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  • [SGRA_Kawaraban] Lee Saebom “Some Thoughts about Animated Nippon Old Stories”

    ********************************************************** SGRAかわらばん543号(2014年11月12日) 【1】エッセイ:李 セボン「『まんが日本昔ばなし』をめぐる断想」 【2】特別寄稿:奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(その2)」 【3】第8回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送)   「近代日本美術史と近代中国」(11月22/23日 北京) 【4】第6回SGRAカフェへのお誘い(再送)   「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(12月20日東京) *********************************************************** 【1】SGRAエッセイ#431 ■ 李 セボン「『まんが日本昔ばなし』をめぐる断想」 近年、日本の文化を代表するようになったアニメは、世界的に多くのファンを確保す るようになり、留学生の中にはアニメを通じて日本を知り、より知りたいと思うと語 る人が相当数存在する。また、自らをいわゆる「オタク」として分類する外国人に出 会うこともしばしばある。しかし、多くの日本アニメのファンのうちに、これから私 が賞賛しようとする「まんが日本昔ばなし」について語る人はほとんどいないように 思う。元来、海外在住の日本人向けに制作され、その後も国内用の番組として放映さ れるに留まり、明らかに外国人視聴者を視野に入れていない作品であるからかも知れ ない。そこで、この場を借りて、日本の文化的な底力を示す作品として「まんが日本 昔ばなし」のことについて語り、そして賞賛したい。 ウィキペディアによれば、「まんが日本昔ばなし」は、1975年から1994年まで、最初 はNET系、後には毎週土曜日の夕方にTBS系列で放映された(その後、2000年代まで再 放送)。一つの物語に当てられた時間は約10分40秒、合計1470の物語が作られた。私 と同世代(30代)の日本の知人たちの証言によれば、子供の頃、土曜日の夕方に誰も が一度はこの番組を見たことがあり、大概の場合、オープニングのテーマ曲を口ずさ むことができるほどである。親として観賞した人も多いこと、再放送された期間も含 めれば、戦後生まれの日本在住者の多くは、「まんが日本昔ばなし」の記憶を共有し ていることになる。 それぞれの物語は、各地方に伝来された昔話から創作童話の類まで様々である。たっ た二人の声優(常田富士男・市原悦子)がすべての登場人物を演じるという独特の形 式を維持しているが、とても二人だけとは思えない、豊かな演技である。アニメの原 画も、多数のイラストレーターによって作られたがゆえに、見ていて飽きない。何よ りも、物語としての豊富さ、奥深さが、スゴい!おそらくそれは、子供向けの物語だ からといって、ただ単に美しい世界を見せねばならないというような強迫観念が無い からであろう。例えば、死に対する過剰に遠慮がましい姿勢がここには無い。自然と 調和をなして生きた「昔」の人々の、そのありのままの姿を描くがゆえに、病気や死 といった、現代ではやや否定的に観念される(特に子供向けの物語では)事柄をもご く普通に扱っている。あるいは、ハッピーエンドに拘らないという点も特徴的であ る。勿論、善人が報われるといったお馴染みの話は多いわけだが、報われない場合も 多い。呆気ない終わり方もそう珍しくない。ともかく、常に終わりを予測できない。 狸や狐、天狗のような想像上のキャラクターが多く登場するとはいえ、全ての話は、 人間に関する真摯な考察に基づいている。 それは、例えば、ディズニーアニメに代表されるような固定された世界観や、近年の 多くの日本のベストセラー漫画・アニメが描くような、人間性を離れた作為性の世界 とは、根本的に異なる。「日本」の「昔ばなし」が語られていると同時に、人間とは 何か、という普遍的な問いがその根底に流れている。それゆえに、外国人である私が 過去の日本にあっただろう美徳にこれほど純粋に惹かれるのであろう。 ある国の昔話を知ることによって、学問的な知識だけでは得られないような見地を得 ることもある。私自身も実際、日本の近世史についていくら専門書をもって勉強して も、日本で生まれ育った人々が抱いているような過去のイメージを持つことは難し かった(無論、これは日本だけに限られた話ではない)。例えば、平田篤胤(ひらた あつたね。国学者。1776〜1843)の『仙境異聞』(天狗さらいにされた少年からの話 を聞いて書かれた本)を読むだけでは、天狗のイメージおよびそれが語られてきた文 脈を掴み難い。同様のことは、狸についても、地蔵様についても言える。活字だけを 通してはつかめなかった、日本の「昔」の人々が営為していた日々の暮らし、その中 での常識といったものが、鮮やかに現れてくるのである。そのような感覚を覚えるこ とは、自然と歴史と文化への理解を深めることに繋がる。そこで、思いは次のような ところに至るのである。現在ほど、日本人自身にとっても、外国人にとっても、そう した感覚を切実に必要とする時代はない、と。そして、間近の歴史ばかりでなく、よ り長いスパンでの歴史的な想像力を養うための大事な手掛かりがここにあるのではな いか、と! ただし、そのような効用の側面を考えなくても、物語として、「まんが日本昔ばな し」には一見する価値が十分(過ぎるほど)あるように思われる。ぜひご覧いただけ ればと思う次第である。 --------------------------------- <李セボン(り・せぼん)Lee Saebom> 日本政治思想史専攻。2005年韓国延世大学政治外交学科卒業。2006年に来日し、2009 年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。2011年から2013年まで日本学術振興 会特別研究員。2013年度渥美奨学生。2014年に東京大学大学院総合文化研究科博士課 程修了(学術博士)。現在、韓国延世大学国学研究院専門研究員。 --------------------------------- 【2】特別寄稿 SGRAエッセイ#432 ■ 奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(その2)」 --------------------------------- SGRAでは、会員の奇錦峰さんのエッセイ「中国の大学の現状」を2007年にかわらばん で配信し、「われら地球市民」(ジャパンブック、2010年)に収録しましたが、2014 年8月にバリ島で開催した第2回アジア未来会議でさらなる報告がありましたので、数 回に分けてご紹介します。 --------------------------------- 1. 生活贅沢、寄生的依存 今日の大学生の最大の特徴は贅沢浪費である。入学前の準備から卒業時の片付けま で、至るところで彼らの金使いのあらい姿(贅沢)が見える。中国のどの大学でも周 辺に商店がずらっと軒を並べる。“金持ち”の大学生軍から利益を得やすいことを店 主は熟知している。レストラン、飲食店、美容室、ITボックス、時間で支払うホテル (日本のラブホテルに当たる)などがこれにあたる。大学周辺のこのようなホットな 商業は中国では“大学圏経済”と呼ばれ、就業率を上げるなど良い面もあるが、大学 生にとって絶対に良いことではない、さらに大学生の親にとっては、もう完全に災難 だと言わざるを得ない。 1.1 入校時の標準装備 スマートフォン、ラップトップコンピュータ、一眼レフカメラ(最近では、スマート フォンが高画質のカメラとなり、カメラを買わない大学生が多くなった)などが全国 の大学新入生の“必需品”になっていることは、よく知られている。マスコミの報道 によると20年前には数100元(1元=約19円)で大学に入学できたが、今は平均20,000 元となり、20年間で100倍を超えた。一方で、この20年間の中国人の収入増加率は約 11倍である。なぜこのように、大学入学時の費用のみが、こんなに速く増加したの か? その理由は、明らかに非合理的な理由、つまり競争心によるものとしか考えら れない。調査によれば、多くの家庭にはそんな経済的力はなく、明らかに無理をした わけである。中国には「すべては子供のため」、「いくら貧しくても子どもは貧しく させない」という伝統的な考え方があり、親たちは、キャンパス内の高い消費環境の 中で生活している自分の子供に不当な扱いを受けさせたくないと考え、親が耐える道 を選んだからだと思われる。しかもこのような入学期の消費の波は、毎年高まりつつ ある。 1.2 大学在籍期間の贅沢 代表的な都市を中心にした政府或いはマスコミによるいくつかの調査報告によると、 今の大学生の平均生活コストは、毎月1000元ほどである。しかし、「中国統計年鑑 2013」によれば、中国農村の年間一人当たりの純収入は6000元未満である。つまり、 大学生がいる農村部の家庭の経済状況は悲惨ということになる。ある新聞の調査で は、今の大学生の消費レベルは、半数が両親より高く、割合は都市出身者の44%、農 村出身者の58%を占めている。  中国4都市の大学生の生活費用の調査の結果は平均1000元/月である。如何なる贅沢を しているのだろうか、実際に中国全土では、その半分程で普通の生活ができると思 う。 極端に金使いのあらい大学生を除いて、一般の大学生の状況を見てみよう。 1) 一部の大学生はいつもブランド品を追い求めている。大半は何でも新品が好き で、少しでも古くなればすぐ捨ててしまう。大学生活4年間で、頻繁に使用するもの を何回も取り替える人は数えきれない。例えば携帯電話を交換しない人は殆どいな い。また近年、オンラインショッピングが急に流行しており、必要以上にショッピン グする現象は普通のことになっている。 2) 毎日の食事においても、買いすぎて大量のご飯を廃棄物として捨てている。中国 の食品廃棄物は、毎年2.5〜3億の人口を養うことができるという報告があるが少なく ともその1/3を、大学生が貢献していると推測されている。 3) 大義、名目を作り、パーティーや集会を頻繁に行う。誕生会の支払いは相当な額 になる。クラス100名全員が行ったことを想像してみてほしい。同級生の一人が試験 でいい成績を取った時、クラスの幹部に選ばれた時、奨学金を獲得した時、スポーツ の試合で勝った時、などなど。武漢大学の統計では、様々な“人情づかい”の費用は 年間600元以上が6割で、3割は1000元を超えていると報告している。 4) 調査によるとデートにかかる費用は、年間10,000元といわれている、詳細は大半 がレストランで消費、次が高級なプレゼント(誕生日、主な祭日ごとに)、そして、 映画鑑賞などのエンターテインメントである。一部の大学生の恋愛費用は、日常の食 事代を上回っているようだ。しかしながら、恋愛し、同居して最後の結婚まで愛を全 う出来ない人が大半だ。つまり卒業したら別れることが多いようで、その理由は離れ ていると恋愛感情を維持できないということにあるようだ。 5) 大学の寮は小さな家庭のようで、普通は、5〜8人で共同生活をする。宿舎内の整 理整頓は、当然と思われるが、今の大学生は怠け者が多い。寝具の片付け、洗濯、部 屋の掃除などもできない人がいる。寮がゴミ捨て場と化しているのが、多く見られ る。片付けや掃除をする人をパートタイムで頼んだり、叔母さんを呼んできてやって もらう(ついでに洗濯も)こともあるようだ。 6)2008年以前には、学生の約40%がコンピュータを持っていたが、その人たちの多 くの成績が悪く、退学させられた学生もかなりいた。しかし今は、すっかり普及して しまい学校の方がもう諦めた。親には「勉強のためにはどうしても必要」「無くては ならない学習ツール」と言って購入しただろうが、コンピュータは勉強のためではな くゲームのためなのだ。特に大学入学後最初の2年間に、勉強に使用(特に理科系) することはほとんどない。大学生がゲームに夢中になり、一部の大学生は学業を断念 せざるを得ない状況になり、毎年相当数の大学生が大学から除名されているという報 告もある。いま、コンピュータゲーム(ほとんどがエロ・グロ・ナンセンス)を触ら ない大学生は、皆無である。2年生までは、一生懸命に遊びに励む学生は、少なくと も1/3 を占める。今の精神的に空虚な大学生たちは、恋愛(ホモ・レズビアンも)を しなければ、コンピュータ・ゲームをするしか楽しいことがない。 自分の所得が実質的にない大学生が、高消費を維持するためには親に依存するしか方 法がない。大半の大学生はお金があれば消費してしまい、なくなったらまた親に請求 する。親の苦悩と苦労を完全に無視し、平然としてお金を費やしている。 奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(その1)」は下記リンクよりお読みいただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/post_509.php --------------------------------------------------- <奇 錦峰(キ・キンホウ) Qi Jinfeng> 内モンゴル出身。2002年東京医科歯科大学より医学博士号を取得。専門は現代薬 理学、現在は中国広州中医薬大学の薬理学教授。SGRA会員。 --------------------------------------------------- 【3】第8回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) ■「近代日本美術史と近代中国」 下記の通り、第8回SGRAチャイナ・フォーラムを、11月22日(土)〜23日(日)に北 京で開催します。 参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局宛て、お名前・ご所属と連絡先をお知らせくだ さい。 [email protected] SGRAでは、日本の民間人による公益活動を紹介するSGRAチャイナ・フォーラムを、北 京をはじめとする中国各地の大学等で毎年開催してきましたが、8回目の今回から は、今までと趣向を変え、「清華東亜文化講座」のご協力をいただき、北京在住の日 本の社会や文化の研究者を対象として開催します。 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/8sgra.php 1日目:2014 年11月22 日(土)14時〜17時 於:中国社会科学院文学研究所 社科講堂第一会議室 プログラムは下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/SGRAChinaForum8Program1Japanese.pdf 2日目:2014 年11月22 日(土)14時〜17時 於:清華大学甲所第3会議室 プログラムは下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/SGRAChinaForum8Program2Japanese.pdf 【4】第6回SGRAカフェへのお誘い(再送) ■「アラブ/イスラムをもっと知ろう:シリア、スーダン、そしてイスラム国」 SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まり いただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回は、 「SGRAメンバーと話して世界をもっと知ろう」という主旨で、シリア出身のダル ウィッシュ ホサムさんと、スーダン出身のアブディン モハメド オマルさんを囲ん で座談会を開催します。 参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局宛て、お名前・ご所属と連絡先をお知らせくだ さい。 [email protected] 日時:2014 年12月20日(土)14時〜17時 会場:鹿島新館/渥美財団ホール(東京都文京区関口3-5-8) http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 会費:無料 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/6sgra.php ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第8回SGRAチャイナフォーラム<参加者募集中> 「近代日本美術史と近代中国」(2014年11月22/23日北京)  http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/8sgra.php 【2】第6回SGRAカフェ<参加者募集中> 「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(2014年12月20日東京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/6sgra.php 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Yeh Wenchang “The Label of

    ********************************************************** SGRAかわらばん542号(2014年11月5日) 【1】エッセイ:葉 文昌「『伝統』という名がつけば」 【2】特別寄稿:奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(その1)」 【3】第8回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送)   「近代日本美術史と近代中国」(11月22/23日 北京) 【4】第6回SGRAカフェへのお誘い(再送)   「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(12月20日東京) *********************************************************** 【1】SGRAエッセイ#429 ■ 葉 文昌「『伝統』 という名がつけば」 3年前の出来事。趣味で金箔を一箱10枚6000円台でネット購入した。金箔で有名な 金沢の、ネット検索で最初に出てきた会社である。他の会社がほとんど0.001mmで あったのに対してこの会社の金箔は0.002mmのものがあり、価格が1〜2割高かった だけだったので、これを選んだ。 しかし商品が届いてがっかりさせられた。あれは0.001mm未満であろう、透けて見 える上、私が今まで接した金沢職人金箔と比較して、台紙から剥がせばボロボロに なるほど極端に薄いのだ。(透過率測定か電子顕微鏡で観察すればデータは取れる が) 私は業者に問い詰めた。そうしたら「これは伝統技術で手作りなので、誤差」だと 言われた。「0.001mmと0.002mmでは誤差は100%だぞ、これは詐欺だろう!」と怒っ た。 私のたかだか数千円の損はどうでも良い。真面目な業者がいる一方で、伝統を言い 訳に不誠実なことをする業者が許せなかった。 消費者センターにも相談したが、これは職人技なので非は追及できないという答え だった。「匠を知らない外国人」vs「金沢伝統工芸」という構図になっていたのだ ろう。これ以上是非を追及しても無駄と、私は諦めた。 この金箔は使えなかったので、その後別の会社から0.001mmのものを買った。そう したら透けて見えない上、台紙から剥がせる厚さの、まともな品が届いた。私のク レームは間違っていなかった。 世の中には「伝統」をつければいいと思っている人が多い。また外国人はどうせわ からないと思い込んでいる人も多い。今年参加したある国際学会の晩餐会で日本伝 統大道芸が披露された。和傘でお椀を転がしていた。演者は袴を着ていかにも「日 本伝統」なのではあるが、普段着で道端でやっている大道芸のことを想像すれば普 通の腕前で、そこに感動はなかった。 京都の枯山水。Wikipediaによれば「枯山水は水のない庭のことで、池や遣水など の水を用いずに石や砂などにより山水の風景を表現する庭園様式」とのこと。日本 人にその美しさを理解しているか聞かれる。私は、枯山水は非常に素晴らしく、日 本が世界に誇れる創造的な芸術と思っている。しかし次のことを付け加える。「石 ころを水に見立てているのでこれは現代美術の先駆けである。素晴らしい創造力 だ。当時コンクリートというものが発明されていれば、コンクリートの枯山水も あったかもしれない。だが私にとって現代美術は自然を越えられない。だから自分 が庭を持つとしたら私は石ころを並べるよりも、本当の水を流した木々が鬱蒼と茂 る庭を作るであろう。」大抵の場合、外国人は和を理解できない、というオチにな るのだが。 通販和菓子、日本酒の利き酒・・・「和」がつけば「外人にはわからない」といい 加減にする人は多い。台湾人にも「外国人はわからない」と美味しくない烏龍茶を プレゼントする人がいるのと同じである。それでは外国からの信頼を失うことにな る。 日本の伝統工芸や芸能を否定しているのではない。それに逃げている、或いはそれ だけを売りにしているのが少なくないと感じるのである。 ----------------------------------------- <葉 文昌(よう・ぶんしょう)Yeh Wenchang> SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台 湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、 副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。 ----------------------------------------- 【2】特別寄稿 SGRAでは、会員の奇錦峰さんのエッセイ「中国の大学の現状」を2007年にかわらば んで配信し、「われら地球市民」(ジャパンブック、2010年)に収録しましたが、 2014年8月にバリ島で開催した第2回アジア未来会議でさらなる報告がありましたの で、これから数回に分けてご紹介します。 --------------------------- SGRAエッセイ#430 ■ 奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(その1)」 どの国でも、伝統的に大学生は国のバックボーン、社会発展のパイオニアであり、 しかも民族振興の希望として見られている。彼らは崇高な夢を持ち、一生懸命に勉 強し、仕事に熱心である。彼らは強い競争意識を持って、献身的な精神で社会のた めに頑張っており、国の発展になくてはならない。 1980 年代以降、急速な経済発展の下で、中国社会全体の考え、モラル、文化など が新しい時期に入り、かなりの人々が現実から逃避し、嘲笑正義、カルペディエム (一日の花を摘め)、物質的快適さを追求した結果、すべてを"お金"で考え、各産 業が短期的な利益を追求するようになってしまった。社会のこれらの変化が大学生 に大きな影響を与え、甘やかされて育てられたこの時期の大学生たちの素質がさら に激しく下落してしまった。しかもこれが成長中の次の世代の大学生へ継承されて しまった。 文化大革命の期間に“紅衛兵”だった奮起した親たち、大勢の真面目で、かつ伝統 的な小、中、高等学校の教職員たちの定年退職に伴い、学校教育は本来行うべき思 想、道徳教育を軽視したため、ティーンエイジャーたちは、人生への追求心、科学 的思考、正義感、誠実、友情、思いやりなどを徐々に消失してしまった。人口増加 および市場化経済への移行が、更に小、中、高等学校の“試験志向教育”を極端化 させ、大学は政府の「産業化」、「大衆化」への呼びかけに答えた結果、名門大学 も含めて、多くの大学が“xxxx職業技術学院(センター)”というあだ名で民 間に伝わっている。例えば北京大学は“円明園職業技術学院”に成り下がってし まった。その結果、産業化および大衆化した教育がどんどん社会へ不良品(人柄が 悪い、知識もない大学生)を生産し続けてしまった。 一般人の認識では、中国の現代の大学生というイメージはおそらく1989 年、つま り大学が学費を徴収するようになった時からの大学生を指すと思われる(その前は 学費はなかった)。1995 年に、大学の学生募集が爆発的に拡大し、今もその傾向 が続いている。人類の歴史の中で前例のない大学「大躍進」が始まったとも言え る。社会一般の観点から言えば、1980年代、1990年代に卒業した大学生が優良で、 特に80 年代に大学を卒業した人は(今日、彼らは中国社会の主力である)もっと も優れていると認められている。しかし、2000 年以降の中国の大学生は、まずは 数が多くて、価値が下がり、偏って成長したため、「大学生は国家のエリートで未 来の誇り」というアイデンティティは、このわずか数年で崩壊し、ジャンクの代名 詞と、堕落の化身となり、広範な社会からの批判のターゲットとなってしまった。   「中国現代の大学生の九つの罪」というブログの初掲載は2005 年8 月17 日であっ たが、その後多くの中国のウェブサイトに転載され、今日までも、高いクリックス ルー率である。「変な大学生」というサーチワードでネット検索すれば、大学生に ついての批判は数え切れない。昨今の大学生が如何なる状況かということを、2013 年07 月17 日の北京イブニングニュース(北京晩報)が「南都週刊」と「百度知 道」の共同調査の結果を引用して、「中国式の教育:変更または変更させる」とい うテーマで報告している。 その結果をみると、今の大学のキャンパスで勉強が忙しい大学生は1.1% 、恋愛で 忙しい大学生は28%、残りはボーっとして毎日を送っているようだ。私はこの中国 の現代の大学生とすでに10 年間付き合っている(私は2003年に帰国してからずっ と大学教育に携わってきた)。直接教えた大学生数は概算で5000人以上(今の大学 のクラスは大きく、100人以上は普通)。長い間大学教育の前線で働いてきた者と して、この「九つの罪」を自分の経験や個人的な調査をもとに分析してみたので報 告する。(つづく) --------------------------------------------------- <奇 錦峰(き・きんほう)Qi Jinfeng> 内モンゴル出身。2002年東京医科歯科大学より医学博士号を取得。専門は現代 薬理学、現在は中国広州中医薬大学の薬理学教授。SGRA会員。 --------------------------------------------------- 【3】第8回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) ■「近代日本美術史と近代中国」 下記の通り、第8回SGRAチャイナ・フォーラムを、11月22日(土)〜23日(日)に 北京で開催します。 参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局宛て、お名前・ご所属と連絡先をお知らせく ださい。 [email protected] SGRAでは、日本の民間人による公益活動を紹介するSGRAチャイナ・フォーラムを、 北京をはじめとする中国各地の大学等で毎年開催してきましたが、8回目の今回か らは、今までと趣向を変え、「清華東亜文化講座」のご協力をいただき、北京在住 の日本の社会や文化の研究者を対象として開催します。 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/8sgra.php 1日目:2014 年11月22 日(土)14時〜17時 於:中国社会科学院文学研究所 社科講堂第一会議室 プログラムは下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/SGRAChinaForum8Program1Japanese.pdf 2日目:2014 年11月22 日(土)14時〜17時 於:清華大学甲所第3会議室 プログラムは下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/SGRAChinaForum8Program2Japanese.pdf 【4】第6回SGRAカフェへのお誘い(再送) ■「アラブ/イスラムをもっと知ろう:シリア、スーダン、そしてイスラム国」 SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集ま りいただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回 は、「SGRAメンバーと話して世界をもっと知ろう」という主旨で、シリア出身のダ ルウィッシュ ホサムさんと、スーダン出身のアブディン モハメド オマルさんを 囲んで座談会を開催します。 参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局宛て、お名前・ご所属と連絡先をお知らせく ださい。 [email protected] 日時:2014 年12月20日(土)14時〜17時 会場:鹿島新館/渥美財団ホール(東京都文京区関口3-5-8) http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 会費:無料 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/6sgra.php ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第8回SGRAチャイナフォーラム<参加者募集中> 「近代日本美術史と近代中国」(2014年11月22/23日北京)  http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/8sgra.php 【2】第6回SGRAカフェ<参加者募集中> 「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(2014年12月20日東京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/6sgra.php 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会 員のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご 購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録し ていただくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡 ください。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事 務局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いた だけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Takeshi Kawasaki “Beyond Westphalia”

    *************************************************** SGRAかわらばん541号(2014年10月29日) 【1】エッセイ:川崎 剛「ウェストファリアの向こう側」 【2】第6回SGRAカフェへのお誘い(12月20日東京)   「アラブ/イスラームをもっと知ろう」 *************************************************** 【1】SGRAエッセイ#428 ■ 川崎 剛「ウェストファリアの向こう側」 ——第2回アジア未来会議のプールサイドから 会議に参加する皆さんの2 日前にバリ入りして、ホテルのプールサイドで潮風を楽し んでいたら、ベルギーからやってきたヴォルフガング・パペさん(Dr. Wolfgang Pape)と知り合った。飛行機の便の都合で会議のだいぶ前に着いてしまったそうだ。 欧州連合(EU)で長く働いた法律家。その日は夜遅くまで(プールサイドからバー に移って)、アジア(特に東北アジア)のことや欧州(特にEU圏)のことを話し た。お酒抜きでウェルカム・ドリンクのチケットで出てきたトロピカルジュースを飲 みながら。 国際情勢について、お互い勝手に意見をぶつけあったのだが、僕がウェストファリア 条約に触れた時、パペさんの雰囲気が何となく変わった。少しだけ語気を強めて 「ウェストファリアはもう古い。ウェストファリア体制は終わったんです」と語っ た。欧州統合で欧州人はウェストファリア体制のくびきから解放されたんだ‥、人々 は自由に移動できる‥、世界は変わりつつある‥、アジアはまだかもしれないけれど ‥。(それは正しい方向だという確信を彼に感じた。) 1648年にドイツのウェストファリアで三十年戦争の講和条約が結ばれた。これがウェ ストファリア条約として主権国家や内政不干渉などの原則をうたい、その後の国際法 を規定したというのが、僕たちの理解だ。絶対主義も帝国主義も、米ソ冷戦も9・11 ですら、見方はいろいろあるだろうが、ウェストファリア体制下の国際秩序のもとで の出来事だった、らしい。多くのアジア諸国も当然、何らかの形で欧米中心の国際秩 序に組み入られ、その中で植民地時代を経験し、独立を達成し、そして新興国家とし て発展してきた。 パペさんが「ウェストファリアはもう終わった」と語った文脈は、欧州の秩序確定以 来370年以上続いてきた西欧の国家主義は緩んで、融和に向かうEUの実験は後戻り することはない、人類は欧州の達成をスタートラインにして、歴史を前に進めるんだ ‥という意思を日本人(アジア人か)にもう一度思い起こさせたかったのだろう。E U圏内の「国境」はなくなり、統一通貨は実現した。ウェストファリア体制は次の何 かに変わらねばならない‥。 2014年8月22日に始まった第2回アジア未来会議の基調講演に立ったのは、シンガポー ル外務省のビラハリ・コーシカン無任所大使(Bilahari Kausikan)だった。「数百 年間にわたって途上国が西欧の価値と制度を基準として受け入れさせられてきた世界 の再編が起きている。そして、その中心は中国であり、中国がどのように変化するに しろ、それは中国独自の特性を持つ変化だろう」。コーシカンさんは、中国のさまざ まな「問題」を注意深く指摘しつつ、中国を中心にした新秩序を受け入れざるをえな い東アジア(そして世界)の未来図を描いた。 ウェストファリア体制がなくなっても、世界には別のウェストファリア(のようなも の)ができてくるのかも知れない。まだ形はよくわからないけれど。 会議2日目の分科会では、「これからの日本研究」に参加した。10分もらったけれど 早口なので、多分6分くらいで終わってしまったと思うが、「概論への意志」という ことを話した。 SGRAに集まっている多くの若い学者が、スペシャリストであると同時にジェネラリス トを指向し、早い段階で(協同でいいから)概論を試みること。新しく作られる概論 は国際性、同時代性をきっと持つだろうこと。概論は一般の読者にアクセス可能な知 の第一歩になりうるのではないか、ということ。 国際関係のもつれた糸をほぐす時に「歴史を忘れない」とよく言われる。その通りな のだが、最近僕はこうも考えるようになってきた。2015年は、日中・日米戦争に日本 が負けてから70年にあたる。戦争をはさむ歴史を生きた人々はとても少なくなってい る。そして、歴史を知らないことに不都合を感じなかったり(多い)、歴史を恣意的 に解釈したりする人々(ときどきいる)が増えてきた。だから、歴史は思い出される だけでなく、新しい世代によってリバイズされてもいいと思うのだ。(書き直すとい うと、誤解を招くだろう)。 村上春樹はさまざまな場所で、歴史について「集合的記憶」という表現を使ってい る。たとえば‥。 「僕らの記憶は、個人的な記憶と、集合的な記憶を合わせて作り上げられている」と 天吾は言った。「その二つは密接に絡み合っている。そして歴史とは集合的な記憶の ことなんだ。それを奪われると、あるいは書き換えられると、僕らは正当な人格を維 持していくことができなくなる」(村上春樹『1Q84』BOOK 1、 pp. 459-460、 2009年、新潮社) プールサイドでパペさんと、欧州の諸国民がその予兆にまったく気づかないまま、泥 沼にはまりこんでしまった第一次世界大戦の話になった。1914年のサラエボ事件から 100年。パペさんは欧州で評判になっている本を紹介してくれた。「Christopher Clark, “The Sleepwalkers: How Europe Went to War in 1914,” 2013, Penguin」。   帰国後紀伊國屋で見つけたので買った。クリストファー・クラークはケンブリッジ大 学の現代史(Modern History)の教授。細かい場面を精密に浮かび上がらせるととも に、大きな流れを読者にうまくつかませることに成功した、同世代人による見事な概 論だと僕は思う(拾い読みしかしていないのだけれど)。欧州人は、「すべての戦争 を終わらせるための戦争」と呼ばれた第一次世界大戦に、夢遊病者(sleepwalker) のようにさまよい歩いて入っていき、気がつくとそこから逃げることができなくなっ ていた。 歴史を生きた人々がいなくなる。歴史を新たに生きる者たちは、歴史を書き継ぐとと もに、時々リバイズして、僕たちにわかり、僕たちに読める歴史を書かなければなら ないと思う。もし僕たちが夢遊病者だとしたら、目を覚ますために。今度若い人たち と歴史について話してみたい、と思っている。 ---------------------------- <川崎剛(かわさき たけし)KAWASAKI Takeshi> 元朝日新聞アジアネットワーク(AAN)事務局長。早稲田大学教育学部卒。朝日新聞 の社会部員、外報部員、アメリカ総局員(ワシントン特派員)、ナイロビ支局長(ア フリカ特派員)、外報部次長、オピニオン編集部次長、ジャーナリスト学校主任研究 員などを歴任。1999-2000年スタンフォード大学ナイトフェロー。2010-11年マスコミ 倫理懇談会東京地区幹事。2014年7月よりフリー。津田塾大学非常勤講師。 ---------------------------- 【2】第6回SGRAカフェへのお誘い ■「アラブ/イスラムをもっと知ろう:シリア、スーダン、そしてイスラム国」 SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まり いただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回は、 「SGRAメンバーと話して世界をもっと知ろう」という主旨で、シリア出身のダル ウィッシュ ホサムさんと、スーダン出身のアブディン モハメド オマルさんを囲ん で座談会を開催します。 参加ご希望の方はSGRA事務局へお名前、ご所属、連絡用メールアドレスをご連絡くだ さい。 SGRA事務局: [email protected] -------------------------------------------------- 日時:2014 年12月20日(土)14時〜17時 会場:鹿島新館/渥美財団ホール(東京都文京区関口3-5-8) http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 会費:無料 --------------------------------------------------- (会場が今までと変わりましたのでご注意ください) 講師からのメッセージ: ■ダルウィッシュ ホサム Housam Darwisheh 「変貌するシリア危機と翻弄される人々」 シリアは今、未曾有の人道危機に直面しています。3年におよぶ戦闘により、死者は 20万人を超え、難民は400万人、国内避難民は1,100万人にのぼり、近隣諸国はシリア 難民の受け入れに対応できていません。 アサド体制と反体制派の多様なグループに よる戦闘が各地で続き、アメリカを中心とする有志連合がシリア北部で「イスラム 国」に対する空爆を行い、シリア危機はますます複雑な様相を見せています。日ごと に悪化する状況から脱する道は見えないままです。本発表では、シリア危機を取り上 げ、壊滅的な内戦に陥った背景、内戦の現況と今後の見通しについてお話しします。 ------------------------------ 1979年、シリア(ダマスカス)生まれ。2002年、ダマスカス大学英文学・言語学部学 士。2006年、東京外国語大学大学院地域文化研究科平和構築・紛争予防プログラム修 士。2010年同博士。東京外国語大学大学院講師・研究員を経て、2011年よりアジア経 済研究所中東研究グループ研究員。 ------------------------------ ■アブディン モハメド オマル Mohamed Omer Abdin 「なぜハルツームに春がこないか?:バシール政権の政治戦略分析を通して」 2011年に中東地域で始まった民主化要求運動(アラブの春)は、長い間続いてきた独 裁体制の崩壊、内戦ぼっ発、中央政権の弱体化等、様々な結果をもたらしました。国 によって、同じ運動が、なぜこのように多彩な結果をもたらしたかは、近年の国際政 治研究者の大きな関心事となっています。一方で、アラブの春の影響をほぼ受けな かった地域も存在します。本発表では、中東の周辺地域に位置するスーダン共和国を 事例に、現政権が、アラブの同国への波及を防止するために、どのような戦略をとっ てきたかを、スーダンを取り巻く内部的、外部的情勢の分析を通して明らかにしま す。 ------------------------------ 1978年、スーダン(ハルツーム)生まれ。2007年、東京外国語大学外国語学部日本課 程を卒業。2009年に同大学院の平和構築紛争予防修士プログラムを終了。2014年9月 に、同大学の大学院総合国際学研究科博士後期課程を終了し、博士号を取得。2014年 10月1日より、東京外国語大学で特任助教を務める。特定非営利活動法人スーダン障 碍者教育支援の会副代表。 ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第8回SGRAチャイナフォーラム<参加者募集中> 「近代日本美術史と近代中国」(2014年11月22/23日北京)  http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/8sgra.php 【2】第6回SGRAカフェ<参加者募集中> 「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(2014年12月20日東京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/6sgra.php 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Xie Zhihai ”How Cool Japan should be”

    ***************************************************** SGRAかわらばん540号(2014年10月22日) 【1】エッセイ:謝 志海「クールジャパンのあり方」 【2】第8回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い   「近代日本美術史と近代中国」(11月22/23日 北京) 【3】コラム紹介(AIJフォーラム):ボルジギン・フスレ   「モンゴルと関係を強化する中国・ロシア」 ****************************************************** 【1】SGRAエッセイ#427 ■ 謝 志海「クールジャパンのあり方」 2020年に東京でオリンピックが開催される事が決まり、日本では一層「クールジャパ ン」という言葉を耳にする。ここで強調したいのは、それが日本の中だけの話題だと いうこと。クールジャパンの動きは海外ではどれほど浸透しているのだろうか。日本 ではクールジャパンという言葉ばかりが先走っている気さえしてくる。「具体的には 何をしているの?」と思っている人もいるかもしれない。そしてそれが日本政府主導 ということまで知っている日本人は案外少ないかもしれない。 日本に住む日本人にとって生活に関わるものほぼ全て、衣食住に限らず公共交通機関 をはじめとした安全で便利な暮らしが出来ていることは、当たり前のことだ。しかし 外国人にとっては快適便利な暮らしこそがクールなのである。日本政府が旗振り役に なって世界に発信しているクールジャパンはアニメ、アイドル、日本食に傾倒し過ぎ ているように感じる。しかしそれらは、日本通の外国人達にとっては、新しいもので も何でもない。インターネットの普及により、彼らは見たいもの、欲しいものを自国 にいながらいつでも手に入れられるからだ。日本政府が民間企業と手を組みクール ジャパンを促進するのなら、すでに海外に進出している民間企業が新規開拓に行き詰 まっていたりする場合の手助けをする方がよいのではないだろうか。 海外では日本車が走り回り、ポッキー(お菓子)もマルちゃんのインスタントラーメン も手に入る。これらはクールジャパンという言葉が使われる前から、海外に果敢に販 路を求めてきた日本企業の努力の賜物だと思う。しかし時は過ぎ、韓国や中国の家電 メーカーの台頭により、昨今日本の存在は弱くなったと言われている。そして、その ようにマスコミが煽るから、ますます日本国民の元気がなくなるのではないか。これ は実にもったいないことである。中国人にとっては、自動車や家電以外にも売り込め る魅力的な物を沢山持っている日本の企業たちは、なんてパワフルなんだ!と感心せ ずにはいられないのに。 日本の民間企業はまだまだ底知れぬパワーを持っているのだ。日本で生活する外国人 からすると、日本はまだまだクールジャパンを活かしきれていないように思う。日本 の製品が海外で認知されているのは、ただ単に製品を輸出するだけでなく、便利さと いう付加価値と現地のニーズに合わせたものづくりをしているからではないだろう か?現地化というのは、欧米の企業も入念なマーケティング等の調査をしているはず だが、使いやすさ、例えばパッケージの開けやすさ一つをとっても日本の技術は世界 のトップと言っても過言ではないだろう。これはもう細部にも手を抜かない日本の文 化だと思う。例えば、「よその国はインスタントラーメンの粉末スープやソースの パッケージの開けやすさに、そこまでこだわらないし、期待してもいない」というス タンスではなく、自分たち(日本人)が快適と思えるレベルまで掘り下げて商品開発し ている。そしてどの国の人も結局は便利なものに手が伸びるのだ。いつしかこの便利 さが世界のスタンダードになるかもしれない。 その他の例では、日本人のドラマ、映画離れがあるかもしれない。日本人が熱狂しな ければ、世界でも認知度は低いだろう。現在ドラマと映画のようなエンターテイメン トはアメリカと韓国に大きく水をあけられている。クールジャパンとして、今は、す でにおなじみの日本のアニメを海外で放映しているようだが、先述の通り、少しでも 興味があれば今はインターネットを通して何でも手に入れられる時代だ、新鮮さがな い。「クールジャパン=漫画、ドラマ、アイドル」だと思うなら、さらに新しいもの を生み出せる環境や資金を整えてあげる方が良いのではないか。 では今後どういった文化を売り込めるのか?サービスやホスピタリティではないだろ うか。サービスというと先述のパッケージの開けやすさなどは、日本のお家芸とも言 えるだろう。同じく赤ちゃんのオムツや介護用品も企業が使いやすさを日々研究して いて、すでに海外にもどんどん進出している。ホスピタリティというと、世界の先頭 をきって走っている高齢化と、流行語「お・も・て・な・し」にヒントがあるかもし れない。日本中に星の数ほどあるかと思われる老人介護施設、それぞれが独自のサー ビスを行っている。日本には老いも若きも安全で便利に暮らせるシステムがある。海 外ではなかなか同等の快適さは得られないのだ。 最後に、クールジャパンと言って表に出ることばかり考えているだけではいけないと 思う。まずは日本の若者に向けてクールジャパンをして、自分たちが今の日本文化を 作り上げ、牽引していく立場だという意識を持ってもらうのも近道かもしれない。 ------------------------- <謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai> 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログ ラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期 課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交 流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年 4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されてい る。 ------------------------- 【2】第8回SGRAチャイナ・フォーラム「近代日本美術史と近代中国」ご案内 下記の通り、第8回SGRAチャイナ・フォーラムを、11月22日(土)〜23日(日)に北 京で開催します。参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局( [email protected] )宛て、お名前と連絡先をお知らせください。 SGRAでは、日本の民間人による公益活動を紹介するSGRAチャイナ・フォーラムを、北 京をはじめとする中国各地の大学等で毎年開催してきましたが、8回目の今回から は、今までと趣向を変え、「清華東亜文化講座」のご協力をいただき、北京在住の日 本の社会や文化の研究者を対象として開催します。 主催: 渥美国際交流奨学財団関口グローバル研究会(SGRA)    中国社会科学院文学研究所、清華東亜文化講座 協力: 中国社会科学院日本研究所 助成: 国際交流基金北京日本文化センター、鹿島美術財団 ○フォーラムの趣旨: 「美術」とその一部とみなされる「工芸」は、用語の誕生から「制度」としての「美 術」「工芸」の成立まで日本の「近代」と深い関係にあり、そして近代中国にも深い 影響を与えた。「美術」と「工芸」は、漢字圏文化と西洋文化との関係・葛藤を表し ていると同時に、日中両国のナショナリズム、国民国家の展開・葛藤とも深い関係に ある。一方、「美術」と「工芸」の展開の仕方や意味づけにおける日中の違いも無視 できない。この違いはほかならず日中の「近代」の違いでもある。 本フォーラムは、美術史学と文学史・文化史の視点から日中両国の「近代」に焦点を 当て、日本からの研究者の講演を中心に、中国の研究者の討論も交え、1日目は中国 社会科学院文学研究所、2日目は清華大学で開催し、従来活発であったとはいえない 日中近代美術・文化史研究交流のさきがけとなることを目指します。日中同時通訳付 き。 ○プログラム 1日目:2014 年11月22 日(土)14時〜17時 於:中国社会科学院文学研究所 社科講堂第一会議室 講演1:佐藤道信「近代の超克—東アジア美術史は可能か」 講演2:木田拓也「工芸家が夢みたアジア:<東洋>と<日本>のはざまで」 1日目プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/SGRAChinaForum8Program1Japanese.pdf 2日目:2014 年11月22 日(土)14時〜17時 於:清華大学甲所第3会議室 講演1:佐藤道信「脱亜入欧のハイブリッド:「日本画」「西洋画」、過去・現在」 講演2:木田拓也「近代日本における<工芸>ジャンルの成立:工芸家がめざしたも の」 2日目プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/SGRAChinaForum8Program2Japanese.pdf 【3】コラム紹介(AIJフォーラム) SGRA会員で昭和女子大学准教授のフスレさんよりAIJフォーラムに掲載されたコラム をお知らせいただきましたので、ご紹介します。 ■ボルジギン・フスレ「モンゴルと関係を強化する中国・ロシア」 今年4月、米国のヘーゲル国防長官がモンゴルを訪問、7月にはモンゴルのエルベグド ルジ大統領が日本を訪問した。モンゴルの隣国、中国の習近平国家主席は、国交65 周年に際して8月24日から25日までモンゴルを訪問、ロシアのプーチン大統領も9月3 日に訪問した。モンゴルと大国との間で活発な外交が繰り広げられ、モンゴルの地政 学上また資源戦略上の重要性が注目を集めている。 冷戦後、モンゴルの対外政策の基本方針は「2大隣国である中国、ロシアのどちらに も偏らず、バランスのとれた関係を構築するとともに、『第3の隣国』との関係を強 化するという多元的な外交を進め、いかなる軍事同盟にも加盟しない」というもの だ。「第3の隣国」とは日本や欧米のことで、この方針は国際的に高く評価されてい る。 しかし経済においては、隣国である中国やロシアの影響からは抜け出せないのが現実 だ。1999年から2013年まで、中国は連続15年間、モンゴル最大の貿易相手国であり投 資国である。ロシアも、モンゴルでのエネルギー資源の開発などあらゆる分野の権益 を回復しつづけている。中国とロシアは、投資、貿易額の6割以上を占めている。さ らに政治、軍事においても、この2大パワーからのインパクトを受けざるを得なく なっている。 続きは下記リンクよりお読みいただけます。 日本語版(10月20日掲載) http://www.asahi.com/shimbun/aan/column/20141020.html 英語版(10月8日掲載) http://ajw.asahi.com/article/forum/politics_and_economy/east_asia/AJ20141008 0045 http://www.asahi.com/shimbun/aan/english/column/ ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第8回SGRAチャイナフォーラム<参加者募集中> 「近代日本美術史と近代中国」(2014年11月22日北京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/8sgra.php 【2】第6回SGRAカフェ<ご予定ください> 「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(2014年12月20日東京) 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Yeh Wenchang “National Flag”; Sun Jianjun “AFC#2 Round Table Discussion Report”

    ******************************************************** SGRAかわらばん539号(2014年10月15日) 【1】エッセイ:葉 文昌「国旗」 【2】活動報告:孫 建軍「第2回アジア未来会議円卓会議報告」      『これからの日本研究:学術共同体の夢に向かって』 ********************************************************* 【1】SGRAエッセイ#426 ■ 葉 文昌「国旗」 今年のお正月に台湾へ帰国した時のことである。台湾の元旦では早朝に総統府前で政 府主催の国旗掲揚大会があり、愛国的な人達が国内外から集まって、国歌を歌ったり して中華民国の新年を祝う。なかには中華民国の国旗をモチーフにした、鮮やかな 藍、赤、白からなるマフラーなどの装着品を身に着けていたりする。 台湾ではこういうことが愛国的とみなされる。すでに国外へ移住している人達でも、 この日に戻ってきて国旗を振って「愛台湾」とでも口にすれば、台湾の人々はこの人 達を愛国者と認定する。または外国人がその場で国旗を振れば、写真がクローズアッ プされて翌日のニュースには「愛台湾的外国人」として報道されるであろう。 こういう光景を見ると、私は口先だけ「I love you」の軽い人間を思い浮かべてしま う。或は一昔前のドラマの中の「同情するなら金をくれ」の名セリフ。口先なら誰で もできる。でも国旗を全身に纏っていようが、感無量で涙を流して国歌を歌おうが、 それは国を利する行為とは関係ないはずだ。 社会での役割を全うしていれば、それで社会に貢献していることになる。海外へ移住 している人は台湾では働いていないのだから、彼らがお祭の時に戻ってきて愛国と主 張しても私は共感できない。台湾で真面目に働いていれば、それは台湾の社会に尽く していることになる。今や台湾の社会に貢献している人は、国籍が台湾とは限らな い。外国人配偶者や外国人労働者も多くいる。外国人でも社会に求められて真面目に その役割を全うしていれば、それ以上の愛国はないと私は思う。 世の中では、象徴的で表面的なことばかりが礼讃されているようだと私は悲しい気持 ちになる。象徴的で表面的なものが嫌いな私は台湾では国歌を歌いたくないし、国旗 への敬礼もしたくない。もちろん、私に国や社会に対する愛がないわけではない。し かし、世の中でうわべで判断されている価値観から見ると、私は非国民のレッテルを 貼られてしまうだろう。 私のこのような考えは日本で培った部分が大きい。日本が近隣アジア諸国と比べて国 家の象徴に対して狂信的ではない所に日本社会の先進性を感じていた。しかし日本も ここ数年で少し変化しているようである。今でも近隣諸国と比較して先進的であるこ とは確かではあるが、冒頭で示した私が嫌う価値観に近づく方向へ進むのは、やはり 後退と言える。 私も今や日本社会の一員となった。自分が所属する社会に貢献し、その発展を願って いるのは言うまでもない。この先、グローバル化に伴って国際的な人々の往来が盛ん になるのは確実である。日本に居住する外国人も、外国に居住する日本人も増えてい くはずだ。このような状況の中では、国籍や人種はあまり意味を持たなくなりつつあ ると私は思う。どの国であっても、うわべの行動や、国籍や人種だけでその国や社会 への忠誠を判断されることがないことを願っている。 ----------------------------------------- <葉 文昌(よう・ぶんしょう)Yeh Wenchang> SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾 へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教 授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。 ----------------------------------------- 【2】活動報告 ■ 孫 建軍「第2回アジア未来会議円卓会議『これからの日本研究:学術共同体の夢 に向かって』実施報告書 」 本円卓会議は、漢字圏を中心としたアジア各地の日本研究機関に所属する研究者が集 まり、グローバル時代における日本研究のあり方について議論する場として、第1回 に引き続き、第2回アジア未来会議の二日目に開催された。会議は日本語で行われ、 円卓を囲んだ10名の発表者と討論者、および各地から駆けつけた多くのオブザーバー が参加した。 円卓会議は2部からなり、前半は提案の代読及び指定発表者の報告であった。提案者 である早稲田大学劉傑教授は都合で来場できなかったが、提案は文章として寄せら れ、司会者の桜美林大学李恩民教授によって代読された。内容は主に四つの部分から なり、(1)未来に向けての「東アジア学術共同体」の意味、(2)「東アジア学術共同 体」の実験として、「日本研究」を設定することの意味、(3)アジアないし世界が共 有できる「日本研究」とはどのようなものなのか、そして(4)東アジアの日本研究の 仕組みをどのように構築していくのか、というものだった。 続いて、4人の指定報告者による報告が行なわれ、日本を除く東アジア地域の代表的 な日本研究所の歴史や活動などの最新情報が紹介された。ソウル大学日本研究所の南 基正副教授は、当研究所で展開中のHK企画研究の紹介を通じた企業との連携の実績 や、次世代研究者の養成に力を入れていることを紹介した。復旦大学日本研究所の徐 静波教授は、日本の総領事館や企業の支援を受けることは、レベルの高い日本研究を 維持していく重要な前提であると語った。中国社会科学院日本研究所の張建立副研究 員からは、中国一を誇る研究陣営、政府のシンクタンクの役割を十分果たす国家レベ ルの研究所の紹介があった。台湾大学の辻本雅史教授は、発足したばかりの台湾大学 文学院日本研究センターを紹介し諸機関との連携を呼びかけた。 後半は北京大学准教授で早稲田大学孔子学院長を兼任している私の司会で始まり、6 名の指定討論者からコメントがあった。中国社会科学院文学研究所の趙京華研究員は 日本研究の厳しい現状を報告した上で、学術共同体という言葉遣いに疑問を投げかけ た。学術共同体を目指すのではなく、東アジア各国の間における軽蔑感情を取り除く べく、問題意識の共有を提案した。また、他者を意識させかねないことを防ぐため、 他分野の学者も討論に呼ぶべきだと提案した。北京大学外国語学院の王京副教授も、 学術共同体は外部が必要なため派閥が生まれやすいと指摘した。また、統合されてい ない北京大学における日本研究の現状を例に挙げ、情報共有の大切さを訴えた。 韓国国民大学日本研究所の李元徳教授は学術共同体を目指す提案者の意見に賛同する 一方、日中韓の間における独自の問題を指摘した。また衰退しつつある韓国の日本研 究は、魅力をなくしつつある日本に起因することを慨嘆した。ジャーナリストの川崎 剛氏は東アジアの概論の必要性を訴えた。SGRA今西淳子代表は、関口グローバル研究 会として組織ではなく人の繋がりを心がけ、小さいながらも大きな組織の間を繋ぐ触 媒的な存在でありたいと説明した。「学術共同体」については、中国大陸の学者の反 対的意見を尊重し、使用を控えたほうがよいと語った。一方で、提案者劉傑教授の意 図は既にある情報インフラをもっと活用できないかという観点からであると補足説明 し、相互情報交換に力を入れる意向を明らかにした。また日本は魅力をなくしたとは 言い切れないと指摘した。中国社会科学院文学研究所の董炳月研究員は、学術から出 発して国家概念を超えた協力関係の構築を提案した。最後に台湾中央研究院の林泉忠 副研究員は日本研究の厳しい現状の再確認を促し、一刻も早く苦境の脱出を図らなけ ればならないと指摘した。 円卓会議にはアジアのほかの地域の学者も参加し、タイ、インドなどからの学者の発 言もあった。話題は日本研究のみではなく、各大学の教育現場における新しい動向や 悩みにまで及び、予定時刻を若干オーバーして有意義な意見交換を行った。今までの 2回の議論を踏まえて、多くの参加者は、第3回アジア未来会議の場においても、引き 続きこのようなセッションを設けてほしいと望んでいる。 ------------------------------- <孫建軍 Sun Jianjun> 1969年生まれ。1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課 程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研 究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。現在早稲田大学 社会科学学術院客員准教授、早稲田大学孔子学院中国側院長を兼任中。専門は日本語 学、近代日中語彙交流史。 ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第3回SGRAふくしまスタディツアー 『飯舘村、あれから3年』(2014年10月17日〜19日) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/33.php 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム<ご予定ください> 『近代日本美術史と近代中国』 (2014年11月22日北京) 【3】第6回SGRAカフェ⇒調整中 【4】第7回SGRAカフェ<ご予定ください> 『アラブ/イスラームをもっと知ろう』 (2014年12月20日東京) 【5】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 『ダイナミックなアジア経済—物流を中心に』 (2015年2月7日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Maquito “Manila Report @ Chicago”; Husel “Ulaanbaatar Symposium #7 Report”

    *************************************************************** SGRAかわらばん538号(2014年10月8日) 【1】エッセイ:マキト「マニラレポート@シカゴ:資本主義の多様性」 【2】活動報告:フスレ「第7回ウランバートル国際会議報告」        『総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争』 *************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#425 ■マックス マキト「マニラレポート@シカゴ:資本主義の多様性」 SGRAの共有型成長セミナーとテンプル大学ジャパンから支援を受け、2014年7月10日 から12日までシカゴ大学とノースウェスタン大学で開催された国際学会に参加した。 この会議は、フランスに本拠を置く「社会経済学の推進協会(SASE)」という学際的 な学会により「資本主義の基礎」というテーマで主催され、僕の研究やSGRAの学際的 な方針と合いそうなので、大変忙しい日程にもかかわらず参加を決めた。大変という のは、テンプル大学ジャパンはまだ夏学期中だったので、その合間をぬって東京とシ カゴを4日間で往復するというハードな日程のことだ。久しぶりのアメリカだし、長 い空路では放射能を多めに浴びるし、移民した家族や、幼いころの友人たちに再会で きるので、行くとしたらもう少しのんびりしたかったのだが、今回は無理だった。 僕の発表は、国士舘大学の平川均教授(名古屋大学名誉教授)と共同で2年前に実施し たフィリピン企業の調査報告に基づいて、「共有型成長のDNAの追求:フィリピンの 優れた製造企業の調査」というタイトルの論文だった。共有型成長というのは、経済 が成長しながら格差が縮む発展パターンであり、1993年に世界銀行が発表した「東ア ジアの奇跡」という報告によれば、日本を含む8か国/地域の東アジア経済が戦後の数 十年間に実現したものとされている。 SASEのシカゴ会議は、25を超える研究ネットワークに属する800人ぐらいの参加者で 構成されていた。僕は「アジア資本主義」という研究ネットワークに参加することに した。発表の前半では、この研究のきっかけともなった「東アジアの奇跡」報告から 僕が得た2つのビジョンを説明した。後半には、数年間をかけて共有型成長のDNAとい うべきものを追い求めた最新の研究結果を発表したが、長すぎるのでこのエッセイで は省略する。 第1のビジョンは、「共有型成長経済学」である。経済学では、2つのことを主な目標 としている。効率性(EFFICIENCY)と公平性(EQUITY)である。その他にも目標とすべき ものもあるが、今回は、共有型成長の話なので、この2つを取り上げる。共有型成長 経済学は、今の主流とされている新古典派経済学(市場万能主義)と同様に、市場の大 事な役割を否定してはいないが、新古典派より政府の戦略的な産業政策を重要として いる。効率性を重視しがちの新古典派より、効率性と公平性を同等に重視していると いえるだろう。近代経済学でよく言われるように、効率性と公平性の間にはトレード オフがあり、一方を重視すると、もう一方が犠牲になる。(1回目の)冷戦中の国際 対立国を事例とすれば、公平性を重んじた旧ソ連と中国の経済成長の方が最初はよ かったが、結局低迷してしまい、市場経済への移行を決めた。一方、米国は効率性を 重んじて、国として最大のGDPを生み出したが、格差が大きな課題になっている。 *1回目の冷戦が終結したのは1980年代だったが、現在2回目の冷戦が発生しようとす るところだと僕は思う。間違っていたら嬉しい。 第2のビジョンは、「共有型成長資本主義」である。こちらはもう少し政治的な色が 濃い。(1回目の)冷戦終結後、国際的な対立は、市場経済VS中央計画経済から、資本 主義VS資本主義という次元に焦点が転換した。そのバトルの1つは、アングロ・アメ リカが強調するA型資本主義であり、もう1つは日本が強調したJ型資本主義であっ た。冷戦の勝利は資本主義にあるという宣言から、A型資本主義が津波のように世界 中に襲来したが、防波堤で防ごうとした国の1つが日本だった。「東アジア奇跡」報 告は、日本が自ら行った、資本主義の中に多様性を保全しようとする活動だったと見 なしても過言ではない。 残念ながら、この「東アジアの奇跡」やその2つのビジョンは、この数年間忘れられ ている。経済成長または効率性が過剰に強調され、日本でさえも格差が広がって、 OECD諸国のなかでも貧困率が高い国になってしまった。 これでは、日本経済への関心が更に薄れて行く。日本経済を研究する人がいなくな る。シカゴの学会の「アジア資本主義」研究ネットワークでも、名前を「中国資本主 義」に変えてもいいぐらい中国の研究が支配的だった。日本の共有型成長の経験と違 い、中国では、目覚ましい成長を遂げているが、格差が拡大している。それを幾ら僕 が指摘しても、日本の研究者を含めて「西側」の研究者は中国の資本主義に魅了され ており、日本の資本主義に比較的無関心だという印象を受けた。日本企業を含めて欧 米の企業が、中国の市場に魅了されて、他の国に全く関心を向けなかったのと同様の 光景だった。どちらかというと、中国の研究者のほうが、日本の資本主義に興味を見 せていた。いずれにせよ、僕は、これからも、この学会で、日本の独自性を出来る限 り発揮させていきたい。幸い、来年のSASE学会のテーマはまさに「公平性」であるの で、今から作戦を練って準備しておきたい。 SGRA設立当初、「日本の独自性」という研究チームのリーダーを務めたことがある。 狙いはもちろん「多様性の中の調和」である。A型資本主義にせよ、J型資本主義にせ よ、C型資本主義にせよ、それぞれに欠点があり、完璧なものではない。というか、 完璧な資本主義はこの世の中にどこにもなく、これからも出てこない。ただ、多様性 を無くすのは、自然界ではもちろん、社会システムでも危険な行為だと、僕たちは認 識しなければならない。 第2回アジア未来会議のテーマ「多様性と調和」を達成するには、少なくとも2つの原 理が不可欠であると思う。1つは、GDPや一人当たりGDPや人口などと関係なく、どん な小さな国でも、尊重すべきだという原理である。もう1つは、過剰な競争より国と 国の間の協力を促す原理である。一見当たり前な原理だが、政府や企業や研究者など が意外と見落としているところである。僕は、SGRAのような民間の非営利・非政府団 体に期待している。みなさん、しっかりと多様性の中の調和を実現させましょう。 -------------------------- <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表。フィリピン大学機械 工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学) 産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学CRCの研究顧問。テ ンプル大学ジャパン講師。 -------------------------- 【2】活動報告 ■ボルジギン・フスレ「第7回ウランバートル国際シンポジウム『総合研究——ハル ハ河・ノモンハン戦争』報告」 2014年は、ハルハ河・ノモンハン戦争後75年にあたる。これを記念して、モンゴルと ロシアで、さまざまな記念行事やシンポジウムがおこなわれた。そのなか、モンゴル 国立大学モンゴル研究所とモンゴルの歴史と文化研究会主催、渥美国際交流財団助 成、在モンゴル日本大使館、モンゴル・日本人材開発センター、ハル・スルド モン ゴル軍事史研究者連合会、モンゴル国立大学プレス・パブリッシング社後援の第7回 ウランバートル国際シンポジウム「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」が8月 9、10日にウランバートルで開催された。 謎に満ちたハルハ河・ノモンハン戦争は歴史上あまり知られていない局地戦であった にもかかわらず、20世紀における歴史的意義を帯びており、太平洋戦争の序曲であっ たと評価されている。1991年、東京におけるシンポジウムによって研究は飛躍的に進 み、2009年のウランバートル・シンポジウム(SGRAとモンゴル国家文書管理総局、モ ンゴル科学アカデミー歴史研究所共催)ではさらに画期的な展開をみせた。しかし、 国際的なコンテキストの視点からみると、これまでの研究は、伝統的な公式見解のく りかえしになることが多く、解明されていない問題が未だ多く残されている。立場や 視点が異なるとしても、お互いの間を隔てている壁を乗りこえて、共有しうる史料に 基づいて歴史の真相を検証・討論することは、歴史研究者に課せられた使命である。 そのため、私たちは今回のシンポジウムを企画した。 本シンポジウムは、北東アジア地域史という枠組みのなかで、同地域をめぐる諸国の 力関係、軍事秩序、地政学的特徴、ハルハ河・ノモンハン戦争の遠因、開戦および停 戦にいたるまでのプロセス、その後の関係諸国の戦略などに焦点をあて、慎重な検討 をおこないながら、総合的透視と把握をすることを目的とした。 私は8月3日にウランバートルに着いた。6月末に予約したのだが、希望日の便が取れ なかった。今は、モンゴルの鉱山開発やモンゴルへの旅行などはたいへん人気があっ て、夏の便は3ヶ月以上前にとるべきだと言われているが、その通りだった。 日本と対照的に、モンゴルでは、新聞を読んでも、テレビのニュースを見ても、ハル ハ河戦争勝利75周年と関係する報道が多く、街に出ても、「ハルハ河戦争勝利75周年 記念」の幕が飾られており、国全体がお祝いムードになっていた。 8月8日の午前中に、モンゴル国立大学モンゴル研究所長J. バトイレードゥイ氏と打 ち合わせをした際、急にTV2テレビ局から連絡があって、急遽車で同社に向かい、取 材を受けた。同社はその日の夜と翌日の朝、2回も報道した。 9日午前、モンゴル・日本人材開発センター多目的室で第7回ウランバートル国際シン ポジウムの開会式がおこなわれ、在モンゴル日本大使清水尊則氏、モンゴル国立大学 長A. ガルトバヤル氏、国際モンゴル学会事務総長・モンゴル科学アカデミー会員D. トゥムルトゴー氏、モンゴル国立大学歴史学術院長P. デルゲルジャルガル氏が挨拶 をした。 開会式の後、研究報告をおこなった。午前の会議では、P. デルゲルジャルガル氏が 座長をつとめ、6本の論文が発表された。午後の会議では、モンゴル防衛研究所教授 G. ミャグマルサンボー氏とモンゴル科学アカデミー歴史研究所教授O. バトサインハ ン氏が座長をつとめ、12本の論文が発表された。その後おこなったディスカッション では、ウランバートル大学教授ダシダワー氏と私が座長をつとめた。 会議には、モンゴル、日本、中国、ロシア、ハンガリー、チェコ等の国からの研究者 70人あまりが参加し、活発な議論が展開された。「最近、モンゴルの研究者は、あま りにも外国の研究者の主張に従い過ぎる」「モンゴル人研究者は独自の主張を持つべ きだ」と、若手研究者の研究を批判する者がいれば、「未だ30年前の古い立場に立っ ている」と反論する研究者もいる。また、「モンゴル人の立場から見れば、ハルハ河 戦争とはハルハとバルガの統一運動の一つの過程であった」「この統 一の運動を分断するため、ソ連と日本が同戦争をおこなった」という日本人の研究者 のかんがえ方に対して、「モンゴルでは、だれもそう考えていない」と批判する声も あった。さらに、世界ハルハ河・ノモンハン戦争研究会を組織するという提案があ り、全員の賛成を得た。ハルハ河・ノモンハン戦争の原因や結末、戦争の名称等をめ ぐって、各国の研究者のかんがえ方が大きく対立していることがしめされ、さまざま な課題はまだ残されている。 同日の夜、在モンゴル日本大使館で、同大使館と渥美国際交流財団共催の招待宴会が おこなわれ、清水大使と私が挨拶をし、一橋大学名誉教授田中克彦氏が乾杯の音頭を とった。参加者は歓談しながら、日本食を賞味した。 10日午前、参加者はジューコフ記念館を見学した。その後に行ったモンゴル軍事史博 物館でも、各国の研究者の間では議論がつづき、また今後の学術交流などについても 意見を交換した。午後からは、ウランバートル郊外のチンギスーン・フレーで、モン ゴル国立大学モンゴル研究所主催の招待宴会がおこなわれた。 同シンポジウムについて、モンゴル国営通信社などモンゴルとロシアのテレビ局十数 社が報道した。 当日の写真は下記リンクからご覧ください。 www.aisf.or.jp/sgra/photos/index.php?spgmGal=The_7th_Mongol_2014_by_Husel ---------------------------- <ボルジギン・フスレ Borjigin Husel> 昭和女子大学人間文化学部国際学科准教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006年 東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。昭和女子大学 非常勤講師、東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員をへ て、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945〜49年)——民 族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、共編『ノモンハン事件(ハルハ 河会戦)70周年——2009年ウランバートル国際シンポジウム報告論文集』(風響社、 2010年)、『内モンゴル西部地域民間土地・寺院関係資料集』(風響社、2011年)、 『20世紀におけるモンゴル諸族の歴史と文化——2011年ウランバートル国際シンポジ ウム報告論文集』(風響社、2012年)、『ハルハ河・ノモンハン戦争と国際関係』(三 元社、2013年)他。 ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第3回SGRAふくしまスタディツアー 『飯舘村、あれから3年』(2014年10月17日〜19日) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/33.php 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム<ご予定ください> 『近代日本美術史と近代中国』 (2014年11月22日北京) 【3】第6回SGRAカフェ⇒調整中 【4】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 『ダイナミックなアジア経済—物流を中心に』 (2015年2月7日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Virag Viktor ”What do young generations make of

    ***************************************************** SGRAかわらばん537号(2014年10月1日) 【1】エッセイ:ヴィラーグ・ヴィクトル  「福島の人災からの教訓を若い世代はどう活かしていくか」   −第2回アジア未来会議:ふくしまセッションから− 【2】第3回ふくしまスタディツアー参加者募集 「飯舘村、あれから3年」10月17日(金)〜19日(日) ***************************************************** 【1】SGRAエッセイ#424 ■ ヴィラーグ・ヴィクトル「福島の人災からの教訓を若い世代はどのように活かし ていくのか」 −第2回アジア未来会議:ふくしまセッションから− 第2回アジア未来会議の2日目に、福島原発事故に関する展示とトーク・セッション開 催されました。このセッションでは「Fukushima and its Aftermath: Lessons from a Man-made Disaster」 (フクシマとその後:人災からの教訓)というテーマを設けて、一方的な発表よりも 参加型のディスカッションを重視しました。 開催のきっかけは、放射能汚染の影響を強く受け避難区域に指定されている福島県飯 舘村への2回の訪問です。SGRAが2012年と2013年に主催したスタディツアーで「知っ た・感じた・考えた」ことを基にした様々な思いについて、インドネシアをはじめと した海外の皆さんとシェアしたくて、本企画の実施に至りました。 会場は一日中オープンの展示場のように設置しました。具体的な内容は、スタディツ アーを題材にしたショート・ドキュメンタリー映像や、参加者が撮った写真をプロ ジェクターで映す、もしくは展示するというものでした。本展示を観た参加者も巻き 込んで、午後からトーク・セッションを設けました。 飯舘村、とりわけ村民が直面しているあらゆる困難、また村へのSGRAの訪問活動につ いて簡単に報告してから、SGRAメンバーの震災時の個人的な経験や日常生活の中で とっている放射能対策を紹介しました。この中から「人災」、「原発事故」、「放射 能被害」、「強制避難」、「除染」などのキーワードが挙がり、これらを軸にフリー トークが進みました。 フロアからの多数の質問に答えながら、各参加者の国では原発事故を契機に日本のイ メージがどのように変わったか、放射能問題及び日本政府の対応をどのように考えて いるのか、等々について発言してもらいました。日本人参加者の中には、被災地の親 戚や知り合いの体験や苦労を話してくださった方もいました。本来は、電力不足問 題、原子力の今後の可能性とそのリスクを巡る議論と意見の共有まで発展する予定で したが、今回のセッションでは時間の制約があり、議論が及ばなかったことが残念で した。  主催側として最も嬉しかったのは今回の会議の会場である、インドネシアバリ島のウ ダヤナ大学の学生の積極的な参加です。トークに参加した学生が非常に高い関心を もって、是非まわりの人にも展示をみせたいという気持ちから、休憩中に友人を連れ てきました。筆者はこの2人と長く話を交わす機会がありましたが、なぜ原発問題を 重要な課題として捉えているかという問いに対する答えを聞いて、なるほどと思いま した。 この2人は、大学院で電子工学と都市計画を学んでいるそうです。まさしく放射能の リスクと防災及び災害復興をこれから真剣に考えなければならない立場です。しか も、インドネシアは日本と違って、人口構成的にも経済的な活力の面からみてもまだ 若い社会で、若者は「自分たちが国の将来を担っていくんだ。自分たちが今後のイン ドネシアを作っていくんだ」という意識が日本の若者と比べて顕著です。できるだけ 「良い国」を作りたいという思いが強いのです。 2人の大学院生によれば、今後グローバル経済の中で急速な発展が期待される新興国 インドネシアは、産業や生産量の拡大と生活水準の向上によって徐々に電力不足に直 面し始めており、原子力発電所の建設も実際に検討されています。関連する政策に今 後直接的に関わっていく可能性が充分ある若い知識層は、日本で発生した原発事故を どのように考え、そこから何を学べるのでしょうか。 地球規模の極めて重要な問いですから、無論、答えが簡単に出るはずがありません。 しかし、本セッションの題名が示すように「人災からの教訓」という観点から日本の 経験を紹介し、それについて考える機会を提供したことで、今後の議論の継続に多少 の貢献はできたと考えています。「映像」という媒体には言葉をはるかに越えた迫力 があり、参加した若者に強い印象を与えたと思います。近年のインドネシアにおいて 話題性、そして緊急の課題性のある原子力問題について、彼らが真剣に考え続け、意 見を形成していくプロセスを歩んでいくことは間違いありません。それによってイン ドネシア国内の議論が少しでも活発になるとを望みます。 日本国内でも原子力発電所の再稼働がずっと話題として残されたままです。一方、脱 原発を主張する動きも続いています。しかし、建設的な議論を進められるような形で 両サイドの間に対話が成り立ちにくい印象もしばしば受けます。非常に重要な問題で あるが故に、感情的になりやすい面もあります。例えば、最近は脱原発の意見を表明 しただけで、一部の利害関係者から「反日」のレッテルを貼られてしまうことすら起 きています。同じく、原発反対を訴える多くの人々が、数字で示せる現実的な代替案 を提示することに失敗しています。筆者はこのようなレッテル貼りや感情論に偏った 議論の流れに危機感を覚えざるを得ません。現在の対立が今後は事実と客観的なデー タに基づいた冷静な議論に発展していくことを期待します。また、その議論に若い世 代にもどんどん関わって欲しいと思います。 ほぼ一年前のSGRAかわらばんで配信した第2回SGRAふくしまスタディツアーの報告の 際にも触れたので、最後に今回も母国ハンガリーにおける原子炉増設計画の進行状況 について追記したいと思います。現在、全国電力需要のおよそ4割を供給している4基 の原発に加え、2基の新設が決まりました。福島の事故の数カ月後に不謹慎という評 価も受けながら、安倍首相自身もハンガリー訪問の際にセールスをしましたが、見積 り案と現行技術との整合性が検討され、結局はロシアとの契約が成立しました。そも そも交渉相手として「フクシマの日本」と「チェルノブイリのロシア」しか考慮され なかったことに疑問を抱かざるを得ません。 第2回アジア未来会議のふくしまセッションの企画に関わったSGRAメンバーは、映像 と展示を担当した朴ヒョンジョン、司会進行のデール・ソンヤ、そしてスピーカーの シッケタンツ・エリックと私でした。また、実現に向けて、角田英一理事には、当日 の説得力のある豊富なご発言も含めて、様々な形で大変お世話になりました。 なお、今年もSGRAでは飯舘村へのスタディツアーが開催されますので、この問題に興 味のある方には是非お薦めします! 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/info/Essay424Photos.pdf 第2回SGRAふくしまスタディツアーの報告は下記リンクよりお読みいただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/news/2sgra_1.php -------------------------- 2003年文部科学省学部留学生として来日。東京外国語大学にて日本語学習を経て、 2008年東京大学(文科三類)卒業、文学学士(社会学)。2010年日本社会事業大学大 学院社会福祉学研究科博士前期課程卒業(社会福祉学修士)、博士後期課程進学。在 学中に、日本社会事業大学社会事業研究所研究員、東京外国語大学多言語・多文化教 育研究センター・フェローを経験。2011/12年度日本学術振興会特別研究員。2013年 度渥美奨学生。専門分野は現代日本社会における文化等の多様性に対応したソーシャ ルワーク実践のための理論及びその教育。昭和女子大学・上智福祉専門学校非常勤講 師。日本社会福祉教育学校連盟事務局国際担当。 -------------------------- 【2】第3回ふくしまスタディツアー「飯舘村、あれから3年」参加者募集 渥美国際交流財団/SGRAでは2012年から毎年、福島第一原発事故の被災地である福島 県飯舘(いいたて)村でのスタディツアーを行ってきました。そのスタディツアーで の体験や考察をもとにしてSGRAワークショップ、SGRAフォーラム、SGRAカフェ、そし てバリ島で開催された「アジア未来会議」でのExhibition & Talk Session 「Fukushima and its aftermath-Lesson from Man-made Disaster」などを開催して きました。今年も10月に3回目の「SGRAふくしまスタディツアー」を行います。お友 達を誘って、ご参加ください。 日程:2014年10月17日(金)、18日(土)、19日(日)2泊3日 参加メンバー:SGRA/ラクーンメンバー、その他 人数: 10〜15人程度 宿泊: ふくしま再生の会-霊山(りょうぜん)センター 参加費: 15,000円(ラクーンメンバーには補助金が出ます) 申込み締切:10月10日(金) 申込み・問合せ: 渥美国際交流財団 角田(つのだ)          Email:[email protected] Tel: 03-3943-7612 ◇参加募集チラシ http://www.aisf.or.jp/sgra/info/fukushima2014.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第3回SGRAふくしまスタディツアー<参加者募集中> 「飯舘村、あれから3年」(2014年10月17日〜19日) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/33.php 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム<ご予定ください> 「近代日本美術史と近代中国」 (2014年11月22日北京) 【3】第6回SGRAカフェ<ご予定ください> 「シリアとイスラーム国について」(仮題) (2014年12月13日東京) 【4】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Dong Bingyue “Thinking about the Future of Asia From the Double Layered PLACE”

    ********************************************************* SGRAかわらばん536号(2014年9月24日) 【1】エッセイ:董 炳月「二重の『場』から、アジアの未来を」 【2】活動報告:金 兌希「第3回SGRAワークショップ報告」    「ひとを幸せにする科学技術とは」 【3】GVJ『Column & Photo Contest 2014』募集開始! 「留学生・日本留学経験者が見る日本」 【4】第3回ふくしまスタディツアー参加者募集 「飯舘村、あれから3年」10月17日(金)〜19日(日) ********************************************************* 【1】SGRAエッセイ#423 ■ 董 炳月「二重の『場』から、アジアの未来を」 第2回アジア未来会議がインドネシアのバリ島で開催されました。「この会議は、 日本で学んだ人、日本に関心のある人が集い、アジアの未来について語る『場』を 提供することを目的としています」と主催者は宣言しています。ここで言われてい る「場」とは一体何でしょうか。もしこの「場」を「会場」として理解するだけ だったら、勿体ないと思います。会議が開かれる処、つまり「会場」の所在地も 「場」です。今回の会議に即して言えば、バリ島も重要な、更に大きい「場」で す。つまり、主催者は参加者に二重の「場」を提供しました。二重の「場」によっ て、「アジア」は研究対象として討論されるだけではなく、参加者が身を持って体 験する対象にもなりました。本当にありがたいことです。 私は北京からの参加者として、会場で日本やフィリピン及びシンガーポールの参加 者の「中国台頭」に関する発表を聞いて、様々な問題を考えるようになりました。 彼らはこのように中国を見るのだ、やはり外部から見る中国と内部から見る中国と は違うのだ、と。「台頭」とは何だろうか、中国は本当に「台頭」したか、と。経 済から見れば、中国は確かに台頭しつつあると言えます。但し、それは問題の一面 に過ぎません。その反面、経済躍進によって生じた社会問題は山ほどあります。環 境汚染、官僚腐敗、貧富の差、道徳の堕落、などなど。全体から見れば中国はまだ まだ「台頭」していません。中国にとっては、日本だけでなく、バリ島にも学ぶべ きところは多い、と私は言いたかったのです。これからの中国はアジアに貢献する 「台頭」を追求すべきだとも考えました。 「バリ島」という二つ目の「場」からの収穫は更に多かったのです。8月21日の夜 ホテルに着き、チェックインの手続きをして部屋に入る前から、すでに廊下に流れ る音楽に魅了されてしまいました。なんと寂しくて、ロマンチックな音楽だろう、 と。後で知りましたが、それは小さな笛と竹の琴で演奏する地元の音楽です。CDが 入手できたので、北京に戻った今も楽しめます。私は日本の演歌も沖縄民謡もモン ゴルのホーミィー(特殊発声で歌う歌)も好きなので、バリ島の音楽を加えると 「アジア音楽」ができそう、という感じがします。 バリ島の生活様式の観察から得たものは、人文社会科学の研究者として非常に大き な収穫でした。会議は23日をもって終わり、24日は会場から出て見学ツアーに参加 しました。驚いたことは到る所に神廟(ヒンドゥー教の寺)が建てられていること です。神廟の面積は町の建築総面積の四分の一ぐらいを占めるのではないかと思い ます。ガイドの話によると、住民は毎日少なくとも2回神廟を参拝します。つま り、バリ島(拡大して言えばインドネシア)は自分なりの宗教、信仰、生活様式を 持っています。普通の中国人及び中国知識人はどれほどバリ島(及び東南アジア) に関心を寄せているでしょうか。明らかに、アメリカやヨーロッパに対する関心ほ ど高くはありません。中国ではイギリスを「大英帝国」と言うこともありますが、 もし国土面積や人口規模がずっとイギリスを上回るインドネシアを「大インドネシ ア」と言ったら笑われるでしょう。 経済発展に専念する中国においては、バリ島の人々の生活様式を「価値」として認 めることも難しいです。東洋の近代史は西洋の東洋に対する浸入、及び東洋の西洋 に対する抵抗の歴史と言われますが、その一方で、東洋は抵抗の過程において西洋 の論理と価値観をも受入れました。この両面性を直視しなければなりません。中国 語には「勢利」という言葉があります。「shi-li」という発音で、意味は「金力や 権力に靡く態度」です。実に、日本の近代も中国の現代も「勢利」の時代です。 「西洋志向」という病気に罹ったのは日本だけではなく、中国も同じです。「発 展」や「富強」(富国強兵)ばかりを追求しています。バリ島が教えてくれたのは 「発展」も「富強」も絶対価値ではなく、相対価値にすぎない、ということです。 アジア未来会議はバリ島南東部のビーチで開かれましたが、そのホテルの10階建て の建物以外にビルはありません。ホテル建設後、住民の反対運動によって、バリ島 では椰子の木よりも高い建物は禁止になったからだそうです。私は緑に囲まれた低 い建物を見て、北京や東京の高層ビルがますます嫌になりました。観光バスの中で 地元のガイドが「私たちはできる限り稲と木を植え、セメントを植えません」と言 いました。哲学者のようなガイドだ、と思いました。彼は見事に地元の価値観を表 現しました。中国沿海地方と比べて、バリ島の経済発展は遅れているかもしれませ んが、バリ島の人々は必ずしも不幸ではありません。むしろ、彼らの生活様式は大 都会に住む私たちより「合理的」なのです。 会議主催者がバリ島を開催地として選んだのは偶然かもしれないが、「多様性と調 和」という総合テーマはバリ島で開催することによって見事に完成したと思いま す。インドネシアのバリ島、ヒンドゥー教のバリ島、そしてインドや中国の文化の 影響を受けたバリ島で、十数カ国からの数百人の参加者が、日本の獅子舞とバリ島 のバロンダンスの共演を観賞する、これは素晴らしい「多様性と調和」だと思いま した。もっと大事なのは参加者の観念の中で発生した「多様性と調和」です。それ は目に見えないものです。 二重(二重以上かもしれない)の「場」を、各国からの参加者に提供した主催者の 意図は達成されたと思います。アジア未来会議は価値観の共同体を作っているので す。参加者は国籍や専門などが違っていても、「共同価値観」を持ち、或いは持て るようになります。共同価値観というのは、アジアに対する関心と共感、他者に対 する尊重などが含まれます。この価値観を共有する共同体が大きくなって行けば、 アジアの未来はきっと明るいと信じます。現在の中国に金持ちは多いですが、彼ら が渥美国際交流財団を模範にして、国境を越えた文化交流に貢献することを望んで います。  ------------------------------- <董炳月(とうへいげつ)Dong Bingyue> 中日近代文化専攻。1987年北京大学大学院中国語中国文学学科修士号取得、中国現 代文学館に勤める。1994年に日本留学、東京大学人文社会系研究科に在学。1998年 に論文『新しき村から「大東亜戦争」へ—武者小路実篤と周作人との比較研究』で 文学博士号取得。1999年から中国社会科学院に勤め、現在は同文学研究所研究員、 同大学院文学学科教授。2006年度日本国際交流基金フェローシップ。著書は『「国 民作家」の立場—近代日中文学関係研究』、『「同文」の近代転換—日本語借用語 彙の中の思想と文学』など。評論集は『茫然草』、『東張東望』など。翻訳書は多 数。 ------------------------------- 【2】活動報告 ■ 金 兌希「第3回SGRAワークショップin蓼科『ひとを幸せにする科学技術とは』 報告」 渥美国際交流財団2014年度蓼科旅行・第3回SGRAワークショップin蓼科は、2014年7 月4日(金)から6日(日)の週末に行われました。ワークショップでは、「『ひと を幸せにする科学技術』とは」をテーマに、講演やグループディスカッションなど が行われました。 7月4日の早朝、現役・元渥美奨学生らを中心とした約40人の参加者は新宿センター ビルに集合し、貸切バスで蓼科高原チェルトの森へ向かいました。旅路の途中、 SUWAガラスの里ではガラス工芸品の鑑賞を、諏訪大社上社本宮ではお参りをしまし た。渋滞に巻き込まれることもなく、予定通り16時過ぎにはチェルトの森にある蓼 科フォーラムに到着しました。チェルトの森の自然は素晴らしく、空気がとても澄 んでいて、自然に心と体が休まっていくのを感じました。 夕食後、オリエンテーションとアイスブレーキングが行われました。アイスブレー キングでは、それぞれの趣味や家族構成などの簡単な紹介から、自分のこれまでの 人生のモチベーショングラフを作成し説明し合うなど、短いながらも密度の濃い交 流時間を持ちました。普段の会話では話すことがあまりないような、それぞれの人 生や価値観などについても垣間見ることができるような時間でした。 7月5日、朝から本格的なワークショップが開催されました。ワークショップは、大 きく分けて、講演とグループディスカッションで構成されました。 最初に、立命館大学名誉教授のモンテ・カセム先生による講演、「次世代のダ・ ヴィンチを目指せ—地球規模の諸問題を克服するための科学技術イノベーションに 向けて—」が行われました。カセム先生は、専門も多岐に亘るだけでなく、大学や 国連など、様々な領域で活躍されてきた経歴をお持ちで、講演内容にも多くのメッ セージが含まれていました。その中でも、先生が強調されたのは、学際的なコミュ ニティーで行われる「共同」作業が生み出すイノベーションが持ち得る大きな可能 性でした。先生は、そのような共同作業が生み出す、新たなものを創造していくエ ネルギーを、ルネサンスを築いたダ・ヴィンチに見たて、現代の諸問題を克服して いくために有用に活用すべきだと力説されました。講演の中では、その実例とし て、カセム先生自身の京都とスリランカのお茶プロジェクトの取り組みについての 紹介などがありました。さらに、そのようなイノベーションを達成するには、個々 人の専門をしっかりと持つこと、そしてネットワーク、コミュニケーション等が重 要であると説明されました。講義の後には、活発な質疑応答も行われ、講演に対す る高い関心が窺われました。 午後のワークショップは、参加者を6つのグループに分けて進められました。最初 に、いくつかの代表的な科学技術を象徴する製品の落札ゲームが行われました。各 グループには、仮想のお金が与えられ、その中で自分たちが欲しいと思う製品に呼 び値を付け、落札するというものです。その過程で、なぜその製品(科学技術)が 重要であるのか、各グループで議論し考える時間が持てました。 次に行ったのは、グループディスカッションでした。全てのグループに、人が幸せ になるためのイノベイティブな科学製品を考案するという課題が出されました。グ ループごとに人の幸せとは何なのか、その幸せを促進できる科学技術はどのような ものなのか、議論が行われ、模造紙に科学製品を描いてまとめる作業をしました。 7月6日の最終日には、各グループが考案した製品を発表する時間を持ちました。そ れぞれのチームから、とてもユニークなアイディア製品が紹介されました。具体的 には、瞬時に言語に関係なくコミュニケーションを可能にするノートパッド、イン ターネットを利用した全世界医療ネットワークシステム、人型お助けロボット(オ トモ)、健康管理から睡眠時間を効率的に調節できるなどの機能を持った多機能カ プセルベッド(ダビンチベッド)、地域コミュニティー再生のための技術などが提 案されました。各チームが考案した製品は、医療格差、介護、社会の分断化など、 現代社会が直面している諸問題を反映し、それに対するユニークな解決策を提示し ていました。 各グル—プが発表を行った後は、エコ、利潤性、夢がある、の3つの基準をもと に、参加者全員による評価が行われました。その中で、総合的に最も高い評価を得 たものが、コミュニティー再生のための科学技術を提案したグループでした。この グループは、希薄化されている地域コミュニティーの再生こそが人の幸せに繋がる と考え、個人の利便性ばかり追求するのではなく、コミュニティーの再生に目を向 けるべきだという主張を行いました。科学技術そのものよりも、地域コミュニ ティーの再生を謳ったグループが最も多くの支持を得たことは、とても興味深い結 果でした。参加者の多くが、コミュニティーの喪失を現代における大きな問題点だ と認識しているということがわかりました。 最後に、全員が一人ずつ感想を述べる時間を持ちました。参加者からは、多様な専 門分野や背景を持った人々との議論が面白く、勉強になったという意見が多く挙が りました。個人が各々の専門をしっかりと持ちながら、学際的なコミュニティーの 中で問題の解決に取り組むときこそイノベイティブなことができるという、カセム 先生の講演を今一度考えさせられました。 ワークショップを終えた後は、ブッフェ形式の昼食をとり、帰路につきました。帰 路の途中に、蓼科自由農園で買い物をし、予定通り19:00頃には新宿駅に着きまし た。 今回のワークショップは、全ての参加者が積極的に参加できるような細かなプログ ラムが用意されていたため、短時間で参加者同士の密接なコミュニケーションを図 ることができました。また、蓼科チェルトの森の素晴らしい自然も参加者の心をよ り開放する一助となりました。今回のワークショップでできたコミュニティーやそ の経験は、今後の学際的な、そしてイノベイティブな活動を行うエネルギーへと繋 がっていくことと思います。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 www.aisf.or.jp/sgra/photos/ ------------------------------------ <金兌希(きむ・てひ)Taehee Kim> 政治過程論、政治意識論専攻。延世大学外交政治学科卒業、慶應義塾大学にて修士 号を取得し、同大学後期博士課程在学中。2014年度渥美財団奨学生。政治システム や政治環境などの要因が市民の民主主義に対する意識、政治参加に与える影響につ いて博士論文を執筆中 ------------------------------------ 【3】GVJ『Column & Photo Contest 2014』募集開始! Global Voices from Japan(GVJ)実行委員会/SGRA渥美国際交流財団は、留学生・日 本留学経験者を対象に現代日本の諸問題について日本人とは異なる視点で考えたこ と、感じたことに関する懸賞コラムと写真を以下の要項で募集します。優秀な作品 はGVJのWebサイトに掲載するとともに共同通信のWebメディアを通じて世界に発信 されます。 ◇募集期間は2014年9月15日から12月15日まで。                        ◆Columnの部 募集のテーマ:「留学生・日本留学経験者が見る日本」 募集のカテゴリー: Ⅰ「日本の大学の“国際化”に関する提言」 日本の大学が現在、積極的に取り組んでいる“国際化”に対して、留学経験を踏ま えての意見・提言 Ⅱ「アジアとはなにか?」 グローバリズムとナショナリズムのはざまで揺れ動くアジア。アジアはどこへ向か うのか。文明のるつぼといわれるアジアに共通項があるとしたら、それはなにか? Ⅲ「あれから3年。−いま、福島を思う」 福島第一原発事故から3年半。経済成長や科学技術の発展と社会的リスクの相関性 について、改めて考えてみませんか? 使用言語・文字数:日本語・中国語(簡体・繁体)・ハングル1500字。英語1200単 語 賞・賞金:最優秀賞=各カテゴリー1名計3名・賞金各5万円、優秀賞=各カテゴ リー2名計6名・賞金各3万円 ◆Photoの部 募集のテーマ:「Japanese Culture, Cool or Not Cool?」 伝統文化から現代のサブカルチャーまで、見たまま、感じたままを3〜4コマの写真 とコメント(日本語100字、英語80単語)で表現 賞・賞金:ユニークで機知に富んだ作品に対して。GVJ賞・3点、各1万円 ———————————————— 応募資格:日本国内の留学生、日本留学経験者(国籍・在住地・年齢不問) 応募受付:GVJWebサイト( http://www.glovoices.com ) 入選発表:2015年2月中旬(予定)、GVJWebサイトほか 【4】第3回ふくしまスタディツアー「飯舘村、あれから3年」参加者募集 渥美国際交流財団/SGRAでは2012年から毎年、福島第一原発事故の被災地である福 島県飯舘(いいたて)村でのスタディツアーを行ってきました。そのスタディツ アーでの体験や考察をもとにしてSGRAワークショップ、SGRAフォーラム、SGRAカ フェ、そしてバリ島で開催された「アジア未来会議」でのExhibition & Talk Session「Fukushima and its aftermath-Lesson from Man-made Disaster」などを 開催してきました。今年も10月に3回目の「SGRAふくしまスタディツアー」を行い ます。お友達を誘って、ご参加ください。 日程:2014年10月17日(金)、18日(土)、19日(日)2泊3日 参加メンバー:SGRA/ラクーンメンバー、その他 人数: 10〜15人程度 宿泊: ふくしま再生の会-霊山(りょうぜん)センター 参加費: 15,000円(ラクーンメンバーには補助金が出ます) 申込み締切: 9月30日(火) 申込み・問合せ: 渥美国際交流財団 角田(つのだ)          Email:[email protected] Tel: 03-3943-7612 ◇参加募集チラシ http://www.aisf.or.jp/sgra/info/fukushima2014.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第3回SGRAふくしまスタディツアー<参加者募集中> 「飯舘村、あれから3年」(2014年10月17日〜19日) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/33.php 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会 員のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご 購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録し ていただくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡 ください。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事 務局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いた だけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] S. Numata “What can we learn from the past for the future?”

    *************************************************************** SGRAかわらばん535号(2014年9月17日) 【1】エッセイ:沼田貞昭「未来に向けて過去から何を学びとれるか」 【2】日台アジア未来フォーラム報告(その3)   「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流」 【3】SGRAふくしまスタディツアー参加者募集(10月17日〜19日) *************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#422 ■ 沼田貞昭「未来に向けて過去から何を学びとれるか」 筆者は、公益財団法人渥美国際交流財団主催でインドネシアのバリ島で8月22日?24日 に開催された第2回アジア未来会議に参加した。昨年3月にバンコックで開かれた第1 回会議にも参加し、「戦後和解」のセッションの座長を務めたが、今回、日本で博士 号を修得した人々を中心とするアジアおよび他の地域の研究者等380名が参加し、真 摯に、忌憚なく、かつ和気あいあいと議論する姿に再び接して、感銘を新たにした。 筆者が担当した「平和」のセッション(日本語)では、戦前の「日ソ中立条約」と内 モンゴル問題、日清修交条規にかかわる副島種臣外務卿の北京訪問時の外交儀礼問 題、インドネシアの国家理念パンチャシラと憲法、日韓漁業協定前史としてのGHQの 政策が取り上げられた。正直の所、この中から何か共通の要素を見出せるか否か、 セッションが始まるまでは自信が無かったが、振り返ってみると、過去を調べて未来 について何かを学ぶとの観点から、幾つか示唆に富む点があったので、筆者の主観を 交えて以下に記す。 第1に、我々が今日および将来の近隣諸国との関係を考えるに当たって、明治から昭 和にかけて、後発国として列強に仲間入りをした日本が帝国主義的拡張を試み、結局 失敗に終わったことの意味合いを忘れてはならないと言うことである。 1873年に副島種臣外務卿が特命全権大使に任命されて北京に赴き、同治帝への謁見形 式をめぐり日本側の主張を通したことは、「国権外交」を実現したものとして日本国 内で高く評価された。他方、本ペーパーを発表した白春岩早稲田大学助教(中国) は、清国側において、重臣李鴻章が日本との「相互利益」を重視して、現実的解決を 求めて努力したことを指摘している。当時、列強との対比においては平等な存在で あった日清間の駆け引きの中で、「国権」と「相互利益」のバランスを如何に取るか が問題であったことを想起すると、今日、それぞれ「大国」を自負している中国と日 本が、各々の「国権」にこだわって「相互利益」を軽んじる場合、どのような結果を 招くかと言うことも考えておく必要があると感じた。 ガンガバナ国際教養大学助教(内モンゴル)は、内モンゴルに焦点を当てつつ、松岡 洋右外務大臣の日独伊ソ四国同盟構想が実現に至らなかった経緯を考察した。筆者の 感想は、領土の取り合いないし分割と言ったパワー・ポリテイックスの権謀術数の一 環として構成される同盟は脆弱なものだったと言うことと、後発帝国主義国として列 強間の駆け引きに加わろうとした松岡大臣は多分にナイーブだったのではないかと言 うことである。将来においても、国際政治においてパワー・ポリテイックスは重要な 要素ではあり続けるだろうが、わが国としては、普遍的理念とか価値に根ざす外交と か同盟関係を重視して行くべきものと思う。 第2に、日韓関係について、柔軟性と大局的思考が必要であるとの感を強くした。竹 島問題もあり、日韓間での摩擦要因である日韓漁業協定について、連合軍による日本 占領下のマッカーサー・ライン、1952年のいわゆる「李承晩ライン」に遡って論じる 朴昶建国民大学教授(韓国)は、「解決しないもので解決したものとみなす」という 1965年の日韓漁業協定の合意方式はいつでも再点火可能な時限爆弾のようなものだっ たとしている。外交の実務に携わって来た筆者としては、双方が完全に合意すると言 うことは現実にあり得ず、ある程度の立場の相違を残しつつも、それはそれとして実 際の関係を処理して行くという柔軟性が特に今日の日韓関係に求められていると思 う。また、同教授は、当時、日韓両国には反共体制に属するとの共通の枠が存在して いたと指摘しているが、今日必要なのは、日韓2国間の問題を越えて、より大局的な 共通利益を見つけて行くことではないかと思う。 なお、筆者がもう一つ共同座長を務めた「公平(Equity)」のセッション(英語)に おいて、日本統治下の朝鮮には、「国家の宗祀」として900を越える神社が建立され たことの背景として、「日鮮同祖論」等、日本人と朝鮮民族の同質性を強調しつつも 日本が兄貴分であり、朝鮮が弟分であるとの意識があったとする菅浩二国学院大学教 授の発表が行われた。「公平(Equity)」との観点から言えば、民族のアイデンティ ティという根本的な問題について、「日本人と朝鮮人はそもそも同じなのだ」と言っ て、同質性を先方に押し付けつつ、日本人の方が上に立つとのアプローチには、そも そも無理があったと思わざるを得ない。この観点からも、今日では、日韓双方が対等 な立場に立ちつつ追求すべき大局的な共通利益を考える必要があるとの感を強くし た。 第三に、1976年から1978年にジャカルタで勤務して以来、インドネシアを離れて久し い筆者にとって、トマス・ヌグロホ・アリ氏(国士舘大学博士課程、インドネシア) のインドネシアの建国理念および憲法についての解説は懐かしいものだった。と同時 に、筆者の在勤時代の国軍の「二重機能」からスハルト体制の崩壊を経て、今般の ジャカルタ特別州知事ジョコ・ウィドド氏の大統領当選へと民主化プロセスが一層進 行していることは、西欧型民主主義の定着と言うよりも、インドネシア型民主主義が 育って来たことを意味するのだろうと感じた。 以上のように、わが国が近隣諸国などとの関係で今日直面する問題とは一見迂遠なよ うに感じられるテーマの考察を通じて、種々学ぶべき点があることを実感でき、アジ ア未来会議の意義を改めて認識することができた。 --------------------------------- <沼田 貞昭(ぬまた さだあき)NUMATA Sadaaki> 東京大学法学部卒業。オックスフォード大学修士(哲学・政治・経済)。 1966年外務省入省。1978-82年在米大使館。1984-85年北米局安全保障課長。 1994?1998年、在英国日本大使館特命全権公使。1998?2000年外務報道官。2000?2002 年パキスタン大使。2005?2007年カナダ大使。2007?2009年国際交流基金日米センター 所長。鹿島建設株式会社顧問。日本英語交流連盟会長。 --------------------------------- 【2】第4回日台アジア未来フォーラム報告(その3) ■ 梁 蘊嫻「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流—文学・思 想・言語—(その3)」 2014年6月14日の会議は元智大学で開催された。開会式では、元智大学通識中心・劉 阿栄主任が本学を代表して、ご来場の皆様を歓迎した。大衆教育基金会の簡明仁董事 長もわざわざ駆けつけてくださった。簡董事長のご尊父は1920年代の農民運動家・簡 吉氏である。簡董事長は、ご父君の事蹟の整理をきっかけに、台日の歴史研究に携 わった。台湾と日本との思想の交流は早くから始まり、具体例として1920年から1930 年までの間、台湾の社会運動の思潮は日本の学界からの影響によるものだとの、大変 印象深いご挨拶だった。続いて、今西淳子渥美国際交流財団常務理事が、元智大学と ご縁を結ぶことができて嬉しいこと、簡董事長の詳しい解説に感心したこと、そし て、フォーラムの今後のテーマの一つとして、日台思想交流史を取り上げたいと述べ られた。 フォーラムでは、川瀬健一先生が「戦後、台湾で上映された映画—民國34(1945)年〜 民國38(1949)年」という題目で講演された。1945年、第二次世界大戦が終わり、世界 情勢が大きく変動したが、日本敗戦直後には台湾では多くの日本映画が上映されてい た。1946年4月からは上映できなくなったが、その後も日本語の映画が1947年2月頃ま で上映されていた。特に、1947年に起きた二・二八事件前後の映画上映状況、及びソ 連映画(1946年4月〜1948年7月まで)、中国共産党の映画(1948年7月〜1949年末ま で)の台湾での上映状況が詳しく紹介された。当時上映されたアメリカ映画は字幕が 日本語だったという興味深い現象も紹介された。このことから、世界情勢や政策が急 激に変わっても、文化はすぐに変えられるものではない事実が窺えるが、その一方、 政策が文化に大きな影響を与えていることもよくわかる。 閉幕式では、元智大学の王佳煌副教務長が、「今回だけではなく、元智大学は今後と もフォーラムの開催に尽力したい」と挨拶され、元智大学応用外国語学科楊薇雲主任 は、「人間は歴史から学んで未来を創る。そのため、未来フォーラムで歴史を語る川 瀬先生の講演は、非常に考えさせられるものがあった」と、会議を締めくくった。 午後は、大渓保健植物厨房で食事をした。名前の通り、この厨房の料理は健康によい 薬膳料理である。漢方薬の鶏スープ、枸杞そうめん、紅麹のご飯、磯巾着、木耳のエ キスなど、珍しい料理が次々に出された。食事の後、陶磁器の産地・鶯歌へ向かい、 台華窯という陶磁器の工房を参観した。美しい芸術品がたくさん展示されていた。続 いて、鶯歌の古い商店街を散策。ここは時間をかけて探せば、掘出物がたくさん見つ かる楽しい町である。皆、鶯歌を満喫した。 今回のフォーラムのプログラムはバラエティに富んでおり、充実した会議であった。 多国籍(日本、台湾、韓国、スウェーデンなど)、かつ多領域の学者や専門家162名 の参加を得て、大盛況であった。各領域の研究の交流、国際交流を促進し、また、学 術研究を深め、広めることができ、大成功であった。 フォーラムを無事に開催することができたのは、数多くの団体が協力してくださった おかげである。特筆すべきは、台湾の政府機関・科技部からの助成をいただいたこと で、これは台日の交流においては非常に有意義なことである。公益財団法人交流協会 からも助成をいただき光栄であった。中鹿営造(股)からは今回も多大なるご支援を いただいた。そして、例年どおり、台湾日本人会にご協力いただき、多くの日系企業 (ケミカルグラウト、全日本空輸(ANA)、台湾住友商事、みずほ銀行台北支店な ど)からの協賛をいただいた。学術団体では、台湾大学、台湾日本研究学会などから 経験や資源を提供していただいた。また、財団法人大衆教育基金会、財団法人中日文 教基金会から支援していただき、台湾の公益法人との交流が一歩前進したといえよ う。ご支援、ご協力いただいた台日の各団体に心からの感謝を申し上げたい。 <関連リンク> 梁 蘊嫻「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流—文学・思想・ 言語—(その1)」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/_4.php 梁 蘊嫻「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流—文学・思想・ 言語—(その2)」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/news/_4_1.php ----------------------------------- <梁蘊嫻(リョウ・ウンカン)Liang Yun-hsien> 2010年10月東京大学大学院総合文化研究科博士号取得。博士論文のテーマは「江戸文 学における『三国志演義の受容』−義概念及び挿絵の世界を中心に—」である。現 在、元智大学応用外国語学科の助理教授を務めている。 ----------------------------------- 【3】第3回ふくしまスタディツアー「飯舘村、あれから3年」参加者募集 渥美国際交流財団/SGRAでは2012年から毎年、福島第一原発事故の被災地である福島 県飯舘(いいたて)村でのスタディツアーを行ってきました。そのスタディツアーで の体験や考察をもとにしてSGRAワークショップ、SGRAフォーラム、SGRAカフェ、そし てバリ島で開催された「アジア未来会議」でのExhibition & Talk Session 「Fukushima and its aftermath-Lesson from Man-made Disaster」などを開催して きました。今年も10月に3回目の「SGRAふくしまスタディツアー」を行います。お友 達を誘って、ご参加ください。 日程:2014年10月17日(金)、18日(土)、19日(日)2泊3日 参加メンバー:SGRA/ラクーンメンバー、その他 人数: 10〜15人程度 宿泊: ふくしま再生の会-霊山(りょうぜん)センター 参加費: 15,000円(ラクーンメンバーには補助金が出ます) 申込み締切: 9月30日(火) 申込み・問合せ: 渥美国際交流財団 角田(つのだ)          Email:[email protected] Tel: 03-3943-7612 参加募集チラシ http://www.aisf.or.jp/sgra/info/fukushima2014.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第3回SGRAふくしまスタディツアー<参加者募集中> 「飯舘村、あれから3年」(2014年10月17日〜19日) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/33.php 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] H. Takahashi “Rethinking about Diversity”

    *************************************************** SGRAかわらばん534号(2014年9月10日) 【1】エッセイ:高橋 甫「多様性についての再考察」 【2】SGRAふくしまスタディツアー参加者募集 【3】TV番組紹介:明石康「私の履歴書」(9月11日放送)   (第2回アジア未来会議が含まれています) *************************************************** 【1】SGRAエッセイ#421 ■ 高橋 甫「多様性についての再考察」 公益財団法人渥美国際交流財団主催の第2回アジア未来会議が8月22日から24日までイ ンドネシアのバリで開催され、日本で学んだ経験を持つ研究者を中心に17か国から 380名が参加し、アジアの未来についての討議がなされた。今回のテーマは「多様性 と調和」で、学際的なアプローチを基本とした会議であることから、グローバル化、 平和、公平、持続可能性、環境、コミュニケーション等に関する多くのセッションに 分かれての幅広い討議となった。私は、本会議の基本テーマを取り扱った「多様性と 調和」に関する3セッションに参加し、また締めくくりのセッションの共同座長を務 めた立場から、会議での研究発表や討議を参考に「多様性」についての再考察を試み ることとした。 多様性の意味を日常的な文脈で考えると、「幅広く性質の異なるものが存在するこ と」ということができよう。この言葉は本来、生物学の分野で使われていたようだ が、今では社会学、政治学、さらには国際関係においても頻繁に使用されている。事 実、多民族国家において「多様性の中の統合」は民族の統合の標語として使われてき ている。今回の会議の舞台となったインドネシアは、約17,000以上の島々から成り 立っており、このうちのおよそ9,000の島々に約2億2千8百万人もの人々が暮らし、約 490の民族集団がそれぞれの多様な民族文化を継承している(インドネシア共和国観 光クリエイティブエコノミー省公式ウエブサイトによる)。 この国が独立国家として誕生した時に各民族の衣装であるバティックが統合の象徴と して重要な役割を果たしたとして、今回の会議ではこのテーマを扱った発表が2つ行 われた。すなわち、インドネシアは、共和国としての独立に当たって、異なる民族文 化に基づき異なるバティックをもつ異なる民族をまとめる一手段として、何れの民族 の文様にも偏らないインドネシアとしての独自の文様のバティックをつくりだし、小 中高校生や公務員の制服に採用したという。このインドネシア・バティックは今やユ ネスコの世界無形文化遺産に認定され、国際社会におけるインドネシアのアイデン ティティの確立に貢献するに至っている。インドネシアの多様性がバティックという 最大公約数により、またどの民族にも偏らない文様の採用という工夫により、とかく 融合が難しいといわれる諸民族がその違いを乗り越えた事例といえよう。「服は民族 のアイデンティティ」という戸津正勝国士舘大学名誉教授による「多民族国家インド ネシアにおける国民文化形成の試み」と題した発表の際の指摘が印象に残った。勿 論、同国の建国の背景には、植民地宗主国の存在という対外的な要因がインドネシア 諸民族の団結を促し、多様性の中の合意形成のむずかしさを克服したという側面も あったことはいうまでもない。 グルーバル化の進展と共に、多様性という言葉も地域的な国家間協力や統合という文 脈でも使われ始めている。事実、今回の会議もアジアの未来を考える上での多様性と 調和が各方面から議論され、今や「多様性の中の統合」(unity in diversity)は、 地域協力や地域統合にとって避けて通れないテーマとなっている。この「多様性の中 の統合」は前例を見ない地域統合の深化を達成してきたEUのモットーであり、その 意味するところは、「ヨーロッパ人は、EUという形態で平和と繁栄のために共生・ 協働し、同時に、自ら持つ多くの異なった文化、伝統、言語によって豊かにされる」 こととEU公式ウェサイトで説明されている。 私が1980年代にブリュッセルを訪問した際に購入したお土産で今なお大事にしている ものに「完璧なヨーロッパ人」と名づけられた一枚の絵葉書がある。この絵葉書は、 ヨーロッパの持つ多様性を当時の15のEU加盟国の国民の性格を揶揄して逆説的に ユーモラスに紹介したものだ。この絵葉書曰く、完璧なヨーロッパ人とは、「フラン ス人の様に車を運転し、ポルトガル人の様に技術に長け、イタリア人の様に自分を律 し、デンマーク人の様に慎重で、ドイツ人の様にユーモアを言い、オーストリア人の 様にオーガナイズされ、フィンランド人の様におしゃべりで、ルクセンブルグ人の様 に有名で、オランダ人の様に気前がよく、英国人の様に料理上手で、ベルギー人に様 に欠勤が少なく、スウェーデン人の様に柔軟で、アイルランド人の様にしらふで、ス ペイン人の様に謙虚な人」のこととある。今や加盟国が28に達し、関税同盟、共通通 商政策、市場統合、共通通貨の導入、共通外交政策を実践しているEUは、政策分野 別ではあるが主権の移譲による形での国家間の連携が可能であることを国際社会に証 明している。 アジアにおいてもASEANという枠組みで市場統合が来年実現されようとしている。 ジャカルタ空港では、EU域内同様、入国審査手続ではASEAN加盟国国民とASEAN域外の 国民との間で異なった取扱がされている事実は、多様性の調和がアジアでも現実化し ていることを如実に示しているといえよう。今回の会議で私が共同座長を担当した セッションでは、アジアの文脈における多様性の中の統合の具体的な意味に関する質 問が投げかけられた。それに対して、質問を受けた発表者からは「それぞれの国の持 つ違いを認め合い、それぞれの国が独自で持つもの以上の価値を生み出すこと」との 説明がなされた。これは、まさしく欧州統合のモットーと相通じるものだ。 第2回アジア未来会議に出席して私自身が遭遇したのが、「異なるから協働できない のか」それとも「異なるからこそ協働するのか」という命題だった。事実、世界の潮 流とは異なり、地域レベルでの協力や連携が最も遅れている北東アジアや東アジアの 場合、「制度的な連携の枠組み作りは無理」との意見が頻繁に聞かれる。そこで、今 回の会議でイタリアと日本の児童書の比較により違いから調和を生み出す試みを紹介 したイタリア・ボローニア大学のマリア・エレナ・ティシ氏のいう「違いという言葉 には文化、言語、宗教といった大きな違いに限らない、小さな違いも大きな原因と成 り得る……違いの克服だけでなく、これらの違いを最大限に活用することも重要だ」 との言葉は多様性を考える上で示唆に富むものだ。 また会議では、「同じ色でも単色より複数の色で合成された色の方がより深みのある 色調を醸し出す」といった指摘もなされた。日本への帰国後、私の友人である音楽家 にアジア未来会議の議論内容を紹介したところ、「音楽の世界では多様性の調和は基 本中の基本です」と一蹴された。 この音楽家曰く、「オーケストラは異なった楽器 の調和の集大性」とのこと。 ただし、この音楽家は「それには素晴らしいリーダー としての指揮者の存在が絶対要件」との指摘も忘れなかった。 多様性を国際的文脈 で再考する上でこれまた気になる指摘である。多様性の持つ多用性あるいは他用性と いったところであろうか。 そして、多様性をアジアという地域的文脈で論じる場合、私は地理的近隣性という側 面への配慮も重要であることを敢えて強調したい。隣国あるいは近隣国であるがゆえ に避けて通れない関係がそこには否定し得ない事実として存在している。多様性を論 じるに際には、隣国との関係を積極的に捉えるのかそれとも消極的に捉えるかという 姿勢の視点も重要な意味を持つように思えてならない。 第2回アジア未来会議は、多様性とは何かを再考察させるとともに、北東アジアの文 脈では関係国の国内政治要因が、また東アジアの文脈では一部の国家間の主導権争い が、地域的な連携の制度的枠組作りの障害となっていると再度認識した機会ともなっ た。 ---------------------- <高橋甫(たかはし・はじめ)Hajime Takahashi>  SGRA参与、公益財団法人日本テニス協会常務理事 1947年生れ、東京出身。1970年:慶応義塾大学法学部法律学科卒業。1975年:オース トラリア・シドニー大学法学部修士。1975年〜2009年:駐日EU代表部勤務、調査役と して経済、通商、政治等を担当。2007年〜2012年:慶應義塾大学法学部非常勤講師 (国際法)。2013年1月よりEUに関するコンサルタント会社であるEUTOP社(本社ミュ ンヘン)の東京上席顧問。これまでにEU労働法、EU共通外交安全保障政策、EU地域統 合の変遷と手法に関して著述。 ---------------------- 【2】第3回ふくしまスタディツアー「飯舘村、あれから3年」参加者募集 渥美国際交流財団/SGRAでは2012年から毎年、福島第一原発事故の被災地である福島 県飯舘(いいたて)村でのスタディツアーを行ってきました。そのスタディツアーで の体験や考察をもとにしてSGRAワークショップ、SGRAフォーラム、SGRAカフェ、そし てバリ島で開催された「アジア未来会議」でのExhibition & Talk Session “Fukushima and its aftermath-Lesson from Man-made Disaster”などを開催して きました。今年も10月に3回目の「SGRAふくしまスタディツアー」を行います。お友 達を誘って、ご参加ください。 日程:2014年10月17日(金)、18日(土)、19日(日)2泊3日 参加メンバー:SGRA/ラクーンメンバー、その他 人数: 10〜15人程度 宿泊: ふくしま再生の会-霊山(りょうぜん)トレーニングセンター 参加費: 15,000円(ラクーンメンバーには補助金が出ます) 申込み締切: 9月30日(火) 申込み・問合せ: 渥美国際交流財団 角田(つのだ)          Email:[email protected] Tel: 03-3943-7612 ---------------------- 【3】TV番組紹介:明石康「私の履歴書」(9月11日10:54pm放送) アジア未来会議の会長を務めていただいている元国連事務次官の明石康様の「私の履 歴書」TV版で、バリ島で開催したアジア未来会議の様子が、BSジャパン(BSデジタル7 チャンネル)で9月11日(木)10:54pm〜11:24pmに放映されます。明石さんから見た アジア未来会議という紹介になっているとのことです。 バリ島で開催したアジア未来会議の様子と大会会長の明石様のご活躍を是非ご覧くだ さい。 明石康様の「私の履歴書」第4回のホームページ: http://www.bs-j.co.jp/rirekisyo/19.html 第4話(9月11日(木)10:54pm放送) BSジャパン(BSデジタル7チャンネル) ■「日本の新たな役割とは?」 1997年、66歳で国連を退官した明石は翌年の4月から、広島平和研究所の所長に就 任。核軍縮・核の不拡散を訴える。 2002年には長い内戦の末、停戦合意が成立した スリランカ政府から依頼を受け、日本政府代表として国連時代の経験を活かし、 和平交渉のアドバイスを行う。 さらに、貧困に苦しむスリランカ国民のため、スリ ランカ復興開発会議を開催。 世界51か国と22の国際機関が参加し、およそ4500億円 もの巨額の援助が集まる。 また明石の発案で2010年から始まった日本・中国・韓国 の国連協会が連携して、三か国の学生が国籍を超え、どのように協力し合う事ができ るか議論する日中韓ユースフォーラムでの取り組み、そして日本で学んだアジア各国 の研究者が集まり、アジアの未来について話し合うアジア未来会議の会長を務めるな ど、国際社会の中での日本の役割を考え続ける。 ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第3回SGRAふくしまスタディツアー<参加者募集中> 「飯舘村、あれから3年」(2014年10月17日〜19日) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/33.php 【2】第8回SGRAチャイナフォーラム 「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください> (2014年11月22日北京) 【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください> (2015年2月7日東京) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************