SGRAメールマガジン バックナンバー

  • Jiang Jianwei “Time” (resend)

    ※目次に間違いがありましたので再送いたします。大変失礼しました。 **************************************************************** SGRAかわらばん684号(2017年8月3日) 【1】エッセイ:蒋建偉「時」 【2】第57回SGRAフォーラムへのお誘い(8月7日~9日北九州)<最終案内> 「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 **************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#542(私の日本留学シリーズ#10) ◆蒋建偉「時」 本棚の最上段を見上げると、「ほぼ日手帳」が何冊か並んでいる。そこに私の日本留学の日々が書かれている。 私が東京に来たのは、2012年の春、6年前のことである。東日本大震災が起きた時は北京で留学申請の最中だった。母校北京外国語大学の自習室で、同級生たちとネットで流れている津波の映像を見て、皆唖然とした。CCTV(中国中央テレビ)はNHKの放送をほぼ同時に中継し、外国語大学の先生たちは同時通訳として夜遅くまでテレビ局で働いていた。学校の留学生棟の前にはいつの間にか長い列が出来、募金活動をしている日本人留学生は、貧乏学生の気前の良さに驚いた。こうした中で、周囲は心配し、私の日本留学を諦めるよう言ってきた。行くか行かないかで躊躇しなかったわけではないが、心のどこかで諦めきれなかった。 留学の最初の半年間は新生活に慣れつつ、心頭の憂いを払えなかった。留学の数ヶ月前に、父は交通事故で重傷を負い、母一人で看病していた。このことを契機に、私の心の中で、「守る」と「守られる」立場が逆転した。自分は急に大人になったと感じた。東京での生活に漸く慣れた頃、父もほぼ快復できた。夏のある日の午後、電話で久々に父の笑い声を聞いた。私は窓を開けてベランダで長い間日差しを眺めながら、時というものは妙な存在だなあと思った。あの事故は一秒遅くても起こらなかったし、一秒早くても起こらなかったはず。時の流れについては、聖人でも神様でも止めたり、逆戻りさせたりすることが出来ない。その一方で、時が経つにつれ、身体の傷も治るし、心の傷もすこしずつ忘れられる。勿論、新しい皮膚が出来ても、皮膚表層の下にその時の跡が残っているかもしれない。それでも、あの日の午後、私は庭に差し込んでいた日差しに安定感を感じ、生の喜びを味わった。 半年が過ぎ、忙しい日々が始まった。入試準備で、漢文訓読・崩し字・候文など、古典研究の基本を懸命に学んだ。入学するや否や、指導教官に学会発表を命じられた。本番の前に、3回ほどゼミで予行発表を行い、先生の指導を受けた。ゼミが終わってから、ゼミ生一同はサイゼリヤに転じて、検討会を行ってくれた。そこで先輩達にボロボロに批判された。何事も初めが難しい。あれほど指導や批判を受けたからこそ、私は初めての学会発表を無事に終え、それ以後の学会をも畏れなくなった。 普段、ゼミや読書会で中国・日本の古典を読み、夏休みや春休みに論文を書いたり、学会発表を準備したりするのが、私の基本的な生活スタイルであった。博士課程の最初の3年間は東京大学のゼミにも出席し、江戸時代の思想家の文献をひたすら読んだ。東京という文化都市にいる以上、時間を作って、能や歌舞伎を見に行ったり、コンサートを聴きに行ったり、博物館・美術館を訪れたりした。だが、基本的に研究三昧の日々であった。専門の本を読んで、疲れたら、文学や絵画など違うジャンルのものを読んだり、家事をしたり、散歩したりする。研究者は一人の時間が多い職種である。留学の間、時間との付き合い方を模索し続けた。 留学の後半に結婚した。相手(以下、W氏と称す)も研究者で、新居を探す時に、巻き尺で家々の各部屋の壁面積を測った。私はともかく、W氏は本が多く、本棚を置くスペースがほしかった。こんなに本が多くなかったら、同じ家賃でもっと優雅に暮らせる家があった。自分自身の引越より、本の引越なのだ。その時に、初めて覚悟ができた。引越してから、私はやや広くて日差しの多い部屋を書斎にし、W氏はやや狭くて緑の多い部屋を書斎とした。それぞれ中国思想と日本思想を研究しているが、儒学、特に朱子学などが二人にとって基礎教養であるため、蔵書のかなりの部分が共用できた。新居での生活が半年間過ぎ、W氏が仕事で北京に赴任した。 私は相変わらず西武新宿線の急行で通学する日々である。その頃から、博士論文に本格的に取組まなければと思った。ストレスが溜まった時、普段飲まない炭酸飲料を飲んだり、小説を読んだりして発散した。電車で本を読むのが、東京に来てから始まった習慣である。 昔から中島敦の作品が好きだったが、この時になってその明晰で、無駄が無く、味わいがある文体に一層惹かれ、書簡を含む全集を片っ端から読んだ。『弟子』に表われている師への視線、『斗南先生』における自己への洞察は、この時期の私とある程度問題意識が重なっていた。『わが西遊記』を読んで、彼の哲学的思考の幅に嘆服し、刺激を受けた。中島敦はパラオに単身赴任した時、家族に大量の書簡を送った。彼は病弱な身体に深い無力感を覚えながら、ほぼ毎日、南洋での見聞――花・食べ物・海・土着民――を文字にして、妻に手紙を寄せた。『山月記』や『李陵』などの小説における感情の発し方には美学がある。一方、妻への手紙における、心が激しく揺れたり、崩れたり、コンプレックスを抱いたりする飾り気なしの彼の感性も魅力的である。こうした中島敦の文学に触れ、知らず知らずに私は焦燥感がすこしずつ消え去り、自らの世界に安んじた。 暫くしたらこの町を離れるかもしれないが、今も庭前の桜吹雪を心静かに待っている。(2017年3月記) <蒋建偉(ショウ・ケンイ)Jiang_Jianwei> 2016年度渥美奨学生。2013年4月に早稲田大学文学研究科東洋哲学コースに入学、現在は博士論文を提出し就職活動中。専門は日本近世思想史、特に水戸学を中心に研究している。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【2】第57回SGRAフォーラムへのお誘い(最終案内) 下記の通りSGRAフォーラムを北九州市で開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。 ◆テーマ:「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 〇会 期:2017 年8月7日(月)~9日(水) 8月7日(月)16:00~17:00 基調講演 8月8日(火)9:00~12:40 14:00~18:00 論文発表 8月9日(水)9:00~12:00  全体討議・総括 〇会 場: 北九州国際会議場国際会議室 http://convention-a.jp/kokusai-kaigi/ 主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 助成:(公財)鹿島学術振興財団 協賛:北九州市/(公財)北九州観光コンベンション協会 参加費:無料(一般参加者の食事と宿泊は自己手配) 使用言語:日・中・韓同時通訳付き お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected], Tel:03-3943-7612) ◇フォーラムの趣旨 東アジアにおいては「歴史和解」の問題は依然大きな課題として残されている。講和条約や共同声明によって国家間の和解が法的に成立しても、国民レベルの和解が進まないため、真の国家間の和解は覚束ない。歴史家は歴史和解にどのような貢献ができるのだろうか。 渥美国際交流財団は2015年7月に第49回SGRA(関口グローバル研究会)フォーラムを開催し、「東アジアの公共財」及び「東アジア市民社会」の可能性について議論した。そのなかで、先ず東アジアに「知の共有空間」あるいは「知のプラットフォーム」を構築し、そこから和解につながる智恵を東アジアに供給することの意義を確認した。このプラットフォームに「国史たちの対話」のコーナーを設置したのは2016年9月のアジア未来会議の機会に開催された第1回「国史たちの対話」であった。いままで3カ国の研究者の間ではさまざまな対話が行われてきたが、各国の歴史認識を左右する「国史研究者」同士の対話はまだ深められていない、という意識から、先ず東アジアにおける歴史対話を可能にする条件を探った。具体的には、三谷博先生(東京大学名誉教授)、葛兆光先生(復旦大学教授)、趙珖先生(高麗大学名誉教授)の講演により、3カ国のそれぞれの「国史」の中でアジアの出来事がどのように扱われているかを検討した。 第2回対話は自国史と他国史との関係をより構造的に理解するために、「蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」というテーマを設定した。13世紀前半の「蒙古襲来」を各国の「国史」の中で議論する場合、日本では日本文化の独立の視点が強調され、中国では蒙古(元朝)を「自国史」と見なしながら、蒙古襲来は、蒙古と日本と高麗という中国の外部で起こった出来事として扱われる。しかし、東アジア全体の視野で見れば、蒙元の高麗・日本の侵略は、文化的には各国の自我意識を喚起し、政治的には中国中心の華夷秩序の変調を象徴する出来事であった。「国史」と東アジア国際関係史の接点に今まで意識されてこなかった新たな歴史像があるのではないかと期待される。 もちろん、本会議は立場によってさまざまな歴史があることを確認することが目的であり、「対話」によって何等かの合意を得ることが目的ではない。なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。円卓会議の講演録は、SGRAレポートして3カ国語で発行する。 ◇詳細は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8793/ ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<参加者募集中> 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ※おかげさまで65名の参加者を得て盛会裡に修了しました。後日SGRAかわらばんでご報告します。 ◇第57回SGRAフォーラムへのお誘い(8月7日~9日)北九州)<参加者募集中> 「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8793/ ◇第6回SGRAふくしまスタディツアーへのお誘い(9月15~17日福島飯舘村) 「『帰還』-新しい村づくりが始まる」<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/9009/ ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Lee Ji-Hyeong “Imagination and its Direction”

    **************************************************************** SGRAかわらばん683号(2017年7月27日) 【1】エッセイ:李志炯「想像力とその方向性」 【2】SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<最終案内> 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?:『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 【3】第57回SGRAフォーラムへのお誘い(8月7日~9日北九州)<再送> 「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 **************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#541 ◆李志炯「想像力とその方向性」 「対象をその現前がなくても直観の中で表象する能力」 「多様を一つの形象(Bild)へ持って来る能力」 哲学者イマヌエル・カントは想像力について上記のように語った。この想像力は感性と知性の中間的能力であり、感性と知性の概念を少しずつ含んでいる。感性と知性は知覚から始まる能力であるため、想像力も知覚から始まる能力と考えられている。 私達は日常生活の中でさまざまなものや環境を感性と知性を用いて知覚し、対象を理解している。そして、そこから得られた情報と想像力を用いていろいろなことを思考している。人類は、同様のプロセスによって現在の社会システムを知覚し、想像力を用いて未来の社会システムを予測し、社会システムを発展させてきた。つまり、想像力は社会システムの発展において欠かせない要素である。 一方、想像力は映画やアニメなどの芸術とよく結合する。映画やアニメは制作された当時の時代状況に想像力を加えて人間の未来像を描く。そのため、映画やアニメの仮想現実で描かれた社会システムが後で現実の社会システムに実現される場合もある。例えば、『ブレードランナー』(1982年作)、『ターミネーター』(1984年作)、『攻殼機動隊』(1995年作)、『ガタカ』(1998年作)などで見られた科学技術およびそれが適用された社会システムは、20~30年経った今の社会を構成している。 このように私達は想像力を基盤に生きて、想像力を基盤に社会システムを構築していく。想像力はとても大切な能力であり、人間の存在意義に影響を与える重要な要素であると言えるだろう。 一方、人間に大切な能力である想像力の向上のために努力することは大切であるが、想像力の方向性も重要である。上記で挙げた映画やアニメでは科学技術は進歩しているが、人間性は低下している傾向がみられる。また、人間に対する信頼が低下し、個人個人が孤独に生きているように見える。どうして私達の未来はこのように描かれるのだろう。科学技術の進歩は人間に利便性を与えるが、その代わりに人間性を奪うのか。 私はそうではないと思う。時代の変化によって人間性の概念は変容すると考えられるかもしれないが、人間性の根本的な概念は変わらないはずだ。また、科学技術の進歩は時代の変化によって変容した人間性の概念を、人間が身につけやすくするように助ける役割を担うと思う。このように私が持っている人間の未来像は、映画やアニメーションで描かれている人間の未来像と異なる。その理由は上記で述べた想像力の方向性にあると考えられる。 人間の明るい未来像を期待するためには、まず自分が持っている想像力の方向性を見直す必要がある。しかし、スマートフォンのゲームアプリケーションや仮想現実の実現などに想像力の方向を合わせている今の社会を見ると、人間の明るい未来像を期待することが可能かという懸念が生じる。もちろん、このような科学技術の発達によって人間は幸せを感じると思うが、そのほとんどは表面的な刺激による一時的な幸せではないのか。スマートフォンのゲームアプリケーションや仮想現実などはSociety5.0(超スマート社会)の主力産業であるIoT・ビッグデータ・人工知能・ロボットに符合する分野であり、その技術を発展させる必要がある。 しかし、ここ数年間の社会の変動や人間性の変化を見る限り、方向性についてもう一度考えてみる必要があると思う。私達は明るい未来像を期待して、科学技術を進歩させている。そのため、科学技術の進歩にかかわる人々の想像力の方向性を検討すべきであると思う。 <李 志炯(イ・ジヒョン)Lee Ji-Hyeong> 2007年啓明大学(韓国)産業デザイン科卒業。2007年6月来日、千葉大学大学院工学研究科デザイン科学専攻修士課程終了。2011年~2013年、千葉大学発ベンチャー企業BBStoneデザイン心理学研究所で研究員として勤め、現在は千葉大学大学院工学研究科デザイン科学専攻博士課程在学。韓国室内建築技士・日本ユニバーサルデザイン検定の資格を保有。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【2】第10回SGRAカフェへのお誘い<最終案内> SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局へお名前、ご所属、連絡先をご連絡ください。 第10回SGRAカフェ ◆「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 〇日時:2017年7月29日(土)13:30~16:00 〇会場:渥美国際交流財団/鹿島新館ホール http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 〇会費:無料 〇申込み・問合せ:SGRA事務局 ([email protected]) 〇プログラム: 13:30~14:30:発表 14:30~14:45:ティータイム(休憩) 14:45~16:00:質問応答・ディスカッション 〇講師: ムラデノヴァ、ドロテア (ライプチッヒ大学大学院東アジア研究所日本学科博士後期課程) ファスベンダー、イザベル (東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程) 司会:金律里 詳細は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【3】第57回SGRAフォーラムへのお誘い<再送> 下記の通りSGRAフォーラムを北九州市で開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。 ◆テーマ:「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 〇会 期:2017 年8月7日(月)~9日(水) 8月7日(月)16:00~17:00 基調講演 8月8日(火)9:00~12:40 14:00~18:00 論文発表 8月9日(水)9:00~12:00  全体討議・総括 〇会 場: 北九州国際会議場国際会議室 http://convention-a.jp/kokusai-kaigi/ 主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 助成:(公財)鹿島学術振興財団 協賛:北九州市/(公財)北九州観光コンベンション協会 参加費:無料(一般参加者の食事と宿泊は自己手配) 使用言語:日・中・韓同時通訳付き お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected], Tel:03-3943-7612) ◇フォーラムの趣旨 東アジアにおいては「歴史和解」の問題は依然大きな課題として残されている。講和条約や共同声明によって国家間の和解が法的に成立しても、国民レベルの和解が進まないため、真の国家間の和解は覚束ない。歴史家は歴史和解にどのような貢献ができるのだろうか。 渥美国際交流財団は2015年7月に第49回SGRA(関口グローバル研究会)フォーラムを開催し、「東アジアの公共財」及び「東アジア市民社会」の可能性について議論した。そのなかで、先ず東アジアに「知の共有空間」あるいは「知のプラットフォーム」を構築し、そこから和解につながる智恵を東アジアに供給することの意義を確認した。このプラットフォームに「国史たちの対話」のコーナーを設置したのは2016年9月のアジア未来会議の機会に開催された第1回「国史たちの対話」であった。いままで3カ国の研究者の間ではさまざまな対話が行われてきたが、各国の歴史認識を左右する「国史研究者」同士の対話はまだ深められていない、という意識から、先ず東アジアにおける歴史対話を可能にする条件を探った。具体的には、三谷博先生(東京大学名誉教授)、葛兆光先生(復旦大学教授)、趙珖先生(高麗大学名誉教授)の講演により、3カ国のそれぞれの「国史」の中でアジアの出来事がどのように扱われているかを検討した。 第2回対話は自国史と他国史との関係をより構造的に理解するために、「蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」というテーマを設定した。13世紀前半の「蒙古襲来」を各国の「国史」の中で議論する場合、日本では日本文化の独立の視点が強調され、中国では蒙古(元朝)を「自国史」と見なしながら、蒙古襲来は、蒙古と日本と高麗という中国の外部で起こった出来事として扱われる。しかし、東アジア全体の視野で見れば、蒙元の高麗・日本の侵略は、文化的には各国の自我意識を喚起し、政治的には中国中心の華夷秩序の変調を象徴する出来事であった。「国史」と東アジア国際関係史の接点に今まで意識されてこなかった新たな歴史像があるのではないかと期待される。 もちろん、本会議は立場によってさまざまな歴史があることを確認することが目的であり、「対話」によって何等かの合意を得ることが目的ではない。 なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。円卓会議の講演録は、SGRAレポートして3カ国語で発行する。 ◇詳細は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8793/ ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<参加者募集中> 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ◇第57回SGRAフォーラムへのお誘い(8月7日~9日)北九州)<参加者募集中> 「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8793/ ◇第6回SGRAふくしまスタディツアーへのお誘い(9月15~17日福島飯舘村) 「『帰還』-新しい村づくりが始まる」<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/9009/ ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Invitation to SGRA Fukushima Study Tour #6

    ************************************************ SGRAかわらばん682号(2017年7月20日) 【1】SGRAふくしまスタディツアーへのお誘い(9月15~17日福島飯舘村) 「『帰還』-新しい村づくりが始まる」 【2】エッセイ:ジャクファル・イドルス 「飯舘村からインドネシアの原発問題を考える」 【3】SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)(再送) 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?:『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 ************************************************ 【1】第6回SGRAふくしまスタディツアーへのお誘い 関口グローバル研究会(SGRA)では昨年に引き続き、福島県飯舘(いいたて)村スタディツアーを下記の通り行います。 参加ご希望の方は、SGRA事務局へご連絡ください。 SGRAでは2012年から毎年、福島第一原発事故の被災地である福島県飯舘村でのスタディツアーを行ってきました。そのスタディツアーでの体験や考察をもとにしてSGRAワークショップ、SGRAフォーラム、SGRAカフェなど、さまざまな催しを展開してきました。今年も第6回目の「SGRAふくしまスタディツアー」を行います。ぜひ、ご参加ください。 テーマ:「『帰還』-新しい村づくりが始まる」 日 程:2017年9月15日(金)、16日(土)、17日(日) 人 数:10人程度 宿 泊:「ふくしま再生の会-霊山(りょうぜん)センター」 参加費:一般参加者は新幹線往復費用+12000円 (ラクーン会会員には補助が出ます) 申込み締切:8月31日(木) 申込み・問合せ:SGRA事務局角田 E-mail:[email protected] Tel:03-3943-7612 プログラム・詳細 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/07/Fukushima2017Program.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【2】SGRAエッセイ#540  ◆ジャクファル・イドルス「飯舘村からインドネシアの原発問題を考える:2015年秋のSGRAスタディツアーに参加して」 私はジャワ島中部の北部海岸に面したジュパラという小さな港町で、高校まで平穏に育った。しかし、2000年に入った頃、政府が突然ジュパラ近郊にインドネシアで最初の原子力発電所の建設計画を発表したため、この静かな町はその賛否を巡って住民の間で激しい対立が生じることとなった。私も自然な流れで原発問題に関心を抱くようになっていた。その結果、私の日本留学の当初の目的は、原発が立地された地域住民の意識について調査を行うことにあった。 私が来日を果して間もなく、新潟中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原子力発電所にかなり大きな被害がもたらされたと聞いた。私は自らの貧乏な生活を無視して妻を説得し、柏崎刈羽原発とその周辺地域の現地調査に向かった。 現地調査で出した私の結論は大きくまとめると次の2点であった。 第1に、さすが日本の原子力発電所は、世界一といわれる高い技術と安全性に守られて、これだけ大きな地震が起きてもその危険性は制御でき、深刻な被害には至らなかったということである。説明役の技術者は全く原発についての知識がないインドネシア人留学生に解り易い日本語で、驚く程親切な対応をしてくれた。そのため、今迄以上に「さすが日本だ」と日本の科学技術への信頼が高まったのである。 第2は、柏崎という小さな町の風景に驚かされたことである。柏崎は小さな地方の町にもかかわらず、あちらこちらに立派な学校、病院、市民会館、ホテル等が立ち並び、道路等インフラも整っていた。立派なスーパーマーケットに陳列された商品の値段が、当時私が住んでいた東京の町田よりもかなり安いのに驚かされた。これは、「電源三法交付金」という原発の立地に伴う仕組みによって実現したものである。ジュパラ住民がこの現実を知れば、私の故郷での原発を巡る激しい対立は一挙に解決するように私には思えた。もちろん、交付金のかなりの額は賄賂となって消えていくのであるが。 2011年3月11日、東北地方に発生した大地震により、福島第1原子力発電所で発生したメルトダウンによる原発事故が発生した。この事故から4年が経って、ようやく私に計画避難区域に指定された飯舘村の状況を視察する機会が訪れた。この村は福島原発から30キロメートル離れたところに位置しており、避難区域とされた20キロメートルの圏外にあった。この村の人口は約6000人で、日本でもっとも美しい100村のひとつであった。しかし、現在(注)、この村は「帰宅は許されるが、宿泊は禁止される」という村全体が絶滅状態に置かれている。 (注)2015年当時。飯舘村に対する「避難指示」は、2017年3月31日に解除され、4月から村民の帰還が始まっている。) 私自身、飯舘村の現状を直接眼で見て大きなショックを受けた。原発事故の恐ろしさを実感させられた。一体この問題の解決に今後何十年必要とするのか。誰もその見通しをつけることができない。先祖伝来の土地を奪われ、家族は離れ離れになり、村の人々にどんな新しい人生が待っているのだろうか。それは決して補償金で償えるものではない。原発に対する私の甘い考えは飯舘村の見学によって根底から吹き飛んだのである。 実は、原発ではないが、インドネシアでも似たような悲惨な出来事があった。 それはジャワ島最東部東ジャワ州にある第二の大都会スラバヤ市から南に25キロメートル離れているシドアルジョ県で起きた泥火山による熱泥などの噴出事故、いわゆるシドアルジョ泥噴出事故である。この事故の発端は、2006年5月29日、東ジャワ州シドアルジョ県ポロン郡レノクノゴ村でラピンド社が運営するブランタス鉱区のバンジャル・パンジ天然ガス田の掘削の失敗によって水蒸気噴出が起きたことだった。当初は、バンジャル・パンジ田近くの沼地から水蒸気が吹き出ただけだったが、突然、水蒸気とともに摂氏50度にも及ぶ熱い泥が噴出し、巨大な噴水のような泥は高さ8メートルにまで達した。その後噴出した泥の量は増え続け、毎日およそ1億2,600万平方メートルに上り、あっという間に広い範囲の地域に拡大していった。 発生から9年たった2015年現在、泥噴出は止まる気配さえない。具体的な被害状況は、3つの郡にまたがる12の村が壊滅的状態にある。この事故によりシドアルジョ県ポロン郡にあった10,426戸の住宅が全壊し、住居を失い、失業し、避難生活を続けている住民は 6万人に達している。 このような状況の下、インドネシア政府の避難住民に対する対応政策が何も行われないことに対して、故郷を奪われた村民たちは「自分たちは見捨てられた」と感じている。そして政府に対して強い批判と反発を生んでいるが補償は今なお困難である。 このような現状があったにもかかわらず、近年インドネシアでは原子力発電所の建設に関わる動きが再び活発になってきた。しかし、原子力に関する知識の不足、公共施設に対する管理能力の無さ、国家責任に対する無自覚などなど、インドネシアでは技術的な視点だけでなく、社会的・政治的な視点からも原子力発電所を建設するための環境条件は全く整っていない。万一事故が起こったら、政府は「国民を守れる」と自信を持って言えるのか、これらの問に答えを出せる者はインドネシアには誰もいない。 高度な安全性で、優秀な原子力の専門家や技術者が多い日本においてでさえ、福島原発事故を終わらせる道が未だ見えていない。「インドネシアの国民の発展のため」と考えるなら、原子力発電建設の計画は見直すべきところか、むしろ原子力発電所は不要であり、建設すべきではないといえる。 <M.ジャクファル・イドルス M. Jakfar Idrus> 2014年度渥美奨学生。インドネシア出身。ガジャマダ大学文学部日本語学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科に在籍し「国民国家形成における博覧会とその役割:西欧、日本、およびインドネシアを中心として」をテーマに博士論文執筆中。同大学21世紀アジア学部非常勤講師、アジア・日本研究センター客員研究員。研究領域はインドネシアを中心にアジア地域の政治と文化。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【3】第10回SGRAカフェへのお誘い(再送) SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局へお名前、ご所属、連絡先をご連絡ください。 第10回SGRAカフェ ◆「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 〇日時:2017年7月29日(土)13:30~16:00 〇会場:渥美国際交流財団/鹿島新館ホール http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 〇会費:無料 〇申込み・問合せ:SGRA事務局 ([email protected]) 〇プログラム: 13:30~14:30:発表 14:30~14:45:ティータイム(休憩) 14:45~16:00:質問応答・ディスカッション 〇講師: ムラデノヴァ、ドロテア (ライプチッヒ大学大学院東アジア研究所日本学科博士後期課程) ファスベンダー、イザベル (東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程) 司会:金律里 〇メッセージ: 婚活や就活といえば馴染みのある表現ですが、最近「妊活」や「終活」といった言葉も流行してきています。婚活と就活は「生きている間」のことですが、妊活と終活は「人生が始まる前」と「終わった後」の「節目」を管理しようというものです。今や生涯(とそれ以前・以後)のあらゆる「節目」にこうした「活」が浸透し、その都度人生を活発にデザインするように呼び掛けられています。「活」という概念は、自分の力で情報を集め、あらゆる選択肢を考慮に入れた上で、自分(と自分の身内)にとって最適な選択をしなければならないという意味を強く含んでいます。もちろん、そこには自分の人生に関わるものを自分で決めることができ、自分なりに生きられるという自己決定のメリットはあります。 しかし一方でそれは、人生の選択肢を上手く扱えず失敗した場合は、個人の責任であるという「自己責任論」につながりやすい考え方でもあります。時に生きることの選択に失敗した場合、それを自分の責任として背負い込まねばならないとすれば、人は果たして人生を、自分の意志に沿って挑戦的に生きることができるでしょうか? まずは「人生をうまくやるために、どうしてこんなにも頑張らなければいけないのか」という問いから始めようと思っています。それも生まれる前から死んだ後にまで。個人を「活」動させずにはおかないような社会的仕組みはいつ生まれてきたのでしょうか?この社会において「自由であること」とはどういうことでしょうか?国家はそこにどのように関わってくるのでしょうか?これらの問いを考える道具として、「自己管理する主体(entrepreneurial_self)」という言葉を手がかりにしながら、皆さんで、今日の日本社会で生きることの自由と責任について、ひろくディスカッションしていきたいと思っています。 詳細は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<参加者募集中> 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ◇第57回SGRAフォーラムへのお誘い(8月7日~9日)北九州)<参加者募集中> 「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8793/ ◇第6回SGRAふくしまスタディツアーへのお誘い(9月15~17日福島飯舘村) 「『帰還』-新しい村づくりが始まる」<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/9009/ ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Lim Chuan-Tiong “Authoritarianism of the Hong Kong Political System”

    ****************************************************************** SGRAかわらばん681号(2017年7月13日) 【1】エッセイ:林泉忠「香港政治体制の権威主義化」 【2】第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)(再送) 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと? 『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 ******************************************************************* 【1】SGRAエッセイ#540 ◆林泉忠「香港政治体制の権威主義化」 (原文は『明報月刊』(2017年7月号付)に掲載。平井新訳) 香港返還後の政治体制の行方は、『香港基本法』にすでに関連規定が存在している。1997年に香港返還が行われてから現在に至るまで、特別行政区政府は基本法の規定に則り円滑に統治が進められるはずであった。しかし、香港が返還20周年を迎えた今年、香港の政治体制はいったい「行政主導」なのか、はたまた「三権分立」なのかという激しい論争が巻き起こっている。 皮肉なのは、この論争に巻き込まれている当事者は、すべて中国の『憲法』及び香港『基本法』に定義されている為政者であり、返還20年来の中国と香港の政治エリートの間に、将来の香港政治の進展の方向性に関し、著しい思想的な隔たりを示していることである。両者は未だコンセンサスには至っておらず、現在及び将来の香港政治体制の発展には多くの不確定要素が横たわっている。 一方、2014年6月に北京が「一国二制度白書」を発行して以来、中央政府は中連弁(中国中央政府駐香港連絡弁公室)も含め、香港政治に積極的に介入しており、香港特別行政区の政治運営を改めて規定し直す動きが日増しに明らかになっている。このことは、香港の政治制度改革が「権威主義化」の方向に進んでいるのではないかという疑いも招いている。 〇「行政主導」か、それとも「三権分立」か? この論争に火をつけたのは、中共中央港澳工作協調小組組長(中国共産党中央香港・マカオ工作協調チーム・リーダー)を兼務する中国共産党7常務委員(チャイナセブン)序列第3位の人民代表大会委員長、張徳江が、今年の5月27日に「香港基本法施行20周年座談会」に出席した際に発表した談話で、「香港基本法が規定している特別行政区における政治体制は三権分立ではなく、特別行政区長官を中心とした行政主導である」との指摘だった。この一言は大きな波紋と香港の民主派の強い反発を招くことになり、「大律師公會」(Hong_Kong_Bar_Association:香港法廷弁護士会)主席の林定国も「『基本法』には香港が独立した司法権を有していると明記してあり、返還20年来、そのことは一度も変わっていない」と反論した。 6月10日に至り、後任の特別行政長官林鄭月娥がテレビのインタビューで「『基本法』には、立法機関が政府を監督する権利を有すると明記してある」と語ったことで、ようやくこの論争に一段落がついた。 それでは『香港基本法』はいったい「行政主導」を強調しているのか、それとも「三権分立」なのだろうか?基本法の条文を見ると、「政治体制」の部分では、第一節で述べられているのは、行政長官の職能であり、その後に行政機関、立法機関、司法機関について規定されている。しかし、『基本法』の全文には「行政主導」に対する言及も、「三権分立」という語句も記載されていない。すなわち、張徳江が「行政主導論」を提起したのは、「香港が中央直轄の下で高度な自治権を有する行政区画としての法律的地位を享有することに符合する」と考えているためであり、その後の議論が示しているのは、その目的が「中央と香港は授権・被授権関係にあること」及び「高度な自治の名の下に中央の権力に対抗することを認めない」という主張にあることは明白である。 民主派陣営は、張徳江に対して『基本法』の中に「行政主導」が規定されていないことを強調することで速やかに反論し、張の「行政主導論」は基本法が有する「三權分立」の精神を破壊するものだと批判したのである。しかし『基本法』の「政治体制」に対する規定全体をみわたせば、「行政主導」の含意も、行政・立法の相互のチェックアンドバランス及び司法機関が独立した裁判権を行使するという「三権分立」の精神も、どちらも『基本法』において解釈の余地があり、ただ中央政府及び建制派と民主派の間で自らの利益によって各々の解釈の重点が異なるだけである。 〇2047年の「行政主導」の思想を超えて 筆者の意見では、張徳江の「行政主導論」は、中連弁主任の張曉明が2015年9月12日に提起した長官が三権を凌駕するという「特首超然論」と合致しており、加えて2014年の「オキュパイ・セントラル」以来、北京が政治改革を始動する時に何度も保守的な立場を表明するなか、中南海が香港政治体制の発展の方向性を再度位置づけし直す意図があることが見てとれる。言い換えれば、北京はすでに行政長官の香港憲政における立法、司法に優越する特殊な地位を維持ないし強化する傾向にあるということである。また、中国と香港の関係において行政長官及び特別行政区政府が「被授権」の相対的に弱い地位にあることを強調し、こうした位置づけを通じ行政長官をコントロールすることで香港を掌握するという目的を達成しようということであろう。 実際のところ、北京の頭の中にあるのは現在の「香港問題」への対応のことのみならず、「50年間変わらない」と言われた香港の現在の統治体制が終了を迎える2047年以降までを、すでに思考の視野に入れていると思われる。ここ数年、香港憲政体制及び中国香港関係についての議論で高い注目を集めている北京航空航太大学高等研究院法学院副教授で一国二制度法律研究センター執行主任の田飛龍が最近執筆した『行政主導はもう時代遅れか?──香港憲制モデルの再思考』という論考の中で、「2047 年は、『一国二制度』と『香港基本法』の存廃を決める年ではなく、(香港統治の)生まれかわりの年、行政主導と香港行政長官が生まれかわる年であり、現在の論争はすべてそれまでの間に(統治の)理念及び条件を整える準備であるのだ」と指摘している。 はっきりしているのは、田飛龍は「存廃の存在しない」という「一国二制度」と「香港基本法」がいったい2047年以降いかに「生まれかわる」のかについて、決して説明しない。田がその部分について多くの含みを持たせているのは、明らかに30年後の中国の変化が香港の制度に及ぼす影響を予測するのは難しいことを考慮してのことであり、同時に中国共産党が「行政主導」を土台とした権力思考を放棄していないばかりか、将来の長期間にわたってそれを構築し続けるだろうという予測を導き出しているということだ。 こうした権力思考のコンテクストにおいて、香港特別行政区政府がたとえ将来に政治改革を始動したとしても、少なくとも行政長官の「普通選挙」に関しては必ず「完全に支配可能」という北京の要求の基盤に沿ったものでなければならないということが判断できる。言い換えれば、予見可能な将来に渡って、中国政府が2014年に規定した行政長官「普通選挙」の全人代「八三一枠組み」(民主派の立候補を排除する)を放棄するなどという見立ては恐らく幻想に過ぎないということである。そしてこうした「支配可能」な選挙モデルは、通常、政治学における政治体制の分類における権威主義体制の特徴と図らずも一致するのである。 〇「権威主義体制」下の「支配可能な選挙」 政治学において「権威主義体制」とは、「全体主義体制」と「民主体制」の中間に位置する政治体制である。たしかに民主主義の観点からいえば、権威主義体制も専制独裁体制に分類される体制である。ただ国家もしくはその権力者があらゆる社会的リソースをコントロールする「全体主義」とくらべれば、「権威主義」は、比較的に強い支配イデオロギーを欠いており、また、国家権力は人民に宗教活動を含めた自由な活動空間を許さないほどまでに強大ではない。このほかに、権威主義体制のもう一つの特徴として、ある程度までの選挙は許容されるものの、選挙結果は必ず支配可能なものだという点である。戦後、発展が比較的早かった中南米や東アジアの多くの新興工業国、特に「四小龍」と呼ばれた韓国、台湾、シンガポールを含め、多くの東南アジアの国家が形成した政治体制は、ほとんどが「権威主義体制」の範疇に属するものである。 しかし、これまで香港は決して典型的な権威主義政体ではなかった。というのも、香港は1990年代以前には、確かに完全な選挙ではないものの、それでも一般の権威主義政体がそれを欠いている所の言論の自由や報道の自由、学問の自由など相当程度まで保障されていた。イギリス時代末期にクリストファーパッテン総督による政治改革が返還後の逆コースで頓挫して以降、香港は進むべきもう一つの道として、『基本法』に基づき、それが提示する「普通選挙」の方向に向かって、まさに一歩一歩と新しい選挙制度を再建してきた。 しかし、07、08年の「ダブル普通選挙」の延期後、さらに2017年行政長官選挙を規定する「八三一決定」がお目見えとなるに至って、もはや北京の理解においては、行政長官及び立法会を選ぶ「ダブル普選」を含む香港における高度な選挙は、必ずすべて「支配可能」な条件の下で実施されなければならないというものであることは明白である。 この点から言って、北京の支配下にある返還後の香港の政治体制の発展趨勢は、すでに権威主義体制にますます近づきつつあるといえるだろう。 〇香港政治の「権威主義」化 中国共産党が1949年に大陸において政権を掌握して以降に構築したのは、ソ連を模倣した社会主義制度で、政治体制論から言えば「全体主義体制」に分類されるものだった。この制度の下では党と国の一体化が進み、党の意志がそのまま国家政策を形成する中で、政府は人民に思想統制を敷き、あらゆる市民社会の社会活動空間を掌握していた。 毛沢東の死去に至って、鄧小平による改革開放の推進の時代を迎え、鄧による「思想解放」のスローガンの下で、1980年代は中国大陸において、これまでで思想が最も自由闊達な時代となった。北京が香港返還後に実施した「一国二制度」、「港人治港(香港人による香港統治)」という思想もまた、こうした比較的に緩やかな政治的雰囲気の中で生じたものであった。趙紫陽の時期に入ると、中国共産党は部分的に政治体制改革を開始し、村民委員会選挙も導入することができた。一方、1980年代後期の香港は区議会選挙のみを開放するばかりだった。この時期は、台湾では李登輝が憲政改革を推進する以前のことであり、国会は依然として全面改選にまでは至らず、未だ地方選挙のレベルに止まっていた。言い換えれば、1980年代末までの両岸三地は民主改革の進展度合いに大きな差はなかったのである。 1989年の民主化運動及び「天安門事件」を経て、中国共産党は政治体制改革を中止し、権威主義政体から民主政体への移行の契機は消失した。この後は、「中国の台頭」、日増しに強大化する経済的パワー、「政権の安定維持」が中国共産党にとってますます強固となる基本的な思想となった。こうした思想のもとで、中国共産党は自ずと香港に対するそれまでの「寬容」な態度から徐々に引き締めに向かい、「国民教育科」の推進や「銅鑼灣書店事件」、さらに近年は直接的に香港の教育制度に手を伸ばすような手段を採るなどした。これらの動向は、どれも中国共産党が中国大陸をコントロールする際の手法を使用することで香港社会の反発に対処しようという傾向にあることを示している。 こうした鄧小平の「馬照ホウ(足包)、舞照跳(返還後も香港人の暮らしは今までと変わらない)」という考え方に反する思想は、「雨傘運動」後に更に顕在化しており、香港の「権威主義政体」への移行路線は今にも現実のものとなろうとしている。台湾はかつて権威主義時代を経験したものの、最終的には民主化の方向に向かっていった。一方、香港はこのまま「権威主義化」の方向に進むにせよ、将来的に「脱権威主義化」の方向に向かうにせよ、その将来の行方は完全に北京の手に握られていることは全く疑問の余地はない。これこそが香港と台湾の最大の相違点と言えるだろう。 <林 泉忠(リン・センチュウ)John_Chuan-Tiong_Lim> 国際政治専攻。2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年より2年間ハーバード大学客員研究員。2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員、2014年より国立台湾大学兼任副教授。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【2】第10回SGRAカフェへのお誘い(再送) SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局へお名前、ご所属、連絡先をご連絡ください。 第10回SGRAカフェ ◆「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 〇日時:2017年7月29日(土)13:30~16:00 〇会場:渥美国際交流財団/鹿島新館ホール http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 〇会費:無料 〇申込み・問合せ:SGRA事務局 ([email protected]) 〇プログラム: 13:30~14:30:発表 14:30~14:45:ティータイム(休憩) 14:45~16:00:質問応答・ディスカッション 〇講師: ムラデノヴァ、ドロテア (ライプチッヒ大学大学院東アジア研究所日本学科博士後期課程) ファスベンダー、イザベル (東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程) 司会:金律里 〇メッセージ: 婚活や就活といえば馴染みのある表現ですが、最近「妊活」や「終活」といった言葉も流行してきています。婚活と就活は「生きている間」のことですが、妊活と終活は「人生が始まる前」と「終わった後」の「節目」を管理しようというものです。今や生涯(とそれ以前・以後)のあらゆる「節目」にこうした「活」が浸透し、その都度人生を活発にデザインするように呼び掛けられています。「活」という概念は、自分の力で情報を集め、あらゆる選択肢を考慮に入れた上で、自分(と自分の身内)にとって最適な選択をしなければならないという意味を強く含んでいます。もちろん、そこには自分の人生に関わるものを自分で決めることができ、自分なりに生きられるという自己決定のメリットはあります。 しかし一方でそれは、人生の選択肢を上手く扱えず失敗した場合は、個人の責任であるという「自己責任論」につながりやすい考え方でもあります。時に生きることの選択に失敗した場合、それを自分の責任として背負い込まねばならないとすれば、人は果たして人生を、自分の意志に沿って挑戦的に生きることができるでしょうか? まずは「人生をうまくやるために、どうしてこんなにも頑張らなければいけないのか」という問いから始めようと思っています。それも生まれる前から死んだ後にまで。個人を「活」動させずにはおかないような社会的仕組みはいつ生まれてきたのでしょうか?この社会において「自由であること」とはどういうことでしょうか?国家はそこにどのように関わってくるのでしょうか?これらの問いを考える道具として、「自己管理する主体(entrepreneurial_self)」という言葉を手がかりにしながら、皆さんで、今日の日本社会で生きることの自由と責任について、ひろくディスカッションしていきたいと思っています。 詳細は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<参加者募集中> 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ◇第57回SGRAフォーラムへのお誘い(8月7日~9日)北九州)<参加者募集中> 「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8793/ ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Invitation to SGRA Forum #57: Dialogues of National Histories (Part 2)

    ****************************************************************** SGRAかわらばん680号(2017年7月6日) 【1】第57回SGRAフォーラムへのお誘い(8月7日~9日北九州市) 「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 【2】第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)(再送) 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 ******************************************************************* 【1】第57回SGRAフォーラムへのお誘い 下記の通りSGRAフォーラムを北九州市で開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。 ◆テーマ:「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性: 蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 〇会 期:2017 年8月7日(月)~9日(水) 8月7日(月)16:00~17:00 基調講演 8月8日(火)9:00~12:40 14:00~18:00 論文発表 8月9日(水)9:00~12:00  全体討議・総括 〇会 場: 北九州国際会議場国際会議室 http://convention-a.jp/kokusai-kaigi/ 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 助 成:(公財)鹿島学術振興財団 協 賛: 北九州市/(公財)北九州観光コンベンション協会 参加費:無料(一般参加者の食事と宿泊は自己手配) 使用言語:日・中・韓同時通訳付き お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected], Tel:03-3943-7612) ◇フォーラムの趣旨 東アジアにおいては「歴史和解」の問題は依然大きな課題として残されている。講和条約や共同声明によって国家間の和解が法的に成立しても、国民レベルの和解が進まないため、真の国家間の和解は覚束ない。歴史家は歴史和解にどのような貢献ができるのだろうか。 渥美国際交流財団は2015年7月に第49回SGRA(関口グローバル研究会)フォーラムを開催し、「東アジアの公共財」及び「東アジア市民社会」の可能性について議論した。そのなかで、先ず東アジアに「知の共有空間」あるいは「知のプラットフォーム」を構築し、そこから和解につながる智恵を東アジアに供給することの意義を確認した。このプラットフォームに「国史たちの対話」のコーナーを設置したのは2016年9月のアジア未来会議の機会に開催された第1回「国史たちの対話」であった。いままで3カ国の研究者の間ではさまざまな対話が行われてきたが、各国の歴史認識を左右する「国史研究者」同士の対話はまだ深められていない、という意識から、先ず東アジアにおける歴史対話を可能にする条件を探った。具体的には、三谷博先生(東京大学名誉教授)、葛兆光先生(復旦大学教授)、趙珖先生(高麗大学名誉教授)の講演により、3カ国のそれぞれの「国史」の中でアジアの出来事がどのように扱われているかを検討した。 第2回対話は自国史と他国史との関係をより構造的に理解するために、「蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」というテーマを設定した。13世紀前半の「蒙古襲来」を各国の「国史」の中で議論する場合、日本では日本文化の独立の視点が強調され、中国では蒙古(元朝)を「自国史」と見なしながら、蒙古襲来は、蒙古と日本と高麗という中国の外部で起こった出来事として扱われる。しかし、東アジア全体の視野で見れば、蒙元の高麗・日本の侵略は、文化的には各国の自我意識を喚起し、政治的には中国中心の華夷秩序の変調を象徴する出来事であった。「国史」と東アジア国際関係史の接点に今まで意識されてこなかった新たな歴史像があるのではないかと期待される。 もちろん、本会議は立場によってさまざまな歴史があることを確認することが目的であり、「対話」によって何等かの合意を得ることが目的ではない。 なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。円卓会議の講演録は、SGRAレポートして3カ国語で発行する。 ◇プログラム 〇8月7日(月)16:00~17:00 開会と基調講演 【趣旨説明】三谷博 【基調講演】葛兆光「『ポストモンゴル時代』?―14~15世紀の東アジア史を見直す」 〇8月8日(火)全日円卓会議(9:00~18:00) 【問題提起】劉傑(早稲田大学) 【研究発表】 (1)四日市康博(昭和女子大学)「モンゴル・インパクトの一環としての『モンゴル襲来』」 (2)チョグト(内蒙古大学)「アミルアルホンと彼がホラーサーンなどの地域において行った2回の戸籍調査について」 (3)橋本雄(北海道大学)「蒙古襲来絵詞を読みとく」 (4)エルデニバートル(内蒙古大学)「モンゴル帝国時代のモンゴル人の命名習慣に関する一考察」 (5)向正樹(同志社大学)「モンゴル帝国と火薬兵器」 (6)孫衛国(南開大学)「朝鮮王朝が編纂した高麗史書にみえる元の日本侵攻に関する叙述」 (7)金甫桄(嘉泉大学)「日本遠征をめぐる高麗忠烈王の政治的狙い」 (8)李命美(ソウル大学)「対蒙戦争-講和の過程と高麗の政権をめぐる環境の変化」 (9)チェリンドルジ(モンゴル社会科学院歴史研究所)「北元と高麗との関係に対する考察―?王時代の関係を中心に」 (10)趙阮(漢陽大学)「14世紀におけるモンゴル帝国の食文化の高麗への流入と変化」 (11)張佳(復旦大学)「『深簷胡帽』考:蒙元とその後の時代における女真族帽子の盛衰史」 〇8月9日(水) 午前:総合セッション(総括と自由討論) 司会進行:劉傑(早稲田大学) 【論点整理】趙珖(韓国国史編纂委員会) 【討論】(日中韓モから各1名が発問、その後自由討論) 【総括】三谷博(跡見大学) ◇関係資料は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/research/kokushi/2017/8049/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【2】第10回SGRAカフェへのお誘い(再送) SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局へお名前、ご所属、連絡先をご連絡ください。 第10回SGRAカフェ ◆「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 〇日時:2017年7月29日(土)13:30~16:00 〇会場:渥美国際交流財団/鹿島新館ホール http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 〇会費:無料 〇申込み・問合せ:SGRA事務局 ([email protected]) 〇プログラム: 13:30~14:30:発表 14:30~14:45:ティータイム(休憩) 14:45~16:00:質問応答・ディスカッション 〇講師: ムラデノヴァ、ドロテア (ライプチッヒ大学大学院東アジア研究所日本学科博士後期課程) ファスベンダー、イザベル (東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程) 司会:金律里 〇メッセージ: 婚活や就活といえば馴染みのある表現ですが、最近「妊活」や「終活」といった言葉も流行してきています。婚活と就活は「生きている間」のことですが、妊活と終活は「人生が始まる前」と「終わった後」の「節目」を管理しようというものです。今や生涯(とそれ以前・以後)のあらゆる「節目」にこうした「活」が浸透し、その都度人生を活発にデザインするように呼び掛けられています。「活」という概念は、自分の力で情報を集め、あらゆる選択肢を考慮に入れた上で、自分(と自分の身内)にとって最適な選択をしなければならないという意味を強く含んでいます。もちろん、そこには自分の人生に関わるものを自分で決めることができ、自分なりに生きられるという自己決定のメリットはあります。 しかし一方でそれは、人生の選択肢を上手く扱えず失敗した場合は、個人の責任であるという「自己責任論」につながりやすい考え方でもあります。時に生きることの選択に失敗した場合、それを自分の責任として背負い込まねばならないとすれば、人は果たして人生を、自分の意志に沿って挑戦的に生きることができるでしょうか? まずは「人生をうまくやるために、どうしてこんなにも頑張らなければいけないのか」という問いから始めようと思っています。それも生まれる前から死んだ後にまで。個人を「活」動させずにはおかないような社会的仕組みはいつ生まれてきたのでしょうか?この社会において「自由であること」とはどういうことでしょうか?国家はそこにどのように関わってくるのでしょうか?これらの問いを考える道具として、「自己管理する主体(entrepreneurial_self)」という言葉を手がかりにしながら、皆さんで、今日の日本社会で生きることの自由と責任について、ひろくディスカッションしていきたいと思っています。 ◇詳細は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<参加者募集中> 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ◇第57回SGRAフォーラムへのお誘い(8月7日~9日)北九州)<参加者募集中> 「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8793/ ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Yeh Wenchang “Is SONTAKU originally Japanese?”

    ***************************************************************************** SGRAかわらばん678号(2017年6月22日) 【1】エッセイ:葉文昌「忖度は日本の特性か」 【2】レポート紹介:「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性(1)」 ***************************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#539 ◆葉文昌「忖度は日本の特性か」 ここのところいろいろな事件によって、忖度という言葉が注目されている。既に今年の流行語大賞の有力候補であろう。そして、ニュースで、日本外国特派員協会において「忖度」の英訳に困って「Sontaku」というローマ字が使われたと報道されたように、忖度とは日本の特性と認識されている節がある。 しかし、そもそも「忖度」が初めて出現したのは少なくとも2700年前の詩経である。意味も「他人の心を読む」とある。中国から日本へ伝わったものであるから、日本人にはあって中国人にはないとは考えにくい。私の経験からしても忖度は中国や台湾でも日本以上にまかり通っている手法であり、私が台湾で初めて社会経験をした義務兵役でも、忖度することはとても大事だと先輩から教わり、実際に軍隊の中で忖度できる人は常にいい思いをしていたものだ。正門の衛兵が、夜中に直属ではない見知らぬ上官が外で飲んだくれて身分証明も見せずに入って来た時、あるいは上官が夜中に外部の女性を連れて入って来た時、銃を向けて「これ以上入ると銃を撃つぞ!」と言った日には、反省として一週間牢屋にぶち込まれ、先輩や直属上官からは「察しが利かないやつだ」、と笑われるに違いない。 ここまで察しや忖度などの力学で組織が動くようになると組織は危うくなるものだ。法治ではなくて人治になるからである。私は除隊後4か月で東京の大学へ入学した時の、人間関係の忖度や察しから解放された自由でクリアな気分を覚えている。このように、忖度の文化は、当時は日本よりも人治国家であった台湾の方が強かったというのが私の認識である。もっともこれは私の主観なので客観的にどこまで正しいかは断定できないが、少なくとも忖度は日本特有のものではないのである。 「日本人は以心伝心ができる」「日本人は味覚が鋭い」「日本人は繊細」とか「日本人はXX」という言い方をよく聞くが、私はあまり好きではない。裏を返せば「外国人は他人の心情領域にまで踏み込んでデリカシーがない」「外国人は味覚が鈍感」「外国人は粗削り」ということになり、差別意識を埋め込んでしまうことになるからだ。島根の中海では赤貝(実際はサルボウ貝)の養殖が盛んで、煮物が地元の味として食べられている。私は「蛤の美味しさは理解できるが、赤貝の美味しさがまだ理解できていない。」と人に言ったことがある。どういうところに旨味を感じるのかを教えてもらえば私もそこに注意してみたいと思ったのだが、「日本人の繊細な舌にしか理解できない」で片付けられるのが大抵のオチなのである。 なんとも歯がゆい。味覚については、どこの国でも自国メディアは国内のめでたいことしか報道しないから、自国民は秀でていると勘違いしがちなだけである。人口が日本の1/5の台湾が豊かになってからは、パン職人は欧米のコンクールで優勝しているし、地元のウィスキーが日本のウィスキー会社以上の賞を取ったこともある。従って台湾人の味覚が劣っているとは言えない。これからは豊かになった中国人が賞を取る時代が来るだろう。味覚は人間である以上人種によってそう変わるものではない。 「日本人は何事もオブラートに包む、空気を読む、相手の『察し』に期待して断片的にしか言葉にしない」と聞く。しかし京都人の「お茶漬けでもいかがどす?」に対して日本人にもいろいろな考えがあるように、私は日本人すべてが一様な考えとは思わない。私は20年近く前に「中国人はXX」と蔑んだことがあるが、私が未熟だったために偏見に満ちていたと今は気付いて反省している。人種や国籍による差異は、経済状況などのバイアスを受けるものの根本的な部分は小さく、それよりも内部の多様性による差異の方が大きいものである。何もかも人種の違いに解釈を見出すことは偏見を助長しかねないので不安を感じる。 <葉 文昌(よう・ぶんしょう) ☆ Yeh Wenchang> SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【2】SGRAレポート紹介 SGRAレポート第79号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。冊子本は6月中旬にSGRA賛助会員と特別会員の皆様にお送りいたしましたが、その他でも送付ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。 第52回SGRAフォーラム講演録 ◆「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」 2017年6月9日刊行 本文:http://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report79light.pdf 表紙:http://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report79_Cover.pdf <フォーラムの趣旨> 渥美国際交流財団は、過去2回のアジア未来会議で円卓会議を開催し、日本研究のあり方について検討してきた。2015年7月に東京で開催されたフォーラム「日本研究の新しいパラタイムを求めて」においては、公共財としての日本研究に焦点を当てた。東アジアにおける長期的な平和と安定を保障するものは、信頼に基づく協力関係である。1930年代の日中全面戦争までのプロセスが物語るように、経済・貿易関係だけでは、平和は確立できない。そして、終戦70年を迎えたいま、この地域の信頼醸成に不可欠な「和解」は未だ実現されていないという現実に、我々は直面しているのである。 戦後の東アジアでは、部分的に和解は達成された。しかし、このような和解は政府同士の「戦略的」判断と民間の「友好的」運動に支えられてきたものであり、持続できるものではなかった。現在、この地域で求められているものは、共有する「知」を基礎にした和解である。 日本研究をこのような「公共知」に育成することの意味は無視できない。近代日本はアジア諸国と複雑な関係を歩んできた。日本が経験した成功と失敗をアジア全体が共有する財産に昇華させることは、歴史を乗り越えることでもある。このような認識に基づいて、渥美国際交流財団は連続2年間「日本研究」をテーマに議論を深めてきた。 次のフェーズの課題は、「中国研究」や「韓国研究」も「日本研究」と同様に東アジアの「公共知」に仕上げる可能性を探ることである。しかし、三カ国が知の共有空間を構築するために、まず歴史認識の違いを意識しつつ、重なる部分を探し、造り出さねばならない。いままで三カ国の研究者の間ではさまざまな対話が行われてきたが、各国の歴史認識を左右する「国史研究者」同士の対話は、まだ深められていない。「国史たち」を対話させることで、共有する「日本研究」「中国研究」および「韓国研究」への道が開かれる。そして、このような研究環境の整備と研究成果の発信は、東アジアにおける和解の実現に大きく貢献するに違いない。 <もくじ> ◇第一部 【問題提起】「なぜ『国史たちの対話』が必要なのか-『国史』と『歴史』の間-」 劉傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授) 【報告1】「韓国の国史(研究/教科書)において語られる東アジア」 趙珖(ソウル特別市歴史編纂委員会委員長/高麗大学校名誉教授) 【報告2】「中国の国史(研究/教科書)において語られる東アジア -13世紀以降東アジアにおける三つの歴史事件を例に」 葛兆光(復旦大学文史研究院教授) 【報告3】「日本の国史(研究/教科書)におけて語られる東アジア」 三谷博(跡見学園女子大学教授) ◇第二部:討論 【討論1】「国民国家と近代東アジア」 八百啓介(北九州市立大学教授) 【討論2】「歴史認識と個別実証の関係-『蕃国接詔図」を例に-」 橋本雄(北海道大学) 【討論3】「中国の教科書に書かれた日本-教育の『革命史観』から『文明史観』への転換-」 松田麻美子 (早稲田大学) 【討論4】「東アジアの歴史を正しく認識するために」 徐静波(復旦大学教授) 【討論4】「『国史たちの対話』の進展のための提言」 鄭淳一(高麗大学助教授) 【討論4】「国史における用語統一と目標設定」 金キョンテ(高麗大学校人文力量強化事業団研究教授) 【円卓会議・ディスカッション】 モデレーター:南基正(ソウル大学日本研究所副教授)、討論者:上記発表者ほか ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<参加者募集中> 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Lamsal Bikash “Ambiguity of Japanese Language”

    ************************************************************** SGRAかわらばん678号(2017年6月22日) 【1】エッセイ:ラムサル・ビカス「日本語のあいまいさ」 【2】コラム紹介:稲賀繁美「大学の再定義―巣立ちの礎として―」 ************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#538 ◆ラムサル ビカス「日本語のあいまいさ」 人間はどんなに勉強しても、どんなに学習しても完全ではない。どんな分野であれ、完璧な人間はいないだろう。日本語に限らず、どんな事を習っても、その国の人のように理解するのは難しい。些細な事でも理解できない言葉も少なくない。日本語の中で私を最も悩ませるのはあいまいさである。そこで、このような日本語のあいまいさについていろいろ考えてみた。 あいまい表現とは直接ではなく、言いたいことを少し言い換えて(婉曲に)相手に伝えることである。翻っていえば、基準値が明確ではないため、相手を紛らわせる言葉ともいえる。例えば、感謝の気持ちを表すときに「どうも」という言葉をよく使う。「ありがとう」とも表せる言葉であるが、何かを謝るときの「ごめんなさい」も表してしまう。「すみません」も同様である。感謝の場合でも使え、また謝罪の時にも使える。一体何をしたいのだろう!謝っているのか、それとも礼を言っているのかを考えさせる表現である。 「結構です」もよく使われる。相手からご馳走になったとき「結構です」と言うのをよく見かけるが、これも2つの意味を表す。「おいしい」と「いりません」である。また、「ちょっと」も日本人がよく使う、とても便利で使いやすい言葉のようだ。しかし、外国人で、慣れていない人にとっては大変難しい。よく耳にするのは、「お食事は?」と聞かれ「今日はちょっと」という返事。これはどう考えても、わかりにくい。もう食べたのか、それとも食べてないのか、食べる気持ちがないのか、で惑わされる。 ここで自分の経験を挙げてみたい。日本へ来たばかりの私は、食事をしようと思ってレストランを探していた。片言の日本語を話せるレベルだったころのことだ。ラーメン屋で「ご飯お替り自由」と書いてあった看板を見て入店した。ラーメンを注文して、最後に、店員に「ご飯はいかがなさいますか」と勧められ、私は「ご飯はちょっと」と答えたが、30分たってもご飯が来ない、店員に聞くとご飯は頼んでいないことになっていた。その時の私は、ご飯を少なめにしてもらいたかっただけなのに、結局、ご飯にありつけなかった。 文法上は不備な言語構成であるが、日本人同士はこれで充分相互の意思疎通ができているのであり、それで不自由さを感じないのである。すなわち、外国人に会うことがほとんどなかった日本人社会では、このような会話でまったく問題がなく、この日本語で充分であった。 日本語のあいまいさとは日本の言語文化でもあり、知らず知らずのうちに使用してしまう場合も多い。提案書、設計書、報告書、さまざまな文書にあいまい表現は入り込み、技術提案書でよく出てくるあいまい表現もある。たとえば、進捗率70%と言った場合、どこまで進んで70%かは人や状況によって異なる。一見定量的な表現ではあるが、基準値が明確でないあいまい表現が圧倒的に多い(単位不明、期限が不明、対象範囲が不明、暗黙の了解)。 あいまい表現を分類しようにも書き切れないほどである。例えば、程度を表すあいまい表現は、すごく、適当、適切、ちょうど、かたい、だいたい、およそ、多く、きれい、~にくい(難しい)、少々、相当、少し、しっかり、あまり、一定の、きちんと、ほぼ、当分、はっきり、よく、大した、やや、などなどである。それに、調整に使うあいまい表現は、ちゃんと、しっかり、ただし、とにかく、~はず、~さえ、~ごとに、などがある。推測には、あれ、一応、くらい、だいたい、たいてい、およそ、~ようだ、~らしい、~だろう、などという言葉がある。まだまだ数えきれないほど、あいまいさを表す言葉は多い。 ここでは私の経験を生かして日本人と外国人の違いを述べてみたい。日本人は言語表現に際して、断定的にものを言うのを嫌う民族である。日本人はある現象にたいして、言語表現の文末に、意識的にわざわざ断定を避けて、それは「・・・でしょう」や「・・・であろう」といったように、あいまいに表現することが多い。自分では内心「これはこうだ」と思っていても、断定的な表現をわざとしないように「気をつかって(?)」「こうはこうであろう」と表現する。 その点、外国人の多くは、何事においても自分は「こう考える」とか「こうである」というように断定的に表現する。比較してみると、日本人は何事においても、自分の見解を述べるときには、断定を避けてあいまい表現に終始する態度をとるように見受けられる。この日本人のあいまい表現に対して、外国人はたいへん奇異に感じると同時に、自分の考えをわざと隠して述べない「ずるい」民族であると思う人さえいる。 私は、日本人の話し方に疑問を持っていないわけではない。しかし、このような紛らわしくて、わかりにくいあいまいさこそが日本の文化である。これによって日本人は日本人らしく表現することができる。日本人は、できるだけ争いを避けて平和に暮らしていこうという考え方の持ち主が多い。初めは面倒くさいと思ったことも、慣れていくうちにいつの間にか私も、あいまいな表現を使えるようになった。あいまいさがあるからこそ現代の奥ゆかしい日本文化が成り立っているような気がしてならない。 <ラムサル ビカス Lamsal_Bikash> 渥美国際交流財団2016年度奨学生。ネパールのトリブバン大学科学技術学部物理学科を終えて、2010年1月に日本語学生として来日。2014年3月に足利工業大学大学院修士課程を卒業。2017年3月に足利工業大学大学院情報・生産工学専攻より博士号を取得。現在は鹿島建設株式会社技術研究所先端・メカトロニクスグループ研究員。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【2】コラム紹介 SGRA特別会員で国際日本文化研究センター副所長の稲賀繁美様が、京都新聞のコラムにアジア未来会議のことを書いてくださいましたのでご紹介します。 ◆稲賀繁美「大学の再定義―巣立ちの礎として―」 (『現代のことば』京都新聞夕刊1面 2017年4月26日) http://www.nichibun.ac.jp/~aurora/pdf/170426gendainokotoba.pdf   ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<参加者募集中> 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Invitaion to SGRA Cafe, Nittai Asia Mirai Forum Report

    ************************************************************** SGRAかわらばん677号(2017年6月15日) 【1】第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)     「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?」 【2】第7回日台アジア未来フォーラム報告     「日本・韓国・台湾における重要法制度の比較」 ************************************************************** 【1】第10回SGRAカフェへのお誘い SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局へお名前、ご所属、連絡先をご連絡ください。 第10回SGRAカフェ ◆「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 〇日時:2017年7月29日(土)13:30~16:00 〇会場:渥美国際交流財団/鹿島新館ホール      http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 〇会費:無料 〇申込み・問合せ:SGRA事務局 ([email protected]) 〇プログラム: 13:30~14:30:発表 14:30~14:45:ティータイム(休憩) 14:45~16:00:質問応答・ディスカッション 〇講師: ムラデノヴァ、ドロテア (ライプチッヒ大学大学院東アジア研究所日本学科博士後期課程) ファスベンダー、イザベル (東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程) 司会:金律里 〇メッセージ: 婚活や就活といえば馴染みのある表現ですが、最近「妊活」や「終活」といった言葉も流行してきています。婚活と就活は「生きている間」のことですが、妊活と終活は「人生が始まる前」と「終わった後」の「節目」を管理しようというものです。今や生涯(とそれ以前・以後)のあらゆる「節目」にこうした「活」が浸透し、その都度人生を活発にデザインするように呼び掛けられています。「活」という概念は、自分の力で情報を集め、あらゆる選択肢を考慮に入れた上で、自分(と自分の身内)にとって最適な選択をしなければならないという意味を強く含んでいます。もちろん、そこには自分の人生に関わるものを自分で決めることができ、自分なりに生きられるという自己決定のメリットはあります。しかし一方でそれは、人生の選択肢を上手く扱えず失敗した場合は、個人の責任であるという「自己責任論」につながりやすい考え方でもあります。時に生きることの選択に失敗した場合、それを自分の責任として背負い込まねばならないとすれば、人は果たして人生を、自分の意志に沿って挑戦的に生きることができるでしょうか? まずは「人生をうまくやるために、どうしてこんなにも頑張らなければいけないのか」という問いから始めようと思っています。それも生まれる前から死んだ後にまで。個人を「活」動させずにはおかないような社会的仕組みはいつ生まれてきたのでしょうか?この社会において「自由であること」とはどういうことでしょうか?国家はそこにどのように関わってくるのでしょうか?これらの問いを考える道具として、「自己管理する主体(entrepreneurial_self)」という言葉を手がかりにしながら、皆さんで、今日の日本社会で生きることの自由と責任について、ひろくディスカッションしていきたいと思っています。 詳細は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ 【2】第7回日台アジア未来フォーラム報告 ◆蔡英欣「第7回日台アジア未来フォーラム報告  『日本・韓国・台湾における重要法制度の比較―憲法と民法を中心に』」 2017年5月20日、第7回日台アジア未来フォーラムが、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)と国立台北大学法律学院との共同主催で開催されました。今回は、「日本・韓国・台湾における重要法制度の比較―憲法と民法を中心に」をテーマとし、憲法上の国会制度、および民商二法分立・統一に焦点を当て、日本、韓国、台湾の専門家を招いて、各国の現行制度の説明と、今後の課題について検討しました。 開会式では、渥美国際交流財団の渥美伊都子理事長の開幕のご挨拶の後、日本台湾交流協会の塩澤雅代室長と台湾日本人会台日交流部の安東徳幸部会長よりご祝辞をいただきました。そして最後に、国立台北大学法律学院の林超駿院長より歓迎の挨拶と共同主催者と賛助団体への謝辞をいただきました。   続いて、アメリカハーバード大学のコーヤン・タン教授より、立憲主義、すなわち憲法の精神について、日本、韓国、台湾の憲法の歴史と現在までの発展について、全般的な比較を行う基調講演がありました。これら3国の憲法は、全て第二次世界大戦後に生まれたもので、また、どの国も日本の統治を受けていたにもかかわらず、相当程度の相違点が存在するという点でとても興味深いものでした。 タン教授はご報告の中で、主権、教育およびジェンダーについて3国の比較をした上で、3国ともに主権は国民にあり、また教育水準は一流であるが、ジェンダーについては日本と韓国は保守的であると指摘しました。40分という短い時間でしたが、日本、台湾、韓国の立憲の精神がわかりやすくまとめられ、さらに、各国が直面している国際問題、領土問題、高齢化問題など、私達が考えなければならない問題が提示され、とても内容の濃いご報告でした。 午前の部【憲法】では「日本、韓国、台湾における国会制度」が取り上げられ、タン教授のご報告に続いて、各国の立憲制度に対する私達の理解をより掘り下げるものとなりました。 まず、日本の東北大学の佐々木弘通教授より、日本国憲法上の国会の現状と課題についてご報告をいただきました。日本の国会の選挙制度の成り立ちから今日に至るまでの法改正の歴史、現在の選挙制度においては内閣の解散権が大きなものとなってしまっている問題、そして今後の調整についての考え方などをお話しいただきました。 つぎに、韓国慶星大学の孫亨燮教授より、韓国で法改正論が出ている下での国会の変化の概要をご報告いただきました。韓国においては大統領の権力が大きすぎて濫用のおそれがあること、憲法改正により一部の権限を国会と国務大臣に移譲する方法があることなどをお話しいただきました。 最後に、台北大学林超駿教授より、アメリカ法を参考とした台湾の国会議員の定数についてご報告をいただきました。台湾における国会議員定数の移り変わりが、民意の反映、議会運営などに対してどのような影響を与えたのかなど、台湾の法制度について一歩踏み込んだ観点からお話しいただきました。 続いて、石世豪教授(国立東華大学財経法律研究所)、林明昕教授(国立台湾大学法律学院)および陳愛娥准教授(国立台湾大学法律学院)の3名のコメンテーターより、それぞれ異なる角度から、国会、民意、および立憲制度の関係についてコメントをいただきました。 昼食後、まず台湾司法院前院長の賴英照教授よりご報告をいただき、判決中に外国法を引用する際に、理を説くのか、詭弁をなすのか、両者の間でどのようなバランスをとれば、判決に法律上の根拠があるとされ、また判決が社会の変化に対応したものとなるのかについての考え方をお話しいただきました。 午後の部【民法】では「民商二法分立・統一」が取り上げられました。まず、韓国成均館大学の権澈准教授より、韓国の立法制度の流れ、および、民商二法分立・統一に関する議論が日本や台湾ほどに注目されていない現実が報告されました。現代社会において、商人の場合の特殊性を過度に注視する必要はなく、民法を主体として調整を行うことができるが、この問題は討論するに値すると指摘されました。 ドイツ法の影響のもと、民商二法統一に近い考えを持つ日本と台湾については、日本東北大学の中原太郎准教授と、台北大学向明恩准教授より、制度の紹介をしていただきました。両教授ともに、商法学者と民法学者はもっと話合いの場を持つべきだとの見解を提示されました。 その後、民法学者である陳自強教授(国立台湾大学法律学院)、商法学者である廖大穎教授(国立中興大学法律学系)と張心悌教授(国立台北大学法律学院)よりコメントをいただき、異なる観点から、興味深い問題点を提供していただきました。 予定時間が大分オーバーしましたが、最後に、渥美国際交流財団の角田英一事務局長より、参加されたすべての専門家に対して謝辞が述べられ、参加者全員が今回のフォーラムに参加したことで、3国の異なる法制度の現状と今後の発展についての理解を深めることができたことを今後の研究に活かしたいとし、フォーラムは無事に閉会しました。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/photo-gallery/2017/8684/ <蔡英欣(さい・えいきん)TSAI Ying-hsin> 2004年度渥美奨学生。2006年3月に東京大学で博士号を取得し、現在は国立台湾大学法律学院副教授。専門は商法。 ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<参加者募集中> 「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/8478/ ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Miyuki Ota “Reading Between the Lines in Japanese”

    *********************************************** SGRAかわらばん676号(2017年6月8日) *********************************************** SGRAエッセイ#537 ◆太田美行「忖度する日本語」 イスタンブールのホテルでの会話である。 「すみません、ベッドサイドの電気スタンドの電気がつかないんですけど。」 「はい。」 「あの、電気がつかないんです。」 「はい。・・・それで?」 「いえ、あの、電気がつかないから困っているんです。」 「・・・ああ、お客様は困っていて技術的なアシスタントが必要なんですね。」 「そうです、そうです。」 「わかりました。係の者を部屋に伺わせますのでお待ち下さい。」 フロントに電話をしたら、やけに話が通じず時間が掛かって困った。フロントの人も意地悪でそういったのでは無論なく、私の話の趣旨が掴めず困っていたのだ。どうしてこうも話が通じないのだろう。ふと、日本語教師養成講座時代の先生の言葉が浮かんだ。 「日本語は察しの文化です。外国、例えば中国南部の人に以心伝心は通じません。具体的に言わない限り多くの場合、こちらの意向は伝わりません。」 そのクラスでは「以心伝心」「察し」で通じる会話を作成する課題が出された。酒屋に「うちだけど。」「ああ、毎度ありがとうございます。午後にお届けしますよ。」とだけで注文する得意客と店員の電話のやり取り、待ち合わせは「じゃあ、いつもの所で。」誰が、何を、どこで、は明示しなくても会話は成立してしまう文化。「どちら様ですか?」「いつものを何本ですか?」などと聞こうものなら、たちまちのうちに「まったく気が利かない店だよ。」などと思われてしまう。実際、ビジネスマナー本などにも「よく電話をかけてこられるお客様の声は覚えておきましょう。お客様も喜ばれます。」といった「気の利く対応」が推奨されている。 他人の心情領域に踏み込むこと、あるいは相手に行為を直接的に促すことが日本では、失礼なことにあたるとされている。英語の直訳で「(あなたは)私に何をしてほしいですか」と言われたら、大半の日本人が違和感を覚えるだろう。他にも有名な和歌の一部を引用することで和歌全体の内容を伝えることがあるが、この場合のポイントは全文を言わないこと。直接的な要求や引用は日本ではあまりしないものとされる。 それと言わなくてもコミュニケーションが成立してしまう日本文化では、非言語コミュニケーションが発達し、大いに考慮されている。特に権力の立場にある者は誰といるか、誰に何を頼んでいるか、それ自体がメッセージなのだから慎重なものになるべきだが、どうも怪しいようだ。周囲の者は発信者の意図を察して対応する。日本語と忖度はセットで使われ、必須の相方があってこそ日本語の文章は成立する。この文を読むあなたが今そうしているように。 <太田美行☆おおた・みゆき> 東京都出身。中央大学大学院 総合政策研究科修士課程修了。シンクタンク、日本語教育、流通、コンサルティングなどを経て2012年より渥美国際交流財団に勤務。著作に「多文化社会に向けたハードとソフトの動き」桂木隆夫(編)『ことばと共生』第8章(三元社)2003年。 ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Max Maquito “Manila Report 2017 Early Summer”

    *********************************************** SGRAかわらばん675号(2017年6月1日) *********************************************** SGRAエッセイ#536 ◆マックス・マキト「マニラ・レポート2017年初夏」 2015年9月、国連は17の持続可能な開発目標(Sustainable_Development_Goals:SDG)を定めた。その6番目の目標に「すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」ということが掲げられている。これを背景として、第23回SGRA持続可能な共有型成長セミナーが、「経済的に困窮しているコミュニティのための水の統合システム」というテーマで、2017年5月7日(日)にマニラで開催された。共同主催者は、雨水利用を推進するアメコス・イノベーション社(AMECOS_INNOVATION,_INC.)で、自社を会場として提供してくれた。 SDGのウェブサイトには、次のような統計がある。 ・2015年の時点で、改良飲料水源を利用する人々の割合は、1990年の76%から91%へと増大しています。しかし、トイレや公衆便所など、基本的な衛生サービスを利用できない人々も、25億人に上ります。 ・毎日、予防可能な水と衛生関連の病気により、平均で5000人の子どもが命を失っています。 ・水力発電は2011年の時点で、最も重要かつ広範に利用される再生可能エネルギー源となっており、全世界の総電力生産量の16%を占めています。 ・利用できる水全体の約70%は、灌漑に用いられています。 ・自然災害関連の死者のうち15%は、洪水によるものです。 フィリピンでも水の状況はあまり芳しくない。今のままでは、フィリピンは今後10年以内に水不足が深刻な問題になり得る。不衛生な水しかなくて毎日55人が命を落としている。ボトルウォーターの使用が急増している。 SGRA持続可能な共有型成長セミナーの目標は「効率・公平・環境」の鼎立であるので、実行委員会ではKKKセミナーと呼んでいる。ちなみに、フィリピン語にしてもKKKなのである。毎年2回フィリピンで開催する共有型成長セミナーでは、1人の委員のKKKに関する研究とアドボカシー(主張)に焦点を当て、発表と議論が行われる。 第23回KKKセミナーの午前中の司会者は、フィリピン出身の元渥美奨学生のブレンダ・テネグラさんであった。彼女は暫くの間参加できなかったが、今西淳子SGRA代表の誘いで、前回のKKKセミナーから復帰してくれたので嬉しく思っている。今回のKKKセミナーの焦点は、アメコス社の社長で、元大学教授であるアントニオ・マテオ先生の雨水利用の活動であった。 マテオ先生と角田英一渥美財団事務局長の開会挨拶の後、マテオ先生が「イノベンション(発明+革新)と気候変動の影響」(Innoventions_Versus_Climate_Change_Effects)というテーマで発表した。雨水利用は家計の水道費を節約するだけでなく、気候変動によって頻繁に起きている湖水の被害を軽減できるという主張であった。水源に注目したマテオ先生に対して、フィリピン固形廃棄物管理協会(Solid_Waste_Management_Association_of_the_Philippines)のグレース・サプアイ会長と娘のカミールさんは、下水に焦点を当てた「浄化槽における環境に優しいイノベンション(発明+革新)」(Green_Innoventions_in_Septic_Tanks)を発表した。 ちなみに、KKKセミナーへの次世代の参加が増えていて嬉しく思っている。彼らには未来が託されているからこそ、積極的に参加してもらいたい。KKKセミナーは2004年にスタートしたが、その時から僕の兄弟たちはもちろん、姪と甥もできるだけ参加してもらうようにしている。今回も、マニラの大学の工学部を卒業した甥が参加した。別の甥は、セミナー前日の夜遅くまで仕事があったが、セミナー当日には運転手として手伝ってくれた(セミナーでは眠っていたけれど)。 サプアイ親子の発表の次に、「コモンズの管理と債務の開発のための交換 (Managing_the_Commons_and_Debt_for_Development_Swap:コモンズとは誰の所有にも属さない資源を指すもの)についてジョッフレ・バルセ氏が発表した。彼は、100年以上も続く古いオーストラリアの「良き政府の協会」(Association_for_Good_Government)の会長であり、セミナーのためにシドニーから来てくれた。バルセ氏は、汚職などが絡んで正しく使われなかった借入金はインフラ開発のため(例えば、水道システムの開発)に使えるようにすべきだと主張した。 最後に、フィリピン大学経営学部のアリザ・ラゼリス先生が「営利団体による水源の管理」(Water_Resources_Management_by_Business_Organizations)について発表した。国連の「統合水源管理」が発表した理論的な分析枠組みを展開し、文化的要素を含む社会的な様相をその枠組みに導入しようとした。 昼食を挟んで、午後はSGRAフィリピン代表のマキトが司会を務め円卓会議を行った。他の委員のアドボカシーを事例として円卓会議の進め方を説明した後、発表者や参加者と一緒に、午前中の発表を1つずつ、5つの観点(つまり、効率・公平・環境・研究・アドボカシー)から論じた。その詳細と当日の写真は、セミナーの報告書(英文)をご参照ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/english/2017/05/15/sgra-sustainable-shared-growth-seminar-23-report/ 円卓会議の後、マテオ先生にアメコス社をご案内いただいた。本社屋は多目的で、自宅でもありながら、発明用の研究室+展示施設でもある。獲得した特許はすでにご自分の年齢を上回っているほどで、「母の胎内にいた時にも発明をやっていた」と冗談を言っていた。 しかし、特許に関しては問題もある。あるフィリピン政府機関が無断で彼の発明を利用しているそうだ。知的財産の権利を守る番人でもある政府が、その役割を果たしていないのであるから問題の深刻さを物語っている。政府は国の発展のためにその発明を広めようとしているかもしれないが、さらなる発明や革新の妨げになるだろう。それでも、マテオ先生は国の発展のために発明や革新を呼びかけている。 アメコス社のプチ観光の最後に、子ども達や家族や友人たちを楽しませるために、再利用した資材を使って自分で作ったツリー・ハウス(樹上の家)に案内してくださった。マテオ先生が発明や革新の意欲を失わず、しかも、KKKセミナーの参加者とのネットワークがビジネスにも役立ったと話してくれたことを嬉しく思っている。 <マックス・マキト☆Max_Maquito> SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。 ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中> (2018年8月24日~8月28日、ソウル市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2017/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************