SGRAメールマガジン バックナンバー

  • The 6th Asia Future Conference “Building a Future Asia—Solving Problems, Together” Report

    ********************************************* SGRAかわらばん937号(2022年9月22日) ********************************************* ◆第6回アジア未来会議「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」報告 第6回アジア未来会議は2022年8月27日(土)~29日(月)にハイブリッド形式で実現しました。本来は2021年8月に台北市で開催する予定でしたが、新型コロナウイルスの世界的な流行により1年延期し、その代わりに同年8月26日に1日限りの「プレカンファランス」をオンラインで開催しました。それから1年。東アジアではまだパンデミックの収束の目途が立たない状況ですが、台湾の中国文化大学をメイン会場とし、海外からはオンラインで参加というハイブリッド形式で、多くの人が参加できる会議を実施することができました。 総合テーマは「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」です。2020年1月のマニラ会議の閉会式で、共催の中国文化大学の徐興慶学長(当時)が台湾での開催を宣言。同年2月には渥美財団の担当チームが訪台して会場や宿泊施設、宴会場を視察し、中国文化大学で最初の準備会議を開催しました。当時もほとんどの人がマスクを着用していましたが、その後台湾と日本の往来が全くできなくなり、しかも2年半以上も続くとは誰も予想できませんでした。 今回のアジア未来会議は全員が一堂に集まることはできませんでしたが、最新のオンライン会議技術を駆使して3日間にわたって実施され、基調講演とシンポジウム、3つの円卓会議と179篇の研究論文発表を行い、広範な領域における課題に取り組む国際的かつ学際的な議論が繰り広げられました。今、アジアや世界は大きく変化しています。このような時だからこそ「みんなの問題、みんなで解決」の必要性が強調されました。 8月27日(土)は台北市の中国文化大学の会場とハイブリッド形式で実施。午前は12の分科会で英語、日本語、または中国語による45篇の論文発表が行われました。分科会はZoom会議のブレイクアウトルーム機能を使い、会場の座長や発表者もオンライン会議に参加しました。午後2時(台湾時間)、中国文化大学と東京の渥美国際交流財団をつないで開会式が始まりました。会場参加者は220名、Zoomウェビナーへの参加者は324名でした。最初に明石康大会会長が第6回アジア未来会議の開会を宣言しました。続いて渥美国際交流財団の渥美直紀理事長が主催者として、中国文化大学の王淑音学長が共催者としてあいさつし、日本台湾交流協会台北事務所の泉裕泰代表と中国文化大学傑出校友会の黄良華会長から祝辞をいただきました。 次は、前中華民国副総統の陳建仁博士による基調講演「国際感染症と台湾―新型コロナウイルスとの共存かゼロコロナか?」(中英・中日同時通訳)でした。感染症対策の第一人者だけにパワフルなお話で「台湾の100万人当たりの累計感染者は世界最少で、同死亡者もニュージーランドに次ぎ2番目に少なく、2020年のGDP成長率3%超を維持できたという『成功の主役』は台湾の人々である」と強調しました。 シンポジウム「パンデミックを乗り越える国際協力―新たな国際協力モデルの提言」(中英・中日・英日同時通訳)では、中国文化大学の徐興慶先生がモデレーターを務め、国立台湾大学の孫效智先生、ソウル大学の金湘培先生、台北市立聯合病院の黄勝堅前総院長、日本の国立国際医療研究センターの大曲貴夫先生、中国文化大学の陳維斌先生が会場やオンラインで登壇され、それぞれ哲学、国際政治学、医学、公衆衛生学、国際交流の視点から分析し、国際的な協力によっていかにパンデミックを「みんなの問題、みんなで解決」していくか検討しました。 8月28日(日)と29日(月)には、円卓会議と分科会(研究論文発表)を行いました。円卓会議I「あなたは大丈夫―アジアにおけるメンタルヘルス、トラウマ、疲労」と円卓会議II「コミュニティとグローバル資本主義―世界は広いようで狭い」(いずれも英語)では、パンデミックだけでなく、自然災害や戦争によって現れたコミュニティのさまざまな課題、さらにはそれが人々の精神、感情に与えた影響についてアジア各国から報告があり、いかに対応していくかを議論しました。また、一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)主催の「台湾と東北アジア諸国との関係」セッション(日本語)では、東北アジア地域協力の視点から台湾に照準を合わせて、各国との国際政治・経済・文化などの関係について多面的に検討しました。 円卓会議と併行して34の分科会(参加登録者308名)を開催し、英語と日本語の134篇の論文の口頭発表が行われました。世界各地から2名の座長と4名の発表者がZoomのブレイクアウトルームにオンラインで参加し、研究報告と聴講者を交えた活発な議論が展開されました。アジア未来会議は国際的かつ学際的なアプローチを目指しており、各セッションは使用言語と発表者が投稿時に選んだ「環境」「教育」「言語」などのトピックに基づいて調整されました。 第6回アジア未来会議のプログラムは下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/conference-program/ 分科会ではセッションごとに座長の推薦により優秀発表が選ばれました。優秀発表賞の受賞者リストは下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/08/AFC6-List-of-Best-Presentation.pdf 会議に先立って学術委員会が優秀論文を選考しました。1年間の開催延期があったため、3年間の間に優秀論文の選考を2回実施しました。1回目の選考についてはプレカンファランス報告をご覧ください。2回目の選考は2021年8月31日までに発表要旨、2022年3月31日までにフルペーパーがオンライン投稿された133篇の論文を12のグループに分け、各グループを6名の審査員が以下の7つの指針に沿って審査しました。 (1)会議テーマ「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」との関連性、(2)構成と読みやすさ、(3)まとまりと説得力、(4)オリジナリティ、(5)国際性、(6)学際性、(7)総合的なおすすめ度。投稿規定に反するものはマイナス点をつけました。各審査員はグループの中の9~10本の論文から2本を推薦し、集計の結果、上位18本を優秀論文と決定しました。第6回アジア未来会議優秀論文リストは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2021/06/AFC6B-Best-Paper.pdf 優秀論文集『アジアの未来へ-私の提案-Vol.6B』は2023年3月に出版予定です。 また、台湾実行委員会による台湾特別優秀論文も同じプロセスで選考されました。台湾特別優秀論文リストは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2021/06/AFC6B-Taiwan-Best-Paper.pdf 分科会セッションの後の閉会式もオンラインで実施されました。本会議の短い報告のあと、優秀発表賞が発表されました。最後に次回2024年に開催される第7回アジア未来会議のお誘いが開催地のバンコク市から呼びかけられました。 コロナ禍の第6回アジア未来会議の開催経緯については、プレカンファランス報告もご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/news/2021/16942/ 第6回アジア未来会議「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」は、(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)主催、中国文化大学の共催、(公財)日本台湾交流協会の後援、国家科学及び技術委員会と(公財)高橋産業経済研究財団の助成、台湾大学日本研究センターと台中科技大学日本研究センターの協力、そして日本と台湾の組織や個人の方々からご協賛をいただきました。 主催・協力・賛助者リストは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/ 運営にあたっては、中国文化大学を中心に台湾実行委員会が組織され、基調講演とシンポジウムを企画実施してくださいました。また台湾特別優秀論文賞を設けて台湾在住の研究者を特別支援しました。アジア未来会議全般の運営は、元渥美奨学生の皆さんが、優秀賞の選考、セッションの座長、技術サポート、翻訳や通訳等、さまざまな業務を担当してくださいました。とりわけ、台湾出身の方々は台湾実行委員会メンバーとして諸調整や翻訳等をお手伝いくださいました。 論文を投稿・発表してくださった200名のみなさん、会場またはオンラインでお集りくださった基調講演・シンポジウム500名、分科会300名の参加者のみなさん、開催のためにご支援くださったみなさん、さまざまな面でボランティアで協力してくださったみなさんのおかげで、第6回アジア未来会議を成功裡に実施することができましたことを心より感謝申し上げます。 第7回アジア未来会議は、2024年8月9日(金)から13日(火)まで、チュラロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座の共催で、タイ王国バンコク市で開催します。皆様のご支援、ご協力、そして何よりもご参加をお待ちしています。 第6回アジア未来会議の写真(ハイライト)は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2022/17736/nggallery/page/2 第6回アジア未来会議全般のフィードバック集計は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/09/AFC6-Feedback-Report_220920_2.pdf 第6回アジア未来会議基調講演とシンポジウムのフィードバック集計は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/08/AFC6BFeedback.pdf 第7回アジア未来会議論文募集のチラシ https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/afc7-call-for-papers/ <今西淳子(いまにし・じゅんこ)Junko_Imanishi> 学習院大学文学部卒。コロンビア大学人文科学大学院修士。1994年の設立時より(公財)渥美国際交流財団に常務理事として関わる。留学生の経済的支援だけでなく国際的かつ学際的研究者ネットワークの構築を目指し、2000年に「関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)」を設立。2013年より隔年でアジア未来会議を開催し実行委員長を務める。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • KIM Kyongtae “Kokushi Dialogue#7 Report―Popular History and Historiography in East Asia”

    ********************************************* SGRAかわらばん936号(2022年9月15日) 【1】金キョンテ「第7回国史たちの対話『歴史大衆化と東アジアの歴史学』報告」 【2】寄贈本紹介:劉傑・中村元哉『超大国・中国のゆくえ1:文明観と歴史認識』 ********************************************* 【1】催事報告 ◆金キョンテ「第7回国史たちの対話『歴史大衆化と東アジアの歴史学』報告」 (原文は韓国語、翻訳:尹在彦) 「第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話」は、2022年8月6日にオンラインで開催された。テーマは「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」だった。歴史大衆化と「パブリック・ヒストリー」は国籍や専攻分野を飛び越えて対話のできるテーマであり、実際に時間が不足するほど熱を帯びた議論が交わされた。 第1セッションは李恩民先生(桜美林大学)の司会で進められた。彭浩先生(大阪公立大学)による開催の趣旨に続き、韓成敏先生(高麗大学)の問題提起があった。2019年にフィリピンで開かれた「第4回国史たちの対話」以来、情熱的に参加し鋭いご意見を頂いている韓先生の問題提起は時宜を得たものだった。その題目は「『歴史の大衆化』について話しましょう」。韓先生は普段から同僚の学者たちと共に同テーマについて深く考えており、今回の問題提起はそういった議論をまとめたものでもあった。 韓国の事例を歴史学の危機と歴史学者の危機、そして現実的問題(歴史学科の存続と卒業生の就職)といった三つの部分に分けて紹介した。要するに、時代の変化に応じて歴史学も変わり対応すべきということだった。歴史学者による歴史への独占の時代が終わったことを認め、変化しなければならないということだ。 韓先生はその対応策の一つとして「パブリック・ヒストリー」を紹介した。この概念や手法はまだ日中韓の3カ国で理論として定着しているわけではないが、その取り組みは早ければ早いほど良いという。「歴史学が自らの存在意義を証明すべき時期」という提言も同時になされた。 これに対し、指定討論者の日中韓の研究者である中国の鄭潔西先生(温州大学)、日本の村和明先生(東京大学)、韓国の沈哲基先生(延世大学)たちは、慎重ながらも積極的に意見を提示した。各者から似てはいるが、それぞれ異なる考えを示していただいた点は興味深かった。国ごとに、例えば歴史家が譲ってはいけないことなどの「歴史学界の権威」や、これからの役割などについてある程度違いも見られた。特に中国の場合、大衆の歴史議論への参加が活発で、これを肯定的に捉える観点があるように思った。にもかかわらず、ニューメディアと共に非専門的な歴史家たちが大衆の求めるところに便乗する場面と、歴史学が職業として安定性を失っている現状(就職の困難さ)は共通しているようだった。これは世界的な問題なのか。「パブリック・ヒストリー」というオルタナティブを認め、そのためのスペースが用意されるべきという意見もあった。また、3カ国で共通して「パブリック・ヒストリー」の範囲を定め、概念を定義する必要性も呼びかけられた。 第2セッションは南基正先生(ソウル大学)の司会。まず劉傑先生(早稲田大学)の論点整理があった。歴史が政治と関わって、道具になってしまう場合に注意しなければならない点、一般の歴史家が克服すべき問題、歴史家が対応しきれていない問題について触れられた。 自由討論では次のような議論があった。歴史的経験から始まる活発な「大衆の歴史」の様子、メディアと急激に変化する世界という現状を指摘した毛立坤先生(南開大学)。国家が管理してきた歴史に対する挑戦は常にあったから、歴史の大衆化は必然的と指摘、人々皆が自ら歴史家になりたいというのがパブリック・ヒストリーの核心であり、むしろ、機会であり多様性を認め包容力を持つ態度が重要である。しかし、もちろん、度が過ぎた商業化、政治的介入、歴史修正主義などの「耐えられないこと」は拒否すべきであるという金ホ先生(ソウル大学)。また、塩出浩之先生(京都大学)や佐藤雄基先生(立教大学)は、前向きに大衆の歴史を受け止め、機会と捉えるべきで、大衆の歴史の効果性もあると指摘した。 比較的楽観的もしくは歴史学者の積極的な変化を促すこうした見解以外にも様々な意見があった。平山昇先生(神奈川大学)は、この現象が近代日本において歴史的に存在していた事実を思い出すべきということを強調した。村先生は危機と機会の両立には賛成だが、歴史専門家が専門家以外の人々と話を進められるかについては懐疑的な見解を示した。いわゆる疑似歴史学の最も大きな危険性は社会を分断させることで、例えば、「敵を作り出すこと」という指摘は重要だ。二つの食い違った議論ではなく、実際には歴史学者として似たような悩みを抱えつつ、やや違うオルタナティブを考えているように感じた。歴史大衆化は歴史学者の皆が考え抜く問題であり、はねのけて勝利するような種類の問題ではないと考える。 第3セッションは再び李恩民先生の司会で、三谷博先生(東京大学名誉教授)の総括及び趙珖先生(高麗大学名誉教授)の閉会挨拶で幕を閉じた。両先生ともに「若き」研究者たちの悩みに理解を示し、ねぎらいの言葉も頂いた。 今回の「対話」は肩の荷を少し下ろして、自由に話をしようというのがねらいの一つだっただろう。しかし、対話をしてみたら、同じ悩みを抱えている研究者らの話を伺って、嬉しい気持ちになる一方で、重荷を担わされた気がした。これからの歴史学者の役割はどうなるか。今回の対話で我々は「大衆」という用語を用いたが、大衆もひとくくりにして捉えてはいけないだろう。大衆の中には善悪が明確に分けられた感動的な歴史物語が好きな人、特定分野に関して専門の研究者よりマニアックな興味関心を持っている人、暗記中心の歴史教育により興味を失った人もいるだろう。もしくは自分が知っていた歴史は全て偽物だと、いわゆる歴史修正主義に傾く人もいるかもしれない。一人の歴史研究者が全ての大衆を満足させることはできないだろうが、このように多様な大衆の前で歴史専門家として果たすべき役割は確かにあると思う。 筆者は大衆向けの講演と学術会議の中間に位置付けられるような催し・イベントにたまに足を運ぶ。しかし、そうした催しが、面白くなく、感動的でもないという話を聞くことがある。歴史ドラマのような感動的な講演を求めていた方々だったのだ。最初は納得できないところもあったが、今はそうは思わないようにしている。時にそれらの方々の興味に合わせ面白い話をいくつか用意することもある。 最近は一つの職業にも多様な役割が求められているように感じる。これからは歴史研究者も良い学術論文を書く基本的な任務以外に、大衆が少なくとも間違った歴史に引き込まれないように方向を案内する役割を担わなければならないと思う。もちろん大衆が受け入れられる言語と形式で。面白くても間違った話であればそれを直すべきだろうし、歴史マニアが看過しがちな歴史的な洞察力を提示すべきだ。大衆向けの書籍や外国の良い書籍を翻訳する作業、多様なメディアを用い、正確な歴史を教えること等が具体的な方法になるだろう。そういった仕事を学者の役割ではないとして無視してはならないし、ひるんでもならないと思う。現代社会で大衆とのつながりは歴史研究者の義務だと思う。できること、すべきことは、しなければならない。化石のような学問に満足すると、そのような役割しか担うことができないだろう。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/Kokushi7_photos.pdf アンケート集計結果は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/Kokushi7_feedback.pdf ■ 金キョンテ(キム・キョンテ)KIM_Kyongtae 韓国浦項市生まれ。韓国史専攻。高麗大学韓国史学科博士課程中の2010年~2011年、東京大学大学院日本文化研究専攻(日本史学)外国人研究生。2014年高麗大学韓国史学科で博士号取得。韓国学中央研究院研究員、高麗大学人文力量強化事業団研究教授を経て、全南大学歴史敎育科助教授。戦争の破壊的な本性と戦争が荒らした土地にも必ず生まれ育つ平和の歴史に関心を持っている。主な著作:壬辰戦争期講和交渉研究(博士論文)、虚勢と妥協-壬辰倭乱をめぐる三国の協商-(東北亜歴史財団、2019) -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員で早稲田大学教授の劉傑先生から共著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆劉傑・中村元哉『超大国・中国のゆくえ1:文明観と歴史認識』 中国はどのようにして東西の文明を理解し、また自らの歴史を総括して政権の正統性を確保しながら、世界との関係を切り結んできたのか。経済成長に自信を深め攻勢を強める中国の現在地とゆくえを文明観と歴史認識から読み解く。シリーズ全5巻完結! 発行所:東京大学出版会 ISBN:978-4-13-034291-9 発売日:2022年08月12日 判型:四六 ページ数:244頁 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.utp.or.jp/book/b607306.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • XIE Zhihai “Thinking about War and Peace from Guernica”

    ********************************************* SGRAかわらばん935号(2022年9月8日) 【1】エッセイ:謝志海「ゲルニカから戦争と平和を考える」 【2】寄贈本紹介:『古代哲学入門―分析的アプローチから』 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#716 ◆謝志海「ゲルニカから戦争と平和を考える」 小中高生は夏休みも終わり、ランドセルや制服姿の児童や生徒を再びたくさん見かけるようになった。毎年8月になると日本では8月6日、9日の広島と長崎に投下された原爆を思い出し、8月15日に終戦記念日を迎え、平和の尊さをかみしめる。しかし「第2次世界大戦の終結から77年たつ今も、地球上で戦争が起きているとは信じがたい」と誰もが思う8月だったのではないだろうか。 旅行も遠出もないまま8月を終えた我が家だったが、心に残る夏休みを過ごせたと思えるのは子どもたちと戦争と平和について話す機会を持てたことだ。現在住んでいる市にある群馬県立近代美術館ではパーマネントコレクションである、ピカソの有名な絵「ゲルニカ」のタピスリ(タペストリー)が展示された。妻が子どもたちに見せたいというので私はついていった。ちょうどその日は美術館スタッフがタピスリの前で「ゲルニカ(タピスリ)を見ながらお話をしよう」という企画をしていた。ほぼ原寸大で圧巻のタピスリを前に、美術館スタッフは子どもに「戦争」や「戦い」という言葉を伏せて、ゲルニカの見どころを丁寧に教えてくれた。子どもからはゲルニカを見ても「戦い」という言葉は引き出せず、むしろ「なんで人や動物がこんな風に描かれているの?」という感じだったが、それでも子供たちは「これはピカソという画家が描いた戦いへの怒りなんだ」ということをインプットされた。 美術館スタッフは大人の参加者には、このゲルニカのタピスリは世界に3枚しかないこと、うち1枚はニューヨークの国連本部にあること、このタピスリ制作にあたりピカソ自身も使用する糸や色などの監修に加わったことを教えてくれた。また1学期には美術館近くの小学校に出張授業に行き、生徒たちとゲルニカをしっかり観察し、何を感じたかなど話し合ったということだった。 数日後、家でまたゲルニカが話題になった時、小学生の息子が、「せんそうしない」という、字がすごく少ない絵本について小学校の先生が話をしてくれたと言った。調べてみると、それは谷川俊太郎さんの本だった。彼については紹介するまでもないが、以前テレビのインタビューか何かで、第2次世界大戦の東京大空襲の頃、中学生だったと話しておられたことを思い出した。 こうして絵や絵本を用いて戦争を語り継ぐことで、戦争の歴史を胸に刻み平和へつないでいこうとするのは素晴らしいと思う。そういえば「日本では小学6年生で『ゲルニカ』を学ぶんだよ」と美術館スタッフは息子に伝えていた。妻に「『ゲルニカ』を知ったのは6年生だった?」と聞いたら「7歳」。「小1の誕生日プレゼントの本がかこさとしさんの『美しい絵』で、そのなかで『ゲルニカ』が紹介されていた」とのこと。谷川俊太郎さんにかこさとしさん、国際関係の学者に出る幕はないように思われてきた。広い世代にわたって、わかりやすく物事を伝えるだけでなく、彼らの伝えたいことは読者の心に長く残り続けるのだから。 思えば、春学期では「国際関係論」と「国際関係の歴史を知る」等の授業で戦争と平和の難しい話をしていた。学生と一緒に20世紀の戦争と平和を振り返り、ロシアのウクライナ侵攻についても考えてもらった。21世紀のいまでも戦争が起こっていることは、いまこそ戦争を考える必要があると伝えた。私も戦争と平和について難しい学術本ばかりを読んできたが、もっと一般の方や子ども向けの本を読んでみたいと感じた。秋学期になったら、もっとわかりやすく学生に戦争と平和の話ができるように心がけようと考えた。 <謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai> 共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員で東北学院大学准教授の文景楠さんから共訳書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆『古代哲学入門―分析的アプローチから』 著者:クリストファー・シールズ 訳者:文景楠、松浦和也、宮崎文典、三浦太一、川本愛 古代哲学において何が論じられていたのかを、分析哲学的解釈によって明晰な語り口で提示。生き生きとした魅力を現在の読者に伝える。 ソクラテス以前の最初期の哲学から、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、ヘレニズム期の哲学までの一連の流れを、その哲学者にとって中心的な重要性を持つ論点を軸に考察。論理的な議論の再構成によって予備知識のない読者にもわかりやすく提示する。古代哲学を今を生きる哲学的な観点として一望する決定版の入門書、待望の邦訳。 出版社:勁草書房 出版年月:2022年8月 ISBN:978-4-326-10307-2 判型・ページ数:A5・400ページ 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.keisoshobo.co.jp/book/b609754.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Olga KHOMENKO “Ukrainians and Trauma”

    ********************************************* SGRAかわらばん934号(2022年9月1日) ********************************************* SGRAエッセイ#715 ◆オリガ・ホメンコ「ウクライナ人とトラウマ」 子供の頃からおばあちゃんに「戦争さえなければ良い」とよく言われていた。平和ボケで、戦争ってどこか遠いところにあるもの、自分と全く関係ないのだと思い込んでいた。 戦争になって6カ月が過ぎた。戦争が始まった2月には「夏までに終わるだろう」と皆期待していた。友達の歴史家と4月頃にその話をした時、「それはあれ。第二世界大戦の時と一緒。始まった時には皆、クリスマスまでに終わるだろうと言っていたのと一緒かもしれない」と指摘され「何言ってるの」と思ったけど。 ウクライナ人にとって第二次世界大戦のトラウマは何か。いろいろある。まずは1カ月くらいでキーウに侵攻したドイツ軍が2年以上も占領していたこと。戦争で父親を失い、家を失った人が多く、残された家族はドイツに安い労働力として連れていかれた。穀倉地帯なので肥沃な土までドイツに運んだ。キーウではユダヤ人を含むたくさんの人が殺された。第二次世界大戦では700以上の町と28000以上の村が完全に破壊された。軍人と民間人合わせて800万~1000万人のウクライナ人が亡くなった。軍人と同数の民間人が亡くなった。当時のウクライナの人口の4分の1だ。戦後、結婚する相手がいなくて苦しんだ世代もあった、などなど。 長く占領されていたので、年寄りはドイツ語に抵抗感がある。戦後のソ連の戦争映画も誤ったドイツ人のイメージを作った。映画の中では「止まれ」「手を上げろ」「早くしろ」「牛乳と卵をくれ」など、特殊なドイツ語しか出てこなかった。ソ連時代の子供は皆そのようなドイツ語は理解できた。学生時代ドイツに旅行中、駅で警察の人に「パスポートを見せなさい」と言われた時、体が凍り付いた。笑うか泣くかどうすればいいか分からなかった。今回、ドイツへ避難して半年たっても、ドイツの言葉、生活、ルールの厳しさに慣れなくてキーウに帰る人もいる。 ウクライナ人はそもそもトラウマが多い国民である。1918年にウクライナ共和国が独立したのに長続きせず、自分の国を持てなかったトラウマ。1933年の人工的に作られた飢饉のトラウマ。第二次世界大戦で配偶者を失った多数の未亡人、父親を知らないまま育った戦前生まれの子供のトラウマ、またチョルノブーリ事故の被害のトラウマ。そして、おまけに、今回の戦争で避難民になった人、またイルピンやブーチャ虐殺だ。なんという不幸な運命としか思えない。このようなことが続くので、「いくら頑張っても何か余計な力が必ず邪魔する」という迷信が自然に生まれてきた。ウクライナ語のことわざに「邪魔しなければ、助けなんていらない」というものもある。 経済学者によると、飢饉があった地域とそれがなかった地域を比べると、ビジネスに対する思いや意欲が違うそうだ。やはり、国、地域、個人の経験が繋がっている。外から圧力をかけられ自分で自分の運命を決められなかった時代がトラウマとなって、社会の記憶になる。飢饉を直接経験せず何十年後にも生まれても、おばあちゃんが残ったパンを食卓から片付けて食べているものを見るとやはり気になる。 私は学者なのでさまざまな学問的アプローチをしていているが、やはりいざとなったら体の中に染み込んだ歴史的なトラウマが前に出て体を動かすことになることを今回実感した。一つは、2020年3月。世界にコロナ時代が来た時、私はアメリカにいた。近くのスーパーに出掛けていろんな食料を買った。その買物をよく見たら普段はあまり買わないものだった。たとえばコンデンスミルク4缶。考えてみたら、私が高校生の頃はソ連時代の終わりであまり良いお菓子がなくて、必ずどこの家にもコンデンスミルクの缶があった。長持ちするし、死ぬほど甘いし、甘いものを欲しくなったら簡単に使える。今は食べることもないのに、昔の話と混乱して無意識的に買ってしまったのだ。これには自分でもびっくりした。それまで食料が家にあるか殆ど気にしなかったが、それ以後は食べ物がなくなったらどうするかとものすごく心配した。最初の1週間は毎日料理を作っていたのを覚えている。 もう一つは、家族に大学中退のお父さん、卒業証明書を無くしたおじいちゃんがいたので学問関係の書類はきちんとしておくべきだという家族トラウマがあった。1月から日本の友達もキエフを去り始め、メディアもいろいろ報道していたのでウクライナは結構変わった雰囲気に陥った。それを見ながら、大学の卒業証明書や博士号の学位記などを全部揃え始めた。家で書類のファイルを作る時に結構手が震えた。研究で学んだ話もあるが、家族に書類関係の変わったストーリーがたくさんあった。 戦後、子供を抱えた若き未亡人のおばあちゃんが再婚した。旦那のグリゴーリイさんは結婚歴があった。徴兵に応じた時、卒業証明書などはもちろん持っていかなかった。戦争から帰ってくると、当時の奥さんが生活に苦労して彼の卒業証明書を売ってしまったことを知った。大学の資料館が全部燃えてしまい、教育を受けた証拠がなくて再発行してもらえなかった。それで鉄道会社に就職し、長い間仕事で全国を渡ってきた。汽車のサービス関係者だった。いろいろなところのお土産話をしてくれたので、まだ小さい私は聞くのが楽しみだった。そして話の中に、大学卒の学歴を証明できるものがあったら、安心してキーウで仕事ができたのに、という話が必ず出てきた。私は今までさまざまなテーマの研究をしてきたが、一つがウクライナのディアスポラ、移民研究である。その研究でも身分証明書を持っていない人がどれだけ酷い目にあったかを知らされる。 ちょうど1月初めに自分の家族史は、チェルニヒフ歴史資料館に17世紀まで遡れる資料があることが分かったが、3月の空爆で燃えてしまったニュースを見て非常に残念に思った。資料館、博物館や一般の家が空爆によって破壊されている状況を見て、ウクライナの歴史をまるごと消そうとしている攻撃者のモチベーションについて考えた。「自分の味方にならない人は皆存在しなくてもいい」という考えが怖い。 出張に行く時、全ての書類を整理したファイルを震える手で旅行カバンに入れた。侵攻の2週間前だった。 ウクライナ人はたくさんの辛い経験をさせられている。だが、トラウマに対する思いや受け止め方はいろいろある。トラウマがあったということさえ受け止めない人、自分がどうしてこんな可哀想な目にあったかという被害者意識を持つ人、そして、そのトラウマをじっくり見つめながら、その中にも成長する部分があったと受け止める人。 この30年間、ウクライナの人は自分の独立国家で普通に生活し、今までの歴史的なトラウマを乗り越えるために頑張っていた。チョロノビーリ事故が起きた後に家族レベルではあまりその話をしなかったのは、そのトラウマをどうすればいいか分からなかったからだと思う。しかし、国レベルでは、飢饉などの悲劇な出来事がきちんと歴史教科書に載って、マスコミや文学で語り合うことができて、博物館もできて、11月の第4土曜日は記念日になった。やっと過去のトラウマを乗り越えつつあると思っていたところに、今回の侵攻で新たなトラウマが増えた。それは何かというと、「戦争」そのもののトラウマ、戦争から海外に避難したトラウマや罪悪感など。また今回は戦争関係の報道が多く、現場からの悲劇的な写真や映像を見てトラウマを受けた人も少なくない。「目撃者のトラウマ」と言っても良いかもしれない。それはウクライナ人だけではない。ニュースが国際的に報道されているので、世界的にもビジュアルなトラウマを受けて寝られない人もいる。 避難して戦場から離れていても、日常の経験でトラウマが出てくる可能性もある。第二次世界大戦でウクライナ人が安い労働力としてドイツに送られた時の体の中に眠っているトラウマ。友達の家族がハンガリーに避難して2週間後、家を貸してくれた人から電話があって「温室で仕事をしませんか」と聞かれた。友達の年寄りの母親はそれを聞いて泣き出したという。「どうしてこの歳になっても私は温室で雑草を抜く作業を1時間5ユーロでしなければならないの?」と泣きながら話したそうだ。 話を持ち掛けてくれた人に聞いてみると、友達の母親は毎日のように夏の家の話をしていて、一緒にブダペストで種屋さんの前を通った時に「この春に種を撒けないことが辛い」と言っていたことがあったので、田舎町の温室で植物の世話をあそび程度ですれば心のトラウマのリハビリになるのではないかと思って善意で薦めたという。一方、子供の頃、第二次世界大戦で周りの人がドイツに安い労働力として連れて行かれたことがあったので、今回海外避難民として渡った友達の母親も同じように使われるのではないかと心配したらしい。長く海外にいる友達は驚きながら母親に「どうして断らなかったの?どうして泣きながら僕に電話するの?」と聞いても、母親はすぐには答えなかった。しばらくすると「一生懸命手伝おうとしてくれている人に断ったら悪いから、私は絶対にしたくない」とだけ言った。これは単なる文化ディスコミュニケーションなのか、それとも過去の歴史のトラウマの影響なのか。 今回の侵攻でこのように過去の大変な思い出が多くの人に出てきた。私のお母さんも今回の空襲のサイレンで急に一つ思い出したようだ。それは戦争が始まって、おばあちゃんの家にいた5歳にもならないお母さんが、おばあちゃんが庭に掘った防空壕に女と子供ばかりで隠れた思い出だった。今まで一度も聞いたことがない話だった。防空壕の中でおばあちゃんはご飯を作って運んで、土の中に掘った棚にアルミの食器とスプーンを置いた。空爆のドンという音で食器が下に落ちてガチャンという音を立てた。今回の空襲警報でその音がいきなり頭の中で浮かんできたようだ。人間は覚える手段がいろいろあって、言葉だけではなく、急に70年ぶりに記憶がよみがえることがあると実感した。移民研究、ディアスポラ研究をやってきた私もまさか自分の研究テーマがそのまま現実化してしまうとは思わなかった。 やっと少しヒーリングできたトラウマだらけのウクライナの人の心が、今回の侵攻の影響で再びダメージを受けた。その回復には想像もつかない長い時間がかかるのだろう。ただ一つ言えるのは、独立後の平和な時代のウクライナにとって「ソ連時代」あるいはロシアとの今までの付き合いがどういうものだったか、しっかり話し合う時間が足りなかったような気がする。今回のロシアの侵攻以来、国のレベルだけでなく個人のレベルでもそれを見直すことが大きな課題になっていると思う。 <オリガ・ホメンコ Olga_KHOMENKO> キエフ・モヒーラビジネススクールジャパン・プログラムディレクター、助教授。キエフ生まれ。キエフ国立大学文学部卒業。東京大学大学院の地域文化研究科で博士号取得。2004 年度渥美奨学生。歴史研究者・作家・コーディネーターやコンサルタントとして活動中。 著書:藤井悦子と共訳『現代ウクライナ短編集』(2005)、単著『ウクライナから愛をこめて』(2014)、『国境を超えたウクライナ人』(2022)を群像社から刊行。 ※留学生の活動を知っていただくためSGRAエッセイは通常、転載自由としていますが、オリガさんは日本で文筆活動を目指しておりますので、今回は転載をご遠慮ください。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ 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  • Invitation to the 6th Asia Future Conference – Tomorrow!

    ********************************************* SGRAかわらばん特別配信(2022年8月26日) ********************************************* ◆第6回アジア未来会議へのお誘い(8月27日~29日、ハイブリッド) 「アジアを創る、未来へ繋ぐ-みんなの問題、みんなで解決」 第6回アジア未来会議は、明日より3日間、台湾会場参加とオンライン参加のハイブリッド方式で実施いたします。どなたにもオンラインで聴講していただけますので是非ご参加ください。基調講演とシンポジウムは日本語への同時通訳もあり、カメラもマイクもオフのウェビナー形式ですからお気軽にお聞きいただけます。円卓会議と210本の論文発表が行われる分科会、優秀論文賞の表彰式、優秀発表賞の発表もオンラインで実施し、どなたにも聴講していただけます。皆様のご参加をお待ちしています。 ◇基調講演・シンポジウム(27日午後3時~6時半)参加申込 講演「国際感染症と台湾―新型コロナウイルスとの共存か戦いか」 シンポジウム「パンデミックを乗り越える国際協力―新たな国際協力モデルの提言」 オンライン参加ご希望の方は下記リンクから参加登録をお願いします。 https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_TY1fdDN7T9SY7NI1UCQCJw ◇円卓会議・分科会(210本の論文発表)参加方法 円卓会議・分科会の聴講をご希望の方は、下記リンクよりご参加いただけます。ブレークアウトルーム機能を使ってセッションを探してください。 https://us02web.zoom.us/j/84147866891?pwd=eXlKNDBMbkt3ZEozZk8vTVZZWU1yZz09#success ※分科会セッションのプログラムは予稿集をご覧ください。 ◇本会議の詳細については下記リンクより予稿集(プロシーディングス)をご覧ください。 (内容:開催趣旨、優秀論文リストと選考方法、スケジュール、セッション概要(論文へリンク)、主催・協力者リスト、運営組織、主催共催協力者リスト、等) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/08/AFC6Proceedings2022Jp.pdf <お問い合わせ> アジア未来会議事務局 [email protected] 《会議概要》 名称:第6回アジア未来会議 テーマ:「アジアを創る、未来へ繋ぐ-みんなの問題、みんなで解決」 会期:2022年8月27日(土)~ 29日(月) 開催方法:中国文化大学(台北市)会場及びオンラインによるハイブリッド方式 プログラムは下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/conference-program/ 【開会式、基調講演、シンポジウム】 2022年8月27日(土)午後3時~6時30分(日本時間) ※言語:中英・中日同時通訳 1.開会式 開会宣言:明石康(アジア未来会議大会会長) 主催者挨拶:渥美直紀(渥美国際交流財団理事長) 共催者挨拶:王淑音(中国文化大学学長) 来賓祝辞:黄良華(中国文化大学傑出校友会会長) 2.基調講演「国際感染症と台湾―新型コロナウイルスとの共存か戦いか」 講師:陳建仁(前中華民国副総統) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/J_AFC6Keynote-LectureF.pdf 3.シンポジウム「パンデミックを乗り越える国際協力―新たな国際協力モデルの提言」 (台湾)孫效智(国立台湾大学学長特別補佐:生命教育学) (韓国)金湘培(ソウル大学教授:国際政治学) (台湾)黄勝堅(台北市立聯合病院前総院長:医学) (日本)大曲貴夫(国立国際医療研究センター国立感染症センター長:公衆衛生学) (台湾)陳維斌(中国文化大学国際部部長:都市工学) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/07/J_AFC6SymposiumF.pdf 4.優秀論文賞授賞式 5.懇親会(会場参加者のみ) 【円卓会議・セッション・分科会(論文発表)】 2022年8月27日(土)10:00~13:30(日本時間) 2022年8月28日(日)10:00~18:30(日本時間) 2022年8月29日(月)10:00~18:30(日本時間) ※言語:英語、日本語、または中国語 ※オンライン(Zoom会議ブレークアウトルーム機能利用) 1.円卓会議I:アジアにおけるメンタルヘルス、トラウマと疲労 「Are you okay? ―Discussion on mental health, trauma, and fatigue in Asia」 2022年8月28日(日)10:00~13:30(日本時間) ※言語:英語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6RoundTableI_Memtal_Health_chirashi.pdf 2.円卓会議II:世界を東南アジアのレンズを通して観る 「Community and Global Capitalism ―It’s a Small World After All」 2022年8月29日(月)10:00~13:30(日本時間) ※言語:英語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6RoundTableIIchirashi.pdf 3.INAFセッション 「台湾と東北アジア諸国との関係」 2022年8月28日(日)15:00~18:30(日本時間) ※言語:日本語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6GroupSession%EF%BC%88INAF%EF%BC%89F.pdf 4.分科会/セッション(テーマ別論文発表と討論) アジア未来会議は、学際性を核としており、グローバル化に伴う様々な課題を、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化の課題も視野にいれた多面的な取り組みを奨励しています。210本の論文を言語とテーマによって52セッションに分け、Zoomの分科会機能を用いて分科会が行われます。 ※言語:英語、日本語、または中国語 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Olga KHOMENKO “The Two Seas of Ukraine”

    ********************************************* SGRAかわらばん933号(2022年8月4日) 【1】エッセイ:オリガ・ホメンコ「ウクライナの2つの海」 【2】第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(最終案内) 「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」(8月6日、オンライン) 【3】第6回アジア未来会議へのお誘い(8月27日~29日、ハイブリッド)(再送) 「アジアを創る、未来へ繋ぐ-みんなの問題、みんなで解決」 ※SGRAかわらばんは夏休みをいただき、9月1日(木)より再開します。 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#714 ◆オリガ・ホメンコ「ウクライナの2つの海」 私の2冊の日本語の著書を出してくれている群像社という出版社には〈群像社 友の会〉という読者の会費で成り立っている会があって、その会員向けに年2回、A3で4ページの『群』という通信を出している。この7月で60号(まる30年!)となる記念すべき号で、ウクライナに関する4つの質問を受けた。その1問目は「黒海はなぜ『黒い海』なのか、黒海、アゾフ海はウクライナにとってどんな海なのか」というものだった。本エッセイはその一部を修正加筆したものである。 日本には7月に「海の日」という休日があり、さすが海に囲まれた国だと思う。ウクライナには黒海とアゾフ海という2つの海があることはあまり知られてないかもしれない。日本の友達には「黒海は本当に黒いの?」とよく聞かれる。また名前の由来と黒海への思いについても。 黒海はいろいろな時代に、いろいろな国で異なる名前で呼ばれた。ギリシャ人には紀元前8世紀から知られていた。ヘロドトスの『歴史』では「北の海」と呼ばれている。紀元前1世紀頃のギリシャの哲学者のセネカは「スキタイの海」と呼んだ。同時代の地理学者で歴史家のストラボンによれば、この海はギリシャの入植者によって「黒い海」と名付けられた。ここで嵐や霧によって遭難したし、敵対的なスキタイ人とタウロイ人が住む未知で未開の海岸だったからだ。彼らは野蛮な見知らぬ人が住む海にふさわしい名前を付けた――「人を寄せ付けない海」「もてなしのない海」または「黒い海」と。しかし、入植以降、紀元前6世紀からは「もてなしのある海」と呼ばれるようになった。 ヨーロッパではギリシャやビザンチン伝統が強かったので、18世紀までの地図では「もてなしのある海」と呼ばれ続けていた。また海の部分は「キメリア海」とも呼ばれていた。またそれを略してポントゥス、ラテン語でMare_Ponticumとも呼ばれた。 一方、12世紀に書かれた古代スラブの年代記『過ぎし年月の物語』では「キエフ公国(ルーシ)の海」と呼ばれ、コサックの時代には「コサックの海」も呼ばれたこともある。 「黒海」という名前の由来にはいくつか説があって、どれが正しいのかは不明である。トルコ語からという説もある。トルコ語では「黒の海」と呼ばれる。トルコ系の民族では方向が色で示される伝統があって、黒は北を意味した。「黒の海」は北にある海という意味になる。その名前を使っている人は今でもいる。ちなみに南は白で、地中海は「白い海」と呼ばれている。だが「黒海」と呼ばれるようになったのは、トルコからの影響かは不明である。 黒海は、ウクライナ、ルーマニア、ブルガリア、ロシア、トルコ、ジョージアの海岸を洗っている。最大深度は2210メートルで、面積は42万2000平方キロメートル。そして150~200メートルの深さの水は硫化水素が多く、場合によっては火事になる可能性もある。船員たちは、この海を旅した後、船の錨やその他の金属部分が黒くなったことに気づき、海を「黒」と呼んだ。主たる海流は海岸に沿って反時計回りに流れていて、そこからの2つの支流が海の真ん中で北から南にねじれて互いに出会う。19世紀にイギリス船の乗組員はオデッサからイスタンブールまで海流に乗って帆を上げずに行き賭けたらしい。海底には、ムール貝、カキ、そして極東からの船によって運ばれた貝もいる。またこの海は100年に20?25センチメートルの速度で広がっているという。 バイロンの長編詩『ドン・ジュアン』の中では黒海はヨーロッパとアジアの間にある海と書かれ、またフランスのルイ14世時代の生物学者のジョセフ・ピトン・ド・トゥルヌフォールは「古代の人が何を言ったとしても、黒海には黒いものは何もない」とも書いている。そしてソ連時代の大衆歌には「最も青い黒海」という歌詞がある。『チョロノモーレツィ(黒海人)』というサッカークラブもある。 第二次世界大戦の前、「大陸政治」とは別に海を中心に考える特殊な政治コンセプトがウクライナで生まれたことがある。オデッサ出身の医者、政治評論家、詩人でもあったユーリイ・リーパが提起した「黒海論」である。それによれば、黒海周辺の国家は一つの政治ブロックを形成し、そのリーダーはウクライナであるべきだ。なぜなら、「黒海は黒海周辺の国家にとって経済的、精神的な土台になるものである。ウクライナにとって黒海は命に関わる空間である。そして面積、資源や人のエネルギーの多さを考えると、ウクライナが黒海周辺の国々の中で黒海をうまく利用する上で先頭に立つべき国である。それゆえウクライナ外交において『黒海論』は優先すべきものである」からだと述べている。 そして隣国と比較する時に「ヴォルガ上部地域がモスコビア(モスクワ公国)の陸軸である場合、ウクライナの陸軸は黒海の北東海岸だ。モスコビアの領土の中では川の大部分は北に流れるが、ウクライナでは、クバンを除いてすべての川が南に流れる。ウクライナの拡大の最も自然な軸は南軸であり、モスコビアにとって最も自然な軸は北軸だ。ロシアは北、ウクライナは南。両国は、人口と地政学的重要性の点で互いにバランスを取っている」と書いている。ちなみに満州にいたイワン・スウィットはこの「黒海論」の影響を受けて、極東シベリアでのウクライナ人移住の歴史を19世紀からではなく13世紀半ばから遡ることになった。 ちなみに、もう一つのウクライナの海、アゾフ海は世界にある63の海の中で最も小さくて内陸にある。ウクライナでは「子供用の海」とも呼ばれる。アゾフ海は世界で最も浅く、水深は13.5メートルを越えない。夏には28~30度くらいの海温になる。古代ギリシャ人は海とは考えず、メオティアン湖と呼び、ローマ人はマエオティアン沼地と呼び、スキタイ人はカラチュラック(リブネ)海と呼び、アラブからは「濃い青の海」と呼ばれた。現在のトルコ語でも「濃い青の海」と呼ばれている。 スラブの歴史上の記録では1389年に最初にこの海をアゾフと名付けている。アゾフという都市の名前が海の名前の由来という説がある。ここはギリシャ時代にボスポロス王国の植民地で、また10?12世紀にトムタラカン公国、そして13世紀にアゾフ地方はジョチウルス(キプチャク・ハン国、金帳汗国)の一部になり、その次にクリミア・ハン国(オスマン帝国の家臣)の領土になった。そしてコサックたちも1695~96年あたりにここまで戦いに来ていた。ウクライナの民族歌謡には『アゾフの町でトルコの逮捕から逃げた3人兄弟』というコサックの伝統的な歌もある。 18世紀のロシアとトルコの戦争の結果、ここはロシア帝国のものになった。ちなみに、トルコ語の「アザン」=「下のもの」、チェルケス語で「ウゼフ」=「口」または「河口」という意味もあるという。ウクライナではアゾフとオゾフという名前を両方とも使っていた。ソ連初期の1929年の地図ではウクライナ語でオゾフ海となっている。 1600年代以降、アゾフ海では多くの軍事紛争が発生し、ロシア軍に対するイギリスとフランスの同盟国の参加により、クリミア戦争という大規模な戦いも行われた。 アゾフ海はある意味ウクライナの中のアジアでもある。黒海とつながる最長でも4キロメートルほどの狭いケルチ海峡は、地理的にヨーロッパに位置するケルチ半島と、アジアと位置付けられるタマン半島を隔てている。海峡の真ん中には、ウクライナに属するトゥーズラ島がある。1925年までは小さな半島だったが、嵐でつながっていた部分が崩れて島になった。ウクライナに長さ6.5キロメートル、幅500メートルの小さなアジアの領土がついてきたとも言える。そこには「腐った海」と呼ばれるシワーシ池があり、健康に良い泥を利用したサナトリウムがたくさん建てられている。 山が少なく平たんなウクライナには海が2つあり、それが国の地理だけではなく歴史に大きく影響されてきたことを、海に対して特別な思いを持っている日本のみなさんにお伝えできたら嬉しい。 <オリガ・ホメンコ Olga_KHOMENKO> キエフ・モヒーラビジネススクールジャパン・プログラムディレクター、助教授。キエフ生まれ。キエフ国立大学文学部卒業。東京大学大学院の地域文化研究科で博士号取得。2004 年度渥美奨学生。歴史研究者・作家・コーディネーターやコンサルタントとして活動中。 著書:藤井悦子と共訳『現代ウクライナ短編集』(2005)、単著『ウクライナから愛をこめて』(2014)、『国境を超えたウクライナ人』(2022)を群像社から刊行。 ※留学生の活動を知っていただくためSGRAエッセイは通常、転載自由としていますが、オリガさんは日本で文筆活動を目指しておりますので、今回は転載をご遠慮ください。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話へのお誘い(最終案内) 下記の通り第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」 日 時:2022年8月6 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法: オンライン(Zoomウェビナーによる) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_7JhkfOH7SqyyUfLl4oCRdw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■開催趣旨 新型コロナ感染症蔓延が続くなか、「国史たちの対話」ではオンラインでのシンポジウムを開催し、一定の成功を収めてきたと考える。イベントを開催する環境にはなお大きな改善が期待しづらいことを踏まえ、引き続き従来参加してきた人々のなかでの対話を深めることを重視した企画を立てた。 大きな狙いは、各国の歴史学の現状をめぐって国史研究者たちが抱えている悩みを語り合い、各国の現状についての理解を共有し、今後の対話に活かしてゆきたい、ということである。こうした悩みは多岐にわたる。今回はその中から、各国の社会情勢の変貌、さまざまなメディア、特にインターネットの急速な発達のもとで、新たな需要に応えて歴史に関係する語りが多様な形で増殖しているが、国史の専門家たちの声が歴史に関心を持つ多くの人々に届いておらず、かつ既存の歴史学がそれに対応し切れていない、という危機意識を、具体的な論題として設定したい。 共通の背景はありつつも、各国における社会の変貌のあり方により、具体的な事情は多種多様であると考えられるので、ひとまずこうした現状認識を「歴史大衆化」という言葉でくくってみた上で、各国の現状を報告して頂き、それぞれの研究者が抱えている悩みや打開策を率直に語り合う場としたい。 なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。フォーラム終了後は講演録(SGRAレポート)を作成し、参加者によるエッセイ等をメールマガジン等で広く社会に発信する。 ■プログラム 第1セッション(14:00-15:20)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【開会の趣旨】彭浩(大阪公立大学) 【問題提起】韓成敏(世宗大学)「『歴史大衆化』について話しましょう」 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2022HanSungminEssay.pdf 【指定討論】 中国:鄭潔西(温州大学) 日本:村和明(東京大学) 韓国:沈哲基(延世大学) 第2セッション(15:30-16:45)司会:南基正(ソウル大学) 【論点整理】劉傑(早稲田大学) 【自由討論】パネリスト(国史対話プロジェクト参加者) 第3セッション(16:45-17:00)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【総括】三谷博(東京大学名誉教授) 【閉会挨拶】趙珖(高麗大学名誉教授) ※日中韓同時通訳つき ※プログラム・会議資料の詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/05/J_Kokushi7_ProjectPlan.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第6回アジア未来会議へのお誘い(再送) 本年8月末に台北市の中国文化大学で開催予定であった第6回アジア未来会議は、新型コロナウイルス感染の収束が見通せず、海外からの台湾入境が厳しく制限される状況が続いているため、ハイブリッド方式で実施いたします。台湾在住の方は、中国文化大学の会場で開催する開会式、基調講演、シンポジウム、懇親会に是非ご参加ください。その他の方はオンラインでご参加ください。日本語への同時通訳もあり、また、カメラもマイクもオフのウェビナー形式ですから、どなたでもお気軽にお聞きいただけます。 円卓会議と200本の論文発表が行われる分科会もオンラインで行われます。優秀論文賞の表彰式、優秀発表賞の選考も行います。円卓会議と論文発表のセッションはどなたでも聴講していただけます。皆様のご参加をお待ちしています。 《概要》 名称:第6回アジア未来会議 テーマ:「アジアを創る、未来へ繋ぐ-みんなの問題、みんなで解決」 会期:2022年8月27日(土)~ 29日(月) 開催方法:中国文化大学(台北市)会場及びオンラインによるハイブリッド方式 プログラムは下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/conference-program/ 【開会式、基調講演、シンポジウム】 2022年8月27日(土)午後3時~6時30分(日本時間) ※言語:中英・中日同時通訳 1.開会式 開会宣言:明石康(アジア未来会議大会会長) 主催者挨拶:渥美直紀(渥美国際交流財団理事長) 共催者挨拶:王淑音(中国文化大学学長) 来賓祝辞:泉裕泰(日本台湾交流協会台北事務所代表)、黄良華(冠華実業株式会社社長) 2.基調講演「国際感染症と台湾―新型コロナウイルスとの共存か戦いか」 講師:陳建仁(前中華民国副総統) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/J_AFC6Keynote-LectureF.pdf 3.シンポジウム「パンデミックを乗り越える国際協力―新たな国際協力モデルの提言」 (台湾)孫效智(国立台湾大学学長特別補佐:生命教育学) (韓国)金湘培(ソウル大学教授:国際政治学) (台湾)黄勝堅(台北市立聯合病院前総院長:医学) (日本)大曲貴夫(国立国際医療研究センター国立感染症センター長:公衆衛生学) (台湾)陳維斌(中国文化大学国際部部長:都市工学) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/07/J_AFC6SymposiumF.pdf 4.優秀論文賞授賞式 5.懇親会(会場参加者のみ) ◇基調講演・シンポジウム参加申込 会場参加ご希望の方は下記リンクをご覧ください。 https://forms.gle/28g7Sp444ETZT1ma7 オンライン参加ご希望の方は下記リンクをご覧ください。 https://onl.bz/xekywMA 【円卓会議・セッション・分科会(論文発表)】 2022年8月27日(土)10:00~13:30(日本時間) 2022年8月28日(日)10:00~18:30(日本時間) 2022年8月29日(月)10:00~18:30(日本時間) ※言語:英語、日本語、または中国語 ※オンライン(Zoom会議Breakout_Room機能利用) 1.円卓会議I:アジアにおけるメンタルヘルス、トラウマと疲労 「Are you okay? ―Discussion on mental health, trauma, and fatigue in Asia」 2022年8月28日(日)10:00~13:30(日本時間) ※言語:英語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6RoundTableI_Memtal_Health_chirashi.pdf 2.円卓会議II:世界を東南アジアのレンズを通して観る 「Community and Global Capitalism ―It’s a Small World After All」 2022年8月29日(月)10:00~13:30(日本時間) ※言語:英語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6RoundTableIIchirashi.pdf 3.INAFセッション 「台湾と東北アジア諸国との関係」 2022年8月28日(日)15:00~18:30(日本時間) ※言語:日本語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6GroupSession%EF%BC%88INAF%EF%BC%89F.pdf 4.分科会/セッション(テーマ別論文発表と討論) アジア未来会議は、学際性を核としており、グローバル化に伴う様々な課題を、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化の課題も視野にいれた多面的な取り組みを奨励しています。200本の論文を言語とテーマによって46セッションに分け、ZoomのBreakout_Room機能を用いて分科会が行われます。 ※言語:英語、日本語、または中国語 ◇円卓会議・分科会聴講申込 円卓会議・分科会の聴講をご希望の方は、下記よりアジア未来会議オンラインシステムにてユーザー登録と参加登録をお願いします。発表要旨、論文、及びZoomのリンク情報はAFCオンラインシステムにて閲覧・ご確認いただけます。(登録・参加無料) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/registration/ <お問い合わせ> アジア未来会議事務局 [email protected] ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • CHEN Yijie “Significance of ‘Original Work’ in the Appreciation of Paintings”

    ********************************************* SGRAかわらばん932号(2022年7月28日) 【1】エッセイ:陳イジェ「絵画鑑賞における『原作』の意義」 【2】第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(再送) 「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」(8月6日、オンライン) 【3】第6回アジア未来会議へのお誘い(8月27日~29日、ハイブリッド)(再送) 「アジアを創る、未来へ繋ぐ-みんなの問題、みんなで解決」 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#713 ◆陳イジェ「絵画鑑賞における『原作』の意義」 「絵画鑑賞において、最も大事なのは原作を見ることである」美術史専攻の課程の中で、先生たちはこういう言葉を繰り返し強調していた。学部に入ったばかりの頃、私は疑問を抱いた。真贋の鑑定なら紙、絵の具、表装といった要素もあわせて参考となるため、実物を調査するのは必要なことである。しかし、単に絵画を楽しみたい時に、複製品と原作の違いがそこまで重要だろうか? 技術の発展によって、高精度のプリント複製品や画像データでの保存が可能になった。中国美術史の専門家が日本のホテルで南宋時代の名作を見て、とても驚いたという逸話がある。後にこれは日本の東洋美術専門の出版社である二玄社による複製品だということが分かった。専門家も騙されるほどの複製品は、「下真跡一等」と評価される。「この複製品は原作とほぼ同じものであるが、原作ではないという点で一つレベルを下げたもの」ということである。一方、高精度の画像データは拡大が自由で、細部まで詳しく確認できる。それに対して美術館で原作を見る時、常に照明が暗くて、距離も遠く、データのようにはっきりと弁別することができない。図像分析などの研究をする際、原作より画像データの方が使いやすいのではないか? こうした「原作」の意義に対する疑問は、日本留学中の経験で答を得ることになった。以下では日本絵画を例に感想を述べたい。 まず寸法に違いがある。日本絵画の中で屏風・襖絵は相当の割合を占めている。しかしカタログの印刷図版やパソコンで見る画像データはサイズに制限があり、原作よりかなり小さくなる。サイズの変化によって、鑑賞者に与える迫力も変わる。画集の図版を見る感覚は、二条城の大広間で襖絵を仰ぎ見る時に受ける衝撃とは比べものにならない。また、人物画の場合も同様である。等身大の画像は、鑑賞者と画中人物の心理的な距離を縮め、実在の人間としての印象を残す。それに対して宗教的な壁画にある巨大な仏像・神像は、非人間性の一面を強調し、観者に崇高な敬意を喚起させる。複製によってサイズが変われば、制作者の意図は汲み取ることが難しくなる。 次に素材に独特の魅力がある。日本画には、一般に鉱物の絵の具や金銀箔などの素材が利用される。鉱物で作られた絵の具は、光線の変化によって反射する。このピカピカする微光は、画面に透明感や活気をもたらす。写真、プリンター、画像データは、いずれもそうした素材の魅力を伝えることが出来ない。金銀色は絵画を写真に撮る際、最も再現が困難な部分であり、印刷を経ると一層見劣りがする。東山魁夷(1908年―1999年)の作品は一つの好例であると思っている。昔、私は画集や講座のパワーポイントなどで彼の絵を何度も確認したものの、その良さをあまり感じることができなかった。2018年、京都国立近代美術館の「生誕110年 東山魁夷展」で原作を見たことを契機に、初めてその美を知った。絵画の前に立つ時、寒い夜に光の冷たく冴えわたった森に浸みこんだ感じを覚えた。 最後に、一部の絵画において制作者が構図に注いだ奇想は、特定の展示方法でしか見ることができない。寺院の法堂の天井画と言えば、「八方睨みの龍」がよく見られるテーマである。即ち、頭をあげて天井を見ると、法堂のどこに立っても龍が自分をじっと見ている感覚がする。京都の相国寺、建仁寺、南禅寺、天龍寺、いずれもこのような龍図が採用されている。一部の屏風は、展開する際の凹凸を利用して立体感を示している。円山応挙(1733年―1795年)の≪雲龍図屏風≫(1773年、重要文化財、個人蔵)や木島桜谷(1877年―1938年)の≪寒月≫(1912年、京都京セラ美術館蔵)は、共にこのような作品だ。 日本留学の数年間で、私は多くの絵画の原作を実際に見て、大いに見識を広げた。美術鑑賞に対する「原作」の重要な意義を深く認識した。このほんのわずかな心得を多くの人々にシェアしたい。 <陳藝ジェ(チン・イジェ)CHEN_Yijie> 2021年度渥美奨学生。総合研究大学院大学国際日本研究専攻博士、中国北京大学美術史専攻修士、中国中央美術学院美術史専攻学士。専門は日中近代美術交流史、日本美術史。国際美術史学会(CIHA)、アジア研究協会(AAS)、ヨーロッパ日本研究協会(EAJS)などの国際学術会議で研究成果を発表。 著作に『黄秋園 巨擘伝世・近現代中国画大家』(中国北京 高等教育出版社、2018年)、「高島北海『写山要訣』の中国受容:傅抱石の翻訳・紹介を中心に」『日本研究』64集(2022年3月)他。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話へのお誘い(再送) 下記の通り第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」 日 時:2022年8月6 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法: オンライン(Zoomウェビナーによる) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_7JhkfOH7SqyyUfLl4oCRdw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■開催趣旨 新型コロナ感染症蔓延が続くなか、「国史たちの対話」ではオンラインでのシンポジウムを開催し、一定の成功を収めてきたと考える。イベントを開催する環境にはなお大きな改善が期待しづらいことを踏まえ、引き続き従来参加してきた人々のなかでの対話を深めることを重視した企画を立てた。 大きな狙いは、各国の歴史学の現状をめぐって国史研究者たちが抱えている悩みを語り合い、各国の現状についての理解を共有し、今後の対話に活かしてゆきたい、ということである。こうした悩みは多岐にわたる。今回はその中から、各国の社会情勢の変貌、さまざまなメディア、特にインターネットの急速な発達のもとで、新たな需要に応えて歴史に関係する語りが多様な形で増殖しているが、国史の専門家たちの声が歴史に関心を持つ多くの人々に届いておらず、かつ既存の歴史学がそれに対応し切れていない、という危機意識を、具体的な論題として設定したい。 共通の背景はありつつも、各国における社会の変貌のあり方により、具体的な事情は多種多様であると考えられるので、ひとまずこうした現状認識を「歴史大衆化」という言葉でくくってみた上で、各国の現状を報告して頂き、それぞれの研究者が抱えている悩みや打開策を率直に語り合う場としたい。 なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。フォーラム終了後は講演録(SGRAレポート)を作成し、参加者によるエッセイ等をメールマガジン等で広く社会に発信する。 ■プログラム 第1セッション(14:00-15:20)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【開会の趣旨】彭浩(大阪公立大学) 【問題提起】韓成敏(世宗大学)「『歴史大衆化』について話しましょう」 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2022HanSungminEssay.pdf 【指定討論】 中国:鄭潔西(温州大学) 日本:村和明(東京大学) 韓国:沈哲基(延世大学) 第2セッション(15:30-16:45)司会:南基正(ソウル大学) 【論点整理】劉傑(早稲田大学) 【自由討論】パネリスト(国史対話プロジェクト参加者) 第3セッション(16:45-17:00)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【総括】三谷博(東京大学名誉教授) 【閉会挨拶】趙珖(高麗大学名誉教授) ※日中韓同時通訳つき ※プログラム・会議資料の詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/05/J_Kokushi7_ProjectPlan.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第6回アジア未来会議へのお誘い 本年8月末に台北市の中国文化大学で開催予定であった第6回アジア未来会議は、新型コロナウイルス感染の収束が見通せず、海外からの台湾入境が厳しく制限される状況が続いているため、ハイブリッド方式で実施いたします。台湾在住の方は、中国文化大学の会場で開催する開会式、基調講演、シンポジウム、懇親会に是非ご参加ください。その他の方はオンラインでご参加ください。日本語への同時通訳もあり、また、カメラもマイクもオフのウェビナー形式ですから、どなたでもお気軽にお聞きいただけます。 円卓会議と200本の論文発表が行われる分科会もオンラインで行われます。優秀論文賞の表彰式、優秀発表賞の選考も行います。円卓会議と論文発表のセッションはどなたでも聴講していただけます。皆様のご参加をお待ちしています。 《概要》 名称:第6回アジア未来会議 テーマ:「アジアを創る、未来へ繋ぐ-みんなの問題、みんなで解決」 会期:2022年8月27日(土)~ 29日(月) 開催方法:中国文化大学(台北市)会場及びオンラインによるハイブリッド方式 プログラムは下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/conference-program/ 【開会式、基調講演、シンポジウム】 2022年8月27日(土)午後3時~6時30分(日本時間) ※言語:中英・中日同時通訳 1.開会式 開会宣言:明石康(アジア未来会議大会会長) 主催者挨拶:渥美直紀(渥美国際交流財団理事長) 共催者挨拶:王淑音(中国文化大学学長) 来賓祝辞:泉裕泰(日本台湾交流協会台北事務所代表)、黄良華(冠華実業株式会社社長) 2.基調講演「国際感染症と台湾―新型コロナウイルスとの共存か戦いか」 講師:陳建仁(前中華民国副総統) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/J_AFC6Keynote-LectureF.pdf 3.シンポジウム「パンデミックを乗り越える国際協力―新たな国際協力モデルの提言」 (台湾)孫效智(国立台湾大学学長特別補佐:生命教育学) (韓国)金湘培(ソウル大学教授:国際政治学) (台湾)黄勝堅(台北市立聯合病院前総院長:医学) (日本)大曲貴夫(国立国際医療研究センター国立感染症センター長:公衆衛生学) (台湾)陳維斌(中国文化大学国際部部長:都市工学) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/07/J_AFC6SymposiumF.pdf 4.優秀論文賞授賞式 5.懇親会(会場参加者のみ) ◇基調講演・シンポジウム参加申込 会場参加ご希望の方は下記リンクをご覧ください。 https://forms.gle/28g7Sp444ETZT1ma7 オンライン参加ご希望の方は下記リンクをご覧ください。 https://onl.bz/xekywMA 【円卓会議・セッション・分科会(論文発表)】 2022年8月27日(土)10:00~13:30(日本時間) 2022年8月28日(日)10:00~18:30(日本時間) 2022年8月29日(月)10:00~18:30(日本時間) ※言語:英語、日本語、または中国語 ※オンライン(Zoom会議Breakout_Room機能利用) 1.円卓会議I:アジアにおけるメンタルヘルス、トラウマと疲労 「Are you okay? ―Discussion on mental health, trauma, and fatigue in Asia」 2022年8月28日(日)10:00~13:30(日本時間) ※言語:英語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6RoundTableI_Memtal_Health_chirashi.pdf 2.円卓会議II:世界を東南アジアのレンズを通して観る 「Community and Global Capitalism ―It’s a Small World After All」 2022年8月29日(月)10:00~13:30(日本時間) ※言語:英語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6RoundTableIIchirashi.pdf 3.INAFセッション 「台湾と東北アジア諸国との関係」 2022年8月28日(日)15:00~18:30(日本時間) ※言語:日本語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6GroupSession%EF%BC%88INAF%EF%BC%89F.pdf 4.分科会/セッション(テーマ別論文発表と討論) アジア未来会議は、学際性を核としており、グローバル化に伴う様々な課題を、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化の課題も視野にいれた多面的な取り組みを奨励しています。200本の論文を言語とテーマによって46セッションに分け、ZoomのBreakout_Room機能を用いて分科会が行われます。 ※言語:英語、日本語、または中国語 ◇円卓会議・分科会聴講申込 円卓会議・分科会の聴講をご希望の方は、下記よりアジア未来会議オンラインシステムにてユーザー登録と参加登録をお願いします。発表要旨、論文、及びZoomのリンク情報はAFCオンラインシステムにて閲覧・ご確認いただけます。(登録・参加無料) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/registration/ <お問い合わせ> アジア未来会議事務局 [email protected] ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Invitation to the Sixth Asia Future Conference

    ********************************************* SGRAかわらばん931号(2022年7月22日) 【1】第6回アジア未来会議へのお誘い(8月27日~29日、ハイブリッド) 「アジアを創る、未来へ繋ぐ-みんなの問題、みんなで解決」 【2】第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(再送) 「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」(8月6日、オンライン) ********************************************* 【1】第6回アジア未来会議へのお誘い 本年8月末に台北市の中国文化大学で開催予定であった第6回アジア未来会議は、新型コロナウイルス感染の収束が見通せず、海外からの台湾入境が厳しく制限される状況が続いているため、ハイブリッド方式で実施いたします。台湾在住の方は、中国文化大学の会場で開催する開会式、基調講演、シンポジウム、懇親会に是非ご参加ください。その他の方はオンラインでご参加ください。日本語への同時通訳もあり、また、カメラもマイクもオフのウェビナー形式ですから、どなたでもお気軽にお聞きいただけます。 円卓会議と200本の論文発表が行われる分科会もオンラインで行われます。優秀論文賞の表彰式、優秀発表賞の選考も行います。円卓会議と論文発表のセッションはどなたでも聴講していただけます。皆様のご参加をお待ちしています。 《概要》 名称:第6回アジア未来会議 テーマ:「アジアを創る、未来へ繋ぐ-みんなの問題、みんなで解決」 会期:2022年8月27日(土)~ 29日(月) 開催方法:中国文化大学(台北市)会場及びオンラインによるハイブリッド方式 プログラムは下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/conference-program/ 【開会式、基調講演、シンポジウム】 2022年8月27日(土)午後3時~6時30分(日本時間) ※言語:中英・中日同時通訳 1.開会式 開会宣言:明石康(アジア未来会議大会会長) 主催者挨拶:渥美直紀(渥美国際交流財団理事長) 共催者挨拶:王淑音(中国文化大学学長) 来賓祝辞:泉裕泰(日本台湾交流協会台北事務所代表)・黄良華(冠華実業株式会社社長) 2.基調講演「国際感染症と台湾―新型コロナウイルスとの共存か戦いか」 講師:陳建仁(前中華民国副総統) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/J_AFC6Keynote-LectureF.pdf 3.シンポジウム「パンデミックを乗り越える国際協力―新たな国際協力モデルの提言」 (台湾)孫效智(国立台湾大学学長特別補佐:生命教育学) (韓国)金湘培(ソウル大学教授:国際政治学) (台湾)黄勝堅(台北市立聯合病院前総院長:医学) (日本)大曲貴夫(国立国際医療研究センター国立感染症センター長:公衆衛生学) (台湾)陳維斌(中国文化大学国際部部長:都市工学) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/07/J_AFC6SymposiumF.pdf 4.優秀論文賞授賞式 5.懇親会(会場参加者のみ) ◇基調講演・シンポジウム参加申込 会場参加ご希望の方は下記リンクをご覧ください。 https://forms.gle/28g7Sp444ETZT1ma7 オンライン参加ご希望の方は下記リンクをご覧ください。 https://onl.bz/xekywMA 【円卓会議・セッション・分科会(論文発表)】 2022年8月27日(土)10:00~13:30(日本時間) 2022年8月28日(日)10:00~18:30(日本時間) 2022年8月29日(月)10:00~18:30(日本時間) ※言語:英語、日本語、または中国語 ※オンライン(Zoom会議Breakout_Room機能利用) 1.円卓会議I:アジアにおけるメンタルヘルス、トラウマと疲労 「Are you okay? ―Discussion on mental health, trauma, and fatigue in Asia」 2022年8月28日(日)10:00~13:30 ※言語:英語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6RoundTableI_Memtal_Health_chirashi.pdf 2.円卓会議II:世界を東南アジアのレンズを通して観る 「Community and Global Capitalism ―It’s a Small World After All」 2022年8月29日(月)10:00~13:30 ※言語:英語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6RoundTableIIchirashi.pdf 3.INAFセッション 「台湾と東北アジア諸国との関係」 2022年8月28日(日)15:00~18:30(日本時間) ※言語:日本語 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/06/AFC6GroupSession%EF%BC%88INAF%EF%BC%89F.pdf 4.分科会/セッション(テーマ別論文発表と討論) アジア未来会議は、学際性を核としており、グローバル化に伴う様々な課題を、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化の課題も視野にいれた多面的な取り組みを奨励しています。200本の論文を言語とテーマによって46セッションに分け、ZoomのBreakout_Room機能を用いて分科会が行われます。 ※言語:英語、日本語、または中国語 ◇円卓会議・分科会聴講申込 円卓会議・分科会の聴講をご希望の方は、下記よりアジア未来会議オンラインシステムにてユーザー登録と参加登録をお願いします。発表要旨、論文、及びZoomのリンク情報はAFCオンラインシステムにて閲覧・ご確認いただけます。(登録・参加無料) https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/registration/ <お問い合わせ> アジア未来会議事務局 [email protected] -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話へのお誘い(再送) 下記の通り第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」 日 時:2022年8月6 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法: オンライン(Zoomウェビナーによる) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_7JhkfOH7SqyyUfLl4oCRdw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■開催趣旨 新型コロナ感染症蔓延が続くなか、「国史たちの対話」ではオンラインでのシンポジウムを開催し、一定の成功を収めてきたと考える。イベントを開催する環境にはなお大きな改善が期待しづらいことを踏まえ、引き続き従来参加してきた人々のなかでの対話を深めることを重視した企画を立てた。 大きな狙いは、各国の歴史学の現状をめぐって国史研究者たちが抱えている悩みを語り合い、各国の現状についての理解を共有し、今後の対話に活かしてゆきたい、ということである。こうした悩みは多岐にわたる。今回はその中から、各国の社会情勢の変貌、さまざまなメディア、特にインターネットの急速な発達のもとで、新たな需要に応えて歴史に関係する語りが多様な形で増殖しているが、国史の専門家たちの声が歴史に関心を持つ多くの人々に届いておらず、かつ既存の歴史学がそれに対応し切れていない、という危機意識を、具体的な論題として設定したい。 共通の背景はありつつも、各国における社会の変貌のあり方により、具体的な事情は多種多様であると考えられるので、ひとまずこうした現状認識を「歴史大衆化」という言葉でくくってみた上で、各国の現状を報告して頂き、それぞれの研究者が抱えている悩みや打開策を率直に語り合う場としたい。 なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。フォーラム終了後は講演録(SGRAレポート)を作成し、参加者によるエッセイ等をメールマガジン等で広く社会に発信する。 ■プログラム 第1セッション(14:00-15:20)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【開会の趣旨】彭浩(大阪公立大学) 【問題提起】韓成敏(世宗大学)「『歴史大衆化』について話しましょう」 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2022HanSungminEssay.pdf 【指定討論】 中国:鄭潔西(温州大学) 日本:村和明(東京大学) 韓国:沈哲基(延世大学) 第2セッション(15:30-16:45)司会:南基正(ソウル大学) 【論点整理】劉 傑(早稲田大学) 【自由討論】パネリスト(国史対話プロジェクト参加者) 第3セッション(16:45-17:00)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【総括】三谷 博(東京大学名誉教授) 【閉会挨拶】趙 珖(高麗大学名誉教授) ※日中韓同時通訳つき ※プログラム・会議資料の詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/05/J_Kokushi7_ProjectPlan.pdf ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Olga Khomenko “Conversations with God in the War”

    ********************************************* SGRAかわらばん930号(2022年7月14 日) 【1】SGRAエッセイ:オリガ・ホメンコ「戦争の中で神様と会話」 【2】第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(再送) 「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」(8月6日、オンライン) 【3】第33回持続可能な共有型成長セミナーへのお誘い(再送) 「フィリピンの建設業と直接的には非生産的な追加コスト:地方からの視点」(7月18日、オンライン) ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#712 ◆オリガ・ホメンコ「戦争の中で神様と会話」 自分の家が空爆され家を出なければならない時、家族以外に誰に助けを求められるのかしら。そんな時に聞いてくれる相手は神様しかいないかもしれない。しかし、神様とウクライナ人の関係は特別かもしれない。それは普通の宗教と少し違うかもしれない。特に中部のウクライナでは。 ロシア革命以降宗教は弾圧され、教会も壊され、自由に祈ることもできなかった。宗教の代わりに共産主義、神様の代わりに国のリーダーを信じていた。生まれた子供の洗礼もできなかった。やりたい人はひそかにするしかなかった。どうしてひそかに洗礼をさせていたのかというと、不安定な社会の中で子供を守るためには神様に任せるのが最初で最終的な手段だった。 宗教が弾圧されても、教会が閉まっても、神様を信じなかったことは全くない。開いている教会もいくつかあったが、そこの神父はおそらく国の指導者に従うか、組織的につながって裏で報告していたので、教会の人は信用できなかった。 しかし、教会に行かなくても皆家のどこか隠れた場所で祈っていた。田舎に行ったらおばあちゃんの家には必ずイコン(聖画像)があった。田舎では都会と違って誰もそれに文句を言わなかった。表では共産党のメンバーでも、洗礼を受けた時に頂いた十字架を大事に引き出しの中にしまっていた人もいた。 ソ連時代の小学校の授業では、「宗教の信者は変わった人で、子供が病気になっても医者にかからず、神の力で治せられると信じて死なせる」と教えられてびっくりし、家に帰って泣いた覚えがある。なんとなく宗教の信者は危ない人間と学ばされた。宗教の信者に違和感を持たせる雰囲気の中で育てられた。 宗教は表ではダメであったが、それでも自分より大きな力があると信じることはやめなかった。皆ひそかに復活祭とクリスマスを家で祝っていた。先生たちもそれが分かっていた。生徒の家庭でイースター・ケーキとピサンカ(装飾された卵)を作ると分かっていたので、前の週には「あのケーキをお弁当で持って来てはいけません」と注意された。 このような環境でずっと生活してきたウクライナ人には特別な宗教観が生まれたかもしれない。表と裏の宗教観という。表では祈ってはいけない、教会の近くを通る時に十字架をかけることもできない、そして教会へ行っても神父を信用できない状況だった。ウクライナ語でお祈りすることはほぼできなかった。教会はロシア語だった。ウクライナ語でミサをする教会はキーウには数カ所しかなかった。しかもそこでもロシア革命以降、特に1930年代のスターリン時代、また1970年代に強い圧力を受けて神父や信者を取り締まっていた。特にキーウの教会はそうだった。 2014年に東部で戦争が始まってからは、多くのウクライナ人はロシア正教会に行かなくなった。ミサのなかに政治が絡んでいるので、モスクワからの説教を聞きたくない。そして、何よりも自分の言語で神様と会話をしたいから。神と話せるものが言葉や言語でなくても。2018年にウクライナ正教会がやっと独立できたのは歴史的な出来事である。政治的な圧力でそれができたという批判には反論したい。要するに全ては政治である。ウクライナがロシア革命の後に一回独立した時、正教会には強い独立願望があったが、コンスタンティノープル(現在のイスタンブール)にロシアから強い圧力をかけられて認めてもらえなかった。自分の国を持って、自分の宗教の本部を持つのは当たり前の話である。税金を他国に納めるのではなく、自分の所に納めるのと同じような話だ。自分の言葉で祈り、ウクライナ正教会の本部がキーウにあるのは当然である。それも心の自由で、精神的な独立でもある。 このような状況の中で育てられたウクライナの子供に両親は「神様は心の中にいる」と言う。どこに行ってもあなたの心の中にいる。どの宗教のお寺に言っても祈ることができる。宗教は形だけで、神様は一人である。正教会から考えたらあり得ない話。正しい神はそこだけにあるからだ。でも歴史的、政治的な状況から考えたら、その厳しい状況を受け入れて、その中に自分の世界を作ることができたとも言える。 独立後間もない頃、ある有名な修道院で撮影をしていた時、成績が良い生徒が案内してくれた。その時に色々な話を聞いた。コネがある学生はお金持ちの町の教会で主任になるが、そうでもない人は遠い貧乏な地域の担当になるなど。そこも普通の社会と変わらないと思った。 このような事情によって、ウクライナ人の宗教観が形成された。心の中にはいつも話せる相手がいて、それを、自分を守ってくれる天使か、神様か、自然の力か、手伝ってくれる力と呼んでもいいかもしれないが、いつまでも側にいてくれる力がある。大きく考えれば宗教は元々そのようなものだが、ウクライナの人は教会の人抜きで直接神様に話せるようになった。 ウクライナ人は昔から上からの圧力に反発心が強かったし、型式から抜けるようにしていた。その意味で新しい所に行く好奇心があり、国境を超えてコミュニケーションをする力もあった。17世紀のウクライナに生まれた家庭イコンの現象もある意味でその1つとも言える。もちろん教会で売っていた高いイコンを買えないという理由でもあって、形式を勉強していない人間が自由にイコンを描くようになった。そのイコンはギリシャ、ローマ、ロシアと違って、華やかで慰めてくれるもので、そこに表現されている神様は罰を与えられる存在ではなく、自由に相談できる相手でもあった。 1991年に独立して宗教が自由になった時、それまで禁止されていた宗教にどれだけ関心が集まったか想像してほしい。出版社に勤めていた人の話では、当時一番多く印刷したのは聖書、サスペンス小説、翻訳されたビジネス書だった。また色々な宗教団体が活動にやってきた。同級生は英語を勉強したかったがお金がなかったので、ある米国系の教会に通った。今まで見たことのない外国人であるアメリカ人がそこにいて、自由に会話ができたからだ。しかし3か月後に様々な理由でやめた。宗教ではなく英語が目的だったので。全然宗教に関心のない友達が牧師さんと結婚した時も皆驚いた。幼なじみの従兄は急に航空大学をやめて宗教学校に入った。ちなみに彼は立派な牧師になって今でもやっている。 だが同時に多くの若者を宗教から遠ざける大きな事件もあった。1993年秋に「白い兄弟」と言う新宗教団体にはいっていたキーウ大学哲学部や数学部などの優秀な学生がソフィア寺院あたりで集団自殺をしようとした時だった。警察や公安が早めに察知し、大人のリーダー夫婦を逮捕し、学生を家族に戻した。しかし、大きな精神障害を被って普通の生活に戻れなかった人もいた。マスコミに大きく報道され、新宗教の怖さに皆が気づいた。当時の若者の宗教への熱心さが冷めたとも言える。その後は冷静な目で宗教を見るようになった。 ウクライナの中部と西部では宗教に対する親近感が違う。大都会のキーウはそうでもないが、西へ行けば行くほど、道端に小さな祭壇が多くなり、日曜日に家族揃って教会へ行くのが当たり前になる。宗教が生活の中に溶け込んでいると言っていいかもしれない。正教のお祭りがその土地古来の信仰のお祭りと混ざって生活の中に入っている。お正月を祝って、1月7日に正教のクリスマスを祝って、その次に古来の新春を祝い、その後にキリストの復活祭を祝う。また教会と関係なく、古代の命のシンボルであるピサンカも作る。装飾した卵の伝統が後にイースター卵になったと言われている。7月7日には夏至祭のイワーナ・クパーラを祝う。たまたまその日は聖イオアンのお祭りも重なっている。さらに、最近では7月28日のキーウ公国がキリスト教を受け入れた日がウクライナ国家の日になった。そして古くからあるカレンダーに従って8月14日に蜂蜜収穫、8月19日にリンゴ収穫のお祭りがある。それがキリスト教のものとも重なっている。 日曜日に教会へ行かなくても、家にイコンがあってもなくても、車に小さなイコンを飾っている人も多い。特にタクシーの運転手だ。イコンに守られると思ってシートベルトを締めないのは不思議としか思えないが。 宗教と同じくらいに運命を信じる人もいる。日本の友達がウクライナの一番有名な詩人のタラス・シェフチェンコの詩を読んで、「この人はどうして自分の運命を恨むのですか。ウクライナ人は人生観の中で運命に何パーセント任せられるのですか」と聞いてきた。なるほどと思って翌日クラスで私の生徒にその質問をした。そうすると50%という人、80%の人もいた。だが生徒は皆運命の大きな役割を認めた。それは迷信の文化とも言えるかもしれない。暗い歴史を経験しているので、人前ではあまり自慢しない。運が逃げないように自慢しないという習慣もある。神様を信じる人は迷信を信じないのが普通だが、ウクライナでは両方とも平和的に存在している。 外国の友達に「ウクライナの『運命』の定義は自分の受身的な立場の理由付けに使う」と言われたことがある。その時は、それは大きく間違っていると思った。しかし、戦争が始まってから再び「運命」のことを考えさせられた。3月の初めだったが、キーウにずっと留まっていた友達に避難するように呼びかけたが、「ここから離れない。しようがない。これが私たちの運命であったら、ここで死にます」と言われた。「自分は死んでも良いけど、子供を救いなさい」と言っても聞いてくれなかった。その友達は行動的ではなかったし、また戦争という大きな人生の変化の中でフリーズしていたとしてもおかしくないかもしれない。しかし他の人が決めた「死なせる運命」に任せてはいけないと思う。その人の旦那に話したら、家族を西の方に避難させてくれてありがたかった。皆元気で命が助かった。 戦争が始まってから、ウクライナ人は心の中で神様ともっと会話するようになった。私物はほとんど何も持たずに洗礼の十字架だけを体につけて家から逃げた人、軍隊に参加しているウクライナ人もそうだ。助けてくれるのは自分の手、人の手、また神の手しかない。戦争が始まってから4カ月の間にウィーン、ブダペスト、デュッセルドルフ、ロンドンの駅で出会った避難民のウクライナ人は、ほぼ全員が首に十字架をかけていた。多くの人は手に赤い糸もつけていた。その赤い糸は悪魔から守ってくれる「輪」であり、キリスト教とは全く関係ない。何も助けにならない時はそれでも良いと思う。これもウクライナでは迷信と言っても良いかもしれない土着の信仰が、宗教と複雑に生活の中に溶け込んでいると言えるだろう。 厳しい状況の中に置かれているウクライナ人は一人一人神様とひそかに会話をしている。「神よ、どうしてこんなことにさせられるんですか。私たちは何も悪いことをしていない。ただ自分の国で幸せな暮らしをしようとしていただけです。どうして守ってくれなかったのですか。私たちはどうしてこのような試練を味わうことになったのですか。しかし、周りの人は被害にあったけど、私と私の家族を助けてくれてありがとう。本当にすみません、こんな話をあなたにしてしまって。でもあなたにしか助けてもらえないからお願いしています。どうにかしてください、神様。私たちの上に傘を開き、燃えているところから、あなたの掌の上に救い上げてください。お願いです。お年寄り、子供たち、動物たちも。頼みます」と。大体皆このように毎日神と会話している。 BBCの記者が東部から報道しているテレビ番組を見ていたら、後ろにいたおばあちゃんがミサイルが飛んでいるのを眺めて大声でお祈りを早口に叫んでいた。イギリス人の記者は「どうして逃げないのか」と目を丸くしていた。 知り合いの13歳の息子は46時間もかけてドイツに向かっている車の中で話していた。到着前の1時間半は母親も疲れ切って運転中に居眠りすることを怖れて、上の息子にお祈りでもしてと頼んだ。その子が知っているお祈りは10分で終わってしまったので、母親を絶対に寝かさないために、いつものように神様との会話を始めた。無事に着くように頼んでいた。守ってもらうように大声で願っていた。無事に行き先に到着した。祈りが届いたとも言える。心の中にいる神に守られたとも言える。 ただの会話だけではなく、実際に積極的に行動もしていることに感動する。そこには諺(ことわざ)でも表現されている昔の知恵がある。「神様にお祈りをしようとしても、自分がただ寝ていたらダメです」。言い換えれば、神には自分の手しかないということだ。また「神に守られていても本当は刀がコサックを守ってくれる」を読めば神に対する定義がだいたい分かっていただけるでしょうか。 <オリガ・ホメンコ Olga Khomenko> キーウ・モヒーラビジネススクールジャパン・プログラムディレクター、助教授。キーウ生まれ。キーウ国立大学文学部卒業。東京大学大学院の地域文化研究科で博士号取得。2004年度渥美奨学生。歴史研究者・作家・コーディネーターやコンサルタントとして活動中。 著書:藤井悦子と共訳『現代ウクライナ短編集』(2005)、単著『ウクライナから愛をこめて』(2014)、『国境を超えたウクライナ人』(2022)を群像社から刊行。 ※留学生の活動を知っていただくためSGRAエッセイは通常、転載自由としていますが、オリガさんは日本で文筆活動を目指しておりますので、今回は転載をご遠慮ください。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話へのお誘い(再送) 下記の通り第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」 日 時:2022年8月6 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法: オンライン(Zoomウェビナーによる) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_7JhkfOH7SqyyUfLl4oCRdw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■開催趣旨 新型コロナ感染症蔓延が続くなか、「国史たちの対話」ではオンラインでのシンポジウムを開催し、一定の成功を収めてきたと考える。イベントを開催する環境にはなお大きな改善が期待しづらいことを踏まえ、引き続き従来参加してきた人々のなかでの対話を深めることを重視した企画を立てた。 大きな狙いは、各国の歴史学の現状をめぐって国史研究者たちが抱えている悩みを語り合い、各国の現状についての理解を共有し、今後の対話に活かしてゆきたい、ということである。こうした悩みは多岐にわたる。今回はその中から、各国の社会情勢の変貌、さまざまなメディア、特にインターネットの急速な発達のもとで、新たな需要に応えて歴史に関係する語りが多様な形で増殖しているが、国史の専門家たちの声が歴史に関心を持つ多くの人々に届いておらず、かつ既存の歴史学がそれに対応し切れていない、という危機意識を、具体的な論題として設定したい。 共通の背景はありつつも、各国における社会の変貌のあり方により、具体的な事情は多種多様であると考えられるので、ひとまずこうした現状認識を「歴史大衆化」という言葉でくくってみた上で、各国の現状を報告して頂き、それぞれの研究者が抱えている悩みや打開策を率直に語り合う場としたい。 なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。フォーラム終了後は講演録(SGRAレポート)を作成し、参加者によるエッセイ等をメールマガジン等で広く社会に発信する。 ■プログラム 第1セッション(14:00-15:20)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【開会の趣旨】彭浩(大阪公立大学) 【問題提起】韓成敏(世宗大学)「『歴史大衆化』について話しましょう」 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2022HanSungminEssay.pdf 【指定討論】 中国:鄭潔西(温州大学) 日本:村和明(東京大学) 韓国:沈哲基(延世大学) 第2セッション(15:30-16:45)司会:南基正(ソウル大学) 【論点整理】劉 傑(早稲田大学) 【自由討論】パネリスト(国史対話プロジェクト参加者) 第3セッション(16:45-17:00)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【総括】三谷 博(東京大学名誉教授) 【閉会挨拶】趙 珖(高麗大学名誉教授) ※日中韓同時通訳つき ※プログラム・会議資料の詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/05/J_Kokushi7_ProjectPlan.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第33回持続可能な共有型成長セミナーへのお誘い(再送) 下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「フィリピンの建設業と直接的には非生産的な追加コスト:地方からの視点」 The Philippine Construction Industry and Directly Unproductive Extra Costs: A Regional Perspective 日時:2022年7月18日(月)9:00~12:00 方法:Zoomによる 言語:英語 主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA](日本) 共催:フィリピン大学ロスバニョスの公共政策・開発大学院(UPLB_CPAf) チラシ・参加登録:下記リンクよりお申し込みください https://drive.google.com/file/d/1D52C3yLW1MibE94Qyk9s7NWePc1YIyoW/view お問い合わせ:(英語のみ)SGRAフィリピン事務局 [email protected] +63-995-088-2414 Lenie_Miro ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Invitation to the 7th Dialogue in the National Histories of Japan, China, and Korea.

    ********************************************* SGRAかわらばん929号(2022年7月7日) 【1】第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(8月6日、オンライン) 「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」 【2】国史エッセイ紹介:韓成敏「『歴史大衆化』について話しましょう」 【3】第33回持続可能な共有型成長セミナーへのお誘い(7月18日、オンライン) 「フィリピンの建設業と直接的には非生産的な追加コスト:地方からの視点」 ********************************************* 【1】第69回SGRAフォーラム 第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話へのお誘い 下記の通り第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」 日 時:2022年8月6 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法: オンライン(Zoomウェビナーによる) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ※参加申込(クリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_7JhkfOH7SqyyUfLl4oCRdw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■開催趣旨 新型コロナ感染症蔓延が続くなか、「国史たちの対話」ではオンラインでのシンポジウムを開催し、一定の成功を収めてきたと考える。イベントを開催する環境にはなお大きな改善が期待しづらいことを踏まえ、引き続き従来参加してきた人々のなかでの対話を深めることを重視した企画を立てた。 大きな狙いは、各国の歴史学の現状をめぐって国史研究者たちが抱えている悩みを語り合い、各国の現状についての理解を共有し、今後の対話に活かしてゆきたい、ということである。こうした悩みは多岐にわたる。今回はその中から、各国の社会情勢の変貌、さまざまなメディア、特にインターネットの急速な発達のもとで、新たな需要に応えて歴史に関係する語りが多様な形で増殖しているが、国史の専門家たちの声が歴史に関心を持つ多くの人々に届いておらず、かつ既存の歴史学がそれに対応し切れていない、という危機意識を、具体的な論題として設定したい。 共通の背景はありつつも、各国における社会の変貌のあり方により、具体的な事情は多種多様であると考えられるので、ひとまずこうした現状認識を「歴史大衆化」という言葉でくくってみた上で、各国の現状を報告して頂き、それぞれの研究者が抱えている悩みや打開策を率直に語り合う場としたい。 なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。フォーラム終了後は講演録(SGRAレポート)を作成し、参加者によるエッセイ等をメールマガジン等で広く社会に発信する。 ■プログラム 第1セッション(14:00-15:20)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【開会の趣旨】彭浩(大阪公立大学) 【問題提起】韓成敏(世宗大学)「『歴史大衆化』について話しましょう」 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2022HanSungminEssay.pdf 【指定討論】 中国:鄭潔西(温州大学) 日本:村和明(東京大学) 韓国:沈哲基(延世大学) 第2セッション(15:30-16:45)司会:南基正(ソウル大学) 【論点整理】劉 傑(早稲田大学) 【自由討論】パネリスト(国史対話プロジェクト参加者) 第3セッション(16:45-17:00)総合司会:李恩民(桜美林大学) 【総括】三谷 博(東京大学名誉教授) 【閉会挨拶】趙 珖(高麗大学名誉教授) ※同時通訳つき ※プログラム・会議資料の詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/05/J_Kokushi7_ProjectPlan.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】国史対話エッセイのご紹介 6月29日に配信した国史対話メールマガジン第42号のエッセイをご紹介します。本エッセイは、8月6日(土)にオンラインで開催する「第7回国史たちの対話の可能性」問題提起文です。 ◆韓成敏(世宗大学)「『歴史大衆化』について話しましょう」 今回の「国史たちの対話」で筆者が提起したいテーマは、「歴史学、歴史学者はこのままで良いのか」という危機感または問題意識の表出である。既存の歴史学、歴史学者のあり方に対する危機感が筆者一人だけのものなのか、他の方々にも共感していただけるのか、共感していただけるとすればどのような解決策を見出すことができるのかを、共に議論したい。 1) 歴史学の危機 1.時代の変化 冷戦の解体と社会の民主化の進展に伴い、これまで新しい社会の方向性を先導してきた歴史学の社会的役割は縮小していった。このため、歴史学をはじめとした人文学は方向性を見失って漂流しており、社会的な注目度も下がっている。 2.ニューメディアの登場と擬似歴史学 盲目的な愛国主義と民族主義を強調する擬似歴史学は、過度な民族感情の刺激と対立、愛国主義を煽る扇情的な歴史解釈を流布している。このような傾向は、特定のアルゴリズムを基盤としたユーチューブ(YouTube)などのニューメディアと積極的に結合し大衆の関心を拡大再生産することによって特定の歴史解釈に対し確証バイアスがかかった認識を強化させている。しかし、このような流れに対する歴史学界の対応は非常に遅く、微弱である。 3.大衆領域における「歴史消費」の活発化 大学では、学生の歴史科目に対する興味関心が低下している反面、社会的には歴史コンテンツに対する需要が増加している。全般的な経済力の向上、労働時間の短縮、定年後の生活などにより余暇時間が増大し、人文学、歴史学などについて中高年層を中心に様々な人文学関連プログラムの需要が増加している。しかし、これに対して歴史学はその需要に十分に応えていない。 続きは下記リンクからお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2022HanSungminEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバーおよび購読登録は下記リンクをご覧ください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第33回持続可能な共有型成長セミナーへのお誘い 下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「フィリピンの建設業と直接的には非生産的な追加コスト:地方からの視点」 The Philippine Construction Industry and Directly Unproductive Extra Costs: A Regional Perspective 日時:2022年7月18日(月)9:00~12:00 方法:Zoomによる 言語:英語 主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA](日本) 共催:フィリピン大学ロスバニョスの公共政策・開発大学院(UPLB_CPAf) チラシ・参加登録:下記リンクよりお申し込みください https://drive.google.com/file/d/1D52C3yLW1MibE94Qyk9s7NWePc1YIyoW/view お問い合わせ:(英語のみ)SGRAフィリピン事務局 [email protected] +63-995-088-2414 Lenie_Miro ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************