SGRAメールマガジン バックナンバー

  • YUN Jae-un “The Fall of Kabul: The End of an Era”

    *********************************************** SGRAかわらばん899号(2021年12月2日) *********************************************** SGRAエッセイ#689 ◆尹在彦「『カブール陥落』、一つの時代の終焉」 8月15日、タリバン勢力によるアフガニスタンの首都、カブール陥落はある種の「時代の終焉」を見せつけているような気がした。20年前には「CNN」に代表される欧米系のメディアでしか見られなかった現地の様子は、アフガンの個々人のSNSアカウントから時々刻々と発信された。これは20年という時代の変化とともに何らかの不変さを感じさせた。変化とは技術的な意味で、不変はアフガン政治体制のもろさのことである。昨年以降、タリバンが勢いづいて勢力を急拡大していた事実は日本や米国の報道から知っていたが、体制崩壊はあまりにも早かった。米軍がそう簡単に撤退するとも思えなかった。しかし、いつの間にかカブールは我々の脳裏から消えていき、タリバンはアフガンの「正当な」統治勢力と化している。 私は2003年に大学へ入学した。当時はいわゆる「テロの時代」だった。「9・11テロ」(2001年)の衝撃と米国の対応(報復)、即ちアフガン・イラク戦争の影響は韓国にも及んでいた。9・11テロを生中継で目撃した数多くの一人として、想像を絶する「非日常の風景」に衝撃も受けた。米国のアフガン攻撃は当然視され、世界的にも米軍支持が次々となされた。当時はあの北朝鮮ですらテログループを非難し犠牲者を追悼する声明を出すほどだった。戦場と化したアフガンの聞きなれない地名で米軍は勝利を収め続けた。タリバンはあっけなくアフガンから駆逐されたように見えた。戦争の名目はタリバンがテロの首謀者、オサマ・ビンラディンをかくまったということだったが、戦争の最後まで目的を達成することはなかった(彼は隣国のパキスタンで捕まる)。 米国は気勢を上げ「大量破壊兵器(WMD)」疑惑を理由にイラクへ侵攻する。これがちょうど2003年だった。韓国の大学では当時いわゆる「学生運動勢力」がそれなりに力を有していた。キャンパス内ではイラク戦争への反対を訴える垂れ幕も散見された。それまで米国の軍事活動を概ね支持してきた韓国世論も、イラク戦争に対しては賛否両論が激しく対立していた。アフガン戦争とは違って、どうしても戦争の正当性が見当たらなかったからだ。2003年5月にブッシュ米大統領の「終戦宣言」で終わったように見えたイラク戦争は泥沼化していく。私は最初からイラク戦争には反対だったが、今、振り返ってみると戦争を多少変わった観点から見た時期もあった。2005年からの2年3か月の軍人時代(兵役、空軍)だ。 韓国政府は米国の支援要請を受け、軍事派遣を進めるか否かで相当迷っていた。派兵を反対するデモも繰り返し行われた。韓国内の対米感情は悪化の一途を辿り、ブッシュに対しても多くの批判がなされた。単純に進歩系市民団体だけでなく、米国の「一方主義」に拒否感を覚えた人々が多かった。陸軍部隊等の大規模派遣が決定された後には「それでもどこが安全か」という議論に移った(余談であるが、日本でも似たような論争は存在していた。しかし議論自体は韓国より比較的落ち着いた中で進められる。その背景には北朝鮮による拉致問題があったが、詳細については割愛する)。 私の「日常史」がイラク戦争に「出くわす」のは、ちょうど戦争の泥沼化が始まったこの時期だった。「イラク派遣の兵士を募集する」という内容の通達文が全軍に伝播された。基本的には陸軍兵士が中心だったが、クウェートに空軍部隊の展開も予定されていた。兵士の間では「今の何十倍ものお金がもらえる」ということで話題にもなった。当時の給料は平均月1万円前後だったからだ(現在は賃上げの影響で増額)。それがイラクに行くだけで、約2000ドル(約20万円)になるということだった。軍内部のインターネット(イントラネット)のメールマガジン(ニュースレター)には「平和的に現地住民と過ごす兵士の写真」が数回にわたり掲載される。応募することはなかったが、それにしても戦争がそれなりに身近にあった。それ以降、北朝鮮の初の核実験(2006年10月)も軍隊で経験したため、当時の「安保情勢」はある意味、「自分の問題」でもあった。そのせいか、今でもこの前後の時代に対し学問的な関心を持っている。 全世界が目撃しているように、アフガン・イラクの安定化は失敗に終わろうとしている。イラクでは「イスラム国」をはじめ、とても安定とは言えない情勢である。アフガンのカブール陥落と空港での大惨事はその象徴だった。米国はイラクとアフガンの再建や民主化を名目に莫大な金銭的かつ技術的な援助及び軍事支援を進めてきたが、現在、自国内でもアフガン戦争を評価する声は高くないようだ。 個人的にカブール陥落後、米国内の動きで特に印象深かったのは、アフガン戦争の開戦を最後まで反対した米民主党の下院議員(バーバラ・リー)の演説だった。リー議員は、9・11テロ直後の議会で大統領にテロ対応のための絶大な権限を付与する決議に対し「軍事行動によってさらなるテロを防ぐことはできない」「どんなに困難な採決でも、だれかが抑制を訴えなければならない」と主張した。しかし、むなしくも採決の結果、上院では98対0、下院では420対1で議決は可決された(『朝日新聞』2021年8月12日)。にもかかわらず、ちょうど20年が経った今、この反対意見はこれからの世界の「教訓もしくは反面教師」として残った。 ただし、「20年」は変化をもたらすための時間としては極めて短い気もする。民族的構成が比較的単純な韓国や台湾でも、冷戦期の独裁体制から抜け出し民主化を定着させるまで40年以上の年月を要した。そのため、おそらく変化したことがあるとすれば、それは米国がもはや時間の経過を耐える「忍耐力」が低下した事実かもしれない。これこそ、「一つの時代の終焉」を意味するのだろう。 <尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jae-un> 一橋大学法学研究科特任講師。2020年度渥美国際交流財団奨学生。2021年、同大学院博士後期課程修了(法学)。延世大学卒業後、新聞記者(韓国、毎日経済新聞社)を経て2015年に渡日。専門は日韓を含めた東アジアの政治外交及びメディア・ジャーナリズム。現在、韓国のファクトチェック専門メディア、NEWSTOFの客員ファクトチェッカーとして定期的に解説記事(主に日本について)を投稿中。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • YUAN Xiaoyu “Future Research Agenda”

    *********************************************** SGRAかわらばん898号(2021年11月25日) 【1】元笑予「日本と中国のいじめ問題―これからの研究課題」 【2】寄贈本紹介:楼慶西著、李暉・鈴木智大訳『中国の建築装飾』 【3】SGRAレポート『岐路に立つ日韓関係』(日韓合冊版)ご紹介 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#688 ◆元笑予「日本と中国のいじめ問題―これからの研究課題」 近年、日本では子どもの間のいじめでパソコンや携帯電話等が使われることは珍しくない。「ネット上のいじめ」とは、携帯電話やパソコンを通じてインターネット上のウェブサイトの掲示版などに特定の子どもの悪口や誹謗・中傷を書き込んだり、メールを送ったりするなどの方法により、いじめを行うものを意味する。一方、いじめを受けた子どもがツイッターやLINE上でつぶやいたSOSが「放置」され、自殺という最悪の事態に至ってしまうこともあった。 さらに、子どものいじめや自殺などの相談にSNSのLINEを使ったところ、電話よりも相談件数が増えることが分かった。「SNSは若者にとっていちばん身近なので、相談に活用できるよう対応することが必要だ」と言う意見も強い。いじめの防止につなげようと、千葉市の市立中学校は2016年度から子どもたちが毎日持ち歩く生徒手帳に、いじめに遭ったり目撃したりしたときの対応やネット上の相談窓口を記載する取り組みを始めたという。ネットいじめを低減する重要な要因、解消のために必要な要因は何であると考えられるのだろうか。教育者にとって、この点を明らかにすることが喫緊の研究課題である。 中国では2017年に国家教育部が初めて「いじめ」の定義を明確に示したが、その後の対策はまだはっきりとしていない。中国でいじめ問題に人々が関心を寄せるようになったのは、ごく最近のことにすぎない。長い間、多くの中国人は子どもの間のいじめは免れられないことであると考えていた。一学年に250名くらいの児童・生徒が在籍しているとの報告があり、生徒数が多いことが影響していると考えられる。 いじめが起こる場面では傍観者が最も多い。傍観者の多くは、いじめをする人が悪いと思い、いじめられている人はかわいそうな人であると思っているが、どうしたら良いか分からないという状態にある。中国では、多くの児童・生徒は学校側からいじめについて認識を尋ねられた場合に、知りうるすべての真実を学校側に伝えると答えている。いじめを傍観している児童・生徒は、いじめを解決する上で鍵となる人物といえる。いじめが先進国ほど表面化していない中国においては、学級づくりでは多くの傍観者を取り込んで、良い雰囲気を構築することが極めて重要なことであり、いじめを減らす有効な方法になると考えられている。 良い雰囲気の学級を作ることはいじめの予防教育につながる。日本でも、いじめの早期発見と早期対応を促す教師のあり方として、教師が子どもに信頼されることと共に、教師の意識を変えることが必要であると指摘されている。いじめがないことを前提に児童・生徒たちに接するのではなく、いじめが存在する可能性を前提として子供に接することで、早期に的確な対応を取ることが可能となる。これからの研究課題は、教師がいじめをどのように把握するか、教室全体がいじめ防止・抑止に結び付く雰囲気をどのようにつくり出すかという点になるといえる。 <元笑予(げん・しょうよ)YUAN Xiaoyu> 2008年来日、中国南開大学の日本語学科を卒業して、埼玉大学教育学部の研究生、修士を経て、東京学芸大学大学院で2020年9月に教育学博士号を取得。専門は教育心理学。現在、玉川大学教育学部非常勤講師として勤務しながら、東京学芸大学個人研究員として研究を進めている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員で奈良文化財研究所アソシエイトフェローの李暉さんからご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆楼慶西著、李暉・鈴木智大訳『中国の建築装飾』 中華世界の中心である紫禁城などの宮殿建築から、四合院といった伝統的住宅に至るまで、中国建築の屋根、扉・窓、基壇等に施された建築装飾を、彩色・彫刻・文様ほかあらゆる側面から分かりやすく読み解く。中国建築史研究の大家による詳細な解説とオールカラーの美麗な写真により、豊富な具体例を示しながら、時代や地域を越えた中国建築の歴史、さらにそれらの底流にある中国文化に対する理解をも深める一書。 日本語版オリジナルの各種索引(建築用語等、建築物・庭園、地名)を完備。さらに訳者による「中国建築用語解説」を掲載し、レファレンスとしても有用。 発行:科学出版社東京(株) 発売:(株)国書刊行会 発売日:2021/07/21 判型:B5判 ISBN:978-4-336-07234-4 ページ数:263頁 Cコード:0052 定価8,580円(本体価格7,800円) ※詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336072344/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】SGRAレポート第95号『岐路に立つ日韓関係』(日本語・韓国語合冊版)のご紹介 SGRAレポート第95号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。SGRA賛助会員と特別会員の皆様は冊子本をお送りしました。会員以外でご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。 第19回日韓アジア未来フォーラム講演録 ◆『岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか』 2021年11月17日発行 http://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report95.pdf <フォーラムの主旨> 歴史、経済、安保がリンケージされた複合方程式をうまく解かなければ、日韓関係は破局を免れないかもしれないといわれて久しい。日韓相互のファティーグ(疲れ)は限界に達し、日韓関係における復元力の低下、日米韓の三角関係の亀裂を憂慮する雰囲気は改善の兆しを見せていない。尖鋭な対立が続いている強制徴用(徴用工)及び慰安婦問題に関連し、韓国政府は日本とともに解決策を模索する方針であるが、日本政府は日本側に受け入れられる解決策をまず韓国が提示すべきであるという立場である。なかなか接点を見つけることが難しい現状である。 これからどうすればいいか。果たして現状を打開するためには何をすべきなのか。日韓両国政府は何をすべきで、日韓関係の研究者には何ができるか。本フォーラムでは日韓関係の専門家を日韓それぞれ4名ずつ招き、これらの問題について胸襟を開いて議論してみたいと考え、日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行った。 <もくじ> 第1部:講演および指定討論 【講演1】岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか----日本の立場から 小此木政夫(慶應義塾大学名誉教授) 【指定討論1】小此木先生の講演を受けて 沈揆先(ソウル大学日本研究所客員研究員) 【講演2】岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか----韓国の立場から 李元徳(国民大学教授) 【指定討論2】李元徳先生の講演を受けて 伊集院敦(日本経済研究センター首席研究員) 第2部:自由討論 金志英(漢陽大学副教授)、西野純也(慶應義塾大学教授)、小針進(静岡県立大学教授)、朴栄濬(国防大学教授) 第3部:質疑応答 司会アシスタント 金崇培(忠南大学招聘教授) あとがきにかえて 金雄煕(仁荷大学教授) ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • KABA Melek “Third Year Japanese Language Education Students and Whereabouts of the Servant of RASHOMON”

    *********************************************** SGRAかわらばん897号(2021年11月18日) 【1】エッセイ:カバ・メレキ「日本語教育学部3年生と『羅生門』の下人の行方」 【2】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(11月20日オンライン)(最終案内) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 *********************************************** 【1】 SGRAエッセイ#687 ◆カバ・メレキ「日本語教育学部3年生と『羅生門』の下人の行方」 私は今、トルコ西部に位置するチャナッカ市のチャナッカレ大学の日本語教育学部で教えています。この街にまつわる伝説は「トロイの木馬」です。 ここの学生は1年目に日本語予備クラスから始め、4年間の学部教育を経て、受かれば日本語教育の分野で修士課程に入学できます。私が担当している授業は学部3年生の「日本文学」です。 3年生の「日本文学」は、日本語教師として卒業が見込まれる学生にとっては「どうでもいい」授業だったようです。トルコでは日本文学の専門家は5本の指で数えたら、ちょうどの数になります。6人目は誰になるか待ち遠しいと言える状態がいつまで続くか分かりません。そのような環境ですから、3年生の「日本文学」は作家と作品の羅列で行われてきたようです。 チャナッカレ大学に転任して授業開始の週に3年生と初めて顔を合わせた日は忘れがたい思い出になりました。一昨年の秋でした。静かな教室、「はい、こんにちは!日本文学担当です」大きく目を開けた21歳前後の33人。「教育実習が忙しいから先生の話なんかどうでもいい」とは言わないが、言わなくてもそう言いたい顔です。しかし、こちらも負けるつもりはありません。 最初の授業から完全に日本語を使用。学生は驚く。後から聞いた話では「いつまで日本語で話すのかな」と、授業が終わったら「メレキ先生」のうわさ話をたっぷりしたようです。実際、1年目の日本語予備クラスが終わってからは日本語を使うことは少なくなり、3年生になると日本語教師になるための教育関係の授業が多く、日本語は勉強しなくなってきて、そのうち、日本語は一部の理論的な授業でしか使わない「死んだ言語」として認識されるようになっていたようです。それはクラスの雰囲気でも分かりました。 しかしながら、21歳の33人が「面白いこともなき世を面白く」生きるために日本文学は丁度良かったです。 一般的な日本文学の授業は一切行いませんでした。作家論だとか、自然主義の代表作家とか、平安朝の女流作家の名前を並べることもなかったです。芭蕉がいつ生まれたかも覚えさせませんでした。 『吾輩は猫である』は漫画バージョンを配り、「くしゃみ先生」の真似をしました。日本語で聞いた授業内容に笑う学生。それこそが「日本文学」という授業のゴールでした。漱石の話は主人公の「猫」で盛り上がりました。「猫の視線で教室を見て、それを日本語で表現しなさい」と言うと、学生は少し動きました。「猫になって見る日本文学の授業」のことを夜宿舎で話し合ったり、おかしくて笑ったりしたようです。 その後、『蜘蛛の糸』を読むときは女子大生のアイチャさんに「自分がカンダタだったら」の文の続きを考えてくださいと指示すると、「もしかしたら、自分も他の人を蹴って地獄の底に落として、自分だけ助かりたいと思ったかも」と発言します。芥川ファンが増えました。『鼻』を読む時は、「仲間の欠点に喜ぶ、見下すことで喜びを得た経験がありますか」と議論を始めたら、いつの間にか盛り上がります。騒動まで行かないですが、緊張感たっぷりの議論が続きます。 『羅生門』の下に来てびしょ濡れになった「下人」は善と悪の行動のどちらに走るかはかなり迷います。死体の髪の毛を抜くという場面設定。グロテスクで生臭い人間の内面を話し合いました。あなたは飢え死にするか、死体の髪の毛を抜いて鬘(かつら)を作るために売るか。このような質問をしたら、人間の気持ちと心の底の話が、「日本語でできるんだ」という実感が湧いてきました。登場人物の「下人」の心の闇が21歳の中東の若者にとって、なぜか身近な気持ちを抱かせたのかもしれません。海外とか、遠いどこかを夢見ていることもよく授業中に学生から持ち出される話題です。トルコの若者たちにとって、「下人」と彼がずっと気にするニキビのニュアンスも面白かったです。「ニキビ」は生物学的なものではなかった、テキスト分析をする時に、「主人公の体の動きも意味を持つ」と教えたら、「人生のこれからに対して抱く不安を芥川は「下人」のニキビを媒介に描いている」という結論に至りました。 驚くことに学生はそのうち「大宰派」と「芥川派」に分かれてしまいました。内気で恥ずかしがり屋グループは「太宰」でした。『人間失格』はトルコ語訳と日本語漫画バージョンを共に読む課題を出しました。「芥川」は比較的に話好きな学生のアイドルでした。現在、その時の3年生と芥川龍之介の短編集をトルコ語に訳しています。 3年生の「日本文学」の授業は人間の心の底に、日本語で話せるようになった科目でした。羅生門から出た下人の行方は分かりませんが、3年生は日本文学を通して日本語で人間を眺めることは少しできるようになったかもしれません。 <カバ・メレキ KABA_Melek> 2009年度渥美奨学生。トルコ共和国チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学日本語教育学部助教授。2011年11月筑波大学人文社会研究科文芸言語専攻の博士号(文学)取得。白百合女子大学、獨協大学、文京学院大学、早稲田大学非常勤講師、トルコ大使館文化部/ユヌス・エムレ・インスティトゥート講師、トルコ共和国ネヴシェル・ハジュ・ベクタシュ・ヴェリ大学東洋言語東洋文学部助教授を経て2018年10月より現職。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(最終案内) 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式ですので、お気軽にご参加ください テーマ:「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 日時:2021年11月20日(土)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(京都時間) 方法:Zoom_Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、北京大学日本文化研究所、清華東亜文化講座、 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_oefAUZ69QMaxwXm1GvLrjw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりとして、「アジアという空間が翻訳・留学などによっていかに作られたのか?」さらに、その時空間において「modernやglobalizationなどがいかなる生活様式・思考様式の変容をもたらしたのか?」を概念語や日常語の視点からいかに捉えるのかを検討する。 ■プログラム 総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部) 開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団) 挨拶:野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 講演:山室信一(京都大学名誉教授) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 コメント:王中忱(清華大学中国文学科)、劉暁峰(清華大学歴史系)、趙京華(北京第二外国語学院)、林少陽(香港城市大学中文及歴史学科) 閉会挨拶:王中忱(清華大学中国文学科) ■講師からのメッセージ 討議では、まずアジアというヨーロッパから与えられた空間概念が、いかにして当該空間に住む人々によって自らのアイデンティティーの対象となっていったのか、を翻訳や留学などによる思想連鎖の中で生まれた意義について考えたいと思います。そこではローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルという4つの空間層と思想の存在態様をいかに関連させて捉えるか、という問題が重要になってきます。 次に、そうして生まれたアジアという空間の中で、人々の生活様式はどのように変容していったのか、を近代と現代という「二つのモダン」の次元で検討したいと思います。そこではモダン・ガールが髪や服装の長短の変化と関連して毛断嬢や裳短嬢などと表記されるなど、どのようなモダン語などで表象され、それが写真や絵画・漫画などでいかに視覚化されたのか、が重要な鍵となります。 こうした議論を通して、アジアにとってモダンやグローバリゼーションさらにはアメリカニズムとは何だったのか、を検討したいと思います。その討議においては、単に思想や研究の次元の問題に限らず、広く社会生活のありかたとしてのway_of_lifeを考え直すための意見交換ができればと願っております。ここにはウイズ・コロナ時代におけるアジアとそこでの生活様式・思考様式を展望することも含まれるはずです。 今回の討議では、空間と社会生活と言葉(概念や流行語)という3つの次元をいかに結びつけていくのか、という方法論を模索するなかで「思想連鎖」や「思詞学」という研究視角を提言するに至った経緯についても触れ、忌憚のない御批判を戴きたいと切望しています。 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/J_SGRAChinaVForum15.pdf 中国語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/C_SGRAChinaVForum15.pdf ポスター http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/16thSGRAchinaForumV10(Medium).png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ 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  • XIE Zhihai “Private Companies Leading the Way to a Decarbonized Society”

    *********************************************** SGRAかわらばん896号(2021年11月11日) 【1】謝志海「脱炭素社会を先導する民間企業あれこれ」 【2】国史対話エッセイ「鄭潔西『歴史と私―私の対外関係史研究の道のり―』」紹介 【3】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(11月20日オンライン)(再送) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 *********************************************** 【1】 SGRAエッセイ#686 ◆謝志海「脱炭素社会を先導する民間企業あれこれ」 前回のSGRAかわらばんで、レジ袋をもらわないことによってエコになるかどうか、個人に環境問題を問うたが、日々の生活で痛感するのは地球の温暖化をくい止めるのは個人だけでは難しいということだ。 日本政府は今年4月の「気候変動サミット」で、2030年までの二酸化炭素排出量削減目標を2013年度比46%減とする新目標を発表した。これは日本政府がパリ協定後に国連に提出した削減目標の2013年比26%減から大幅な引き上げだ。同サミットでの米国の目標は2030年までに2005年比で50~52%削減。中国は2030年までにGDPあたりの二酸化炭素排出量を2005年比65%以上削減することや、2060年のカーボンニュートラル実現を掲げている(ジェトロ調査レポートより)。 日本がこの数値を達成するには、我々は今の暮らしをどのように、そしてどのくらい変えなければならないのか正直わからない。政府の掲げたこの大きな目標と、同じく政府が打ち出したプラスチック使い捨て品の有料化が国民にうまくリンクしていない。あくまでも私の推測だが、学校教育ではしっかりSDGsという大きな枠組みを教え、学校生活を通じ学内でリサイクル品の分別など行うことで、環境問題に真剣に取り組んでいると思う。しかしすでに成人し、社会で働いている人々は日々の忙しさにかまけて、環境問題なんて二の次のような人も多いのではないか。 その理由としては2つあると思う。まず社会人の新聞、テレビ離れの激しいこと。誰もが自分の欲しい情報しか取りにいかないので、環境問題に興味の無い人にはエコな情報など皆無であろう。もう一つは捨てられた家庭ごみの山からもわかるが、今でも生ゴミの日にダンボールやペットボトルを出す人があとをたたない。(住んでいるエリアによってごみ分別の意識が違うことは重々承知している。都会に住む人は人の目が多いからか、ごみ分別はしっかり行っているように感じる)環境問題を真摯に受け止め、行動する市民がどれだけ頑張っても、2030年に二酸化炭素排出量が今より数十パーセントも減るとは推測しにくい。 しかし、「日本はすごい!」と思うのは、政府と市民の間にどれだけ大きな隔たりがあっても、民間企業はいつだって頑張っているし、民間企業がそれぞれ独自の環境問題への取り組みを行っているところだ。私は日本が目標に近いレベルまで到達できるのも夢ではないかもしれないと期待している。挙げるときりがないが、私が感動したいくつかの企業の環境問題への取り組みを紹介したい。 まず、プラスチック(PETボトル)の循環利用事業を構築した三菱商事。なにがすごいのかと言うと、リサイクルするのがキャップラベルを外され、ボトルの中がきれいなものだけでなく、ラベルやキャップはそのまま、ボトルには飲み残しが入ったままという質の悪いものをもリサイクルできる手法(ケミカルリサイクル技術)をスイスの企業から取り入れ、三菱商事と付き合いの古い台湾の企業と協業し、タイで再生PET樹脂の製造に取り組むことができるまでにしたこと。商社の強みを活かして環境問題を解決に向けた好例だと思う。さらに全く同じ手法を用いた事業を日本でも立ち上げたそうで、期待が高まる。 ここで気になるのが、工場が稼働に必要とするエネルギーではないだろうか。エコなことをして電力を使い、CO2を排出しているようでは元も子もない。三菱商事は2020年に欧州で総合エネルギー事業を展開する会社を中部電力と共に買収し、低炭素社会へ向け次世代の電力事業モデルを構築しようとしている。欧州では遠浅の地形を活かし、洋上風力発電が日本より進んでいるし、消費地の近くで小規模な発電を行う分散型太陽光発電の新規事業に取り組んでいる。エネルギーの地産地消モデルなどを日本に持って来ることができれば、日本国内でCO2の排出が抑えられるだろう。 商社だけが多角的に環境問題に取り組んでいるかというと、そうではない金融サービス業で知られるオリックスは再生可能エネルギー事業にも注力している。オリックスのすごいところは、グループ全体を通してのモニタリング力である。オリックスグループとして2020年3月末時点で、国内において約130万トンのCO2を排出していた。一方、同社がグローバル展開する再生可能エネルギー事業を通じ、約300万トンのCO2排出量の削減を可能にした。この再生可能エネルギー源の内訳としては、風力、地熱、太陽光発電がメインで、太陽光発電においては大規模な太陽光発電所やメガソーラーを日本国内でも100カ所ほど設置し、風力発電や地熱発電は欧州、北米、アジアの企業に出資している。 もちろんこの2社だけでなく、数多くの会社が脱炭素社会を意識した経営をしていて、どれも自社の事業とうまく組み合わせており、感心するばかりだ。何より素晴らしいと思うのは、天然資源の少ない日本だからと諦めずに、海外で先行する再生エネルギー会社を開拓し、パートナーシップを結び協業していること。その知見から、例えば、日本の深い海では不向きの洋上風力発電を、海面に浮かべた状態で風車を設置するという開発を行っている。日本の地形を嘆くだけで終わらせないところがすごい。 このように企業の取り組みを一つずつ見ていくのはとても興味深い。今我々にできることも浮き彫りになってくる。とりあえず私はペットボトルを空にしたら、ラベルを剥がしゴミ箱へ、キャップとボトルはそれぞれのリサイクルボックスへ分別しようとここに誓う。 この論考を書くにあたり、下記の情報を参照しました。 三菱商事 電力ソリューショングループ https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/bg/power-solution-group/ オリックス株式会社 サステナビリティレポート https://www.orix.co.jp/grp/pdf/company/sustainability/sustainability_report/SR2021J.pdf <謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai> 共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】国史対話エッセイのご紹介 10月7日に配信した国史対話メールマガジン第35号のエッセイをご紹介します。 ◆鄭潔西(寧波大学)「歴史と私―私の対外関係史研究の道のり―」 最初に歴史と出会ったのは、中学校の頃だった。1990年代の前半、県内の中学校に入学していた私は、普段は寮に住み、月に2回くらい田舎にある実家に帰っていた。初夏のある週末に、実家で文化大革命から生き延びた古紙の小山を漁ったとき、一冊の糸綴じの『綱鑒易知録』(編者注:こうかんいちろく/清代後期の歴史書)の「明紀」の部分を見つけた。当時はすでに中国語授業で古文の基礎を学んでいたが、分からない繁体字がまだ多かった。小学校卒業の両親から役に立つ助言を得られなかったので、半分推測でかろうじて理解できる一部の段落だけを追っていった。皮相な理解にすぎなかっただろう。が、学校では決して教わらない歴史の細部を知ることができたのは、当時の私にとって至上の喜びだった。『綱鑒易知録』との邂逅は歴史に関する知識の自己学習の契機になった。自主的な史学経典の読み漁りを通じて、私は歴史研究の基礎体力をつけた。それも後に私が万暦朝鮮戦争(文禄・慶長の役)を中心とする明代の対外関係史を主な研究テーマとして選んだきっかけだった。 続きは下記リンクからお読みください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2021ZhengJiexiEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバーおよび購読登録は下記リンクをご覧ください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式ですので、お気軽にご参加ください テーマ:「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 日時:2021年11月20日(土)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(京都時間) 方法:Zoom_Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、北京大学日本文化研究所、清華東亜文化講座、 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_oefAUZ69QMaxwXm1GvLrjw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりとして、「アジアという空間が翻訳・留学などによっていかに作られたのか?」さらに、その時空間において「modernやglobalizationなどがいかなる生活様式・思考様式の変容をもたらしたのか?」を概念語や日常語の視点からいかに捉えるのかを検討する。 ■プログラム 総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部) 開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団) 挨拶:野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 講演:山室信一(京都大学名誉教授) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 コメント:王中忱(清華大学中国文学科)、劉暁峰(清華大学歴史系)、趙京華(北京第二外国語学院)、林少陽(香港城市大学中文及歴史学科) 閉会挨拶:王中忱(清華大学中国文学科) ■講師からのメッセージ 討議では、まずアジアというヨーロッパから与えられた空間概念が、いかにして当該空間に住む人々によって自らのアイデンティティーの対象となっていったのか、を翻訳や留学などによる思想連鎖の中で生まれた意義について考えたいと思います。そこではローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルという4つの空間層と思想の存在態様をいかに関連させて捉えるか、という問題が重要になってきます。 次に、そうして生まれたアジアという空間の中で、人々の生活様式はどのように変容していったのか、を近代と現代という「二つのモダン」の次元で検討したいと思います。そこではモダン・ガールが髪や服装の長短の変化と関連して毛断嬢や裳短嬢などと表記されるなど、どのようなモダン語などで表象され、それが写真や絵画・漫画などでいかに視覚化されたのか、が重要な鍵となります。 こうした議論を通して、アジアにとってモダンやグローバリゼーションさらにはアメリカニズムとは何だったのか、を検討したいと思います。その討議においては、単に思想や研究の次元の問題に限らず、広く社会生活のありかたとしてのway_of_lifeを考え直すための意見交換ができればと願っております。ここにはウイズ・コロナ時代におけるアジアとそこでの生活様式・思考様式を展望することも含まれるはずです。 今回の討議では、空間と社会生活と言葉(概念や流行語)という3つの次元をいかに結びつけていくのか、という方法論を模索するなかで「思想連鎖」や「思詞学」という研究視角を提言するに至った経緯についても触れ、忌憚のない御批判を戴きたいと切望しています。 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/J_SGRAChinaVForum15.pdf 中国語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/C_SGRAChinaVForum15.pdf ポスター http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/16thSGRAchinaForumV10(Medium).png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 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  • LIM Chuan-Tiong “This is how the 345 Siege was Created”

    *********************************************** SGRAかわらばん895号(2021年11月5日) 【1】林泉忠「『三四五中国包囲網』はこうして作られた」 【2】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(11月20日オンライン)(再送) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 *********************************************** 【1】 SGRAエッセイ#685 ◆林泉忠「『三四五中国包囲網』はこうして作られた」 (原文は『明報』筆陣(2021年9月20日)に掲載。平井新訳) 米国、英国、オーストラリアは9月15日、「AUKUS」という名の3ヵ国軍事同盟を発足させると発表した。この同盟の現時点での目標は、中国をけん制することを目的としたオーストラリアの原子力潜水艦隊の建造、整備に重点を置いている。これはバイデンが大統領に就任して以降、米国が強化してきた「自由で開かれたインド太平洋戦略」や、民主主義国家が連帯して中国に対抗するための一連の行動の中で最新の展開である。そしてAUKUSは、「日米豪印戦略対話」(Quad)および英米カナダ豪ニュージーランドの「ファイブ・アイズ」(Five_Eyes,_FVEY)とともに、筆者が呼ぶところの「三四五中国包囲網」を構成しているのである。 ○中国を狙う「AUKUS三カ国同盟」 新しく発足したAUKUSや既存のQuad、Five_Eyesがそれぞれ有している機能や果たす役割は、全く同じというわけではない。Five_Eyesの重点は国際情報の共有にはっきりと置かれているが、Quadが関わる範囲はより広い。現時点でQuadは共同軍事演習を行ってはいるものの、その重点はインフラの整備、チップやレアアースの供給を確保するための半導体産業網のほか、ワクチン産業網、気候変動への対応、先端科学技術、そして宇宙領域などの非軍事的な協力にある。これに対してAUKUSは軍備の強化やサイバーセキュリティ、AI技術の応用、さらには海底防御能力の強化などの面における協力に重きが置かれている。 オーストラリア政府のホームページに掲載された資料によれば、AUKUSの目標のなかで最も注目すべき点は米英との協力によってオーストラリアに少なくとも8隻の原子力潜水艦を配備するという重大計画である。さらに注目に値するのは、こうした計画の歴史的意義は軽視できないということだろう。計画がひとたび予定通り実行され、新しい原子力潜水艦が予定通りに進水されることになれば、オーストラリアの原子力潜水艦は正式な艦隊を成す軍となり、10年後のインド太平洋地域は世界の原子力潜水艦の競争の中心となることを意味する。 世界に戦略があいまいな軍事同盟など存在しない。まして「米中新冷戦」が叫ばれている昨今においては言うまでもない。バイデン大統領は英国のボリス・ジョンソン首相、オーストラリアのスコット・モリソン首相との3者で開催したオンライン記者会見において、「3者はみなインド太平洋地域の長期的な平和と安定を確保することの必要性を意識している」との認識のみを示し、中国に直接言及することはなかった。しかし、この新しい協力枠組みの最も直接的な目的が「日増しに増大する中国の軍事的脅威」に対するものだということは、誰の目にも明らかである。 ○AUKUSとQuadの戦略上の分担 AUKUS計画における最新鋭の原子力潜水艦の主な特徴は、遠距離航行に適しているため、途中給油などの諸々の懸念が大幅に減少したことによって、水面に浮上した際にレーダーで探知されるリスクが減少したことである。さらに重要なのは、この新しい原子力潜水艦の航続距離である。南シナ海全域を航続できるだけでなく、台湾海峡にもたどり着くことができる。そのため、この計画が中国の南シナ海での行動や、台湾海峡の安全保障の態勢に対していかなる圧力と挑戦をもたらすのかは言わずもがなである。 「AUKUS三カ国同盟」の成立が現時点でもたらす即時的な影響は主に2点ある。 まず、AUKUSはバイデンが大統領に就任して以降取り組んできた「権威主義的な中国の拡大に対抗する」ため民主国家同盟を形成するというこれまでの戦略が、すでに対中国の新たな軍事同盟を直接構築するという域に達したことを意味する。 バイデンは大統領に就任して以降、対中国の「インド太平洋戦略」を強化するために、一方では中国封じ込めの戦線を欧州、特に北大西洋条約機構(NATO)にまで広げようと積極的に試みてきたが、東アジアから遠く離れた欧州の国家全てが、対中国のインド太平洋問題に関与することを望んでいるわけではないことも理解している。そのため、バイデンはやはり同盟形成の重点をインド太平洋地域の範囲内に戻すほかなかった。このような戦略の方向性のもと、既存のQuadを重視することがバイデンの唯一の選択肢となった。 日本、オーストラリア、インドは地政学上完璧な戦略的ポジションにあるため、もしこれらの3ヵ国が手を組むことができれば、中国の裏庭である南シナ海を取り囲む包囲網が構築されることは間違いないだろう。しかし、中国の東西両側に位置する日本とインドは、過去の戦争の陰影や現在進行形の領土問題を抱えているため、たとえ内心では中国を信頼していなくても、直接的に中国に対する多国間の軍事態勢を強化するなどといったやり方で、中国に対抗する旗幟を鮮明にすることは躊躇している。このような日本とインドの考えを見抜いたバイデンは、米国主導の合同軍事演習を継続して推進するだけでなく、Quadにおける非軍事領域の協力にも重点を置いているのである。 「インド太平洋戦略」を直接的に共同構築する新たな軍事同盟としての「AUKUS三カ国同盟」は、まさにこのような背景の下で生まれた。 ○AUKUSは「新冷戦」を深化させる AUKUSに対して悲観的な一部の評論家は、AUKUSの新たな原子力潜水艦が世に出回るまでにあと10年は必要であるため、中国にとってすぐには脅威とならないことや、その時にはすでに中国は米国に取って代わる世界最大の経済大国に躍進しているであろうこと、またこの同盟は3ヵ国のみであり、その影響力は限定的であることなどを指摘している。さらにAUKUSは、その実力がまだ発揮されていない内に、すでに「裏切られた」フランスの恨みを買ってしまっており、フランスと米国、英国、オーストラリアの間のわだかまりを生じさせてしまったという指摘さえある。 次に、フランスと米国、英国、オーストラリアの関係がどうなるかを心配するよりもさらに注目すべきなのは以下の点だろう。すなわちAUKUSが、近年新疆や香港の問題で中国との関係を極度に悪化させているオーストラリアと英国を、米国が結成した新たな反中軍事同盟に直接引き込んだことで、オーストラリアと英国の2カ国と中国との関係は再び正常な軌道に戻ることができなくなったばかりでなく、米国と中国の関係を改善させる余地さえさらに縮小してしまったということである。 AUKUSの成立によって、「インド太平洋戦略」をめぐる米中の対立は軍拡競争のレベルにまで一気に拡大した。もし米中が軍事的対立の方向にさらに進んでいけば、予見できる未来として、インド太平洋地域にAUKUSを基盤としたアジア版NATOが出現することは、もはやおとぎ話ではなくなるだろう。米国の進出と「三四五中国包囲網」の急速な形成という新たな事態の出現に対して強力な同盟能力を持たない中国は、どのような対抗策を持っているのだろうか。 <林泉忠(りん・せんちゅう)LIM John_Chuan-Tiong> 国際政治学専攻。2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年よりハーバード大学フルブライト客員研究員、2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員、国立台湾大学兼任副教授、2018年より台湾日本総合研究所研究員、香港アジア太平洋研究センター研究員、中国武漢大学日本研究センター長、香港「明報」(筆陣)主筆、を歴任。 著書に『「辺境東アジア」のアイデンティティ・ポリティクス:沖縄・台湾・香港』(明石書店、2005年)、『日中国力消長と東アジア秩序の再構築』(台湾五南図書、2020年)など。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式ですので、お気軽にご参加ください テーマ:「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 日時:2021年11月20日(土)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(京都時間) 方法:Zoom_Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、北京大学日本文化研究所、清華東亜文化講座、 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_oefAUZ69QMaxwXm1GvLrjw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりとして、「アジアという空間が翻訳・留学などによっていかに作られたのか?」さらに、その時空間において「modernやglobalizationなどがいかなる生活様式・思考様式の変容をもたらしたのか?」を概念語や日常語の視点からいかに捉えるのかを検討する。 ■プログラム 総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部) 開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団) 挨拶:野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 講演:山室信一(京都大学名誉教授) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 コメント:王中忱(清華大学中国文学科)、劉暁峰(清華大学歴史系)、趙京華(北京第二外国語学院)、林少陽(香港城市大学中文及歴史学科) 閉会挨拶:王中忱(清華大学中国文学科) ■講師からのメッセージ 討議では、まずアジアというヨーロッパから与えられた空間概念が、いかにして当該空間に住む人々によって自らのアイデンティティーの対象となっていったのか、を翻訳や留学などによる思想連鎖の中で生まれた意義について考えたいと思います。そこではローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルという4つの空間層と思想の存在態様をいかに関連させて捉えるか、という問題が重要になってきます。 次に、そうして生まれたアジアという空間の中で、人々の生活様式はどのように変容していったのか、を近代と現代という「二つのモダン」の次元で検討したいと思います。そこではモダン・ガールが髪や服装の長短の変化と関連して毛断嬢や裳短嬢などと表記されるなど、どのようなモダン語などで表象され、それが写真や絵画・漫画などでいかに視覚化されたのか、が重要な鍵となります。 こうした議論を通して、アジアにとってモダンやグローバリゼーションさらにはアメリカニズムとは何だったのか、を検討したいと思います。その討議においては、単に思想や研究の次元の問題に限らず、広く社会生活のありかたとしてのway_of_lifeを考え直すための意見交換ができればと願っております。ここにはウイズ・コロナ時代におけるアジアとそこでの生活様式・思考様式を展望することも含まれるはずです。 今回の討議では、空間と社会生活と言葉(概念や流行語)という3つの次元をいかに結びつけていくのか、という方法論を模索するなかで「思想連鎖」や「思詞学」という研究視角を提言するに至った経緯についても触れ、忌憚のない御批判を戴きたいと切望しています。 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/J_SGRAChinaVForum15.pdf 中国語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/C_SGRAChinaVForum15.pdf ポスター http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/16thSGRAchinaForumV10(Medium).png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • LI Kotetsu “SGRA Forum #67 ‘No One Left Behind’ Report”

    *********************************************** SGRAかわらばん894号(2021年10月28日) 【1】李鋼哲「第67回SGRAフォーラム報告」 「誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか-世界各地からの現状報告-」 【2】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(11月20日オンライン)(再送) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 *********************************************** 【1】李鋼哲「第67回SGRAフォーラム『誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか―世界各地からの現状報告―』報告」 2021年9月23日午後、第67回SGRAフォーラムが渥美財団ホールおよびオンライン(ZOOM)で開催された。テーマは「誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか―世界各地からの現状報告―」で、SGRA構想アジアチームにより企画され、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)が主催、一般社団法人東北亜未来構想研究所(INAF)の共催で行われた。国内外から約80名がオンラインなどで参加し、国連が掲げるSDGsの2030年目標達成に向けて世界各地からの報告があった。 総合司会はロスティカ・ミヤさん(大東文化大学講師、SGRA構想アジアチームメンバー)が務めた。冒頭に今西淳子SGRA代表より開会の挨拶があり、SGRAとINAFについて紹介、共催に至った経緯を説明した。 引き続き、李鋼哲がモデレーターを務め、第1部は基調講演、第2部は世界各地の報告5本、そして第3部は指定討論およびパネル・ディスカッションが順次行われ、最後に渥美国際交流財団理事・INAF理事長の平川均先生が総括した。 基調講演は、佐渡友哲先生(さどとも・てつ:日本大学大学院講師、INAF理事)の「SDGs時代における私たちの意識改革」で、会場の渥美財団ホールで行われた。先生は、国際関係論が専門で、北東アジア学会会長など多くの要職を歴任され、2019年12月には『SDGs時代の平和学』(単著、法律文化社)を出版された。冒頭で「いま私たちに求められていることは、私たちが『持続可能ではない世界』に住んでいることを知り、そのことを強く意識することであり、『知る→意識する→考える→行動する』というプロセスが重要である」と強調。かつてゼミ生を引率してインドを始め発展途上国で現地調査を行った実体験と結果を踏まえながら、「持続可能な発展」目標と「持続可能ではない世界」の現状について明晰に分析し、「SDGs達成のためには、私たちの現代文明が行き着いた大規模化・集中化・グローバル化という仕組みを見直し、循環型社会を強化することであることに気づかなければならない」と訴えた。 SDGs時代の教員に求められていることは「持続可能な社会の創り手」を育成すること、この「創り手」とは経済成長に貢献する、いわゆるグローバル人材(人財)ではなく、いま生活しているこの社会・世界が持続不可能であることを認識し、SDGsの理念を理解して、地球的諸問題の解決へ向けて行動を起こす地球市民(global_citizen)のことである。これはSGRAが設立当初から提唱する「良き地球市民」と共通しており、その中身についての重要な示唆点を提示してくれた。 休憩を挟んで第2部では、5本の現地報告があった。 第1報告は「フィリピンにおけるSDGs」について、フェルディナンド・マキト・SGRA大先輩(フィリピン大学ロスバニョス校准教授、SGRAフィリピン代表)により、オンラインで行われた。フィリピンはパンデミックによりSDGsへの取り組みが大幅に妨げられており、「COVID-19で死ななくても、仕事が無くて飢え死んでしまうだろう」という生々しい現場の声を伝えた。しかし、明るい兆しも見えてきており、(1)国内農業の重要性の見直し、(2)多くの有力な民間企業が株主だけではなく社会的役割も重要であるという認識が芽生えていること、(3)大学は学術的な実績だけではなく、社会へのインパクトも評価されつつあるという、とても示唆に富む話であった。 第2報告は「ハンガリーにおけるSDGs」というテーマで、杜世きんさん(と・せきん:INAF研究員、グローバル国際関係研究所研究員)により行われた。東欧諸国の中でハンガリーのSDGs達成度は高く(世界で第25位)、「水資源の開発」をめぐるハンガリーと中国との協力関係を事例に取り上げ、持続可能な開発における先導的な役割を果たしていることを紹介した。 第3報告は、「中東・北アフリカ地域におけるSDGs」をテーマに、ダルウィッシュ・ホサムさん(アジア研究所研究員、SGRAメンバー)により行われた。この地域は過去50年間、平均寿命の伸び率が他のどの地域よりも高く、保健、教育、所得という3つの人間開発指標(HDI)と生活の多様な側面で大幅に改善されていることを紹介すると同時に、2020年の「アラブ持続可能な開発報告書」によれば、この地域では、2030年までにSDGsを達成できる国はないと結論づけられている現実についても紹介し、その原因について分析した。 第4報告は、「朝鮮におけるSDGs」をテーマに李鋼哲が報告した。日本や国際社会であまり知られていない朝鮮の社会と経済開発の実態について分析し、開発途上国でありながら社会主義体制を維持する朝鮮社会の特質について認識した上でSDGsの達成度を評価する必要性を強調し、経済的な困窮の中でも国連と連携しながらSDGsの実現に向けて取り組んでいる現状を紹介した。 第5報告は、「アフリカにおけるSDGs」というテーマで、モハメド・オマル・アブディンさん(参天製薬㈱、SGRAメンバー)が報告した。スーダン出身のアブディンさんは、2019年4月に30年間に及んだ独裁体制がやっと崩壊し、民主化に向けて暫定政府が発足したが、半年後にパンデミックが猛威を振るい始めた状況のなかで、国境封鎖やロック・ダウンを含む厳しい非常事態宣言が行われ、スーダン経済に及ぼした影響について紹介し、収入を保障できない貧困国における感染対策実行の難しさについて述べた。 以上の報告に対し、羽場久美子先生(神奈川大学教授、INAF副理事長)と三村光弘先生(ERINA主任研究員、INAF理事、北東アジア学会会長)がコメントした。続いて基調講演者と報告者全員によるパネル・ディスカッションが行われ、SDGs実現に向けての現状およびパンデミック対策や問題点など重要な論点について白熱した議論が交わされた。 最後に、平川均先生が総括した。パンデミックによる世界の現状について、豊富なデータによってワクチン接種における先進国と開発途上国の格差問題について取り上げ、グテ―レス国連事務総長とテドロス世界保健機関(WHO)事務局長の訴えを紹介して締めくくった。 当日の写真は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2021/17118/ アンケート集計は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/SGRAForum67Feedback.pdf <李鋼哲(り・こうてつ)LI_Kotetsu> 中国延辺朝鮮族自治州生まれの朝鮮族。1985年中央民族大学(中国)哲学科卒業後、中共北京市委党校大学院で共産党研究、その後中華全国総工会(労働組合総会)傘下の中国労働関係大学で専任講師。91年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程単位修得済み中退後、2001年より東京財団研究員、名古屋大学国際経済動態研究所研究員、内閣府傘下総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、06年より北陸大学教授に就任。2020年10月より、一般社団法人・東北亜未来構想研究所(INAF)を有志たちと共に創設、所長に就任。日中韓+朝露蒙など多言語能力を生かして東北アジアを檜の舞台に研究・交流活動を行う。SGRA研究員および「構想アジア」チーム代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』(編著、2015年、日本僑報社)、その他書籍・論文や新聞コラム・エッセイ多数。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式ですので、お気軽にご参加ください テーマ:「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 日時:2021年11月20日(土)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(京都時間) 方法:Zoom_Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、北京大学日本文化研究所、清華東亜文化講座、 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_oefAUZ69QMaxwXm1GvLrjw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりとして、「アジアという空間が翻訳・留学などによっていかに作られたのか?」さらに、その時空間において「modernやglobalizationなどがいかなる生活様式・思考様式の変容をもたらしたのか?」を概念語や日常語の視点からいかに捉えるのかを検討する。 ■プログラム 総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部) 開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団) 挨拶:野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 講演:山室信一(京都大学名誉教授) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 コメント:王中忱(清華大学中国文学科)、劉暁峰(清華大学歴史系)、趙京華(北京第二外国語学院)、林少陽(香港城市大学中文及歴史学科) 閉会挨拶:王中忱(清華大学中国文学科) ■講師からのメッセージ 討議では、まずアジアというヨーロッパから与えられた空間概念が、いかにして当該空間に住む人々によって自らのアイデンティティーの対象となっていったのか、を翻訳や留学などによる思想連鎖の中で生まれた意義について考えたいと思います。そこではローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルという4つの空間層と思想の存在態様をいかに関連させて捉えるか、という問題が重要になってきます。 次に、そうして生まれたアジアという空間の中で、人々の生活様式はどのように変容していったのか、を近代と現代という「二つのモダン」の次元で検討したいと思います。そこではモダン・ガールが髪や服装の長短の変化と関連して毛断嬢や裳短嬢などと表記されるなど、どのようなモダン語などで表象され、それが写真や絵画・漫画などでいかに視覚化されたのか、が重要な鍵となります。 こうした議論を通して、アジアにとってモダンやグローバリゼーションさらにはアメリカニズムとは何だったのか、を検討したいと思います。その討議においては、単に思想や研究の次元の問題に限らず、広く社会生活のありかたとしてのway_of_lifeを考え直すための意見交換ができればと願っております。ここにはウイズ・コロナ時代におけるアジアとそこでの生活様式・思考様式を展望することも含まれるはずです。 今回の討議では、空間と社会生活と言葉(概念や流行語)という3つの次元をいかに結びつけていくのか、という方法論を模索するなかで「思想連鎖」や「思詞学」という研究視角を提言するに至った経緯についても触れ、忌憚のない御批判を戴きたいと切望しています。 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/J_SGRAChinaVForum15.pdf 中国語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/C_SGRAChinaVForum15.pdf ポスター http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/16thSGRAchinaForumV10(Medium).png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ 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  • Invitation to the SGRA China Forum #15

    *********************************************** SGRAかわらばん893号(2021年10月21日) *********************************************** ◆第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式ですので、お気軽にご参加ください テーマ:「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 日時:2021年11月20日(土)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(京都時間) 方法:Zoom_Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、清華東亜文化講座、北京大学日本文化研究所 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_oefAUZ69QMaxwXm1GvLrjw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりとして、「アジアという空間が翻訳・留学などによっていかに作られたのか?」さらに、その時空間において「modernやglobalizationなどがいかなる生活様式・思考様式の変容をもたらしたのか?」を概念語や日常語の視点からいかに捉えるのかを検討する。 ■プログラム 総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部) 開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団) 挨拶:野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 講演:山室信一(京都大学名誉教授) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 コメント:王中忱(清華大学中国文学科)、劉暁峰(清華大学歴史系)、趙京華(北京第二外国語学院)、林少陽(香港城市大学中文及歴史学科) 閉会挨拶:王中忱(清華大学中国文学科) ■講師からのメッセージ 討議では、まずアジアというヨーロッパから与えられた空間概念が、いかにして当該空間に住む人々によって自らのアイデンティティーの対象となっていったのか、を翻訳や留学などによる思想連鎖の中で生まれた意義について考えたいと思います。そこではローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルという4つの空間層と思想の存在態様をいかに関連させて捉えるか、という問題が重要になってきます。 次に、そうして生まれたアジアという空間の中で、人々の生活様式はどのように変容していったのか、を近代と現代という「二つのモダン」の次元で検討したいと思います。そこではモダン・ガールが髪や服装の長短の変化と関連して毛断嬢や裳短嬢などと表記されるなど、どのようなモダン語などで表象され、それが写真や絵画・漫画などでいかに視覚化されたのか、が重要な鍵となります。 こうした議論を通して、アジアにとってモダンやグローバリゼーションさらにはアメリカニズムとは何だったのか、を検討したいと思います。その討議においては、単に思想や研究の次元の問題に限らず、広く社会生活のありかたとしてのway_of_lifeを考え直すための意見交換ができればと願っております。ここにはウイズ・コロナ時代におけるアジアとそこでの生活様式・思考様式を展望することも含まれるはずです。 今回の討議では、空間と社会生活と言葉(概念や流行語)という3つの次元をいかに結びつけていくのか、という方法論を模索するなかで「思想連鎖」や「思詞学」という研究視角を提言するに至った経緯についても触れ、忌憚のない御批判を戴きたいと切望しています。 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/J_SGRAChinaVForum15.pdf 中国語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/C_SGRAChinaVForum15.pdf ポスター http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/16thSGRAchinaForumV9.1(light).png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Kim Kyongtae “The 6th Dialogue of National Histories in East Asia Report”

    *********************************************** SGRAかわらばん892号(2021年10月14日) 【1】金キョンテ「第6回国史たちの対話『人の移動と境界・権力・民族』レポート」 【2】エッセイ:三谷博「コロナ禍下に国史対話は続く 国境と世代を越えて」 *********************************************** 【1】金キョンテ「第6回国史たちの対話『人の移動と境界・権力・民族』レポート」 今回の第6回「国史たちの対話」は、2021年1月に続き7ヶ月ぶりだった。近くになった距離はそう遠くならない。しかし、より頻繁に会えば会うほど親密さが増すことは言うまでもない。今回は皆が見慣れた顔であいさつを交わすことができた。 今回は一つの共通のテーマに対して一人の発表者が問題提起をし、複数の人がそれに対して討論をする方式だった。テーマは皆が話せる「人の移動」。これは一般的な意味でも学術的な意味でも議論が燃えるテーマだ。 円滑なオンライン会議の進行のために尽力してくださった事務局と通訳の皆さんに「ご苦労様でした」と、真っ先にお礼を申し上げたい。9月11日午前10時ちょうど、李恩民先生の開会挨拶から「対話」が始まった。村和明先生は6回目を迎える会議の経緯と趣旨を説明した。討論の時間が足りず、毎回心残りがあった経験から、今回は討論に重点を置く方式を選んだという。ただ、この実験的な試みがうまくできるかどうかは参加者にかかっているとの懸念があった。結果的に実験は成功だったと思う。 塩出浩之先生の問題提起は「人の移動から見る近代日本:国境・国籍・民族」というタイトルだった。歴史の研究は長い間、国と民族の影響を受けてきた。その枠から抜け出そうとする試みは多かったが、歴史研究の主流になるのは難しい。多くの見解を包容する方法論が必要な時だ。塩出先生が多様な角度から紹介してくれた事例は、これまで思いもよらなかったことを想起させた。 移動の自由というのは一体何か、何が人の移動を規定するか。先生は「大日本帝国」時代の朝鮮人と沖縄人の移動事例を挙げた。また、人の移動が何をもたらすか、何を作るかに主眼を置き、ハワイにおける中国、日本の移民者間の関係も紹介した。要するに、国が人の移動に及ぼす強い影響力についての悩みを投げかける発表であり、中国や韓国の研究者に、国史の中で人の移動をどのように扱っているのかを問う問題提起でもあった。生々しい写真を通じて蘇った人々の人生で一つの映画を見ているような感じだった。 これに対して、韓中日各国から2人ずつの指定討論者がコメントした。趙阮先生は経済的、政治的要因によるモンゴル帝国時代の移動を紹介。人々の移動が活発になる中で、帝国の中で異文化圏から来た人々の競争もあったということ、そしてこれらの移動がその後の歴史に与えた影響を指摘した。 張佳先生も同様に、中国史の移動を例に挙げた。戦争がもたらした移動とともに、政府主導の強制移動と政府が介入しない経済的移動との比較を行った。そして人々が様々な規制にもかかわらず、自発的に移動を続け、暮らしを続けた姿を見せてくれた。 榎本渉先生は古代と中世日本の具体的な事例を紹介した。古代日本は出入りの管理を厳密に行っていたのに比べ中世は国家の管理がなく、このため移動しようとする人が直接パスポートの役割を果たす文書を準備したという。国家が人の移動に介入しようとする試みの時間的・空間的多様性をうかがわせた討論だった。今のパンデミックの状況の中で見ると、移動の停止がオンラインでより活発な接触を引き出したような気もする。 韓成敏先生は近代韓国人の移動を3つに分けた。第1に生計のための半自発的な移動、第2に国家政策的移民、第3に植民地化以後の強制動員だ。さらに、弱者に対する愛情を盛り込んだ「トランスナショナル」観点の導入を提案し、移住先に住まなければならなかったディアスポラ(民族離散)の問題を勘案すると、移住者集団間の競争は特殊なものかも知れないという意見を提示した。 秦方先生はジェームズ・スコットの「ゾミア」(日本語訳では「脱国家の世界史」)を紹介しながら、中心と辺境、辺境と境界外のバランス、そしてその間を行き交った人々に対する関心の必要性を提起した。移動に対する国の管理とともにその裏面の姿も同時に見なければならないだろう。先生は自分のフィールド研究を簡単に紹介し、パンデミック以後変化したり、あるいは変化していなかったりする境界にいる人々の話を聞かせてくれた。 大久保健晴先生は、人の移動を別の視点から眺めた。近代化を推進していた国に雇用された外国人、南洋群島に行った日本人の原住民認識の事例だった。人々の移動であるだけに、様々な事例、反対の例を調べることがとても重要だろう。主権国家から離れていく難民はどう見えるかも重要な問題であることを確認した。一方、東アジアを越えて他の地域に対する見解も共有しようという意見を提起された。 以上の指定討論を通じて異なる時代、異なる地域で人の移動がもたらされる政治、経済的理由を探ることができた。歴史において国家の管理方式と理由、それでもそれを越えようとする人々の躍動的な姿。短い時間だったが視野が広がった。同一のテーマについて、自分の専攻分野と関連して短くて簡明に問題意識を語る形式は、効用性があると思った。 指定討論者が参加する自由討論では南基正先生が司会を務めた。ここでは移動の「自発性と非自発性」の区分が議論の中心で、塩出先生は、「個人が様々な目的で移動することを見せるのが、今回の問題提起だった」と述べた。しかし、その移動を左右するものの一つが国家であるという点を忘れてはならないという立場だ。国家と個人は一方的ではなく緊張関係であることを改めて確認することができた。移動と移住を分けるかどうかの問題についても議論があり、民族とはネーションかエスニック・グループか、エスニック・グループも歴史の中で作られたのではないか、などの議論が続いた。 3、4セッションはパネリストが参加した自由討論で、議論の幅がより広がった。まず、劉傑先生が論点を整理した。ポイントは何が移動を規定するか、移動は何をもたらすか、各国の国史教育が移動の問題をどのように扱っているか、今、人の移動を考えることの意味など。これによって自由討論に先立って考え方を整理することができた。 多様で細かい専攻分野を持つ研究者たちの質問と論点提起は、対話をさらに深めた。「人の移動を考える時、人類に普遍的に影響を与えた宗教に焦点を当ててはどうだろうか。忘れられた移動にも関心を持つべきであり、一般の人々と問題意識を共有する必要がある」(平山昇)。「自発と非自発は大差ないかも知れない。『中動態』という概念、すなわち自発的ではないが環境的にそうせざるを得ない状況がある」(大川真)。「人の移動を基軸としてグローバルヒストリーを描くということは重要な試みである。今回のテーマにより、古代~近代国家社会というものをより客観的に見ることができるようになった」(浅野豊美)。 「移動した移住民が現地との関係で生じる問題、移住2世代たちのアイデンティティ問題」(南基玄)。「移動と労働力の密接な関係」(佐藤雄基)。「人の移動に密接に関わる感染症が現代社会において自国民保護と矛盾をなす場面で感じた不思議」(市川智生)などの指摘が記憶に残った。また、本セッションの司会者であった鄭淳一、彭浩先生は専攻分野である日本と中国の旅券、戸籍の事例を詳しく紹介し、時代の理解に大きく役に立った。韓国の事例が十分に紹介されなかったのは残念だが、これは韓国史専攻者である筆者の責任でもある。 討論の後、宋志勇、三谷博先生の総括、趙珖先生の閉会挨拶が続いた。討論をもっと展開したいという発言が聞かれるとともに、この会議が充実していたことには皆が同意した。三谷先生は、多くの参加者が年長の世代が思いもよらなかった研究や発表もしているという点で明るい東アジアの未来を感じたと語り、こうして出会った仲の良い友達と一緒にこれからもこの対話を導いてほしいという希望を述べた。 今回の対話で、多様な時代と分類史を研究する研究者たちが集まり、共通のテーマを語るということのすごさに気づいた。問題提起は議論の幅を広げ、知的刺激は新たな疑問を引き出した。点から線へ、線から面へと広がることになるだろう。討論は終わらないものだ。9月11日の討論時間は終わったが、3国間の対話は終わっていないに違いない。国史たちの対話が続く一方で、研究者たちが自分の所属する場所で「対話の場」を広げることもできるだろう。 当日の写真 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/09/Kokushi6Photoslight.pdf アンケート集計 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/09/Kokushi6Feedback.pdf ■ 金キョンテ(キム・キョンテ)Kim Kyongtae 韓国浦項市生まれ。韓国史専攻。高麗大学韓国史学科博士課程中の2010年~2011年、東京大学大学院日本文化研究専攻(日本史学)外国人研究生。2014年高麗大学韓国史学科で博士号取得。韓国学中央研究院研究員、高麗大学人文力量強化事業団研究教授を経て、全南大学歴史敎育科助教授。戦争の破壊的な本性と戦争が荒らした土地にも必ず生まれ育つ平和の歴史に関心を持っている。主な著作:壬辰戦争期講和交渉研究(博士論文)   【2】SGRAエッセイ#684 ◆三谷博「コロナ禍下に国史対話は続く 国境と世代を越えて」 (第6回「国史たちの対話」会議に参加した翌日にFacebookアカウントに投稿された文章です) 昨日、第6回目の「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」の研究集会がオンラインで開かれた。これは渥美国際交流財団の支援の下、2016年から東アジアの自国史研究者の間に対話の道を開くために開催してきたものである。国際関係や隣国史を研究している人たちは留学をきっかけに隣国人と日常的に対話してきたが、「国史」の研究者はそうした経験を持たない。20世紀から尾を引く東アジアの歴史摩擦を解消するためには、まず閉鎖環境で暮らしてきた「国史」学者たちに直接に対話してもらうことが必要である。早稲田大学の劉傑さんの首唱により、渥美財団のご理解を得て日・中・韓の歴史家たちが、ほぼ隔年に対話集会を繰り返してきた。 今回のテーマは「人の移動と境界・権力・民族」で、塩出浩之氏による基調報告の後、日中韓三国からそれぞれ二人が指定討論に立ち、その後、10人のパネリストたちによる自由討論を約3時間半にわたって展開した。以前と異なって発表はただ一人で、後はその場の展開に任せるという冒険的な試みだったが、実行委員会の村和明、李恩民、南基正、彭浩、鄭淳一氏らの周到な準備とチームワークのおかげで、充実した討論とその連鎖が実現された。今回の主力となった三国の中堅と若手の歴史家たちは、着実な史料研究を基礎として専門分野と所属国を越える対話に積極的に踏み込み、学術討論を立派に成し遂げた。年配者としてうれしいことである。 この国史対話は、元来は東アジア三国、とくに日本と隣国との間にわだかまる歴史摩擦を解消し、国際関係への負担を軽くするために始められた。今世紀初頭、「歴史認識」問題が争点化したとき、私と同世代の歴史家たちは何度も対話を重ね、少なくとも歴史の専門家の間では、相手側が異なる解釈を見せた時、なぜ相手がそう考えるかを理解しようとするまでにはなった。しかし、その後、東アジアの諸政府は領土その他生々しい問題を敢えて争点化し、それによって歴史問題は後景に退くことになった。いま、20世紀前半の厳しい歴史について議論できる場は失われている。 しかしながら、今世紀初頭の東アジア歴史家たちの成果は見捨てるに忍びない。一歩退いて、せめて学術レヴェルだけでも次世代の歴史家たちに日常的な交流と連携の場を用意しておきたい。学問的にも各国の歴史家たちが自国の学界に閉じこもるより遙かに生産的となるだろう。国史対話はこの度、当初と違った方向に舵を切ったわけであるが、それは同時に世代交代の機会ともなった。昨年1月にフィリピンでの集会に加わった学者たちが渥美財団の元奨学生たちと協力し、新たな問題設定の下に動き始めたのである。今年1月には、コロナ禍を意識しながら「19世紀東アジアにおける感染症の流行と社会的対応」を取り上げ、その際、内容はともかく討議が十分に行えなかったとの反省に基づいて、若手自らが「人の移動と境界・権力・民族」を問題として設定し、学校教科書の「国史」を超えた歴史ナラティブを探り始めたのである。 無論、取り上げられた諸テーマが十分に討議しつくされたわけではない。しかし、中には「国境通過証明書」のように、古代から近世に至る議論が続いたセッションもあって、これらはいずれ共同論文集を編む可能性も見て取れた。 いま東アジア3国の国際関係は最悪であり、各国の世論の相互敵対関係は今世紀初頭には予想もされなかったほどである。しかしながら、今回の研究集会はそれと全く異なる潮流が存在し、若手がその担い手であることを世に示した。世は政治ばかりに規定されるのではない。学術を通じた絆が太く強靱なものに育ち、コロナ禍は無論、国家間の敵対関係を超えて、世に公益をもたらしてくれることを願う。今回の会議はその期待を大きく膨らませるものであった。 <三谷博(みたに・ひろし)MITANI_Hiroshi> 1978年東京大学大学院人文科学研究科国史学専門課程博士課程を単位取得退学。東京大学文学部助手、学習院女子短期大学専任講師・助教授を経て、1988年東京大学教養学部助教授、その後東京大学大学院総合文化研究科教授、跡見学園女子大学教授などを歴任。東京大学名誉教授。文学博士(東京大学)。専門分野は19世紀日本の政治外交史、東アジア地域史、ナショナリズム・民主化・革命の比較史、歴史学方法論。主な著作:『明治維新とナショナリズム-幕末の外交と政治変動』(山川出版社、1997年)、『明治維新を考える』(岩波書店、2012年)、『愛国・革命・民主』(筑摩書房、2013年)など。共著に『国境を越える歴史認識-日中対話の試み』(東京大学出版会、2006年)(劉傑・楊大慶と)など多数。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ 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  • YONG Xu “The Thing Called TIME”

    *********************************************** SGRAかわらばん891号(2021年10月7日) *********************************************** SGRAエッセイ#683 ◆雍旭「時間というもの」 我々は成長と共に、知識や見識などを積み上げていく。その間に、ある特定の専門分野のみならず、義理、人情、この世の動きに対する理解も深めてなじんでいくようになる。結果的に素晴らしい成果を収めたり、株価の上下の判断や世論の流れも的確に推測したりできるようになる。社会や自分にとって、この累積してきた経験は「魂」みたいなものであり、なくてはならない宝となる。しかしながら、せっかく魂を大きく育てて来たのに、我々の身体は年を重ねて徐々に老いていき、最終的に無に帰す。なんとか魂を保ちたい→だから永生を求める必要が出てくる→でも無理だと残念に思う人がたくさんいるからこそ、仏教の輪廻転生のような説が生み出されたわけである。このような説によって、永遠の生命を追求したいが死は避けられなくて残念という気持ちが多面的に慰められる。 ここまで来て、これからの話は迷信的な展開になるのではないかと思われるかもしれないが、科学的に言うと、実在のものにはきっと論理がある。たとえ仏教の輪廻転生説でもある可能性のひとつにすぎず、解析する必要があるパラメータと同様な存在である。では、なぜ我々の魂が大きく成長するたびに、肉体が衰えていくのか?なぜこういうトレードオフ関係の設定になるのか?もちろんこの不可解な問に答えはない。それでも、この設定を使って将来的な可能性を科学的に話してみたい。 上記の設定における最初の問題は2つある。魂の不滅と肉体の保持である。魂であれ、肉体であれ、両者をつなぐのは「時間」である。時間は客観的に作られた定義で、我々の認識の一環として身に溶け込んでおり、疑うことはない。しかしながら、主観的に人々が感じる時間の尺度は異なる。時間の流れを早いと感じる人もいるし、遅いと感じる人もいる。感じる時間の流れは年齢の逆数となるという研究結果がある。例えば、50歳の人が感じる過去の1年間はまるで1週間のようなもので、年を取るほど時間の流れが早いと感じる。 肉体の保持について話すと、できる限り時間の流れを遅らせたい、停止させたいと思うのは当然の考えである。生物学的に生体機能を高めて、寿命を延ばす方向に進んではいるが、まだまだ限界があって、無限の生命には遥かに遠いのが現状である。一方、工学的には、衰えた身体を補助するパワーアシスタント・スーツが開発されたり、失った腕や足などを代替できる電動義肢や義足もかなり発展したりしてきて、肉体が衰弱になっても機械的な代替品を入れ替えることにより、代替した部分は「時間」というパラメータを無くし永遠になるわけである。しかしながら、身体のすべて(例えば臓器、脳など)を機械化するにはまだ大きな壁があるので、永遠の肉体はいずれ行き詰まることになるだろう。 一方、魂の不滅について話すと、時間の流れと共に積み重ねた知識や見識などは経験・認知として脳に保存され、我々の意識となる。それを究明するために、脳科学の研究者たちは近年、侵入式(動物)と非侵入式(人体)で最先端の手法を用いて脳波を計測している。最新の技術進捗により、脳波を駆使したロボットアームでものを把持して自分に飲ませ、しかも把持の感覚もちゃんと脳にフィードバックした。イーロン・マスク氏が創業したNeuralink社もイノシシの脳にセンサーを入れて、四肢の動きを正確に表示させたほか、サルの脳波でゲームまでしている。人間の脳には860億個のニューロンがあって、現在の研究結果ではごくわずかしか計測できていないが、いずれそれらをすべて計測して人間の脳の活動が分かるようになり、可視化することも実現できるだろう。さらに一歩前進し、脳活動をコピーして、計算能力の強い量子コンピューターで再現できれば、意識を別の容器で再生することができて「時間」というものは無意味になり、魂そのものの永久不滅を達成し、現実化される。 それが可能になったとき、病気・機能不足の肉体は存在せず、機械化された身体を所有しながら、永遠の魂を持つサイボーグの世界になるだろう。夢の話と思われるかもしれないが、いまの科学者たちはまさに好奇心でその方向に進んでいて、時間を重ねればどんどん実現化に近づいていくだろう。さて、本当にその「時」になったら、果たして我々は不安を感じるのか、それとも喜ぶのだろうか。 <雍旭(よう・きょく)YONG_Xu> 2020年度渥美国際交流財団奨学生。中国出身。現在、中国科学院深?先進技術研究院・神経工程研究センター助教。電気通信大学情報理工学研究科で博士号を取得。2020年度日中科学技術交流研究奨励賞を受賞。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • LIM Chuan-Tiong “Why Can’t They Prevent Strengthening Relationship?”

    *********************************************** SGRAかわらばん890号(2021年9月30日) *********************************************** SGRAエッセイ#682 ◆林泉忠「なぜ北京は中国と国交のある国が台湾との関係を強化することを阻止できないのか?」 (原文は『明報』筆陣(2021年5月11日)に掲載。平井新訳) バイデンと習近平が9月10日に電話会談を終えたばかりのタイミングで、米国が台湾の駐米機関である「台北経済文化代表処」を「台湾代表処」という名称に変更することを「真剣に検討している」というニュースが伝わってきた。これは、7月に台湾がリトアニア政府との協議を経て、リトアニアの首都ビリニュスに「台湾」の名を冠した代表処を設立したこと、そして9月初めに欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表に対して「欧州経貿弁事処」の名称を「欧州連合駐台弁事処」に変更するよう提言した議案がEU欧州議会外務委員会を通過して以降、欧米諸国における台湾との関係強化を望む近年の雰囲気の中で、一連の「正名」運動にかかわる新たな動きである。この動きが北京の敏感な神経に再び触れることになるのは避けられないだろう。 ※台北経済文化代表処:Taipei_Economic_and_Cultural_Representative_Office ※台湾代表処:Taiwan_Representative_Office ※欧州経貿弁事処:European_Economic_and_Trade_Office ※欧州連合駐台弁事処:European_Union_Office_in_Taiwan 周知の通り、台湾の国際社会における存在感を低下させ、台湾の国際的な地位向上を阻止することは、社会主義中国の建国以降、外交政策上の「核心」的な課題であった。1971年、「中華人民共和国」が国際連合における地位を「中華民国」に取って代わり、翌年には台湾の最も重要な国際的支持勢力である米国と日本が相次いで北京との関係樹立を進めるというブレイクスルーが見られた。この国際情勢の急転によって、台湾海峡両岸の国際的地位は急速で「不可逆的」な歴史的転換を招いた。その後、北京は中国と国交のある国の政府に対して台湾との関係を「非公式」レベルの交流にとどめるとした合意を必ず遵守するよう着実に求めていく。この度のワシントンの動きについても、中国駐米大使館は従前通り、「中国側は米国と台湾の間のいかなる形式の公式交流にも断固として反対する」との姿勢を示している。 ○欧米諸国における「リトアニアモデル」の伸長 21世紀初め以降、中国の台頭が日増しに明らかになるにともない、中国の世界における地位もまた確実に上昇し続け、北京はさらに積極的にその国際的なディスコースパワー(自らの発言の内容を相手に受け入れさせる力=「話語権」)を拡大していった。それと同時に、両岸のパワーの差も日増しに開いていった。多くの西欧企業が次々と中国へ投資し、あるいはより緊密な経済貿易関係を結んだことで、北京の国際的な影響力は急速に上昇した一方で、欧米諸国やその他の国家がより積極的に台湾との関係を強化させることは阻止できないでいる。 近年、(日本を含む)西欧国家が台湾の「正名」運動にかかわる現象が次々と起こっている。2017年元旦、日本の対台湾機関である「交流協会」(本部は東京、台北事務所と高雄事務所を設置)が「日本台湾交流協会」へとその名称を変更し、同年5月に台湾側では日本にかかわる事務を処理する機関である「亜東関係協会」が、その正式名称を「台湾日本関係協会」へと変更した。さらに2019年6月、台湾は「北米事務協調委員会」を「台湾アメリカ事務委員会」へと改めた。2020年4月、「オランダ貿易及投資弁事処」は「オランダ在台弁事処」という肩書に変わった。そして前述したように、今年リトアニアは台湾が「駐リトアニア台湾代表処」を設置することに同意した。リトアニアの駐台機関の名称は未だ確定していないが、おそらく「リトアニア駐台代表処」という名称が使用されることになるだろう。さらに、EUは「欧州経貿弁事処」という名称を「欧州連合駐台弁事処」に変更する予定であるという。 ※(旧)交流協会:Interchange_Association ※(現)日本台湾交流協会:Japan-Taiwan_Exchange_Association ※(旧)亜東関係協会:Association_of_East_Asian_Relations ※(現)台湾日本関係協会:Taiwan-Japan_Relations_Association ※(旧)北米事務協調委員会:Coordination_Council_for_North_American_Affairs ※(現)台湾アメリカ事務委員会:Taiwan_Council_for_U.S._Affairs ※(旧)オランダ貿易及投資弁事処:Netherlands_Trade_and_Investment_Office ※(現)オランダ在台弁事処:Netherlands_Office_Taipei ※(新)駐リトアニア台湾代表処:Taiwanese_Representative_Office_in_Lithuania ※(見通し)リトアニア駐台代表処:Lithuanian_Representative_Office_in_Taiwan 筆者は先月、北京が中国の駐リトアニア大使を呼び戻し、さらに北京に到着したばかりのリトアニアの新駐中国大使を「追放」するなど、「話を聞かない」小国のリトアニアに対し珍しく厳しい措置をとったのは、悪事をまねようとする者を戒め、「リトアニアモデル」が他の2つのバルト3国であるエストニアとラトビア、そして一部の中東欧諸国においてドミノ現象に発展することを防ぐためだと論じた。ところがわずか1か月ほどで、EUと米国が「台湾」を正名とする衝撃的な出来事の発生を目の当たりにすることになった。これにより、北京が取り組んでいる、台湾の国際空間を狭めて中国と国交のある国が台湾との関係を強化することを阻止するという努力が、ボトルネックにぶつかっていることが明らかとなった。 ○「台湾」――米国議会の後ろ盾とホワイトハウスの「決断」 「リトアニアモデル」の波及という現状は、実際には、米国が「リトアニアモデル」の影響を受けているというより、むしろリトアニアなどの国が、ワシントンによる「台湾」正名の動向の積極的な支持、台湾との関係強化を促進している雰囲気を感じ取り、大胆にも「先に一歩進んだ」と見るべきだろう。 米国議会における「台湾」の「正名」を求める動向は、すでに醸成されていた。例えば、トランプ政権期の昨年12月17日、米国下院議員78名がポンペオ国務長官に対して連名で書簡を送り、米台関係について3つの提言を行っているが、その中には、台湾の駐米弁事機構の名称を「台湾代表処」に変更するべきだということが含まれていた。そして7か月後の2021年7月、米国下院外交委員会は「抗中」の「イーグル法案」を通過させた。最も注目されたのは、まさに台湾の駐米代表処の「正名」について協議を開始するよう米国政府に対して求めたことである。この度ホワイトハウスが「真剣に検討している」ことを明らかにできた背景には、すでに議会の後ろ盾を獲得していたためである。 ※イーグル法案:Ensuring_American_Global_Leadership_and_Engagement_Act、略称E.A.G.L.E.Act 冷静に考えれば、台湾の在外代表機関のほとんどが「台湾」ではなく「台北」の名を冠する理由はとても複雑である。単純に北京の「圧力」によるものだけではなく、当該国がその国の国益に基づいて検討したことによるものであり、さらには蒋介石・経国時代の台湾自身が「漢賊不両立(漢賊並び立たず)」の原則にこだわっていたためでもある。 1949年以降、特に1970年代の「断交の波」の「陣痛」を経験して以降、台湾はかつて国交を有していた国と再び「非外交関係」を構築しようと模索する。そして代表機関の設置について議論していた際、「台湾」を代表処の名称として用いる選択肢は基本的に排除された。その理由は、彼らが「中華民国」を「台湾」に「矮小化」することを望まなかったからである。そして、「台北」という言葉を使用することを受け入れる方向になったのは、国際的な外交の舞台において、一国の首都の名前を用いて、その国またはその国の政府を代表させることはよく見られることだったためである。「ワシントン」は米国政府の代わりとして用いられるし、「ロンドン」は英国政府の代わりとして用いられる。 ○中国の台頭とむしろ高まる「台湾」の存在感 なぜ台湾は後になって再び「台北」を「台湾」に改めることを求めるに至ったのだろうか?その背景には、「代表権争い」が終幕した後の影響と、台湾社会の「国家アイデンティティ」意識の変遷がある。 前述した1970年代の両岸の国際的地位の逆転にともない、1949年以降の両岸で繰り広げられてきた、一体誰が合法的に中国を代表できるのかという「代表権争い」が終焉した。そして、「自由中国」を自称してきた台湾が、国際社会において自らを「中国」と称することは次第に難しくなっていった。事実、台湾の最も重要な「友好国」である米国と日本を含む国際社会の認識もまた、「中国」は中華人民共和国であると見なしはじめていた。このような国際情勢の変遷というコンテクストの中で、台湾の民衆、特に多くの社会エリートたちもまた、「台湾」を以って、中国大陸とは隔たれた空間として、自らの地位を定めようとし始めたのである。 もう一つの主な原因は、台湾が1990年代に政治の民主化を迎え、台湾社会の本土意識が躍動しはじめ、国家アイデンティティの構造が急速に変異したことである。人々はさらに自らを「台湾人」だと認識するようになり、「台湾」を以って自らの身分が帰属する対象として設定することに賛同するようになった。こうして在外機関の「正名」の声が盛り上がったと言える。これまで常々、米国議会で遊説し「友台法案」を一つ一つ通過させることに尽力してきた「台湾人公共事務会」は、長年台湾の駐米機関の「正名」を重要な議題として推し進めてきた。 ※台湾人公共事務会:Formosan_Association_for_Public_Affairs、FAPA なぜ欧米や日本などの西欧国家地域は「台湾」の「正名」運動を積極的に支持するのか。その要因は主に3つある。 1つ目には、彼らが台湾社会の民主的な発展の効果を高く評価し、台湾とともに自由、民主、人権などの普遍的価値を享受できると考えているためである。2つ目は、台頭する中国の「専制政治の輸出」が香港に広がっており、今後は台湾にまで拡大させるつもりだという危機感から「台湾を支持する」動向の一環であろう。3つ目は、新型コロナウイルス流行への対応が民主主義社会の中でも比較的良好だったという評価のためである。 「新冷戦」の雰囲気が目まぐるしく変化する昨今、中国は国際関係の処理においてやはり米国の影響力をより重視しているといえよう。特にバイデンが大統領に就任して以降、積極的に民主主義国家同士が連携して中国に対処していくという戦略を進めていることに対して、中国側は極めて憂慮している。しかし、習近平とバイデンの会談が行われたことからもよくわかるように、北京はワシントンとの「新冷戦」にこれ以上踏み込むつもりはないだろう。例えホワイトハウスが「台湾駐米代表処」の「正名」を確定したとしても、北京は新任の秦剛駐米大使を呼び戻す、あるいは米国が指名したばかりのニコラス・バーンズ駐中国大使の就任を拒絶するなどといった、リトアニアへの「懲罰」に類する対応は考えにくいだろう。 中国台頭の時代に、国際社会の主導力としての欧米諸国が「台湾」の「正名の波」を含め、台湾を支持する動きを進めることについて、なぜ中国は効果的にこれを阻止できないのだろうか。目下の中国の外交政策及び対台湾政策の担当者が、すぐに深刻に振り返り、検討する必要がある重要な課題であろう。 <林泉忠(りん・せんちゅう)LIM John_Chuan-Tiong> 国際政治学専攻。2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年よりハーバード大学フルブライト客員研究員、2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員、国立台湾大学兼任副教授、2018年より台湾日本総合研究所研究員、香港アジア太平洋研究センター研究員、中国武漢大学日本研究センター長、香港「明報」(筆陣)主筆、を歴任。 著書に『「辺境東アジア」のアイデンティティ・ポリティクス:沖縄・台湾・香港』(明石書店、2005年)、『日中国力消長と東アジア秩序の再構築』(台湾五南図書、2020年)など。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 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