SGRAメールマガジン バックナンバー

  • [SGRA_Kawaraban] The Second Asia Future Conference Report

    ********************************************* SGRAかわらばん533号(2014年9月3日) ********************************************* ■ 第2回アジア未来会議「多様性と調和」報告 2014年8月22日(金)〜8月24日(日)、インドネシアのバリ島にて、第2回アジア未 来会議が、17か国から380名の登録参加者を得て開催されました。総合テーマは「多 様性と調和」。このテーマのもと、自然科学、社会科学、人文科学各分野のフォーラ ムが開催され、また、多くの研究論文の発表が行われ、国際的かつ学際的な議論が繰 り広げられました。 アジア未来会議は、日本留学経験者や日本に関心のある若手・中堅の研究者が一堂に 集まり、アジアの未来について語り合う場を提供することを目的としています。 8月22日(金)、バリ島サヌールのイナ・グランド・バリ・ビーチホテルの大会議場 の前室には、午後のフォーラムで講演する戸津正勝先生(国士舘大学名誉教授)のコ レクションから70点のバティック(インドネシアの伝統的なろうけつ染)、島田文雄 先生(東京藝術大学)他による20点の染付陶器、そしてバロン(バリ島獅子舞の獅 子)が展示され、会場が彩られました。 午前10時、開会式は4人の女性ダンサーによる華やかなバリの歓迎の踊りで始まり、 明石康大会会長の開会宣言の後、バリ州副知事から歓迎の挨拶、鹿取克章在インドネ シア日本大使から祝辞をいただきました。 引き続き、午前11時から、シンガポールのビラハリ・コーシカン無任所大使(元シン ガポール外務次官)による「多様性と調和:グローバル構造変革期のASEANと東アジ ア」という基調講演がありました。「世界は大きな転換期を経験している。近代の国 際システムは西欧によって形作られたが、この時代は終わろうとしている。誰にも未 来は分らないし、何が西欧が支配したシステムに取って代わるのか分からない。」と 始まった講演は、ほとんどがアジアの国からの参加者にとって大変示唆に富むもので した。 基調講演の後、奈良県宇陀郡曽爾村から招待した獅子舞の小演目が披露されました。 その後、参加者はビーチを見渡すテラスで昼食をとり、午後2時から、招待講師によ る3つのフォーラムが開催されました。 ○ 社会科学フォーラム「中国台頭時代の東アジアの新秩序」では、中国、日本、台 湾、韓国、フィリピン、ベトナム、タイ、インドネシアの研究者が、中国の台頭がそ れぞれの国にどのように影響を及ぼしているか発表し、活発な議論を呼び起こしまし た。 ○ 人文科学フォーラム「アジアを繋ぐアート」では、日本の獅子舞とバリ島のバロ ンダンス、日本と中国を中心とした東アジアの陶磁器の技術、そしてインドネシアの 服飾(バティック)を題材に、アジアに共通する基層文化とその現代的意義を考察し ました。 ○ 自然科学フォーラム「環境リモートセンシング」は、第2回リモートセンシング用 マイクロ衛星学会(SOMIRES 20)と同時開催で、アメリカ、インドネシア、マレーシ ア、台湾、韓国、日本からの研究者による報告が行われました。 フォーラムの講演一覧は下記リンクよりご覧いただけます。 www.aisf.or.jp/AFC/wp-content/uploads/2014/08/speeches.pdf 午後6時からビーチに続くホテルの庭で開催された歓迎パーティーでは、夕食の後、 今回の目玉イベントである日本の獅子舞とバリ島のバロンダンスの画期的な競演が実 現し、400名の参加者を魅了しました。 8月23日(土)、参加者は全員、ウダヤナ大学に移動し、41の分科会セッションに分 かれて178本の論文が発表されました。アジア未来会議は国際的かつ学際的なアプ ローチを目指しているので、各セッションは、発表者が投稿時に選んだサブテーマに 基づいて調整され、必ずしも専門分野の集まりではありません。学術学会とは違っ た、多角的かつ活発な議論が展開されました。 各セッションでは、2名の座長の推薦により優秀発表賞が選ばれました。優秀発表賞 の受賞者リストは下記リンクよりご覧いただけます。 www.aisf.or.jp/AFC/2014/files/2014/08/AFC2014Bali_BestPresentation.pdf また、11本のポスターが掲示され、AFC学術委員会により3本の優秀ポスター賞が決定 しました。優秀ポスター賞の受賞者リストは下記リンクよりご覧いただけます。 www.aisf.or.jp/AFC/2014/files/2014/08/AFC2014Bali_BestPoster.pdf さらに、アジア未来会議では投稿された各分野の学術論文の中から優秀論文を選考し て表彰します。優秀論文の審査・選考は会議開催に先立って行われ、2014年2月28日 までに投稿された71本のフルペーパーが、延べ42名の審査員によって審査されまし た。査読者は、(1)論文のテーマが会議のテーマ「多様性と調和」と合っているか、 (2)論旨に説得力があるか、(3) 従来の説の受け売りではなく、独自の新しいものが あるか、(4) 学際的かつ国際的なアプローチがあるか、という基準に基づき、9〜10 本の査読論文から2本を推薦しました。集計の結果、2人以上の審査員から推薦を受け た18本を優秀論文と決定しました。優秀論文リストは下記リンクからご覧いただけま す。 http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/files/2014/09/AFC2014Bali_BestPapers.pdf 41分科会セッションと並行して、3つの特別セッションが開催されました。 ○ 円卓会議「これからの日本研究:東アジア学術共同体の夢に向かって」は、東京 倶楽部の助成を受けて中国を中心に台湾や韓国の日本研究者を招待し、各国における 日本研究の現状を確認した後、これから日本研究をどのように進めるべきかを検討し ました。 ○ CFHRSセミナー「ダイナミックな東アジアの未来のための韓国の先導的役割」は、 韓国未来人力研究院が主催し、講義と学部生による研究発表が行われました。 ○ SGRAカフェ「フクシマとその後:人災からの教訓」では、SGRAスタディツアーの 参加者が撮影した写真展示及びドキュメンタリフィルムの上映と、談話セッションを 行いました。 午後5時半にセッションが終了すると、参加者は全員バスでレストラン「香港ガーデ ン」に移動し、フェアウェルパーティーが開催されました。今西淳子AFC実行委員長 の会議報告のあと、ケトゥ・スアスティカ ウダヤナ大学長による乾杯、2名の日本人 舞踏家によるジャワのダンス、優秀賞の授賞式が行われました。授賞式では、優秀論 文の著者18名が壇上に上がり、明石康大会委員長から賞状が授与されました。優秀発 表賞41名と、優秀ポスター賞3名には、渥美伊都子渥美財団理事長が賞状を授与しま した。最後に、北九州市立大学の漆原朗子副学長より、第3回アジア未来会議の発表 がありました。 8月24日(日)参加者は、それぞれ、世界文化遺産ジャティルイの棚田観光、ウブド での観光と買い物、ウルワツ寺院でのケチャックダンスとシーフードディナー、など を楽しみました。 第2 回アジア未来会議「多様性と調和」は、渥美国際交流財団(関口グローバル研究 会(SGRA))主催、ウダヤナ大学(Post Graduate Program)共催で、文部科学省、 在インドネシア日本大使館、東アジアASEAN経済研究センター(ERIA)の後援、韓国 未来人力研究院、世界平和研究所、JAFSA、Global Voices from Japanの協力、国際 交流基金アジアセンター、東芝国際交流財団、東京倶楽部からの助成、ガルーダ・イ ンドネシア航空、東京海上インドネシア、インドネシア三菱商事、Airmas Asri、 Hermitage、Taiyo Sinar、ISS、Securindo Packatama、大和証券、中外製薬、コク ヨ、伊藤園、鹿島建設からの協賛をいただきました。とりわけ、鹿島現地法人のみな さんからは全面的なサポートをいただき、華やかな会議にすることができました。 運営にあたっては、元渥美奨学生を中心に実行委員会、学術委員会が組織され、SGRA 運営委員も加わって、フォーラムの企画から、ホームページの維持管理、優秀賞の選 考、当日の受付まであらゆる業務をお手伝いいただきました。また、招待講師を含む 延べ82名の方に多様性に富んだセッションの座長をご快諾いただきました。 400名を超える参加者のみなさん、開催のためにご支援くださったみなさん、さまざ まな面でボランティアでご協力くださったみなさんのおかげで、第2回アジア未来会 議を成功裡に実施することができましたことを、心より感謝申し上げます。 アジア未来会議は2013年から始めた新しいプロジェクトで、10年間で5回の開催をめ ざしています。第3回アジア未来会議は、2016年9月29日から10月3日まで、北九州市 で開催します。 皆様のご支援、ご協力、そして何よりもご参加をお待ちしています。 <関連資料> 第2回アジア未来会議写真 www.aisf.or.jp/sgra/photos/index.php?spgmGal=The_2nd_Asia_Future_Conference 第2回アジア未来会議新聞記事(ジャカルタ新聞) www.aisf.or.jp/AFC/wp-content/uploads/2014/08/JakartaShinbun.pdf 第2回アジア未来会議和文報告書(写真付き) www.aisf.or.jp/AFC/wp-content/uploads/2014/08/houkoku.pdf Asia Future Conference #2 Report (in English) with photos(英文報告書) www.aisf.or.jp/AFC/wp-content/uploads/2014/08/Report.pdf 第3回アジア未来会議チラシ www.aisf.or.jp/AFC/wp-content/uploads/2014/08/AFC2016Kitakyushu_flyer.pdf (文責:SGRA代表 今西淳子) ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第3回SGRAふくしまスタディツアー<参加者募集中> 「飯舘村、あれから3年」(2014年10月17日〜19日) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/33.php 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Xie Zhihai “University Reform in Japan — Do it Now!”

    **************************************************** SGRAかわらばん531号(2014年8月27日) 【1】エッセイ:謝 志海「日本の大学改革、今でしょ!」 【2】インタビュー記事紹介(毎日新聞オピニオン):     今西淳子「平和国家の歩み、誇りに」 **************************************************** 【1】SGRAエッセイ#420 ■ 謝 志海「日本の大学改革、今でしょ!」 今年に入ってからずっと、理化学研究所の女性研究員の新細胞発表に関連するニュー スが世間を騒がせている。その女性が2011年に早稲田大学に提出した博士論文につい て、早稲田大学が設置した調査委員会は先日、博士号の取り消しには当たらないと結 論を出した。この結論の非常に興味深い所は「著作権侵害行為であり、かつ創作者誤 認惹起行為といえる箇所」が11カ所もあるとした上で、博士号を認めたことである。 これは早稲田大学の最終の結論ではないし、このエッセイではこれ以上女性研究員の ことを議論しないが、日本の大学の存在意義とは何だろう?日本の大学の目指すのは どこなのだろう?と考えずにはいられない。 現在、日本の大学が力を入れているのは、世界の大学ランキングのランクを上げるこ とと、グローバル人材を育成することであろう。この2つは実は同じゴールを目指し ている:大学がグローバル化すれば、大学のランクも上がると。このような大学の改 革を日本政府が一生懸命後押ししている。文部科学省は大学をグローバル人材の育成 機関にしようと「スーパーグローバル大学創設支援」を今年度からスタートし、すで に国公立私立大学から104校の応募があり、現在選考中である。こういった大学のグ ローバル化の波が押し寄せているからか、日本の雑誌はこぞって世界の大学ランキン グとその中での日本の大学の位置を特集する。去年あたりから、本屋に行けば毎月ど こかしらの雑誌が取り上げているのではないか。 世界の大学を格付けするランキングセンターはいくつかあり、評価する基準も微妙に 違うので、ランクインする大学、順位もまちまちだが、それでも共通するのは、トッ プテンは米国と英国の大学が独占している。アメリカのアイビーリーグ、英国のオッ クスフォードとケンブリッジ大学がほぼ常にトップ10にいて、だいぶ間が空いてアジ アのトップとして、東京大学、近年はそこにシンガポール国立大学、香港大学が追い 上げ、その少し後に韓国のトップスクールや中国の北京大学、日本の京都大学と有名 私立大学がひしめき合っているという様相だ。英語圏の大学は長年お決まりのよう に、トップにランクインし、アジア勢が毎年のランキングを意識し、必死で追い上げ ている。この構図は当分の間変わらないのではないかと、上述の早稲田大学の博士論 文についての調査結果で、考えさせられてしまう。 大学の評価の一つに、英語の論文数がある。大学の総合ランキングの主流とされる英 教育専門誌「THE (Times Higher Education) 世界大学ランキング」、英大学評価機 関の「QS世界大学ランキング」、上海交通大学の「世界大学学術ランキング(ARWU)」 などは判断基準に入れている。同様に論文の引用された数もカウントされている。と いうことは、論文の質も問われるのであろう(この見解には賛否両論あるとも言われ ている)。日本の大学はこの論文に対しての認識が少々甘いのではないだろうか?す でに他人が書いた本やジャーナルの文章の一部を自分の論文で自分の意見のように語 る事は許されない、それは盗用である。しかし自分の論文に他人の文章を載せて、誰 がどこで(本やジャーナル等のメディア)掲載していたかという出所をはっきり明示す れば、それを引用と言う。このような当たり前の事を日本の大学生はいつ学んでいる のだろう? 例えばアメリカの大学では、どんなに小さな論文の宿題でも盗用(plagiarism)は認め られない。それだけではない、書き方のフォーマットもきちんと決まっていて、引用 した場合は出典を必ず論文の最後に記載する、その明示の仕方(引用文の作者、本や 雑誌のタイトル、出版(掲載)された日付等の記載の順番)までもきちんとルールがあ る。大半の先生はこの論文のフォーマットが綺麗に仕上がっていないと、論文を読ん でもくれない。つまりグレードをつけてもらえないのだ。こういった細かいルール を、アメリカの学生は大学に入学して最初に履修する一般教養から厳しく指導され る。どのクラスを履修しても一度や二度は必ず、論文のフォーマットについてだけの 授業の日を設けてくれる。シラバス(授業計画書)にも、必ず「盗用」のセクションが あり、盗用を見つけた時点で単位は認めないなどの厳しい注意書きがある。なので、 生徒の方も論文を書くにあたっての一般的なルールだけでなく、先生が決めたルール にも敏感なのだ。博士論文で引用文の出所の明示を忘れましたというのが通用するわ けがない。というか、博士課程の頃には、論文のフォーマットに関してはプロになっ ていると言っても過言ではない。そもそも学部・大学院を問わず、宿題やテストは何 かにつけて書かせる課題が多いからだ。これがアメリカの大学は、入学は簡単だが卒 業するのは難しいと言われる所以かもしれない。 一方、日本の大学は、入学試験は難しいが卒業するのは簡単と言われている。論文の 書き方について明確なガイドラインが無いのであれば、気楽なものであろう。コピペ (コピー&ペースト)も罪悪感無くやってしまうのかもしれない。大学側がきちんと生 徒を指導しなければ、生徒に責任を問うことも出来ない。しかも独創性の無い論文が 手元に残ってしまったら、生徒にとっても学生時代の時間が無駄になる。特に博士論 文は一生ついて回るのだ。大学としても、いい論文の数が減ってしまう。すなわちラ ンキングに影響が出るのではないか? 日本の大学は今が改革の一番のチャンスかもしれないと、今回の早稲田大学の博士論 文をめぐる調査委員会は教えてくれる。今後始まる「スーパーグローバル大学創設支 援」を上手に利用すれば、英語圏や英語環境で経験を積んだ教授を招き、海外のスタ ンダードで授業を進めてもらうことが可能だ。世界の大学ランキングには「外国人教 員の比率」もある。そこでのポイントを単に外国人教員の数を増やして稼ぐだけでな く、真にグローバルな人材を育成出来る教授を雇うべきだ。そうすれば、質の高い論 文を出すことも出来るだろう。日本そしてアジアの大学が世界のトップ大学と肩を並 べて戦えるようになるには、ランキングの基準を意識してポイントを稼ぐだけではい けない。大学を卒業する頃には学生ひとりひとりが規律性を持ち、異文化を理解し て、多様性のある環境に溶け込める、そのような強い人材を育ててほしい。 -------------------------------------------- <謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai> 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログ ラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期 課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交 流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年 4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されてい る。 -------------------------------------------- 【2】インタビュー記事紹介 8月22日(金)の毎日新聞オピニオン「論点」に掲載された、今西淳子SGRA代表の記 事をご紹介します。 ■ 今西淳子「平和国家の歩み、誇りに」 渥美国際交流財団は鹿島建設の名誉会長だった父の遺志を継いだ家族が1994年に 設立し、知日派外国人研究者のネットワークの構築を目標に、日本の大学院で博士論 文を書いている外国人留学生を対象に奨学支援をしている。今では研究ネットワーク となり、元奨学生たちが中心となって東京、北京、ソウル、マニラ、台北でフォーラ ムやシンポジウムを開催している。20年間の留学生との交流を振り返ると、かつて 戦争した国同士でも、冷静に歴史を話し合うことはそれほど困難なことではない。一 方、アジアでは旧日本軍の記憶が家族で語り継がれていることも忘れてはならない。 それぞれの国にはそれぞれの歴史があり、どの国の教科書を見ても自国中心志向が強 い。であるからこそ、歴史認識を巡る議論では、(1)白黒をつけずに複雑な状況を そのまま受け止め、譲りあえるところを粘り強く探す(2)自国の名誉や責任を負う ことなく、一人の人間として相手の立場でも考え、複眼的に物事をとらえる(3)急 がなくてもよいが問題を避けない??の三つのポイントが重要だ。 続きは下記URLからご覧ください。 http://mainichi.jp/opinion/experts/ ⇒論点:戦後70年を前に/下 戦争責任に向き合う (無料購読の登録が必要です) 切り抜きは下記よりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/info/mainichi_opinion.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第2回アジア未来会議 だいせ 「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島) http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/ ★☆★無事終了。ご参加、ご協力、ご支援、ありがとうございました。 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Sim Choon Kiat “Amazing Japan Part 14: So

    ********************************************************** SGRAかわらばん530号(2014年8月20日) 【1】エッセイ:シム「だからやはり女子大はまだ必要?」 【2】第4回日台アジア未来フォーラム報告(その2) 「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流」 ********************************************************** 【1】SGRAエッセイ# 419 ■シム チュン・キャット「日本に「へえ〜」その14:だからやはり女子大はまだ必 要?」 女子大勤めの僕が言うのもなんですが、いま日本では女子大が人気です。高い就職率 に加え、きめの細かい指導を可能にする少人数制の授業展開が学生に付加価値を与 え、高度な人材育成につながると考えられているからなのでしょう。しかし目を海外 に転じてみると、ほとんどの国・地域では女子大は斜陽状態になっているか、もう (あるいは最初から)存在しないか、のどちらかです。例えば、女子大学連合 Woman’s College Coalitionのデータによれば、北米では60年代には約230校もあっ た女子大が2014年現在になると47校まで激減してしまい、かの有名なセブンシスター ズも2校の共学化に伴いファイブシスターズになってしまいました。イギリスでも現 存する女子大はケンブリッジ大学内の3校の女子カレッジのみとなり、巨大な中国で さえ女子大は伝統を受け継ぐ形で3校しかなく、教育の面で日本の影響を強く受けて きた台湾ですら最後まで生き残ったラスト女子大が2008年に男女共学の道を選びまし た。一方、日本ではいまでも大学総数の約1割を女子大が占めているのです。 僕の国シンガポールもそうですが、性別による発達の違いと特性に応じた男女別学が 小・中・高校段階においてこそ認められるものの、「男女平等」という大原則の下で 大学レベルでは男女共学が基本という国がほとんどです。日本以外に、女子大が未だ に健在ぶりを力強く見せている国と地域は、おそらく世界最大規模の女子大である梨 花女子大学校を有する韓国とイスラム圏の数ヶ国ぐらいだけでしょう。さてと、日 本、韓国とイスラム圏の国々の共通点といえば? 「早く結婚した方がいい」「自分が産んでから」「がんばれよ」「動揺しちゃった じゃねえか」などのヤジ(接頭語の「お」をつけて「オヤジ」と言ったほうがいいか もしれません)が、あろうことか6年後に世界最大のスポーツ祭典の開催都市の都議 会で飛ばされたことはまだ記憶に新しいですね。しかも、結局名乗り出た都議のホー ムページには「世界に誇れる国際都市東京を目指して」とあるそうですから、笑えた ものではありません、はい。かつても「女性が生殖能力を失っても生きているっての は無駄で罪です」「(ある集団レイプ事件について)元気があるからいい」「女性は 産む機械」「43歳で結婚してちゃんと子供は2人産みましたから、一応最低限の義務 は果たしたかもしれませんよ」など、政治家によるもっとひどい女性蔑視発言があっ たこの日本のことですから、どんな「オヤジ」でも今さら驚くことでもないかもしれ ません。何かの雑誌で読んだのですが、「美しい国」は逆さまに読むと「憎いし苦 痛」になりますからね。 それにしても、今回の「オヤジ」騒動で注目され、海外でもちょっとした有名人に なった都議の「若さ」には驚きました。日本の政界においてはまだ若いともいえる50 代前半のこのオヤジがあんな女性蔑視意識を持っていたとはびっくりです。やはり差 別意識は伝染し、世代から世代へと再生産されていくものです。まるで風呂場にこび りつくカビのように、何回苦労して落としても根っこが残り、直にまたどこかからポ ンと生えてきてしまうのですね。根本的な解決方法としては、まず風呂場の中の湿気 を取り除くしかありません。つまり、しつこいカビを二度と生やさないためには、ま ず環境改造を徹底的に行うことが必要不可欠なのです。 男女平等や女性の社会進出度に関するあらゆる国際比較ランキングでは、日本(そし て韓国も)が先進国とは思えないぐらい非常に低い順位にランクされ続けてきたこと は周知の通りです。それを改善するには、男性の意識だけでなく、女性の意識に対し ても改革を進めなければ何も変わっていきません。特に後者に関しては、男子のいな い環境で女子がリーダー役を担うしかなく、さらに共学大学よりロールモデルになる 女性学長・学部長・学科長・教授がはるかに多数いる、という女子大の存在がとりわ け重要だと思いませんか。女子大イコール良妻賢母を養成する大学というのは、もう 博物館級の古い認識です。イギリス初の女性首相マーガレット・サッチャー氏、イン ド初の女性首相インディラ・ガンディー氏、イスラム圏初の女性リーダーであるパキ スタン元首相ベナジル・ブット氏、2年後にはアメリカ初の女性大統領になるかもし れない(?)ヒラリー・クリトン氏、女性として世界で初めてエベレストと七大陸最 高峰を制覇した田部井淳子氏、そして本渥美国際交流財団の渥美伊都子理事長、が全 員女子大の卒業生であることは偶然ではあるまい。 もちろん、女性リーダーを育てるということは、何も女性が社会に出たときに男性の ようにバリバリ働くのではなく、「ゲームのルール」と土俵を変えることによって意 識改革、環境改造を進め、社会、ひいては世界をより良い方向に導いてほしいという 願いが込められているのです。このミッションが僕にあるからこそ、いま燃えるよう な大学教員生活を送っているわけです。その燃え方についての詳細は明日からバリ島 で行われる第2回アジア未来会議で発表するので、ご興味のある方はぜひ来場して僕 と意見・議論を交わしてください。さあ、いざ、バリ島へ! ------------------------------- <シム チュン キャット☆ Sim Choon Kiat☆ 沈 俊傑> シンガポール教育省・技術教育局の政策企画官などを経て、2008年東京大学教育学研 究科博士課程修了、博士号(教育学)を取得。昭和女子大学人間社会学部・現代教養 学科准教授。SGRA研究員。著作に、「リーディングス・日本の教育と社会−−第2 巻・学歴社会と受験競争」(本田由紀・平沢和司編)『高校教育における日本とシン ガポールのメリトクラシー』第18章(日本図書センター)2007年、「選抜度の低い学 校が果たす教育的・社会的機能と役割」(東洋館出版社)2009年。 -------------------------------- 【2】第4回日台アジア未来フォーラム報告(その2) ■ 梁 蘊嫻「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流—文学・思 想・言語—(その2)」 午後の研究発表は、「古典書籍としてのメディア」「メディアによる女性の表象」 「メディアと言語学習」「メディアとイメージの形成」「文学作品としてのメディ ア」「メディアによる文化の伝播」という6つのセッションで行われた。 フォーラムに先立ち、世界中の研究者や専門家を対象に論文を公募した。応募数は予 想より多く、大変な盛況であった。国籍から見ても、台湾、日本、韓国、スウェーデ ンなどがあって、まさにグローバルな会合であった。発表題目も古典研究から近現代 研究まで、そしてオーソドックスな研究から実験的な研究までさまざまである。紙幅 の都合上、すべての発表は紹介することができないが、いくつか例を挙げておこう。 (1)「日本古典籍のトランスナショナル—国立台湾大学図書館特蔵組の試み—」(亀 井森・鹿児島大学准教授)は、地道な書誌調査で、デジタルでの越境ではなく古典籍 のトランスナショナルという観点から文化の交流を考える。(2)「草双紙を通って 大衆化する異文化のエキゾチシズム」(康志賢・韓国全南大学校教授)は、草双紙を 通して、江戸時代の異文化交流の実態を究明する。(3)「なぜ傷ついた日本人は北 へ向かうのか?−メディアが形成した東北日本のイメージと東日本大震災−」(山本 陽史・山形大学教授)は、日本文化における東北地方のイメージの形成と変容を和 歌・俳諧・小説・流行歌・映画・演劇・テレビなどの文学・芸術作品を題材にしつ つ、東日本大震災を経験した現在、メディアが越境することによっていかに変化して いくのかを研究する。(4)「発信する崔承喜の「舞踊写真」、越境する日本帝国文 化—戦前における崔承喜の「舞踊写真」を手がかりに—」(李賢晙・小樽商科大学准 教授)は、崔承喜の舞踊写真が帝国文化を宣伝するものであると提示し、またこれら の写真の持つ意味合いを追究する。(5)「The Documentary film in Imperial Japan, before the 1937 China Incident」(ノルドストロム・ヨハン・早稲田大学 博士課程)は、日中戦争期、ドキュメンタリー映画がいかにプロパガンダの材料とし て使われていたかを論じる。(7)「Ex-formation Seoul Tokyoにおける日韓の都市 表現分析」(朴炫貞・映像作家)は、情報を伝えるinformationに対して、 Ex-formationという概念を提出したデザイン教育論である。ソウルの学生はソウル を、東京の学生は東京をエクスフォメーションすることで、見慣れている自分が住む 都市を改めてみることを試みた。(8)「溝口健二『雨月物語』と上田秋成『雨月物 語』の比較研究」(梁蘊嫻・元智大学助理教授)は、映画と文学のはざまを論じる。 (9)「漢字字形の知識と選択-台湾日本語学習者の場合—」(高田智和氏・日本国立 国語研究所准教授)及び「漢字メディアと日本語学習」(林立萍氏・台湾大学准教 授)は、東アジアに共通した漢字学習の問題を取り上げる。(10)「日本映画の台湾 輸出の実態と双方の交流活動について」(蔡宜靜・康寧大学准教授)は、日本と台湾 の交流に着目する。 発表題目は以上のとおり、実にバラエティに富んでいた。それだけでなく、コメン テーターもさまざまな分野の専門家、たとえば、日本語文学文化専攻、建築学、政治 思想学などの研究者が勢揃いした。各領域の専門家が活発に意見を交換し、実に学際 的な会議であった。今回、従来の日本語文学会研究分野の枠組みを破って、メディア という共通テーマによって各分野の研究を繋げることができたのは、画期的な成果で あるといえよう。 研究発表会の後、フォーラムの締めくくりとして座談会が行われた。今西淳子常務理 事が座長を務め、講演者の3名の先生方(延広真治先生、横山詔一先生、佐藤卓己先 生)と台湾大学の3名の先生方(陳明姿先生、徐興慶先生、辻本雅史先生)がパネリ ストとして出席した。 まず、今西理事が、フォーラムの全体について総括的なコメントをし、そして基調講 演について感想を述べた。延広先生の講演については、寅さんが大好きな韓国人奨学 生のエピソードを例に挙げながら、「男はつらいよ」にトランスナショナルな魅力が あるのは、歴史のバックグランドや深さがあるからだと感想を述べた。また、横山詔 一先生の講演については、今後、日本人や台湾人における異体字の好みをデーター処 理していけば、面白い問題を発見できるかもしれないとコメントした。そして、佐藤 卓己先生の講演については、ラジオの普及がきっかけで、「輿論」と「世論」の意味 は変わっていったが、インターネットがますます発達した今日における「輿論」と 「世論」の行方を観察していきたいと話した。 質疑応答の時間に、フロアから、中央研究員の副研究員・林泉忠氏から、「東アジア におけるトランスナショナルな文化の伝播・交流」というフォーラムを台湾で開催す るに当たって、台湾の役割とは何か、という鋭い質問があった。この質問はより議論 を活発にした。 台湾大学の辻本雅史先生は準備委員会の立場から、フォーラムの趣旨について語っ た。「メディア」を主題にすれば、いろいろな研究をフォローできるからこのテーマ を薦めたという企画当初の状況を話した。しかしその一方、果たして発表者が全体の テーマをどれだけ意識してくれるのかと心配していたことも打明けた。結果的には、 発表者が皆「メディア」を取り入れていることから、既存の学問領域、すなわち大学 の学科に分類されるような枠を超えて、横断的に議論する場が徐々に作られていった ことを実感したと述べた。最後に、林泉忠氏の質問に対しては、台湾はあらゆる近代 史の問題にかかわっているため、「トランスナショナルな文化の伝播・交流」を考え るのに、絶好の位置にあると説明し、知を伝達する一つの拠点として、「メディアと しての台湾」というテーマは成り立つのではないかと先見の目も持って提案した。 陳明姿先生は、いかに異なった分野の研究者を集め、有効的に交流させるか、という のがこのフォーラムの目的であり、また、それによって、台湾の研究者と大学院生た ちに新たな刺激を与えることが、台湾でシンポジウムを開催する意義になると指摘し た。 「台湾ならでは」について、今西理事も、台湾の特徴といえば、まず日本語能力に感 心する。これだけの規模のシンポジウムを日本語でできるというのは、台湾以外はな い。日本はもっと台湾を大事にしなければならない。また、SGRAは学際的な研究を目 指しているが、それを実現するのは非常に難しい。しかし、台湾大学の先生方はいつ も一緒に真剣に考えてくださる。こうして応えてくださるというダイナミズムがまた 台湾らしい、との感想を述べた。 最後に、徐興慶先生がこれまでの議論を次のように総括した。①若手研究者の育成立 場から、19本の発表の中に院生の発表が4本あったというのは嬉しい。②20年間で241 名の奨学生を育てた渥美財団は非常に先見の明がある。育成した奨学生たちの力添え があったからこそ、去年タイのバンコクで開かれたアジア未来会議のような大規模の 海外会合を開催することができた。また、若い研究者の課題を未来という大きなテー マで結び付けた渥美財団のネットワークができつつあることに感銘を受けている。③ 学際的な研究を推進する渥美財団の方針に同感であり、台湾大学でも人文科学と社会 科学との対話を進めている。④この十数年間、台湾の特色ある日本研究を模索しなが ら考えてきたが、その成果として、これまで計14冊の『日本学叢書』を出版すること ができた。台湾でしか取り上げられない課題があるが、台湾はそういう議論の場を提 供する役割がある。徐先生は、台湾の日本学研究への強い使命感を示して、座談会を 締めくくった。 同日夜、台湾大学の近くにあるレストラン水源会館で懇親会が開催された。参加者60 名を超える大盛況で、皆、美食と美禄を堪能しながら、歓談した。司会を務めた張桂 娥さん(東呉大学助理教授)は、抜群のユーモアのセンスで、会場の雰囲気を一段と 盛り上げた。その調子に乗って、山本陽史先生は「津軽海峡冬景色」を熱唱し、引き 続き川瀬健一先生も台湾民謡「雨夜花」をハーモニカで演奏した。最後に、フォーラ ムの企画者である私が皆様に感謝の言葉を申し上げ、一日目のプログラムは円満に終 了した。 第4回日台アジア未来フォーラム報告(その1)は、下記リンクからお読みいただけま す。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/_4.php ----------------------------------- <梁蘊嫻(リョウ・ウンカン)Liang Yun-hsien> 2010年10月東京大学大学院総合文化研究科博士号取得。博士論文のテーマは「江戸文 学における『三国志演義の受容』−義概念及び挿絵の世界を中心に—」である。現 在、元智大学応用外国語学科の助理教授を務めている。 ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第2回アジア未来会議 「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島) http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/ 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Liang Yun-hsien “Japan-Taiwan Future Forum #4 Report (Part 1)”

    ********************************************* SGRAかわらばん530号(2014年8月13日) ********************************************* 第4回日台アジア未来フォーラム報告 ■ 梁 蘊嫻「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流—文学・思 想・言語—(その1)」 第4回日台アジア未来フォーラムが6月13日、14日の2日間にわたって、台湾大学及び 元智大学で開催された。グローバル化が急速に発展した今日、メディアの発展が進む ことで、文化の交流が盛んになり、文化の国境は消えつつある。この現象に着目しつ つ、フォーラムのテーマを「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交 流—文学・思想・言語—」とした。「メディア」は英語のmediaの訳語であり、新 聞・雑誌・テレビ・ラジオなどの近現代以降にできあがった媒体として捉えられるこ とが多い。ここではより広義的な意味を取っている。もとよりメディアは、時代に よって異なり、メディアの相違が文化のあり方に関わってくる。 今回のフォーラムは、台湾・日本を含めた東アジアにおける文化交流・伝播の様態に 迫り、異文化がどのようにメディアを通じて、どのように影響し合い、そしてどのよ うな新しい文化が形成されるかを考えるものである。 1日目は台湾大学にて「文学とメディア」「言語とメディア」「思想とメディア」の3 分野の基調講演、また19本の研究発表を行った。6月13日午前、台湾大学の文学院講 演ホールで開幕式が行われた。渥美財団今西淳子常務理事、交流協会文化室福増伸一 主任、台湾日本研究学会何瑞藤理事長、台湾大学日本語学科陳明姿主任のご挨拶に よって、フォーラムが始まった。 1本目の基調講演では、東京大学名誉教授延広真治先生に「「男はつらいよ」を江戸 から見れば—第五作「望郷篇」の創作技法—」というタイトルでお話をいただいた。 山田洋次監督「男はつらいよ」は48連作に及ぶ喜劇で、ギネスブックにも登録され た。48作中、監督自ら客がよく笑うと思われたのが第5作。延広先生は、この「望郷 篇」の創作技法を江戸時代の作品に求められると指摘した。具体的に、江戸時代とか かわりの深い作品、たとえば落語「甲府い」・「近日息子」(原話:手まハし)・ 「粗忽長屋」(袈裟切にあぶなひ事)・「湯屋番」・「半分垢」(原話:駿河の 客)、講談「田宮坊太郎」や曲亭馬琴『南総里見八犬伝』などを綿密に考察し、それ らの作品と「望郷篇」の関係について詳しく説明した。 延広先生の講演を通して、日本人にとっての国民的映画「男はつらいよ」のユーモア は、監督の古典作品に対する造詣によるものであるとのことがよく理解できた。笑い は日本文化の中においては、非常に特徴的で大切なものである。落語の笑いは馬鹿馬 鹿しくて、理屈がいらない。「男はつらいよ」が長く続けられたのは、落語的なユー モアセンスが染み付いているからではないかとつくづく思った。落語の笑いは外国人 に理解されにくい。なぜならば言語の壁があるからだ。しかし、日本の笑いはドラマ というメディアを通して伝えれば、外国人に受け入れられやすくなるであろう。 続いて、国立国語研究所横山詔一教授が「電子メディアの漢字と東アジアの文字生 活」という演題で講演した。横山先生は、(1)「漢字をイメージする」、(2)「漢 字を打つ」、(3)「文字の生態系モデル:文字と社会と人間」、という3つの要点を 話した。横山先生はまず東アジアで共通して観察される「空書(くうしょ)行動」を 紹介した。(空書行動とは、文字の形をイメージするとき、指先で空中に文字を書く ような動作を言う)。この現象から、漢字文化圏の人は、漢字や英単語の形を思い浮 かべるときに、視覚イメージだけではなく、体・肉体の動作(action)という運動感覚 成分もあわせて活用しているということを指摘し、漢字は東アジアの人々の肉体感覚 とつながっているメディアだという見解を提出した。 また、ネットツールの普及により、文字をキーボードで打つことが当たり前の時代に なり、漢字は手書きよりも、パソコンの変化候補から「見て選択すれば書ける」時代 になったとともに、字体の使用にも変化がみられたということを指摘した。この現象 を(1)異体字の好み、(2)台湾の日本語学習者が日本人にメールを書く場面、との 両方面から考察した。これらの研究課題については、伝統的な語学研究法ではなく、 「文字の生態系モデル」に基づいて分析した。横山先生はいくつか興味深い研究成果 を提示したが、その中の一つを次に挙げておこう。台湾の日本語学習者がメールを書 く時には、読み手の日本人が読みやすい表記、あるいは違和感を持たない表記を意識 的・無意識的に選択するという傾向があるという。「文字と社会と人間は一体であ り、切っても切れない関係にある」ということだが、インターネットが発達すればす るほど、この傾向はますます強くなるといえよう。 横山先生の講演は、電子メディア(ネットメディア)の発達によって、東アジアにおけ る文字文化の国境が消えつつある実態に着目し、東アジアの文字生活が「漢字」とい う記号・媒体を通じて今後どのように変化していくのかを考える手がかりとなった。 3本目の講演は、京都大学佐藤卓己准教授の「輿論と世論の複眼的思考—東アジアの 理性的対話にむけて」というテーマであった。佐藤先生は、マスメディアの普及にも たらされた「輿論」と「世論」の混同という現象には、知識人がどのような姿勢でい るべきかについて、次のような見解を述べた。 「輿論」と「世論」は、戦前の日本ではそれぞれ「ヨロン」と「セイロン・セロン」 と読まれていた。意味上においても、「輿論」は「public opinion」、「世論」は 「popular sentiments」と区別されていた。しかし今日に至って、「輿論」という言 葉が使われなくなった一方、「世論」を「ヨロン」と読む習慣が定着し、「輿論」の 意味と混同する例が見られるようになった。これは歴史の経緯から見れば、戦後1946 年に「輿」という字が制限漢字に指定された政策と関係しているが、1920年代の「政 治の大衆化」とともに生じた「輿論の世論化」という現象によるものでもあった。 「輿論の世論化」はさらに1943年5月情報局の「輿論動向並びに宣伝媒体利用状況」 調査結果が示すように、戦時下の国民精神総動員で加速化した。「輿論の世論化」は 理性が感性に、知識人の輿論が大衆の世論に飲み込まれていく過程であった。日本で はこうした同調圧力への対応を「空気を読む」と表現するが、この「空気」、すなわ ち誰も責任をもたない雰囲気である「世論」の暴走は現在ますます警戒する必要があ る。インターネットが普及した情報社会では、空気(世論)の中で、個人が担う意見 (輿論)はますます見えなくなっている。 こうした状況に対しては、「輿論」と「世論」の区別を回復し、さらに「世論の輿論 化」を目指すことの必要があると佐藤先生は指摘した。また、「世論の輿論化」と は、知識人が大衆の感情にどのような言葉を与え、対話可能な枠組を創っていくかと いうことだと述べている。世論は即時的な感情的反応の産物であり、討議という時間 を経て熟成されるのが輿論である。インターネットのように欲望を即時的に満たすメ ディアによって、現在ではますます「輿論の世論化」が加速化している。こうした現 状に対しては、佐藤先生は、インターネット中心の今日だからこそ、伝統的な活字メ ディアによる人文知の重要性はますます高まると強く主張した。また、「世論の輿論 化」の実践は、「トランスナショナルな文化の伝播・交流」として始まるべきだとい うことが講演の結びとなった。 以上の3本の講演は、それぞれ文学研究、言語学研究、思想研究に大きな示唆を与え ているものであった。午後は、分科研究発表が行なわれたが、その詳細は引き続き報 告する。(つづく) フォーラムの写真は下記リンクよりご覧ください。 www.aisf.or.jp/sgra/photos/index.php?spgmGal=The_4th_SGRA_Taiwan_Forum ……………………………… <梁蘊嫻(リョウ・ウンカン)Liang Yun-hsien> 2010年10月東京大学大学院総合文化研究科博士号取得。博士論文のテーマは「江戸文 学における『三国志演義の受容』−義概念及び挿絵の世界を中心に—」である。現 在、元智大学応用外国語学科の助理教授を務めている。 ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第2回アジア未来会議 「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島) http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/ 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Xie Zhihai “Japanese People and English Language: What is Global Jinzai?”

    ********************************************* SGRAかわらばん529号(2014年7月30日) ********************************************* SGRAエッセイ#418 ■ 謝 志海「日本人と英語:グローバル人材とは?」 近年、日本人学生の海外留学の激減により、文部科学省は留学生を倍増させようとさ まざまな取り組みを行っている。同時に英語教育にも力を入れようと、小学5年生か ら英語を正式教科として取り入れ、早期英語教育を始めることとなった。だが、日本 人の英語との接し方を見ていると、留学生の数を増やし、早く英語を学び始めるだけ で、グローバル人になれるのだろうかと不思議に感じることがある。日本でよく耳に する「グローバル人材」とは何を意味し、何を目指しているのだろう? 日本人留学生が減っている理由の一つは、日本での就職活動のスケジュール調整の難 しさで、あきらめてしまう人が多いのではないかと思う。何しろ大学4年間のうち少 なくとも最後の1年間は就職活動に没頭することが当たり前なのだから。日本では、 就職活動時は皆同じようなスーツを着用して挑むので、大学生の就活シーズンだなと いうのが電車に乗っていても容易に解る。企業は同じ時期に入社試験を行う。その流 れに乗り、卒業前に内定をもらうことが、大学生としてのゴールであるという風潮な ので、のんびり留学なんてしていられないよ、バイトしながらTOEICでも受けようと いう気にさせられるのではないだろうか。 日本の企業の人事部や人材派遣会社は、留学という経験よりも結局はTOEICのスコア で人を判断するのだから(もちろん表向きはそうなっていない)、日本で就職したい日 本人にとっては、留学やグローバル人材になるメリットというものに魅力を感じない だろう。そこそこのTOEICのスコアがあればいいのだから。今でも派遣会社へ登録に 行くと、登録者がたとえ英語圏の大学で学位やMBAを取っていても、また海外で働い た経験を持っていても、派遣会社の人はTOEICのスコアを知りたがるそうだ。これは 今までに出会った何人もの日本人から聞く。まずは派遣会社や、企業の人事部が「グ ローバル人材=英語=TOEIC」という図式を取り払わない限り、世界の人々と渡り合 える人材は日本では育ちにくいのではないかとの懸念を抱く。もしくは人材を評価す る立場の人事系の仕事についている人こそ留学して、外国語で勉強し生活してみる と、留学生の勇気と苦労が机上の勉強で済むTOEICとは比べものにならないと気付く かもしれない。 何故ここまで厳しく学生を採用する立場の意識改革を願うかというと、せっかく留学 して、語学だけでなく異文化を学んできても、日本で就職し実務として活かすチャン スがないと、いい人材が海外に逃避してしまうからだ。誰だって自分を正当に評価し てもらえる、やりがいのある場所で輝きたいはずだ。若いうちは特にそういうことが 大事だったりする。日本と違って、中国では留学生は増える一方で、その数は60万人 を超える。その中国での問題は、留学生が学業を終えても帰ってこないことだ。国内 に優秀で複眼的な思考を持った若者が残らなくなるのは国として大きな損失となる。 中国と比べると便利で安全で暮らしやすく、街も空気もきれいな日本で優秀な人材の 逃避など起こるべきではない、それをくい止めるのは日本の企業であろう。 変わらなければならないのは、大学も同じだ。英語を学ぶ人は、グローバル人という 概念も考え直した方がいい、英語だけが外国語ではないのだから。例えば、学校の授 業を通じ、どうしても英語が好きになれなかった生徒がいたとしよう、でもその生徒 が国語は得意だったら、中国に留学するという手もある。中国語なら漢字からすんな り頭に入るかもしれない。それだけでなく、そこで出会った他国からの留学生と英語 で話すチャンスも大いにあるだろう。結果、その生徒は中国語と英語を操るトライリ ンガルになって帰国するかもしれない。自分で英語の重要性と、グローバル人になり たいと感じる事が大事だ。その取っ掛かりは必ずしも英語である必要は無い。イギリ ス以外のヨーロッパ人などは、英語圏への留学経験などなくとも英語を話せる人が非 常に多い。そういう人々と異国の地で実際に出会えば、英語はグローバルな言語なの だと気付くだろう。最近では一部の大学で英語以外の外国語のクラスを増やす動きが 広がってきている。「多言語を学びたい」という学生たちのリクエストに応えた大学 もあるそうだ。生徒の意見を吸い上げて、大学も変化していくことは素晴らしいし、 こういった「見える変化」があれば学生もさらに学びたいという意欲につながるはず だ。 文部科学省は2020年をめどに日本から海外へ行く留学生を現在の6万人弱から、12万 人に倍増する計画を掲げている。数を増やすだけでなく、留学経験者が海外で学んで きた事を活かせる土壌作りと、受け入れ企業の理解を深めることまで早急にケアして いかなければならない。日本が留学生をたくさん増やしている間に世界、特に新興国 ではグローバル人材がどんどん排出され、世界中で活躍しているのだから。 ---------------------------? ? 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログ ラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期 課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交 流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年 4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されてい る。 ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第7回ウランバートル国際シンポジウム 「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」<参加者募集中> (2014年8月9日ウランバートル) http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/mongol/7_1.php 【2】第2回アジア未来会議<オブザーバー参加者募集中> 「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島) http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/ 【3】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【4】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Max Maquito “Manila Report @ SGRA Forum #47”

    ****************************************************** SGRAかわらばん528号(2014年7月23日) 【1】エッセイ:マキト「マニラレポート@SGRAフォーラム」 【2】新刊紹介:岡田昭人「オックスフォードの教え方」 ****************************************************** 【1】SGRAエッセイ#417 ■ M.マキト「マニラレポート@第47回SGRAフォーラム『科学技術とリスク社会』」 2014年5月31日に東京国際フォーラムで開催された第47回SGRAフォーラム「科学技術 とリスク社会:福島第一原発事故から考える科学技術と倫理」に参加した。宗教学か ら理系まで包括する幅広い分野の、多くの国の人々からの話が聞けて、とても興味深 いフォーラムだった。僕の専門でもある経済学や出身地の東南アジア(とくに、フィ リピン)の観点からこのテーマについての感想を述べたい。 消費者や企業の活動により、経済的な便益が発生するが、あらゆる経済活動に損は付 き物である。そのような社会のリスクに対応するための一つの重要な制度に保険があ る。僕らは病気になるリスクを少しでも回避するために、健康保険に入る。会社も個 人と同様に、回避したいリスクに対して保険をかける。 しかしながら、原子力発電という産業の保険に関しては奇妙なことがある。しかもあ まり知られていないことかもしれない。先日のSGRAフォーラムでは、リスコミ(Risk Communicationの略)がとりあげられたが、一般市民にリスクについて丁寧な説明を することは、原発のリスクを考えるときにも当然必要である。ところが、原発産業の 保険はリスクを低下させるどころか、高める傾向がある。 原子力発電所は最悪の事故が起きた場合を見込んで、それによる損害を完全に賠償す ることを想定し、保険に入るとしよう。通常、それに必要な資金は売り上げから賄う ことになるので、電気料金に跳ね返る。ドイツでは、完全な補償をするためには、保 険料で電気料金は倍にあがるという試算もある。そうなると、原発は経済的な電気の 供給源としてなりたたなくなる。 そのため、どうしても原発を稼働したい場合は、部分的な保険に入るしかない。当 然、最悪の事故による損害は完全に賠償しきれない。では、その場合、どのように損 害賠償するのか。その時には、保険の社会化(socialization)が起きる。つまり、 社会がその損害賠償を負担することになる。 既存の原発事故の保険が原発産業自身の予備資金や民間の保険制度で十分にカバーさ れていると主張する人もいるが、3.11の原発事故の場合をみても、保険は事実上社会 化している。福島第一原発はドイツの保険に入っていたが、大震災ということで、賠 償の対象外になってしまった。そのため、東京電力が倒産しないように、部分的に国 有化され、資金が投入された。たとえ、倒産させても損害賠償は不可能である。結 局、国民(日本政府に税金をおさめている日本国民と日本に住んでいる外国人)が原 発事故の損害賠償を負担している。 このような保険の社会化は、リスクを余計に高めてしまいかねない。そのメカニズム のひとつは、いわゆるモラルハザード問題である。健康保険に入ることにより、健康 管理が甘くなり美味しいものを食べすぎてしまうことはないだろうか。もうひとつの メカニズムは、原発企業にとって保険料として備えなければならない支出が下がり、 その分、発電コストが下がるので、発電所の数が社会的に最適な数(たとえゼロでな いとしても)を上回ることになる。つまり、原発が過剰に建設され過ぎていく。 以上のふたつのメカニズムは、原発事故のリスクを高めていく。モラルハザードによ り、原発企業が無茶をしがちになり、事故が起きる確率が高くなる。SGRAフォーラム で、リスク管理の専門家が、3.11の原発事故の最大の理由は東京電力の怠慢だと強調 したことを思い出す。それに、原発の過剰な建設が加われば、事故が起きる確率はさ らに高くなるであろう。NIMBY(Not In My Back Yard)「僕の庭じゃなければ」という 方針のもとで、日本の原発は過疎地に立地されているが、東京近辺で建設される原発 ほどリスク管理は厳しくないのだろう。 原発保険の社会化については、リスコミが急務である。先日のSGRAフォーラムでも議 論されたように、社会を巻き込む多様で勇敢な(「出世しないことを恐れない」)専 門家の議論が必要であり、そして多くの指摘があったように、その議論を上手くまと める社会のプロセスを早く日本に作り上げなければならない。要するに、保険の社会 化が行われている限り、社会を巻き込む多様な議論が当然必要なのである。 今年2月のSGRAマニラ・セミナーの一環として、フィリピンにある唯一の原子力発電 所をSGRAの仲間たちと見学した。30年前に建設されたもので、核燃料は門まで届いた が、フィリピン国民の反対で、稼働は中止になった。僕たちが見学した時には、その 原発で働くはずだったエンジニアが案内してくれた。福島第一原発に比べたら二重三 重の安全なシステムが建設されたと誇りを持って説明してくれた。以前、僕もフィリ ピンでエンジニアとして、国家の大型で先端のものづくりと関わり現場で働いたこと があるので、案内してくれたエンジニアの誇りに、一瞬ではあるが、同情した。しか しながら、事故だけでなく、核廃棄物の処理という点においても、原発のリスクはや はり高すぎる(上記の経済学の理由も含めて)と、僕は考えている。 今年の5月にフィリピンで、数時間の大停電が起きた。需給が逼迫しているらしい。 そこで、フィリピンで原発を稼働させようという動きがでてきそうだ。フィリピンは 現在までは原発ゼロであるが、今後もそれが維持できるという保証はない。 日本では、3.11の直後にできるだけ早く原発をゼロにするという方針があったが、今 年、原発がない長期的なエネルギー計画は無責任だという方針に転じた。唯一、僕に 希望を持たせてくれるのは、日本の国民(特に原発周辺の住民)が再稼働に反対して いることであり、事実上は日本も今のところ原発ゼロという状況にあることである。 リスコミがちゃんと効いているかもしれない。 しかしながら今では、ASEANの仲間たちが原発の建設に積極的であり、その背景に日 本の売り込みがあることも否定することができない。いわゆるGreen Paradoxであ る。 これからも国境を超えるリスコミが必要であろう。それでもどうしても原発を作りた いというのであれば、そういう人々またはその家族は原発・核廃棄物処理場の30キロ 以内に住んでほしい。それならば僕も納得できるかもしれない。 【おまけ】マニラ・レポート@蓼科 2014年7月にSGRAの蓼科セミナー「人を幸せにする科学とは」に参加した。昨年と同 様に面白いワークショップが行われた。そこで考えた原発に関することをスライドに まとめたので、下記のリンクをご参照ください。 https://www.youtube.com/watch?v=iVapmTEjI3Q -------------------------- <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表、フィリピン大学機械 工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学) 産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧 問。テンプル大学ジャパン講師。 -------------------------- 【2】新刊紹介 SGRAメール会員で東京外国語大学教授の岡田昭人様より新刊のお知らせをいただきま したのでご紹介します。 --------- 本書は、現在の日本人に必要な「6つの力」を、どのようにすれば「教える」ことが できるのかについて、私のオックスフォード大学留学時代の様々な経験やエピソード を交えながら紹介するものです。誰にでも楽しんでお読み頂けるような内容となって おります。ご関心のある項目を選んでお読みいただけましたのなら幸いです。 ■ 岡田昭人「世界を変える思考力を養う オックスフォードの教え方」 http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=16109 朝日新聞出版 ISBN:9784023313101 定価:1620円(税込) 発売日:2014年7月8日 四六判並製 272ページ 組織・業界に革命を起こす人材教育は、英国エリートの六つの力に学べ! オックス フォード大学教育学部大学院で日本人として初めて教育学の博士号を取得した人気教 授が明かす、常識破りの人材を生む、世界トップ校の教え方と学び方のコツ ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第7回ウランバートル国際シンポジウム 「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」<参加者募集中> (2014年8月9日ウランバートル) http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/mongol/7_1.php 【2】第2回アジア未来会議<オブザーバー参加者募集中> 「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島) http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/ 【3】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【4】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Erik Schicketanz “SGRA Forum #47 Report”

    ********************************************* SGRAかわらばん527号(2014年7月16日) ********************************************* エリック・シッケタンツ「第47回SGRAフォーラム報告」 ■『科学技術とリスク社会〜福島第一原発事故から考える科学技術と倫理〜』 近年、科学技術の進歩が人間社会に恩恵をもたらす一方で、巨大科学技術、先端科学 技術がもたらす危険(リスク)も大きな議論となりつつある。 2011年3月の福島第一原子力発電所事故をきっかけとして、科学技術の限界および専 門家への信頼の危機が問われ、今後一般社会は科学とどう付き合っていくべきか、リ スクの管理がどのような形によって行われていくべきかという諸問題が、日本社会に おいて多くの市民の関心を引いている。 2014年5月31日(土)午後1時30分〜4時30分、第47回SGRAフォーラム「科学技術とリ スク社会〜福島第一原発事故から考える科学技術と倫理〜」が東京国際フォーラムで 開催された。 本フォーラムでは、3・11と福島第一原発事故という具体的な問題設定を通じて、科 学と社会の関係について多方面からの問いかけが行われた。 フォーラムは、上智大学神学部の島薗進教授と大阪大学コミュニケーションデザイン センターの平川秀幸教授が発表と対談を行った後に、参加者と一体となったオープン ディスカッションを行った。50人を超えるオーディエンスの数も社会における関心と 反響を反映していた。 はじめに、理化学研究所の崔勝媛研究員(生物学専攻)が、個人としての立場から科 学者の役割についての考察を行った。崔氏は、科学が社会にどう役に立つかが良く問 われるが、研究者にとって研究の第一動機は「好奇心」だと述べた。そこで浮かび上 がる大きな問題は、科学が皆が望むように役立つためには、科学だけではなく、人間 社会におけるさまざまな問題を乗り越える必要があるということだ。原子力のこと も、問題の原点は原子力研究そのものではなく、それを扱う人の問題なのだと述べ た。 つづいて、島薗教授と平川教授は、それぞれいくつかの具合的な問題点や出来事を取 り上げながら問題提起を行った。 島薗氏は放射線用の安定ヨウ素剤配布・服用や低線量被爆の健康影響情報などの問題 をめぐって、専門家や政府の判断基準の欠陥および民間との間のコミュニケーション における問題について触れた。また、マスメディアにおける、<安全・安心>概念の 言説を批判的に検討し、その公共的問題を締め出すための道具となっていると指摘 し、市民間での不安を避けるという理由で結果として真実を隠してしまうことを正当 化させていると、マスメディアの反応における問題点を紹介した。島薗氏の発表にお いて、政治・経済的利害関心と科学技術の絡み合いが大きな問題として紹介された。 平川教授はより抽象的な観点から問題を扱い、今までの主なリスク定義を批判的に考 察した。平川氏によると、従来、リスクの定義は科学的な次元に限定され、それ以外 の側面が無視されてきている。ゆえに、リスクの解決も科学に基づいた政策決定に よって片付けられてしまっているが、その結果は一方的に政府から市民に伝えられ、 市民に理解を押し付ける形となっている。これに対して、平川氏はリスクを科学や政 治などの各領域間の交差を中心とするトランスサイエンス概念から考察するという オールタネイティブを提供し、今までのリスクコミュニケーションとリスク認知にお ける複雑性を指摘しながら、民主的な意思決定を尊重するリスク管理の必要性を主張 した。 その後、筆者がモデレーターとなり、二人の発題者の対談が行われた。まず、今年の 3月に原子放射線の影響に関する国連科学委員会の報告書が公開されたことをきっか けとして、現在の福島がもたらす健康に対する影響について両発題者に尋ねた。国連 の報告書は、原発事故による健康に対する影響に対してやや懐疑的な態度を取り、一 部のメディアでは、報告書は健康に対する影響がないと言っているように解釈されて いる。両発題者は国連の報告書の背景にある政治および報告書の結論に疑問を唱えた 国連科学委員会委員などを取り上げ、健康に対する影響という問題に関してはまだ油 断できないと主張し、報告書を通じて科学と政治の絡み方に言及した。 休憩後、デール・ソンヤ氏(社会学専攻)の司会進行によりオープンディスカション が行われた。 オーディエンスから質問、発言を受けて、両発題者は今までの議論をさらに深めた。 ディスカションにおいて、中心的なキーワードとして、「信頼」という概念が取り上 げられ、市民の信頼を得るために、専門家との関係をいかに改善すべきかという問題 が議論された。 島薗氏は、問題解決に参与している専門家の範囲を拡大して、よりオープンにして も、権威の問題は常に残ってしまうと指摘したが、「正しい権威」を創造する制度の 成立に解決の可能性を見出したいと述べた。平川氏は政治的な絡みがなくても、常に 問題の具体的な設定や使用されている解決枠組みなど、何らかのバイアスがかかって いると指摘し、「歪んでいない科学者はいない」と述べた。ただ、そこでできること は、議論に参加する専門家やステークホルダーの多様性を可能な限り増やすことだと 主張した。 このように、両者は今後のリスク管理においてより充実した抑制と均衡のシステムが 必要だと主張し、科学技術におけるデュープロセスの導入を唱えた。そのため、今後 避けるべきなのは政治と経済との繋がりを持つ少人数の専門家の閉鎖的な措置による リスク管理である。そして、健康に対する影響より、今回の原発事故がもたらした最 大のダメージは社会における信頼に対する危害であったのではないか、と述べた平川 氏が印象的であった。平川氏が説明するように、原子力産業は「安全」と「安心」の ためという名目で、社会の視野の外に置かれていたことが今回の危機の大きな背景の 一つである。その意味では今回の事故が科学、政治と社会の関係を再考して再構築す るきっかけともなればと筆者は期待する。 最後に、福島県飯舘村からの参加者は放射能のリスクについて調べた上で、飯舘村に 帰ると決心したが、まわりからはこの決心に対してなかなか理解を得られないという 状況についての紹介があった。また、飯舘村に帰還するか否かの判断を強いられてい る避難生活者の視点から科学技術の問題を考えると「人間にとって幸せとはなにか」 を考えざるを得ない、最後に行き着くのは哲学や宗教の領域の問題ではないかと思え てくる、との発言があり強く印象に残った。 オーディエンスからの質問が途切れなく続き、オープンディスカションの90分はあっ という間に経ってしまい、4時30分の閉会の時間が来た。 今回のSGRAフォーラムは、今後日本社会が直面し続ける重要な課題についてさまざま な観点から考えさせるきっかけとなった。 *当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 www.aisf.or.jp/sgra/photos/index.php?spgmGal=SGRA_Forum_47_by_Hayato ---------------------------------------------- <エリック・シッケタンツ ☆ Erik Schicketanz> 2001年イギリスロンドン大学アフリカ・東洋研究学院修士号取得(日本近代史)、 2005年東京大学大学院人文社会系研究科修士号取得(宗教史学)。2012年、同大学大 学院人文社会系研究科宗教学専攻博士号取得。現在、同大学死生学・応用倫理セン ター特任研究員。研究関心は近代仏教、近代中国の宗教、近代日本の宗教、近代国家 と宗教の関係。 ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第7回ウランバートル国際シンポジウム 「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」<参加者募集中> (2014年8月9日ウランバートル) http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/mongol/7_1.php 【2】第2回アジア未来会議<オブザーバー参加者募集中> 「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島) http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/ 【3】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【4】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Xie Pu “Conveying an Image Not Shared”

    *********************************************************** SGRAかわらばん526号(2014年7月9日) 【1】エッセイ: 解 璞「共有しないイメージを伝えるということ」 【2】第7回ウランバートル国際シンポジウムへのお誘い     「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」 *********************************************************** 【1】SGRAエッセイ#416 ■ 解 璞「共有しないイメージを伝えるということ」 食べ物の話から始めたいと思う。 5 年余り前、ある日本の友人と食事した時に、こんなことを聞かれた。「中国の饅頭 は、本当に餡がないのか」、と。中国語を勉強したことがある方なので、おそらく 「饅頭(マントウ)」という単語を勉強していた時に、日本の饅頭と中国の饅頭と は、餡や具があるか否かという点で異なっていると教えられたのではないかと想像し た。 そのような「分かりやすい」説明に、薄々抵抗を感じながらも、その時の私は、確か に中国の饅頭には餡がないし、味付けもされないから、小麦粉そのものの味で、 ちょっとだけ甘いとしか答えられなかった。友人も、なるほどと納得したようで、ネ イティブの人に確かめてよかったというような笑顔になってくれた。 ところで、数年後のある日、その友人が中国の饅頭は餡がないから、生地がきっと日 本の饅頭の皮の部分より甘いよねと言ったのを聞いて、はじめて以前の答えのいい加 減さに気づいた。 確かに日本語の「饅頭」という言葉と、中国語の「饅頭」という言葉は、餡や具の有 無という点で異なっているが、似たような食べ物を指している。つまり、言語の面だ けを考えると、同じ表記の「饅頭」であるが、日本と中国とでは、少し異なるイメー ジを持っている。これは、間違いない事実だ。しかし、これだけでは、不完全な理 解、あるいは勘違いさえされてしまうと考えた。 なぜならば、例えば日本で小豆などの餡が入った饅頭は、中国では「豆包」と言い、 日本で肉などの具が入った肉まんは、中国では「包子」と言い、また、餡や具はない が、甘く味付けされた日本の饅頭とほぼ同じ大きさの小さい饅頭は、中国では「金銀 饅頭」と言い、饅頭と同じように味付けされない蒸しパンのような食べ物は「花巻」 と言うのが普通だし、逆に、ご飯や蒸しパンのかわりに食べる饅頭というものは、管 見によれば、日本にはないからだ。 つまり、日本と中国の饅頭は、餡や具の有無という点で異なっているのではない。そ うではなく、日本でいう饅頭は、中国語で「豆包」「包子」あるいは「点心」などの 別の言葉で表され、一方、中国でいう饅頭は、日本にはめったに見られないと言うべ きなのであろう。 このように、同じ漢字という言語の表記を共有したからといって、日本と中国は、同 じイメージで世界を見ているのではなく、相互理解がよりスムーズになるわけでは決 してない。むしろ、日本と中国では、「言語の表記が似ているから、互いに理解しや すいはずなのに」というような安易な先入観があるからこそ、かえって誤解やすれ違 いを招きやすいのではないだろうか。 実際、外国人同士ではなくても、このような勘違いやすれ違いがよく起きている。た とえ同じ国の人の間でも、あるいは何十年も一緒に暮らしている家族の間でさえも、 こちらの口から発した言葉のイメージと、相手の耳で受け取った言葉のイメージと は、つねに一致しているわけではない。否、つねに一致し、完璧に理解し合えるとい うことは、ほとんど奇跡に近い不可能なことではないだろうか。 さらに、自分自身の中でさえ、一致しているとは限らないのである。私は、時々、口 頭発表の前に、発表ノートを音読して録音してみる。すると、自分の口から発した言 葉のイメージと、自分の耳で受け取った言葉のイメージの間にも、時々ギャップが生 じていることがわかる。こんな意味を伝えるつもりは毛頭なかったのに、こう発言し たら誤解されてもしようがないな、というように、自分の口で音読して自分の耳でも う一度確かめなければ分らないものがある。自分自身の中でさえ、「口」と「耳」の 間には理解のギャップがあるのだと、はじめて気づかされる。 普通にコミュニケーションを行えば、このような勘違いや誤解が、常に付きまとって いる。だからこそ、自分が伝えたいイメージと、相手が受け取ったイメージの間のズ レを意識し、両方が伝えたいことを我慢強く、確認し続ける包容力が、どうしても必 要であろう。でなければ、「饅頭」一つさえうまく説得や理解ができないのである。 ---------------------------------------- <解璞(かい・はく)☆Xie Pu> 日本近代文学専攻。2014年早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文学コースにて博 士号取得。現在、夏目漱石の作品および文学論の中国語訳について研究調査してい る。2013年度渥美奨学生。 ---------------------------------------- 【2】第7回ウランバートル国際シンポジウムへのお誘い(再送) 下記の通りモンゴル国ウランバートル市にてシンポジウム「総合研究——ハルハ河・ ノモンハン戦争」を開催いたしますので、参加者を募集いたします。 【開催趣旨】 謎に満ちたハルハ河・ノモンハン戦争は歴史上あまり知られない局地戦であったにも かかわらず、20世紀における歴史的意義を帯びており、太平洋戦争の序曲であったと 評価されています。この戦争の真の国際的シンポジウムは、1989年、ウランバートル でモンゴル、ソ連に加えて日本から研究者をむかえた3者による協同研究から始まり ました。そして、1991年、東京におけるシンポジウムによって研究は飛躍的に進み、 2009年にSGRAが開催したウランバートル国際シンポジウムではさらに画期的な展開を みせました。しかし、国際的なコンテキストの視点からみると、これまでの研究は、 伝統的な公式見解のくりかえしになることが多く、解明されていない問題が未だ多く 残されています。 立場や視点が異なるとしても、お互いの間を隔てている壁を乗りこえて、共有しうる 史料に基づいて歴史の真相を検証・討論することは、われわれに課せられた使命で す。 ハルハ河・ノモンハン戦争後75年を迎え、新しい局面を拓くべく、われわれは、関係 諸国の最新の研究成果と動向、および発掘された史料を総括し、国際学術会議ならで はのシンポジウム「総合研究——ハルハ河・ノモンハン事件戦争」を開催することに いたしました。 本シンポジウムは、北東アジア地域史という枠組みのなかで、同地域をめぐる諸国の 力関係、軍事秩序、地政学的特徴、ハルハ河・ノモンハン戦争の遠因、開戦および停 戦にいたるまでのプロセス、その後の関係諸国の戦略などに焦点をあて、ミクロ的に 慎重な検討をおこないながら、総合的な透視と把握をすることを目的としています。 このシンポジウムを通して、お互いに学ぶことができ、ハルハ河・ノモンハン戦争の 一層の究明をすすめたいと願っています。 【日程・会場】 2014 年8月9(土)〜10日(日)         モンゴル国ウランバートル市 参加登録:8月9日(土)9:00〜9:30 モンゴル・日本人材開発センター 開会式・基調報告:8月9日(土)9:30〜12:00 モンゴル・日本人材開発セン ター 会議:8月9日(土)13:30〜18:00 モンゴル・日本人材開発センター 会議:8月10日(日)9:00〜12:00 モンゴル防衛大学会議室 視察:8月10日(木)13:00〜10:00 日本人抑留死亡者(ノモンハン戦死者含む) 慰霊碑、ジューコフ記念館見学、草原への旅行 【プログラム】       詳細は下記案内状をご覧ください。 案内状(日本語) www.aisf.or.jp/sgra/schedule/MongoliaSymposium7InvitationJapanese.pdf Invitation in English www.aisf.or.jp/sgra/schedule/MongoliaSymposium7InvitationEnglish.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第7回ウランバートル国際シンポジウム 「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/mongol/7_1.php 【2】第2回アジア未来会議<オブザーバー参加者募集中> 「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島) http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/ 【3】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Xie Zhihai “Womanomics #3: Sexually-Harassing Heckling in Public”

    ************************************************************* SGRAかわらばん525号(2014年7月2日) 【1】エッセイ: 謝志海「ウーマノミクス(3):公の場でセクハラヤジ」 【2】新刊紹介:王敏、他「『日本意識』の根底を探る」 ************************************************************* 【1】SGRAエッセイ#415 ■ 謝 志海「ウーマノミクス(3):公の場でセクハラヤジ」 安倍晋三政権が新しい成長戦略と、経済財政運営と改革の基本方針を着々と実行段階 に進めるなか、先日の東京都議会本会議では女性議員の一般質問中に「早く結婚し ろ」などのヤジが飛んだことが、日本全国だけでなく、世界のメディアでも報道され てしまった。成長戦略のなかでも、女性の活躍を重視している安倍晋三政権にとっ て、この事態は「ばつが悪い」ことになるだろう。 概して、アジア各国は欧米に比べると女性の立場が弱く、守られていないという差別 が根強く残っているが、アジアの中でも経済的、知名度的に欧米先進国と肩を並べる 日本までもが、未だに男性優位体質であることが、今回の件で露見してしまい残念 だ。 前述の通り、この件は世界に広く報道されてしまった。都議会本会議の直後から英米 のメディアが、相次いで「セクハラ暴言」などと報道した。米CNNテレビのウェブサ イトではヤジ問題の記事を、日本の労働市場では男女間の格差が給与 (平均して女性 の給料は男性に比べて3割安い)や人事(女性管理職の数) でも現れていると締めく くっている。民間企業に女性取締役を増やすようアドバイスしたり、指導的立場の女 性を2020年までに30%増やすことは、安倍晋三政権が豪語していることだ。今回のヤ ジ問題は、その目標は実現可能なのか?という気にさせられてしまうではないか。こ の一連の出来事は引き続き世界が注目しているようで、ヤジを飛ばされた塩村文夏都 議は6月24日、東京の日本外国特派員協会で記者会見した。朝日新聞が運営する英語 版ウェブサイトAsia & Japan Watch (AJW)によると、この記者会見に出席していた記 者の反応はいささか冷静であったようで、日本在住歴14年のシンガポール人記者は 「(ヤジ問題を)特に驚かなかった。このような日本の性差別の記事はいつも書いてる から。」とコメントしている。日本に住んでいる外国人の目にも、男女の扱いの差が 明白とは、悲しい事実である。 そしてこの記者会見に出席していた外国人記者たちは、日本の未来を思いやるよう な、非常に的確なアドバイスとも言えるコメントをしている。前出のシンガポール人 記者は「この出来事は日本が変わるために必要であると信じたい。」と言った。同じ く日本在住歴20年以上のフランス人特派員も「この出来事が日本を劇的に変える役割 を果たすことを望む。」と語った。これぞまさに、日本を客観的に観察している人々 の思いであろう。ウーマノミクスのエッセイを通して言っているが、日本は女性の活 用にあたり数値目標を掲げるだけでなく、女性がどういうスタンスで社会に貢献した いのか今一度耳を傾けることだ。そして具体的にかつ実現可能なレベルから直ちにア クションを起こさなければいけない。 私が今回のセクハラヤジ問題で気づいたことは男性優位体質だけでない。いかに日本 が世界から注目されているかだ。安倍晋三政権が次々と経済政策を進めているさなか なので、当たり前と言えばそれまでかもしれないが、やはりアジアを代表する経済国 として、日本の存在感は大きいのだ。そこへ突然、大都市東京では時代錯誤のような 都議会本会議が行われていたとは、世界が驚くのも無理ない。問題はここからだ。こ の出来事をどう成功カードに切り返すかだ。皮肉にもと言うべきか、英エコノミスト 誌の最新号(6月28日〜7月4日)の表紙を飾るのは、サムライの格好をし、矢を射ろう とする安倍晋三首相だ。安倍晋三政権が放つ矢を世界は固唾を呑んで見守っている。 -------------------------------------- <謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai> 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログ ラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期 課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交 流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年 4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されてい る。 -------------------------------------- 【2】新刊紹介 SGRA特別会員の王敏様から新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 国際日本学研究叢書19 ■「『日本意識』の根底を探る:日本留学と東アジア的『知』の大循環」 編集・発行 法政大学国際日本学研究所 ISSN1883-8618 2014年3月28日発行 http://hijas.hosei.ac.jp/tabid/1275/Default.aspx 「国際日本学」は途上の研究分野であることはいうまでもない。その方法論における 試みとして、法政大学国際日本学研究所の中国・東アジアにおける日本研究チームは 「異文化としての日本研究」の成果活用・開拓的研究の進展を志向した。研究のあり 方を探るため「外部」の視点を可能な限り制限を設けず取り入れてきた。総合的日本 研究の追及を第一義とする基本スタンスに沿うからである。(中略)研究対象として 日本意識に重点を置いていることに変わりないが、異なる文化背景を念頭に東アジア 諸国などの日本研究の動向およびその成果の有用性に注目してきた。東アジアには国 レベル、国民レベルで共有する価値基準がそれぞれ独自に存在するだけに、日本研究 を深めるためには日本国内外の角度からの地域研究にもっと留意すべきと気づいたか らである。日本意識の見直しへ参考となる思考枠の抽出のために、地域性を反映した 各国の研究の成果に謙虚に触れるように努めた。(王敏「東アジアの相互認識を映し 出す参照枠」より) ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第3回SGRAワークショップ(2014年7月5日蓼科) 「人を幸せにする科学とは」<会員対象:参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/3sgra.php 【2】第7回ウランバートル国際シンポジウム 「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」<論文・参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/mongol/7_1.php 【3】第2回アジア未来会議<オブザーバー参加者募集中> 「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島) http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/ 【4】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] GaYoung Choi “Twenty Years since A

    ******************************************************** SGRAかわらばん524号(2014年6月25日) 【1】エッセイ: 崔 佳英「『小さな留学生』から20年」 【2】新刊紹介:和井田清司、張建、他「東アジアの学校教育」 ******************************************************** 【1】SGRAエッセイ#414 ■崔 佳英「『小さな留学生』から20年」 「小さな留学生」を覚えているだろうか。2000年に放映された、中国から父親の転勤 で、日本の学校に通うことになった9歳の少女の2年間を追ったドキュメンタリーであ る。今年、2007年から7年目を迎える私の日本での留学生活は、3度目の長期日本滞在 である。1回目は、小学校の時に父の仕事のために家族4人で初来日。2回目は、その 約10年後、2003年の1年間の交換留学、それから5年後、現在の大学院留学のための来 日である。 初来日時は、もう20年以上も遡る1992年の春だった。まったく日本語がわからない状 態で日本に行くことが決まり、渡日1週間前に韓国の学校に届けを出し、ひらがなの 勉強を始めた。自己紹介の言葉を日本語の発音をそのままハングルで書いてもらい、 一生懸命練習した記憶がある。こんにちは、はじめまして、以外には日本語が全くわ からず、まさに、ドキュメンタリーの「小さな留学生」と同じだった。 偶然にも、私の小学校の時の経験は、「日本の学校のニューカマー受け入れ」の展開 と軌を一にする。1990年の入管法の改正とともに、ニューカマーの外国人が急増し、 これに連動して外国人の子どもの教育問題が注目され始めたのである。1991年には、 文部省が初めて「日本語指導が必要な外国人児童生徒」の数の調査に着手し、1993年 の『我が国の文教政策』で「外国人児童生徒に対する日本語教育等」に初めて言及し た。日本でニューカマーの子どもの教育問題が浮上し、その取り組みが始まってから 20年も経つ。韓国では、2000年代から「多文化」問題が社会問題の重要なトピックと なり、アジアの国で先に移民問題に対面した日本の取り組みについての研究に、注目 が集まっていた。私が日本に留学してから参加したボランティア団体では、外国につ ながりを持つ子ども(ニューカマーの子ども)への学習支援の活動をしており、その はじまりは「在日韓国・朝鮮人」の子どもの高校進学支援からで、長い蓄積をもつ。 しかし、おもしろいことに、私が最近出会う外国人子女教育問題の研究者や支援者か らよく耳にすることは、「韓国は進んでいますね、韓国の話が聞きたいです」という 言葉である。確かに、この10年間に韓国では、外国人統合政策である「在韓外国人処 遇基本法」、「多文化家族支援法」を制定、二重国籍の許容、外国人参政権の付与な ど法制度における様々な動きがあり、学校教育においては2007年から政府主導で「多 文化教育」を実施している。社会化の課程に「切断」を経験する移民の子どもにとっ ては、社会参加や階層移動の機会などの意味から、制度化された学校教育がもつイン パクトは強い。 さて、ここで、20年も前の話をしてみようと思う。 私が初めて来日した当時の札幌には、「外国人の子ども」の存在は珍しいもので、区 役所から地図をもらい、家族4人だけでいくつかの学校を実際に回り、編入する学校 を決めた。私が通うことになった学校にとっても、外国人はもちろん初めてのことで あった。正規のクラスに入るのか、どの学年に編入するかも教育委員会の方針が定 まっていなかった時期で、その分、一つ一つのことを学校と保護者、そして私の意志 を反映し相談していったことを覚えている。 担任の先生と私の父は、交換日記的な一冊のノートに私の1日について書いて連絡を 取り合っていた。日本の学校で1年程が経った頃に、私の日本語の先生がやってき た。まだ20代の若い先生で、先生になる前の「先生」と聞いた。国語の時間には、職 員室で「みんなのにほんご」という本で、はじめから日本語を勉強した。日本語の先 生との勉強が1年を過ぎた頃には「アンクルトム」を全部読み切ったことを今でも覚 えている。のちに、数学以外の授業も少しずつ耳に入るようになり、テストも受けら れるようになった。それでも、社会や理科などのテスト問題を解くには困難があっ た。担任の先生は、私の答案用紙の全ての項目に×をつけることはなかった。100点 が満点ではなく私の日本語力に合わせた採点をしてくださった。40点/44点と。 そこに込められた教員の教育理念とは、「日本人の子ども」のみを対象とする教育、 日本語を基準とした評価ではなく、日本語の問題と生徒の学習力の問題を切り離し、 一斉共同主義に基づかない、学生個々の「学びの権利」を保障するコア的なものであ ると思える。これは、多くの「大人の」留学生が抱く問題の一つでもある。議論を中 心とする大学院での授業で日本語力の不足のために委縮してしまったり、または、そ の発言に耳を傾けてもらえなかったり、教員や同僚とのスムーズな意見交換の困難、 正確にはコミュニケーションの文化的差異から生じうる誤解などをどのように捉える かは、大学の「国際化」を謳うアジアの多くの大学の課題となりえるだろう。 ---------------------------------- <崔 佳英(ちぇ・かよん)Choi, GaYoung> 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻にて修士号2010年取得。現在、同研 究科で博士後期課程在学中。2013年度渥美奨学生。専門分野は、日本と韓国における 外国人子女教育。 ---------------------------------- 【2】新刊紹介 SGRA会員の張建さんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ■「東アジアの学校教育: 共通理解と相互交流のために」 本書は、東アジアの日本・中国・韓国・台湾という各国地域の学校教育について、第 二次大戦後の経過をふまえた現状を紹介するものである。同時に、当面する諸課題の 中から、いくつかの論点をとりあげて、その分野の専門家による論究をも収めてい る。教育学研究や学校と教師の実践において、相互の交流と参照のため、共通理解の 基盤となるような基礎資料を提供したい。 編著者:和井田清司、張 建、牛志奎、申智媛、林明煌 A5判 400頁  価格 3,780 円 (本体3,500円・税280円) 2014年05月18日発行   ISBN9784864872430 http://www.sankeisha.com/shop/index.php ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第3回SGRAワークショップ(2014年7月5日蓼科) 「人を幸せにする科学とは」<会員対象:参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/3sgra.php 【2】第7回ウランバートル国際シンポジウム 「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」<論文・参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/mongol/7_1.php 【3】第2回アジア未来会議<オブザーバー参加者募集中> 「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島) http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/ 【4】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************