SGRAメールマガジン バックナンバー

  • KABA Melek “Return to Turkey after 13 Years’ Absence”

    ********************************************************************************* SGRAかわらばん657号(2017年1月26日) 【1】エッセイ:カバ・メレキ「13年ぶりのトルコ:人の死に慣れる自分」 【2】日韓アジア未来フォーラム『日中韓の国際開発協力-新たなアジア型モデルの模索』報告 【3】SGRAフォーラム「人を幸せにするロボット」へのお誘い(2月11日東京)(再送) ********************************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#519 ◆カバ・メレキ「13年ぶりのトルコ:人の死に慣れる自分」 明るく話すのが好きで、明るいトピックを好む私も、この世で最も悲しいことの1つである若い人の死の傍観者になってしまうことについて書く日がやって来たようである。 2003年からの13年間の日本滞在を経てトルコに帰国したばかり。長い日本滞在の影響もあってバイカルチュラルになったことに帰国してから気がついた。それぞれの文化に異なることは多いが、身体が死ぬのは世界の文化を問わない。身体の呼吸は止まりどんどんと冷たくなっていく。死はどの国でも冷たい。日本で私が意識する人の死は駅の人身事故の放送だけだったかもしれない。しかし今は人の死が日本とトルコでは同じではないと思っている。 帰国してから私を出迎えたのは2016年7月15日の軍人の中に身を隠していたフェト(フェトフッラー派テロ組織)のメンバーによるクーデター未遂事件に、分離主義テロ組織クルド労働者党(PKK)などが行うテロ。さらにトルコ語の音に難民のアラビア語の言葉が混じる街、急激な経済成長が豊かにした人々の暮らしぶり。このような変化はメディアからも読み取れる。 しかし以前と異なるもう1つのことは人々の考え方に起きた変化である。都市化による個人主義と自由主義が普及し、経済力においてもブルジョワ的な要素をもたらした結果、人々は明らかに以前よりかなり楽な生活を送っている。デジタル化の進歩も目まぐるしいし、iPhone、PC、インターネット利用は年配の人にまで驚くほど普及し、すでに日常化している。体よりも頭を使う仕事の数が増えている。そのような日常生活の変化によって、型にはまった考え方の多くは柔軟な考え方に取って代わっている。心身ともに「豊か」になっているトルコである。しかし、皮肉的に言えば13年前よりも豊かになって、13年前よりも沢山の人が死んでいる。このジレンマは中東の地政学的な特徴によると思う。 トルコの今日のニュースはフェト、PKK、シリア戦争、様々なテロ組織、トルコ軍のシリアでの活動が中心である。それにアレッポの悲惨も加わってしまった。街頭にアレッポに送るための物質を集めるテントが目立つようになった。アレッポは今住んでいるカッパドキアの540キロ先にあって、朝出発すれば昼までに到着できる場所にある。我々は死の近くに住んでいて、死とともに生きている。先週、私の職場のコピー担当の若い女性が真っ赤な目をして、私のために梶井基次郎の短編小説「檸檬」のコピーをしてくれた。アレッポの子供たちのニュースを聞いて涙していた。「檸檬」の主人公はレモンを丸善の店に置き、それが爆弾であると考え、そしてそのレモンの爆発を想像して愉快な気持ちになる。多分中東の我々の心の中にも「檸檬」の主人公が罹った「得体の知れない不吉な塊」が宿っているのかも知れない。なぜなら、子供や若者の殺害を許すような社会になっているからである。 毎日数人の警察官、軍人、一般人がテロの犠牲になるニュースを「当然のように」聞く。何気なく「山手線は人身事故の影響で運転を見合わせております」と聴きながらポカリスエットをごくごく飲んでのんびりと駅構内を歩く時の記憶に似たところがある。それでも日本にいた時、死は「竹取物語」のおじいさんが行く山の後ろとか、どこか遠くにあったような気がしていた。しかし、一度に沢山の人の葬式を行い、彼らの身体を土の中に埋葬する葬式をテレビのこちら側から文字通り毎日観ている。それでもこうして毎日トルコのおいしいパンを食べ、大学の自分の部屋の窓から松の木が雪に覆われた緑と白の風景を見ながら、一文ずつ丹念に読んで「檸檬」をトルコ語に翻訳している。 テロが起こるイスタンブールやシリア国境に近い地域以外の場所に住んでいる我々は、市場で果物を何キロも買って、週末は出かけて、周りの子供たちと一緒に野良猫に餌をあげて、信じられないほど静かに暮らしている。問題はその同じ国と隣の国で1秒ごとに死ぬ人々の死に慣れて自分の生活を続けていることである。毎日続く人の死に慣れてきた自分がいる。しかしこのような自分にはどうしても慣れない毎日である。どうにかしてテロや戦争を終わらせたいという気持ちを持つが魔法の杖は当然ないわけである。だからせめて中東の子供たちに平和と命の尊さを教えたい。それが我々の責任であると思う。 <カバ・メレキ KABA Melek> 渥美国際交流財団2009年度奨学生。トルコ共和国ネヴシェル・ハジュ・ベクタシュ・ヴェリ大学東洋言語東洋文学部助教授。2011年11月筑波大学人文社会研究科文芸言語専攻の博士号(文学)取得。白百合女子大学、獨協大学、文京学院大学、早稲田大学非常勤講師、トルコ大使館文化部/ユヌス・エムレ・インスティトゥート講師を経て2016年10月より現職。 ------------------------------------------------ 【2】日韓アジア未来フォーラム報告 ◆金雄熙「第16回日韓アジア未来フォーラム『日中韓の国際開発協力-新たなアジア型モデルの模索』報告」 2016年12月1日(木)、韓国仁川市松島コンベンシアで第16回日韓アジア未来フォーラムが開催された。今回のフォーラムは、多様な分野における東アジア各国の日本研究の専門家が知識を共有できる貴重な場として設立された「東アジア日本研究者協議会」第1回国際学術大会の共同パネルで、テーマは「日中韓の国際開発協力-新たなアジア型モデルの模索」であった。2016年2月に東京で開催された第15回日韓アジア未来フォーラム「これからの日韓の国際開発協力:共進化アーキテクチャの模索」、2016年10月1日に北九州で開催された第3回アジア未来会議の自主セッション「アジア型開発協力の在り方を探る」における議論を受け、日韓に中国を含めて東アジアの開発援助のあり方について、モデル構築の可能性を念頭に置きながら考えた。 フォーラムでは、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)の今西淳子(いまにし・じゅんこ)代表による開会の挨拶に続き、これまでのODA関連フォーラムの経緯と議論を受け、日中韓の研究者が比較の視座に立ち、アジア型開発援助モデルの収れんの可能性について論じた。まず李恩民(リ・エンミン)桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群教授は、「中国的ODA」(The_Chinese-style_ODA)について、中国が開発途上国として日本などからODAの供与を受ける一方で、外交の一環として第三世界に属するアジア・アフリカ・ラテンアメリカ・太平洋諸国に政治色の強い「対外援助」を実施していることを指すと定義した。そして、アジア・アフリカ、特に隣国であるベトナムとモンゴルなどへの政治的・経済的援助等に焦点を当てて、「中国的ODA」展開のプロセスを究明し、レシピエント(被援助地域)の視点からその歴史と効果を検討し、「中国的ODA」の内実と本質に迫った。 孫赫相(ソン・ヒョクサン)慶熙大学公共大学院院長は、「開発協力に対するアジア的モデルの可能性の模索:北東アジア供与国間の収れんと分化」というタイトルで、経済発展段階における韓国、日本、中国の同質性と異質性が対外戦略と連携した開発協力ではいかなる様相に収れんし分化するのかについて考察し、開発協力におけるアジア的アプローチの可能性について報告した。現段階における性急なモデル化の試みには慎重な立場をとりながらも、国連の持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable_Development_Goals)など国際規範の拡散などを軸としたアジア型モデルの収れんの可能性に触れた。また、ODAに変わる概念枠組みとして持続可能な開発のための「総合的開発支援(TOSSD:Total_Official_Support for_Sustainable_Development)」を用いて、中国の国際開発協力を国際比較の視座で議論できるとした。さらに、アジア型開発協力モデルの模索において、3カ国による開発事業の共同実施や開発経験の共有、北朝鮮開発支援がいかなる意味合いや重要性を持つかについても言及した。 李鋼哲(り・こうてつ)北陸大学未来創造学部教授は、日中韓を始めとするアジア諸国は先進国からの援助を受けて経済成長を成し遂げており、既に先進国になった日本、先進国仲間入りを果たした韓国、そして未だに発展途上国である中国の国際開発協力は、それぞれの特徴をもちながらも、共通点が多いとした。そして日中韓3カ国の援助アプローチは、国際援助コミュニティーに支配的な援助アプローチと異なる、2つの基本的な特徴、即ち、「内政不干渉」の原則と「援助・投資・貿易の相乗効果」の重視を共有すると主張した。 その後、討論者の金泰均(キム・テギュン)ソウル大学国際大学院教授は、国際開発協力の「アジア型モデル」を議論する上では、3カ国のODAのウィンウィン戦略(モデリング)、3カ国の開発援助の特質、そして受援国(パートナー国)にとってもウィンウィン戦略になるかなどの視点をバランスよく考えるべきだとした。そして「内政不干渉」の原則をめぐる日韓と中国の認識の相違、開発援助(とりわけ、対アフリカ援助)における雁行モデル的な展開にみられる援助レジームの共通点と相違点、開発援助の担い手としての各国政策金融機関による国際開発金融機関(MDB:Multilateral_Development_Bank)のセイフガード3原則(環境破壊、強制移住、人権蹂躙の禁止)などの共有を通じた国際開発協力の「アジア型モデル」の収れん可能性について議論した。 時間の制約で討論をフロアーにオープンすることはできなかったが、それぞれの立場や専門領域を踏まえた、そして自分の夢が込められた素晴らしい討論が交わされた。最後は、北朝鮮・統一専門家でもある徐載鎭(ソ・ゼジン)未来人力研究院院長により、北朝鮮に対する開発支援の重要性に触れるコメントと閉会の辞で締めくくられた。 これからも日韓アジア未来フォーラムで「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」について、実りのある議論を展開していくためには、総論的な検討にとどまらず、ODAフォーラムのように具体的なイシューにおいて掘り下げた検討を重ねていかなければならない。次年度も前2回のODAフォーラムの延長としてODA問題を取り上げることになるが、次回のフォーラムに当たっても、引き続き国際開発協力における中国のプレゼンスにも注目しつつ、北朝鮮に対する開発支援をめぐる日中韓の協力の可能性を1つの軸に設定して進めていくと良いのではないかと思う。それによって「アジア型ODA」の課題も浮き彫りになるだろうし、ODAの理念にもどって、理論的に検討できるのではないか。最後に、このフォーラムの成功のためにご支援をいただいた李鎮奎未来人力研究院理事長と今西代表、そして大統領の弾劾に向けたキャンドル集会の真っただ中で韓国を訪ねた発表者と渥美財団スタッフの皆さんに感謝の意を表したい。 当日の写真は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/01/NikkanForum16_Photo.pdf <金雄煕(キム・ウンヒ)Kim Woonghee> 89年ソウル大学外交学科卒業。94年筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、98年博士。博士論文「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。99年より韓国電子通信研究員専任研究員。00年より韓国仁荷大学国際通商学部専任講師、06年より副教授、11年より教授。SGRA研究員。代表著作に、『東アジアにおける政策の移転と拡散』共著、社会評論、2012年;『現代日本政治の理解』共著、韓国放送通信大学出版部、2013年;「新しい東アジア物流ルート開発のための日本の国家戦略」『日本研究論叢』第34号、2011年。最近は国際開発協力に興味をもっており、東アジアにおいて日韓が協力していかに国際公共財を提供するかについて研究を進めている。 ------------------------------------------ 【3】第56回SGRAフォーラム「人を幸せにするロボット」へのお誘い(再送) 下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。 ◇テーマ:「人を幸せにするロボット(人とロボットの共生社会をめざして第2回)」 日 時:2017年2月11日(土・休)午後1時30分~4時30分 会 場:東京国際フォーラムガラス棟 G501号室 参加費:フォーラムは無料 懇親会は賛助会員・学生1000円、メール会員・一般2000円 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected], 03-3943-7612) ◇フォーラムの趣旨 近年、ニュースや様々なイベントなどで人型ロボットを見かける機会も多くなってきました。今、私たちの日々の生活をサポートしてくれる「より人間らしいロボット ヒューマノイド」の開発が急ピッチに進んでいます。 一方で、私たちの日常生活の中では、既に多種多様なロボットが入り込んでいる、といわれています。例えば「お掃除ロボット」、「全自動洗濯機」、「自動運転自動車」などなど。ロボット研究者によれば、これらもロボットなのだそうです。では、ロボットとは何なのでしょうか? そして、未来に向けて「こころを持ったロボット」の開発がA.I.(Artificial Intelligence)の研究をベースに進められています。「こころを持ったロボット」は可能なのでしょうか?「ロボットのこころ」とは何なのでしょうか?この問題を突き詰めて行くと、「こころ」とは何か?という哲学の永遠の命題に行きあたります。 今回のフォーラムでは、第一線で活躍中のロボット研究者と気鋭の哲学者が、人を幸せにするロボットとは何か?人とロボットが共生する社会とは?など、皆さまの興味や疑問にわかり易くお答えします。 ◇プログラム 【基調講演】「夢を目指す若者が集う大学とロボット研究開発の取り組み」 稲葉雅幸(Masayuki_Inaba)東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻教授 ロボットの研究開発は数十年の歴史があり、工場内から社会生活のさまざまな分野への活躍が期待されています。ロボットで社会貢献の夢を抱く若者が集い、社会へ飛び立ってゆく大学におけるロボット研究開発の取り組みについてご紹介します。 【プレゼンテーション1】「ロボットが描く未来」 李周浩(Joo-Ho_Lee)立命館大学情報理工学部情報コミュニケーション学科教授 SF映画、SF小説、SF漫画、未来の社会を描く物語には必ずと言っても過言ではないくらいロボットが出てきます。本講演では予測可能な未来を実現させる技術としてのロボットについて、また、そのロボットが現在の社会に与える影響に関する内容を中心に話題を提供します。 【プレゼンテーション2】「ロボットの心、人間の心」 文景楠(Kyungnam_Moon)東京大学教養学部助教(哲学) ロボットは人間のような心をもつことができるのでしょうか。それ以前に、心を「もつ」や「もたない」といったことはそもそも何を意味しているのでしょうか。私のプレゼンテーションでは、こういった問題を哲学的な観点から一緒に考えます。 【プレゼンテーション3】「(絵でわかる)ロボットのしくみ」 瀬戸文美(Fumi_Seto)物書きエンジニア 「絵でわかるロボットのしくみ」はロボット工学へのはじめの一歩を踏み出すためのガイドブックとして、数式や専門用語を用いずに分野全体の俯瞰を行うことを目的とした書籍です。この本ができるまでの紆余曲折をお話しし、ロボットや科学技術を身近なものとするにはどうしたらよいか、皆さんと考えたいと思います。 【フリーディスカッション】-フロアとの質疑応答- 〇プログラムは下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/SGRA_Forum_56_Program.pdf 〇ポスターは下記リンクよりダウンロードしていただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/59thSGRAforumposterlight.pdf ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第56回SGRAフォーラム(2月11日東京) 「人を幸せにするロボット」<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/research/ca04/2016/7741/ ◇第22回日比共有型成長セミナー(2月13日フィリピン・バタンガス) 「連邦制と地方分権」(言語は英語) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Li Kotetsu “From Trump Shock To Trump Chance”

    ********************************************************************************* SGRAかわらばん656号(2017年1月19日) 【1】エッセイ:李鋼哲「トランプ・ショックからトランプ・チャンスへ発想転換を」 【2】会員だより:2016年度・第37回沖縄タイムス出版文化賞を受賞!          洪ユンシン著「沖縄戦場の記憶と『慰安所』」(インパクト出版会) 【3】SGRAフォーラム「人を幸せにするロボット」へのお誘い(2月11日東京)(再送) ********************************************************************************** ☆SGRAエッセイは執筆者個人の見解でありSGRAを代表するものではありません☆ 【1】SGRAエッセイ#518 ■李鋼哲「トランプ・ショックからトランプ・チャンスへ発想転換を」 昨年11月9日に米国大統領選挙の結果が発表されると、世界に大きな衝撃が広がっていった。「トランプ・ショック」で、これからの米国と世界の行方を心配する声が世界中の世論を沸かす。民主党が強い米国の主要都市では大きなデモが発生した。当選した大統領に対する反対デモは、米国だけでなく世界でも例を見ない。新年早々の米国内世論調査でも、トランプ次期大統領の支持率は50%にとどまり、歴代大統領就任直前の支持率では最も低く、国民の分断によって今後の政権運営が難しくなることが予想される。 2016年は国際社会において波乱万丈の年、世界の流れが大きく転換した年であった。かつての「大英帝国」イギリスは7月に国民投票でEU離脱(Brexit)を決定、移民やテロを問題視するEU諸国でも波紋が広がり、極右保守政党が台頭しつつある。そして、今度は「アメリカ帝国」の大統領選挙で、もう一度世界に衝撃を与えたのは偶然の連続ではなく、「行き過ぎた」グローバリズムに対する反動であろう。世論ではEUや米国の先行きについて懐疑と心配の声が圧倒的に多いように見受けられる。これは一つの時代の終わりと新しい時代(多極化または無極化)の始まりを告げる鐘声ではなかろうか。 さらに世界の近代史において、19~20世紀にかけて欧米を中心に創られた世界秩序が、冷戦やポスト冷戦期のグローバル化資本主義を経て、21世紀に入り行き詰まってしまったことに対して、新しい秩序への変化を求める重要なシグナルだと見ることもできるだろう。もちろん、1世紀以上にわたって創られた1つの秩序から次の新しい秩序が成立するまで、世界は波乱と混沌が続く可能性が増すだろう。しかし、他方では、イマニュエル・ウォーラーステイン(アメリカの社会学者)が分析した、中心(先進国)と周辺(途上国)という構図が根底から変わり、先進国と新興諸国が平等な土台に立って、新しい世界秩序を模索・構築していく序曲になるかも知れない。 目を転じてアジアの未来を考えると、日本やアジアにとって「トランプ・ショック」はリスクの要因が大きいかも知れないが、発想を転換すれば、これまでの米国との関係を再構築する重要なチャンスとしてとらえることができるだろう。かつて、鳩山由紀夫元首相は「対米関係の見直し、沖縄米軍基地の国外移転、東アジア共同体を目指す」という対外関係の方針を打ち出して米国の反発を買い失脚したが、今こそ、そのような方向性は再検討すべき重要な課題のひとつになるのではなかろうか。安倍政権では日米同盟を強固なもの、半永久なものと強調しているが、日本の50年後や100年後のビジョンを考えた場合、いつまで非対称的な同盟(対米従属)関係を続けるのであろうか。 トランプ新大統領は就任後に、選挙公約で掲げた政策を修正しながらも実施しようとするだろう。米国がTPPを批准しないことになると、日本政府が熱心に進めてきたTPPは無意味になる。日本は、米軍駐留経費の負担増要求(トランプ氏は「海外駐留米軍の撤退」をも言及している)など多くの難題を突き付けられるだろう。日本は思い切って発想転換をすべき時なのかも知れない。米国の政策を逆手に取って、東アジア地域の経済連携を強化するチャンスかもしれない。沖縄問題をはじめとする駐留米軍の基地問題を根本的に解決するチャンスかもしれない。 もちろん日米同盟を一気にぶっ飛ばすということではない。しかし、世界の勢力図が大きく変わりつつある今日、その時代にふさわしい方向を模索していくことは不可欠であろう。1つの選択肢として、日米同盟に代わる安全保障メカニズムを「六者協議」を土台として、朝鮮半島南北+日米中ロが共同で「東北アジア安保協議体」を構築するという構想も改めて検討する価値があるだろう。それにASEANやインドなどアジア諸国を加えると幅広い「東アジア安保協議体」になる可能性も生まれてくるだろう。 多くの日本人は「同盟」を自国の安定を守ってくれるシステムと考えているようだが、日本も同盟国アメリカを守る義務を負うのが本当の意味での平等な同盟であることは言うまでもない。また、「同盟」は自国を守るという側面もあるが、他方では必ず敵(または仮想敵)を作るという両刃の剣のリスクを持ち合わせていることを忘れてはならない。何故かというと、「同盟」は敵が存在しないと意味がないからである。近年日本では「中国脅威論」、「北朝鮮脅威論」(確かに脅威的な側面がないわけではないが)が増えている裏には、為政者たちが意図的にマスコミを通じて脅威論を煽り、国民に恐怖心を植え付け、自分たちの集団利益を図っているというところが本音であろう。日本の国防費がここ4年間増えているという実態がそれを物語っている。東北アジアで軍備競争の機運がにわかに高まっていることは警戒しなければならない。 現在、日本にとって最大の貿易相手と輸出市場は東アジア地域で、日本の対外貿易の55%(2015年)以上を占めている。そのうち半分近くは中国(香港、台湾を含む)である。したがって、日本はあまり国益にならないTPPに固執するよりは、RCEPを推進したほうが、現在も未来も日本経済に大きな利益をもたらすことは明らかである。RCEPに関する交渉は2012年から始まって16年に締結を目指していたが、日本が対米関係を重視しTPP加盟を優先課題として力を入れていたため、交渉が前進していない。今こそ、日本と東アジアがRCEPを進め、「東アジア経済共同体」を目指す絶好の機会であるかも知れない。 トランプ・リスクをチャンスに変えるためには、日本や東アジア諸国は発想の転換が必要であろう。日本では批判と心配の声が多いフィリピンのドゥテルテ大統領は、対米・対中外交方針を大きく転換し、もしかすると日本や東アジア諸国が対米関係を根本から見直す先駆けになるかもしれない。   注記:このエッセイは選挙翌日の昨年11月10日に書き、最近修正した。トランプ大統領当選に対する世間の評価が変わりつつあるが、当時の世論ではほぼ「トランプ・ショック」一辺倒だった。 <李鋼哲(り・こうてつ)Li Kotetsu> 1985年中央民族学院(中国)哲学科卒業。91年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程中退。東北アジア地域協力を専門に政策研究に従事し、2001年より東京財団研究員、名古屋大学研究員、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、06年現在、北陸大学教授。日中韓3カ国を中心に国際舞台で精力的に研究・交流活動に尽力している。SGRA研究員および「構想アジア」チーム代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』(編著、2015年4月、日本僑報社)、その他論文やコラム多数。 -------------------------------------------------------------------------- 【2】会員だより:2016年度・第37回沖縄タイムス出版文化賞を受賞! ◆洪ユンシン著「沖縄戦場の記憶と『慰安所』」(インパクト出版会) SGRAかわらばん614号(2016年4月7日配信)で紹介したSGRA会員の洪ユンシンさんのご著書が、第37回沖縄タイムス出版文化賞を受賞しました。この賞は沖縄県内出版文化の向上と出版活動の振興を図るため、沖縄に関わる一般刊行物の中から優れた図書を選び、著作および発行所を表彰する事業です。おめでとうございます! 沖縄タイムズの記事は下記リンクからご覧いただけます。 http://press.okinawatimes.co.jp/cad/2016/12/28/ -------------------------------------------------------------------------- 【3】第56回SGRAフォーラム「人を幸せにするロボット」へのお誘い(再送) 下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。 ◇テーマ:「人を幸せにするロボット(人とロボットの共生社会をめざして第2回)」 日 時:2017年2月11日(土・休)午後1時30分~4時30分 会 場:東京国際フォーラムガラス棟 G501号室 参加費:フォーラムは無料 懇親会は賛助会員・学生1000円、メール会員・一般2000円 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected], 03-3943-7612) ◇フォーラムの趣旨 近年、ニュースや様々なイベントなどで人型ロボットを見かける機会も多くなってきました。今、私たちの日々の生活をサポートしてくれる「より人間らしいロボット ヒューマノイド」の開発が急ピッチに進んでいます。 一方で、私たちの日常生活の中では、既に多種多様なロボットが入り込んでいる、といわれています。例えば「お掃除ロボット」、「全自動洗濯機」、「自動運転自動車」などなど。ロボット研究者によれば、これらもロボットなのだそうです。では、ロボットとは何なのでしょうか? そして、未来に向けて「こころを持ったロボット」の開発がA.I.(Artificial_Intelligence)の研究をベースに進められています。「こころを持ったロボット」は可能なのでしょうか?「ロボットのこころ」とは何なのでしょうか?この問題を突き詰めて行くと、「こころ」とは何か?という哲学の永遠の命題に行きあたります。 今回のフォーラムでは、第一線で活躍中のロボット研究者と気鋭の哲学者が、人を幸せにするロボットとは何か?人とロボットが共生する社会とは?など、皆さまの興味や疑問にわかり易くお答えします。 ◇プログラム 【基調講演】「夢を目指す若者が集う大学とロボット研究開発の取り組み」 稲葉雅幸(Masayuki_Inaba)東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻教授 ロボットの研究開発は数十年の歴史があり、工場内から社会生活のさまざまな分野への活躍が期待されています。ロボットで社会貢献の夢を抱く若者が集い、社会へ飛び立ってゆく大学におけるロボット研究開発の取り組みについてご紹介します。 【プレゼンテーション1】「ロボットが描く未来」 李周浩(Joo-Ho_Lee)立命館大学情報理工学部情報コミュニケーション学科教授 SF映画、SF小説、SF漫画、未来の社会を描く物語には必ずと言っても過言ではないくらいロボットが出てきます。本講演では予測可能な未来を実現させる技術としてのロボットについて、また、そのロボットが現在の社会に与える影響に関する内容を中心に話題を提供します。 【プレゼンテーション2】「ロボットの心、人間の心」 文景楠(Kyungnam_Moon)東京大学教養学部助教(哲学) ロボットは人間のような心をもつことができるのでしょうか。それ以前に、心を「もつ」や「もたない」といったことはそもそも何を意味しているのでしょうか。私のプレゼンテーションでは、こういった問題を哲学的な観点から一緒に考えます。 【プレゼンテーション3】「(絵でわかる)ロボットのしくみ」 瀬戸文美(Fumi_Seto)物書きエンジニア 「絵でわかるロボットのしくみ」はロボット工学へのはじめの一歩を踏み出すためのガイドブックとして、数式や専門用語を用いずに分野全体の俯瞰を行うことを目的とした書籍です。この本ができるまでの紆余曲折をお話しし、ロボットや科学技術を身近なものとするにはどうしたらよいか、皆さんと考えたいと思います。 【フリーディスカッション】-フロアとの質疑応答- 〇プログラムは下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/SGRA_Forum_56_Program_rev.pdf 〇ポスターは下記リンクよりダウンロードしていただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/59thSGRAforumposterlight.pdf ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第56回SGRAフォーラム(2月11日東京) 「人を幸せにするロボット」<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/research/ca04/2016/7741/ ◇第22回日比共有型成長セミナー(2月13日フィリピン・ロスバニョス) 「連邦制と地方分権」(言語は英語) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Lim Chuan Tiong “Trump-Cai Telephon Call”

    ********************************************************************************* SGRAかわらばん655号(2017年1月12日) 【1】エッセイ:林泉忠「『トランプ・蔡電話会談』米中角逐の新たな幕開け」 【2】SGRAフォーラム「人を幸せにするロボット」へのお誘い(2月11日東京)(再送) ********************************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#517 ◆林泉忠「『トランプ・蔡電話会談』米中角逐の新たな幕開け」 12月2日午後11時、台北の総統府蔡英文総統からアメリカ大統領当選者トランプ氏への一本の電話が、北京の神経を尖らせ、また国際社会をも震撼させた。この日「TAIWAN(台湾)」が人目を引き、アメリカなどの国際メディアのトップニュースとなり現れた。驚きの表情を隠しきれない中国外相の王毅氏と中国国務院台湾事務弁公室スポークスマンが、メディアからの質問に答えた際に、「痛くも痒くもない」の一言だけを返した。「これは台湾側が行った小細工に過ぎず、1つの中国の構造を変えることは不可能である」と。 しかしながら、突然起こった12分間の「トランプ・蔡電話会談」が、いったいどれだけ中国指導部を驚愕させたかは、容易に想像がつく。連日中国共産党政府は、全ての国家安全機関とシンクタンクを動員し、今回の「電話事件」発生のいきさつを明らかにしようとしているが、調べれば調べるほど中南海をがっかりさせる結果となっている。 まず、常識にとらわれないカードを出すトランプ次期大統領の性格からすると、もし「トランプ・蔡電話会談」がふとひらめいた行動だったら、大して驚くことではない。ところが、アメリカ大統領選に勝利した直後、トランプ氏のチームはすでに各国首脳と電話会談を行う名簿を作成しており、消息筋によると、早い段階から「蔡英文総統」はその名簿の中に入っていたそうだ。通話のスケジュールが確定した後、関係者はトランプ次期大統領に説明を行っており、トランプ氏はもちろんネガティブな反応が出る可能性を十分に理解していた。言い換えるなら、今回の「トランプ・蔡電話会談」は偶然に起こった軽率な出来事ではなく、関係者たちによる周到な計画があって成しえた事で、決して台湾側の一方的な「小細工」として説明できるほど簡単なことではない。 ◇周到にアレンジされた「トランプ・蔡電話会談」 次に、中国の最大の心配事は結局のところ、「電話茶番」が、1970年代に構築された「キッシンジャー体制」以来アメリカが堅持している「1つの中国」政策の変更をトランプ氏が意図しているかどうかである。現在トランプ次期大統領の政権人事はまだ完全には固められておらず、また厳格に言うと、就任前の言動も、これからの米国政府の政策とは同じではないにもかかわらず、中国を懸念させる情報が1つまた1つと出てくるたびに、中南海はもうすでにトランプ氏の中国政策に対して引き続き「慎重で楽観的」でいられなくなっている。 ひとしきりの驚愕と震撼が過ぎ去った後、「トランプ・蔡電話会談」を主導していた一大勢力が浮上してきた。それは、アメリカ「ヘリテージ財団」である。イデオロギー的にアメリカの保守勢力の重鎮と見なされているこの財団は、1973年に創立され、創立者のフュルナー(Edwin_Feulner)氏の40年あまりの運営を経て、現在のような年度予算8000万ドルを超えるまでに発展し、ワシントンD.C.に対する影響力が最も大きなシンクタンクの1つとして見なされるようになった。共和党出身の歴任高官の多くはこのシンクタンクから政界入りしており、トランプ次期大統領に運輸長官に任命されたイレーン・チャオ氏もまたその中の一人である。選挙期間中、ヘリテージ財団はトランプ氏の為に政策白書を作成しただけでなく、財団の多くのメンバーも応援団として参加している。注目すべきは、ヘリテージ財団は数十年にわたって台湾との関係が密接であり、ワシントンD.C.の親台本営と見なされており、また台湾は長きにわたりロビー活動や交流を行ってきた対象でもある。 ◇影響力絶大の「ヘリテージ財団」 「トランプ・蔡電話会談」をもっとも直接的に推し進めたのは他でもない、まさに長期にわたりヘリテージ財団の総裁を務めてきたフュルナー氏である。フュルナー氏と台湾の政界はもともと深い関係にあり、台湾への訪問はすでに20回を超え、台湾歴代総統の就任式典にも数多く参加しており、李登輝、陳水扁、馬英九、蔡英文などの歴代の総統との面会も17回にも及ぶ。蔡英文総統と同じロンドン・スクール・オブ・エコノミクスを卒業したフュルナー氏は今年8月にトランプ応援団に参加し、上級顧問として国家安全保障外交政策を務めるトランプ次期大統領の最重要ブレインの一人である。フュルナー氏は10月に財団訪問団を引き連れて台北を訪問し、13日には総統府において蔡英文総統と面会した。 ヘリテージ財団の米台関係における重要な地位にあり影響力があるもう一人の人物は、財団研究員のスティーブン・イェーツ(Stephen_Yates)氏で、彼は現在アイダホ州共和党主席を務めており、またトランプ氏側の顧問も兼任している。イェーツ氏は、ディック・チェイニー(Dick_Cheney)副大統領の国家安全保障問題担当副補佐官を務めた人物で、今年に入り「台湾関係法」と「6つの保障」(Six_Assurances)を共和党の綱領に入れた起草者でもある。その内の「6つの保障」はまさに、北京を怒らせてやまない「中国の台湾に対する主権を承認しない」である。イェーツ氏はもともと台湾と深い関係にあり、1987年から89年にかけて、高雄でモルモン教の宣教師をしていた事があり、流暢で且つ台湾なまりの北京語を話し、台湾の政界及び社会各界に幅広い人脈を持っており、財団の同世代の中で彼の右に出るものはいない。「トランプ・蔡電話会談」の4日後、イェーツ氏はトランプ氏の意思を携え台北を訪れ、更に蔡英文総統を表敬訪問した。 「トランプ・蔡電話会談」のアメリカ政界における反応は、ほぼ二極化して現れており、在任中のオバマ政府は、やはり「1つの中国」政策を重ねて表明したので、この電話が長年における米国の対中政策に衝撃を与え、世界の2大経済大国間の協力関係に影響を及ぼしたくないことがはっきりと窺える。しかしながら、民主党の人々及びアメリカメディアによる「1つの中国政策」に対し、トランプ氏本人がツイッターやフェイスブックに続けて投稿し強く反撃しただけでなく、主にトランプ側の要員や共和党内にいる有力政治家もまた、次々と「トランプ・蔡電話会談」への評価を表明し、ホワイトハウスの長く続く硬直した思考を問いただした。トランプサイドの顧問を務めているある元国務院の役人は、実際は「トランプ・蔡電話会談」に関わった人物は皆、長年にわたりアメリカがとってきた「1つの中国政策」を非常に理解しているが、「過去に共和党や民主党の大統領が行ってきた事を、トランプ氏が同じように行うとは限らない。彼にとっては典型的なワシントンのルールが必ずしもいつも最も良いものではない」と言及した。 ◇「台湾」をカードとする米中の新たな角逐 中国にとってトランプ時代の対中政策の不安材料は「トランプ・蔡電話会談」にとどまらない。トランプ次期大統領が蔡総統からの電話を受けたまさにその日に、米下院は圧倒的多数で「国防権限法」を可決し、新法案は20年余りに渡る米台間の軍事交流上の多くの制限を解除し、米台関係の未来を「無限の可能性に満ち溢れ」させた。実際、台湾側はすでにその法案が米の上、下院で通った後の検討・協議を開始しており、台湾の国防相が正々堂々とペンタゴンに足を踏み入れることを待望し、また台湾をアメリカ主導の環太平洋合同軍事演習に参加させ、台、米、日、3者による軍事上の協力を実現するという望みがある。 確かに、習近平体制下の北京からすると、「台湾問題」は決して容易に妥協できない「核心的問題」である。「トランプ・蔡電話会談」は危機であると同時に転機でもあり、少なくともすでに中国はトランプ時代に対する「慎重で楽観的」な認識からは転換しただろう。北京はトランプが就任するまでの残された時間を座視することなく、トランプの弱点と人脈について研究し、同時にトランプ次期大統領の対中政策に影響を与えうる全ての人物に近づくことに大幅に力を注ぎ、40年間に渡ってアメリカが既定してきた「1つの中国政策」が完全に歪められないように確保するだろう。 「台湾」をカードとするトランプ時代における米中の角逐は、新たな幕開けを迎えている。 (原文は『明報』(2016年12月9日付)に掲載。比屋根亮太訳) <林泉忠(リン・センチュウ)☆John_Chuan-Tiong_Lim> 国際政治専攻。2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年より2年間ハーバード大学客員研究員、2010年夏台湾大学客員研究員。2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員、2014年より国立台湾大学兼任副教授。 -------------------------------------------------------------------------- 【2】第56回SGRAフォーラム「人を幸せにするロボット」へのお誘い(再送) 下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。 ◇テーマ:「人を幸せにするロボット(人とロボットの共生社会をめざして第2回)」 日 時:2017年2月11日(土・休)午後1時30分~4時30分 会 場:東京国際フォーラムガラス棟 G501号室 参加費:フォーラムは無料 懇親会は賛助会員・学生1000円、メール会員・一般2000円 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected], 03-3943-7612) ◇フォーラムの趣旨 近年、ニュースや様々なイベントなどで人型ロボットを見かける機会も多くなってきました。今、私たちの日々の生活をサポートしてくれる「より人間らしいロボット ヒューマノイド」の開発が急ピッチに進んでいます。 一方で、私たちの日常生活の中では、既に多種多様なロボットが入り込んでいる、といわれています。例えば「お掃除ロボット」、「全自動洗濯機」、「自動運転自動車」などなど。ロボット研究者によれば、これらもロボットなのだそうです。では、ロボットとは何なのでしょうか? そして、未来に向けて「こころを持ったロボット」の開発がA.I.(Artificial_Intelligence)の研究をベースに進められています。「こころを持ったロボット」は可能なのでしょうか?「ロボットのこころ」とは何なのでしょうか?この問題を突き詰めて行くと、「こころ」とは何か?という哲学の永遠の命題に行きあたります。 今回のフォーラムでは、第一線で活躍中のロボット研究者と気鋭の哲学者が、人を幸せにするロボットとは何か?人とロボットが共生する社会とは?など、皆さまの興味や疑問にわかり易くお答えします。 ◇プログラム 【基調講演】「夢を目指す若者が集う大学とロボット研究開発の取り組み」 稲葉雅幸(Masayuki_Inaba)東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻教授 ロボットの研究開発は数十年の歴史があり、工場内から社会生活のさまざまな分野への活躍が期待されています。ロボットで社会貢献の夢を抱く若者が集い、社会へ飛び立ってゆく大学におけるロボット研究開発の取り組みについてご紹介します。 【プレゼンテーション1】「ロボットが描く未来」 李周浩(Joo-Ho_Lee)立命館大学情報理工学部情報コミュニケーション学科教授 SF映画、SF小説、SF漫画、未来の社会を描く物語には必ずと言っても過言ではないくらいロボットが出てきます。本講演では予測可能な未来を実現させる技術としてのロボットについて、また、そのロボットが現在の社会に与える影響に関する内容を中心に話題を提供します。 【プレゼンテーション2】「ロボットの心、人間の心」 文景楠(Kyungnam_Moon)東京大学教養学部助教(哲学) ロボットは人間のような心をもつことができるのでしょうか。それ以前に、心を「もつ」や「もたない」といったことはそもそも何を意味しているのでしょうか。私のプレゼンテーションでは、こういった問題を哲学的な観点から一緒に考えます。 【プレゼンテーション3】「(絵でわかる)ロボットのしくみ」 瀬戸文美(Fumi_Seto)物書きエンジニア 「絵でわかるロボットのしくみ」はロボット工学へのはじめの一歩を踏み出すためのガイドブックとして、数式や専門用語を用いずに分野全体の俯瞰を行うことを目的とした書籍です。この本ができるまでの紆余曲折をお話しし、ロボットや科学技術を身近なものとするにはどうしたらよいか、皆さんと考えたいと思います。 【フリーディスカッション】-フロアとの質疑応答- 〇プログラムは下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/SGRA_Forum_56_Program_rev.pdf 〇ポスターは下記リンクよりダウンロードしていただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/59thSGRAforumposterlight.pdf ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第56回SGRAフォーラム(2月11日東京) 「人を幸せにするロボット」<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/research/ca04/2016/7741/ ◇第22回日比共有型成長セミナー(2月13日フィリピン・ロスバニョス) 「連邦制と地方分権」(言語は英語) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Invitation to SGRA Forum #56

    ***************************************************** SGRAかわらばん654号(2017年1月5日) ☆☆☆謹賀新年☆今年もよろしくお願い致します☆☆☆ ***************************************************** ◆第56回SGRAフォーラム「人を幸せにするロボット」へのお誘い 下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。 ◇テーマ:「人を幸せにするロボット(人とロボットの共生社会をめざして第2回)」 日 時:2017年2月11日(土・休)午後1時30分~4時30分 会 場:東京国際フォーラム ガラス棟G501号室 参加費:フォーラムは無料 懇親会は賛助会員・学生1000円、メール会員・一般2000円 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected] 03-3943-7612) ◇フォーラムの趣旨 近年、ニュースや様々なイベントなどで人型ロボットを見かける機会も多くなってきました。今、私たちの日々の生活をサポートしてくれる「より人間らしいロボット ヒューマノイド」の開発が急ピッチに進んでいます。 一方で、私たちの日常生活の中では、既に多種多様なロボットが入り込んでいる、といわれています。例えば「お掃除ロボット」、「全自動洗濯機」、「自動運転自動車」などなど。ロボット研究者によれば、これらもロボットなのだそうです。では、ロボットとは何なのでしょうか? そして、未来に向けて「こころを持ったロボット」の開発がA.I.(Artificial Intelligence)の研究をベースに進められています。「こころを持ったロボット」は可能なのでしょうか?「ロボットのこころ」とは何なのでしょうか?この問題を突き詰めて行くと、「こころ」とは何か?という哲学の永遠の命題に行きあたります。 今回のフォーラムでは、第一線で活躍中のロボット研究者と気鋭の哲学者が、人を幸せにするロボットとは何か?人とロボットが共生する社会とは?など、皆さまの興味や疑問にわかり易くお答えします。 ◇プログラム 【基調講演】「夢を目指す若者が集う大学とロボット研究開発の取り組み」 稲葉雅幸(Masayuki_Inaba)東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻教授 ロボットの研究開発は数十年の歴史があり、工場内から社会生活のさまざまな分野への活躍が期待されています。ロボットで社会貢献の夢を抱く若者が集い、社会へ飛び立ってゆく大学におけるロボット研究開発の取り組みについてご紹介します。 【プレゼンテーション1】「ロボットが描く未来」 李周浩(Joo-Ho_Lee)立命館大学情報理工学部情報コミュニケーション学科教授 SF映画、SF小説、SF漫画、未来の社会を描く物語には必ずと言っても過言ではないくらいロボットが出てきます。本講演では予測可能な未来を実現させる技術としてのロボットについて、また、そのロボットが現在の社会に与える影響に関する内容を中心に話題を提供します。 【プレゼンテーション2】「ロボットの心、人間の心」 文景楠(Kyungnam_Moon)東京大学教養学部助教(哲学) ロボットは人間のような心をもつことができるのでしょうか。それ以前に、心を「もつ」や「もたない」といったことはそもそも何を意味しているのでしょうか。私のプレゼンテーションでは、こういった問題を哲学的な観点から一緒に考えます。 【プレゼンテーション3】「(絵でわかる)ロボットのしくみ」 瀬戸文美(Fumi_Seto)物書きエンジニア 「絵でわかるロボットのしくみ」はロボット工学へのはじめの一歩を踏み出すためのガイドブックとして、数式や専門用語を用いずに分野全体の俯瞰を行うことを目的とした書籍です。この本ができるまでの紆余曲折をお話しし、ロボットや科学技術を身近なものとするにはどうしたらよいか、皆さんと考えたいと思います。 【フリーディスカッション】-フロアとの質疑応答- プログラムは下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/SGRA_Forum_56_Program.pdf ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第21回日比共有型成長セミナー(1月6日フィリピン・バギオ) 「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」(言語は英語) http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/network/2016/7708/ ◇第56回SGRAフォーラム(2月11日東京) 「人を幸せにするロボット」<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/research/ca04/2016/7741/ ◇第22回日比共有型成長セミナー(2月13日フィリピン・バタンガス) 「連邦制と地方分権」(言語は英語) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Gao Weijun “Some Thoughts About Asia Future Conference”

    ********************************************************************************* SGRAかわらばん653号(2016年12月29日) 【1】エッセイ:高偉俊「アジア未来会議に思うこと」 【2】シッケタンツ「円卓会議『東南アジアの社会環境の変化と宗教の役割』報告」 ******************************************************************************** ★☆★今年もSGRAかわらばんをお読みくださりありがとうございました。引き続き2017年もよろしくお願いします。皆さまにとって、そして世界にとって、平和な年になりますように!★☆★ 【1】SGRAエッセイ#516(第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#9) ◆高偉俊「アジア未来会議に思うこと」 第3回アジア未来会議が、20ヵ国から397名の登録参加者を得て、北九州市で開催されてからもう2カ月が過ぎました。元渥美財団の奨学生として第1回アジア未来会議の企画当初から係わり、また、私の所属する北九州市立大学が第3回アジア未来会議を共催することになり、現地連絡責任者として大会運営に携わった者として、いろいろな思い出が湧いてきます。 2009年ごろだったと思いますが、私を含めた数人のSGRA会員が渥美財団の今西さんとおしゃべりしているうちにだんだん話が盛り上がってきました。それは、元渥美奨学生(ラクーン)はすでに世界中に広がり、大学の教授になって学生や若手研究者の指導をしたり、研究所や企業等で研究活動を続けている。そのような元奨学生(渥美財団のこどもたち)や彼らが指導する学生や若手研究者(渥美財団の孫たち)が集まる国際会議を立ち上げ、渥美奨学生やSGRA会員の交流の輪を拡げ深めたいという話でした。 翌年、事務局長(当時)の嶋津さんも交えて話す機会があり、そのような国際会議をやりましょう、そして第1回会議は経済大国として台頭する中国の上海で開催しましょう、ということになりました。それから徐々に、会議の名前は「アジア未来会議」とすること、ネットワークを広げるために、SGRA会員だけでなく日本に留学し現在世界各地の大学等で教鞭をとっている方々や、その学生の皆さんにも交流・発表の場を提供すること、限定された専門家ではなく広く社会全般を対象に、幅広い研究領域を包括した国際的かつ学際的な活動を狙いとすることなどが決まっていきました。 2011年4月、第1回アジア未来会議の企画案が出来上がりました。テーマは「世界のなかの東アジア:地域協力の可能性」とし、参加者150人以上の規模をめざし、2012年8月上旬に上海で開催としましたが、その後、諸般の事情により、2013年3月に500人の規模で開催する計画に変更されました。2011年7月18日から21日まで、今西さんと一緒に上海を訪問し、メイン会場として3000人収容できる上海同済大学会場を視察、上海市僑務弁公室副主任蔡建国氏および複旦大学日本センター主任の徐静波先生に協力をお願いし、SGRA会員の上海財経大学の範建亭教授と打ち合わせを行いました。 2012年に入ってから、2回の現地訪問を重ね、着実に会議の準備を進めていましたが、2012年8月に尖閣諸島(中国では「釣魚島」)の「国有化」問題のために中国の反日運動が激しくなりました。国際政治に翻弄され、良き地球市民の実現を目指す渥美財団としては非常に残念ではありましたが、2012年10月に上海での開催を断念し、会場を上海からタイのバンコク市に移すことになりました。開催まであと4カ月しか準備期間がありませんから、慌ててバンコクを視察し、タマサート大学と北九州市立大学に共催を打診し快諾をいただきました。また当初イベント会社に依頼して企画してもらう計画も水の泡になりましたが、そのおかげで、その後の会議はSGRAネットワークを利用して、渥美財団が自ら企画運営する原型になりました。 SGRA会員の積極的な参加、多くの企業等の後援により、第1回アジア未来会議は20か国から332名の参加者を得ました。建築家隈研吾氏の公開基調講演には1200人が参加して成功へ導きました。フェアウェルパーティーにて第3回アジア未来会議の開催地の話が出て、当会議に参加した北九州市立大学の近藤学長から「ぜひ北九州で行いましょう」というお話があり、その場で決まってしまい、北九州市立大学の教授として私は重い責任を感じました。その後、2014年8月にインドネシアのバリ島で、第2回アジア未来会議「多様性と調和」が、17か国から約400名の参加者を得て開催されました。私としても北九州の開催に向けて益々緊張が高まりました。環境首都の旗を掲げた北九州での開催ですから、メインテーマを決めるのはそれほど時間がかかりませんでした。日本語の「環境と共生」の英訳には当初の「Environment_and_Symbiosis」より広い意味の「共生」を意味する「Environment_and_Coexistence」としました。 日本で初めての開催、また地方都市の北九州市での開催ですから、参加者が集まるか心配でした。しかし、論文の発表要旨の締め切りをした時点で700編を超える応募があり、改めてSGRAネットワークの強さを感じました。また会議開催に当たっては、投稿論文の査読やセッション座長から受付や会場案内まで、多くのSGRA会員がボランティアで手伝ってくださり、会議の成功に向けて奮闘してくださいました。最も感動したのは、渥美伊都子理事長がご高齢にもかかわらず会議に参加してくださり、大きな励みになったことでした。 北九州市立大学としても、第3回アジア未来会議を創立70周年記念の大行事と位置づけ、学長のリーダシップのもとに、副学長漆原先生を部会長としてアジア未来会議部会を立ち上げ、10回ほどの会合を開いて会議の開催に尽力しました。会議期間中に、職員の応援延べ86人、学生ボランティア延べ134人を動員し、休憩時のピアノの演奏や茶道のお点前など多くのイベントを準備しました。特に感動したのは漆原先生が食堂に立ち、自らマイクをもって、茶道のインベトの宣伝をする姿でした。このような大きな行事の開催によって、我大学としても大きなものを得たことを付け加えたいと思います。 以上のように、第3回アジア未来会議はみなさんのおかげで無事に成功裡に終了しました。渥美財団の元奨学生として、また今回の会議の運営組織の一員として振り返ってみると、アジア未来会議の開催は我々SGRA会員の交流を深めるばかりではなく、社会へSGRAの主張を広げることにより、良き地球市民の実現を目指すSGRAの目標に近づくことにもなったと思います。これからもより多くの方々にアジア未来会議に参加していただき、国境を越えたアジア未来を語っていきたいと思います。 <高偉俊(ガオ・ウェイジュン)Gao_Weijun> 北九州市立大学国際環境工学部建築デザイン学科教授。中国西安交通大学、四川大学、浙江大学等客員教授。SGRA研究員 ---------------------------------------------------- 【2】第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#10 ◆エリック・シッケタンツ「円卓会議『東南アジアの社会環境の変化と宗教の役割』報告」 植民地時代の苦難を経て、最近のグローバリゼーションのもと、東南アジア諸国は、国づくり、環境の悪化、宗教と民族の対立、社会的不平等など、さまざまな困難に再び直面している。識者の多くは「宗教」を、これらの課題を更に悪化させるネガテイブな要素とみなしている。本円卓会議においては「宗教は、各国が抱える様々な課題を克服するにあたって、重要な役割を果たすことができるのではないか、現に果たしているのではないか」とのポジティブな視点から、東南アジアの社会環境の変化に対応する宗教の役割を見直すことを目的とした。 本円卓会議は東南アジアの4カ国からの発表者から寄せられた4本の小論文の発表と、それに続く円卓会議の形式で行われた。発表者はインドネシア/ガジャマダ大学のアクマッド・ムンジッド、フィリピン/アテネオ・ド・マニラ大学のジャイール・S・コルネリオ、タイの活動家ヴィチャック・パニク、そしてヤンゴンベースのフランス人のミャンマー研究者、カリーヌ・ジャケであった。 最初の発表者であるアクマド・ムンジッドは、植民地以後のインドネシアの「新秩序時代」(1968-1998)、並びに1998年の民主化以降の国と宗教との関係についての流れを概観した。「新秩序時代」においては、イスラム教と政治とは一線を画していたが、1998年以降は再び宗教の政治化傾向があらわれてきた。スハルト政権の崩壊のあと、宗教内、宗教間での対立、抗争が顕在化し、近年その傾向は減ったとは言え、今でも続いており、過激で狂信的なイスラム教徒も出現している。こうした傾向に対して宗教指導者で政治家でもあった、アブドララーマン・ワヒッド(Abdurrahman_Wahid)元大統領(在任1999~2001年)に見られるような、伝統的イスラム教に身を置きつつも、(宗教的)教義を緩め、他宗派・他宗教にも寛容であり、さまざまな勢力との対話を重視するという政策も続けられた。ムンジッドは、インドネシアでの進歩的な宗教家間の対話、或いは連合を試みている様々な団体や組織の事例を挙げて、社会的公正や安定・平和をもたらす宗教間の対話の重要性を強調した。 次のジャイール・S・コルネリオの発表では、環境問題に焦点が当てられ、フィリピンのカソリック教会による気候変動の影響の緩和、或いは防止に向けた啓蒙活動などへの貢献が紹介された。彼はコミュニティでのスチュワードシップの育成、あるいは環境保全に対する責任感の醸成など、フィリピンカソリック教会の試みを、ボトムアップで社会を変えようとする「草の根活動(grass-roots_activities)」をベースとしたポジティブな役割として紹介した。 3番目のヴィチャック・パニクは発表の中で、高名な仏教の僧侶達が、共産主義者や犯罪者など体制側から見れば「敵」と見做される人々に対する冷酷な仕打ちに目をつぶるなど、タイ国で起きている国家と宗教の間の馴れ合いとも思われる「同盟関係」を批判的に考察した。パニクは、民衆の(伝統的な)精神的な拠りどころであり「森の中の隠者」と呼ばれる修道僧達の存在さえも無視あるいは犠牲にして、仏教の本来の教えである「慈悲」や「人間性」から離れてしまった、現在の制度化し体制化してしまった仏教界と国は、危険な政治的同盟関係に入ってしまったと厳しく批判した。 最後に、カリーヌ・ジャケはミャンマーにおける援助(Relief)と宗教に関わる政治について、2つの援助に焦点を当てて発表した。ひとつはサイクロン「ナルギス(Nargis)」による被害に対する支援、もうひとつは中央政府とカチン州との内戦の一連の流れである。ジャケは、ナルギスの後、ビルマの仏教界はいち早く対応し、罹災者に対して僧院を緊急時のシェルターとして開放し、仏教の教えの「ダーナ(dana:布施)」のもと経済的な支援をしたことを挙げた。2番目のケースは、主にカチン州に多いキリスト教の援助組織の活動についてであった。この事例では、宗教上の援助組織は地元で信頼され歓迎されているので、紛争地域でも効果的に活動できる一方、この様な宗教色のある援助が宗教集団間の対立を助長し、かえって紛争を長引かせたとも指摘した。 その後、この4人の発表者に各国からの6人の討論者が加わって円卓会議が行われた。円卓会議では会場からの質問、発言も相次ぎ、活発な意見の交換も行われ議論は時間切れまで続き、多くの東南アジアからの参加者の強い関心がうかがわれた。 皮肉に思えるかも知れないが、宗教の為しうるポジティブな貢献を議論するために設けられた本円卓会議の多くの時間は、現代世界が直面している様々な課題に対する宗教のネガテイブな局面に費やされた。無論、宗教が問題解決の一部となる一方、同時に問題の一部であることも事実であるため、これは地球上で起こっている現実を反映していると思われる。 今回の円卓会議で示されたのは、宗教と民族国家(政治)との関係についての今日的な課題である。宗教があまりに国家(政治)に近寄り過ぎ、政治的主体性を帯びてしまうと、かえって緊張をエスカレートしてしまう。気候変動のように、地方社会では対応できない諸問題の解決には国家レベルでの支援が早急に望まれるのは当然のことである。宗教には、さまざまなローカルな紛争に引きずり込まれず、地域、国あるいはグローバルに進行中の紛争にポジティブなインパクトを与えるよう、政治との距離と関係を慎重に見直すことが求められている。 英語の原文は下記リンクよりお読みいただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/AFC3-Southeast-Asia-Roundtable-Discussion.pdf <エリック・クリストファー・シッケタンツ☆Erik_Christopher_Schicketanz> 渥美国際交流財団2009年奨学生。東京大学大学院宗教学宗教史学研究室にて博士号の取得を経て、現在、日本学術振興会外国人特別研究員(東洋史)。専門は近代東アジアの宗教史、宗教と政治の関係。主な書籍には『堕落と復興の近代中国仏教—日本仏教との邂逅とその歴史像の構築』(法蔵館、2016年)等がある。 ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第56回SGRAフォーラム(2017年2月11日東京) 「人を幸せにするロボット」<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ 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  • Lin Qianqian “Natural Disasters Come Stubbornly, Conservatively, and Persistently”

    ******************************************************************** SGRAかわらばん652号(2016年12月22日) 【1】エッセイ:林茜茜「天災は頑固に、保守的に執念深くやって来る」 【2】エッセイ#514「トランプのアメリカ:鶏足を持ち込んだ華人」をめぐって ******************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#515 ◆林茜茜「天災は頑固に、保守的に執念深くやって来る」 天災は忘れた頃に来る。これは物理学者・寺田寅彦の言葉である。初めてこれを見た時、はっと我に返り鳥肌が立ったのをいまだに覚えている。 2016年11月22日の早朝、東北地方で再び大きな地震が発生した。津波警報と同時に、福島第二原発三号機の使用済み燃料プールの冷却装置が停止したというニュースも報道された。幸いなことに、2、3時間後、冷却装置は無事に再起動したものの、その時、日本列島に再び衝撃が走り、人々は5年前のあの悪夢を思い出してしまった。 2011年の東日本大震災からすでに5年も経ったが、原発の問題はいまだに解決されておらず、原発に恐怖を覚えながら、日々を暮らさなければいけない状況もまったく改善されていない。いったい福島で何が起きていたのか、根本的な問題は何であるのだろうか。今回の地震が起きるおよそ3週間前に、東京大学名誉教授の畑村洋太郎先生は、渥美国際交流財団ホールでの「渥美奨学生の集い」で「福島原発事故に学ぶ」という講演を行い、その答えを教示してくださった。 畑村先生は、福島原発の放射能漏れの原因は水素爆発にあったという一般的な認識を否定し、津波による配電盤の水没で長時間全電源が落ちていたため、燃料プールの冷却が不能だったことを指摘した。つまり根本的な原因は、津波がもたらしうる影響を充分に想定できなかったことにあるという。もちろん、事故が起きた原因を究明することも大事であるが、一番重要なのは、この事故から学んだことを今後に生かすことである。先生は、人間は「見たくないものは見えない、見たいものだけが見える」という心理が働くため、想定不足や準備不足による事故に陥りやすいと指摘した。それを踏まえたうえで、このような事故を防ぐには、危険に直面しても議論できる文化の醸成が必要で、自分の目で見て自分の頭で考えて判断・行動できる個人を作り、真のリーダーを育てなければならないと訴えた。 講演後、参加者から多くの質問が出た。例えば、経済効率の点から考えると、原発を推奨する必要性があるのか、中国や韓国における原子力発電の現状はどうなっているのか―このような多くの質問のなかで、私にとって一番印象深かったのは、畑村先生と名古屋大学名誉教授の平川均先生が交わした会話の内容である。先生方は、現在日本の社会は「気」に動かされており、特にリーマンショック以降、他人と異なる意見が言えなくなる状況が深刻化し、ますます村八分的なことが横行する社会になっていると指摘した。 確かに日本で生活してみて、不思議に思うところが多くあった。ここで取り上げられた「気」はまさにそのうちの一つである。「出る杭は打たれる」という表現があるが、日本では度が過ぎていて、個性や他人との差異はあまり認められないようである。それは現在日本でイジメが絶えない原因の一つになっていると考えられる。集団意識、協調性はすばらしいが、同一性を求めすぎると、窮屈になり、社会の活性化はますます難しくなってしまう。 イジメといえば、最近福島第一原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学1年の男子生徒がいじめを受けて不登校になったことが大変注目を浴びている。名前に「菌」と付けて呼ばれたり、「放射能」と言われたりするのみならず、「原発事故の賠償金をもらっているだろう」と言われ、同級生らと遊びに行く時に、遊興費や飲食代など合せて約150万円もの大金を負担させられたという。そのニュースを見た時、本当にあきれてしまった。優しい、思いやりがあると自負している国の子供なのに、なぜこのような残酷なことができるのだろうか。もちろん原因はいろいろあるだろうが、賠償金の事情や避難生活をしている人々に対する社会全体の関心の低さが、その一因と考えられる。今後、原発事故に関連するほかの問題も出てくるかもしれないが、原発事故だけでなく、避難生活を余儀なくされている人々にも、スポットライトをあてる必要があると思う。このように、畑村先生の講演は福島原発事故の問題のみならず、日本の今日の在り方を見詰め直す貴重な機会も提供してくれた。 今回の地震の時、テレビのアナウンサーが繰返し口にした次の言葉が、大変興味深かった。「津波警報が出ています。至急高い所に非難してください。皆さん、5年前の津波を思い出してください。実際に津波で命を失った方がたくさんいました。至急非難してください。」この言葉からは、過去の教訓を生かして、悲劇の再発を防ぐために努力している人々の前向きな姿勢が感じられ、少しはほっとしているが、しかし道のりはまだまだ長い。寺田寅彦は随筆「津浪と人間」で「地震や津浪は新思想の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである」と述べ、災害を防ぐ唯一の方法は「人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するより外はないであろう」と熱弁している。寅彦が言うように、私たちにできることは、人智が及ばぬ天災が起こりうる現実を直視し、過去の教訓に学んで、絶えずその危機に直面したときのことを考え、警鐘を鳴らし続けるよりほかはないと思う。 <林茜茜(リン・センセン)Lin Qianqian> 渥美国際交流財団2016年度奨学生。2013年4月に早稲田大学教育学研究科国語教育専攻に入学。現在は博士論文を執筆中。日本近代文学、中日比較文学を中心に研究している。 ---------------------------------------------------- 【2】エッセイ#514「トランプのアメリカ:鶏足を持ち込んだ華人」をめぐって 前回のSGRAエッセイに対してSGRA会員の葉文昌さんからコメントをいただき、著者のグロリアさんから回答がありました。読者の皆さんにも考えていただきたい内容なので、お2人の許可を得てご紹介します。グロリアさんからの「急いで書いたので考慮が足りない部分がありますが、一緒に考えてください」というメッセージをお伝えします。 尚、前回のエッセイは下記リンクよりお読みいただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/2016/7722/ 〇葉⇒ヤン アメリカでのひどい経験、お気の毒でした。 でも他国へ行ったことがあれば、このようなことはどこかで経験しているかと思います。このような偏見は、どの国でも起こり得る事です。起きるたびに、自分がステークホルダーである国ではどうなのかと自問し、それを解消できるよう自分なりの努力をするのが良いと思います。他国の事を変えるのは、その国のステークホルダーしかないのです。 ヤンさんは不幸にもひどい仕打ちを受けましたが、でも実際にはアメリカには非差別主義者も多くいる訳で(差別主義者よりも多いかもしれない)、今回の経験からアメリカは変わったと嘆くのはまさに差別主義者の思う壺で、世界を分断の方向に向かわせることに加担することになるのです。 更にヤンさんは「この中年で禿げ始めた白人」と書きましたが、「中年」「禿げ」「白人」は不要な情報で、これこそヤンさんを差別した差別主義者と同じことをしているように思います。 ひどい仕打ちを受けたのは本当に気の毒でした。次は、アメリカの優しい一面に出会えることを願っております。 ●ヤン⇒葉 ご拝読とご意見いただき、まことにありがとうございます。 葉様のコメント、非常に興味深いと思っております。 まず、冒頭に私が述べたように、今回の事件はアメリカの国境管理の中での異常です。 また、葉様は「でも他国へ行ったことがあれば、このようなことはどこかで経験しているかと思います。」とおしゃいますが、「人種差別が必ずどこかで起こっているから、今回の事件も普通」という推論こそが問題です。どこの国の国境管理においても、このような人種差別の行為は間違ったことであり、それを「普通にあることだ」とか「現実なのだ」などと語り、その行為を正常化することは、逆に人種差別を助長しているのです。どこであろうとも戦うべきなのです。 また、過去10年の間に、アメリカで様々な人種差別の経験をした私から見ても、今回の人種差別はひどく、憂慮すべきです。その背景は複雑ですが、最近『ニューヨーカー』とか『ニューヨークタイムズ』などで沢山の分析が成されているので、是非お読みください。 次に、私が落ち込んだ理由は、事件そのものではありません。この事件をアメリカの最近の政治文脈の中においた時、浮き彫りにされるのはアメリカ社会の二重構造、「非差別主義者」の「無責任」や「偽善」など、様々な社会・政治・文化の憂うべき側面なのです。選挙の頃、私はちょうどニューヨークにいたので、その場で痛感しました。選挙によってリベラルな考えの人がみんな落ち込んでしまっている時期に、のんきな楽観主義は「毒」とも言えるでしょう。アメリカはただの多民族融合やただの民主国家ではありません。アメリカには、黒人、女性そしてアジア人に対する差別と戦ってきた歴史があります。最近注目された、警察官による黒人の射殺、同性愛者の結婚の合法化、環境への悪影響のために原住民が反対するダコタ・アクセス・パイプライン、ロシア・ラングが撮った強制収容所に移送される日系アメリカ人の写真、そして選挙の翌日から起きたたくさんのイスラム教徒へのヘイトクライムなどが証明しているのは、アメリカは度々白人至上主義にやられてきた、またそれと戦ってきたという事実であり現実なのです。 もし葉様が今アメリカにいらっしゃったら、アメリカの「変わった」環境を体験することもできると思いますが、このエッセイに書いたように、今だからこそ、「分断されたアメリカ」、また、世界が「分断されて行く傾向」を直視しなければならないのです。 このような差別と戦う経験の中で深く認識が変わったのは、私だけではないのです。さらに、彼らの多くはーダコタの原住民や収容所に送られた12万人の日系アメリカ人は、認識だけではなく、運命が変わったのです。もちろん私は一人で戦うのではなく、たくさんの非差別主義者と一緒に戦います。ただ「そうじゃない人やそうじゃない場所」に目をそらすことは、本質を見逃すことであり、問題の解決にはならないのです。 私はミネアポリス空港の抗議書(そこに事実でないことを書いたら罰になります)にも「中年middle-aged」「禿げbald」「白人white」を書きました。何故なら、入国審査官の名札を見ておらず、制服も一緒なので外見の特徴で人を特定するための情報として書いたのです。この3つの言葉は、英語の形容詞です。私は女性female、メガネglass、黒い髪 black_hair、アジア人asianだと描写することができます。文学性がなくても、見た目の枠で人を書き出すとこうなるのです。 このエッセイは、単に個人的な事実や感情を記述しようとしたものではありません。この事件についての「考え」がポイントなのです。それは、鶏足ではなく、(1)トランプのアメリカにおける人種差別の高まり、(2)この時期だからこその「人種差別と戦うべきスタンス」と「人種差別より受けた傷を治す方法」の2つです。 ご質問にお答えできたどうかわかりませんが、ご指摘ありがとうございました。 〇葉⇒ヤン 返信ありがとうございます。 「中年で禿げ始めた白人」は差別ではないことは理解しました。 同じことを申し上げますが、アメリカがどの様な国になろうとも、それはアメリカ国民が決めることなので、よそ者ができる事は限られています。己が頑張れる事は、住んでいる国または出身国に対して意見を言う事だと思います。そして身内に意見を言う事は、よそ者に対して意見を言うよりも、勇気が必要です。しかしそれは社会の進歩に必要なのです。ちなみに私は身内に関しては見て見ぬふりはしていないつもりですよ。グロリアさんは身内の中国または日本について、何か意見を言ったことありますか?私は差別に関しては、台湾はアメリカよりも遅れていると考えています。だからアメリカに対して意見を言えたものではないと思っています。 ●ヤン⇒葉 ご返信とご理解ありがとうございます。 もちろんどの国でもよそ者として出来ることは限られます。しかし、よそ者だからこそできることもあります。例えば、よそ者によって、身内では普通だと思われている価値に潜在する差別を明らかにすることが出来ます。 多分、根本的な考え違いは、葉様の以下のご意見です。 「アメリカがどの様な国になろうとも、それはアメリカ国民が決めたことなので…己が頑張れる事は、住んでいる国また出身国に対して意見を言う事だと思います。」 また 「私は差別に関しては、台湾はアメリカよりも遅れていると考えています。だからアメリカに対して意見を言えたものではないと思っています。」 この2点については、申し訳ありませんが、知識人として、決して同意できません。しかしながら、お互いの考え方のベース(時代背景や世代差の経歴など)を尊重するため、反対の理由は省略させていただきます。 最後の質問に対して、もうすでに書いたように、私は過去10年間、どこでも意見を言って、差別と戦おうと努めてきました。しかしながら、目をそらしたこともありました。だからこそ、今は、どこででも、言うべきことは言う必要があると思っているのです。 社会はただ進歩するものではなく、人の行動で進歩させるものです。 〇葉⇒ヤン ご意見ありがとうございました。またお会いした時に色々お話できればと思います。 ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第56回SGRAフォーラム(2017年2月11日東京) 「人を幸せにするロボット」<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Gloria Yu Yang “CHICKEN FEET & trump”

    ************************************************* SGRAかわらばん651号(2016年12月15日) ************************************************* SGRAエッセイ#514 ◆グロリア・ユー・ヤン「トランプのアメリカ:鶏足を持ち込んだ華人」 12月1日、朝5時。眠れなかった。書かなきゃと思った。 「鶏足とトランプ」 どこから始めよう。「アジア人はアメリカに入国する場合、MSP(ミネアポリス・セントルイス)空港を避けてください。人種差別を経験してみたいと云うなら別ですが」にしよう。 アメリカ入国審査は、決して愉快な経験ではないけど、ものすごく悪いわけでもない。審査官はコンピューター上に記録を引っ張り出し、それに目を通し、データにタイプし、旅行の目的など短い質問をする。もし審査官の機嫌が悪い時には、殆んど無言で待てば良い。普通は「アメリカへようこそ」で終わる。この10年間、一貫して学生ビザだったので、質問も段々減ってきた。10月にニューヨークに戻った時もそうだった。 今回のMSPは全く違った。乗客が少ないのに手続きが遅かった。白人の審査官が、ビザ免除の日本人にも大きな、かつ乱暴な口調と手振りで質問していた。彼らは、アメリカ人であろうと無かろうと白人は直ぐに通した。アジア人ばかりが残った。 この中年で禿げ始まった白人の審査官は、私が今まで受けた事の無い、意味不明な質問をした。私の答えを遮ったり、他の質問に飛んだり、又、同じ質問に戻ったりした。終わりが無く、脈絡も無く、かつ乱暴な口調での質問に私は我慢しながら、目的は何だろう、もしかして、「審査室」に連れ行きたいのかと考え始めた。 たくさんの質問の後、彼はやっと口を閉じ、今度は私のパスポートを見始めた。世界各国のスタンプをパラパラとめぐりながら「何でこんなに多くのアメリカビザがあるんだ?」と聞いた。 「最近まで、アメリカは中国人に毎年ビザを更新する様に要求していたから。」(その都度、200ドル取られました。) 私は非常に慎重だった。仕方がない。彼は随意に私の入国を拒否出来る。彼自身もその権力をよく知っている。 彼はボールペンを取り出し、入国スタンプに、ひとつずつ線を引きはじめた。何でずっと残しておいたのかと文句を言いながら。 アメリカ入国スタンプで一杯のパスポートを2冊持っていた。いままでの入国審査官は誰も何も言わなかった。私は、彼が私の唯一のリーガル・ドキュメントに線を引くのを見ていたが、現在有効なビザにも線を引こうとしたので、声を出し止めさせた。 他の審査官が3人か4人を通過させた時、彼は質問を聞き尽し、これ以上は諦めた、と思ったのは私の思い違い、これからがスタートだった。 「ところで、どこの国から来たの?中国?」(最初から私のパスポートを見ていたはずです) 「はい。」 「荷物はいくつ?」(この質問は国籍の質問の前に聞かれたばかり) 「ひとつです。」 「ひとつ…食べ物は持っている?」(これは普通、税関での質問ですが) 「いいえ。」 「持ってない?」 「持っていません。時間がなかったので。」 彼は目を細めた。「月餅も持っていない?」 月餅。 中秋でもないのに月餅。私が中国人だから?このくだらない会話の行方が段々分かってきた。 「月餅? なぜですか。持っていません。」 「本当に?」 「持っていません。今回は日本から来たので。」 「持ってない?月餅も鶏足も持ってない?」 鶏足。 鶏足。 中国人だったら、必ずこの異国情緒たっぷりで未開地の気持ち悪い食べ物を食べる。そして、この偉大なアメリカにこっそり持ち込む。 ただし、私は彼の間違った知識と非道徳性を正す権利を持っていない。彼は権力者であり、私は外人として、鶏足に答えなければならない。 「私は鶏足を持ち込んでいません。」 「本当かい?鶏足のようなものも持ち込んでいない?」 「ここに10年近く住んでいますが…」 彼は私の言葉を遮って「10年だろうがそれ以上だろうが、<彼ら>は鶏足を持ち込んでいる。」 「私はしません。」 「私は嘘を言ってないよ。」彼は呟いて、「<彼ら>はここに持ち込んでいる。我々はそれを見たんだ。<彼ら>は持ち込んでいるんだ。」 「彼ら」という言葉が私の体と頭の中に響いた。彼のつぶやきも聞こえなくなった。 ある不法移民のメキシコ人がいる故に、どのメキシコ人も不法移民ではないかと疑う。なぜかというと、「彼ら」は不法移民だから。 ある犯罪者の黒人がいる故に、どの黒人も犯罪者ではないかと疑う。なぜかというと、「彼ら」は犯罪者だから。 今回の選挙で、なぜアメリカの人々がトランプを選んだのか、やっとわかり始めた。 「私ではない。」もうそのまま引き揚げようかと考え始めた。 「…オーケー。書類と荷物を持ってあそこに行って検査を受けて。」 いつもの「アメリカへようこそ」の挨拶は、プロトコールなのか優しさなのかわからないが、もうどうでもいい。 彼がテーブルに投げて寄こしたファイルを持って税関に向かった。 税関の官吏に「食べ物は?」「ありません。」「無い?野菜は?」「無い。」「リンゴは?」「無い。」「肉は?」「無い。」「生魚?」「無い。」「XXXXは?」「無い。」 「オーケー、青い線のところでバッグの検査を受けて。農産物のXXX」 私の言葉が信じられないのなら、何故聞くの? バラバラにされた荷物の現場。一人の若い女性が日本語の説明がついている使い捨てカイロについて怒っているような検査官に必死に説明していた。その後彼女はリパックし、「ありがとうございます。」という挨拶をしに来た。検査官はそれに応えず、こちらに向かって「あんたは感謝するべきだ。」と独り言を呟いた。そして私の書類をとり「バッグを載せて、黄色の線に沿って行きなさい」と。バッグを通し、食べ物がなかったことでちょっとびっくりした検査官は私に書類を渡した。「良い一日を。」 次の国際到着便は白人が多く、誰もが大きなバッグを持っていたが、X線検査に向かうことなくパスしていた。 もう限界を超えた。信じられない。ただの官僚的な無礼では済まない。そうではないからだ。私には反論する選択肢さえ与えられなかった。お互いに平等でない限り、グッド・ハートなど有りえない。 これを過剰反応とは思わない。一人のアメリカ人が日本人か中国人の入国審査官から、「カウボーイハットを持っているか?冷凍の七面鳥は?臭いチーズは?」と聞かれ、アメリカ人がなんと答えるか想像してみよう。そしてアメリカ人は「いいえ」と答える時を。「本当に?全てのアメリカ人は常に気味の悪い、胸の悪くなる様な食べ物を持っている。常にですから、あなたもね。」 もし私がまだ20代だったら、入国審査官に言い返しただろう。「今、鶏足やあひる足、また七面鳥の足でもニューヨークのスーパーで買えるよ。いろんな味で、オーガニックも、全てアメリカ製」と。 しかし、今回の選挙でわかったことは、皮肉は人種差別との戦いに勝てない。 20代で初めてアメリカに来た時、こんな質問には会わなかった。人々は強い偏見を持っていたかも知れないが、素直に会話を交わし、そして、考え方を変え、お互いの違いを受け入れた時期だった。過去10年、私は外国でも中国でも、人種、性別、そして、国籍に対する様々な差別と一生懸命闘ってきた。どこでも、アジアの文化、社会、政治について話すことによって、文化の多様性と社会の寛容性の尊さを知ってもらうために努力してきた。 20代に聞かれなかった鶏足の質問。2016年に来た。 アメリカ人は様々だ、その通り。良い人も沢山いる、本当に。しかし、本当の多様性というのは一方的なものではない。中国人、日本人、そして他の民族もアメリカ人と同じように、様々であるということを認めなければならない。そうでなければ、アメリカの多様性とは、1930年代に「五族協和」を宣伝した日本の植民地「満州国」と同じように偽善的なものではないだろうか。一言でいうと、アメリカは、白人をトップとし、中国人は中華街のキッチンに、メキシコ人はデリバリーの自転車にと、階級社会を前提とした複数の人種が共存する社会なのだ。 セキュリティゾーンを出る前に、もう一度振りかえってみた。彼らは正義の味方のように行動していた。お国の為だから。彼らの人種差別的な行動は愛国主義の名のもとに正当化される。それに私はぞっとする。今回の選挙結果は、外国人には乱暴な言葉や行為を振る舞えることを正当化した。新しい「偉大な」大統領と同じく、外国人を違法移民か、アメリカの「偉さ」を奪う盗人として見ても良いという結果になった。 「偉大な」アメリカは心底嫌いだ。 ニューヨークへの乗り換え便の中で、私は沈黙していた。隣の席に座った男性が荷物をキャビネットに入れ、軽く挨拶した。「こんにちは。」 その瞬間、ずっと我慢していた涙が落ちた。 2006年、私が初めてアメリカに来たとき、ピッツバーグ行きの乗り換え便で、まさしく同じ言葉を投げかけられた。今でも覚えている。その後、父にこう言った。「アメリカ人は優しいね」と。 選挙の後、何日も泣いた。英語、中国語、日本語で書かれた記事を読んで、悩んで考えた結論は、私はアメリカの大学で東アジア美術史を教える。たとえ、そこが中西部であろうと田舎であろうと。誰かが闘わなければならないからだ。しかも一生懸命に。教育に恵まれてきた私は、教育の力で偏見や差別を消すことができると信じていた。 が、今日は完敗だ。もう、これ以上無理だ。 アジア人のみなさん、アメリカへの入国にあたってはミネアポリス・セントルイス空港を使ってはいけません。私達は戦いに敗れたのです。 追伸。2日後 つらかった。あれ以来2日間、私はアメリカ合衆国国土安全保障省税関・国境取締局、MSP空港に事実抗議書を出し、大学の学長と国際センターに手紙を送った。何もならないとわかっても、やるべきだと思った。 しかし、これでも私の気持ちは晴れなかった。逆に、怒り、落胆した後、深く落ち込んだ。 フェイスブックやメッセンジャーのコメントに返事をする気にもならなかった。 「白人である私にとっても国境を越える時の対応は悪かったよ。」 「鶏足はただあなたの国の代表的な食べ物の例としての質問ですよ。」 「なんなのこの悪い男!」 「アメリカ人の偽善さが今更わかったのかい、大げさだね。」 また、これがきっかけとなり、選挙後、アメリカ国境でアジア人に対する様々なひどい話を聞いても言葉が出なかった。 人々がなぜ、またどうやって自分の見方や経験から偏見や認識を抱くのか、私は良くわかっている。これは偶然ではない。アメリカ国境管理官の労働組合「国境巡回委員会」は公にトランプを支持していた。そして、私は、今まで差別に遭った瞬間に、自分自身に「これは私の感情的な過剰反応ではないか。」と毎回チェックしている。そして、今回を含む事件の答えはノーだった。 ニューヨークへの乗り換え便に乗った時、目の前のたくさんの白人たちが一瞬、全てトランプ支持の人種差別主義者に見えた。非合理だが強い感情に動揺し、背筋に悪寒が走った。このような負の感情に押しつぶされ、絶望的な不信感によって心にブラックホールができた。感情は実に重要なものだ。そもそも、今回の選挙では、知恵の欠如ではなく、恐怖と不安の気持ちに巻き込まれ、判断力を失った多くのアメリカ人がトランプに投票した。 1週間後、私は国際センターのディレクターにこの事件について話した。MSP国境管理官に問合せてくれることになった。 そのあと、彼は聞いた。 「今から、あなたのことについてちょっと話しましょう。あれからどうですか。気分は。」 聞かれた瞬間、私は鬱になった理由がわかった。戦うことは、傷を癒すこととは別だから。 事件が解決に至るかどうか別として、私は傷ついた。その傷は深い。「私たちはあなたが癒されることを願っています。」 不思議に、その時からだんだん「私は大丈夫だ」と感じるようになった。傷は痛くてもきっといつかは治る。1週間の間に色々な人からもらった励ましも聞こえるようになった。 「選挙後の現実に、どう対応すればよいか。」戦う。そして自分を癒す。極めて難しい、そして苦しいことだ。ただ、そうしなければ、今後の厳しい現実を乗り越えられないだろう。 原文(英語)は下記リンクよりお読みいただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/GloriaYY-Trump-Chicken-Feet.pdf <Gloria Yu Yang(グロリア・ユー・ヤン)楊昱> 2015年度渥美奨学生。2006年北京大学卒業。2008年からコロンビア大学大学院美術史博士課程に在籍。近現代日本建築史を専攻。2013年から2015年まで京都工芸繊維大学工芸資料館で客員研究員、2015年から東京大学大学院建築学伊藤研究室に特別研究生として、植民地満洲の建築と都市空間について博士論文を執筆。2017年5月卒業予定。 ************************************************** ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Emanuele Giglio “Aiming for the Good Composite of Italy and Japan”

    ****************************************************************************** SGRAかわらばん650号(2016年12月8日) 【1】エッセイ:ジッリォ「イタリアと日本との『良き合成体』を目指して」 【2】第21回日比持続可能な共有型成長セミナーへのお誘い(1月6日、フィリピン)    「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」 ****************************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#513 ◆ジッリォ エマヌエーレ・ダヴィデ「イタリアと日本との『良き合成体』を目指して:日本に来て8年目に思いついた、ちょっとした雑感」 小さい時から日本に憧れていた。日本に初めて来るとき、「日本文化こそ人類文明の最高頂点であり、私も人間として進化するためにぜひ日本の文化を吸収したい」という心構えでやってきた。今年で東京にきて8年目になる。この8年間にはもちろん、「日本文化の『闇』の部分」と思われるところにも直面した。しかし、それで「もう日本なんて嫌いだ」とか、「もう帰りたい」とかは、少しも思わない。今思っているのは、「日本は非常に民度が高い;非常に民度が高いからこそ、その分「『悪』の部分がより特定し辛く、しかも鋭い」ということだ。そこで、私がずっと目指しているあり方はだいたい次のようなものである。 まずイタリア人として、イタリア人にしかできない観点から、イタリア文化の悪いところに気づき、乗り越え、いいところだけを残す。そして、日本の文化を少しずつ吸収することで、今度は日本人に限りなく近いあり方にもなり、日本人と同じような観点から、日本文化の「悪い」と思われるところを理解し、乗り越え、いいところだけを身につけていく、というような、イタリア人と日本人との「良き合成体」と呼ぶべきあり方だ。 なぜ「日本人に限りなく近いあり方にもなり、日本人と同じような観点から」と言うか。「そこまでする必要があるのかな」と考える人もいるかもしれないが、私の場合は「西洋人だから日本なんて簡単に吸収し、超えられるんだ」と最初から思っていたからではない。日本のことを「下手に」馬鹿にしている外国人とか、もしくは―8年前の私にはそういうところもあったかもしれないが―日本に「下手に」憧れているような外国人もまだいるだろうが、「いや、私はできれば、そうなりたくはない」と心から願っているからなのだ。 「でも私はあくまでも『なになに人』だよ」とか「私はまず『なになに人』だよ」と言う人がいる。例えば『イタリア人』『フランス人』『アメリカ人』『韓国人』『日本人』とか。それでもいいと思う。ただ、私個人は、実験的に「私はまず人間だよ」という立場に立ってみたい。この実験は、今この世界に存在している色々なアイデンティティを危険にさらしてしまうかもしれない。しかし、「でも私はあくまでもイタリア人だよ」とか、「私はまずイタリア人だよ」というあり方は、私個人には、本質であるはずの部分(=人間)と、属性であるはずの部分(=『なになに人』)とを逆転させてしまう危うさを持っているとしか思えない。 よく考えれば、属性を本質と間違えてしまうというのも、危ないのではないか。ならば、どちらにしろ危ないのなら、私は自分の一番好きなあり方を選んでみたい。つまり、心さえ広げれば、誰だってどの文化も理解し、いつだって何人にでもなれるではないかという、良き地球市民のようなあり方だ。決して楽な道ではないと思う。しかし、異文化をどれだけ受け入れ吸収できるのか、というようなことを日々問われるという、「考え方のグローバル化」がこれから始まろうとしていると考えると、なおさら今言ったようなあり方を選択してみたい。 <エマヌエーレ・ダヴィデ・ジッリォ☆Giglio,_Emanuele_Davide> 渥美国際交流財団2015年度奨学生。トリノ大学外国語学部・東洋言語学科を経て、2008年4月から東京大学大学院インド哲学仏教学研究室に在籍。2012年3月に修士号を取得。現在は博士後期課程に在籍中。身延山大学・東洋文化研究所研究員。 ------------------------------------------------------------- 【2】第21回日比持続可能な共有型成長セミナーへのお誘い 台風のために延期になっていた第21回日比共有型成長セミナーを、下記のとおりフィリピンのベンゲット州で開催します。参加ご希望の方は、SGRAフィリピンに英語でご連絡ください。 ◆第21回日比持続可能な共有型成長セミナー テーマ:「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」 “Sustaining_the_Growth_and_Gains_of_Development_Research_and_Extension” 日時:2017年1月6日(金)~7日(土) 場所:ベンゲット州コルディリェラ行政地域     1日目:ベンゲット国立大学農業研修所にて円卓会議     2日目:農場の現場視察 言語:英語 申込み・問合せ:SGRAフィリピン_([email protected]_) 〇セミナーの概要 SGRAフィリピンが開催する21回目の持続可能な共有型成長セミナー。今回は、アジア未来会議から習った新しい形式で開催する。SGRAフィリピンの運営委員でもある、フィリピン政府農業省のJane_Toribio博士の研究調査の現場である、ベンゲット州(マニラ市から北へ車で約6時間の山岳地帯)を会場とし、1日目は関係者の円卓会議を、2日目は現場視察を予定している。 これからのマニラ・セミナーは、今まで続けてきた「持続可能な共有型成長」というテーマにさらに集中し、効率・公平・環境の3側面(3K)を重視している委員たちの研究・アドボカシーのみを扱いたい。従来は絨毯爆撃(carpet_bombing)方式の「なんでもあり」というやり方で、課題に命中しないことが多かったが、今後は精密打撃(surgical_strike)方式で展開する。今回は、持続可能な農業という3Kの研究・アドボカシーである。お時間のある方、ぜひご参加ください。 〇プログラム 1日目:1月6日(金) 発表1(09:45~10:15)「ベンゲット州における有機農業の実践と経験」 発表者:Jeffrey_Sotero 発表2(10:15~10:45)「ベンゲット州における苺農業」 発表者:Felicitas_Dosdos 発表3(10:45~11:15)「ベンゲット州における被災のリスク低減や管理」 発表者:Atty._Roberto_Canuto、Winston_Palaez、Erick_Abangley 発表4(11:15~11:45)未定 質疑応答 円卓会議(13:30~17:00) モデレーター:Dr. Max Maquito 討論者:午前の発表者 2日目:1月7日(土) 08:00:バギオ市のR. Salda市長へ挨拶 08:30:Bahongの花畑と農園の視察 10:00:苺農園の視察 12:00:有機農業の食事 13:30: マニラへ向かいながら観光 英文の案内は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/KKK21InviteJan2017.pdf ************************************************** ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Xie_Zhihai “Young People Have Left Away From XXX”

    ****************************************************************************** SGRAかわらばん69号(2016年12月2日) 【1】エッセイ:謝志海「インターネットと若者の◯◯離れ」 【2】寄贈本紹介:フスレ編「国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争」 【3】寄贈本紹介:フスレ編「日モ関係の歴史、現状と展望」 ****************************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#512 ◆謝志海「インターネットと若者の◯◯離れ」 最近よく耳にするフレーズ「若者の◯◯離れ」。◯◯の中には酒、車、タバコなどが入るそうだが、私がこの事についてかわらばんに書こうと決めた後にも、若者が離れていったというものに続々と出会う。テレビ離れ、本と本屋離れになんとガム離れまで。 先日の週末は映画館に新作のハリウッド映画を観に行った。この映画はシリーズ作の第4弾。8月には俳優陣もプロモーションで来日していて、私は期待して観に行った。内容は、現代の世相が反映されていて最初から最後まで退屈なシーンなどなかった。高揚した気分のまま映画が終わり、劇場内にライトがついた。観客がゾロゾロ出口に向かう。そこで私は驚愕した。「若者がいない」。探したが、大学生らしき人はいなかった。中高生は無論いない。来館者の全てが40~50代もしくはシニア層。若者の◯◯離れを肌で体感した瞬間だった。しかし冷静に考えれば、私が通うこの映画館ではこれまでどの曜日、時間帯に行っても若者が少なかった。大学生が一番映画館に足を運ぶ時間があると思い込んでいたが、現実は大きく違うようだ。 では色々な物から離れた若者はどこにいるのだろうか。酒造、自動車、出版、製菓メーカー等、若者に去ってゆかれた業界は彼等をもう一度振り返らせることに必死だろう。そして、若者はスマートフォンを通じインターネット上にいるのだろうと薄々察しがつく。 ヤフージャパンのニュース記事によると、若者のガム離れの原因もスマートフォンの普及だそうで、電車に乗っている退屈な時間に噛まれていたガムがスマートフォンのおかげで売れなくなったそうだ。本屋離れにしたって、スマートフォンで説明がついてしまう。インターネット上にあふれる無数の情報や読み物。わざわざ本を購入しなくとも、単純に読むもの(情報)は簡単に手に入る。どうしても本として読みたければ、オンラインショッピングでポチっとすれば、家に届く。本の中でも特に雑誌が売れないとテレビニュースが取り上げていたが、確かに電車の中で雑誌を読んでいる人は本当に少ないというか、久しく見かけていない。今はアプリをダウンロードして、月に数百円の定期購読代を払えば、そのアプリ上の様々なジャンルの雑誌がいつでも読み放題の時代。広告だらけの重い雑誌を持ち歩かずにすむ。 「若者の◯◯離れ」の大方はスマートフォンの普及ということで説明がついてしまうのではないか。スマートフォンの製造メーカー、アプリ、ソーシャルネットワーク、通信メーカーといったインターネットで商売する業界は、集まって来る若者を逃すまいとこちらも必死だろう。日々様々なアプリが誕生し、ソーシャルゲームは次々と更新され、ソーシャルネットワークには色んな機能が追加される。私には到底ついていけないのだが、若者はこういった新情報にも敏感である。 所変わって、中国の事情。特に若者が離れていくという現象は見られないものの、日本で起きている状況とおおむね代わりはない。中国はもう世代を問わずスマートフォンに夢中という感じだ。中国本土では未だにYouTube、Facebook、Gmailはアクセス出来ないが、そんなことどこ吹く風。スマートフォンの用途は日本より多岐に渡っていると言っても過言ではない。代表的なのはモバイル決済。最近よく耳にするフィンテック(Fintech)。例えば、中国ではアリババのアリペイ(Alipay)等のモバイルオンライン決済。これに関しては、日本はアメリカや中国に大きく遅れを取っている。そしてこのモバイル決済が発達しているがゆえに日本よりも早く普及しているビジネスが配車サービスである。代表的なメーカー、ウーバー(Uber)はタクシーの捕まりにくい北京や上海ではすでに人気のサービスである。中国の若者にとってもスマートフォンは生活に欠かせない存在となっている。 すでに若者離れを痛感している企業にとっては、自社の製品とインターネットをどう融合させるかがキーポイントとなるだろう。すでに様々なメーカーがテレビコマーシャルだけでなく、動画配信サイト上にもコマーシャルを流している。また、製品専用のアプリを作り、消費者同士がそのアプリ上で交流出来る仕組みを作ったり、ポイントを貯めて使えるシステムを構築したり、企業のウェブサイトやアプリ上で消費者が何かとお得に感じられるように企業側も必死だ。こうしてインターネットの世界は無限に広がっていく。 <謝志海(しゃ・しかい)Xie_Zhihai> 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 ------------------------------------------------------------- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員のフスレさんより編書を2冊ご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆ボルジギン・フスレ編「国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争」 北東アジア地域をめぐる諸国の力関係、軍事秩序、地政学的特徴、開戦及び停戦にいたるまでのプロセス、ハルハ河・フルンボイル地域における民族などに焦点をあて、最新の研究成果をもとに、各国の研究者がお互いの間を隔てている壁を乗りこえて、共有しうる史料に基づいて歴史の真相を検証。 発行所:三元社 発行日:2016年3月25日 A5判上製/340頁 ISBN978-4-88303-401-7 定価=本体 3,800円+税 詳細は下記リンクからご覧ください。 http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/401.htm 【3】寄贈本紹介 ◆ボルジギン・フスレ編「日モ関係の歴史、現状と展望:21世紀東アジア新秩序の構築にむけて」 戦後、日本と東アジア諸国との関係史の研究は、東アジア関係を、日中、日韓、ないし日台関係の枠組みでのみとらえてきた。日本とモンゴルは、どのように歴史的対立を乗り越えて、友好関係を築くことができたかという視点が欠落したままで今日に至っている。国際関係の歴史的連続性から多角的に日モ関係を把握することは、まさに注目すべき課題として残されている。 発行所:国際シンポジウム「日モ関係の歴史、現状と展望」実行委員会 発行日:2016年2月28日 製作所:風響社 ************************************************** ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Sun Junyue “SGRA China Forum#10@AFC Report”

    ******************************************************************************* SGRAかわらばん648号(2016年11月24日) 【1】孫軍悦「第10回チャイナ・フォーラム『東アジア広域文化史の試み』報告」 【2】今西淳子「円卓会議『日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性』報告」 【3】寄贈本紹介「万博と沖縄返還-1970年前後(ひとびとの精神史第5巻)」 ******************************************************************************* 【1】第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#7 ◆孫軍悦「第10回チャイナ・フォーラム『東アジア広域文化史の試み』@アジア未来会議報告」 公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会は、2014年と2015年に清華東亜文化講座の協力を得て、中国在住の日本文学や文化の研究者を対象に、2回のSGRAチャイナ・フォーラムを開催した。2014年の会議では、東京藝術大学の佐藤道信教授が、19世紀以降の華夷秩序の崩壊と東アジア世界の分裂という歴史的背景の下で創られた東アジアの美術史は、美術の歴史的な交流と発展の実態を反映しない一国美術史にすぎないという問題を提起し、一国史観を脱却した真の「東アジア美術史」の構築こそ、東アジアが近代を超克できるか否かの重要な試金石であると指摘した。一方、2015年のフォーラムでは、国際日本文化研究センターの劉建輝教授が、古代の交流史と対比して「抗争史」の側面が強調されがちな近代においても、日中韓三国の間に多彩多様な文化的交流が展開されており、古来の文化圏と違う形で西洋受容を中心とする一つの近代文化圏を形成していたことを明らかにした。 今回は、過去2回のフォーラムの報告者とコメンテーターを討論者として招き、塚本麿充氏(東京大学)と孫建軍氏(北京大学)による二本の報告を基に、今後、東アジアにおける広域文化史の試みをいかに推進していくべきかについて活発な議論を繰り広げた。 まず、塚本氏の報告「境界と国籍―“美術”作品をめぐる社会との対話―」は、日本に伝来した中国・朝鮮絵画や福建、広東など中国の地方様式や琉球絵画といったマージナルな地域で生み出された作品を取り上げ、「国家」という大きな物語に到底収斂され得ない、まさに交流を通して境界で育まれた豊饒な「モノ」の世界を開示してくれた。 孫建軍氏の報告「日中外交文書に見られる漢字語彙の近代」は、1871年に日中間で調印された最初の外交条約「日清修好条規」から1972年の「日中共同声明」までの100年間の外交文書を対象に、日中語彙交流の見地から漢字語彙の使用状況、とりわけ同形語の変遷を考察し、日本語から新漢字を輸入することによって、古い漢字語彙から近代語へと変わっていく現代中国語の形成過程の一端を浮き彫りにした。 前者は、国家の物語に回収され得ない大量な歴史的事象の存在を突きつけることによって、後者は、この国ならではの均質、単一な価値を付与されたものの起源の雑種性を証明することによって、それぞれ、外側と内側から国民国家の文化的同一性の虚構を突き破る報告となった。 討論では、佐藤道信氏はまず、中国大陸や台湾、アメリカ、また関西と関東の様々な「中国絵画」コレクションに接していた塚本氏の多文化体験に言及し、一国美術史に位置付けられない「モノ」の価値を見出す彼ならではの「鑑賞眼」の養われた背景を説明してくれた。その上、国家の呪縛から解き放たれた後の膨大な「モノ」の世界をいかに整理し、その歴史をどのように語り得るか、という新たな困難な課題を提示し、一国美術史に慣れ親しんだ我々自身の感受性の変革と歴史叙述の創造力が問われていることを示唆してくれた。 稲賀繁美氏(国際日本文化研究センター)は、交易のプロセスに組み込まれた美術品の制作が、最初から享受する者の美意識や趣味、要求を取り入れている事実に注目し、一つの価値体系もしくは「本質」が備わっているとする「一国美術史」の想定自体が単純すぎるのではないかという疑問を呈した。同じ歴史観を共有することは困難だが、異なる歴史観があるという意識の共有は可能だという言葉が、とりわけ印象的であった。 木田拓也氏(国立近代美術館)は、日本で親しまれ、楽しまれている茶碗が中国に持っていくと、その美が全く認識されないという例をあげながら、他国、他地域の人々と共有しない美意識、価値観の存在もまた厳然たる事実であることを指摘した。「一国美術史」は単に国民国家歴史観の反映ではなく、むしろ国民国家の文化的同一性を創出する装置として、このような均一の価値観や美意識乃至身体性を常に作り続けていることを、木田氏の発言によって改めて意識させられるのである。 趙京華氏と董炳月氏(社会科学院文学研究所)は、魯迅による浮世絵のコレクションを整理し書籍化する過程において、そのコレクションが、「浮世絵」ではないという錯覚すら与えるほど、「浮世絵」に対する我々の常識を揺るがす特異性を持っていることを紹介した。このような書籍の出版自体が、すでに広域文化史の構築へ向けての一つの実践だと言えよう。 林少陽氏(東京大学)も、「中間地域」で育まれた豊饒な「モノ」の世界に注目する塚本氏と同じ関心を共有し、「中間地域」の発見が、日本の一国美術史を相対化することができるだけでなく、中国美術史の一国中心主義的歴史叙述への再検討にもつながると述べた。 一方、孫建軍氏の報告に対し、外交文書を単に言語のデーターベースとして取り扱う方法の妥当性が問われ、具体的な歴史的背景や使用者の現実的状況、外交文書の特殊的性格などを考慮に入れると、言語使用のより豊かで複雑な相貌が浮かび上がってくるのではないかというコメントが多く寄せられた。 様々な専門分野の研究者による多岐にわたるコメントの焦点を明確に示してくれたのはむしろフロアとの短い対話であった。明石康氏(元国際連合事務次長)は、国境を前提とする外交や国際政治の領域と異なり、文化領域こそ「国境」の人為性を相対化することができ、今回のフォーラムに大いに啓発されたと述べた。そして、葛兆光氏(復旦大学)は、国民国家がその成立した瞬間から、つねに自らの文化的同一性を作り続けていて、その文化的アイデンティティの形成の歴史と、その結果としての均質的、同一的文化、価値の存在を決して無視できないことを指摘した。これに対し、劉建輝氏(国際日本文化研究センター)は、このような文化的同一性は決して古くから自然に形成されたものでなく、人為的作為の産物にほかならないこともまた忘れてはならないと敷衍した。古代と近代の東アジア文化交渉史に関する実証的研究を積み重ねてきたお二人の発言から、歴史的に構築された一国文化史の重みと、多彩な交流を包括する広域文化史への確信がひしひしと感じられた。 今回のフォーラムを通して、多様性と雑種性をも巧みに「国民性」や「国民文化の伝統」に回収する「一国文化史」が今日もなお国民国家の文化的同一性を創出する装置として機能し続けている状況において、「一国文化史」に強く規定され続けてきた我々自身の感受性や価値観、思考様式乃至歴史叙述の言語そのものに抗しながら、新たな広域文化史を紡ぎ出すことの可能性と課題の双方が鮮明に浮かび上がってきたと言えよう。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/ChinaForum10_photos.pdf <孫_軍悦(そん・ぐんえつ)Sun_Junyue> 2007年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。学術博士。現在、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部専任講師。専門分野は日本近現代文学、日中比較文学、翻訳論。 ------------------------------------------------------------- 【2】第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#8 ◆今西淳子「円卓会議『日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性』報告」 2016年9月30日(金)午前9時から12時30分まで、北九州国際会議場の国際会議室で、円卓会議「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」が開催され、日本、中国、韓国から歴史研究者が集まり活発な議論が交わされた。88人が定員の会場は満席で、人々の関心の高さが示された。 最初に早稲田大学の劉傑(Liu_Jie)教授が、問題提起の中で「なぜ『国史たち』の対話なのか」「『国史』から『歴史』へ」「対話できる『国史』研究者を育成すること」と題して、最近の10数年間の日本・中国・韓国の「歴史認識問題」をめぐる対話の成果、また留学生の増加と大学の国際化に伴う「国史」から「歴史」への変化を認めながらも、「国史たち」の対話をより実質的なものにするために、現在の研究者同士の交流をさらに進めると同時に、10年後、或いは20年後に本格的な国史対話が行えるような環境を整備することが重要であると指摘した。 次に、高麗大学の趙珖(Cho_Kwang)名誉教授は、東北アジアの歴史問題は自民族中心主義と国家主義的な傾向に由来するとし、韓国で近来編集された学校教科書、学会の日本関係史、中国関係史の叙述について分析した。(1)「前近代中国に対する叙述」では、高句麗史をめぐる混乱を通じて「華夷意識」に言及、また、(2)「前近代日本に対する叙述」の結論においては「全体的に(韓国の)教科書でみる前近代日本は、文化後進国として(朝鮮の)先進文化の受益者、そして侵略者としての姿である。これは一面的には妥当だが、正確ではない。日本を一つのまともな関係主体として見做さない国史教科書の認識は、韓国をめぐる現在の様々な難題を解決し、正しい韓日関係を作るのに役立つとは思えない」と主張した。 そして、(3)「近代東アジアに対する叙述」では、19世紀以後の東アジアは、一国の状況のみで自国史を述べること自体が不可能であるほどに三国の歴史が絡み合っているのに、韓国近現代史の教科書に中国と日本の近現代史に関する内容が殆ど出てこないこと、朝鮮戦争の場合でさえ、内部政治や経済や社会に関する説明が溢れ、参戦した各国の論理が紹介されていないことを指摘、近現代史の場合、中国史のみならず、日本史と連結して説明することによって脈絡を理解できるようになる、自分を読むことも重要な仕事であるが、如何に他人を読めばよいかという問題も重要である、と結んだ。 復旦大学の葛兆光(Ge_Zhaoguang)教授は、蒙古襲来(1274、1281)、応永の役(1419)、壬申丁酉の役(1592、1597)を例にして、国別史と東アジア史の差異を論じた。 一国史の視点から見ると、ひとつの円心の中心部は明晰でありながらも、周辺部はぼやけてしまう。もしいくつかの円心があれば、幾つかの歴史圏が形成され、それが重なる部分がでてくる。東アジア史を語る場合、この歴史圏の重なる部分を浮き彫りにする必要がある。たとえば蒙古襲来によって、日本が初めて「神国」と思われるようになり、日本文化の独立の端緒が開かれ、中国の「華夷秩序」から離脱したと日本史には記述される。ところが高麗は蒙古化され、蒙古人が日本に侵略する際、その前線基地になった。一方、中国では蒙古/元朝は「自国史」と見なされ、蒙古襲来は、蒙古と日本と高麗という中国の外で起こったこととされる。東アジア全体の視野で見れば、蒙元の日本侵略(または高麗を従属国にすること)は、東アジアの政治局面のみならず文化的にも各国の自我意識を喚起し、東アジアの「中国中心」の風潮が次第に変わっていくきっかけとなったと解釈できる。 同様に、応永の役の発生及び解決は、その後数百年の東アジア国際関係を安定へと導いた。壬辰の役は、それまでの安定した東アジア国際関係を大きく揺らし、その後の東アジアが共有していたアイデンティティの崩壊の伏線を引いたが、当時はこの事件も速やかに収まり、東アジアのバランスのとれた局面は、19世紀に西洋諸国が武力を背景に東洋に進出するまで続いた。しかし、中国の歴史では、蒙元の日本侵略と高麗支配は、ただ蒙古人の世界支配の野心の現れに過ぎず、朝鮮の対馬への侵攻も隣国同士の紛争、壬辰の役に到ると、日本は侵略者であり、中国は朝鮮の国際的な友人として、両国が手を携えて日本侵略軍を打ち負かしたと明言する。もし歴史学者が東アジア史の視野をもって見直したら、新しい認識がでてくるのではないかと論じた。 東京大学の三谷博名誉教授は、国史たちの対話を促進するために、(1)日本における高校歴史教育課程の改訂について報告し、(2)日本史教科書の中の世界・東アジア記述の問題点を指摘した。 日本の高校では「歴史総合」が必修教科となる予定である。「歴史総合」は、(a)世界史と日本史を融合させ、(b)近代史に絞り、(c)アクティブ・ラーニングを推奨する点に特徴がある。しかしながら、このような動向に、学会や教育会が協力するかどうかは未だ明らかではない。日本史の研究と教育において、つい最近生じた隣国との関係悪化は、東アジアの中に日本を位置づけるという研究動向に冷水を注いだ。内外から押し寄せる政治圧力を超えて、長期的に有意味な展開ができるか予断を許さないと述べた。また、長期的には(3)互いに隣国の国内史を学ぶ必要を強調した。日中韓3国の知識人たちの欧米への関心の高さと、隣国への無関心との対照に深い懸念を抱き、国際関係だけでなく、まず相手の国がどんな文脈を持っているかを知らなくてはいけない、隣国の歴史をわかったつもりにならず、互いに虚心に学び合う、それが「国史たちの対話」の究極の課題であると結んだ。 韓国、中国、日本の歴史の大家の大局的な講演に続いて、6名の中堅若手の研究者からコメントがあった。 北九州市立大学の八百啓介教授は、先ず近代史における対欧米関係と東アジアの視点との比重についての中韓日の相違点を指摘して論点整理を試みるとともに、東アジアの国民国家としての日中韓の立場の相違、前近代東アジア史を国民国家の視点を離れて見直すことによって近代東アジアの国民国家を検証する可能性と必要性を指摘した。 北海道大学の橋本雄准教授は、1402年に執り行われた足利義満による明使接見儀礼を復元し、いかに義満が、明使への配慮や敬意を表しながら、自尊意識を満足させる儀礼に換骨奪胎していたかを詳しく説明した。日本史を描く場合に対外関係史の成果を衍用することは不可欠だが、ただ単に外国史の文脈をナイーヴに読み込めばよいというものではない。双方の文脈に注意しながら各国史料を実証的に突き合わせ、冷静な判断をしていかないと「国史」が偏ったものになってしまうだろう、と指摘した。 早稲田大学の松田麻美子氏は、「中国の教科書に描かれた日本:教育の『革命史観』から『文明史観』への転換」というタイトルで、中国の歴史教科書の変化について報告したが、習近平政権成立後は揺り戻しもおきていると指摘した。 復旦大学の徐静波教授は、東アジアの歴史を正しく認識する際、自国の立場に拘泥せずに、もっと広い視野で見る必要があり、または自国の資料だけでなく、出来るだけ各国の歴史資料や考古学の成果を利用して客観的に考察する必要があると指摘した。 高麗大学の鄭淳一氏は、「国史たちの対話」の進展のためには、これまで行われてきた官民レベルの歴史対話の事例をちゃんと調べ、「国史たちの対話」プロジェクトとの共通点、相違点を分析し、生産的な課題を引き出していくことが大事であると指摘。また、高校生・大学生レベルでの「対話」あるいは学術交流も視野に入れた若手研究者同士の交流を促進する方法、韓国の高校『東アジア史』の経験を参考にして東アジアにおける「国史」の叙述方式を皆で考える必要があると提案した。 高麗大学の金キョンテ氏は、共通の歴史的事件に関する用語をどう決めるのかという問題をとりあげ、「壬辰倭乱」ではなく「壬辰戦争」という用語がいいと思うが、「韓国の情緒にはまだ早い」という反論があると紹介した。また、「国史教科書」と「国史研究」が持つべき目標は「自信」と「誇り」であったが、それはもう有効な目標ではなく、各国の政治的、歴史的な特徴が反映されなければならないと指摘した。 円卓会議「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」は、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)が、2013年3月にバンコクで開催した第1回アジア未来会議中の円卓会議「グローバル時代の日本研究の現状と課題」をかわきりに検討を重ね、2015年7月に東京で開催したフォーラム「日本研究の新しいパラダイムを求めて」で、早稲田大学の劉傑教授によって提案された「アジアの公共知としての日本研究」を創設するための提案を受けて発展させたものである。本会議は、これから5回は続けるプロジェクトの初回として、第3回アジア未来会議の中で開催された。今後は、テーマを絞りながら、日本人の日本史研究者、中国人の中国史研究者、韓国人の韓国史研究者の対話と交流の場を提供していく予定である。 本プロジェクトのひとつの特徴は言葉の問題である。本会議では、下記6名によって同時通訳が行われた。【日本語⇔中国語】丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学)【日本語⇔韓国語】金範洙(東京学芸大学)、李へり(韓国外国語大学)【中国語⇔韓国語】李麗秋(北京外国語大学)、孫興起(北京外国語大学)。今後もできるだけ同じメンバーで続けていきたい。 本会議の講演録は、SGRAレポートに纏め、日本語版、中国語版、韓国語版を発行する予定である。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/Kokushi_roundtable_photos.pdf <今西淳子(いまにし・じゅんこ)Junko_Imanishi> 学習院大学文学部卒。コロンビア大学大学院美術史考古学学科修士。1994年に家族で設立した(公財)渥美国際交流財団に設立時から常務理事として関わる。留学生の経済的支援だけでなく、知日派外国人研究者のネットワークの構築を目指す。2000年に「関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)」を設立し代表を務める。また、1997年より異文化理解と平和教育のグローバル組織CISVの運営に加わり、現在(公社)CISV日本協会常務理事。 ------------------------------------------------------------- 【3】寄贈本紹介 SGRA会員の南衣映さんより共著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆吉見俊哉編「万博と沖縄返還-1970年前後(ひとびとの精神史第5巻)」 戦後復興と高度経済成長のピークを象徴した大阪万博.一方,本土に返還された沖縄では,米軍基地の固定化が決定づけられ,本土とは別の「戦後」を歩むこととなった.矛盾と差別が周縁に押し付けられる中,それに抗う声が立ち上がる.山本義隆,岡本太郎,三島由紀夫,比嘉康雄と東松照明,川本輝夫,田中美津ほかを取り上げる. 岩波書店 体裁=四六判・並製・336頁 定価(本体 2,500円 + 税) 2015年11月25日 ISBN978-4-00-028805-7 C0336 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/9/0288050.html ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第16回日韓アジア未来フォーラム@EACJS国際学術大会(12月1日仁川)   「日中韓の国際開発協力:新たなアジア型モデルの模索」<参加者募集中>    http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/asia/2016/7672/ ◇第55回SGRAフォーラム@EACJS国際学術大会(12月1日仁川)   「戦後日本の平和論:戦後日本の平和テキストを読む」<参加者募集中>    http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2016/7679/ 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