SGRAメールマガジン バックナンバー

  • GIGLIO “‘Ethnocentrism’ and ‘De-ethnocentrism’ in Religion ~On the Conditions of World Religions~”

    ********************************************** SGRAかわらばん1034号(2024年10月10日) 【1】エッセイ:ジッリォ「宗教における『自民族中心主義』と『脱民族中心主義』~世界宗教の条件について~」 【2】寄贈本紹介:閔東曄『植民地朝鮮と〈近代の超克〉:戦時期帝国日本の思想史的一断面』 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#775 ◆ジッリォ, エマヌエーレ ダヴィデ「宗教における『自民族中心主義』と『脱民族中心主義』~世界宗教の条件について~」 私は仏教思想と仏教的な信仰に興味を持ったキリスト教文化の西洋人だ。「キリスト教思想と仏教思想」、「キリスト教的な信仰と仏教的な信仰」を両方とも自分の今の思想と精神性の大事な一部*だと思っている。 昔、日本の多くの仏教者とお話をした時、私はよく次の二点を述べていた。仏教思想と仏教的な信仰を理解し受け入れるためには、キリスト教文化の西洋人としての自分を超えなければならない(東洋的なものを西洋的なカテゴリーで理解しようとするのではなく、東洋的なカテゴリーで理解すべきだ;相手のことを相手のカテゴリーで理解すべきだ)、と。しかし、東アジアの仏教者側では何が待っているのだろうか。私のような人を迎えるための「心の準備」ができているのだろうか。私のように「自分を超える」という心構えができているのだろうか、と。 多くの相手は、私が言おうとしたところのポイントをあまり理解できなかった気がする。その時から何年もたった今、特に後段の「心の準備」ついて詳しく述べたい。私はこれまで多少の無理をしてでも、よく異文化の相手に合わせてきた人だが、今回は純粋にキリスト教文化の西洋人として語りたい。 キリスト教文化の西洋人から見れば、キリスト教以外の宗教はまだ「自民族中心主義(エスノセントリズム)」に思える。 「自民族中心主義」とは、自分たちの育ってきたエスニック集団(族群)の言語と伝統文化や宗教などは基本的に自分たちのものだとか、自分たちにしか理解できないとか、万が一理解されてしまった場合、逆に嬉しくないとか、悔しいとか、大事なものを関係ない人たちに持っていかれてしまったとか、盗まれてしまったとかいう感覚のことだ。これは体験的な定義だ。文化人類学や社会心理学の世界では他にも定義が存在*している。 宗教の世界では、「自民族中心主義」の典型的な特徴はどのようなものなのか。私が触れた日本仏教の場合は次のような話になる。 特徴その一。世界のどこの人であろうと、日本語でお祈りしなければならない。日本の読み方でお経を唱えなければならない。本尊は仏像であれば、アジア人の顔をしている。文字曼荼羅(まんだら)であれば、漢字で書かれていて、何と書いてあるかすぐには分からない。バイリンガルと認められている私にとって、この点はむしろ好都合だが、そうでない外国人にとっては大変な壁だ。外国語で祈らなければならないことを受け入れられる人間は今の世界でもあまり多くない。 特徴その二。聖典(経典、宗祖の著作、後の歴代法主や学僧たちの注釈書)はすべて外国語に翻訳されているわけではなく、一部だけだ。多くの注釈書は翻訳されていないし、教団自体が翻訳させたくないと言っているケースすらある。理由は様々であろう。私が聞いているのは、「外国人には理解できないから混乱させてしまうかもしれない」というものだ。 特徴その三。海外でも教団のトップにはやはり日本人がいなければならず、外国人はあまりいない。その宗教が生まれ発展した人種の人しかその宗教のトップにはなれない。外国人がなるという可能性すらまだ考えづらい。 現代のキリスト教文化の西洋人には、これらはすべて自民族中心主義の典型的な特徴に思える。 このようなことを言っている者たちがいる(キリスト教文化の西洋人ではない者たちだ)。「自民族中心主義」とは西洋人たちが自己批判で考え出した概念で、西洋人でない者たちとは関係ない、と。西洋的な概念で、例えばアジア人の文化と歴史とは関係のないものだ、と。 私なら本能的にこう答えたくなる。人種の違いを乗り越えるということは、西洋的な概念だけなのだろうか。人種の違いを乗り越えるということは、平和的な人類に進んでいくための当然で自然なステップではないだろうか。 このようなことを言っている者たちもいる。我々の宗教も万人に開かれているよ、と。しかし、上記のような自民族中心主義的な特徴はそのまま残っている(その宗教が生まれ発展した人種の人たちと同じ言語で祈らなければならない、など)。 仏教文学関係の資料を日本人の研究者と同じやり方で日本語で研究してきた私は、日本の仏教者を名乗る一部の者たちに色々言われてきた。まだ仏教関係の難しいテキストを読めていなかった時は「あなたには難しいでしょう」と。読めるようになって研究上成果を出せるようになった時は急に変わって、このようなことを言われた:「日本的なものは日本人にまかせて、あなたは日本人たちがどのように日本的なものを研究しているか、それだけを研究してくれればいいんだ。イタリア語で。イタリアで」とか、「なんでこんなところに来るんだ?!あなたは他のところで違うこともできるはずなのに」とか、「日本的なものを日本人よりも理解できると言おうとしている。あなたはそう思われる」とか(意味について様々な解釈が可能であろう)。 私は博士号を取得するためにやっていただけで、西洋人として日本人の宗教者たちに何かを見せようなど、少しも思っていなかった。「西洋人」「日本人」という区別もしていなかった。区別していたというなら憧れていたからだ。一部の人にそのように思われていたと聞いた時は寝耳に水だった。 東アジアの仏教者たちが昔受けてしまったトラウマのようなものが関係しているかもしれない。19世紀末には、西洋人による現代的な仏教学研究が誕生する。「社会進化論」*と植民地主義の時代だ。この時代の、東アジアの仏教者に対する西洋の多くの学者の態度は次のようなものだったと言われる。仏教はインドで生まれた、と。元々インドヨーロッパ語族の人たちの宗教だ、と。つまり、我々西洋人の先祖たちの宗教だった、と。仏教はその後、インドから東アジアと東南アジアに移動し、これらの地域の異質な文化と混ざってしまい、変質した、と。よって、本当の仏教はインドの仏教だけだし、仏教の本当の本質はインドヨーロッパ語族の正当な継承者である我々西洋人たちにしか理解できないであろう*、と。東アジアの仏教者たちはこのような態度をとられて嫌な思いをされたであろう。ここは、その時代の西洋人たちが悪い。この歴史から考えれば、日本の仏教者を名乗る一部の者たちが私に言っていたことは理解できる。「なるほど、最初はそう思われるだろうな。仕方ないかもしれない」と。 私が日本で最初にお付き合いした方は、ご家族の信仰の関係で仏教者だった。今のキリスト教会は家庭事情があるのであればキリスト教以外の信仰も同時に持っていて良い。キリスト教を否定さえしなければパートナーの信仰も受け入れて、同時にやっていて良いということを許してくれる。他の宗教はどうか。 前ローマ法王ベネディクト16世はこのようなことまでおっしゃっていた。「東洋や、キリスト教以外の偉大な宗教に由来する本物の瞑想法の実践は、混乱している現代人にとって魅力的であり、祈る人が外的なストレスの中にあっても、内的な平安をもって神の前に立つことを助ける適切な手段となりうる」*と。 キリスト教以外にもこのような姿勢はあるのだろうか。東アジアの仏教者たちはキリスト教的な瞑想法の何かを取り入れようと考えたことがあるのだろうか。 キリスト教には他に、「聖霊降臨の神秘」という出来事がある。聖霊は十二人の使徒たちに下り、そうすると使徒たちは突然に世界の言語を色々と話せるようになる。聖霊は、世界の全ての言語で全ての人に福音を伝えてほしいと最初から考えておられるようだ。アラム語だけでなければならないことはない。へブライ語だけでも、ギリシャ語だけでも、ラテン語だけでなければならないこともない。これは最初から霊的な次元で決まっているはずで、使徒たちの言葉にも現れている。異邦人(外国人)とそうでない者とか、奴隷とそうでない者たちとか、もうそのような区別など存在しない*、と。 キリスト教の「脱民族中心主義」は最初から始まっているはずだが、歴史的に本格的に始まるのは、おそらく東西教会の分裂(11世紀)の時であろう。そこから東の教会(正教会)はラテン語と違う言語で色々とやり始める。正統派総主教ももちろん、ローマの人ではない。その次は宗教改革(16世紀)の時であろう。M.ルターは聖書をドイツ語に訳す。プロテスタント教会の誕生だ。ローマ教会では、まだラテン語以外の言語を使ってはだめだという時代だった。最後に、カトリックの世界では第2次バチカン公会議(1962年)の時代がやってくる。その時はカトリックの世界でも次のようになる。世界各国ではその国の言語でお祈りして良い。ラテン語でなくとも良くなる。ごミサや礼拝も、それぞれの国の言語で行ってもいい。聖書はもちろん、教父たちや聖人たちの著作も全て、世界の主な言語に翻訳される。今はアジア人やアフリカ人の枢機卿もいらっしゃるし、みな法王にもなれる。 このようにキリスト教の世界では「脱民族中心主義」は進んでいる。これこそ世界宗教であるための条件ではないか(私の中の「キリスト教文化の西洋人」の生の声だ)。 キリスト教以外の宗教も、世界宗教か海外での人間関係の拡大を目指すのであれば、キリスト教会の歴史上の様々な分裂と争い、自民族中心主義的な過ちの歴史から学び、似たような「脱民族中心主義」を成し遂げるように努力することをお勧めしたい。でないと、家庭事情や人間関係のような理由がなければ、現代のすべてのキリスト文化の西洋人にとって信仰として受け入れることがまだ難しいであろう。せっかく西洋の主な精神性では「脱民族中心主義」が進んでいるのに、再び異国の自民族中心主義的なものに魂のケアーを任せるのか。逆戻りではないか、と。 海外での人間関係の拡大や世界宗教を目指している各教団に告げたい。その目的を実現するということは、西洋も含め海外で何人もの信者を持てば良いだけの話ではない。現代のキリスト教文化の西洋人たちの感覚のことも慎重に考えていただきたい。そして、昔の西洋人たちと同じ過ちをしてほしくない。世界では、すぐには理解できない遠い言語で祈ろうとして、「自分はいったい何をやっているんだろう」と違和感を持ち続ける者たちもいる。「重要なテキストはまだすべて翻訳してくれているわけではないのか」と不信感までいだく者たちもいる。「結局、その教団のトップにはその教団が生まれ発展した人種の人たちしか行けないのか」と差別主義を疑う者たちすらいる。 私は、翻訳の点ではいつでも協力したい。 海外での布教と人間関係の拡大を考えている各教団のお役に立てればと願いつつ Giglio(ジッリォ), Emanuele(エマヌエーレ) Davide(ダヴィデ) 東京、2024年9月28日 *注釈は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/10/2024-23Giglio_annotations.pdf 注釈付き本文は下記リンクからダウンロードしていただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/10/2024-23Giglio_essay-with-annotations.pdf <エマヌエーレ・ダヴィデ・ジッリォ Emanuele_Davide_GIGLIO> 渥美国際交流財団2015年度奨学生。2007年にトリノ大学外国語学部・東洋言語学科を首席卒業。外国語学部の最優秀卒業生として産業同盟賞を受賞。2008年4月から2015年3月まで日本文科省の奨学生として東京大学大学院・インド哲学仏教学研究室に在籍。2012年3月に修士号を取得。2014年に日蓮宗外国人留学生奨学金を受給。仏教伝道協会2016年度奨学生。2019年6月に東京大学大学院・インド哲学仏教学研究室の博士課程を修了し、哲学の博士号を取得。日本学術振興会外国人特別研究員。現在、身延山大学・国際日蓮学研究所研究員。医科大学にて哲学講師・倫理学講師・国際コミュニケーション講師。工科大学にて日本語講師。NHKバイリンガルセンター所属。 ------------------------------------------ 【2】寄贈本紹介 SGRA会員で都留文科大学准教授の閔東曄さんから新刊書をご寄贈いただいたのでご紹介します。 ◆閔東曄『植民地朝鮮と〈近代の超克〉:戦時期帝国日本の思想史的一断面』 三木清、高坂正顕、高山岩男、申南澈、金南天、朴致祐などの転換期を生きた知識人たちは、いかに「近代」と向き合い、それを乗り越えようとしたのか。戦時期日本で大きな影響力をもった「近代の超克」をめぐる議論を、同時代の植民地朝鮮との関係に焦点を当てて読み直し、一国史を超えた歴史意識を剔出する。抵抗か協力かという二元論的な枠組みを問いに付し、帝国主義の構造を再考する画期的な試み。 A5判/354ページ/上製 ISBN978-4-588-15139-2 C1022 価格5,500円 (消費税 500円) 発行年月2024年09月 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-15139-2.html ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • MAQUITO “ASEAN-Centricity in a Turbulent East Asia”

    ********************************************** SGRAかわらばん1033号(2024年10月3日) 【1】フェルディナンド・マキト「激動の東アジアにおけるASEAN中心性」 【2】コラム紹介:岩辺卓浩「『アジアの若者を育てる』渥美国際交流財団」 【3】SGRAカフェへのお誘い(10月5日、東京+オンライン) 「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」(最終案内) *********************************************** 【1】第7回アジア未来会議円卓会議報告 ◆フェルディナンド・マキト「激動の東アジアにおけるASEAN中心性」 歴史的、文化的な理由から中国、日本、韓国、あるいは私が「北東アジア」と呼んでいる地域は、SGRAの地域イベントにおいて非常に積極的な役割を果たしてきました。これに触発され、今西さんや角田さんに励まされながら、東南アジアのより積極的な参加を強く進めてきました。2024年8月にバンコクで開催された第7回アジア未来会議では「東南アジアのレンズから世界を考える」シリーズの第2弾となる東南アジア円卓会議を開催。サブテーマは「激動の東アジアにおけるASEAN中心性」。問題提起として私は東南アジアの視点から、平川均先生(名古屋大学名誉教授)は北東アジアの視点から発表しました。 私は東南アジア諸国連合(ASEAN)中心性に関する伝統的な視点と、あまり伝統的でない視点を取り上げました。伝統的な考え方では、ASEANは対立する主要国を交渉のテーブルに集めて冷静に課題を議論させる能力を持っているとみなされます。これに対して私は、地理的なアプローチを採用したあまり伝統的ではない視点から、東南アジアと北東アジアを合わせた「東アジア」諸国の地理的な中心は、まさに南シナ海の荒波に見出すことができると指摘し、二つの概念化を検討しました。一つは小国と大国との間の紛争に焦点を当てた地政学的なもので、事例として西フィリピン海・南シナ海の対立を挙げました。もう一つは東アジアにおける二つの顕著な勢力、国境を越える地域統合と各国国内における地方分権化との間の対立に焦点を当てた「地経学」(ジオエコノミック:地政学的目的のために経済を活用すること)的なものです。 平川先生は東アジアが地域秩序を形成する上で直面している課題は100年前と似ているが、中国が日本に代わって大国になったという発言から始め、米中の覇権争いで経済分断(デカップリング)が進んでいることを指摘しました。ASEAN地域は、双方がお互いを自分たちの陣営に引き込もうとしている競争の場となっています。南シナ海におけるASEANの領有権紛争は中国の「二国間交渉」により、ASEAN加盟国の中心性と結束に深刻な課題を投げかけています。もしASEAN諸国がばらばらに地経学的なアプローチをとると、アジアの地域開発の基盤が損なわれることになります。 平川先生は最後に、ASEAN中心性はASEANだけに任せるべきではなく、東アジアで地域公共財として確立した様々なレベルでの国際協力の枠組みを維持するために、地域メンバー国の努力が必要であると強調しました。これは中国を含む東アジア諸国が平和と繁栄の中で共に生き続けるための前提条件となるでしょう。ウクライナでの戦争が北大西洋条約機構(NATO、ウクライナを支援する米国も含む)とロシアの2つの陣営に分かれる中、東アジアがグローバルサウスへの道を模索するインドと協力することも重要でしょう。ASEAN中心性の枠組みの下で、中国と率直な対話を行うことを忘れてはなりません。中国もルールに基づく国際秩序を守り、ソフトパワーの台頭として世界における威信を高めるように行動すべきでしょう。 続いて行われた討論では、キン・マウン・トウエ氏が、ミャンマーはASEAN中心性にどのように参加できるかという問題を提起しました。私はASEAN中心性の2つの地理的概念化(地政学的および地経学的)が、ミャンマーを含む地域紛争の解決策を示しており、ASEANは依然として中心的な役割を果たすことができると説明しました。フィリピン大学放送大学の講座では、このASEANの中心的な役割を地方自治体や地域コミュニティと他国のカウンターパートとの接続「LLABS*」と名付けました。 *LLABS= Local-to-Local_Across_Border_Scheme モトキ・ラクスミワタナ氏(早稲田大学)は、世界銀行の研究が示すように、タイ政府は確かに地方分権化に慎重な動きをしており、最近はさらに慎重になっていることを確認しました。ジャクファル・イドルス氏(国士舘大学)は東アジアにおける権威主義の縮小を呼びかけ、ASEANにとって機能してきた原則の一つが、加盟国の地域問題への不干渉であることを思い出させました。マンダール・クルカーニ博士(GITAM人文社会大学)は、とても良くまとまった統計資料を共有しながら、インドと東アジアの間の強力な経済関係を確認しました。 ポーランドからの参加者による「なぜこの会議に中国人がいないのか」というコメントに対しては、日本に住んでいる中国人研究者と一緒に開催したセミナーを紹介しました。この第37回SGRA共有型成長セミナー「東アジアダイナミックス」のレポートは下記リンクよりお読みいただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgrareport/KKKSeminar37/KKK37Report.pdf 日本にいる中国人は「日本化」されているという私の観察も共有しました。この円卓会議は東南アジアからの観点が中心で、北東アジアの観点は平川先生が十分に触れてくださったと思います。会議が始まった時には参加者がとても少なくて心配しましたが、休憩後には部屋がいっぱいになりました。次回は最初から多くの人に来ていただけるようにしたいと思います。 今回のアジア未来会議の開会宣言で、明石康大会会長は「すべての地政学的な断層線が現在活発化しているように見える」とおっしゃいました。ウクライナ-ロシアと中東の「断層線」が挙げられたので、南シナ海-西フィリピン海の「断層線」についても言及してくださるのを待っていましたが、残念ながら「その他」にグループ化されてしまいました。「ASEAN中心性」を検討する円卓会議の主催者として、次のアジア未来会議ではもっと「東アジアの断層線」について議論できる場を増やせたらと思います。 最終日の夜にはアジア未来会議の成功だけでなく、渥美国際交流財団の30周年も祝うためにラクーン(渥美奨学生のこと)たちの集まりがありました。おそらく日本国外に拠点を置く最年長の私は、中締めを頼まれました。短い挨拶の中で、集まってくれた若い仲間たちに今回のAFC7のテーマ「再生と再会」を思い出してもらい、これは私たちに対しても可能な限りの手段を使ってお互いに「再接続」し「再活性化」するための呼びかけであることを強調しました。 これまでに、ジャクファルさんはフィリピン大学放送大学の講座でインドネシアの農村企業について講義してくれました。ラムサル・ビカスさんは鹿島建設での研究開発活動について講演するためにロスバニョスまで来てくれました。台湾の梁蘊嫻さん(元智大学)には、台湾の国父であり中華人民共和国では革命の父である孫文(1866~1925)の地価税に対する見解について話してくれる人を探していただきました。モトキさんには、次の円卓会議で講演する可能性のあるタイの研究者の推薦をお願いしています。言うまでもなく、皆さんが再びつながることをとても温かく受け入れてくれました。第8回アジア未来会議の仙台での再会を楽しみにしています。 祝賀会はフィリピンを訪れることを楽しみにしてくれている全振煥さん(鹿島建設)に手伝ってもらい盛大な三本締めで終わりました。みなさんと再会できてとても嬉しかったです。 当日の写真は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2024/19654/ <フェルディナンド・マキト Ferdinand_C._MAQUITO> SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学放送大学提携教員。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。 ------------------------------------------ 【2】コラム紹介 SGRA編集委員の岩辺卓浩さんが「経済記者_シニアの眼」に投稿されたコラムをご紹介します。 ◆岩辺卓浩「『アジアの若者を育てる』渥美国際交流財団」 今年8月、東京より涼しいバンコクで開かれたシンポジウム「第7回アジア未来会議」で、高齢の元外交官が大勢の若者に囲まれ、写真撮影をせがまれていた。 明石康氏(93)。国連事務次長やカンボジア暫定統治機構(UNTAC)特別代表として紛争地域を駆け巡った外交官だが、30年も昔の話でメディアに登場する機会は少ない。しかし、緊張感が強まるアジアで、国際関係を学ぶ若者らにとっては「レジェンド」だ。明石氏と3日間も行動を共にする中で、「こんな『温かい地下水の流れ』を大事にしたいね」と深夜まで若者たちと話し込む姿に驚かされた。 【顔の見える奨学支援】 その明石氏が顧問を務め、アジアを中心とした留学生を支援する「公益財団法人渥美国際交流財団」(渥美直紀理事長)は今春、設立30周年を迎えた。 続きは下記リンクをお読みください。 http://blog.livedoor.jp/corporate_pr/archives/61810762.html ------------------------------------------ 【3】SGRAカフェへのお誘い(最終案内) 下記の通り第22回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式開催いたします。参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」 日 時:2024年10月5日(土)11:00~12:30(その後懇親会) 方 法:会場(渥美財団ホール)及びZoomウェビナー https://www.aisf.or.jp/jp/map.php 言 語:日本語 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) 申 込:下記URLよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_SsqWHHpAQOqxQnvEiOVYAw#/registration ◇開催趣旨 第20回SGRAカフェ「パレスチナについて知ろうー歴史、メディア、現在の問題を理解するために」(2024年2月3日、渥美財団ホール)と第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」(6月25日、昭和女子大学)に続き、「パレスチナを知ろう」シリーズの締めくくりとして、最後のイベントを開催します。これまでは国際政治やパレスチナ問題の現状に焦点を当ててきたことを踏まえ、今回は文化、文学、芸術にスポットライトを当てます。 パレスチナに関するニュースは戦争や紛争に偏りがちですが、パレスチナ人には逆境の中で形成された独自で多様な文化的アイデンティティがあります。パレスチナの文学や芸術は民族が国家を奪われ、自決権を認められず、土地や文化の喪失を経験してきた中で、「故郷」をどのように捉えているかを映し出しています。パレスチナの芸術や文学がいかにして平和的な抵抗の手段となり、抑圧や占領に対抗する一つの形となっているのかについても探求します。メディアでは語られることのないパレスチナの別の側面をご紹介し、このシリーズがポジティブな視点で終わることを目指します。 ◇プログラム 11:00-11:05 開会 進行:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) 11:05-12:05 講演 講師:山本薫(慶應義塾大学) 12:05-12:30 質疑応答・ディスカッション オンラインQ&A担当:銭海英(明治大学) ◇講師紹介 山本薫 Kaoru_YAMAMOTO 慶應義塾大学総合政策学部准教授。東京外国語大学博士(文学)。専門はアラブ文学。パレスチナをはじめとするアラブの文学・映画・音楽などの研究・紹介を行う。近刊に「パレスチナ・ガザに響くラップ」島村一平編著『辺境のラッパーたち―立ち上がる「声の民族誌」』青土社、アダニーヤ・シブリー『とるに足りない細部』(翻訳)河出書房新社。 ◇講師からのメッセージ 2023年10月7日にガザ地区からイスラエル領内への奇襲が行われたことへの報復として、パレスチナ人へのジェノサイドが開始されてからもうすぐ1年になります。しかし、イスラエルによる攻撃はパレスチナ人の生命・財産に対するものにとどまりません。19世紀末に始まるユダヤ人のパレスチナへの組織的入植の目的は、ユダヤ人国家イスラエルを建設してパレスチナのアラブ人を追放するだけでなく、その存在の歴史的記憶を抹消することにもありました。そのためパレスチナ人の闘争は、自分たちの生命・財産を守り、正当な権利を回復するための政治的・軍事的・経済的・法的な闘いであるだけでなく、歴史と記憶をめぐる闘いでもあり、その点において文化はきわめて重要な役割を果たしてきたのです。本イベントでは、パレスチナ人が文化を通じて自分たちの歴史的存在とその人間的価値を証明してきた歩みをご紹介します。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/09/SGRACafe22ProgramV4.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/09/SGRA22poster-scaled.jpg ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • YEH Wenchang “Is ‘Walking Smartphone’ Evil?”

    ********************************************** SGRAかわらばん1032号(2024年9月26日) 【1】SGRAエッセイ:葉文昌「『歩きスマホ』は悪か?」 【2】SGRAカフェへのお誘い(10月5日、東京+オンライン) 「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」(再送) *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#774 ◆葉文昌「『歩きスマホ』は悪か?」 新テクノロジーが出るたびに、世の中では是か非かの論争が起こる。携帯電話が普及した頃は電車内の通話問題、最近では歩きスマホ問題だ。 日本では車内の携帯通話は悪である。会話は良いのに、なぜ携帯はだめなのだろうか?2000年代の新聞で、会話は対話が聞こえるから不快にならないのに対し、通話は片方だけ聞こえるから不快に感じるのが禁ずる根拠という専門家の意見を見たのを覚えている。日本では車掌による懸命な肉声アナウンスによって、日本人の「マナー」は大変良くなった。最近でも私が路線バスで小声で着信通話していたら運転手に「車内での通話はお止めください」とアナウンスされたことからして、車内通話が悪であることは健在のようだ。人は環境に順応して聞きたくない音を無視することができるはずなので、本当にこれで良いのか? 車内通話禁止により生じたおかしな例として、2000年代に東京に行った時のエピソードを紹介する。女性が電車内で通話をしていた。声を抑えていたので気にならなかったが、向かい席のお酒片手の酩酊中年男二人組が通路越しに大声で、「電車の中では通話しちゃだめじゃないのか」と絡む。女性は無視してかたくなに通話し続けていたが、男たちの執拗な絡みにたまりかねて席を移動してしまった。心の中で酔っ払いに屈するなと応援していたので残念である。「あなた達の声と酒の方が迷惑だ」と言いかけたが、車内通話は明らかな悪なのだから女性の分が悪いことになるのだろう。 一方で台湾はどうか?録音による放送だったせいか、誰も気にせずに通話し放題で、マナーの悪さが目立っていた。当時の携帯の音質の悪さが、大声での通話に拍車をかけていた。しかしその後のスマホの飛躍的進化で、今では車内通話で迷惑に感じることはなくなった。普通の会話でも声を大きくすれば不快になる。「車内通話は悪」とまでする必要はあったのだろうか。新技術によって出たマナー問題を、技術やマナーが進化する前に規制すると、その規制は地縛霊のように居付いてしまう。 スマホにまつわるもう一つの困った規制は、シャッター音である。日本ではスマホで撮影する時は、シャッター音を出すよう規定されている。盗撮防止のために、技術の進化に逆らって音を出しているのである。日本と韓国以外では、スマホカメラは音が出ないのが常識。だから海外で静粛が求められる場面で写真を撮ると、「なんでスマホでわざわざ音出すの?」と周りから白目を向けられて恥ずかしい思いをする。さらに犯罪現場で犯人を撮影すれば事件に巻き込まれるリスクもある。アプリを入れたり、海外でスマホを買ったりすれば音は出ないが、生活している日本でシャッター音が出ないスマホを使えばやましいことをしていると思われるのでやりたくない。 ちなみに台湾の通勤電車MRTでは規制がないわけではなく、シンガポールに見習って飲食とガムは厳格に禁止されている。マナーは各人の良識にゆだねるべきなので窮屈に思ったが、90年代に台湾の満員通勤バスでの飲食で他人への迷惑と車内が不潔になっていたことからして、規制はやむを得ないと思う。車内飲食規制は、より普遍的だと思う。 続いて最近の「歩きスマホは悪」とみなされる風潮である。私の所属する組織では、キャンパス内で「歩きスマホ」する学生を見かけたら注意するよう通達がきた。理由は「危ないから」とのことである。「歩きスマホ」とは、歩きながら視覚メディアによる情報摂取である(「歩き情報摂取」と言おう)。「歩き情報摂取」の日本での大先輩は二宮金次郎で、今でも多くの小学校で薪を背負って歩きながら読書に没頭する彼の銅像が勉学のアイコンとして立っている。地図を見ながら歩く観光客も「歩き情報摂取」だ。「歩きスマホはいけない」と言っている人たちは観光地で紙地図は使わないのだろうか?二宮金次郎の銅像を見てクレームしたことがあるのだろうか?紙は良くてスマホはだめというのは、新テクノロジーに対する拒否反応だと思う。 学生の「歩きスマホ」に対する教員の注意の呼びかけには戸惑った。危険性は認識しているので私は「没入型情報摂取」はしないが、スマホで時間は見る、地図は見る、メッセージ着信があれば確認する、だから「歩きスマホは悪」とされては困るのだ。キャンパスで「歩きスマホは悪」になれば、一時期流行ったポケモンGoのような拡張現実もできなくなる。歩いてスマホをすれば年寄りから「いけないよ!」と注意が来るような窮屈なキャンパスに若者は集まるのだろうか?キャンパスでも歩道でも、子供でも障がい者でも安心安全に歩けることを目指すべきなので、「ながらスマホ」で歩行者がとがめられるのは本末転倒であり、「私はこれからも歩きスマホはします」宣言をさせてもらった。 ちなみにここ2-3年は「ながら自転車」も頻繁に見かけるようになった。私は若者の「ながら自転車」を見かければ、「他人にぶつけたら将来が大変だぞ」と注意している。他人に危害を加える可能性があるので、「歩きスマホ」とは次元が違う。これこそに注意を促すべきだろう。歩行者は他人に危害は加えないので、自己責任であるはずだ。 <葉文昌(よう・ぶんしょう)YEH Wenchang> SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年国立雲林科技大学助理教授、2002年台湾科技大学助理教授、2008年同副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科物理工学科准教授、2022年より教授。 ------------------------------------------ 【2】SGRAカフェへのお誘い(再送) 下記の通り第22回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式開催いたします。参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」 日 時:2024年10月5日(土)11:00~12:30(その後懇親会) 方 法:会場(渥美財団ホール)及びZoomウェビナー https://www.aisf.or.jp/jp/map.php 言 語:日本語 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) 申 込:下記URLよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_SsqWHHpAQOqxQnvEiOVYAw#/registration ◇開催趣旨 第20回SGRAカフェ「パレスチナについて知ろうー歴史、メディア、現在の問題を理解するために」(2024年2月3日、渥美財団ホール)と第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」(6月25日、昭和女子大学)に続き、「パレスチナを知ろう」シリーズの締めくくりとして、最後のイベントを開催します。これまでは国際政治やパレスチナ問題の現状に焦点を当ててきたことを踏まえ、今回は文化、文学、芸術にスポットライトを当てます。 パレスチナに関するニュースは戦争や紛争に偏りがちですが、パレスチナ人には逆境の中で形成された独自で多様な文化的アイデンティティがあります。パレスチナの文学や芸術は民族が国家を奪われ、自決権を認められず、土地や文化の喪失を経験してきた中で、「故郷」をどのように捉えているかを映し出しています。パレスチナの芸術や文学がいかにして平和的な抵抗の手段となり、抑圧や占領に対抗する一つの形となっているのかについても探求します。メディアでは語られることのないパレスチナの別の側面をご紹介し、このシリーズがポジティブな視点で終わることを目指します。 ◇プログラム 11:00-11:05 開会 進行:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) 11:05-12:05 講演 講師:山本薫(慶應義塾大学) 12:05-12:30 質疑応答・ディスカッション オンラインQ&A担当:銭海英(明治大学) ◇講師紹介 山本薫 Kaoru_YAMAMOTO 慶應義塾大学総合政策学部准教授。東京外国語大学博士(文学)。専門はアラブ文学。パレスチナをはじめとするアラブの文学・映画・音楽などの研究・紹介を行う。近刊に「パレスチナ・ガザに響くラップ」島村一平編著『辺境のラッパーたち―立ち上がる「声の民族誌」』青土社、アダニーヤ・シブリー『とるに足りない細部』(翻訳)河出書房新社。 ◇講師からのメッセージ 2023年10月7日にガザ地区からイスラエル領内への奇襲が行われたことへの報復として、パレスチナ人へのジェノサイドが開始されてからもうすぐ1年になります。しかし、イスラエルによる攻撃はパレスチナ人の生命・財産に対するものにとどまりません。19世紀末に始まるユダヤ人のパレスチナへの組織的入植の目的は、ユダヤ人国家イスラエルを建設してパレスチナのアラブ人を追放するだけでなく、その存在の歴史的記憶を抹消することにもありました。そのためパレスチナ人の闘争は、自分たちの生命・財産を守り、正当な権利を回復するための政治的・軍事的・経済的・法的な闘いであるだけでなく、歴史と記憶をめぐる闘いでもあり、その点において文化はきわめて重要な役割を果たしてきたのです。本イベントでは、パレスチナ人が文化を通じて自分たちの歴史的存在とその人間的価値を証明してきた歩みをご紹介します。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/09/SGRACafe22ProgramV4.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/09/SGRA22poster-scaled.jpg ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Invitation to the 22nd SGRA Cafe “Beyond Adversity: Palestinian Cultural Identity”

    ********************************************** SGRAかわらばん1031号(2024年9月19日) 【1】SGRAカフェへのお誘い(10月5日、東京+オンライン) 「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」 【2】第7回アジア未来会議INAF円卓会議報告 齋藤光位「円卓会議『東アジア地域協力における朝鮮半島の統一と開発協力』報告」 ********************************************** 【1】SGRAカフェへのお誘い 下記の通り第22回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式開催いたします。参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」 日 時:2024年10月5日(土)11:00~12:30(その後懇親会) 方 法:会場(渥美財団ホール)及びZoomウェビナー https://www.aisf.or.jp/jp/map.php 言 語:日本語 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) 申 込:下記URLよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_SsqWHHpAQOqxQnvEiOVYAw#/registration ◇開催趣旨 第20回SGRAカフェ「パレスチナについて知ろうー歴史、メディア、現在の問題を理解するために」(2024年2月3日、渥美財団ホール)と第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」(6月25日、昭和女子大学)に続き、「パレスチナを知ろう」シリーズの締めくくりとして、今年最後のSGRAイベントを開催します。これまでは国際政治やパレスチナ問題の現状に焦点を当ててきたことを踏まえ、今回は文化、文学、芸術にスポットライトを当てます。 パレスチナに関するニュースは戦争や紛争に偏りがちですが、パレスチナ人には逆境の中で形成された独自で多様な文化的アイデンティティがあります。パレスチナの文学や芸術は民族が国家を奪われ、自決権を認められず、土地や文化の喪失を経験してきた中で、「故郷」をどのように捉えているかを映し出しています。パレスチナの芸術や文学がいかにして平和的な抵抗の手段となり、抑圧や占領に対抗する一つの形となっているのかについても探求します。メディアでは語られることのないパレスチナの別の側面をご紹介し、このシリーズがポジティブな視点で終わることを目指します。 ◇プログラム 11:00-11:05 開会 進行:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) 11:05-12:05 講演 講師:山本薫(慶應義塾大学) 12:05-12:30 質疑応答・ディスカッション オンラインQ&A担当:銭海英(明治大学) ◇講師紹介 山本薫 Kaoru_YAMAMOTO 慶應義塾大学総合政策学部准教授。東京外国語大学博士(文学)。専門はアラブ文学。パレスチナをはじめとするアラブの文学・映画・音楽などの研究・紹介を行う。近刊に「パレスチナ・ガザに響くラップ」島村一平編著『辺境のラッパーたち―立ち上がる「声の民族誌」』青土社、アダニーヤ・シブリー『とるに足りない細部』(翻訳)河出書房新社。 ◇講師からのメッセージ 2023年10月7日にガザ地区からイスラエル領内への奇襲が行われたことへの報復として、パレスチナ人へのジェノサイドが開始されてからもうすぐ1年になります。しかし、イスラエルによる攻撃はパレスチナ人の生命・財産に対するものにとどまりません。19世紀末に始まるユダヤ人のパレスチナへの組織的入植の目的は、ユダヤ人国家イスラエルを建設してパレスチナのアラブ人を追放するだけでなく、その存在の歴史的記憶を抹消することにもありました。そのためパレスチナ人の闘争は、自分たちの生命・財産を守り、正当な権利を回復するための政治的・軍事的・経済的・法的な闘いであるだけでなく、歴史と記憶をめぐる闘いでもあり、その点において文化はきわめて重要な役割を果たしてきたのです。本イベントでは、パレスチナ人が文化を通じて自分たちの歴史的存在とその人間的価値を証明してきた歩みをご紹介します。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/09/SGRACafe22ProgramV4.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/09/SGRA22poster-scaled.jpg ---------------------------------------------------------------- 【2】 第7回アジア未来会議INAF円卓会議報告 ◆齋藤光位「円卓会議『東アジア地域協力における朝鮮半島の統一と開発協力』報告」 2024年8月10日(土)にバンコクのチュラーロンコーン大学で開催され、11名の専門家が登壇した。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は東アジア経済協力の枠組みに入っていない状況だが、今後は東アジア地域協力の枠組に参加して総合的な経済開発を推進できるかという問題意識の下、現状認識と課題の整理を行い、実現性について議論した。 第1セッション「北朝鮮経済の現状と開発戦略および政策」は東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲氏が司会を務めた。 最初に韓国輸出入銀行・北韓開発センター研究員の姜宇哲氏が「北朝鮮経済に関する多面的分析」という問題提起を行った。北朝鮮の現状を把握するためには、韓国の推定資料、国際機関の調査資料、脱北者のインタビューなど様々な資料を多面的に分析する必要があるとして、経済成長、貿易、食料生産、分野データなどを分析。今後の開発協力の可能性を示唆し、北朝鮮に対する制裁は国民の人道的状況を悪化させるので国際社会は再考すべきと主張した。 新潟県立大学北東アジア研究所教授の三村光弘氏(INAF常任理事)は「朝鮮民主主義人民共和国の統一、対外政策の変化と今後の開発見通し」という問題提起を行った。大韓民国(韓国)との関係に対する認識が敵対国へと変化する一方で、北朝鮮がロシアとの「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名したことなど、ここ1年間の対外関係の変化に着目。北朝鮮は世界の多極化の進行を西側諸国とそれ以外の国々の対立の深化と捉えて「新冷戦」と表現しているが、この表現は、北朝鮮が膠着する米朝関係改善にすべての力量を投入するのではなく、新興国グループBRICSや国連加盟の発展途上国からなる「77ヶ国グループ」(G77、現在の加盟国は134)など、米国をメンバーとしない国際協力の枠組みを重要な協力対象としているようにみえる。北朝鮮メディアで使用される表現の分析から、北朝鮮はこの多極化について肯定的な立場であると述べた。今後、部分的な対外開放を行う可能性があるが、その際には海外直接投資の受け入れ制度の大枠については変更せず、対象を絞りながら進めていくのではないかと述べた。 指定討論では齋藤光位と柳学洙・九州市立大学准教授、川口智彦・日本大学准教授(INAF副理事長)、伊集院敦・日本経済研究センター首席研究員が発言した。 齋藤は北朝鮮が発表し国営企業の国家予算に動員する資金の増加率の推移に注目しながら、対朝制裁とコロナによる影響によって企業の生産活動が萎縮するなかで、平壌と地方の開発を進める資金の見通しを立てた要因の一つとしてロシアとの関係強化が考えられると述べた。柳氏は北朝鮮の経済開発戦略は一貫して「自力更生」の理念に基づいており、これを具現化するために「均等原則」、「近接原則」を推進してきたと述べ、北朝鮮の経済開発方式は、ほかの国が経験してきたパターンとは異なっている点を強調した。川口氏は一次資料を使用して、生産されている武器を挙げながら、経済開発の源泉として朝ロ関係の強化に伴い、対露ミサイル輸出が近年では活発化していると指摘した。伊集院氏が各発表者に対してそれぞれ質問した後、会場との質疑応答で活発な議論が展開された 第2セッション「周辺諸国と北朝鮮の経済関係と開発協力の可能性」は川口氏が司会を務めた。 李鋼哲氏は「北朝鮮の開発と日本・中国の経済支援と投資の可能性」という発表で、朝鮮半島の安定のカギは北朝鮮の国際社会への復帰とともに経済開発であり、北アジア地域諸国にとって非常に重要な課題であると強調。北朝鮮の経済開発において日本と中国は最も重要な役割を担っているとして、日本は2002年の日朝壌宣言過去の朝鮮半島に対する植民地支配の反省と経済的支援を取り上げた。また、中国は朝鮮戦争以来、現在も対北朝鮮経済協力の最大のプレーヤで、北朝鮮が本格的に改革・開放政策を進める場合にはアジア投資インフラ銀行(AIIB)からと中国企業からの投資がパイオニア的な役割を果たすことになると述べた。 伊集院氏は「東アジア地域協力における朝鮮半島の統一と開発協力」という発表で、東北アジアにリスクを軽減しながら経済関係を維持するという「デリスキング」の波が広がっており、その背景は米中の戦略競争の激化で同盟国との連携を軸に経済的強靭性の強化に注力し、先端技術管理などの経済安保政策やサプライチェーン協力などが柱になると分析。この地域は米中を軸とした経済安保の最前線に位置するため分断が深まるリスクが大きく、経済面のリスク・コミュニケーションや適切な競争管理も必要になると主張した。 指定討論では、エンクバヤル新潟県立大学教授(INAF副理事長)、朱永浩福島大学教授(INAF理事)、金崇培釜慶大学助教授、林泉忠東京大学特任研究員の4名が発言した。 エンクバヤル氏は、モンゴル経済はコロナ禍でもV字回復しているが、対外貿易の相手は中国とロシアで鉱業輸出に依存しているため、外的ショックに極めて脆弱であると指摘。朱氏は、国連の対北朝鮮制裁が継続し、コロナによって中朝経済関係は「停滞」しているが、中国にとって中・蒙・ロの経済回廊に朝鮮半島が加わることは東北アジア地域協力の推進に重要であり、そのためには中国東北部と北朝鮮の間の陸上輸送と日本海経由の海上輸送を結び付けるために日韓両国の関わりが不可欠であると強調した。 金氏は、日本は北朝鮮の核・ミサイル問題に対して唯一の被爆国家として核問題政策が必要であり、さらに日朝平壌宣言への回帰を行い、日米関係において同盟国家として米国を誘導し、米朝関係の改善に向けて動く必要があると述べた。林氏は、本円卓会議のキーワードの一つである「朝鮮半島の統一」問題に着目し、台湾海峡を挟んだ両岸の統一問題との比較を試みた。まず、南北朝鮮は長い間、互いに「民族の統一」を掲げてきたが、金正恩総書記は2023年12月に韓国を敵対国視し、南北統一を否定した。一方、方法こそ異なるが、両岸も同じく「国家統一」を1990年代初めまで互いに掲げていたにも関わらず、民主化と本土化の波を受け、台湾は次第に統一に対して否定的な立場に変わってきた。朝鮮半島も両岸も民族や国家の統一は、近い将来において望めないばかりか緊張関係が続いていくだろう、と述べた。会場との質疑応答では、自由闊達な議論が展開された。 最後に李所長が閉会の挨拶で、北朝鮮の経済開発および東北アジア地域協力問題に関して関係諸国の専門家たちが、様々な角度から議論できたことは、とても有意義な時間であったとし、東北アジア地域の平和と繁栄に向けて今後とも多面的に議論しよう締めくくった。 <齋藤光位(さいとう・みつえ)SAITO_Mitsue> 2021年3月福島大学経済経営学類経済学研究科(修士)卒業。2022年2月東北亜未来構想研究所(INAF)研究員。2023年3月に韓国の北韓大学院大学博士課程に入学。学会発表は「朝鮮民主主義人民共和国における「市場化」の概念の再考(韓国語)」(2023年9月、北東アジア学会第29回学術大会)、「金正恩時期における軽工業政策-食料品工業を中心に―」(2024年5月、北東アジア学会拡大関東地域研究会)他。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 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  • YUN Jaeun “Songs Echo across the Sea”

    ********************************************** SGRAかわらばん1030号(2024年9月12日) 【1】SGRAエッセイ:尹在彦「海を越え歌は響き渡る」 【2】国史対話エッセイ紹介:唐小兵「まぐれ当たりの歴史学習の道」 ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#773 ◆尹在彦「海を越え歌は響き渡る」 YouTubeのアルゴリズムは、個々人を特定の情報空間に閉じ込めるという問題点(いわゆる「フィルターバブル」)があるが、個人的にはそれほど抵抗はない。その閉じられた空間が「意外と広い」ということもあるからだ。YouTubeの「おすすめ」に表示されるものは「再生回数稼ぎ」のための低レベルの動画ばかりではなく、知識の面で有益な情報も少なくない。最近は有名YouTuberではない人の動画も表示されたりする。アルゴリズムも批判を意識し、それなりに進化しているのだ。 2024年6月26、27日、日韓の交流サイト(SNS)で同時に話題になる出来事があった。K-POP女子アイドル「NewJeans(ニュージーンズ)」が日本で初めての公式イベントを東京ドームで開催し、そこで披露した一曲が大きな関心を集めた。1980年代に一世を風靡した松田聖子が歌った「青い珊瑚礁」(1980年)だ。44年前の名曲が、K-POPアイドルによりカバーされたことで、日韓両国のファンたちが熱く反応した。数多くの動画が既にYouTubeにアップロードされていた。 NewJeansは2022年7月にデビューした女子5人のアイドルグループ。韓国だけでなく多国籍メンバーで構成されており、「青い珊瑚礁」で注目されたのはベトナム系オーストラリア人のメンバー(ハニ)だった。男子アイドルBTSと同じ事務所(「HYBE」)の傘下に属しているが、「レトロ」「イージーリスニング」を標榜した点から若年層だけでなく、やや上の年代までファン層を広げている。 NewJeansの日本上陸を受け、YouTubeで関連する動画や反応を調べてみた。ファンたちがアップしたとみられる「直撮」(韓国アイドル界隈で使われる用語で、「ファンが現場で撮った動画」)の動画が多数見られた。そこでYouTubeのアルゴリズムが新たな動画の存在を教えてくれた。日本人女性たちが韓国のテレビ番組で「青い珊瑚礁」を歌う動画だ。再生回数は既に100万回に迫っており、かなり注目されていることが分かるが、私にはなじみのない番組だった。 タイトルは「韓日歌王戦」(日本版は「日韓歌王戦」)。日韓それぞれのオーディションを勝ち抜いた14人が両国の「古き良き時代の歌」を披露し、競い合う番組だ。審査員として松崎しげるなど両国の大物歌手が出演していた。 YouTubeには「韓日歌王戦」で歌われた多くの名曲がアップロードされていた。最初は意識していなかったが、段々とある変化もしくは事実に気付かされた。これまで韓国のテレビ番組で「日本の歌」が「日本語」で堂々と歌われたことがなかったということだ。MBNは「総合編成チャンネル」で、ケーブルチャンネルだが地上波テレビ局と編成の面で大差はない(ニュースやバラエティー番組が放映できる)。放送に関係する法律などで日本の歌が禁止されているわけではないが、これまでは「暗黙のルール」がそれを阻んできた。今回、その見えないタブーの一部が崩れた。私はかつて同テレビ局の系列会社(新聞社)で働いていたので内部を取材したことがあるが、政府の(暗黙の)了解は必要だった。 一説によると「韓日歌王戦」で歌われた「青い珊瑚礁」は、NewJeansのプロデューサー(もしくは所属事務所の代表)の選曲の参考になったという。原曲になかった振り付けがそのままNewJeansのコンサートで取り入れられたのが根拠だ。「韓日歌王戦」動画のコメント欄も興味深い。歌を純粋に楽しむコメントが多く、そこに国境は見られない。この番組は放送時間帯視聴率1位を記録した。単純に日本の歌が韓国のテレビ局で歌われた以上に有意義な結果を残したのだ。日本側の出演者の一人は歌唱力が韓国で大きな話題になり、長きにわたった無名歌手としての人生が報われたということで、日本のフジテレビで取り上げられた。 同番組の人気を受け、続編「韓日トップテンショー」も放映中だ。最近は日本での「韓流の先駆け」とも呼ばれた桂銀淑が舞台に立ちヒット曲を日本語で歌った。コメント欄には昔の彼女の歌声を覚えている日本のファンたちの反応も少なくない。韓国では近年、日本のいわゆる「シティ・ポップ」が再発見され「はまった」という人も増えている。 コロナ禍が立ちはだかった両国間の文化交流は再び活発化している。メディア界では合作プロジェクトが続々とスタートした。少なくとも文化では「タブーなき享受」が長らく続くことを願う。 <尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jaeun> 立教大学平和・コミュニティ研究機構特別任用研究員、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所非常勤講師。2020年度渥美財団奨学生。新聞記者(韓国)を経て、2021年一橋大学法学研究科で博士号(法学)を取得。国際関係論及びメディア・ジャーナリズム研究を専門とし、最近はファクトチェック報道や、国際人権規範と制度化などに関心を持っている。 ---------------------------------------------------------------- 【2】国史対話エッセイ紹介 9月2日に配信した国史対話メールマガジン第57号のエッセイをご紹介します。 ◆唐小兵「まぐれ当たりの歴史学習の道―私は如何に新聞学から歴史研究へ切り替えたか」 私はずっと自分は史学界のマージナル・マンだと思っている。私の研究分野である現代中国思想文化史よび知識人史も、歴史研究に身を投じた過程も、主流あるいは一般的な正規教育・訓練によるものではかった。このようなマージナル・マン的なアイデンティティは、多少の焦慮と緊張をもたらすとは言、私に他者として二つあるいはそれ以上の学科の間を行き来し、互いに参照する可能性を広げてくれた。 私は2001年に理工学科を中心とする大学である湖南大学の人文社会学科系新聞専攻を卒業した。卒業後、私は当時大多数のクラスメートのように人気のある新聞メディア業界に就職せず、地方にある師範学院の新聞学科で教鞭を執り、中国新聞事業史および新聞取材学などの専門的な授業を担当していた。当時の私は、教鞭を執り、恋をしながら著名な大学の新聞学科の入学試験を受けるつもりであった。しかし、とある文章が私の運命を変えた。 大学卒業後、私はたびたび衡陽から長沙まで行って大学のクラスメートの会合に参加し、大学に残って行政の仕事をしている大学のクラスメート葉鉄橋氏が住んでいた大学の安アパートに遊びに行った。岳麓山に登ったり、夜食を楽しんだり、トランプ遊びをしたりするほか、よく長沙の定王台にある様々な本屋を巡った。ある日、私は湖南図書城(訳者註:本屋名)で偶然一冊の黒書(黒を基調としたカバーの書籍)『別の啓蒙』と出会った。著者は中国思想史と知識人史研究で著名な学者の許紀霖教授である。当時、私は許教授の学問と人生を理解できなかった。大学の4年間、私は文芸創作に熱中する典型的な文芸青年であり、先生の指導を受けなかったので、思想文化史や現代の知識人に対する関心はなかった。しかし、私はこの本の主題や品格に心惹かれた。 全文は下記リンクよりお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2024TangXiaobingEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方はSGRA事務局にご連絡ください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバー https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ◇購読登録ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。 [email protected] ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • KOYAMA Koki “Current Status and Prospects of Japanese Studies in Thailand”

    ********************************************** SGRAかわらばん1029号(2024年9月5日) 【1】AFC7円卓会議報告:香山恆毅「タイにおける日本研究の現状と展望」 【2】国史対話エッセイ紹介:安岡健一「歴史と私」 ********************************************** 【1】第7回アジア未来会議円卓会議報告 ◆香山恆毅「タイにおける日本研究の現状と展望」 2024年8月10日(土)午前9時から、チュラーロンコーン大学文学部にて開催された円卓会議では、タイにおける「日本語、日本語教育、日本文学、日本文化」に関する研究の特徴が報告された。タイで発表された学術論文のデータベースを基にしたものである。その後、これらの研究を後押しする二つの学術協会の役割、活動内容、研究の特徴の紹介があった。 まず、「日本語・日本語教育・日本文学」に関する研究の全体傾向について、チュラーロンコーン大学文学部教授のカノックワン先生から報告があった。(1)過去11年間(2012-2022年)にタイで発表された外国語・外国文学に関する論文の中で、日本語に関するものは350本あり、英語1077本、中国語682本に次いで、3番目に多い。(2)日本語教育分野の論文が多いこと、タイ語で書かれた論文が多いことなどが特徴。(3)2018-2019年は論文数が特に多い。この時期は国による大学教員昇進基準の改定時期と重なる。(4)2015年以降、日本語で書かれた論文が減少した。 「日本語および日本語教育」研究の現状については、タマサート大学教養学部教授のソムキアット先生から報告があった。(1)過去29年間(1994-2022年)にタイで発表されたこの分野の学術論文数は528本。(2)日本語教育に関する研究(教室活動、実践研究など)の割合は2012年頃までは増えていたが、その後は減る傾向にある。翻訳の研究は2008年頃から始まっている。(3)研究方法は、アンケートが最も多く、5年毎の平均で24-39%だが、客観的な方法(テスト、コーパスの利用)や、インタビューなども取り入れられるようになっており、今後も研究の質の向上が期待できる。 「日本文学」研究については、タマサート大学教養学部准教授のピヤヌット先生から報告があった。(1)過去29年間(同上)にタイで発表されたこの分野の論文および図書は152件。最も多いのは作品分析で、約9割を占めている。(2)対象作品の時代区分は、現代(関東大震災以降)が約4割、中世(鎌倉時代から安土桃山時代)が約2割を占めている。(3)現代文学研究が多い理由は日本語で比較的容易に読めることや、タイ語翻訳版が多いことなどが考えられる。中世文学研究が多いのは「仏教」に関係したテーマがあり、タイに仏教徒が多いことが考えられる。 学術協会の紹介では、最初にタイ国日本研究協会(JSAT)会長であるチュラーロンコーン大学文学部准教授のチョムナード先生から、「タイにおける日本の社会と文化研究の現状と課題―JSATの視点から」と題して報告があった。(1)タイの日本研究者の集まりは1980年代後半から始まり2006年に組織化、2011年に学会誌『jsn』を発刊、2013年に協会名をJSATに改名し、現在に至っている。(2)活動の目的は日本研究者同士の意見交換や研究成果の共有など。(3)活動内容は年次学術大会、ワークショップ、オンラインセミナーの開催や、年2回の学会誌刊行など。(4)日本の社会・文化研究の特徴は、現代に関する文献・資料研究が多いことや、フィールドワーク調査が少ないことなどである。 二つ目の学術協会の紹介では、タイ国日本語日本文化教師協会(JTAT)アドバイザーであり、元カセサート大学人文学部准教授のソイスダー先生から報告があった。(1)タイの日本語教師会は2003年に設立され、2009年にタイ国日本語日本文化教師協会となった。(2)活動目的は学術的な意見、教授資料、教授法や経験の共有など。(3)活動内容は、教師向けに年3回のセミナーや年2回の短期訪日研修などがある。学生向けには、ドラマコンテストや輪読会(ビブリオバトル)などを開催。(4)2024年には「第1回タイ国日本語教育国際シンポジウム」を開催し、基調講演で生成(ジェネラティブ)AI時代の言語教育を取り上げ、質的な教師の育成を支援している。 最後の質疑応答では、初めてタイを訪れた方が、バンコクの町中に日本語の看板があることを取り上げ、日本語教育の状況や教科書について質問。登壇者からは、大学では中上級レベルの市販教科書と自作教材を併用している、との回答があった。また、日本語学科がある高校もあり、国際交流基金バンコク日本文化センターが開発した教科書が主に使われ、高校卒業時に同基金などが運営する日本語能力試験(JLPT) N4レベル(基本的な日本語を理解できる)相当の内容を学んでいるとの説明があった。他にも日本の環境への取り組みに対する関心や、タイ国内外の学術協会との交流などについて質問があり、学際的、国際的な話題について活発に議論された。 当日の写真は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/09/AFC7RTReport-Japan-Studies-in-Thailand-LITE.pdf <香山恆毅(こうやま・こうき)KOYAMA_Koki> チェンマイ大学人文学部日本語講師。東京都立大学工学部建築工学科卒業。日本およびタイにて建築施工管理(1995-2011年)。チュラーロンコーン大学文学部修士課程外国語としての日本語コース修了(2015年)。 ---------------------------------------------------------------- 【2】国史対話エッセイ紹介 5月31日に配信した国史対話メールマガジン第57号のエッセイをご紹介します。 ◆安岡健一「歴史と私」 研究に関連する場での自己紹介に、いつもひと手間かかるのは、私の学位が農学博士だからだ。これは私が農学部の農業経済を学ぶコースに含まれている、農業史を研究する研究室の出身であることによる。日本に農学部はたくさんあるが、農業史を掲げた研究室は片手で数えられるほどしかない。そういう少し変わった経歴である。 文学部を卒業して大学院で農業史の研究室に来る人も中にはいるが、私の場合は学部時代から農学部に所属している。つまり、高校では理系を選択していたのだ。当時の日本で理系を選択すると、ほとんどの場合、中学校の社会科を終えた後は、高校一年生で世界史を学ぶのが生徒として歴史を学んだ最後となることを意味する。それ以外に歴史的なものへの関心といえば、中学生になったころに漫画の影響で明治維新に関心を持ち司馬遼太郎の作品を読んでいたくらいだった。それは歴史への関心というより、人間の生き方への関心に近いものだっただろう。また、私が生まれた場所は市街地で、新たな住民が多く住む場所だったので、昔ながらの共同性を通じて地域史に触れるといったこともほぼなかった。 近現代の文学を読むのは好きだったから文系に転換しようと思ったこともあったものの、物理や化学が面白かったのと、入試科目としての歴史の問題に目を通して、これはかなわないと思ってギブアップしたというのが実情だ。そんな自分が高校歴史教科書の一部を執筆することになり、人生はわからないものだなと思っている。 全文は下記リンクよりお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2024YasuokaEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方はSGRA事務局にご連絡ください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバー https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ◇購読登録ご希望の方はSGRA事務局( [email protected] )へご連絡ください。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Guo Lifu ”The 73rd SGRA Forum ’Palestine and the Wall between Us’ Report”

    ********************************************** SGRAかわらばん1028号(2024年8月30日) 【1】郭立夫「第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係とは?」報告」 【2】催事紹介:東北亞未来構想研究所(INAF)研究会のお知らせ 「欧州における移民問題および東アジアに対するインプリケーション」 ********************************************** 【1】郭立夫「第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係とは?」報告」 2024年6月25日、第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係とは?」が昭和女子大学で対面とオンラインのハイブリッド方式で開催されました。1月9日に開催されたSGRAカフェに続き、パレスチナ問題を取り上げたイベントは2回目です。ロシアによるウクライナ侵攻に続いて、イスラエルとパレスチナの衝突は長年保たれてきた世界平和を破壊する重大な出来事と見なされがちですが、私は「第二次世界大戦後の世界は平和である」というイメージ自体が誤りだと思います。パレスチナの住民を含む多くの人々が、常に戦争のリスクを抱えて不安の中で生活しています。 東アジアでも、冷戦によって台湾海峡や38度線を境とした緊張が消えることは一度もありませんでした。それにもかかわらず、第二次世界大戦や冷戦後、衝突の可能性が無視されるほど世界が平和であるというイメージは皮肉なほど強く存在します。「世界平和」というイメージが作り上げられてきたことを示しているのでしょう。このイメージは「衝突」や「戦争」を特定の地域や民族に結びつけ、「文明的かつ先進的で、民主的な」社会とは無縁なものとして描かれることで作られています。今回のフォーラムはまさにこのような文脈の中で、パレスチナで起きている問題は、「わたし」たちから遠く離れた「平和な民主世界」の外部にあるのではなく、常に「わたし」たちと関連していると訴えました。 フォーラムは、3つの報告と質疑応答で構成されました。明治大学特任講師のハディ・ハーニ氏が、パレスチナ問題を理解するための基礎知識を紹介。特にパレスチナ問題を取り上げる際には「誰がテロリストか」という問いかけがしばしば提起されるが、これがパレスチナで実際に起きている人権侵害や戦争暴力から議論の焦点をずらしてしまい、効果的でないと主張しました。 東京工業大学大学院生のウィアム・ヌマン氏は、ヨルダン川西岸やガザの植民地建築を事例に挙げ、建築がいかに政治的道具として抑圧や排除を強化するものになるかを論じました。公共空間は決して政治から離れたものではなく、排除や抑圧を強化する危険を常に抱えています。「わたし」たちと関連している例として、2021年の東京オリンピックを契機に渋谷区などで起きた街の高級化(gentrification)が、それまでの住人を排除することになり、ガザでの都市構造と同じ効果をもたらしていると解説しました。 最後に早稲田大学学部生の溝川貴己氏が、東京におけるパレスチナ解放運動の当事者として、東京での活動がどんなグループや運動と交差しているかを紹介しました。東京での活動が現地の多くの団体と実際に交差している様子は、フォーラムのテーマである「『わたし』との関係とは」を実例で示してくれました。 質疑応答では、発表者の3人が現場とオンラインからの質問に答えました。具体的には「パレスチナ(テロリスト)VSイスラエル(民主社会)」という二項対立の取り扱いや、日本人(特に大学生)がどのようにこれらの活動に関わるべきかというテーマが取り上げられました。 「テロリストVS民主社会」という二項対立について、発表者たちはパレスチナで起きている戦争暴力は単なる政治問題ではなく、正義の問題であるとの合意に達しました。特にヌマン氏は、正義の問題を政治問題として討論のテーマとすることに注意を喚起し、人権などの基本的な倫理的問題は、議論の余地がないものであるべきだと主張しました。 次に、日本の人々、特に大学生が政治的関心を失いつつある現状において、いかに多くの人々に運動に参加してもらうかという問題について、溝川氏は自身の経験を踏まえて、諦めずに活動を続けることの重要性を強調しました。政治的活動に頻繁に参加すると、「意識が高い」といったスティグマ(偏見や差別)を受ける危険があるものの、周囲に「意識が高い」人がいないと問題提起が困難になるため、継続的な参加が重要であると主張しました。 フォーラム後、パレスチナ活動家のアイダさんが手作りのパレスチナ料理を提供し、皆で一緒に食事しながら、さらに交流を深めました。 私は性的マイノリティを対象としたフェミニズム・クィア研究を専攻しており、フォーラムでも多くの感銘を受けました。この研究では「わたし(主体・主語)」というものがその理論を支える重要なツールです。この報告でもあえて自分の存在を消すことなく、「私は」から始まる文を書きました。その意味で、今回のテーマ「『わたし』との関係」も自明なものです。実際、クィア研究者のジュディス・バトラーも『戦争の枠組み』という本の中で、メディアがいかに「戦争/衝突」を文明社会の外部にあるものとして構築しながらも、テレビ画面を通してそれを視聴している人々に無限に近づけているかについて論じています。 さらに、イスラーム文化が同性愛を嫌悪するホモフォビックであるため、LGBTの権利を支持する民主国家がそれらの国に対して戦争を起こしても「正義」の一種であるという政治に対する批判もクィア・スタディーズの重要な柱の一つです。その意味で、溝川氏が報告したパレスチナ解放運動とクィア運動の連帯も不思議なものではありません。クィア運動は長年「人権」などの名義で行われてきましたが、それは近年強い揺り戻しを受けています。というのも、LGBTの人権を保護することが生まれ持った性別と性の認識が一致するシスジェンダー・異性愛者の人権を侵害するという議論が多く提起されるようになったからです。しかし、それは実際にはパレスチナ問題のように討論のテーマに扱われるべき「政治問題」ではなく、議論の余地がない「正義(Justice)」の問題であるという姿勢が重要なのではないかと思いました。 最後に、「壁」というメタファーについてお話しします。フォーラムではパレスチナ問題を議論する「壁」を、タブーと言論の自由への抑圧および物理的な分離の壁の象徴として扱っていますが、私はそれが実はさらに豊富な意味と政治性を秘めていると思います。「壁」の辺境という意味と「皮膚」との類似性を強調したいです。「壁」も「皮膚」も外部と内部を分離する機能および、外部から内部を守る機能の両方を備えています。そして両方ともある「主体(身体)」の辺境を示すものです。それはもちろん拒否や保護の姿勢を含みますが、接触、とりわけ接触することによる快楽(性的なものも含む)、あるいは包まれる安心感が存在する場所にもなります。壁/皮膚が存在することとは、痛みと快楽が同時に存在することを意味しています。これまでパレスチナ問題に対して議論できない、わからない「壁」を感じているということは、心の中のその壁に向き合えば、まさにその壁から接触/連帯が生じうる可能性があることを意味しています。 当日の写真 https://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2024/19575/ アンケート集計 https://00m.in/xmMzr <郭立夫(グオ・リフ)Guo Lifu> 2012年から北京LGBTセンターや北京クィア映画祭などの活動に参加し、2024年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻で博士号を取得し、現在筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局助教。専門領域はフェミニズム・クィアスタディーズ、地域研究。 研究論文に、「中国における包括的性教育の推進と反動:『珍愛生命:小学生性健康教育読本』を事例に」小浜正子、板橋暁子編『東アジアの家族とセクシュアリティ:規範と逸脱』(2022年)や「終わるエイズ、健康な中国:China_AIDS_Walkを事例に中国におけるゲイ・エイズ運動を再考する」『女性学』vol.28,12-33(2020年)など。 ---------------------------------------------------------------- 【2】催事紹介:東北亞未来構想研究所(INAF)研究会のお知らせ SGRA会員で一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。興味のある方は直接お申込みください。 ◆INAF研究会 [テーマ]欧州における移民問題および東アジアに対するインプリケーション [日 時]2024年9月8日(日)17:00~20:00時(オンライン、zoom) 日本や韓国、中国や台湾の少子高齢化問題が深刻になりつつある状況の中で、この問題への対応策そして移民問題が重要な課題としてクローズアップして来ております。 そこで、今度の研究会ではお二人の専門家先生をお招きして、欧州における移民問題を議論しながら、東アジアではその経験と教訓を如何に活かすべきか、という問題意識で研究会を開催したいと思います。奮ってご参加するようお願いします。 [プログラム] 講演1:楠根重和・石川EU協会会長・金沢大学名誉教授(30分) テーマ:移民、難民、少子化は人類の問題 講演2:羽場久美子・INAF副理事長・青山学院大学名誉教授(30分) テーマ:移民・難民問題―欧州ポピュリズムの根源と日本への教訓 講演3:李 鋼哲・INAF所長(20分) テーマ:日中韓台の移民政策の比較:現状と課題 *休憩を挟んで質疑応答と自由討論 司会:陳 柏宇・INAF常任理事・新潟県立大学准教授 詳細・参加方法はホームページをご覧ください。 https://inaf.or.jp/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 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  • The Seventh Asia Future Conference Report

    ********************************************** SGRAかわらばん1027号(2024年8月22日) ********************************************** 第7回アジア未来会議報告 2024年8月9日(金)~13日(火)、バンコク市の中心に位置するチュラーロンコーン大学にて、21ヵ国から346名の登録参加者を得て、第7回アジア未来会議が開催されました。総合テーマは「再生と再会(Revitalization_and_Reconnection)」。「100年に一度とも言われるパンデミック後のアジア、地球社会は変化の時代に入った。社会、経済、文化、教育など多方面における大きな変化に対して私たちはどのように向き合い、乗り越えて行けばよいのだろうか。国際的・学際的な若い研究者たちが集い、共に語る、この「再会」の場が新しいアジア、地球社会の未来を「再生」させる源ともなることを期待しつつ、課題解決の糸口を模索すること」を目標に、基調講演とオープンフォーラム、円卓会議、そして数多くの研究論文発表が行われ、広範な領域における課題に取り組む国際的かつ学際的な議論が繰り広げられました。 10日(土)午前9時、同大学文学部の教室で、渥美フェローが企画実施を担当する8つの円卓会議が始まりました。 1)日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性「東アジアの『国史』と東南アジア」(日中韓同時通訳) 2)チュラーロンコーン大学日本語講座セッション「タイにおける日本研究の現状と展望」(日本語) 3)Exploring_the_Impact_of_Generative_AI_on_Education_and_Research(英語) 4)Asian_Cultural_Dialogues “The_Limits_and_Possibilities_of_Freedom” (英語) 5)Animal_Release_Problems_in_Asia: Harm_caused_by_introduction_of_animals_into_natural_environments, with_special_reference_to_fish(英語) 6)ASEAN_Centrality_in_Turbulent_East_Asia(英語) 7)INAFセッション「東アジア地域協力における朝鮮半島の統一と開発協力」(日本語) 8)モンゴルと中央アジアにおける文化と資源の越境(日本語) 午後3時30分からクラウンプラザホテルで開会式が行われました。最初に明石康大会会長の開会宣言があり、同大学文学部スラディート・チョティウドムパン学部長から歓迎挨拶、在タイ日本大使の大鷹正人様と在タイ韓国大使の朴容民様からご祝辞をいただきました。引き続き、渥美直紀・渥美国際交流財団理事長より共催、協賛、参会のお礼と基調講演の講師紹介がありました。 基調講演では、社会起業家でありバンコクで最年少の副知事であるサノン・ワンスランブーン氏が多くのスライドを使って「バンコクと私たちの未来」について熱く語ってくださいました。官僚組織の簡素化、デジタル化を推進しながらも「人々が中心」「動脈から毛細血管へ」と次々に魅力的な改革を紹介して400人の聴衆を魅了しました。 引き続き開催されたオープンフォーラム「アジアの巨大都市と未来への挑戦」では、建築・都市開発の専門家によって、巨大都市(メガシティー)の全体像とバンコク、マニラ、そしてインドネシアの都市マカッサルの現状と未来への挑戦についての報告がありました。 その後、会場でウェルカムパーティーが開催され、参加者はタイ料理と民族音楽、人形劇を楽しみました。 第7回アジア未来会議のプログラムは下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/conference-program/ 11日(日)午前9時から、同大学の会場で53セッションの分科会が行われ、198本の論文発表が行われました。アジア未来会議は国際的かつ学際的なアプローチを目指しており、各セッションは発表者が投稿時に選んだ「平和」「環境」「イノベーション」などのトピックに基づいてグループ化され、学術学会とは趣を異にした多角的で活発な議論が展開されました。 セッションごとに2名の座長の推薦により優秀発表賞が選ばれました。優秀発表賞の受賞者リストは下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/files/2024/08/AFC7BestPresentations.pdf 優秀論文は学術委員会によって事前に選考されました。2023年9月20日までに発表要旨、3月31日までにフルペーパーがオンライン投稿された94本の論文を10グループに分け、延べ42名の審査員が査読しました。ひとつのグループを6名の審査員が、 (1)論文が会議のテーマ「再生と再会」と適合しているか、(2)分かりやすく構成され、理解しやすいか、(3)論点が明確に提示され説得力があるか、(4)課題への取り組み方に創造性があるか、(5)国際性があるか、(6)学際性があるか、という指針に基づいて審査し、各審査員は、各グループ9~10本の論文から2本を推薦し、集計の結果、上位21本を優秀論文と決定しました。優秀論文リストは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/files/2024/06/AFC7-BP.pdf クロージングパーティーは、午後6時30分からマンダリンホテルで開催されました。2013年にバンコクで開かれた第1回アジア未来会議のクロージングパーティーでも司会を務めた渥美フェロー2名の司会で進められ、優秀賞の授賞式が行われました。今回の受賞者21名だけでなく、コロナ禍のために対面で開催できなかった第6回の受賞者も含めて優秀論文の著者40名が登壇し、明石大会会長から賞状が手渡されました。続いて、優秀発表賞52名が表彰されました。 最後に第8回アジア未来会議の開催場所が発表され、ホストである東北学院大学(仙台市)の大西晴樹学長による招待のスピーチとビデオによる大学案内がありました。 12日(月)、参加者はそれぞれ、アユタヤ観光ツアー、寺院と王宮ツアー、水上マーケットそしてタイ料理教室等に参加しました。 第7回アジア未来会議「再生と再会」は、(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)主催、チュラーロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座の共催、在タイ日本大使館、国際交流基金の後援、(公財)高橋産業経済研究財団と(一社)東京倶楽部からの助成、日本と在タイ日系企業からのご協賛をいただきました。同大学日本語講座では実行委員会を組織し、当日はたくさんの学生さんにお手伝いいただきました。また、タイ鹿島の皆さんにはタイ日系企業への募金とVIPサポートをしていただきました。 主催・協力・賛助者リストは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/ 運営にあたっては、渥美フェローを中心に実行委員会、学術委員会が組織され、フォーラムの企画からホームページの維持管理、優秀賞の選考、撮影まであらゆる業務を担当しました。特にタイ出身の渥美フェローが企画の最初から最後まで大活躍でした。 400名の参加者の皆さん、開催のためにご支援くださった皆さん、さまざまな面でボランティアとしてご協力くださった皆さんのおかげで、第7回アジア未来会議を和やかかつ賑やかに、成功裡に実施することができましたことを、心より感謝申し上げます。 アジア未来会議は国際的かつ学際的なアプローチを基本として、グローバル化に伴う様々な問題を科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化など、社会のあらゆる次元において多面的に検討する場を提供することを目指しています。SGRA会員だけでなく、日本に留学し現在世界各地の大学等で教鞭をとっている研究者、その学生、そして日本に興味のある若手・中堅の研究者が一堂に集まり、知識・情報・意見・文化等の交流・発表の場を提供するために、趣旨に賛同してくださる諸機関のご支援とご協力を得て開催するものです。 第8回アジア未来会議「空間と距離:こえる、縮める、つくる」は、2026年8月25日(火)から29日(土)まで、東北学院大学と共催で仙台市で開催します。皆様のご支援、ご協力、そして何よりもご参加をお待ちしています。 第7回アジア未来会議の写真(ハイライト) https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/afc7-highlight-photos/ 第7回アジア未来会議のフィードバック集計 https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/files/2024/08/AFC7FeedbackReportV3.pdf 第7回アジア未来会議報告(写真入り)日本語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/files/2024/08/JAFC7Report.pdf The_7th_Asia_Future_Conference_Report (English) https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/files/2024/08/EAFC7Report.pdf 第8回アジア未来会議(日本、仙台市)案内 https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/files/2024/08/AFC8ChirashiLite.pdf (文責:SGRA代表・アジア未来会議実行委員長 今西淳子) ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • JIA Haitao “Dramatization of the Novel ‘Blossoms Shanghai’”

    ********************************************** SGRAかわらばん1026号(2024年8月2日) 【1】賈海涛「小説『繁花』のドラマ化:虚無から主旋律の「大きな物語」へ」 【2】催事紹介:2025年第14回村上春樹国際シンポジウム発表者募集のお知らせ 【3】第9回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性「東アジアの『国史』と東南アジア」へのお誘い(最終案内) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#772 ◆賈海涛「小説『繁花』のドラマ化:虚無から主旋律の「大きな物語」へ」 金宇澄の長編小説『繁花』は学部4年生の頃から研究対象としてきたもので、昨年提出した博士論文の中でも一章を割いてこの作品を論じた。ここ数年の中で上海語の方言語彙を取り入れた有数の小説であるだけでなく、戯曲・舞台劇・ラジオやテレビドラマなど様々な様式に改編され、広く注目されている文学作品でもある。金宇澄自身は絵を描くことが好きで、小説の中に多くの手描きのイラストを取り入れ、近年は各地で個展を開き、画集を出版するなど、すでに画家と言えるほどになっている。 2024年1月、ウォン・カーウァイ監督のドラマ『繁花』が中国大手の動画共有プラットフォームであるテンセントビデオで配信され、大きな反響を呼んだ。近年中国本土で高品質のドラマが非常に少ない現状で、その質と影響力は否定できない。ただし、『繁花』の「素晴らしさ」は、監督の一貫した高水準の撮影によるものであり、原作の物語を上手く翻案した「素晴らしさ」ではなかった。ドラマが配信された後、原作の研究者としてレビュー記事を執筆しようと考えたが、ドラマの内容は原作の物語をほとんど踏まえず、人物設定や背景の一部を借りただけで、全く新しい物語とも言えるので見送った。 原作の『繁花』は、1960年代から70年代の文化大革命期、そして80年代以降の経済成長の時代という二重のタイムラインで交互に語られる。特に文化大革命期の物語が高く評価された。上海で育った主人公のひとりである少年時代の阿宝はブルジョア階級家族の出身で、旧フランス租界にあった西洋風の家屋に住んでいた。文革の階級批判によって家財が没収され、幼なじみの女友達も家政婦も姿を消した。家族は上海近郊の労働者階級向けの団地に強制的に引っ越しさせられ、プライバシーのない生活を余儀なくされた。その経験は後に貿易に携わる阿宝の虚無的な恋愛観や人生観に大きな影響を与え、80年代の物語における彼の言動を理解する上で不可欠な背景といえるだろう。 しかし、ドラマ『繁花』は文革期のタイムラインがほぼ削除され、阿宝は単に経済成長期の発展を追い風に対外貿易で最初の資金を稼ぎ、成功して株式投資に進出する商人というルーツがない人物像として描かれている。この人物像の背後には、中国の改革開放政策や90年代の上海浦東開発政策により、中国社会全体が急速な発展を迎えようとした物語が含まれている。このような「大きな物語」へ賛歌を捧げる傾向を強く感じてしまう。これは90年代というタイムラインが具体的な歴史事件や背景を意図的に隠しながら、登場人物たちが食事会をする場面を次々と描き、物語の筋が不明瞭なまま虚無的な終わりを迎える原作の流れとは大きく異なっている。 小説のドラマ化では、必ずしも原作の物語を忠実に再現するわけではない。しかし、原作で最も評価の高い部分が削除され、核心となる虚無感が国家発展を背景にした物語に変えられてしまうと、そのドラマは「全く新しい作品」として認識されていると言ってもよい。ドラマ『繁花』のような高品質な作品は稀にしか見られないが、中国経済の発展と社会の進歩を伝えようとする公式の「主旋律」を謳うものは、決して稀なものではない。 <賈海涛(か・かいとう)JIA Haitao> 一橋大学言語社会研究科博士課程修了。博士(学術)。神奈川大学外国語学部中国語学科外国人特任助教、東京工業大学非常勤講師、上海大学(東京校)非常勤講師、2023年度渥美奨学生。人文系ポッドキャストの運営者。研究分野は中国現代文学、文学言語で、主な論文に「方言文学における「叙言分離体」――五四時期の文学言語の変容に関する議論を中心に」『中国:社会と文化』(37)などがある。 ---------------------------------------------------------------- 【2】催事紹介:2025年第14回村上春樹国際シンポジウム発表者募集のお知らせ 台湾淡江大学の曽秋桂先生から、2025年7月に京都大学で開催する第14回村上春樹国際シンポジウムの発表者募集のお知らせをいただきましたのでご紹介します。 主題:村上春樹文学における「パートナーシップ」(PARTNERSHIP) 募集内容:各自の専門領域の角度から上述の主題あるいは相関主題の未発表の①学術論文②教育・研究報告。発表は一人一篇とします。二重投稿や既発表の再投稿はご遠慮ください。 会場:京都大学・稲盛財団記念館 *予定* 日時:2025年7月5日(土)・7月6日(日)*予定* 使用語言:中国語、英語、日本語の使用可能(基本的には日本語を共通語とする。) 応募締め切り:2024年9月15日(日) 論文締め切り:2025年6月8日(日) 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://00m.in/kyrJe ---------------------------------------------------------------- 【3】第9回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(最終案内) 下記の通り第9回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性を開催いたします。参加ご希望の方は、必ず事前に参加登録をお願いします。オンラインで参加の場合は、一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「東アジアの『国史』と東南アジア」 日時: 2024年8月10日(土)9:00~12:30(タイ時間)11:00~14:30(日本時間) 2024年8月11日(日)9:00~15:30(タイ時間)11:00~17:30(日本時間) 会場:チュラーロンコーン大学(タイ国バンコク市)及びオンライン(Zoomウェビナー) 言語:日中韓3言語同時通訳付き 主催:日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性実行委員会 共催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 助成:東京倶楽部 ※参加申込(会場参加の方もオンライン参加の方も参加登録をお願いします) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_8k7udrxcSU2qA4VWEuR0Sw#/registration (注)会場参加の方は第7回アジア未来会議へも参加していただくことになります。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/ お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) 開催趣旨 「国史たちの対話」企画は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、三国間に存在する歴史認識問題の克服に知恵を提供することを目的に対話を重ねてきた。第1回で日中韓各国の国史研究と歴史教育の状況を確認することからスタートし、その後13世紀から時代を下りながらテーマを設け、対話を深めてきた。新型コロナ下でもオンラインでの対話を実施し、その特性を考慮して、歴史学を取り巻くタイムリーなテーマを取り上げてきた。 昨年は対面型での再開が可能となったことを受け、「国史たちの対話」企画当時から構想されていた、20世紀の戦争と植民地支配をめぐる国民の歴史認識をテーマに掲げた。多様な切り口から豊かな対話がなされ、「国史たちの対話」企画の目標の一つが達成された。今後はこれまでの対話で培った日中韓の国史研究者のネットワークをいかに発展させていくか、またそのためにどのような方針で対話を継続していくかが課題となるだろう。 こうした新たな段階を迎えて、第9回となる今回は、開催地にちなみ、「東南アジア」と各国の国史の関係をテーマとして掲げた。日本・中国・韓国における国史研究は、過去から現在に至るまで、なぜ、どのように、東南アジアに注目してきたのだろうか。過去の様々な段階で、様々な政治、経済、文化における交流や「進出」があった。それらは政府間の関係であったり、それにとどまらない人やモノの移動であったりもした。こうした諸関係や、それらへの関心のあり方は、各国ではかなり事情が異なってきた。こうした直接・間接の関係の解明に加え、比較的条件の近い事例として、自国の歩みとの比較も行われてきた。そもそも「東南アジア」という枠組み自体も、国民国家や「東アジア」といった枠組みと同様、世界の激動のなかで生み出されたものであり、歴史学の考察対象となってきた。 本シンポジウムでは、各国の気鋭の論者により、過去の研究動向と最先端の成果が紹介される。これらの研究は、どのような社会的・歴史的な背景のもとで進められてきたのか。こうした手法・視座を用いることで、自国史にいかなる影響があり、また今後はどのような展望が描かれるのか。議論と対話を通じて3カ国の国史の対話を、より多元的な文脈のうちに位置づけ、さらに開いたものとし、発展の方向性をも考える機会としたい。 ■プログラム 8月10日(土)9:00~12:30(タイ時間)、11:00~14:30(日本時間) 【第1セッション(9:00-10:30) 司会:劉傑(早稲田大学)】 開会挨拶:三谷博(東京大学名誉教授)、趙珖(高麗大学名誉教授) 基調講演:楊奎松(北京大学・華東師範大学) 「ポストコロニアル時代の『ナショナリズム』衝突の原因をめぐる考察―毛沢東時代の領土紛争に関する戦略の変化を手掛かりに」 【第2セッション(11:00-12:30) 司会:南基正(ソウル大学)】 発表: タンシンマンコン・パッタジット(東京大学)「『竹の外交論』における大国関係と小国意識」 吉田ますみ(三井文庫)「日本近代史と東南アジア―1930年代の評価をめぐって―」 尹大栄(ソウル大学)「韓国における東南アジア史研究」 高艷傑(厦門大学)「華僑問題と外交:1959年のインドネシア華人排斥に対する中国政府の対応」 8月11日(日)9:00~15:30(タイ時間)、11:00~17:30(日本時間) 【第3セッション(9:00-10:30) 司会:彭浩(大阪公立大学)】 指定討論と自由討論 討論者: 【韓国】鄭栽賢(木浦大学)、韓成敏(高麗大学) 【日本】佐藤雄基(立教大学)、平山昇(神奈川大学) 【中国】鄭潔西(温州大学)、鄭成(兵庫県立大学) 【第4セッション(11:00-12:30) 司会:鄭淳一(高麗大学)】 自由討論 討論まとめ:劉傑(早稲田大学) 【第5セッション(14:00-15:30) 司会:塩出浩之(京都大学)】 国史対話のこれから 閉会挨拶:宋志勇 ※同時通訳 日本語⇔中国語:丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学) 日本語⇔韓国語:李ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学) 中国語⇔韓国語:金丹実(フリーランス)、朴賢(京都大学) ※詳細は下記リンクをご参照ください。 ・プロジェクト概要 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/03/J_Kokushi9_ProjectPlan.pdf ・ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/06/J_SGRAForum74LITE.png ・中国語版ウェブサイト https://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2024/06/11/kokushi9/ ・韓国語版ウェブサイト https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2024/06/11/kokushi9/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • SIM Minseop “A Letter Reflecting on My Service and Dedicated to All Who have Supported Me”

    ※上手く配信できなかったため7月18日号を再配信します。 ********************************************** SGRAかわらばん1025号(2024年7月18日) 【1】シム・ミンソプ「私の奉仕活動を振り返り、私を支えてくれた皆様へ捧げる書簡」 【2】第9回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性「東アジアの『国史』と東南アジア」へのお誘い(再送) ********************************************** 【1】シム・ミンソプ「私の奉仕活動を振り返り、私を支えてくれた皆様へ捧げる書簡」 窓を通り抜ける風の音が聞こえるほど静かな夜明け。日本では渥美国際交流財団の30周年イベントがこの時間帯に行われているだろう。私は小さな照明と温かいお茶を親しみながら、英国で、この1年間を振り返ろうとこの文を書いている。最大のイベントに参加できず残念でならないが... 2023年3月の真夜中過ぎ、眠りにつこうとしたその時、メール通知音で目が覚めた。 「トルコ地震の被災地にスタッフとして参加できれば連絡ください」 2023年の新年、始まりのドキドキ感に満ちていた2月、トルコとシリアは大地震に襲われた。 世界中から救援活動と支援の手がトルコに向かっていた。少しずつ温かい春の気配が冬の名残を追い払いつつある時期、家族を残し英国へ向かった。いつも憂鬱だと感じる英国の天候は、銀色の海に静かに浮かぶ街のように深い霧に覆われていた。私を待つチームは紅潮した顔で、突然の準備に緊張感が漂っていたが、久しぶりの再会を喜んでいる様子だった。長い移動の疲れを癒す余裕もなく我々はトルコに向かった。 “惨状だった。これまでの救援活動の現場とは比べものにならないほど惨かった” 現場を確認し、本格的な活動に備えて救援物資の調整のため少し離れた補給所で活動を始めた。本当に何も考えられないほど忙しい日々が続いた。ほんの少し目をつぶって仮眠だけでも取ろうとしたその時、周りで騒々しい声や悲鳴が聞こえ、血を流しながら倒れる仲間の姿が見えた。救援物資を強奪する現地の人々で大混乱になり、私たちは呆然とただ見守ることしかできなかった。 “私たちの奉仕活動はこのような人々のためだったのか。私たちの活動の意味は一体どこにあるのか” 答えを見出せないまま活動を終えようとしていた頃、団体からまた別の連絡があり、団体の配慮と支援のお陰でガーナに向かった。私と妻によく懐いていた子どもが、私と妻に会いたがっているという。事故で、もう少しでこの世を去らねばならないかもしれないという悲しい知らせだった...私は疲れ切った体で飛行機に乗り、何も考えずガーナに向かった。残念ながら体と心は疲労の極みにあった。しかし到着して、私の心はすぐに罪悪感に襲われ、涙が溢れとまらなかった。その小さな手には、私たちの団体の名前が書かれた読めない手紙と、私と撮った写真が握りしめられていたからだ。 “この小さな子供にとって、私は親友であり、生きる希望だったのではないか” 「悪かった、遅くなって。もしかしたら私は君にとって人生の全てだったかもしれないのに、ただすれ違う一時の出会いだと思ってしまい、自分の疲れた心を優先した。本当にごめんなさい」ただただ涙を流した。数日後、その子はこの世を去った。私は一緒に掘った井戸のそばに佇んで、私の真心が届くようにと祈った。 日常に戻った私は、他の皆と同じように論文執筆に集中し、日々を過ごしている。日常の流れに身を任せ、無気力になっていた私にとって、財団への参加は単なる義務だったかもしれない。しかし、参加のための準備をしている最中、鏡を見ると、いつの間にか参加への期待感で顔がほころんでいた。久しぶりの笑顔だ。1度、2度、参加が重なることで、徐々に前向きに変わっていく自分が新鮮に感じられ、活動中の日々での仲間が、私にとって次第に大切な人々と感じられるようになっていった。 私の心の変化を、財団でもすぐに分かったようだ。 「顔が随分明るくなりましたね」と、常務理事の今西さんが気づいてくださった。 空虚だった心と疲れた心を黙々と支えてくれたのが、今年の私にとっての大きな変化だった財団の存在だと思う。私の姿をただ応援し励ましてくれ、私の帰るべき場所となってくれた財団があったからこそ、自分の道を歩むことができた。 世の中が変わっていく時、共に自分自身もそのような社会と似て変わってきたのではないか。今の自分に失望し、言い訳ばかりしていた。今までは過ぎ去る時の中で、この世に生を受けた意味への答えは見出せなかったが、やっとそれを見つけた気がする。 「現場で私を必要とする人と共に生きていこう」 「国境なき医師団」での活動をより躊躇なく遂行できるようしっかりと支えてくれる渥美財団があることで、私は自分の人生の方向を決めることができた。人生への答えを見出すべく、ずっと1人で歩んできたと思っていたが、結局、だれかと共に歩むことでこそ真の意味を見出せることが、今やっと分かった。この発見が遅くなったことについての後悔よりも、感謝の気持ちが大きくなっている。 これから英国に戻り、研究員としての計画に取り組み、それが終わり次第また現場に戻ろうと思う。これが私の道だと信じて、いつか過ぎ去った時の中で答えを見出せなかったとき、誰かが「正しい道を1人で歩んできたか」と訊ねれば、答えられるだろう。「共に歩み、私を支えてくれた人がいる」と。そして、今までの過去に後悔はないと。 歩んできた道が善き道であるよう、そしてまたいつか善き影響力を及ぼすことができたらと願う。皆とこれから別の道を歩んでいくことになるかもしれないし、アカデミズムから遠のくこともあるかもしれない。それでも、皆の活動を遠くからでも聞き、知ることができれば、再び立ち上がる力を得られるだろう。 どんな私であっても財団を訪ねると、喜んで迎えてくれるという確信ができた。そしてこの確信は財団が私にくれたものだ。これからの私の進む道が財団への恩返しとなっていればと願う。 用意しておいたお茶が冷めていく今、この手紙を締めくくろうとしている。書き始めた時は名残惜しい気持ちでいっぱいだったが、30周年イベントでの同期の写真が送られてきて、皆の心が私に届いた今、再び明るい笑顔を浮かべてこの手紙を締めくくることができる。 静かでいつもより冷たい空気が漂っていた銀色の街ロンドンは、徐々に昇る陽ざしと共に金色に染まっていく。 「後輩たちに、私たちが過ごした暖かさに満ちたこの場所を譲る時が来た。皆に今のこの金色の光のように明るい未来が共にあることを願って...」 <シム・ミンソプ SIM_Minseop> ロンドン大学衛生熱帯医学大学院熱帯疾病研究所特別訪問研究員。一橋大学大学院社会研究科歴史専攻博士課程満期退学。東京大学論文博士修了予定。韓国国家記録院海外史料調査委員、韓国空軍士官学校特性化専門研究室?軍事人文研究室郊外研究室研究員、朝鮮史研究会幹事、日本歴史学協会若手研究者問題特別委員。国境なき医師団ヘルスプロモーターとして、現在ウガンダで活動中。 ---------------------------------------------------------------- 【2】第9回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(再送) 下記の通り第9回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性を開催いたします。参加ご希望の方は、必ず事前に参加登録をお願いします。オンラインで参加の場合は、一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「東アジアの『国史』と東南アジア」 日時: 2024年8月10日(土)9:00~12:30(タイ時間)11:00~14:30(日本時間) 2024年8月11日(日)9:00~15:30(タイ時間)11:00~17:30(日本時間) 会場:チュラーロンコーン大学(タイ国バンコク市)及びオンライン(Zoomウェビナー) 言語:日中韓3言語同時通訳付き 主催:日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性実行委員会 共催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 助成:東京倶楽部 ※参加申込(会場参加の方もオンライン参加の方も参加登録をお願いします) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_8k7udrxcSU2qA4VWEuR0Sw#/registration (注)会場参加の方は第7回アジア未来会議へも参加していただくことになります。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2024/ お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) 開催趣旨 「国史たちの対話」企画は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、三国間に存在する歴史認識問題の克服に知恵を提供することを目的に対話を重ねてきた。第1回で日中韓各国の国史研究と歴史教育の状況を確認することからスタートし、その後13世紀から時代を下りながらテーマを設け、対話を深めてきた。新型コロナ下でもオンラインでの対話を実施し、その特性を考慮して、歴史学を取り巻くタイムリーなテーマを取り上げてきた。 昨年は対面型での再開が可能となったことを受け、「国史たちの対話」企画当時から構想されていた、20世紀の戦争と植民地支配をめぐる国民の歴史認識をテーマに掲げた。多様な切り口から豊かな対話がなされ、「国史たちの対話」企画の目標の一つが達成された。今後はこれまでの対話で培った日中韓の国史研究者のネットワークをいかに発展させていくか、またそのためにどのような方針で対話を継続していくかが課題となるだろう。 こうした新たな段階を迎えて、第9回となる今回は、開催地にちなみ、「東南アジア」と各国の国史の関係をテーマとして掲げた。日本・中国・韓国における国史研究は、過去から現在に至るまで、なぜ、どのように、東南アジアに注目してきたのだろうか。過去の様々な段階で、様々な政治、経済、文化における交流や「進出」があった。それらは政府間の関係であったり、それにとどまらない人やモノの移動であったりもした。こうした諸関係や、それらへの関心のあり方は、各国ではかなり事情が異なってきた。こうした直接・間接の関係の解明に加え、比較的条件の近い事例として、自国の歩みとの比較も行われてきた。そもそも「東南アジア」という枠組み自体も、国民国家や「東アジア」といった枠組みと同様、世界の激動のなかで生み出されたものであり、歴史学の考察対象となってきた。 本シンポジウムでは、各国の気鋭の論者により、過去の研究動向と最先端の成果が紹介される。これらの研究は、どのような社会的・歴史的な背景のもとで進められてきたのか。こうした手法・視座を用いることで、自国史にいかなる影響があり、また今後はどのような展望が描かれるのか。議論と対話を通じて3カ国の国史の対話を、より多元的な文脈のうちに位置づけ、さらに開いたものとし、発展の方向性をも考える機会としたい。 ■プログラム 8月10日(土)9:00~12:30(タイ時間)、11:00~14:30(日本時間) 【第1セッション(9:00-10:30) 司会:劉傑(早稲田大学)】 開会挨拶:三谷博(東京大学名誉教授)、趙珖(高麗大学名誉教授) 基調講演:楊奎松(北京大学・華東師範大学) 「ポストコロニアル時代の『ナショナリズム』衝突の原因をめぐる考察―毛沢東時代の領土紛争に関する戦略の変化を手掛かりに」 【第2セッション(11:00-12:30) 司会:南基正(ソウル大学)】 発表: タンシンマンコン・パッタジット(東京大学)「『竹の外交論』における大国関係と小国意識」 吉田ますみ(三井文庫)「日本近代史と東南アジア―1930年代の評価をめぐって―」 尹大栄(ソウル大学)「韓国における東南アジア史研究」 高艷傑(厦門大学)「華僑問題と外交:1959年のインドネシア華人排斥に対する中国政府の対応」 8月11日(日)9:00~15:30(タイ時間)、11:00~17:30(日本時間) 【第3セッション(9:00-10:30) 司会:彭浩(大阪公立大学)】 指定討論と自由討論 討論者: 【韓国】鄭栽賢(木浦大学)、韓成敏(高麗大学) 【日本】佐藤雄基(立教大学)、平山昇(神奈川大学) 【中国】鄭潔西(温州大学)、鄭成(兵庫県立大学) 【第4セッション(11:00-12:30) 司会:鄭淳一(高麗大学)】 自由討論 討論まとめ:劉傑(早稲田大学) 【第5セッション(14:00-15:30) 司会:塩出浩之(京都大学)】 国史対話のこれから 閉会挨拶:宋志勇 ※同時通訳 日本語⇔中国語:丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学) 日本語⇔韓国語:李ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学) 中国語⇔韓国語:金丹実(フリーランス)、朴賢(京都大学) ※詳細は下記リンクをご参照ください。 ・プロジェクト概要 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/03/J_Kokushi9_ProjectPlan.pdf ・ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/06/J_SGRAForum74LITE.png ・中国語版ウェブサイト https://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2024/06/11/kokushi9/ ・韓国語版ウェブサイト https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2024/06/11/kokushi9/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 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