SGRAメールマガジン バックナンバー
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CHEN Yan “SGRA Cafe #15 Report”
2021年5月6日 10:20:30
*********************************************** SGRAかわらばん869号(2021年5月6日) 【1】第15回SGRA-Vカフェ報告 陳えん「SGRA-Vカフェ『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力の報告」 【2】国史対話メルマガ#29を配信 金賢善「第5回国史たちの対話―伝染病の時代に伝染病の歴史を振り返る」 【3】第19回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか」(5月29日、オンライン) *********************************************** 【1】第15回SGRA-Vカフェ報告 ◆陳えん「SGRA-Vカフェ『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力の報告」 3月20日(土)、第15回SGRA-Vカフェが開催された。コロナ禍のためオーディエンスは全員オンラインで参加する形式で行われたが、オンラインだからこそ日中韓「同時通訳・同時翻訳付き」の3言語開催が実現できたとも言える。今回の企画・準備・運営においては、新型コロナウィルス対策や新たなオンラインの可能性を探るさまざまな試みが行われ、視聴者の積極的な参加と財団スタッフの努力によって、世界中から集まった200人を超える参加者を満足させるウェビナーに「仕上げ」ることができた。 今回のテーマ設定の背景にささやかなストーリーがある。2年前に日中映画に関するSGRAチャイナフォーラムが北京で開催されたことをきっかけに、私は「いつか“アニメ”に関連するテーマも取り扱ってみたい」と思い始め、2019年度のチャイナフォーラムで大塚英志先生をお誘いして日本のマンガ・アニメ業界の特徴とされている「メディアミックス」について語っていただいた。その際の反響が良かったので、今度は東京で開催するSGRAカフェでもアニメに関連するテーマを取り上げたいという思いがあった。当初は「アニメの文化研究」をテーマに、と考えたが、具体的な話の「入口」がなかなか決まらなかった。その理由は、アニメ研究の歴史はあまり長くないにもかかわらず、メディアの発展に伴いアニメ自体の在り方も急速に変化し続けているということ、また、代表的な作品・作家・時代と現象の事例が意外と多いと言うことからであった。 悩んでいた時に、タイミングよく話題作が現れた…!――『鬼滅の刃』である。興行収入が『千と千尋の神隠し』を抜いて歴代ランキング第1位になり、原作のファンだけではなく、世界中のアニメファンやそれまでアニメに興味が無かった人々からも注目を集めていた。そこで早速、アニメーション研究家の津堅信之先生に「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」というテーマをお伝えし、講演内容を考えていただいた。偶然にも津堅先生の著書は中国語と韓国語にも翻訳されていたので、今回の3言語開催のウェビナーにとっては最適なゲストだったと言えよう。 当日は、同時通訳はもちろん、投影されるスライドも3言語対応で用意された。また、ウェビナーのQ&Aに寄せられたコメントをリアルタイムで3言語に翻訳するべく、渥美奨学生のみなさんもオンラインで待機してくださった。定時に開会後、2016年度奨学生の全相律さん(韓国出身)が渥美財団とSGRAの紹介をし、筆者(中国出身)から講演ゲストの津堅先生を紹介した。この部分のアレンジも運営側の特別な手配がうかがえる。 第1部の津堅先生の講演は、『鬼滅の刃』がヒットした理由の分析とその実像の説明から始まった。そして、実は『鬼滅』の劇場版(或いは映画版)は原作のファンをターゲットにして制作されただけで、そのビジネスモデルははるか前から日本のアニメ業界で形成されていたもので、一般人にまで広まる空前の大ヒットとなることは誰も想像だにしなかった、と説明された。スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫は、「(興行収入)100億円までは作品の実力、それ以上は社会現象」と語っている。今回その「社会現象」が起きた理由については様々な専門家が分析しているが、津堅先生は無視できない事実として2点挙げられた。一つは、新型コロナウィルスの感染拡大によって、多くの映画の公開が延期になり、映画館に生じた空き時間に『鬼滅』が集中的に上映されたこと。実際、とある映画館の4つのスクリーンで、15分おきに上映が始まるという普段ではありえない状況が起きていた。 もう一つは、劇場版の『鬼滅』の映像美やストーリー性の高さが原作のファンを満足させる質の高いものだったため、初期の段階で見に行った原作ファン(10日間で100億円を超えた)の口コミがかなり良く、原作ファン以外の観客も「それほど評判なら一度は見に行こう」と考え、非常に大きな相乗効果が生まれ、その「相乗効果」が「興行収入歴代トップ」の結果をもたらした。余談として、『鬼滅』の中で、「全集中」という言葉が出てくるが、これが実社会でもあらゆる場面で使われ、津堅先生によると「総理大臣が国会でも使っていた」とのことだった。(注:2020年11月2日の衆院予算委員会で『全集中の呼吸』で答弁させていただく」と答弁。江田憲司立憲民主党代表代行の質問に) では、この大ヒットとなった『鬼滅の刃』現象は日本アニメの歴史の中ではどのように位置づけられるだろうか。津堅先生は、1960年代から日本アニメがたどってきた道を整理しながら、その「魅力」がどこにあるのを分析された。 戦後の代表作で日本初の長編アニメ『白蛇伝』の公開後、1963年の『鉄腕アトム』テレビシリーズが日本アニメの「特徴」と「伝統」を作り上げた。毎週30分が1話のサイクルで放映するパターンの定着である。当時は世界でもテレビアニメの供給がまだ少なかった時期で、先行していたアメリカのテレビアニメは1話5~10分の長さでギャグネタを1つだけ紹介するのが主流だった。それに対して、日本アニメは1話が30分だったので、キャラクターの感情をより豊かに描くことができた。その後、時代の変化と共にテレビアニメが多く制作されるようになった現在でも、この1話30分パターンが続いている。 70年代に入るとテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)と『機動戦士ガンダム』(1979年)が子ども向けではない複雑なストーリー、キャラクターの心理描写を重視し、「ヤングアダルト」向けという世界的に見て稀なジャンルを確立した。この頃からテレビアニメの人気作において、オリジナルのストーリーから長編アニメが制作され、映画館で公開される「劇場版」という新ジャンルが生まれた。以上の2点から、人気マンガを原作としてテレビアニメ化し、その後劇場版をつくるという一連の制作スタイルが一つの定型となり、これが『鬼滅の刃』へとつながっている。 80年代のアニメ業界はマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」連載のテレビアニメ化の全盛期を迎え、代表作の数々(『ドラゴンボール』『SLAM_DUNK』『幽☆遊☆白書』『るろうに剣心』『One_Piece』など)が、それぞれ異なるブームを形成した。スタジオジブリの活動が本格化した時期も80年代。宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(1984年)、『天空の城ラピュタ』(1986年)、『となりのトトロ』(1988年)など現代を鋭く批判し社会性を帯びた一連の作品が、それまでアニメに興味のなかった観客からも注目された。 90年代以後、人気マンガが原作の制作スタイルとジブリのオリジナルアニメ映画がそれぞれの発展を果たし、それに加えてアニメ制作におけるデジタル化が進み、日本独自のデジタル技術が発達した。 以上のように日本アニメの歴史を整理した後、津堅先生が日本アニメの「独自性」と「文化力」をまとめた。ジャンルが多様でヤングアダルト向け、また、3DCG(=3ディメンション・コンピュータグラフィックス)ではなく2D(=2ディメンション)デジタルを中心に発展してきた日本アニメが、国外に対する新たな日本文化として発信され、アニメの舞台になった国内スポットが注目されたり、登場する日本食が流行したりする現象をもたらした。 盛りだくさんだった講演後、第2部の対談では私自身がインタビュアーとなり、津堅先生と3つの話題を中心に語ってみた。まずは、講演の中では触れられていなかった『鬼滅』の内容について、主人公のキャラクター設定が従来の「ジャンプ系主人公」より「成長のスピードが遅い」「相対的に弱い」点についてお話を聞いた。津堅先生からみれば、これまでと大きな違いはなく、やはり日本アニメの伝統通り主人公が成長するプロセスを強調しながら表現している、と述べられた。また、「これから誰が日本アニメを見るのか」「観客の多様化や変化は日本アニメに影響するか」という話題に対しては、海外の観客が大幅に増えていることを前提として、日本アニメ自体を最初から世界向けに企画・制作すべきだというのが津堅先生のご意見だった。 最後に、津堅先生の研究の重要な論点の一つと繋がる「アニメ」と「アニメーション」の使い分けについて伺った。津堅先生は商業的アニメと芸術系のアニメーションの区別や、ファミリー向けと大人向けのジャンル分け、および制作スタイルの違いあるいは地域などによって言葉の定義が異なると説明された(例えば欧米では、ポケモンはファミリーの棚に、ジブリが「アニメ」に、ディズニーが「アニメーション」になど;中国でも「動画」「動漫」などがある)。また、こうした言葉の使い分けについては、地域の文化の中での変遷を分析することで理解が進むと強調された。 第3部のオーディエンスからのQ&Aでは、多くの質問の中から2012年度渥美奨学生のソンヤ・デールさんに代表的な内容をピックアップしてもらい、「日本アニメの海外展開」や「アニメ研究を始めたきっかけ」、「日本アニメの暴力表現」などについて津堅先生と筆者とがそれぞれの経験と理解からお答えした。 3言語「同時通訳・同時翻訳」を実現した初のオンライン版SGRAカフェが終わったが、SGRAでは今回の経験を生かして「次は英語の同時通訳もつけてさらにグローバルに発信する」を目指すらしい。今後のウェビナーがどのような「盛り上がり」を見せるのか、楽しみである。 当日の写真 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/04/15thSGRA-Vcafe_Photos.pdf フィードバックの集計 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/04/Cafe15_questionnaires.pdf 当日の録画 https://youtu.be/ojYU5fhUZzQ <陳えん(ちん・えん)CHEN_Yan> 京都精華大学マンガ学部専任講師。2017 年度渥美奨学生。北京大学学士、東京大学大学院総合文化研究科修士・博士課程単位取得満期退学。研究領域はアニメーション史、日中アニメ・マンガ交流史、「動漫」「IP」の概念史など。研究以外、マルチクリエイター・プロデューサーとして日中コンテンツ業界にて活動中。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】「国史対話」メールマガジン第29号を配信 ◆金賢善「第5回国史たちの対話―伝染病の時代に伝染病の歴史を振り返る」 「中国・韓国における国史たちの対話の可能性」は1月9日、オンライン(ウェビナー)で行われ、日中韓3国の19世紀における伝染病の流行と防疫に関する発表と活発な議論が行われた。また、空間を越え、100名以上が参加し、リアルタイムでチャットを通じての質問も行われた。趙珖・国史編纂委員会委員長が開会挨拶で指摘したが、オンラインで開かれた今回の「国史たちの対話」はこれまでとは違った意味が付与されなければならないだろう。コロナの危機の中で新しい形の会議が円滑に行われるように万全を期してくださった関係者のみなさんにまず感謝申し上げたい。 反面敎師 2020年、コロナが韓国を覆った頃「科学が発達した今日、感染症と防疫の歴史を研究することにどんな意味があるか」と聞かれたことがあった。当時、感染者の経路が時々刻々と私たちの携帯電話に伝達され、注意を要する状況であったし、疑いの症状がある時は準備された検査キットで早く検査を受けることができた。そんな状況の中で、感染症と防疫の歴史を研究することが現在の私たちの暮らしにどんな意味があるのかと疑念を持つことは変なことではなかった。疾病史を研究する私はこの質問がしばらくの間気になり、それに対する答えについて悩み始めた。この「国史たちの対話」は気になっていたこの質問に対する答えを探す旅程のようなものであった。 続きは下記リンクからお読みください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2021KimHyunsunEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバーおよび購読登録は下記リンクをご覧ください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第19回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) ◆「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか」 下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか」 日 時:2021年5月29日(土)14:00~16:20 方 法:Zoomウェビナーによる 言 語:日本語・韓国語(同時通訳) 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA](日本) 共 催:(財)未来人力研究院(韓国) 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_-25TkTM2QnSHiJtebc6VOg お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■概要 歴史、経済、安保がリンケージされた複合方程式をうまく解かなければ、日韓関係は破局を免れないかもしれないといわれて久しい。日韓相互のファティーグ(疲れ)は限界に達し、日韓関係における復元力の低下、日米韓の三角関係の亀裂を憂慮する雰囲気は改善の兆しを見せていない。尖鋭な対立が続いている強制徴用(徴用工)及び慰安婦問題に関連し、韓国政府は日本とともに解決策を模索する方針であるが、日本政府は日本側に受け入れられる解決策をまず韓国が提示すべきであるという立場である。なかなか接点を見つけることが難しい現状である。これからどうすればいいか。果たして現状を打開するためには何をすべきなのか。日韓両国政府は何をすべきで、日韓関係の研究者には何ができるか。本フォーラムでは日韓関係の専門家を日韓それぞれ4名ずつ招き、これらの問題について胸襟を開いて議論してみたい。日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行う。 ■プログラム ◇司会 金雄煕(キム・ウンヒ)仁荷大学教授 ◇開会の辞 李鎮奎(イ・ジンギュ)未来人力研究院理事長 第1部・講演とコメント(14:05~15:05) <講演1> 小此木政夫(おこのぎ・まさお)慶応義塾大学名誉教授 「日韓関係の現段階-いま、我々はどこにいるのか」 <コメント> 沈揆先(シム・キュソン)ソウル大学日本研究所客員研究員 <講演2>李元徳(イ・ウォンドク)国民大学教授 「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか-韓国の立場から」 <コメント> 伊集院敦(いじゅういん・あつし)日本経済研究センター首席研究員 第2部・自由討論(15:05~15:45) 講演者と討論者の自由討論 ◇討論者 金志英(キム・ジヨン)漢陽大学助教授 小針進(こはり・すすむ)静岡県立大学教授 西野純也(にしの・じゅんや)慶応義塾大学教授 朴栄濬(パク・ヨンジュン)国防大学教授 第3部・質疑応答(15:45~16:15) ZoomウェビナーのQ&A機能を使い質問やコメントを視聴者より受け付けます。 ◇閉会の辞 今西淳子(いまにし・じゅんこ)渥美国際交流財団常務理事・SGRA代表 プログラムの詳細 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/04/J_19th-JKAFF_Program.pdf ポスター http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/04/19thJKFF_J.png 韓国語ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2021/05/02/jkaff19/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
Invitation to Japan-Korea Future Forum #19
2021年4月29日 10:32:29
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XIE Zhihai “Unstoppable Hate Crimes for Asians”
2021年4月22日 11:46:50
*********************************************** SGRAかわらばん867号(2021年4月22日) 【1】謝志海「止まらぬアジア人へのヘイトクライム」 【2】催事紹介:日中韓三国協力国際フォーラム2021 「TCS設立10周年を迎えて:次の10年に向けての新たな日中韓パートナーシップのあり方」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#668 ◆謝志海「止まらぬアジア人へのヘイトクライム」 現在米国ではアジア系住民に対する嫌がらせが後を絶たない。日本ではあまり重要視されてこなかったこの出来事だが、3月30日にバイデン米大統領がアジア系への差別と暴力に追加対策をとると発表。これを受けて加藤官房長官が3月31日に「日本政府としてはアメリカ政府の個々の政策についてコメントする立場ではないが、人種などによって差別が行われることは、いかなる社会においても許容されるものではないという立場だ。また現地大使館や総領事館を通じて状況についてよく注意し、在留邦人などの安全確保にしっかりと努めていく」と記者会見で述べた。 テレビニュースでもアジア人差別の現状が伝えられるようになった。私も偶然米国からのニュース映像を観た。ニューヨーク市マンハッタンの街角で、アジア人の女性が白人男性に蹴られ、うずくまった。その場に倒れている女性をお店の中から見た別の男性は、助けに外に出るどころか、助けを乞うなと言わんばかりにドアを閉めるという、情のかけらもないものだった。被害者は65歳のフィリピン人女性で「おまえはここにいるべきではない。」と言われながらの暴力だったそうだ。 昨年ミネソタ州で警官の暴行により圧死した黒人男性(ジョージ・フロイド氏)の悲しみが癒えぬ間に、米国ではアジア人が差別の対象になっていると知り、私はこれまで感じたことのないようなやるせない気持ちになった。米国にいる全てのアジア系住民は、家を一歩出れば、コロナウイルスだけでなく、差別にも気をつけながら、覚悟を決めて外出しているのではないだろうか?そう考えると、日本で暮らしている私は平和だなあと思う。自分たちと同じアジア人が日々の生活で、差別や暴力に怯えながら暮らしている現状を米国以外の国にいるアジア人全員がもっと把握しておくべきだと思った。 しかし、なにかが起きると行動が早いのも米国で、サンフランシスコ州立大学が人種などを勉強するいくつかの学部と合同で、「STOP_AAPL*_HATE」というサイトを一年ほど前には立ち上げていて、全米各地でアジア人が差別にあったケースを集計している。これによると2019年に比べて2020年はアジア人へのヘイトクライムは2.5倍に増えた。そして差別や暴力の被害に遭うのは、アジア系の老人、続いて女性に多いことが浮き彫りとなった。 確かに、先述のニューヨークでのヘイトクライムもシニアのアジア人女性だし、もうひとつ記憶に新しい出来事と言えば、その事件の少し前に起きたジョージア州アトランタでおきた若い白人男性による銃撃で、死亡した8人のうち6人がアジア系の女性だった。さらに、この事件の報告をした報道官の警部が犯人をかばう発言とアジア人女性を軽視するような含みを持っていたため、後味の悪いものとなった。この事件の翌日、バイデン大統領はハリス副大統領と共にアトランタまで出向き哀悼の意を伝えたという。この2つの事件は3月に起きたもので、バイデン大統領は月をまたがずに、アジア系アメリカ人を守ることを強化する決断を下したのである。 しかし少し調べてみると、在米日本国総領事館から「アジア系住民に対する嫌がらせ等に関する注意喚起」と題したEメールを、在留届を提出している日本人に配信したのも3月であり、日本の外務省は米国の現状をきちんと把握している。日本国内でももう少し深くアジア人への人種差別が深刻化している様を伝えるべきだと思う。我々こそがアジア人なのだから。 アジア系住民への差別の発端はトランプ前大統領がコロナウイルスのことを「チャイナウイルス」と繰り返し言ったことからだとされている。その尻拭いをバイデン新政権が行なっているだけと言えばそれまでだが、バイデン大統領はアジア人を後回しにしていない。同時にアジア系自身も黙って時が過ぎるのを待つだけではなく、ヘイトクライム撲滅のデモをしたり、ヘイトクライムに遭ったらレポートし共有する場を設けたりしている。アジア系市民が被害に遭った時の防犯カメラの映像を繰り返しテレビで流すだけでなく、差別に立ち向かう様まで伝えることも大切だと思う。そして私のような日本にいる中国人は、コロナウイルスを理由に日本でヘイトクライムは受けていないということを米国に伝えるべきかもしれない。 *AAPL=Asian_American_Pacific_Islanders アジア・太平洋諸島系アメリカ人 <謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai> 共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】SGRA会員の道上尚史様からオンラインイベントのご案内をいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は下記より直接お申込みください。 ◆日中韓三国協力国際フォーラム2021 「TCS設立10周年を迎えて:次の10年に向けての新たな日中韓パートナーシップのあり方」 日中韓三国協力事務局は日中韓三国の協力促進を目的として、2011年に三国政府が設立した国際機関です。本フォーラムは私ども事務局の一大年次事業であり、三国の政治・経済・社会文化全般についての議論を通じて、三国協力の更なる発展につながる提言を提供し、北東アジアの平和と繁栄に向けた三国協力の意義を啓蒙することを目指しています。 【日時】2021年4月27日(火)10:00―16:00 【形式】オンライン(Zoom使用) 【言語】日中韓英の同時通訳あり 【参加費】無料 【各セッション参加者及びテーマ】事前登録リンクをご参照ください 【事前登録】http://sv.mikecrm.com/miIe4LS 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://tcs-asia.org/jp/board/notice_view.php?idx=3787&pNo=1 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
YUN Jaeun “Myanmar Issues and Korea”
2021年4月15日 13:32:38
*********************************************** SGRAかわらばん866号(2021年4月15日) 【1】エッセイ:尹在彦「ミャンマー問題と韓国、そしてアジアの民主主義」 【2】寄贈本紹介:ボルジギン・フスレ編著『国際的な視野のなかの溥儀とその時代』 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#667 ◆尹在彦「ミャンマー問題と韓国、そしてアジアの民主主義」 韓国はこれまで、他国の民主主義の問題に深く関与してこなかった。1990年代以降においてようやく民主化したという認識より、国内事情が優先視された。他方で欧米、とりわけ米国による民主化支援への不信感も影響していた。韓国が権威主義体制に置かれていた時代、米国は冷戦体制を理由に韓国の民主化に後ろ向きだった。1970年代には朴正煕政権が自らの人権弾圧問題を覆い隠すため、米議会にお金をばらまく、いわゆる「コリア・ゲート」も発覚する。そのため、韓国では民主化が外部要因なしに「自生的」に成し遂げられたという認識が強い。 ただし、一つの例外があるとしたら、それはミャンマー問題だ。韓国は日本と共に難民問題に極めて消極的だ(2019年の難民認定率は両国ともに0.4%)と知られているが、毎年最も多く認定されているのはミャンマー国籍の人々だ。アウンサン・スーチー率いる国民民主連盟(NLD)の韓国支部も1997年に設立されている。同年に大統領に当選した金大中は、国際社会で軍事独裁政権に対抗したスーチーへの支持を呼び掛けていた。自伝で金大中はミャンマー問題への特別な関心を述べている。 このような背景から年初に勃発したミャンマー軍部のクーデターは、韓国政府にとって無視するわけにはいかない事案だった。デモ隊に対する軍人・警察の弾圧は、韓国のニュースにも盛んに取り上げられている。文在寅政権は3月以降、次々と行動に出ている。文在寅本人は3月6日「ミャンマー軍と警察の暴力的な鎮圧を糾弾し、アウンサン・スーチー国家顧問をはじめとした収監された人々の釈放を求める」とSNS上で訴えた。12日にはミャンマー軍部への軍事物資の禁輸措置を取り、政府開発援助(ODA)の見直しも示唆した。韓国政府のミャンマーに対するODA規模は約9000万ドル規模(2019年)で、これまでの抑制的対応から一転したとの評価も出ている。 韓国は中国の少数民族(ウイグル、チベット)や香港の問題に対しては発言を控えており、北朝鮮人権問題においても政権によって正反対の反応を示してきた。こういった事案は基本的な外交路線、即ち「国益」とも深く結びついており、単純に「人権・価値」だけで対処できる問題ではない。日本も米国との「安全保障協議委員会(2+2)」で中国を名指しで非難したものの、EUや米国の制裁には追随していない。中国の激しい反発や経済問題の影響もあると考えられる。 現地のミャンマーでは韓国政府の対応がそれなりに評価されているようだ。ツイッターやフェイスブック上で韓国政府や韓国人に支援を求めるコメントは少なくなく、ミャンマー人の韓国語の書き込みも多くみられる。 3月16日、日本のラジオ番組(「荻上チキSession」)に出演したミャンマー人留学生はあえて韓国に言及しながら、日本人の支援が必要だと切実に訴えた。しかし、残念ながら日本社会の反応は普段の反中感情と絡み合った中国問題に比べると生ぬるい。個人的に違和感を覚えたのは日本のニュースの伝え方だった。3月2日、NHKは「『申し訳ありません』在日ミャンマー人 コロナ禍のデモ」といったタイトルで「自粛中にも関わらずデモを行っていることへの申し訳なさ」を表現するミャンマー人の様子を伝えている。韓国でも在韓ミャンマー人のデモが展開されているが、同様のタイトルは見たことがない。日本ではコロナを理由にデモを禁じていない(韓国では人数制限がかかっている)。なのに、ラジオ番組に出演したミャンマー人留学生はネットニュースのコメント欄に数多くの非難(「デモをやるべきではない」など)が寄せられたことに衝撃を受けたという。 ヨーロッパのような国際人権機構はアジアに存在しない。さらに、アジアで民主主義国とされる国は少数にとどまっている。域内の人権問題に対し、アジアの民主主義国が一丸となり声を上げることは容易ではない。中国や北朝鮮の事例からも見られるように、安保や国益などが複雑に絡み合っている。よく知られている通り、天安門事件以降、中国への経済制裁を最初に解除した先進国は日本であり、経済や歴史問題への考慮があったと言われている。しかし、経済的側面を優先する民主化支援はそれほど効果的ではない。1990年代以降、日本が積極的に支援しているカンボジアでは、フン・セン首相が独裁政権を築いており、民主主義とは程遠い状況が続いている。ミャンマー問題においても「日本は軍部とのつながりがあり自制を求めている」などの報道は見かけるものの、実質的な措置はほとんどとられていない。 如何なる民主化支援もある程度は「内政干渉」を伴う。権威主義体制下ではコロナ禍を機に市民の動きを制限する動きも増えている。日本と韓国のような民主主義国家の役割は何だろうか、どんな役割を果たして協力できるか、非常に重要な課題だ。もちろん、現状では懐疑的にならざるを得ないが、アジアの悲惨な状況からするとそれなりに協力はできる分野だと思う。 <尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jaeun> 2020年度渥美国際交流財団奨学生、一橋大学特任講師。2010年、ソウルの延世大学社会学部を卒業後、毎日経済新聞(韓国)に入社。社会部(司法・事件・事故担当)、証券部(IT産業)記者を経て2015年、一橋大学公共政策大学院に入学(専門職修士)。専攻は日本の政治・外交・メディア。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員で昭和女子大学教授のボルジギン・フスレ様より新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆ボルジギン・フスレ編著『国際的視野のなかの溥儀とその時代』 2020年12月に開催された昭和女子大学100周年記念国際シンポジウムの論文集。このシンポジウムは、近年の研究の歩みをふりかえり、関係諸国に所蔵されている膨大な多言語の史料を統合し、歴史、社会、政治、文化などの諸分野の最新の研究成果を概観し、国際的視野のなかで溥儀とその時代を再評価しながら、創造的な議論を展開することを目的とした。 溥儀は清朝、中華民国、満洲国、シベリア抑留、中華人民共和国といった時代を経験した重要な人物である。にもかかわらず、関係諸国それぞれの溥儀、満洲国に対する認識はことなる。各国の研究者により、「溥儀とその時代」から、北東アジア史を再構成することをとおして、新たな成果がうまれるはずだと信ずる。 発行所:風響社 シリーズ:アジア研究報告シリーズ 出版年月日:2021/03/25 ISBN:9784894898097 判型・ページ数:A5・152ページ 定価:本体2,000円+税 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.fukyo.co.jp/book/b572971.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
YUN Jaeun “Fog over Victoria Peak”
2021年4月8日 14:51:49
*********************************************** SGRAかわらばん865号(2021年4月8日) *********************************************** SGRAエッセイ#666 ◆尹在彦「ヴィクトリアピークの霧」 1990年代までの韓国にとって、香港は文化の輸入が許された唯一のアジアの「先進地域」だった。韓国では長らく日本文化、特に映像コンテンツが禁止されていたため、香港を舞台にした様々な映画は憧れとして受け止められた。香港映画は旧正月やお盆の「引っ張りだこ」で、多くの韓国人を魅了した。イギリスの植民地ということもあってか、映画には多様な人種の人々が登場する。これもまた異国情緒を醸し出す要素だった。90年代を風靡した王家衛(監督)の映画は社会的なブームまで引き起こした。香港は民主化したばかりの韓国社会にとって「自由の象徴」でもあった。 韓国人の目線から見る現在の香港は複雑だ。香港は「帝国主義の被害地域」でありつつも、現在においては権威主義体制の激しい弾圧を受けている。韓国は歴史上、香港と同様の経験(植民地・独裁政権)をしており、そこから何とか抜け出した国である。そのため、私は香港に関して欧米系メディアの一方的な論調に比べれば中立的な話ができると思う。 香港は英国の帝国主義による植民地化で、中国では「百年国恥」の象徴として語られる(しかし、倉田徹・張イクマンによると香港が本土で注目され始めたのは90年代以降のことという(『香港』126頁)。宗主国(である)英国は、統治下の香港人に対しある程度の自由こそ与えたが、民主的な権利、即ち選挙権は80年代まで保障しようとしなかった。 1980年代に入り、英中間の返還交渉が進むにつれ、英国は急遽、新たな選挙制度を取り入れ始める。特に最後の総督、クリス・パッテンは返還日が近づく中で、無理をしてまで制度改革を推し進めた。やはりこれでは、英国の香港の民主主義に対する「本気度」が疑われても仕方ない。しかし、こういった側面は現状の香港問題を取り上げる中であまり注目されていない。特に欧米のメディアではそうである。返還交渉の結果、民主制度を50年間保障するとの取り決めに中国が合意したこと(一国両制)も重要であるが、英国に現状の問題への責任が全くないかといえばそうとは限らない。 1997年に香港が中国に返還されて以降、何度か大規模なデモが行われた。特に世界的に注目を浴びたのは2014年秋の雨傘運動だ。私は2013年と14年に取材のために香港を訪れた。13年には香港政治とは関係のない出張で、正直「暑い」という印象しかなかった。思っていたより英国色が薄いことも記憶には残った。 ところが、14年11月の出張では香港への見方も多少変わっていた。香港の若者問題をより詳しく知りたく、仕事とは直接的関係はなかったが若者の話を聞いてみた。気づかされたのは若者の経済的苦境だった。香港大学には現地人・本土人・留学生の3グループがあり、現地人学生の就職が最も厳しいという。広東語や英語だけではなかなか良い仕事にはありつけず、本土から来た優秀な学生たちが多国籍企業の本土進出の人材としてちやほやされているということだった。香港出身の若者たちにとって憧れの金融業への就職はまさに狭き門で、IT部門への就職は門戸が開かれているが、給料が非常に低かった。2010年代以降の若者を中心とした抵抗が、単純に政治問題でなく、経済問題が絡み合っていることを改めて実感した。 そういった若者たちの不満は解消されずむしろ膨らんでいった。それが2019年の法律改正の問題と相まって、中国政府に矛先が向かうようになったのだろう。これに対し中国政府は最初、トランプ(政権)との関係上、様子見の姿勢をとったが、コロナ禍の中で急速に規制を強めている。民主化運動の象徴とされた学生や起業家は次々と収監され、現在はほぼ芽が摘まれた状態だ。しかも、今年の全国人民代表大会(全人大)では「香港の代表者は愛国者に限る」といった法案が成立した。私は「国への愛し方」には様々なものがあり、人それぞれ違うと考える。そうした中で、香港では民主主義だけでなく、英統治下でもそれなりに守られていた自由が危うくなっている。世界的な支援の手が届かないコロナ時代は弾圧の格好の口実になっている。 韓国でも1980年代まで同様の理由で数多くの人(とりわけ大学生)が弾圧され、一部は国により殺害された。軍事政権は「内政干渉」を理由に、NGO等の介入を拒み続けていた。ただ、現在と構図が逆転している現象もあった。レーガン政権は全斗煥政権を認めていた。これに対し大学生らは米国大使館に対し「内政干渉(=独裁政権の認定)をやめろ」と叫ぶなど、反米運動を展開した。 香港に行くたびになぜか一度も欠かさずに登ったのが、夜景スポットのヴィクトリアピークだ。最後に訪れたのは2019年のことで、大規模デモの直前だった。しかし、霧があまりにもひどくて何も見えなかった。初めてのことで、まさに香港の未来を象徴するような光景だった。香港は中国だけでなく、アジアの民主主義の将来を占うカギを握っている。これからも香港をウォッチしなければならない。 <尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jaeun> 2020年度渥美国際交流財団奨学生、一橋大学特任講師。2010年、ソウルの延世大学社会学部を卒業後、毎日経済新聞(韓国)に入社。社会部(司法・事件・事故担当)、証券部(IT産業)記者を経て2015年、一橋大学公共政策大学院に入学(専門職修士)。専攻は日本の政治・外交・メディア。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
Franco SERENA “My Place of Happiness”
2021年4月1日 15:54:37
*********************************************** SGRAかわらばん864号(2021年4月1日) 【1】フランコ・セレナ「私の『幸福の場』」 【2】寄贈本紹介:小川忠『自分探しするアジアの国々』 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#665 ◆フランコ・セレナ「私の『幸福の場』」 日本に初めて足を踏み込んでから何年も経ったが、今でもその頃のことを忘れることができない。当時はホームステイしながら生活していた。出発前は楽しみで仕方なかったが、日本に住み着いてからすぐ様々な壁にぶつかって落ち込む日々が始まった。その気持ちの処理方法が分からなくて、ホームステイ先の寝室で眠りにつくと母国にいる夢を見ていたことを今でも鮮明に覚えている。長い年月が経過して、私は今も日本に住んでいる。初めて日本に来た私に会うことができれば、「慣れてくるものさ、なんとかなるよ」と励ましの言葉をかけてあげたい。それだけではない。何よりも一つの助言を与えたい。「これさえあればちょっと幸せだなと思える『幸福の場』を常に心の中に持っていたほうがいいよ」ということである。 日本文化と日本語に触れ始めたのは、小さい時から興味があったのではなく、単に家族に逆らうためだった。小学校の時から高校までは家族の期待に応えるためだけに勉学に励んでいて、学問に関してはこれを知りたいという好奇心がほとんどなく、学校の課題に漫然と取り組んでいた。反抗期というのは誰にでも訪れる。私の場合はそれが大学1年生の時だった。当時は家族の期待を押し切ってでも自分の意思を貫きたいという考えにとらわれていた。日本語と日本文化に関心がなかったにもかかわらず、家族の反対に耳を傾けることなく、大学で日本語と日本文化を勉強しようと決めた。しかし、ついに日本にやって来た時、日本のことを学ぶ動機が家族への反抗に過ぎず、日本の言葉と文化を学んできたのにその学習には心を込めたことがなかったことに気づいた。特に日本文化に対する理解を示そうとしても誤解されることがほとんどで、大学で学んできたことをむなしく感じていた。落胆して帰国することばかり考えていた。 その私を救ってくれたのは日本語の先生だった。先生は日本の伝統芸能の知識が豊富で、特に歌舞伎に精通していた。ある日、落ち込んでいる私を見て、歌舞伎を見てみないかと誘ってくれた。当時の私は何に対してもマイナス思考で、歌舞伎に対しては堅苦しい、分かりづらいという印象しかなく、わざわざ銀座まで歌舞伎を見に行くのは気が重かった。それでも断るのが得意でなかったので、不本位ながらその先生のお誘いを受けることになった。 歌舞伎座へ入った瞬間に、歌舞伎の世界は思っていたのとは別物だということに気づいた。公演の前に顧客が売店を見回ったり、演目の概要を読んだりしながらにぎやかにおしゃべりをしていた。なんか、楽しそうだなと薄々思い始めた。そして、公演が始まった。歌舞伎は動きが少なく、聞きなれていない日本語で延々と演技し続けるものかと思ったら、躍動感のある場面も多かった。動きは少なくてもそれぞれ美しく、少ないからこそ感情であふれている。気が付くと、歌舞伎役者の鍛錬された動きと美しい台詞に魅了されている私がいた。あっという間に5時間がたっていた。 公演が終わった時、ちょっとした幸福感に包まれていた。その時初めて、このように日常生活を忘れることができる「幸福の場」、歌舞伎がある日本をもっと理解したいと「心から」思った。私の日本の見方はがらりと変わった。多くの壁にぶつかって辛い思いをしても、自分だけの「幸福の場」があると何でも乗り越えられると思えるようになった。誤解されることがあっても、それをばねにしてどうやってこの誤解が解けるかに力を注ぐことにした。歌舞伎は私を救ったといっても過言ではない。 この経験から、昔の自分に会えばこんなことを言いたい。何かをやり始めるきっかけは様々な形で巡り合える。その中には、興味が湧いてきてつかんだきっかけもあれば、偶然に現れるきっかけもある。あるきかっけをつかめば人生の新たな道が開かれる。時には自分には合わない道を選ぶこともあるし、その道を必ず歩み続けなければいけないというわけでもない。それでも、「幸福の場」を見つけることができて、この道を歩み続けたいと思っているのであれば、間違った道ではないかもしれない。 <フランコ・セレナ Franco_SERENA> 渥美国際交流財団2019年度奨学生。イタリア共和国ベネト州出身。2015年度慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程(民事法学専攻)修了、2020年度慶應義塾大学院法学研究科後期博士課程(民事法学専攻)単位取得退学。2020年度より筑波大学社会・国際学群非常勤講師、2021年度より武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部専任講師。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員で跡見学園女子大学教授の小川忠様より新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。小川様にはアジア未来会議で開催するアジア文化対話円卓会議でご指導いただいています。 ◆小川忠『自分探しするアジアの国々:揺らぐ国民意識をネット動画から見る』 列強の外圧や植民地支配を通じて「国民」意識を高め、「国民国家」を形成してきた近代のアジア諸国だが、めざましい経済成長や政治変動も相まって各国の国民意識は変容している。動画、ポップ音楽など若者文化を手がかりに「一つではない」アジアのアイデンティティを探るユニークな論考。 発行所:明石書店 ISBN:9784750351742 判型・ページ数:4-6・248ページ 出版年月日:2021/03/20 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.akashi.co.jp/book/b575295.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
LAI Sihyu “Drifting Raccoon”
2021年3月25日 14:57:32
*********************************************** SGRAかわらばん863号(2021年3月25日) 【1】頼思妤「漂泊の狸」 【2】国史対話メルマガ#28を配信: 大久保健晴「第5回国史対話における自由コメント」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#664 ◆頼思妤「漂泊の狸」 渥美国際交流財団のロゴの狸は、創始者の故渥美健夫鹿島建設会長が生前によく描いておられたものだそうです。 初めてこの狸のロゴを見た時、私は子供の頃に見たジブリ映画「平成狸合戦ぽんぽこ」をふと思い出しました。この映画は純粋さや素朴さがある一方不思議な現実味も帯びた作品で、物語の終盤では狸たちの一部が人間に化けて人として都会で生きていこうと努力する様子が描かれます。留学生として日本に来た時、私はちょうどフランスとアメリカへの訪問を終えたところでした。それぞれの国で非母語的な環境に身を置くと、だんだんと生活には慣れてはくるものの、なぜか時折そのままではいられないような気分になりがちです。映画はそんな自分に、「化ける」能力がある狸ですら異文化社会で苦労したのだから、普通の人間である私が短時間で次々と新しい環境に適応するには、頑張る以外に何もないのだという決意を思い出させてくれました。 台湾から日本に来た頃、私の台北の友人は「東京に行けるとは羨ましいよ。東京の人たちは謙虚で礼儀正しいからね」と言いました。それからパリに行く機会があった時、東京の友人は「パリに行けるとはいいね。ロマンチックで詩的なところだから」と言いました。そして、アメリカでは、知り合いの全員が「ボストンに行けるなんていいね。あそこの学生は明るくて自信がある上に、やる気がある」と言いました。皆、私が旅先で出会う新しい知り合いが本当にニュースやネット上で伝えられている通りなのか、興味津々なのです。もちろん彼らは単純にSNSなどで目にした記事を元に気楽に私に尋ねただけだったのかもしれません。 しかし、実際に私の日常生活で起こるのは報道やインターネットから伝わる様子とはまるで別のことばかりでした。友達との実際の会話は、政治などの大事件よりも身近な出来事、自分達の街での出来事、お互いの研究の内容が多く、ゆえにSNSのみを通じて外の世界を知ろうとしたり、知った気分になったりしてしまう現在の潮流に私はしばしば違和感を覚えました。インターネット上に現れる東京は私が知っている東京ではなく、パリやボストンもまた然り。とある地域について、とあるトピックだけに焦点をあてて議論していては、その土地に存在している他の多くの人々が抱える思いや考えをたやすく見逃してしまうのだと、最近特に強く感じます。 私たちは、それぞれがそれぞれの経験によって自我を形成し、その結果、多様な個人として生きています。人それぞれの経験の違いは、国や言語の違いよりも重要だと私は思っており、SNSから吸収した偏見を持っていては、外の世界で真の友情を育むことができないのです。何年にもわたる異国での旅と留学を、私はいくつもの「国」を見て来たというよりは、いくつもの国の「友」と心を通じ合わせてきたと表現したくなります。なぜなら、政策や経済の発展状況よりも、そこで暮らしている人々の思いやりと温もりこそが、最も深く私の記憶に刻まれていて、その数々が今の私を作り上げているからです。たくさんの土地を踏み、多様な文化を学び続けながら私が私でいられたのは、多くの人々に助けられ、恵まれていたからでした。 このような心境を経験したので、渥美財団の狸のロゴを見ると今は心に特別な親近感が湧いてきます。同期の渥美奨学生と交流し、事務局のみなさんが見守ってくださったおかげで、私は無事にこの一年間を自らの心を見つめながら、穏やかに過ごすことが出来ました。またこうした日々の中で、これまでに心に積もった数年分の研究上の知識や人生における知恵を整理することが出来ました。日本での留学を終えた今、いくつもの縁に導かれて東京に来たこと、私が最も落ち込んでいる時、私を信じてくれた人達、出会った全ての人に感謝しています。人生の全ての体験が、良くも悪くも私という小さな苗を成長させてくれました。与えられた栄養を頑張って吸収し、辛い経験は逆「増上縁」と化して、心を強く鍛えてくれました。 長かったり短かったりする別れを次々に経験していくのは留学生の常だと思います。昔はよく切ない気持ちになりましたが、今は、別れというものはその度に誰かが一歩前に進んだことを意味するのだから、喜んで祝福すべきだと思っています。現代社会において、頑張って生きている人(狸)達は、実は皆、自分の孤独な惑星を歩いているようなものです。没頭してひたすら歩いていると、ふとした瞬間に遠くにいる誰かが自分のことを思い出してくれていることに気がつくのです。その時、心に流れ込んでくる暖かさこそが、最も安堵に満ちた寂しさだと私は思います。 <頼思妤(ライ・スーユ)LAI_Sihyu> 東京大学大学院文学博士。現職は台湾の中央研究院博士後研究員。日本学術振興会特別研究員(DC1)の経験あり。フランス高等研究実習院(EPHE)、ハーバード大学等での短期訪問研究の経験あり。朝日新聞、台北経済文化代表処等での勤務経験あり。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】「国史対話」メールマガジン第28号を配信 ◆大久保健晴「第5回国史たちの対話『19世紀東アジアにおける感染症の流行と社会的対応』自由コメント」 私は、日本とオランダとの関係を機軸とした東洋政治思想史・比較政治思想を専門に研究しています。政治思想史の観点から、質問をさせていただきます。 (1) 主権的権力と公衆衛生について このたびのコロナ禍において、何人かの政治学者が疫病の蔓延との関係で注目した古典に、ホッブズの『リヴァイアサン』があります。カルロ・ギンズブルグらの図像研究が明らかにするように、著者ホッブズの指示のもと版画家アブラハム・ボスが描いた『リヴァイアサン』の有名な扉絵には、疫病・ペストの防疫にあたる二人の医師の姿が小さく描かれています。17世紀、イングランドをはじめ、ヨーロッパはたびたびペストの感染拡大による被害に襲われました。特にホッブズがオックスフォード大学に入学した1603年は、ペストの大流行の年でした。ホッブズの『リヴァイアサン』に示されるように、人々が疫病におびえ、死への恐怖をいだくなかで、主権的権力はその存在感を増し、その存在意義は際だったものとなります。 それは、政府・国家権力が公衆衛生の名のもとに、緊急事態宣言やロックダウンを発令し、人々の行動の自由を制限する現代社会も同様です。 公衆衛生と主権的権力の行使は、密接不可分な関係にあり、疫病の蔓延という状況はまた、主権的権力とは何かを考えるためのきわめて重要な機会でもあります。 とりわけ本日の3名のご報告が、コレラの流行を主題としている19世紀後半はまた、東アジアにおける近代国家形成期でもありました。東アジアにおいても、疫病の蔓延に対応する公衆衛生の確立と、近代国家としての主権的権力の形成は、密接不可分であったと言えます。 続きは下記リンクからお読みください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2021OkuboTakeharuEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバーおよび購読登録は下記リンクをご覧ください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
CHEN Zhao “Incomplete Enumeration of 2020”
2021年3月18日 11:44:23
*********************************************** SGRAかわらばん862号(2021年3月18日) 【1】陳昭「2020年の不完全的羅列」 【2】第15回SGRA-Vカフェへのお誘い(最終案内) 「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」(3月20日、オンライン) *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#663 ◆陳昭「2020年の不完全的羅列」 このエッセイは去年(2020年)3月に書くべきものであった。 延滞したのは不測の事態が次々と起こり、その対応に追われ、書く余裕がなかったからだと、自分にはそう言い聞かせていた。しかし本当は「振り返るのが辛くて逃げていたから何も書けなかったのかもしれない」という気持ちも心のどこかにある。 目の前に起こっている予想外の現実には「臨機応変でいなければならない」と理性では分かっているつもりだった。しかし、そこにある現実があまりに予想外なゆえに、たとえ対処するために行動したとしても、リアリティとして受けとめるところまでは心が付いていけなかった。「嘘だろう」と思いつつも、拒絶不可能な実態に振り回されてばっかりだった。 こうした、現状への対応と現実の消化との間に乖離が生じてしまう1年であった。いまだに収束が見えない新コロナウイルス感染症の拡大において、こういう気持ちになるのは、決して私一人ではないだろう。 この1年の出来事を鳥瞰的通時的に記録できるなら、どんなに壮大なフィルムになるだろう。また、異なる国の政治体制と予防対策の関係、人種や社会慣習が持つ影響力など、このフィルムを見るフィルターも様々。しかし、コロナ禍の真ん中に生きる一人として、なにか書こうとすれば、やはり身を以て経験していた虫観的な世界になる。 2020年2月、中国は全面封鎖。予定していた中国への一時帰国の中止を余儀なくされた。3月には住んでいた寮の入居期間が切れ、残りの留学ビザは5月まで。もともとは帰国してしばらく中国で就活でもするつもりだったので、日本ではすぐに新しい住まいを構えなくてもいいと思っていた。そこから慌てて部屋探しを始めた。学校の近く、外国人可の物件に絞って探していたが、2ヶ月しかないビザが問題となった。更新予定と説明しても難色を示す大家さんが多い。 その中、今になっても思い出すと引っかかることがある。築40年も超えた物件だが、間取りはよくて広めだったのでさっそく申し込もうとした。申請して2日目になってから、仲介さんからの電話があって、大家さんは外国人がやはりだめだと断られてしまった。いろいろと聞いているうちに、大家さんはご高齢で、どうもコロナで中国人に貸すのは不安があるらしい。渡航歴がないとはいえ、付き合いも中国人が多いだろうから不安だそうだ。仕方がないと諦めたその夜、寮に帰ったら、事務室の方から武漢差別やコロナ差別について寮生を対象に調査依頼が都から来たと話を聞いた。幸い日本ではヨーロッパほど差別が深刻にならなかった。また、面白いことに「東大生はだめ」と電話で断わられた物件もあった。お爺さんぽい声だった。どうも駒場近辺の高齢の大家さんたちは「コロナ」と「東大生」が苦手だそうだ。 2020月3月、駆け足で引っ越しを終えた。疲労の重なりと季節の変わり目で体調を崩してしまった。風邪症状に半端ない倦怠感が伴った。手先が腫れているような、感覚が鈍くなる感じ。下痢と咳は症状発覚から3日目で出て、軽い症状が続いたが一週間以内には消えていた。38度超える熱は一晩だけで、ほとんど37.0度~37.3度の間であった。当時PCR検査は37.5度以上の熱で3日続くのが条件であったため、検査を受けることができず、自宅で外出を自粛していた。当初日本ではコロナ感染に対してまだ意識が低かったが、渥美財団の方々と相談の上、奨学金を受けた年度末に行われる研究報告会は資料提出のみとなった。発症から10日目ぐらいでほとんどの症状は消えた。倦怠感が繰り返し出てはいたけど、2週間目になるとそれも治った。 2020月4月、自分の体調はよくなったが、日本の感染状況は悪化する一方だ。さらに、浴室で転んでしまった。後頭部を床にぶつけないようにバランスを取ろうとして足を極度に伸ばした際、膝の軟骨を傷つけてしまった。受診したところまず静養だと言われたが、1ヶ月経っても回復せず、足を伸ばすこともできなくなった。外出どころか、トイレへ行くのにも苦労する日々だ。今まで味わったことのない無力感。家族がそばにいない孤独感。「どこにも行けない、ここに閉じ込められているのだ」と、トイレの回数を減らすために水すら飲むのを控えてしまうたびにそう思う。支えになってくれたのは近所に住む研究室の仲間や友人だ。食材の調達やごみ出し、体調不良の時は中国の家族から送ってきた漢方の薬を玄関の前に届けてくれるなど、お世話になってばかりだった。 予定していた就活が頓挫し、「悪年」とでも言いたくなる不運が続き、収入がないのにアルバイト再開の目途も立たないままの日々。引っ越しの出費、オ-バードクターの学費免除が困難、予想外の治療費など、諸々の事情で経済的に非常に困難な状況に陥っていた。その中、渥美財団から届いた新型コロナ緊急支援金の連絡は本当に「雪中送炭(雪中に炭を送る)」だった。生活基盤を整えるのに大変ありがたい支援金だった。そして、大変な時期に温かいメールや電話で見守ってくださった事務局の方々、本当にありがとうございます! 2020年5月、別の病院で膝を再び検査した。静養中は足をぜんぜん伸ばしていないので、筋肉が著しく弱ってしまっていた。MRI検査で膝軟骨の損傷は手術なしの治療方針が決められ、6月からはリハビリが開始。キーボードで「リハビリ」を打つだけで、当時の激痛の記憶が蘇り「痛い」と感じるほど、痛かった。痛くて出た涙は「滴」ではなく、滴が繋がる「線」でもない。「面」なのだ。中国語では「涙流満面(顔じゅう涙まみれ)」と「汗流満面(顔じゅう汗まみれ)」という言葉がそれぞれあるが、リハビリはその合体だ。涙か汗か分からない、顔中が万遍なく塩味のある液体で濡れているから。 夏になると、リハビリもだいぶ楽になり、ようやく研究にも少しずつ復帰できるようになった。2020年1月、フィリピンで開催された第5回アジア未来会議で発表した時に平山昇先生からいただいたコメントに触発され、投稿する論文のアイデアが生まれた。2020年の後半は延滞してきた仕事をこなしながら充実した日々を過ごせた。足も普段歩く分には問題ないまでに回復して、気分転換のためによく散歩をしている。電線や線路、それに坂と低い住宅地。すべてが日本の日常風景を象徴する要素だ。会えない日はもうすこし続くと思うが、せめて身近にあるささやかな美しさを楽しみたい。 最後に、もし去年の経験から何かを教わったかと聞かれれば、それは「泣くは恥だが役に立つ」ということ。今まではどこか強がって何ができるかに拘っていたのかもしれないと気づかされた1年であった。できない事やできない時は当然ある。その「リアリティ」を受けとめるのも大事だと思うようになった。それこそ「リアル」の人生だ。今まであたりまえのように分かっていたつもりだったこの道理は、あたりまえでない個々の経験があるからだと、少し分かるようになったかもしれない。 あっ、言い忘れたことがある。「泣くは恥だが役に立つ」は確かだが、そのときは、柔らかめのティッシュの方がいい。あと、ティッシュは甘いのは知っている?満面の涙を拭いた時にたまたま口に入ったことで知った。個人的な経験だと、保湿ローション入りのタイプが最も甘い。これを読んでティッシュを舐めたくなる方は、どうぞご遠慮なく。 <陳昭(ちん・しょう)CHEN_Zhao> 渥美国際交流財団2019年度奨学生。東京大学大学院総合文化研究科文化人類学コース博士課程。2014年同コース修士卒業。都市環境デザイン、景観生成、テクノロジーと社会について研究中。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第15回SGRA-Vカフェ「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」へのお誘い(最終案内) 下記の通り第15回SGRA-Vカフェをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。今回は日本語⇒中国語、日本語⇒韓国語への同時通訳がありますので、中国語、韓国語話者の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 テーマ:「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」 日 時:2021年3月20 日(土)午後3時~4時30分(日本時間) 方 法: Zoomウェビナーによる 言 語: 日中韓3言語同時通訳付き 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_zvTNvUl4T1CsaZmXgj6CSA お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■ 趣旨 昨年の長編アニメ『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の大ヒットは、日本の現代文化におけるアニメの強さをあらためて印象づけた。一方でアニメは大衆文化の中でも日陰の存在だった時期は長く、決して順調に発展してきたわけではない。そんなアニメが現在に至る歴史、世界的視野からみた独自性の確立、これまでにヒット・注目された作品の特徴、そしてアニメがこれからも発展し、日本を代表する大衆文化としての力を持続するための課題、展望について解説する。 ■ プログラム 司会:陳えん(京都精華大学マンガ学部専任講師) 【第1部】 講演「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」 津堅信之(アニメーション研究家、日本大学藝術学部映画学科講師) 【第2部】 対談/インタビュー:津堅信之×陳えん 【第3部】 質疑応答(会場+オンライン) ■登壇者略歴 講演者:津堅信之(Tsugata_Nobuyuki) アニメーション研究家/日本大学藝術学部映画学科講師。1968年生まれ。近畿大学農学部卒業。専門はアニメーション史だが、近年は映画史、大衆文化など、アニメーションを広い領域で研究する。 主な著書: 『日本アニメーションの力』(NTT出版/中国・韓国語でも出版) 『日本のアニメは何がすごいのか』(祥伝社新書/韓国語でも出版) 『ディズニーを目指した男 大川博』(日本評論社) 『新版アニメーション学入門』『京アニ事件』(ともに平凡社新書)など 司会者:陳えん(Chen_Yan/ちん・えん) 京都精華大学マンガ学部専任講師/2017年度渥美奨学生。北京大学学士、東京大学大学院総合文化研究科修士・博士課程単位取得満期退学。 研究領域:アニメーション史/日中アニメ・マンガ交流史/「動漫」「IP」の概念史など。研究以外、マルチクリエイター・プロデューサーとして日中コンテンツ業界にて活躍中。 ◇プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/02/J_SGRA-VCafe15_Program.pdf ◇中国語(簡体字)ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2021/02/12/sgra_cafe_15/ ◇中国語(繁体字)ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2021/02/16/sgra_cafe_15_t/ ◇韓国語ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2021/02/11/sgra_cafe_15/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
LI Kotetsu “Honor Student in the Pandemic (Part 2)”
2021年3月11日 14:18:19
*********************************************** SGRAかわらばん861号(2021年3月11日) 【1】李鋼哲「台湾、コロナ禍の中の優等生(その2)」 【2】催事紹介:日中韓三国協力事務局創設10周年記念シンポジウムシリーズ <対談>道上尚史(TCS事務局長)×張濟国(東西大学総長)(3月17日、オンライン) 【3】第15回SGRA-Vカフェへのお誘い(再送) 「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」(3月20日、オンライン) *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#662 ◆李鋼哲「台湾、新型コロナ禍の中の優等生(その2)」 その台湾は一体どのような「国」なのか?その歴史から見てみよう。 台湾は台湾本島とその周辺諸島により構成され、面積は約3.6万平方キロメートル、日本九州地方の面積(約4.4万平方キロメートル)より小さい島で、人口約2360万人(2019年)。亜熱帯や熱帯地域であるため、年中気温は高く、熱帯植物や果物など物産が豊富な「宝島」である。 そもそも台湾という「国」は歴史的にも現在も存在しない。現在の正式名称は「中華民国」(Republic_of_China=ROC)であり、1912年に中国で発生した辛亥革命により建国、アジア最初の共和国である。1949年に国共内戦で共産党軍に敗れた政府軍の国民党は、台湾に逃げて現政権を続けており、その為、実際に中国は「2つの国」が併存することになった。 歴史的に、中国の『三国志・呉志』、『隋書・流求伝』などに台湾を記録したことがあり、元代(モンゴル帝国時代)に台湾・澎湖諸島に巡検司が設置され福建省泉州府に隷属されたという。その後16世紀にポルトガル航海士が台湾島を発見し、「フォルモサ」(ポルトガル語:Formosa、福爾摩沙「美しい島」)と呼んでいたという。17世紀における大航海時代にはオランダ(1624-62)の植民地となっていたが、中国では東北(旧満州)の満州族が大清国を建国、後ほど明朝を破って政権を取ると、それに抵抗して戦っていた明朝の鄭成功将軍とその軍隊が清朝軍に追われ1661年に台湾に渡り、オランダ軍と戦い追放し、同島初の政治的実体の「東寧王国」を設立、統治していた。 しかし、清は1683年に鄭王国を破り台湾島を併合し、約210年間統治していたが、1895年に日清戦争に勝った日本が清朝との間に「下関条約」を締結、台湾を日本領に編入の上、台湾総督府を設置し50年間統治。清朝統治期間には大陸福建省中心に漢人が大量に流入し、原住民は徐々に漢人と同化し、現在の「台湾人」になったので、中台は同文同種同民族と言ってもいいだろう。 第二次世界大戦が終わる頃、中華民国(総統は蒋介石)は1945年8月に日本の敗戦で同盟国の合意のもと台湾を接収し、台湾省として自国領に編入した(「台湾光復」)。中華民国は戦勝国であったため国連創設時に常任理事国になり、1949年に台湾に移転してもその地位は維持していたが、1971年に大陸中華人民共和国が中華民国に取って代わり国連入りし常任理事国になると、台湾は国連を脱退し、国際社会では台湾を中国の一部として認め国交を断絶し、中国との国交正常化が進めてられてきた。因みに日本は1972年9月に中国と国交を樹立、中華民国との国交を断絶したたが、「財団法人交流協会(現公益財団法人日本台湾交流協会)」を設立して台湾との交流を維持している。2020年10月現在、中華民国と国交を維持している国はわずか15カ国で、いずれも中南米など小国、欧州はバチカンのみ。 1975年に蒋介石総統が死去すると息子蒋経国が政権を引き継ぎ、1987年に戒厳令を解禁(大陸と準戦争状態の終結)したが、1988年に蒋経国が死去すると、李登輝副大統領(本省人)が後を継ぎ大統領に。1990年代に民主化運動のうねりのなか、李総統は民主化を進め、1996年に初めての民主選挙を行い、民選大統領となった。2000年には「民主進歩党(本省人中心)」が初めて国民党を破り政権交代が行われ、その後2008年に国民党が再び選挙に勝ち与党になっていたが、2016年の選挙では民進党の蔡英文氏が初の女性大統領となり、昨年1月には第2期大統領に再選され現在に至っている。 台湾では民主化とともに、民衆のアイデンティティが徐々に「中国人」から「台湾人」に変わりつつある。1992年の国立政治大学の世論調査では、自分は「台湾人」と答えた人は住民の17.6%、「中国人」との答えは25.5%、「台湾人かつ中国人」との答えは46.4%だったが、2020年の同調査では、その答えはそれぞれ67%、2.4%、27.5%に大きく変わった。大陸出身者中心の国民党はその数や影響力が徐々に低下し、本省人の意識や勢力が急上昇している。 民進党は独立志向が強く、「独立」と「統一」問題を巡って、大陸と確執が続いている。国民党政権の時は「ひとつの中国」政策を重視するが、民進党政権の時はそれを認めない政策、または曖昧な政策を取っている。それに対して中国政府は、2005年に「反国家分裂法」を成立させ、台湾が「独立」を宣言したら武力行使を辞さないと、政治的・軍事的脅威を与えており、「独立」を強く牽制している。このような状況の中で、台湾では「現状維持」政策を貫いている。 一方、1990年代に台湾が大陸と交流を再開してから、両岸関係は急速に接近している。2008年12月には中台間の定期直航便が就航し、中国大陸住民の台湾観光や三通が解禁。2010年の中台トップ会談では、「両岸経済協力枠組協議」(ECFA)を締結、実質的にはFTAが結ばれている。いまや台湾の輸出額の約4割が中国大陸向けで、進出台湾企業は約10万社(2020年1-11月までの台湾対外投資の47.6%は大陸)、大陸在住の台湾人は約100万人、年間往来者数は約500万人(2019年)を超え、台湾の国際結婚の配偶者も40万人のうち26万人が大陸妹だという。 台湾経済の過度な大陸依存は「大陸に飲み込まれる」リスクを高めるだけではなく、大陸政府当局により政治的に利用される危険性も高めている。中国は台湾に対する「統一戦線」工作にこのような状況を利用するだけではなく、台湾に対する圧力にも活用している。例えば、2019年7月31日に中国文化観光省は8月から中国国内47都市から台湾への個人旅行を一時的に停止すると発表、台湾側から見れば明らかに圧力である。 また今年2月26日に、中国政府は台湾からのパイナップルの輸入を3月1日から停止すると発表、検疫で有害生物を何度も検出したためと説明。台湾ではメディアで大騒ぎになり、当局は政治的な圧力と反発している。台湾のパイナップル年間生産量の約1割が輸出、大陸向けがその95%のため、実際台湾農家への影響は必ずしも決定的とは言えない。台湾ではパイナップルの国内市場での販売拡大や他の海外市場を模索しているという。しかし台湾では、このように大陸からの圧力がある度に大陸政権への不満と「台湾人意識」の高揚が繰り返され、大陸への遠心力が働くのではなかろうか。台湾にとっては、如何に大陸への過度な経済依存度を低下させるのかが大きな課題である。 近年は米中関係の悪化に伴い、両岸関係は常に緊張状態が続いている。米国は大陸中国が台湾を「飲み込む」ことを許さず、「台湾関係法」をもとに、毎年台湾に大量の武器を提供(販売)しているが、最近では防衛的な武器から攻撃的な武器までも大量に売っているという(2020年度の武器販売は345億ドル)。トランプ政権以来米国は台湾との関係を急速に強化しているが、バイデン民主党政権になってもその政策基調は変わらない。 中国人の大量流入と国民党が中国の文化(大量の文物等)を台湾に持ち込み、中国の正当政府としての統治基盤を造ったため、台湾には中国の伝統文化が根深く浸透し、中国式建築や中華料理、服装などが普及し、「本場の中国伝統文化を体験したかったら台湾に行った方が」とまで言われている。 台湾人は日本に親近感を持つ人が多く、台湾では「哈日族」と言われる。ある台湾出身の学者の話を借りると、その理由は「台湾人からすれば、長い間外部勢力に侵略や支配されてきた経験から、大陸から来た支配者よりは、日本統治時代がましだった」という認識がその根底にあるようだ。近年、台湾から日本への旅行客は大幅増加し、2019年度の訪日客は489万人、中国と韓国に次いで3番目であり、台湾の5人にひとりが毎年日本旅行を楽しんでいることになる。私が住んでいる石川県も親台湾的な雰囲気が強く、小松空港から台北までは毎日直行便が運行しているが、それも不足して毎日2便に増やすという話が出ているほどである。 <李鋼哲(り・こうてつ)LI Kotetsu> 中国延辺朝鮮族自治州生まれの朝鮮族。1985年中央民族大学(中国)哲学科卒業後、中共北京市委党校大学院で共産党研究、その後中華全国総工会傘下の中国労働関係大学で専任講師。1991年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程単位修得済み中退後、2001年より東京財団研究員、名古屋大学研究員、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、2006年より北陸大学教授。2020年10月、一般社団法人東北亜未来構想研究所を有志たちと創設、所長に就任。日中韓+朝露蒙など東北アジアを檜舞台に研究・交流活動を行う。SGRA研究員および「構想アジア」チーム代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』(編著、2015年、日本僑報社)、その他論文やコラム多数。 ※前編(李鋼哲「台湾、コロナ禍の中の優等生(その1)」)は下記リンクよりお読みいただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/2021/16381/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介: SGRA会員の道上尚史様からオンラインイベントのご案内をいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は下記より直接お申込みください。 ◆日中韓三国協力事務局創設10周年記念シンポジウムシリーズ <対談>道上尚史(TCS事務局長)×張濟国(東西大学総長) 日中韓3国の協力促進を目的として、2011年に3か国の政府により設立された日中韓三国協力事務局(TCS)は本年で設立10周年を迎えました。この節目の年を記念して、TCS創設10周年記念シンポジウムシリーズを実施する運びとなりました。その第一弾として、道上尚史TCS事務局長と張濟国(チャン・ジェグク)韓国・東西大学総長との対談イベントをオンラインにて実施いたします。本対談では「CAMPUS_Asia(注)」「コロナと学生」「日中韓三国協力事務局(TCS)10周年」にフォーカスを当て、コロナの状況下における学生と大学側の苦労、TCSの10年間の足跡等について紹介します。中国の学生も現地から参加し、日韓の学生との交流や、学んだ点を共有します。 今年1年間展開される各種記念行事の本格的なスタートとなるイベントです。どうぞふるってご参加ください。 【日時】3月17日(水)14:00―15:30(日本時間) 【形式】オンライン(Zoom使用) 【言語】日中韓の同時通訳あり 【参加費】無料 【出席者】 道上尚史 日中韓三国協力事務局(TCS)事務局長 張濟国 韓国・東西大学総長 【事前登録】https://bit.ly/3br9fW0 事前登録していただいたメールアドレスに後日Zoom参加リンクをお送りします。 事前登録の際に頂いた発表者への質問はQ&A セッションにて優先的に取り上げられます。 (注)「CAMPUS_Asia」は政府間合意にもとづき、日中韓の大学間で2011年から実施している大規模留学プログラム。3国17組の大学コンソーシアムが組まれ、数千人もの学生が3国でのキャンパスライフを経験している。東西大学は参加大学のひとつ。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第15回SGRA-Vカフェ「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」へのお誘い(再送) 下記の通り第15回SGRA-Vカフェをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。今回は日本語⇒中国語、日本語⇒韓国語への同時通訳がありますので、中国語、韓国語話者の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 テーマ:「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」 日 時:2021年3月20 日(土)午後3時~4時30分(日本時間) 方 法: Zoomウェビナーによる 言 語: 日中韓3言語同時通訳付き 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_zvTNvUl4T1CsaZmXgj6CSA お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■ 趣旨 昨年の長編アニメ『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の大ヒットは、日本の現代文化におけるアニメの強さをあらためて印象づけた。一方でアニメは大衆文化の中でも日陰の存在だった時期は長く、決して順調に発展してきたわけではない。そんなアニメが現在に至る歴史、世界的視野からみた独自性の確立、これまでにヒット・注目された作品の特徴、そしてアニメがこれからも発展し、日本を代表する大衆文化としての力を持続するための課題、展望について解説する。 ■ プログラム 司会:陳えん(京都精華大学マンガ学部専任講師) 【第1部】 講演「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」 津堅信之(アニメーション研究家、日本大学藝術学部映画学科講師) 【第2部】 対談/インタビュー:津堅信之×陳えん 【第3部】 質疑応答(会場+オンライン) ■登壇者略歴 講演者:津堅信之(Tsugata_Nobuyuki) アニメーション研究家/日本大学藝術学部映画学科講師。1968年生まれ。近畿大学農学部卒業。専門はアニメーション史だが、近年は映画史、大衆文化など、アニメーションを広い領域で研究する。 主な著書: 『日本アニメーションの力』(NTT出版/中国・韓国語でも出版) 『日本のアニメは何がすごいのか』(祥伝社新書/韓国語でも出版) 『ディズニーを目指した男 大川博』(日本評論社) 『新版アニメーション学入門』『京アニ事件』(ともに平凡社新書)など 司会者:陳えん(Chen_Yan/ちん・えん) 京都精華大学マンガ学部専任講師/2017年度渥美奨学生。北京大学学士、東京大学大学院総合文化研究科修士・博士課程単位取得満期退学。 研究領域:アニメーション史/日中アニメ・マンガ交流史/「動漫」「IP」の概念史など。研究以外、マルチクリエイター・プロデューサーとして日中コンテンツ業界にて活躍中。 ◇プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/02/J_SGRA-VCafe15_Program.pdf ◇中国語(簡体字)ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2021/02/12/sgra_cafe_15/ ◇中国語(繁体字)ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2021/02/16/sgra_cafe_15_t/ ◇韓国語ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2021/02/11/sgra_cafe_15/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
LI Kotetsu “Honor Student in the Pandemic (Part 1)”
2021年3月4日 13:42:08
*********************************************** SGRAかわらばん860号(2021年3月4日) 【1】李鋼哲「台湾、コロナ禍の中の優等生(その1)」 【2】第15回SGRA-Vカフェへのお誘い(再送) 「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」(3月20日オンライン) *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#661 ◆李鋼哲「台湾、コロナ禍の中の優等生(その1)」 新型コロナ禍のため、今年8月に開催を予定していたアジア未来会議(AFC)は次年度に延期せざるをえなくなった。ところで、台湾の新型コロナ感染の状況はどうなのか?台湾は一体どんなところなのか?知りたい方が大勢いると思って、このエッセイを執筆することにした。 筆者は台湾に2回訪れたことがある。1回目は2000年8月、東アジア総合研究所が主催する国際シンポジウムを台北で開催。筆者はアルバイトで事務局長を務めていた。当時は中国籍だったので、台湾に行くには厳しい制限があり、1ヶ月前に申請したビザが下りるか下りないのか全く見当がつかずに待っていたが、幸い出発3日前に下りた。国際会議は無事に終了、翌日は新竹工業都市に見学に行ったが、強い台風にあってほとんど見学できずに戻ってきた。3日目は日本からの参加者(故金森久雄・日本経済研究センター顧問をはじめ著名な先生ら)一行約30名は李登輝元総統のオフィスを訪れ、2時間くらい歓談したのが一番印象に残る。 その後、2016年3月に、高雄市にある文藻外語大学に招待されてワンアジア財団の講義を行った。この時は日本国籍になっていたので、ビザも要らず、小松空港から台北の桃園国際空港までの直行便を利用。家族同伴の5日間の日程で、高雄と台北をゆっくり見学できた。高雄港を見学した時「高雄」という地名の由来を教えてもらった。日本統治時代には「打狗」(タコウ、犬を打つ)という町だったが、その読み方が日本人には「たかお」と聞こえたので、「高雄」に変更したという。台北では国父記念館を訪れ、「中華民国」の歴史と国父孫文についていろいろ勉強になった。 話を本題に戻して、台湾のコロナ禍事情はどうなんだろう?コロナ禍対策で世界一番優等生だということはニュースなどでも知られているが、その実態はどうなのか? 台湾の感染者は累計でわずか909人、死者は8人だという。 1月30日の日本経済新聞によると、台湾の衛生福利部(厚生省に相当)中央感染症指揮センターは、30日の発表で新型コロナウイルスに感染して80代の女性が29日に死亡したことを明らかにしたが、死者が出るのは2020年5月以来、約8カ月ぶりという。 台湾は、新型コロナの感染拡大を長く抑えていたが、2021年1月に入って台湾北部の桃園市の病院で院内感染によるクラスター(感染者集団)が発生した。新型コロナの治療を担当した医師や看護師、その家族が次々と感染し、これまでに19人の感染が確認されている。死亡した80代の女性もこのうちのひとりだった。台湾では、2月10日から16日まで春節の大型連休で帰省など人の往来が増える時期と重なっていたため当局の警戒感は一段と強まった。 台湾では如何にしてコロナ禍に対応したのかについては、エッセイの字数の制限で紹介できないので、台湾の方に続編をお願いしたい。 ところで、コロナ禍の中で台湾経済はどうなっているのか? 最近筆者はYouTubeを通じて、台湾の諸事情および台湾から見た国際関係、とりわけ米中両大国に挟まれた台湾の対外関係について猛勉強した。もちろん、「東アジア経済論」講義でも台湾と中国大陸との関係について講義するために資料をたくさん調べている。 まず、台湾経済はコロナ禍の中で世界での優等生ということを特筆すべき。日本のメディアでは、世界のほとんどの国でマイナス成長というコロナ禍の中、中国の2020年の経済成長率は前年比2.3%(この数字は本当なのか?と疑うが)であると大々的に報道されてはいるが、その他の国に関する報道は少ない。 実は、台湾のGDP成長率は2.98%であり、台湾では30年ぶりに大陸の成長率を上回ったという。ちなみにベトナムのGDP成長率は2.91%で2位、「4匹の小龍」と言われるシンガポール、韓国、香港などがマイナス成長の中で独り勝ちである。株価は急上昇し歴史的な記録を更新、台湾ドルも急上昇し、経済は30年ぶりの活気を取り戻したという。 その要因は、米中貿易摩擦により多くの台湾企業が大陸から戻ってきて、米国や東南アジアに投資が大幅に増えたこと、華為技術(ファーウェイ)に対する経済制裁のなかで、台湾の電子機器や部品への世界からの注文が増えていること、海外旅行していた台湾人が国内旅行に切り替えたので、海外に流れていたお金が台湾内部で流通したこと、などがある。 台湾からの海外旅行者(アウト・バンド)は2019年に1,800万人、人口わずか2,360万人の8割に達し、世界で最高のレベルだろう。そして従来約8,000億台湾ドル(約2.5兆日本円)に上った年間外貨流出が、昨年は国内旅行者延べ約2.1億人の資金が国内で回り、経済成長に貢献したという。2021年の経済成長が今の勢いで伸びれば、1人当たりGDPは初めて3万ドル台(2011年に2万ドル台突破?)に乗るだろうと予測され、先進国に並ぶ。 台湾は新型コロナ禍の対応により世界で立派な「優等生」になり、経済成長でも模範を示している。本来ならば世界保健機関(WHO)などでその経験を世界に活用すべきであると思うが、複雑で不条理な国際政治に振り回され、国連や国際社会から十分注目されないのは誠に残念なことである。(続く) <李鋼哲(り・こうてつ)LI Kotetsu> 中国延辺朝鮮族自治州生まれの朝鮮族。1985年中央民族大学(中国)哲学科卒業後、中共北京市委党校大学院で共産党研究、その後中華全国総工会傘下の中国労働関係大学で専任講師。91年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程単位修得済み中退後、2001年より東京財団研究員、名古屋大学研究員、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、06年より北陸大学教授。2020年10月、一般社団法人東北亜未来構想研究所を有志たちと創設、所長に就任。日中韓+朝露蒙など東北アジアを檜の舞台に研究・交流活動を行う。SGRA研究員および「構想アジア」チーム代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』(編著、2015年、日本僑報社)、その他論文やコラム多数。 ※本エッセイは、東アジア共同体評議会のe-論壇_百家争鳴に投稿されたものを、著者の許可を得て再掲します。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第15回SGRA-Vカフェ「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」へのお誘い(再送) 下記の通り第15回SGRA-Vカフェをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。今回は日本語⇒中国語、日本語⇒韓国語への同時通訳がありますので、中国語、韓国語話者の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 テーマ:「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」 日 時:2021年3月20 日(土)午後3時~4時30分(日本時間) 方 法: Zoomウェビナーによる 言 語: 日中韓3言語同時通訳付き 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_zvTNvUl4T1CsaZmXgj6CSA お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■ 趣旨 昨年の長編アニメ『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の大ヒットは、日本の現代文化におけるアニメの強さをあらためて印象づけた。一方でアニメは大衆文化の中でも日陰の存在だった時期は長く、決して順調に発展してきたわけではない。そんなアニメが現在に至る歴史、世界的視野からみた独自性の確立、これまでにヒット・注目された作品の特徴、そしてアニメがこれからも発展し、日本を代表する大衆文化としての力を持続するための課題、展望について解説する。 ■ プログラム 司会:陳えん(京都精華大学マンガ学部専任講師) 【第1部】 講演「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」 津堅信之(アニメーション研究家、日本大学藝術学部映画学科講師) 【第2部】 対談/インタビュー:津堅信之×陳えん 【第3部】 質疑応答(会場+オンライン) ■登壇者略歴 講演者:津堅信之(Tsugata_Nobuyuki) アニメーション研究家/日本大学藝術学部映画学科講師。1968年生まれ。近畿大学農学部卒業。専門はアニメーション史だが、近年は映画史、大衆文化など、アニメーションを広い領域で研究する。 主な著書: 『日本アニメーションの力』(NTT出版/中国・韓国語でも出版) 『日本のアニメは何がすごいのか』(祥伝社新書/韓国語でも出版) 『ディズニーを目指した男 大川博』(日本評論社) 『新版アニメーション学入門』『京アニ事件』(ともに平凡社新書)など 司会者:陳えん(Chen_Yan/ちん・えん) 京都精華大学マンガ学部専任講師/2017年度渥美奨学生。北京大学学士、東京大学大学院総合文化研究科修士・博士課程単位取得満期退学。 研究領域:アニメーション史/日中アニメ・マンガ交流史/「動漫」「IP」の概念史など。研究以外、マルチクリエイター・プロデューサーとして日中コンテンツ業界にて活躍中。 ◇プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/02/J_SGRA-VCafe15_Program.pdf ◇中国語(簡体字)ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2021/02/12/sgra_cafe_15/ ◇中国語(繁体字)ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2021/02/16/sgra_cafe_15_t/ ◇韓国語ウェブページ http://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2021/02/11/sgra_cafe_15/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************