近代中国を代表する名画家の傅は日本で注目されず、高島も1930年代から日本美術史から消えているが、東アジア美術史において両名の史的な価値を再検討した。この発表内容は『鹿島美術研究』(年報第40号別冊)に掲載された。 4人の発表の後、王楽氏(東北大学特任助教)が討論者としてそれぞれにコメントした上で、質問した。発表者は一人ずつ質問に答え、相互に議論を行った。時間が限られていたため、会場参加者たちとの交流はパネル終了後になった。 今回はSGRA派遣チームとして、本学会に参加できた。貴重なコメントを頂き、多くの研究者と意見交換ができたことを大変嬉しく思う。企画者として、あらためて渥美財団の皆さまに御礼を申し上げたい。 <陳藝ジェ(チン・イジェ)CHEN_Yijie> 2022年度渥美奨学生。中国浙江省出身。2023年、総合研究大学院大学国際日本研究博士号取得。現在は中国上海大学上海美術学院助教授。研究分野は日中絵画の交流や受容。論文には「高島北海『写山要訣』の中国受容:傅抱石の翻訳・紹介を中心に」(『日本研究』64集,2022年3月)、「記美術史家鈴木敬」(『美術観察』2018年 5月号)など、著作は『黄秋庭 巨擘伝世・近現代中国画大家』(中国北京高等教育出版社、 2018 年)などがある。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 SGRA会員で一般社団法人東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんより研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。 ◆第20 回INAFセミナー 日時:2023年12月6日(水)18:00~21:00 (オンライン) プログラム: 司会:李鋼哲 INAF所長 報告1:韓承軒(韓国ソウル大学国際大学院修士課程 「米国の新冷戦ナラティブと中国の対応」 討論者:羽場久美子(INAF副理事長・青山学院大学名誉教授) 報告2:安家宇(早稲田大学院アジア太平洋研究科博士課程)(予定) 「中国の対外広報の役割と手法―外交部報道官システムとメディアの協業を中心に-」 討論者:兪敏浩(INAF理事・名古屋商科大学国際学部教授) 参加申込:INAFメンバー以外の方は、1日前までに参加申し込み(名前、所属、連絡先メルアド)を下記へ送ってください。なお、参加された方はINAFフレンドとしてMLに登録し、今後の研究会の情報発信をさせていただきます。情報発信不要の方はその旨をお伝えください。 Email: [email protected] 詳細は下記をご覧ください。 https://inaf.or.jp/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Melek KABA: EACJS Session Report “Japanese Studies and Japanese Language Education in the Middle East”

    ********************************************** SGRAかわらばん996号(2023年12月22日) ********************************************** ◆カバ・メレキ:第7回東アジア日本研究者協議会パネル発表報告 「中東における日本研究と日本語教育-マンガ・アニメの受容と若者の日本語への関心」 2023年11月4日(土)11:00-12:30に東京外国語大学研究講義棟102号室にてパネルセッション「中東における日本研究と日本語教育-マンガ・アニメの受容と若者の日本語への関心」を開催した。5名のパネリストがそれぞれの出身国における日本研究及び日本語教育と若者の日本語への関心について説明した。プレゼンテーションの後、質疑応答で討論が進んだ。 発表テーマとパネリストは次の通り。 1)「トルコにおけるマンガの歴史と教育」チャクル・ムラット(CAKIR,_Murat)関西外国語大学 2)「トルコにおける日本語教育とマンガの役割」カバ・メレキ(KABA,_Melek)チャナッカレ・オンセキキズ・マルト大学 3)「シリアにおける日本語教育の歴史と現状」アルメリ・ナヘード(ALMEREE,_Nahed)ダマスカス大学 4)「イランにおける日本語教育の歴史と現状」アキバリ・フーリエ(AKBARI,_Hourieh)白百合女子大学 5)「モロッコにおける日本語教育の歴史と現状」チェッダディ・モハンマド・アキ―ル(CHEDDADI,_Mohammed_Aqil)慶應義塾大学 最初にチャクルさんが「マンガ・漫画」という言葉の歴史と日本・トルコ両国におけるマンガの歴史の概略を説明し、特にトルコではマンガの歴史がオスマントルコ時代に遡ることを強調した。その後、マンガ熱が高まった1908年代に登場した主なキャラクターを紹介しながら、トルコの教育現場におけるマンガ使用事例を説明し、これからもマンガが日本語教育のみならず、教育のさまざまな場で活用できることを指摘した。 次は私でトルコの若者の間で日本のポップカルチャー熱が上がっていることを指摘し、日本のポップカルチャーの中でも特に注目を集めているマンガと日本語教育の関連性を考察した。事例として、私たちの学科で実践した「マンガ坊ちゃん」を教材とするオンライン日本語教育講座の研究を取り上げた。マンガ教材を利用することで、トルコ人の日本語学習者がより積極的に学習に臨んだことや、マンガ教材の面白さを知り日本文学に興味を持つようになり、日本文学を読むようになったことが分かった。 ナヘードさんはシリアにおける日本語教育の現状を紹介した。1979年に在シリア日本大使館で日本語講座が開講され、およそ20年間続いた。1995年にアレッポ大学学術交流日本センター、1999年にはダマスカス大学付属言語研究所に日本研究センターが開設され、2002年にはダマスカス大学人文学部に日本語・日本文学科が開設された。2010年にはアレッポ大学に日本研究専攻の修士課程が設置された。しかしながら、現在戦時下のシリアでは日本語教育は停滞しており、日本語教育機関では学習者がゼロとなっている。国際情勢が教育、特に日本語教育に与えるダメージが大きいことを実感した。 フーリエさんの発表はイランの日本語教育をまとめるものだった。日本語教育の始まりは1989年にテヘラン大学外国語学部内に必修選択第二外国語科目として日本語コースが開設されたことにさかのぼる。その後1994年に同学部に日本語・日本文学科が設置された。2013年にはテヘラン大学世界研究部日本研究コース(修士課程)が開講した。 以上から、シリアとイランとトルコでは1990年代に日本語教育に力を入れ始めたことが判明した。 最後のアキルさんの発表では、モロッコにおける日本語教育の現状が扱われた。1982年にモハメッド五世大学(ラバト)において、モロッコの公的機関における日本語教育が開始した。2002年以降は順次5つの大学で日本語講座が行われるようになった。マンガ・アニメへの関心は高く、これからも日本語教育に力を入れるべき状況である。 今回のパネルディスカッションで、中東における日本語教育はまだ力を入れつつある現状であることが分かった。地政学的な特徴が日本語教育に歯止めをかけていることも判明した。中東の5つの国の日本語教育状況を比較的に考察することができたが、日本のポップカルチャー、特にマンガ教材の開発はまだ十分に行われていないようだ。 パネリストは全員が渥美奨学生であり、今後も共同で研究集会や勉強会や交流を重ねて中東における日本語教育に力を入れることを目指すことで合意した。 当日の写真は以下のURLからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/12/EACJS7Photo_Team_Melek.pdf <カバ・メレキ KABA_Melek> 2009年度渥美奨学生。トルコ共和国チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学日本語教育学部助教授。2011年11月筑波大学人文社会研究科文芸言語専攻の博士号(文学)取得。白百合女子大学、獨協大学、文京学院大学、早稲田大学非常勤講師、トルコ大使館文化部/ユヌス・エムレ・インスティトゥート講師、トルコ共和国ネヴシェル・ハジュ・ベクタシュ・ヴェリ大学東洋言語東洋文学部助教授を経て2018年10月より現職。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Max Maquito: EACJS Session Report “Community Currency Learning from Japan”

    ********************************************** SGRAかわらばん995号(2023年12月14日) 【1】マックス・マキト:第7回東アジア日本研究者協議会「日本から学ぶ地域通貨」パネル発表報告 【2】寄贈本紹介:南基正著、市村繁和訳『基地国家の誕生:朝鮮戦争と日本・アメリカ』 ********************************************** 【1】マックス・マキト:第7回東アジア日本研究者協議会「日本から学ぶ地域通貨」パネル発表報告 2023年11月4日(土)11:00-12:30、東京外国語大学研究講義棟102号室にてパネルセッション「日本から学ぶ地域通貨」が開催され、3つの発表と2つの討論の後、質疑応答が行われた。 内容は以下の通り。 発表1:「フィリピン・ラグナ州のコミュニティにおける地域通貨の可能性:日本を参考に」 ジョアン・セラノ、ジャネル・エボロン(フィリピン大学オープン大学) 発表2:「フィリピン・ラグナ州における地域交換取引制度(LETS)の可能性:日本を参考に」 セザー・ルナ、ジャネル・べレガル(フィリピン大学オープン大学) 発表3:「フィリピン・ラグナ州における電子地域通貨の可能性:日本を参考に」 フェルディナンド・マキト(フィリピン大学ロスバニョス校) ノリン・アラザダ(フィリピン大学オープン大学) 討論1:ジャクファー・イドルス(国士舘大学) 討論2:栗田健一(東京経済大学) 3本の発表は、フィリピン大学オープン大学(UPOU)で実験中の「アリタップタップ(蛍)」と呼ばれる地域通貨をめぐるものであった。「アリタップタップ」という名前は、フィリピン大学オープン大学のキャンパスで、コロナ禍後に蛍が再出現したことにちなんでつけられた。キャンパスの隣にある稲と米の実験場からの化学肥料の流出が中止になって蛍が復活したと考えられている。 最初の発表は、地域通貨を作るための「コミュニティ」概念の取り組みについて。ラグナ州の学術的なコミュニティにおける地域通貨の可能性に焦点を当て、フィリピンが直面している「持続可能な開発」という課題に適用される地域通貨の可能性について深く掘り下げた。「アリタップタップ」はオープン大学の教職員の間で物やサービスの取引を促進する媒体として役割を果たしている。日本、特に神奈川県藤野町の「よろづ屋」の経験を参考に、フィリピンにおける地域通貨の可能性を検討した結果、まずは学術界主導の地域通貨設立の可能性を探ることにした。 これは学術的な環境におけるコミュニティ形成を促進する地域通貨の先駆的なモデルともいえるだろう。他の地域通貨と比較して、地理的な境界に制限されず、大学の教職員、研究者、スタッフ間の取引ネットワークが強固に存在することが特徴である。警備員やグランドスタッフも含まれるため、地域通貨取引によって生じるコミュニティの絆の強化も確認できる。人々がこの新しいシステムに興味を持ち、実際に試してもらうことで地域通貨の良さを理解してもらえる。地域通貨モデルのプロトタイプを作り、メンバーの動機や課題を把握することができる。 2番目の発表では、地域交換取引システム(Local_Exchange_Trading_System:LETS)について、歴史、地域への導入実績、衰退、日本における復活について紹介した。LETSは、組織化されたコミュニティやグループ内で地域通貨を使って商品やサービスを交換するもの、と定義されている。1983年にマイケル・リントンがカナダのブリティッシュ・コロンビア州でコモックス・バレーLETSを始め、1990年代に欧米諸国で最盛期を迎えた。最もよく知られた第一世代の地域通貨システムとして知られ、日本の地域通貨の拡大に大きな影響を与えた。 金融不安を伴う地域的または国家的危機への対応として始まることが多いが、会員の減少、経済効果がほとんど見られないことや管理コストなどの要因のために、維持することができなかった例も多い。一方、日本では地域通貨を長期管理する仕組みとしてLETSモデルが登場した。通帳型のモデルを導入するケースが多く、地域通貨「萬(よろず)」を使う藤野町でも、地域の絆を強め、レジリエンスを高めると言われている。このようにして相互信頼を植え付け、地域コミュニティを巻き込み、利用可能なスキルや資源を最大限に活用し、コミュニティ内で価値と効用を生み出すというメリットを享受しようと努力している。 3番目の発表は、通帳型地域通貨に焦点が当てられた。通帳には「よろず屋」の会員2名(売り手と買い手)の取引の詳細が記録され、地域通貨「萬」で評価される。取引の検証は、取引当事者が署名するという手法で分散化されている。通帳は会員の「ギブミー(ほしい)」・「ギブユー(あげる)」リストへのアクセスを提供するメーリングリストによって補完される。しかし、このリストは石に刻まれたものではない。緊急に必要なものは、メーリングリストを通じて会員が投稿することができる。 日本の通帳システムは、管理コストが最小限に抑えられ、比較的インフォーマルであるため、欧米の通帳システムより持続可能である。日本で通帳制度が長続きしている背景には、他にも3つの理由がある。互恵と義務の日本文化との相性の良さ、地方開発の促進、そして設立した社会起業家のさまざまな好みに対応できる高い柔軟性である。「アリタップタップ」も日本の経験に基づき、デジタル版に移行する前に、まずアナログ版の通帳で試してみることになった。通帳はオープン大学経営開発研究学部(FMDS)で印刷し無料で提供されている。この通帳は「よろず屋」の形式を踏襲しており、地域通貨が開始される以前から取引が行われていたかどうかを示す欄が追加されている。 私たちのチームが最初に発見したのは、会員数は多いものの商品やサービスの交換に積極的に参加している会員は全体の25%に過ぎないということであった。次に同地域通貨を実施するための実験として、オープン大学経営開発研究学部の「レジリエンス、開発、起業家精神、栄養に対する評価」部門の取引が増加した。さらに、入会希望者は事前にプラス残高を要求し、マイナス残高には難色を示した。研究者は残高がマイナスであることは悪いことではないことを会員に説明し、プラス残高を得るために「レジリエンス、開発、起業家精神、栄養に対する評価」部門で行うサービスや提供する商品を会員に提案することに努めている。 続いて2名の討論者からコメントがあった。 ジャクファー先生は、インドネシア国内のローカル・コミュニティや先住民コミュニティに現在14の地域通貨が存在していることを紹介した。これらのコミュニティ通貨システムでは木製のお金が使用されていることも興味深い。 最後に地域通貨研究の第一人者である栗田先生が「『萬社会』は会員の借金を認めているから全員が多くの商品やサービスを手に入れようとするのではないだろうか?しかし、そのようなことは決して起こらない。すべての会員は、借金を減らすことでコミュニティへのコミットメントを示す。残高がマイナスになったメンバーは、どうすれば『萬社会』に貢献できるかを考える。その結果、会員は自分自身の可能性を再発見する」と強調された。 EACJS学会の後に、栗田先生の手配で研究チームは「よろず屋」の故郷である佐川原市の藤野へ見学に行った。藤野電力とパーマカルチャー・センター・ジャパンの担当者らのお話を伺い、サイトを案内していただいて皆が楽しい半日を過ごした。 言葉の限界があったものの、この大会に参加できて大変勉強になった。 当日の写真は下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/11/EACJS7Photo_Team-Maquito.pdf <フェルディナンド・マキト Ferdinand_C._MAQUITO> SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員でソウル大学教授の南基正さんより新著をご寄贈いただきましたので紹介いたします。 ◆南基正著、市村繁和訳『基地国家の誕生:朝鮮戦争と日本・アメリカ』 1953年(昭和28)1月31日当時、日本国内733ヵ所に米軍基地が展開していた。 朝鮮戦争の「前線基地」であり「中継基地」「生産基地」「後方基地」としても戦争に参画した日本。日本政府、旧軍人、右翼、日本共産党、在日朝鮮人、在日韓国人、学者、ジャーナリスト、マスコミ、そして国民は、米軍基地とどう向き合ったのか? 2017年の韓国語優秀学術図書(国際アジア研究者会議)、大韓民国学術院優秀図書受賞作品 発行:東京堂出版 ISBN:9784490210903 出版年月:2023年10月10日 判型・製本:A5・528ページ 定価:4,950円 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.tokyodoshuppan.com/book/b10033829.html 【書評】 読売新聞 https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/reviews/20231127-OYT8T50014/ 朝日新聞(好書好日) https://book.asahi.com/article/15078776 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO76379220U3A121C2MY6000/ 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20231209/ddm/015/070/018000c ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • CHAN Ya-hsun: EACJS Session Report “Crossing Borders, Solidarity, and Resistance in the Discursive Space of Empire”

    ********************************************** SGRAかわらばん994号(2023年12月08日) 【1】詹亜訓「第7回東アジア日本研究者協議会パネル報告」 『帝国という言説空間の越境・連帯・抵抗―アナーキズムと現代詩、フリージャズ』 【2】催事紹介:国際シンポジウム「匈奴とモンゴル帝国の都市と建築文化」(12月9日、東京) 【3】寄贈本紹介:瀧本弘之・戦暁梅編『近代中国美術の辺界:越境する作品、交錯する藝術家』 ********************************************** 【1】詹亜訓「第7回東アジア日本研究者協議会パネル『帝国という言説空間の越境・連帯・抵抗―アナーキズムと現代詩、フリージャズ』報告」 2023年11月の「東アジア日本研究者協議会 第7回国際学術大会」(会場は東京外国語大学)に向け、6月には私を含む台湾と韓国、日本出身の7名の若手研究者がパネル企画の検討を開始した。 同協議会が提示したテーマを基に私たちは「帝国という言説空間の越境・連帯・抵抗―アナーキズムと現代詩、フリージャズ」を提案した。パネリストの専門分野は多岐にわたっているが、東アジアの歴史認識と政治的イデオロギーの齟齬、トランスナショナルな連帯の問題について関心を共有している。共通課題は帝国と社会の周縁を生きてきた運動家、文学者、音楽家の立場から越境する連帯と抵抗のダイナミズムを描き出すことが挙げられる。東アジアの内部でありながら互いの外部にもなる台韓日の間に生まれてくる議論の底力を、パネルの形で発信することが本企画の特徴と考えた。 大会の3日間は、初日から晴れていて暖かかった。私達のパネルは最終日朝のセッションで、寺岡知紀氏(中京大学)のオープニングから始まり、「帝国に抗するアナーキズムを再考する―大杉栄の所有と連帯の論理を手がかりに」(詹亜訓:放送大学)、「戦中・戦後の台湾における石川啄木の受容―文学サークル銀鈴会メンバーを中心に」(劉怡臻:慶應SFC中高部)、「谷川雁の〈工作者〉における力学とフリージャズ」(羅皓名:台湾中央研究院)の3つの報告と、それに対する蔭木達也氏(慶應義塾大学)、閔東曄氏(東北学院大学)、趙沼振氏(淑明女子大学)のコメントを経て、フロアからの質問と総合討議が行われた。 私の報告は1920年に自由連合の主張にたどり着いた大杉栄思想を、第一次世界大戦後の社会問題熱にともなう帝国問題に対する省察と捉えた。そのなかで、自由連合の構想を支えた「労働者の自己獲得」と「蓋然的ソリダリテ」の論理は、脱植民地化への共鳴としての主体の創出と、ポスト大逆事件の社会状況の両方への応答として検討された。この二つの論理は、経済決定の克服を試みた草の根の民衆的創造であり、脱植民地化の広がりを意識してその内面化を試みた越境する連帯のきっかけともいえようと結論付けた。 劉氏は、戦前から戦後まで文芸活動を続けた銀鈴会の朱実と錦連の詩作における啄木文学の受容について発表した。そのなかで、第二次世界大戦中の台湾における伝統的な詩の形式から距離を置いた啄木調の再生産と、戦時中の心理の屈折を意識して正直に記録するという啄木の短歌観への共鳴が示唆された。戦後の2・28事件及び白色テロによる弾圧を受けつつも、啄木文学を自らの抵抗と結びつけた面は、戦後の権威主義体制へのポストコロニアルな応答として捉えた。そして、銀鈴会の「民衆の中へ」のスタンスは、左翼文学史の文脈にとどまらず、台湾の郷土文学との継承関係を示したと論じられた。 羅氏は1960年代の平岡正明と相倉久人の「ジャズ革命論」を取り上げた。谷川の「工作者」の論理が媒介した60年安保の革命思想と前衛芸術、下層労働者のあいだに生まれた「反定型」と相互破壊的な関係性、辺境的マイノリティといった概念をジャズ演奏の歴史映像を通じて説明した。具体的には、異質な他者の間の破壊的な弁証と、自己消滅により継起するノートを呼び起こすという永久革命の企てを持つジャズの結合を論じた。その上で「ジャズ革命論」の意義に関しては、美学と政治の批判的実践のみならず、第三世界論と新左翼運動のパラダイム転換、マイノリティへの眼差しから解釈した。 3つの報告について、3名の討論者が各自の専門から出発し、東アジアの歴史を振り返りつつコメントし、パネル全体との接点を作って質問した。(1)蔭木氏からは、煩悶青年の文脈および自己と国家、社会の関係性から生まれた大杉の「社会的所有」の意味合いと「蓋然的ソリダリテ」の発想に及ぼす根拠、(2)閔氏からは、戦時期植民地知識人の抵抗と戦争擁護の絡み合いから啄木文学の受容の再検討と、戦中から戦後への啄木調の植民地的展開の再認識、(3)趙氏からは、ジャズの即興演奏を他者との出会いとして捉える理解とその妥当性、マイノリティや下層民衆の枠に収まらない社会的矛盾と植民地支配の位置づけ、といった質問があった。 参加者からは文脈の補足や議論のさらなる展開を求められたが、90分の時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。総合討議では抵抗の日常性と民衆性につながった「社会」と連帯の構想を接点に、帝国と植民地、支配と抵抗の間の思想的連続と緊張関係が、同時に思想と文学、芸術に反映されたと語られた。同時に、異質なるものが構造的支配に回収され、暴力の装置に右旋回してしまうおそれへの問題関心は、東アジアの歴史認識と政治的イデオロギーのあつれきに関係し、看過できない課題だと、パネリスト同士で共感した。時間内に収まらない議論は、昼食後の雑談まで続いたが、帰らないといけない時間になった。台湾と韓国、日本の各地から集まってきた私たちは、今回のパネルの成果を養分として蓄え、次回の企画に力を注いで行きたい。 当日の写真を下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/11/EACJS7Photo_Team-Chan-Ya-hsun.pdf <詹亜訓(せん・あくん)CHAN Ya-hsun> 台湾国立交通大学社会と文化研究科修士。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻修士、博士。現在日本学術振興会外国人特別研究員として早稲田大学政治学研究科に在籍している。専門は、東アジア政治・社会思想史。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 SGRA会員で昭和女子大学教授のボルジギン・フスレ先生から公開シンポジウムのご案内をいただきましたので紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。 ◆国際シンポジウム「匈奴とモンゴル帝国の都市と建築文化」 主催:昭和女子大学国際文化研究所 日時:2023年12月9日(土)13:00-18:10 場所:昭和女子大学3号館4階4S04 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://ja-ms.org/img/The_Cities_and_Architectural_Culture-20231209.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】寄贈本紹介 国際日本文化研究センターの戦暁海教授より編著書をご寄贈いただきましたので紹介いたします。 ◆瀧本弘之・戦暁梅編『近代中国美術の辺界:越境する作品、交錯する藝術家』 発行:勉誠社 ISBN:978-4-585-32515-4 刊行年月:2022年5月 判型・製本:A5判・並製372 頁 定価:3,850円 1911年の清朝崩壊からの約半世紀、中国大陸は中心のない空白時期で政治・経済・文化ともに無秩序の混乱が続いた。そうした中でも、美術家や団体は、海外や美術界の「外」との交流や接触により、新しい藝術思潮や動向に強い関心を寄せて美術活動を展開した。そこには多様で豊かな美術・文化が息づいていた。とりわけ辺境的な位置にあった日本との交流は、近代中国美術史の展開に多大な影響を与えている。 中国の画家は日本の美術界とどのように関わり、独自の作品世界を形成していったのか。 中国美術史の記述は日本からどのような影響を受けたのか。また、美術品はどこでどのように収蔵されてきたのか。美術作品をめぐる人的ネットワーク、海を越えて伝えられたコレクションの変遷にも着目し、多角的な視点から近代中国美術の実像に迫る。 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101292 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • YUN Jae-un “The Challenges of Victim Relief”

    ********************************************** SGRAかわらばん993号(2023年11月30日) 【1】エッセイ:尹在彦「被害者救済という難題」 【2】催事紹介:朝河貫一生誕150周年記念シンポジウム 「戦争に向かう世界:1930年代と朝河貫一」(12月23日、東京) 【3】催事紹介:第19回INAFセミナー(12月6日、オンライン) 「ウクライナ戦争と日本有事―抑止の罠―『敵基地攻撃能力』保有は時限爆弾」 ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#752 ◆尹在彦「被害者救済という難題」 国内外の紛争や環境問題、政策等により多くの被害者が発生することがある。ただし、その被害者に対する救済はなかなか容易ではない。救済が進んでいない状況では被害及び加害の当事者に加え、支援者や政府、政治(政党・政治家)が絡み合い「解決」をより困難にする。後から「被害者」を名乗る人々が新たに出てくることもよくある。そのため、「いつまで、そしてどこまで救済すべきか」というのは被害者救済の最重要課題になる。救済の手法に対しても論争は起こり得る。金銭的な補償と加害者もしくは政府の反省的態度は救済のカギになる。 場合によっては国内問題にとどまらず国際問題に発展することもあり、それこそが両国関係を規定し得る。日韓関係や日中関係、日朝関係にはその被害・加害の問題が深く根付いており、それ抜きには語れない。人々のアイデンティティーがその問題に結びついている場合はなおさらだ。 今年9月27日、注目すべき判決が大阪地裁で下された。水俣病被害を受けたと訴える原告128人が国や熊本県、加害企業チッソを相手に起こした訴訟で全面勝訴した。まだ一審判決で、被告側が控訴したため、最終的な結果は見通し難いが、少なくとも同判決で「水俣病の被害ってもう歴史の話じゃない?」と驚いた人も少なくないはずだ。 1956年、熊本県水俣市で同病が初めて公式確認されて以降、被害者やその支援者、チッソ、政府、政治は対立と妥協を何度も繰り返してきた。1970年を前後として公害問題が拡散する中で、水俣病被害者への金銭的補償(主にチッソによる)や環境庁(後に環境省の前身)を中心とした制度的枠組み(行政認定制度)は確立したが、被害を訴える数多くの人々は取り残されたままだった。水俣病被害者として公式認定される基準は複雑で、それを満たさない人々への救済策はなかった。そこで始まったのが日本全国各地の裁判闘争だったが、国の法的責任が最終的に認められたのはなんと2004年の最高裁判決だ。何十年もの時間を要したのだ。 1990年代に入り政治改革が叫ばれ、政府は初めて水俣病被害者との政治決着を試みる。村山政権期の「政治解決」がそれで、約1万人が新たに救済された。当時の村山富市首相は談話を発表する。水俣病を「公害の原点」に位置づけ「当事者の間で合意が成立し、その解決を見ること」ができたと評価した。「率直に反省しなければならない」とも述べた。ただし、法的責任は回避された。これが大阪で起こされた国家賠償請求訴訟が続く背景となり、2004年に国が全面敗訴する。このように水俣病被害者は比較的症状の重い「認定患者」と相対的に軽症の「政治的に救済された水俣病被害者」に分類される奇妙な「二重構造」が出来上ったのだ。 最高裁の確定判決は2000年代に入っても水俣病被害が決して「解決されていない」ことをあらわにした。1995年に救済されなかった約3000人の被害者は新たに訴訟を起こす。「第1次ノーモアミナマタ訴訟」だ。政府は確定判決にも関わらず新たな救済の枠組みは設けなかったため、また新しい裁判闘争が始まる。 被害者救済への議論が進み始めたのは政治の変化があってからのことだ。政権交代を目前にして与野党が2009年7月に「水俣病特措法」(「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」)に合意する。水俣病被害者を救済するための戦後初めての立法措置だった。「2012年7月」という期限が設定された点は救済措置が一時的であることを示していた。同法の前文にはこうある。「地域における紛争を終結させ、水俣病問題の最終解決を図り、環境を守り、安心して暮らしていける社会を実現すべく、この法律を制定する」。つまり、この法律の制定こそが「最終解決」になるとの思惑が反映されていた。約5万人もの被害者が特措法により新たに救済される。2010年5月、鳩山由紀夫首相は政府の代表として戦後初めて水俣市の慰霊式に出席し「被害拡大を防止できなかった責任を認め、衷心よりおわびする」と謝罪した。 ところが、特措法による救済措置の終了後、またもや新しい訴訟が提起された。それが冒頭で紹介した裁判、「第2次ノーモアミナマタ訴訟」だ。「終わった」とされた水俣病問題が裁判での勝訴判決から再度注目されている。半世紀以上にわたる水俣病とその被害者の歴史は、救済や問題解決がどれほど困難かを物語る。金銭的補償や政府代表の謝罪・反省が行われたにも関わらず、被害者救済に関する議論は70年を経た現在も続いている。少なくとも問題の解決策(=救済策)を一時的な措置に留まらせないことが大事だ。 <尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jae-un> 立教大学平和・コミュニティ研究機構特別任用研究員、東洋大学非常勤講師。2020年度渥美奨学生。新聞記者(韓国)を経て、2021年一橋大学法学研究科で博士号(法学)を取得。国際関係論及びメディア・ジャーナリズム研究を専門とし、最近は韓国のファクトチェック報道(NEWSTOF)にも携わっている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 SGRA会員で立教大学教授の佐藤雄基先生から公開シンポジウムのお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。 ◆公開講演会「戦争に向かう世界:1930年代と朝河貫一」 日時:2023年12月23日(土)13:00~16:40 会場:立教大学池袋キャンパス14号館2階 D201教室 https://www.rikkyo.ac.jp/access/ikebukuro/ ★事前申し込み必要|参加費無料 https://forms.gle/AVhdBuXbtW17nGwM7 本シンポジウムは、朝河貫一生誕150周年記念シンポジウムとして、日米開戦へと向かう1930年代アメリカにおける歴史学者朝河貫一(1873-1948)を中心にして、戦争に向かう時代の潮流に個人がどのように立ち向かうことができるのかを考える場としたい。朝河は国際関係や互いの国民性の理解を深めるために「歴史」を重視していたが、まさに現在、国際情勢が大きく変容し、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとガザ地区の戦闘と、戦争という危機が現実のものとなる中、戦争を回避して平和を目指した過去の人びとの経験に私たちは学ぶ必要がある。朝河の人生が現在の私たちに何を伝えてくれるのか、そしてどのように未来に伝えていくのか、このシンポジウムで考えていきたい。 13:00 開会 司会:佐藤雄基 13:05~1310 開会挨拶:福田康夫氏 1310~14:00 基調講演「朝河貫一と日系アメリカ人―C.ヤナガとの関係を中心に」:ダニエル・ボツマン氏 休憩 14:10~14:35 報告1「1930年代のキリスト教ネットワークと日米関係」:陶波氏 14:35~15:00 報告2「1930年代のアメリカ美術と朝河貫一」:増井由紀美氏 15:00~15:25 報告3「日米関係から見た朝河貫一」:三牧聖子氏 休憩 15:35~16:35 ラウンドテーブル「戦争に向かう日米関係と朝河貫一」:五百籏頭眞氏、ダニエル・ボツマン氏、三牧聖子氏、増井由紀美氏、陶波氏、山内晴子氏 16:35~16:40 閉会の辞 プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.rikkyo.ac.jp/events/2023/12/mknpps000002d4no.html ★問合せ先:[email protected] 又は [email protected] -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】催事紹介 SGRA会員で(一社)東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんより研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。 ◆第19回INAFセミナー「ウクライナ戦争と日本有事―抑止の罠―『敵基地攻撃能力』保有は時限爆弾」 日時:2023年12月6日(水)15:00 00~17:00 (オンライン) 講師:河信基(ハ_シンギ)・INAF顧問・作家・評論家 司会:李鋼哲・INAF所長 米一国支配から米中二国支配か、多極化か!? 決定的勝利が望めない〝特異な戦争〟ウクライナ戦争をめぐる国際政治の動向、特にプーチン、バイデン、習近平、ゼレンスキー、そして岸田首相の動きを軸に時系列的に詳述することで見えてくる戦争の行方とそれに伴って流動化する国際政治と国際秩序の今後を展望。断絶する日露、緊迫化する日中関係のなかで日本の選択は? 参加申込:INAFメンバー以外の方は、1日前までに参加申し込み(名前、所属、連絡先メルアド)を下記へ送ってください。なお、参加された方はINAFフレンドとしてMLに登録し、今後の研究会の情報発信をさせていただきます。情報発信不要の方はその旨をお伝えください。 Email: [email protected] 詳細は下記をご覧ください。 https://inaf.or.jp/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • JO Byeongwook “Excitement Might Be Important”

    ********************************************** SGRAかわらばん992号(2023年11月23日) 【1】エッセイ:趙炳郁「ワクワクは大事かも」 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(最終案内) 「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#751 ◆趙炳郁「ワクワクは大事かも」 この春、博士課程の卒業で大学と大学院の9年間の学生生活が終わり、教員としての生活が始まった。留学生活を終えてそれほど時間がたっていないが、教員として感じたことを書いてみようと思う。 子供の頃、ロボットが登場する漫画を見ると男の子はワクワクする感情に包まれ、部屋で大騒ぎするものだ。私も同じで10歳の頃に「ガンダム」という漫画を初めて見て、似たような感情を持った。10年くらいたって高校生になった時も精神的に成長できておらず、ロボットを見るとワクワクしたが、子供の頃とは少し違って、勉強を頑張って良い大学に行けば、いつかあんなロボットを作れるだろうという期待感でそのような気持ちになったと思う。 1年間浪人して、2012年にやっと希望する大学の希望する学科に入学することになったが、実際に大学に行ってみると考えていた学問と適性が少し違っていたようで、実習や実験の時間は、もっと知りたいという思いより、面倒くさいと思うことの方が多かった。学部時代は新しいことをすることに対して、ワクワクすることより義務感でやることが多く、大学院への進学は決まったものの将来への確信がなかったので、まず軍隊に行ってくることにした。 軍隊は大学よりもさらに退屈な義務感しかない生活だった。毎年決まった行事があり、マニュアルがあり、新しいことをするよりも現状を維持することが重要な集団なので、私のように思い通りに動きたい人には満足できない場所だったが、学ぶことは多かった。 無事に兵役を終え、2018年から大学院生活を始めた。不思議なことに学部4年生の時にも研究したことがあるのに、今回は自分が主体的に研究をすることになったからか、高校や子供の頃に感じたワクワクする感情を8年ぶりに感じた。私の研究分野は細胞に関するもので、予測される結果が分かりにくいからかもしれないが、結果的に興味を持つようになり、そのまま博士課程に進学した。博士課程では思ったより楽しく研究を行うことができた。もちろん帰宅はいつも深夜で、審査を準備する最後の半年は言葉で表現できないほど大変だったが、いつも私の意見を尊重して指導してくれた指導教員のおかげで無事に卒業することができた。 今は同じ研究室で助教として学生の研究指導をしており、学生の頃とは比べ物にならないほど義務と責任が増え、ワクワクする機会が少なくなった。しかし、皮肉なことに研究室のボスは「研究は常にワクワクする気持ちでやるものだ」という持論をお持ちで、今はどうやって人をワクワクさせるかを常に考えながら日々を過ごしている。最近、初めてオムニバス式の大学院の授業を行う機会を得た。理論の説明1時間と簡単な実験30分程度の授業だったが、やはり過去の学者が見つけた真理を面白く伝えるのは難しい。それでも実験では「これワクワクするね!」と言ってくれた学生がいて、少し嬉しくなった。これが最近のワクワクのポイントであり、しばらくは現状を楽しみたい。 <趙炳郁(ジョウ・ビョンウク)JO_Byeongwook> 2022年度渥美奨学生。2023年3月東京大学大学院情報理工学系研究科にて博士号取得。博士(情報理工学)。2023年4月より東京大学大学院情報理工学系研究科助教。専門は機械工学、組織工学、バイオエンジニアリング、マイクロ流体工学。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(最終案内) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】趙京華(清華東亜文化講座/北京第二外国語学院) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • CHIANG Yung-Po “The 10th Nittai Asia Future Forum ’Sake and Shaoxing Wine’ Report”

    ********************************************** SGRAかわらばん991号(2023年11月16日) 【1】江永博「第10回日台アジア未来フォーラム報告」 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド) ********************************************** 【1】江永博「第10回日台アジア未来フォーラム『日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒』報告」 2011年から始まった日台アジア未来フォーラム(JTAFF)は19年5月に国立台湾大学で実施された第9回までは連続して開催され、本来であれば20年5月に初めて日本で第10回が行なわれる予定であった。しかしながら、周知の通り日本では同年1月に最初の新型コロナウイルス感染者が確認され、イベントの中止・延期・自粛をはじめ、組織・機関も時短・利用制限による一時的閉館や立入禁止を余儀なくされた。その後は在宅勤務・オンライン授業・会議などの形式が活用されていった。オンラインの利便性・安全性のメリットにより現在でもハイブリッド方式が活用されているが、対面でなければ共有・体験できない場合がある。4年半ぶりに開催された本フォーラムは、その代表的な一例である。 前置きが長くなったが23年10月21日(土)に島根県のJR松江駅前施設「松江テルサ」で開催されたフォーラムがなぜ対面でないと真価を問うことが難しいかというと、『日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒』というテーマに尽きる。日本最古の歴史書『古事記』にも登場し日本酒発祥の地とされる島根県で、醸造酒をテーマに日台の関係者が相互理解を深めるために対面で開催することに大きな意味があった。 フォーラムは渥美財団今西常務理事の開会挨拶でスタートした。 最初は島根大学法文学部の要木純一先生の講演「近代山陰の酒と漢詩」。詩仙と称される李白の代表作の一つ「月下独酌」の冒頭「花間一壺酒 獨酌無相親 舉杯邀明月 對影成三人(後略)」(花間[かかん]一壺[いっこ]の酒、独り酌[く]んで相親しむもの無し、杯[さかずき]を挙[あ]げて名月を迎え、影に対して三人と成る(後略))からもうかがえるように、酒と作詩のような「知的創造」との付き合いは長い歴史を持つ。要木先生は明治36年(1903年)から戦後まで松江に存在していた「剪松吟社」の活動を通して、近代山陰地方に於ける事例を紹介した。明治30年代に入ると漢詩・漢学的教養はすでに衰退の兆しがあったため、剪松吟社は最初から漢詩・漢学的教養の振興を目標として、機関誌『剪松詩文』の発刊や詩人大会の開催を行い、一時的には全国的な漢詩復興運動の一拠点と見なされるほど、活発な活動を進めていた。 昭和に入ると高齢な指導者を相次いで失い、詩人の力量低下と相俟って活動は衰退に向かい、戦後自然消滅したが、今回取り上げたのは昭和5年(1930年)10月の『剪松詩文』に収録された「若槻克堂公歓迎雅集」。若槻克堂とは日本首席全権として同年のロンドン軍縮会議に参加した若槻礼次郎のことである。国内では一部反対の声もあったが、軍縮会議は難航の末合意されたため、松江に帰った若槻に対して剪松吟社は「錦衣帰郷」の歓迎雅集を行なった。そこでは柏梁体連句が詠まれ、その中に「詩酒応忘利名栄」「共仰高風挙杯迎」「一醉似忘衣錦栄」「誰是詩弟誰酒兄」「平和会裏闘酒兵」「対月豪飲気如鯨」のような句が見られ、酒と漢詩・歓迎雅会との相乗効果が句の内容から見て取れる。最後は若槻により軍縮会議後の心境をうかがわせる「詩中天地自和平」で締められたが、午後7時から始まった歓迎雅集は三更(午後11時~午前1時の間)まで盛り上がったという。 次の島根県産業技術センターの土佐典照先生の講演「島根県の日本酒について」は、「神様はお酒が好き」という島根と神話から展開された。島根県にある酒蔵30社および二つの酒造り職人集団を紹介した上で、日本酒の造り方についての詳細な説明があった。製造技術の基礎知識として環境と気象(気温・降水量)、水(硬度)、米(品種)とその処理(精米)、麹(生育・製造工程・品質)、酒母と酵母(製造操作)、仕込みと管理と搾りについて詳しく説明。普段何も考えずただ美味しくいただく日本酒の生産過程で、今まで「伝統」として引き継がれてきた酒造技術が更に科学的な技術を通して検証・進化されていくことに筆者は驚きを禁じ得なかった。 講演の後半では日本酒のラベルの見方、吟醸・大吟醸など特定名称の清酒の分類、甘辛度と濃淡度など「実用的」な知識のほか、島根の酒の味と食生活に於ける地域の特性に焦点が当てられた。日本列島沿いに北上する対馬暖流の恩恵もあって島根県で採れる日本海の漁業資源は豊富であり、その魚を活かした島根料理の代表として「へかやき」が取り上げられた。この甘辛い醤油で味付けられた魚のすき焼きに合うように、島根の酒も旨味重視の傾向が見られる。最後は魚料理に留まらず、今後は果実を使った和風料理にも合う香り高い吟醸酒に注目し、酒の新たな魅力の発見に力を注ぐという。 休憩時間には島根県の日本酒(きもと原酒)と台湾紹興酒・中国紹興酒・酒肴が供され、前半の講演を思い出しながら試飲・試食を楽しみ盛り上がった。 台湾煙酒株式会社埔里酒廠の江銘峻先生による最後の講演「台湾紹興酒のお話」は、台湾紹興酒の歴史から始まった。紹興酒は世界三大古酒の一つであり、中国大陸を起源とするが、いつ台湾に渡ったかについては定かではない。ただし、台湾総督府専売局時代にはすでに生産記録があった。戦後、1949年に蒋介石の指示により埔里で紹興酒の試醸造が始まり、50年代に入ると市場化に成功して世界30余国に輸出された。80年代には年間の最大生産量が230万ダースに達した。90年代以後は、国民の飲酒嗜好の変化により徐々に市場を失い、95年頃には紹興酒を使ったおこわ、煮物などの特色食品・料理が開発された。現在、製品の高度化に成功した「状元紅」・「女児紅」・20年以上の「陳年紹興酒」以外、台湾における紹興酒の主な用途は料理になった。 台湾紹興酒の歴史を把握した上で、「紹興酒の伝統的な醸造法」と「台湾紹興酒の作成工程」が紹介された。同じ紹興酒にも関わらず、伝統的な醸造法に対して、台湾紹興酒はどのように独自の進化を遂げたかが浮き彫りになった。さらに同じ醸造酒の日本酒と比較し、最後は「夏は常温か冷蔵」「冬は38~42度ぐらいまで間接加熱したら、より香り高い」「味変(あじへん)には台湾梅干し・生姜・レモン、カクテルにはソーダ・コーラ・ジュース」など紹興酒のお勧めの飲み方や、「適量の飲用では血液循環と新陳代謝を促進し、体力を増強し、耐寒性を増す」と言った紹興酒の栄養価など「実用的」な情報を教えてくださった。 質疑応答では、「中国紹興酒・台湾紹興酒・日本酒における仕込みの段数の差」「紹興酒の伝統的な醸造過程でヤナギタデの粉を入れる理由は何か」などの質問があった。筆者にとって一番興味深かったのは、台湾紹興酒の市場占有率であった。台湾では2002年1月まで煙草・酒の生産・流通・販売は煙酒専売局に独占されていたが、専売制度が廃止されてから、台湾煙酒専売局は「台湾煙酒株式会社」に変わり、煙草・酒の生産・流通・販売も国営の専売事業ではなくなったにも関わらず、生産・流通・販売する紹興酒は、台湾市場全体の99%を占めている。換言すれば前述した「台湾では現在製品の高度化に成功したが、主な用途は料理に取って代わられた」紹興酒の現在の位置付けも、これからの方向性もこの会社の方針に左右される。これに対して、冒頭で紹介したように日本酒を醸造している蔵は島根県だけでも30社に及ぶ。環境・気象・水・米と製造過程などの差によって「薫・爽・醇・熟」など多様な風味が味わえる日本酒は、「ボディが醇厚」で基本的に「アミノ酸味がメイン」の紹興酒とは異なる道を歩んできた。どちらが正しいか断言できないが、今回のフォーラムを通して得られた経験は今後互いにいかなる道を歩むかを検討する際に参考になるだろう。 質疑応答後、隣の会議室で懇親会が行われ、今回のフォーラムのテーマでもある島根の日本酒と台湾紹興酒のほか、講演の中で言及された島根の魚も大きな舟盛で提供された。参加者一同おいしい料理をいただきながら7種類の日本酒と6種類の紹興酒を飲み比べ、対面でなければ共有・体験できない貴重な経験を積むことができた。約4年半ぶりに開催された日台アジア未来フォーラムは、日本各地および台湾からの参加者が50名ほど集まった。台湾での開催と比べ規模は多少小さくなったが、筆者にとって会得できたものは決して少なくなかった。日本酒発祥の地とされている島根県で『日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒』に参加できたことは、まさに「百聞は一見に如かず」「万巻の書を読み 千里の道を行く」の体現だと信じている。今後は基本的に今まで通り台湾で行われるであろうが、時には今回のように地域の特性を活かしたテーマと内容を選定・計画すれば予想外の収穫が得られるかもしれない。 当日の写真は下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2023/18955/ <江永博(こう・えいはく)CHIANG_Yung-Po> 2018年度渥美奨学生。台湾出身。東呉大学歴史学科・日本語学科卒業。2011年早稲田大学文学研究科日本史学コースにて修士号取得。2020年10月から常勤嘱託として早稲田大学大学史資料センターに所属、『早稲田大学百五十年史』第一巻の編纂に携わった。2023年4月より助手として早稲田大学歴史館に所属、現在『早稲田大学百五十年史』第二巻の編纂業務に従事しながら、「台湾総督府の文化政策と植民地台湾における歴史文化」を題目に博士論文の完成を目指す。専門は日本近現代史、植民地期台湾史、大学沿革史編纂。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Hourieh AKIBARI “The 19th SGRA Cafe ‘Transcending Borders Long Distance Care’ Report”

    **************************************************** SGRAかわらばん990号(2023年11月9日) 【1】アキバリ・フーリエ「第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」報告」 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド) **************************************************** 【1】アキバリ・フーリエ「第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」報告」 2023年10月14日(土)、「国境を超える『遠距離ケア』」をテーマに第19回SGRAカフェが開催されました。午後2時から約2時間にわたり、討論者による議論と参加者全員によるグループディスカッションが行われました。実際に財団に足を運んでくださった参加者とオンライン参加を合わせて約50名で開催され、非常に有意義な時間となりました。 5名の討論者は国籍や研究の専門分野が異なることもあり、さまざまな視点から課題について議論できました。司会と討論者であった私(アキバリ・フーリエ)以外に、長年にわたり日本の介護に関する研究を行っている張悦さん、そして2017年度の元渥美奨学生で、良き友人であり研究仲間でもある沈雨香さん(早稲田大学)、ファスベンダー・イザベルさん(関西外国語大学)、レティツィア・グアリーニさん(法政大学)が参加し、意見を交換しました。 私たちが生きている21世紀はグローバル化が進み、年齢や国籍を問わず世界中でキャリアを築く人々が増加しています。母国から離れて異なる地域で生活基盤を築くことで多くの成功を収める一方、通常直面することのない課題も出てきます。その中の一つが、母国に残る家族へのケアの問題です。 今回は、母国に残る家族への「ケア」を出発点として、育児や異国での自己ケアについてもディスカッションしました。ケア・コレクティブは『ケア宣言 相互依存の政治へ』(岡野八代・冨岡薫・武田宏子訳/解説、大月書店、2021年)の中でケアを「やりがいのあることと同時に、極度の疲労を伴う現実」と述べています。ケアには関心、不安、悲しみ、嘆き、困惑といったさまざまな感情が絡み合っており、現代社会において非常に重要なテーマであると同時に、忙しい現代社会ではどこかで見落とされがちな課題でもあると思います。 したがって本カフェでは「本日の議題」として3つの質問を討論者に投げかけました。そして、「国境を越えて日本で生活しながら、ケアについて感じてきた思いと経験」について議論し、今後の「日本における国境を超える遠距離ケアの実態と背後にある要因」を考えました。 まず、「ケア」とは何かについて議論が交わされました。討論者たちの発言から「家族へのケアと自己ケア」にはネガティブな側面がある一方で、いくつかの工夫をすればポジティブに変えることができるのではないかという意見が出されました。 張さんの考えは「個人の力だけでなく、皆さんと協力することによってより強力になる」です。例えば、日本では「包括ケアシステム」という言葉があります。多くの異なる健康関連サービスや専門家が連携し、総合的かつ包括的なケアを提供するアプローチを指しており、横断的な連携を強調しています。この視点から、在日外国人の遠距離ケアの問題を解決する一つの方法として、在日外国人自身も「多文化コミュニティの中での協力」を積極的に促進することを提案しました。 一方、イザベルさんは来日してから「ケア」という言葉が自分の中で徐々にネガティブな意味合いを帯びてきたと語り、その背後にはドイツの介護システムの充実があることを指摘しました。ドイツでは社会福祉システムや社会保険などが充実したサービスを提供しており、親の介護は子供の責任という考え方はあまり一般的ではないので、「ドイツの親のことよりも、日本でのケア(自分と夫の老後、日本の親のケアなど)の問題が非常に気になります」という言葉には在日外国人が直面する葛藤が見られました。 また、レティツィアさんもケアは単なる育児や介護といった活動だけでなく、そして「(核)家族」という個人の私的な領域に限らず、より多面的に考えるべきだと述べました。つまり、個人が家族の個人的な問題を解決するだけでなく、コミュニティによるケアや政策的なアプローチを含め、様々なレベルでケアの問題を考慮しながら解決策を模索する必要があるのではないか、と問いかけました。 沈さんと私は、韓国とイランには以前の風習が残っており、両親の介護は家族にとって重い負担であり、親を介護施設のような老人ホームに預けることは社会的にはまだタブーとされていることを実体験を通じて語りました。イランでは近年、少子化の問題や若者の海外移住(年間約6万5000人)が懸念されており、昔のように子供が親の面倒を見たり、両親に孫の世話をしてもらったりするということが期待できない状況にあり、家族の構造が変わりつつある時期に入っていると紹介しました。 その後、参加者全員が会場2つとオンライン3つの計5つのグループに分かれて本日のテーマについてディスカッションをしました。 グループワークに参加した方々の中には、もうじき自身が介護されるかもしれない立場になるという方もいらっしゃったため、「両親の視点」からも意見を聞くことができました。このテーマについて二つの世代が共に考えて語り合う場ができ、非常に興味深かったです。彼らは「健康の維持」と「独立して暮らせる環境の整備」を希望していました。また、あるグループの意見では「安心できるケア」というキーワードも挙がりました。どうしても日本に住む外国人という立場では、コミュニティの一員として認められたり、ケアを提供したり受け入れたりする一員として認識されたりすることが難しいことが多いため、実際に「安心できる」ケアが得られる可能性はかなり限られているかもしれません。 最後に、ケアという言葉が本来持つべき温かくポジティブな意味合いを実現するためには、一人だけの力ではなく、さまざまな知恵と協力が必要であることを学びました。そこには、一つの正解があるわけではありません。 「遠距離ケア」については、年明けに張さんと両親のケアについて話していた際、このテーマでより多くの人と語り合いたいと思ったことが発端となって、このような場を設けることができました。今後も「遠距離ケア」に関する議論を続け、一緒に語り合えるメンバーを増やしていきたいと思います。また今回、私の実母もたまたま来日していたため、イベントに参加してもらいました。両親とはなかなか面と向かって語り合う機会が得られないことから、このような場で話し合えたことは私にとっては深い意味があり、忘れられない思い出となりました。 当日の写真 https://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2023/18899/ <アキバリ・フーリエ AKIBARI,_Hourieh> イラン出身。千葉大学博士後期課程終了(2018年博士号取得)。千葉大学特別研究員、白百合女子大学国語国文学科非常勤講師。2017年度渥美奨学生。日本に在住している外国人、主にイラン人やアフガニスタン人難民の言語環境や言語問題の実態について社会学・言語学の立場から研究。多文化共生社会・異文化理解とコミュニケーションについて研究・教育活動。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • TAKEUCHI Kyoko “Continuing to be a ‘Researcher'”

    ********************************************** SGRAかわらばん989号(2023年11月3日) 【1】エッセイ:武内今日子「『研究者』を続けること」 【2】寄贈書紹介:小野亮介、海野典子編『近代日本と中東・イスラーム圏』 【3】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#750 ◆武内今日子「『研究者』を続けること」 先日、母校の高校で大学の研究生活について講演する機会があった。学生たちは私の話に対して「研究者をやってきて良かったことはあるのですか?」と尋ねた。学生たちが研究者にマイナスのイメージを持っているということではない。私があまりにも過労、ハラスメント、経済的な課題など、研究職に関した多岐にわたるネガティブな側面に焦点を当てすぎてしまったということである。 考えてみれば、私は何かになりたいと思ったことがほとんどなく、研究者になりたいとも研究職に就きたいとも思ってこなかった。私の研究関心はジェンダー・マイノリティ-の経験に関するものなので、日常における性をめぐる規範と深く関わり合っており、研究と生活を切り離すことが難しい。そしてジェンダーやセクシュアリティを巡る社会の状況に許せないことがとても多いので、どれほど日本の研究者の環境が良くなくても、やむにやまれず研究しなければならない、という気持ちが強くあった。 研究以外の仕事があまりにも多いと言われる日本を脱出して英語圏の大学に行ったり、国外の大学に就職したりする知人もたくさんいる。国際的な場に研究を展開していくこと自体は重要だし、私も日本で生活しながらも英語を日々勉強し、国際学会やシンポジウムなど可能な限り国際的な交流や発表の場面に関わるようにしてきた。他方で、多少の違和感も覚えてきた。一つには英語至上主義がある。翻訳ソフトが発達してきている現在においても、非英語圏を対象とする調査研究をしている人でさえ、英語圏の情報や研究だけに依拠して議論を進めることがある。 もう一つには、コミュニティーへの貢献がある。調査研究をしているからかもしれないが、調査を終えて成果を発表すると日本から離れ、協力者との関係も途絶えてしまうというふるまいは問題含みだと感じる。少なくとも大学や研究機関だけでなく、日本にいる対象者が理解できるかたちで成果を報告する必要があるだろう。また個人的には研究環境が良くないからこそ、自分が大学の環境を変えていったり、非常勤などを含む授業で研究成果を学生に伝えたりできたら良いと思うし、将来的には性的マイノリティーのことを研究する人たち、国外からの多様なバックグラウンドを持つ人たちが所属しやすい研究室の候補を増やすことに貢献したい。 そう考えると、あまり明確に意識できるほど強いものではないが、研究者をやって良かったと思える未来を遠くに見据えていると言えるかもしれない。その道中ではしんどくなることも多かった気がするが、知らなかったことに気付いたり既存の知識を更新したりする楽しさやもどかしさ、授業で得られる手ごたえ、研究で得られる新たな可能性と出会い、それを日々の燃料とする側面もある。いずれにせよ、研究者であることを今のところ続けてみるという選択肢を可能にしてくれた渥美国際交流財団に感謝したいし、これからもラクーン(渥美奨学生)たちとの交流を続けて縁を活かすことができれば良いと思う。 <武内今日子(たけうちきょうこ)TAKEUCHI_Kyoko> 2022年度渥美奨学生。2023年東京大学大学院人文社会系研究科博士号(社会学)取得。現在、東京大学大学院情報学環特任助教。社会学・ジェンダー論の視座から、トランスジェンダー/ノンバイナリー史を研究。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員で日本学術振興会外国人特別研究員/国立民族学博物館外来研究員のモハッラミプール ザヘラさんから共著書をご寄贈いただきましたので紹介します。 ◆小野亮介、海野典子編『近代日本と中東・イスラーム圏:ヒト・モノ・情報の交錯から見る』 MEIS-NIHU_Series,_no.6 Studia_culturae_Islamicae, no.116 本論文集は単に日本と中東・イスラーム圏の相互交流にとどまらず、日本人による一面的あるいは不正確なイスラーム理解や日本人とムスリムの間の交渉に見られるすれ違いにも焦点を当てている。…これまで見落とされてきたこの分野の諸問題に、我々は新たな史料的可能性とともに取り組まねばならない。それはイスラーム/ムスリムとその諸要素を単に日本の枠組みの中で理解するだけでなく、中東・イスラーム圏、さらにより広範な、世界規模での文脈に結び付けて同時代の日本の歴史や文化、宗教のあり方などを理解することにつながる。(編者による序章より) 発行者:人間文化研究機構地域研究推進事業「現代中東地域研究」 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所拠点 発行日:2022年3月 ISBN:ISBN 978-4-86337-374-7 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Invitation to the 17th SGRA China Forum “The Birth of Modern in Southeast Asia”

    ********************************************** SGRAかわらばん988号(2023年10月27日) ********************************************** ◆第17回SGRAチャイナフォーラム「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」へのお誘い 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************