SGRAメールマガジン バックナンバー

  • KIM Woonghee “Nikkan Asia Future Forum #20 ‘Progressive K-Culture’ Report”

    ********************************************* SGRAかわらばん925号(2022年6月9日) 【1】金雄煕「第20回日韓アジア未来フォーラム『進撃のKカルチャー』報告」 【2】寄贈書紹介:李暁東/李正吉編著『北東アジアにおける近代的空間:その形成と影響』 ********************************************* 【1】SGRA催事報告 ◆金雄煕「第20回日韓アジア未来フォーラム『進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力』報告」 2022年5月14日(土)、新型コロナウイルスが「終盤」の猛威を振るう中、第20回日韓アジア未来フォーラムが前回同様Zoomウェビナー方式で開催された。これまで2回続けて日韓関係の「暗い」部分を扱ってきたが、今回は今西さんのご提案で「明るい」部分について議論することにし、「防弾少年団(BTS)」の文化力に焦点を当て「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」について議論を交わした。日韓、そしてベトナムから専門家を招き、BTSの文化力の源泉をなすものは何か、BTS現象は日韓関係、地域協力、そしてグローバル化にどのようなインプリケーションをもつものなのかなどについて幅広い観点から検討した。 フォーラムでは、渥美国際交流財団SGRAの今西淳子(いまにし・じゅんこ)代表による開会の挨拶に続き、日本と韓国から2名の専門家による基調報告が行われた。まず、小針進(こはり・すすむ)静岡県立大学教授は「文化と政治・外交をめぐるモヤモヤする『眺め』」という題で、政治と文化を切り離せない葛藤、政治ニュースの韓国とInstagramの韓国のギャップへの葛藤、文化消費と政治的価値観・世代間の差への葛藤、魅了する文化と不安定な大統領の国に対する葛藤、反日・親日騒動と嫌韓助長への葛藤、政治的表明とその反発への葛藤、政治の文化への介入と「推し」の反日疑惑への葛藤、熱心なファン集団「ファンダム」のSNS投稿を素直に楽しめない葛藤、アーティスト批判の嫌韓論への葛藤、以前は日本が韓国の手本だったことに対する葛藤など、日本の大学生が経験している文化と政治をめぐる葛藤とモヤモヤする「眺め」の実体を様々な側面から生々しく描いた。 韓準(ハン・ジュン)延世大学教授は、「BTSのグローバルな魅力」について、外的環境的な要因と内的力量的な要因に分けて考察した研究結果を報告した。まず、外的、環境的な要因として、グローバル文化における中心―周辺関係の弱化又は解体、文化的趣向におけるヒエラルキーの弱化とオムニボア(雑食性)の登場、文化的価値としてのハイブリッドと真正性の結合、個人化したデジタル媒体によるマスメディアの代替を挙げた。そして内的、力量的な要因として音楽スタイルやパフォーマンス能力の卓越性、真正性とアイデンティティの結合を通じた共感の拡大、グローバルファンダムである「アーミー(BTS公式ファンクラブ)」の強力なサポートを指摘した。 第2部に入り、ミニ報告では、チュ・スワン・ザオ(Chu_Xuan_Giao)ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員が、ベトナムにおけるKポップ・Jポップ、ベトナムからのKポップ・Jポップの現状を紹介し、文化資源としてのVポップの可能性について若干の考察を加えた。自由討論では、金賢旭(キム・ヒョンウク)国民大学教授が日本の伝統芸能の一分野である能との比較から、平田由紀江(ひらた・ゆきえ)日本女子大学教授がメディア・文化研究の観点からそれぞれコメントした。 第3部では、金崇培(キム・スンベ)国立釜慶大学助教授と金銀恵(キム・ウンヘ)釜山大学社会学科助教授のアシストでウェビナー画面の「Q&A機能」を使って一般参加者との質疑応答が行われた。最後は、徐載鎭(ソ・ゼジン)未来人力研究院院長により、日韓アジア未来フォーラムの経緯や役割についての熱いコメントと閉会の辞で締めくくられた。今回は250を超える一般からの参加申し込みがあり、最多時の参加者が170人を上回った。静岡県立大学、仁荷大学から若い学生の参加も多かった。十分な質疑応答が行われたとは言い切れない部分もあるが、アンケートを通じて多くの参加者からフォーラムの感想などが寄せられた。「フォーラムは期待通りであった」(「大いに期待通り」56.6%、「だいたい期待通り」38.4%)と答えた人の割合が95%を占めており、「新韓流現象やモヤモヤの正体が分かった」との感想もあった。 今回は第20回という節目だったにもかかわらず、惜しくもコロナ禍で記念行事や日韓アジア未来フォーラムならではの「番外」はなかった。次回は20年を振り返りつつ、ぜひ「春鹿」と「爆弾酒」を飲みながらの会にしたいと思う。最後に第20回目のフォーラムが成功裏に終わるよう支援を惜しまなかった今西SGRA代表と李鎮奎未来人力研究院前理事長(咸鏡道知事)、そして前回同様ウェビナーの準備に万全を期し、完璧なフォーラムに仕上げてくれたスタッフの皆さんのご尽力に感謝の意を表したい。 当日の写真 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/06/JKAFF20Photos.pdf アンケート集計 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/06/JKAFF20survey.pdf 韓国語版報告 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/06/06/jkaff20-report/ <金雄煕(キム・ウンヒ)KIM_Woonghee> 89年ソウル大学外交学科卒業。94年筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、98年博士。博士論文「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。99年より韓国電子通信研究員専任研究員。00年より韓国仁荷大学国際通商学部専任講師、06年より副教授、11年より教授。SGRA研究員。代表著作に、『東アジアにおける政策の移転と拡散』共著、社会評論、2012年;『現代日本政治の理解』共著、韓国放送通信大学出版部、2013年;「新しい東アジア物流ルート開発のための日本の国家戦略」『日本研究論叢』第34号、2011年。最近は国際開発協力に興味をもっており、東アジアにおいて日韓が協力していかに国際公共財を提供するかについて研究を進めている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 島根県立大学北東アジア地域研究センター長の李暁東先生より新刊書をご寄贈いただきましたので紹介いたします。 ◆李暁東/李正吉編著『北東アジアにおける近代的空間:その形成と影響』 本書は2016年度に始まった共同研究プロジェクト「北東アジアにおける近代的空間の形成とその影響」の最終成果論集です。このプロジェクトは島根県立大学北東アジア地域研究(NEAR)センターの北東アジア研究事業の重要な一環です。今回、北東アジア諸地域の各分野の第一線で活躍している内外の研究者からの助力を得て、24名の研究者からなる執筆陣が、「北東アジアの近代」というテーマと、この空間における「コンタクト」に焦点を当てる視点とを共有しつつ、北東アジアの「近代」像を描きだすのに努めました。本書は以下の三点に心がけながら北東アジアの「近代」にアプローチしました。(1)「北東アジアの『近代』を中心に据えたうえで、とくに歴史や、思想、文化の視点からアプローチすること、(2)研究対象として、モンゴルとロシア(ソ連)のシベリア地域を重視すること、そして(3)「北東アジア」の境界性を意識する代わりに、それを一つのネットワークとして捉えて、とくに様々な「コンタクト・ゾーン」におけるコンタクトと変化に注目すること、の三つです。 発行所:明石書店 ISBN:9784750353296 判型・ページ数:A5・674ページ 出版年月日:2022/03/31 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.akashi.co.jp/book/b605024.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Mya Dwi Rostika “On your birthday – Mom’s Tweet”

    ********************************************* SGRAかわらばん924号(2022年6月2日) 【1】ミヤ・ドゥイ・ロスティカ「お誕生日に―ママのつぶやき」 【2】国史エッセイ紹介:劉傑「歴史と私―不思議な巡り合わせ―」 【3】寄贈書紹介:包聯群編著『現代中国における言語政策と言語継承』 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#708 ◆ミヤ・ドゥイ・ロスティカ「お誕生日に―ママのつぶやき」 13年前、28歳の時に息子を産んだ。当時私は博士課程2年生で、夫は来日が遅れたため私の後輩になった。同じ専攻に在籍し、同じ先生に師事していた。 出産3日前まで、毎夜遅くまで研究室にいて論文を書き、また先生の手伝いをしていた。 私費留学だった私たちは日本に来てから奨学金をもらうことができたものの、決して裕福な暮らしができたわけではなかった。子供を授かった時には、将来この子を育てていくだけの経済力があるかが不安だった。出産費用は国の助成があって、不足分もなんとか貯金から捻出できた。学生だった私たちには、将来の仕事の保証も全くなかったけれども、他方では将来子供の教育はどうするか、親になったからには責任を持たないといけないと思った。私が貧しい家に生まれ、行きたかった塾や習い事を全部我慢していた過去があったからかも知れない。なんとしても子供には不自由なく、何でも体験させたいと考えていた。 赤ちゃんの頃、息子は手間がかからなかった。夜泣きはしなかったし、夜起きたとしても、夫が対応して私を休ませてくれた。 保育園が決まっていなかった頃には、息子を連れて大学に行った。私と夫が授業の時には、インドネシア人の後輩たちに面倒をみてもらった。息子が2歳の頃、私は国連機関のプロジェクトに採用され、東北地方に度々出張することとなった。数日間家を空けることもあった。その時は、全て夫が息子の面倒を見ていた。今思えば、私が息子の弁当を作ったのは遠足の日だけだった。しかも「ママにはキャラ弁は無理」と説得し、友達の可愛い弁当を見ても私におねだりしないように先手を打った。 夫も共に学術界にいるので長期現地調査はもちろん、海外の学会にも息子を連れて行った。息子の“学会デビュー”は3歳の頃で、私が発表をする際は同じ教室に座らせ、iPadを渡して好きな「きかんしゃトーマス」「アンパンマン」「トムとジェリー」などの映像を見させていた。批判覚悟だったが、学会後いろいろな人に「静かに座れて、お利口な子だね。」と褒められ、励ましの言葉もたくさんもらった。 6カ所での非常勤講師をかけ持ちしていた頃はほぼ休みがなく、保育園や学校の行事にろくに参加できず、一緒に遊んでやれなかった。それでも息子は理解をしてくれた。 息子のために必死に働いていると思っているが、実は息子の方が我慢をして私のわがままに付き合ってくれているのではないかとも思う。13年間かなり我慢させている代わりに、これからはできる限りママ業をやるつもりでいる。 <ミヤ・ドゥイ・ロスティカ Mya_Dwi_Rostika> インドネシア出身。2010年度渥美奨学生。大東文化大学国際関係学部国際関係学科講師。1998年広島県立三和高校に1年間交換留学をきっかけにガジャマダ大学で日本語を専攻。国士舘大学大学院博士号取得(政治学)。国士舘大学、大東文化大学、亜細亜大学、神奈川大学、放送大学非常勤講師、警察大学校インドネシア語主任講師を経て2019年より現職。専門は東南アジア(特にインドネシア)地域研究。インドネシアの障害児童学校への車椅子寄贈・奨学金提供のボランティア活動を活動中。 ※このエッセイはミヤさんがフェイスブックに投稿したものを、許可を得て転載させていただきました(編集部) -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】国史対話エッセイのご紹介 4月22日に配信した国史対話メールマガジン第40号のエッセイをご紹介します。 ◆劉傑(早稲田大学教授)「歴史と私―不思議な巡り合わせー」 自分の進路を自分で決めるほど、贅沢なことはない。文化大革命時代の中国では、若者の夢は夢で終わってしまうのは当たり前のことであった。私が通っていた中高一貫の学校の卒業式は、卒業生を農村に送り出す壮行会も兼ねていた。毛沢東の「上山下郷」の号令で、高校を卒業した青年には「人民公社」に「就職」する他は選択の余地はなかった。文化大革命の嵐に大人たちの日常が吹き飛ばされるなか、中学生だった私は、いずれは農村に送り出される日のことを想像しながらノホホンと暮らしていた。1976年の秋、歴史が突然動き出した。文化大革命が終わり、翌年、大学入試制度が復活した。 続きは下記リンクからお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2022LiuJieEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバーおよび購読登録は下記リンクをご覧ください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】寄贈書紹介 SGRA会員で大分大学教授の包聯群さんから新刊書をご寄贈いただきましたので紹介します。 ◆包聯群編著『現代中国における言語政策と言語継承(第六巻)』 本書は、2021年12月25日に大分大学にて実施された「第十回国際ワークショップ現代中国における言語政策と言語継承―多言語の視点から」での口頭発表に基づいた研究が中心となる論文集である。主に危機言語と経済、言語多様性の継承、中国の言語政策と民族言語政策、中国国内におけるアルタイ系言語、モンゴル系諸語、及び北京語(と普通話)、満洲―ツングース系言語などが含まれている。(まえがきより) 発行所:三元社 出版年月日:2022年3月25日 ISBN:978-4-88303-546-5 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Max Maquito “Manila Report 2022 Early Summer: Thrice, My People Wept”

    ********************************************* SGRAかわらばん922号(2022年5月26日) 【1】エッセイ:マックス・マキト「マニラ・レポート2022年初夏」 【2】寄贈書紹介:『メディアがひらく運動史』 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#707 ◆マックス・マキト「マニラ・レポート2022年初夏:Thrice,_My_People_Wept」 フィリピン大統領選挙が迫ってきた昨年暮、この国の政治体制について僕自身の考えが変わったことに気づいた。きっかけはコロナ禍のストレス解消で始めた職場のアマチュアのオンライン合唱団の仲間から、インターネットで盛んに聴かれているある歌の動画が紹介されたことだ。ハリウッドのミュージカルに興味がある方は誰でもご存知の「レ・ミゼラブル」の歌をタガログ語に翻訳したものだった。名前こそ出さなかったが、フィリピン大学ロスバニョス校が大学を挙げて応援している大統領候補のためにこの曲を歌おうという意図は見え見えだった。合唱団のメンバーは話し合い、「楽譜や歌詞や練習材料があるからやりましょう、一緒に歌いましょう」と決定した。紹介者の意図とは異なり、特定の候補者のための選挙運動ではない中立的なものとして、合唱団の7番目の演奏曲の練習と動画制作が始まった。 中立的な立場を守る決意は、我が合唱団の標語である「多様性の中の調和」に基づいている。合唱団が演奏する曲はできる限り4つの声(ソプラノ、アルト、テノール、バス)から成り立つことで、多様な音声(ボーカル)から1つのハーモニーを作り出すという意味合いがある。「SGRAかわらばん」読者の皆さんはご存知のように、これはSGRAと渥美財団の標語にもなっている。「多様性の中の調和」に沿っていれば政治的な意見の違いで入団を断ることは絶対にないし、特定の候補者のための選挙活動もしない。 今度の選挙について考えさせられたのは、次期大統領を誰に委ねるべきかということではなく、フィリピンの民主主義そのものであった。それこそが第7演奏曲の主題である。 冒頭で述べたミュージカルの原作であるヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』は民主主義革命で激変した19世紀フランスが舞台であり、フィリピン人にとっては1980年代のマルコス独裁政権と戦った革命に通じるところがある。第7演奏曲の動画では、最初にフィリピンとフランスの国歌が部分的に似ているところを取り上げる。次にフィリピンが東南アジアにおいて一番古い民主主義国でありながら、何かが壊れているという論文が紹介される。 プロローグが終わると、レ・ミゼラブルの映画と1986年のエドゥサ革命(マルコス政権の崩壊を導いた)の映像を交互に見せながら、「民衆の歌が聞こえるか」を合唱する。背景の映画とエドゥサの場面には共通点がある。幸せそうに国旗を振る国民たち。女性も子供もいる。太鼓を叩いて行進、高い場所から眺めている野次馬。そして、兵隊と市民が平和に繋がる道にあふれている。エドゥサの無血革命は有名になり、ベルリンの壁の崩壊やアラブの春のようなピープルパワー革命に例えられた。 第7演奏曲の動画には僕なりの政治的メッセージも入れた。1980年代から2020年までのASEAN諸国の一人当たり国内総生産(GDP)の変化が表示された。こぶしを挙げた子どもが画面に映った時、統計の動きが止まる。2020年、フィリピンはベトナムに追いつかれた。フィリピンに真の民主主義が健在であったら、このようにはならなかったはずだ。民主主義である以上、国民全員の幸せが追及されるべきである。ところがフィリピンは成長が鈍く、未だに貧富の格差が大きい。共有型成長が実現されないのはなぜなのか。ある米国の政治経済学者の分析によれば、それこそが問題。格差が酷い社会では1人1票より、1ドル1票になりがちなのだ。結果として政治的決定権は人口比率が少ない上層階級にあり、政治方針を左右する。 「民衆の歌が聞こえるか」では「明日が来れば!」という歌詞が2回も歌われている。それに便乗して「未来は明日から始まるが、そこで終わらない」と長期的な努力が必要なことを強調した。続いて「国造りは投票所から始まるが、そこで終わらせるべきではない」、最後にケネディ元米大統領の演説の動画とその有名な言葉「国家が諸君のために何をしてくれるかを求めず、諸君が国家のために何をできるかを求めよ」を映すことによって、フィリピンに真の民主主義を実現するために気を緩めないで努力しようと呼びかけた。 (外伝) 勤務している大学院にはセンターが3つあるが、その1つの「共同社会・革新研究センター」長候補として、若い研究員達の圧倒的な支持を得て推薦された。全く意外な展開で、適任ではないので辞退したいと説得を試みたが納得してくれず、指名を受けざるをえなかった。4月上旬に推薦期間が終了した時、候補者は僕1人だった。しかし、人事委員会はよくわからない理由で推薦期間の延長を決めた。うんざりして辞退したかったが、若い支持者たちに強く反対されたので、彼らの熱い働きかけを再び尊重するしかなかった。予想通り候補者がもう1人推薦された。しかも大物である。最近大学に来たばかりの教員なので、誰かが相当なエネルギーをかけて僕に反対しているということだ。候補者の施政方針の発表と人事委員会による面接が終わり、今は決定を待っている。結果がどうなろうと、5年前に私が大学に来てから続けている「持続可能な共有型成長」の普及活動を好意的にみてくれた若い研究者たちがいてくれることに、感謝の気持ちで一杯である。若手研究者の支持を尊重するのか、トップダウン政治で決めるのか、最終決断は組織のトップの手中にある。これも民主主義の試練の1つである。 (後書き) 実は「第7プラス演奏曲」というバージョンも作った。第7演奏曲の一番後には、白黒写真で「早く再会したい我が愛する父」が出ている。この動画を作成中に父が亡くなった。僕は最後まで父のそばに居ることができた。20年以上の日本滞在の後、5年前に帰国したことに感謝する。「第7プラス」の最後に病院の父の短い動画を入れた。パンデミックで病院の出入りが極めて厳しかったので、父は甥や姪や僕たちにオンラインで話しかける。「あなたたちは祖国の未来の一員なのだから、堂々と行動できるように研鑽してください」と。未熟ながらも第7演奏曲と「第7プラス演奏曲」を父に捧げる。 Thrice,_My_People_Wept フィリピン大学ロスバニョス校の同僚達は圧倒的にレニ・ロブレド大統領候補者を支持していたが、津波のように襲ってきたフェルディナンド・マルコス二世に敗北した。選挙結果の信憑性が問われているが、選挙管理委員会は結果を認める方向で固まっている。民間調査がその結果をずっと報じていたことが強い理由だという。しかし、誰が勝ったかというよりはフィリピンの民主主義そのものの方が問題なのだ。国民全員が泣くべきだ。僕を応援してくれたセンターの若き研究者たちも、彼らの意志が否定される可能性を作り出した人事の過程に対して深い不満を抱え泣いている。そして、国のために頑張れと最後にエールを投げかけた愛する父の他界を家族が嘆く。 フィリピンに真の民主主義が到来するよう、オールフィリピンで一人残らず頑張るしかない。改めて共有型成長の必要性を強調したい。 「第7プラス演奏曲」を下記よりご覧ください。 https://www.youtube.com/watch?v=IPsH5VT1Cj8 <フェルディナンド・マキト Ferdinand_C._Maquito> SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員で東京外国語大学特別研究員の趙沼振さんから共著書をご寄贈いただきましたので紹介します。趙さんの論文「日大闘争で生まれたメディア」も所載されています。 ◆大野光明、小杉亮子、松井隆志 編『メディアがひらく運動史』 社会運動はビラや機関紙、ミニコミ、映画、版画、音楽、雑誌など、多様で個性的なメディアを生み出してきた。メディアとは、モノでも人でもあり、運動の帰結であり動因でもある。メディアのもつ物質性が人びとの関係性を生み出し、運動を切り開いてきたのだ。1960~70年代に簇生した独立系や商業メディアを、一次資料とインタビューから掘り起こす。 発行所:新曜社 出版年月日:2021/07/15 ISBN:9784788517332 判型・ページ数:A5・240ページ 定価:2,640円(本体2,400円+税) 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.shin-yo-sha.co.jp/book/b586837.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • CHAN Ya-hsun “Pandemic, Global Civil War, Kotoku Shusui”

    ********************************************* SGRAかわらばん922号(2022年5月19日) 【1】詹亜訓「パンデミック・グローバル内戦・幸徳秋水」 【2】国史エッセイ紹介:余新忠「歴史と人生」 【3】寄贈書紹介:李わ書『晉唐道敎の展開と三敎交渉』 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#706 ◆詹亜訓「パンデミック・グローバル内戦・幸徳秋水」 幸徳秋水の『帝国主義』から始まった私の研究生活はコロナ禍でジレンマに突き当たった批判的思考力の危機と向き合っている。パンデミック保護主義と非常事態の日常化、社会的疎外に覆われていた2年あまりの間、国境と主権国家の統治を前提としたロックダウンとスローダウン、シャットダウンなどの動きが続いていた。 一方、ひっそりと地理的境界線を越えて繰り広げられたのは、戦争と内戦として現れた暴力である。世界が注目するロシア・ウクライナ戦争のほか、パレスチナとイエメン、シリア、エチオピア、ミャンマー……、世界各地に暴力の影が依然として潜んでいる。現代の戦争形態は工業化とグローバリゼーションにともなって変化し、必ずしも物理的攻撃とは限らない。社会の隅々にまで浸透し、見えずとも日常生活につながっている暴力の実態は現代政治思想のなかでグローバル内戦とも呼ばれる。パンデミック下の大規模な渡航制限の関係で、他の国・地域情勢は容易に自分とは無関係で別世界のことだと思われる。人間の存在にとどまらず、社会的孤立状態が国際社会でも起きているなか、グローバル内戦の現実はさらに想像がつきにくいかもしれない。 1900年代初頭に出版された『帝国主義』は遠くから2020年代のパンデミックとグローバル内戦の課題と呼応している。結論で幸徳は「愛国的病菌は朝野上下に蔓延し、帝国主義的ペストは世界列国に伝染し、二十世紀の文明を破毀し」尽くすと、近代帝国主義への注意を喚起する。当書の執筆時期にはペストの日本での初流行と子年(ねずみどし)の大流行必至のパニックが起きていたので、病菌とペストのメタファーが用いられた。また、全書をつらぬく愛国心への問いかけから帝国主義の心理的メカニズムを見抜いたことが際立っている。他者への憎しみとの絡み合いこそが愛国の構造なのだと、帝国という暴力装置にかかわったメンタリティが析出される。こうした構造のもとで、「非愛国者なり、国賊なりと」愛国を理由に他者を差別・攻撃する傾向が必然的に内部の対立を深め、「世界人民は遂に敵を有せざる能わず、憎悪せざる能わず、戦争せざる能わず」という世界人民の敵対をもたらすと、幸徳は語る。 『帝国主義』は実に帝国主義の大流行による世界規模の戦争・内戦状態という恐ろしい結末へのパンデミック・アラートなのである。この書を出してしばらくのあいだ注目を集めていたが、日露戦争の最中あえて非戦論とトランスナショナルな連帯を堅持した幸徳は平民社同人とともにひどい目に遭い、『平民新聞』の発行部数は急落した。それは当局の弾圧によるものであり、読者に見捨てられたのもあった。『帝国主義』が世に問われてわずか10年で、「愛国的病菌」と「帝国主義的ペスト」と闘ってきた幸徳の生涯は監視と入獄、亡命を経て、大逆事件のフレームアップによって終止符が打たれた。政権の恨みを買ったと言われるが、愛国の要求に応じなかったから非国民扱いをされたという愛国主義の社会的雰囲気と対照的な社会的孤立も看過できないだろう。大逆を口実に反対する声を圧殺した政権の暴走を社会の内戦的傾向の芽生えとすれば、暴走に歯止めをかけられなかったことは社会連帯の限界を反映していたのではないか。 パンデミック・アラートとして、愛国の構造と世界規模の戦争・内戦状態との関わりへの鋭いまなざしは今日でも欠かせない。むろん、『帝国主義』がそのまま通用するわけではなく、今の時代状況に基づき、冷静な目で課題解決を見つめなければならない。パンデミック下、難しい決断か戦略的操作かとまでは言い切れないが、ワクチン・ナショナリズムと国境封鎖のような自国優先で保護主義的措置がまるで残された唯一の選択肢であるかのように取られている。トランスナショナルな連帯が弱まるなか、紛争地域の衝突と南北格差、ジェンダー不平等、人種差別、移民難民問題などの課題は世界規模の感染拡大とともに深刻化している。これは現在進行形のグローバル内戦である。従来の国際協調体制の限界を認め、主権国家の固定観念を変え、国境を越えて社会的連帯の可能性を模索していくことは、コロナの時代と向き合う基本姿勢だと考える。『帝国主義』をリアルタイムで読むことで、この時代のパンデミック・アラートとしての批判的思考力を引き出せば、積極的な取り組みにもつながるだろう。 <詹亜訓(せん・あくん)CHAN Ya-hsun> 台湾国立交通大学社会と文化研究科修士。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻修士、同専攻の博士後期課程に在籍中。専門は、東アジア政治・社会思想史。20世紀日本の社会問題と帝国主義論の相互関係について研究している。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】国史対話エッセイのご紹介 3月23日に配信した国史対話メールマガジン第39号のエッセイをご紹介します。 ◆余新忠(南開大学歴史学院院長)「歴史と人生」 人生には常に様々な偶然と予想外の展開が伴いますが、人生の分岐点に立って来た道を振り返ってよく考えてみたら、偶然の中にある種の必然があったと思うことが多いでしょう。知命の歳を過ぎた歴史学者として、自分の史学を研究してきた人生を振り返ると、実に感慨無量です。 私の故郷は浙江省杭州市臨安区昌化鎮の北西に位置する小さな山村にあり、鎮からは3、4キロメートル離れた自然豊かで景色が美しい場所です。交通の便はまあまあ良く、貧しくて遅れているところではありませんが、発達した裕福な地域とも言えません。私自身の人生の軌跡もごく普通で、7 歳の時、ちょうど文化大革命が終わった年に小学校に入学し、1987年、18歳になった時に大学に合格しました。私の人生が歴史と縁を結んだ直接な原因は間違いなく大学の時に歴史を専攻したことにありますが、それは確かに偶然でした。 続きは下記リンクからお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2022YuXinzhongEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバーおよび購読登録は下記リンクをご覧ください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】寄贈書紹介 SGRA会員で東京大学大学院人文社会系研究科研究員の李?書さんから新刊書をご寄贈いただきましたので紹介します。 ◆李わ書『晉唐道敎の展開と三敎交渉』 道敎が大きく發展した時代に三敎交渉の視點から迫る! 三敎交渉の歴史において魏晉南北朝隋唐期の道敎が形成した過程を思想的な面に焦點を當てつつ、可能な限り當時の歴史的背景や、儒・道・佛三敎の交渉樣相(特に道佛兩敎を中心に)といった事柄を視野に入れて考察する。具體的には、東晉南北朝初期の道敎經典における「道」の理解と至尊神の形態と、重玄思想の成立をめぐる諸問題、ならびに佛敎の般若學の空思想が與えた道敎思想への影響、そして至尊神である「三淸」信仰體系の形成と、北朝期道敎の展開とその歴史的背景、佛敎の道敎に對する批判體系の形成及びそこに反映された佛敎による道敎敎理の理解、そして三敎交渉における儒道關係の樣相という多方面からの考察を通じて、魏晉南北朝隋唐期に起こった道敎の形成過程およびその思想の展開について分析し、その歴史的意義の更なる解明を目指す。 発行所:汲古書院 ジャンル:中国思想・哲学 出版年月日:2022/03/30 ISBN:9784762967115 判型・ページ数:A5・546ページ 定価:14,300円(本体13,000円+税) 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.kyuko.asia/book/b603002.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Mohd Hafiz Hilman Bin Mohammad Sofian “Deep Work”

    ********************************************* SGRAかわらばん921号(2022年5月12日) 【1】エッセイ:ヒルマン「ディープ・ワーク」 【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(最終案内) 「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」(5月14日オンライン) ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#705 ◆モハマド・ハフィズ・ヒルマン・ビン・モハマド・ソフィアン「ディープ・ワーク」 現在、SNS(会員制交流サイト)は普遍的なものになり、人間の生活を変えつつあります。もちろん良い方向に変わっているところがたくさんあります。情報を早く拡散したり、長い間離れている人と接続したりすることができます。一方、世間では大目に見られているSNSの悪いところも紛れもなくあります。色々ありますが、最近注目を浴びているのが人間の気を散らすことです。「SNSを使うことによって気が散る」ということについて、詳しく説明しなくてもこのエッセイを読んでいる皆さんはなんとなく分かると思います。SNSを人生に導入し使いすぎることによって、自分の本当のポテンシャルを引き出すことができなくなると思います。この問題を解決し、人生を変えたい人は少なくないと思いますが、そのような方にジョージタウン大学のカル・ニューポート教授が著した『ディープ・ワーク(Deep_Work)』という本を強くお薦めます。生産率を上げるのに、この本は不可欠だと思います。 ディープ・ワークというのは「認知能力を限界まで押し上げ、注意散漫のない集中状態で実行される活動」と定義します。著者は現在の世界で首尾よく生き残るために、このディープ・ワークを実行できる能力を身につけないといけないと述べています。SNSのように気を散らすものは自分にとって良くないので、完全にではなくてもできるだけそこから自分を離さなければなりません。これによって集中力を手に入れることができます。ディープ・ワークがなぜ大事かというと、現在多くの場合、脳とメンタルを使用する仕事が求められているからです。周りをきちんと観察すれば、誰でも分かると思います。 言わずもがなですが、世界は「自動システム」という将来に向かっています。自動運転の車をはじめ、スマートハウスやロボットなどという最先端技術・サービスが普及しています。この技術・サービスのコストが下がりつつあり、庶民にとっても手頃な値段になっています。現代のあらゆる会社はこの最先端技術・サービスに関わっているため、それらの会社に「ソフトウェア部」が存在しています。この「ソフトウェア部」は時間がたつにつれて大きくなり、大事な部署になると思われます。将来はソフトウェアに関わる仕事が多くなり、それに関連するジョブチャンスも多くなると考えられます。複雑なソフトウェアのスキルや知識を得るためには誰にとっても集中力が必要で、ディープ・ワークがとても重要であると考えられます。 さあ、ディープ・ワークの大切さは分かったけど、そのスキルを手に入れるにはどうすれば良いかと皆さん戸惑っているでしょう。著者は詳しく書いていますが、私が個人的に使っており、お薦めしたい方法を説明します。それはフェイスブックやインスタグラムなどのSNSの使い方を変えることです。現在多くの人が24時間、SNSを使っています。いつでも、どこでも。起床したらすぐ最初にSNSをチェックします。レストランで順番を待っていたら、すぐポケットから携帯を出しSNSをチェックします。これは非常に悪い習慣です。これによって脳が「つまらなさ」に慣れず、常に刺激を求めるようになります。そのため、複雑で大変なタスクに取り組むときに集中できなくなり、仕事の質が低下します。これを解決するために、一日にSNSをチェックする時間を決め、守るようにします。例えば、昼の12時と夜の8時にそれぞれ45分間だけSNSをチェックする、などです。その時間帯以外はできるだけSNSのチェックを控えます。これで脳が「つまらなさ」に対して鍛えられ、メンタルの強い人になることができます。結果として、集中力が上り、大変なタスクを実行することができます。 ディープ・ワークの本を読み、それをできるだけ自分の人生に取り入れた結果、人生は180度変わりました。学部3年生の時、プログラミングと画像処理の課題・研究をしなければならないことになりましたが、当時機械工学の学生だった私は非常に困りました。短時間でこの複雑で難しいことをできるだろうかと自分の能力を疑いました。ちょうどその時、ディープ・ワークの本に出会って夢中で読みました。この本から学んだことをすぐに実行しました。最初は自分の時間の使い方の習慣を変えるのが大変でしたが、だんだん慣れるようになりました。時間がたつにつれて、難しいプログラミングのスキルすら手に入れることができました。皆さんもぜひディープ・ワークの本を読み、自分の一日の生活に取り入れてみてください。人生が良い方向に変わると思います。 <モハマドハフィズ・ヒルマン・ビン・モハマド・ソフィアン Mohd_Hafiz_Hilman_Bin_Mohammad_Sofian> 2021年度渥美国際交流財団奨学生。マレーシア出身。芝浦工業大学機能制御システム専攻博士。研究テーマは「Semi-Automated_Active_Learningによるディープラーニングのための画像アノテーションにおける作業時間の削減に関する研究」。現職は日立Astemo株式会社システムアキテックチャーエンジニア。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(最終案内) 下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。SGRAフォーラムはどなたにでもご覧いただけますので、ご関心をお持ちの方にご宣伝いただけますと幸いです。 ◆テーマ「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」 日時:2022年5月14日(土)15:00~17:00 方法: Zoomウェビナー による 言語:日本語・韓国語(同時通訳付き) 主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共催:(財)未来人力研究院(韓国) 申込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Gsv7xgH3R-GFJled06s0BA お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 BTSは国籍や人種を超え、一種の地球市民を一つにしたコンテンツとして、グローバルファンダムを形成し、BTS現象として世界的な注目を集めている。一体BTSの文化力の源泉をなすものは何か。BTS現象は日韓関係、地域協力、そしてグローバル化にどのようなインプリケーションをもつものなのか。本フォーラムでは日韓、アジアの関連専門家を招き、これらの問題について幅広い観点から議論してみたい。日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行う。 ■プログラム 司会:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学教授) 【開会挨拶】:今西淳子(いまにし・じゅんこ、SGRA代表) 第1部:講演 【講演1】「文化と政治・外交をめぐるモヤモヤする『眺め』」 小針進(こはり・すすむ、静岡県立大学教授) 【講演2】「BTSのグローバルな魅力」 韓準(ハン・ジュン、延世大学教授) 第2部:討論 【ミニ報告】「ベトナムにおけるKポップ・Jポップ」 チュ・スワン・ザオ(Chu_Xuan_Giao、ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員) 【講演者と討論者の自由討論】 金賢旭(キム・ヒョンウク、国民大学教授) 平田由紀江(ひらた・ゆきえ、日本女子大学教授) 第3部:質疑応答 ZoomウェビナーのQ&A機能を使い質問やコメントを視聴者より受け付けます アシスタント: 金崇培(キム・スンベ、釜慶大学日語日文学部准教授) 金銀恵(キム・ウンヘ、釜山大学社会学科准教授) 【閉会挨拶】:徐載鎭(ソ・ゼジン、未来人力研究院院長) プログラムは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/J_JKAFF20_program.pdf ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/JKAFF20poster_light.jpg 韓国語版サイトは下記をご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/04/08/jkaff20/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Olga Khomenko “Anticipation of War, Leaving Home, Various Barriers”

    ********************************************* SGRAかわらばん920号(2022年5月5日) 【1】エッセイ:オリガ・ホメンコ「戦争の予感・家を出ること・様々な壁」 【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」(5月14日オンライン) ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#704 ◆オリガ・ホメンコ「戦争の予感・家を出ること・様々な壁」 オーストリアの田舎を走る電車に乗っている。窓の外の景色は春の花で着飾っていて、美しさのあまりにどきどきする。オーストリアに避難できた私の家族に初めて会いに行く。私自身は戦争が始まる2週間前から仕事でヨーロッパに来ていた。母と姉の家族は空爆が始まった2月24日に学校の地下室にある寒いシェルターで一晩を過ごし、皆でキーウを離れることを決めた。町を出るのは決して安全ではなかったので、どの道を走るか迷った。西ウクライナの友達に相談し、キーウとリビフをつなぐ幹線の高速道路はやめて、村の中を走る迂回路にした。普通は高速道路で6~7時間の旅が、村道も渋滞していて28時間もかかった。それでも途中でガソリンを入れられ、空爆に会わないで出られて幸せ。 教え子のポリーナさん家族の場合はそれほど運が良くなかった。同じ25日にジトーミル方向に走ると、まず渋滞に巻き込まれて動けない。さらにホストーメリ空港がひどく空爆されている音を聞いて結局キーウに戻った。ドライブは諦めて翌日キーウ駅に行ったが、あまりの混雑で電車に乗れなかった。ストレスで吃音し始め、白髪も出た。幸い2週間後にポーランドに出稼ぎに出ている父親の所に行くことができた。 私の家族がキエフの家を出るまでに40分しかなかった。キーウの人たちは1月から避難用のかばんを準備し始めていた。そこに必要な書類(身分証明書や運転免許証)、下着、靴下、携帯食品、飲料水、電池、携帯ラジオ、携帯電話の充電器などなどを入れる。そこで2014年に東部で戦争が始まった時に配布された「もしも空爆の場合は」というマニュアルを初めて読んで、家の中でお風呂場が一番安全な場所と知った。構造柱があって窓がないので爆撃を受けても命を守ることができる可能性が高いと書いてある。振り返ってみると必ずしもそうではなかったようだが。 この避難かばんは、地震に備える非常持出袋と同じ。ただ地震の代わりに戦争が入っていた。まさかそれを経験すると思わなかった。そして私の母は最後まで避難かばんを作らなかった。無視していた。それで家を出る時に物を集めるのに結構慌てた。自分のものだけではなく、ワンちゃんの餌や薬なども必要だった。結局、一番古いかばんに入れて出発。後になって「あなたがたくさんかばんを買ってくれたのに、どうして一番汚いのに詰めたんだろう」と悲しんでいた。母が避難かばんを作らなかったのは不注意というより、子どもの頃にもうすでに戦争を経験している80歳の人が、まさか同じような経験をしなければならないとは思わなかったのだろう。1月末からヨーロッパの母の友達から「遊びに来ませんか」と誘われていたが強く断っていた。 同じような感じは年寄りだけではなかった。若い人もそうだった。状況を甘く見ていた。1月7日の正教のクリスマスで帰ってきた友達が「アメリカやヨーロッパのメディアは結構騒いでいるのに、キーウの人はお祭り気分で現実を忘れているのが不思議」と言っていた。キーウの家族には「あなたは想像力が豊かすぎる。戦争なんか起こらないよ」と言われていた。今思い出すと笑えない。 1月後半のキーウは表面には出なかったが、既に見えないところでは緊張感が走っていた。外国の大使館が撤退し始めた。日本の商社マンが家族を日本に帰国させた。その後も外国人が少しずつ近くのヨーロッパの国々に移動し始めた。友達が皆去っていき取り残された気分になった。1月25日に日本政府が渡航危険レベル4に上げた翌日の朝5時、その日にコンサルティングを予定していた会社から急にメールがきた。「お元気ですか」の挨拶もなく「全ての業務をやめます」としか書いてなかった。なるほどと思った。その日から皆が一気にいなくなった。お世話になっている人に「これは普通ですよ。イラクとアフガニスタンの時と同じこと。大変なことにならない前に皆を帰らせたがっているでしょう。後になって避難させるために政府のチャーター機を飛ばすのは大変なお金がかかるから」と冷静に言われてびっくりした。まさかイラクとアフガニスタンと同じではないじゃないかと思った。しかし、私の見方も甘かった。 1月末の外国メディアには「キーウの人は勇気があって町を出ない」という報道が多かった。勇気だったのか、それとも、ただ顔に出さない不安を言葉にできなかったのか。ふり返ってみると、周りには、緊張感が和らがずに結構不安になっていた人が多かったと思う。万が一の場合はどうするか考えていた。ただ口に出さなかった。ウクライナの人はぎりぎりまで我慢する特徴があるからだ。日本人と似たところがあって、人の前で面子を失うのを避け、最後まで無理して我慢するところがある。いくら緊張しても人の前で言わない。 1月末に著書の出版記念講演会の後、車の中で教え子とそんな話をした覚えがある。知り合いがSNSに書いたこともあった。面白い書き方で「皆さん、私は空気を読めない人間で最後まで気づかないタイプで、今回の状況で何か大事な情報を見流すのが怖いので、いざとなったら誰か教えてください。背中を押してください。頭も叩いてくださいよ」と。その人はチェルニヒフ出身で今ベルリンにいる。誰かが知らせたのでしょう。 私は多くの国際プロジェクトに参加しているので外国に出張へ行く段取りはできている。パスポート、保険、クレジットカード、現金、パソコンや携帯電話や充電器、そして必要な連絡先情報さえあれば他は全部買える。だが旅慣れてない人にとって家を出るのは簡単な話ではない。しかも避難者になるのだ。たくさんの壁があったに違いない。 一番大きな不安を及ぼす壁は金銭的なものでしょう。ウクライナはソ連崩壊から今に至るまで銀行に信用がないので、タンス預金も多い。そのため空巣や泥棒が入ることも多い。もちろん、みんなに貯金がたくさんあったわけではない。特に若い人には、お金を借りるシステムが導入されてからそれで困った人がたくさんいる。コロナが進んでから失業率が上がり、緊急金貸しもたくさん増えた。日本では大きい金額とも思われない5万~10万円くらいを、自分の家や車を担保にして借りる。だが年寄りは違う。今まで色々な時代を経験しているから、万が一のためのお金と葬儀代は必ず用意している。2014年には通貨の下落のせいで5分の1になったが、外貨に変えておく年寄りは少ない。 唯一の財産である自分の家を置いていく壁。それから外国語の壁。だが今回ヨーロッパに避難してきたウクライナの人々を見ると、言葉を話せなくても遠くに来た人がたくさんいる。身に危険を感じたらとにかくサバイバル力で動く。3月中旬、そのような人たちにウィーンの中央駅で出会った。スーミ市に住んでいて、2月24日に家から100メートルの所に爆弾が落ちたので、慌てて荷造りして子供2人を抱えて電車を乗り継いでスペインにいる姉の家族の所に行くことにした。不安と緊張感を移動の原動力にした人たちだった。 だが、苦労して大事に買った唯一の財産でもある家を去ることが考えられない人たちもいる。それ以外に財産がない人。外国語が分からなくて言葉の壁にぶつかる人もいる。また「外国では誰も我々を待っていない。行っても困る」という思い込みの壁にぶつかる人たち。そして他にも色々な誰にも言えない壁とトラウマが体の中に染み込んでいる人達。空爆されても自分の家に残るという考え方も分からないわけではない。特に自分の家で死にたいというお年寄りの気持ちは世界共通でしょう。 家を出たままもう2ヶ月が過ぎている。2月中旬の出張には当然、必要最低限の物しか持ってこなかった。季節が変わり春夏の服を買いました。しかし今回分かったのは、家なんてどうでもいいです。元気さえあればいくらでも新しい家を作れる。命が取られたら終わりですから。 <オリガ・ホメンコ Olga_Khomenko> キーウ・モヒーラビジネススクールジャパン・プログラムディレクター、助教授。キーウ生まれ。キーウ国立大学文学部卒業。東京大学大学院の地域文化研究科で博士号取得。2004 年度渥美奨学生。歴史研究者・作家・コディネーターやコンサルタントとして活動中。 著書:藤井悦子と共訳『現代ウクライナ短編集』(2005)、単著『ウクライナから愛をこめて』(2014)、『国境を超えたウクライナ人』(2022)を群像社から刊行 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。SGRAフォーラムはどなたにでもご覧いただけますので、ご関心をお持ちの方にご宣伝いただけますと幸いです。 ◆テーマ「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」 日時:2022年5月14日(土)15:00~17:00 方法: Zoomウェビナー による 言語:日本語・韓国語(同時通訳付き) 主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共催:(財)未来人力研究院(韓国) 申込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Gsv7xgH3R-GFJled06s0BA お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 BTSは国籍や人種を超え、一種の地球市民を一つにしたコンテンツとして、グローバルファンダムを形成し、BTS現象として世界的な注目を集めている。一体BTSの文化力の源泉をなすものは何か。BTS現象は日韓関係、地域協力、そしてグローバル化にどのようなインプリケーションをもつものなのか。本フォーラムでは日韓、アジアの関連専門家を招き、これらの問題について幅広い観点から議論してみたい。日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行う。 ■プログラム 司会:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学教授) 【開会挨拶】:今西淳子(いまにし・じゅんこ、SGRA代表) 第1部:講演 【講演1】「文化と政治・外交をめぐるモヤモヤする『眺め』」 小針進(こはり・すすむ、静岡県立大学教授) 【講演2】「BTSのグローバルな魅力」 韓準(ハン・ジュン、延世大学教授) 第2部:討論 【ミニ報告】「ベトナムにおけるKポップ・Jポップ」 チュ・スワン・ザオ(Chu_Xuan_Giao、ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員) 【講演者と討論者の自由討論】 金賢旭(キム・ヒョンウク、国民大学教授) 平田由紀江(ひらた・ゆきえ、日本女子大学教授) 第3部:質疑応答 ZoomウェビナーのQ&A機能を使い質問やコメントを視聴者より受け付けます アシスタント: 金崇培(キム・スンベ、釜慶大学日語日文学部准教授) 金銀恵(キム・ウンヘ、釜山大学社会学科准教授) 【閉会挨拶】:徐載鎭(ソ・ゼジン、未来人力研究院院長) プログラムは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/J_JKAFF20_program.pdf ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/JKAFF20poster_light.jpg 韓国語版サイトは下記をご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/04/08/jkaff20/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●留学生の活動を知っていただくためSGRAエッセイは通常、転載自由としていますが、オリガさんは日本で文筆活動を目指しておりますので、今回は転載をご遠慮ください。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ 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  • LI Zhaoxue “Understanding by Objects”

    ********************************************* SGRAかわらばん919号(2022年4月28日) 【1】エッセイ:李趙雪「モノによる理解」 【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」(5月14日オンライン) ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#703 ◆李趙雪「モノによる理解」 このエッセイは、久々に東京に戻る飛行機の中で書いている。 2019年、長年の留学先である日本をしばらく離れ、訪問留学生として台湾大学で中国美術史の調査研究に出掛けた。まさかこれが日本と永遠の別れのような2年間に発展してしまうとは想像もできなかった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが宣言された2020年3月からの2年間は、日本に戻れず実家の天津で博論を執筆しながら、入国を待っていた。今年3月、外国人の入国制限緩和に伴い、日本に戻れることとなった一方、出発地の母国中国の北京では、感染者が発見され次第、団地単位でロックダウンされる苦境に陥った。これからの世界はどうなるか、不安に思いながら、かろうじて旅に出た。 航空券の入手が難しかったのでてっきり満席だと想像していたが、十数人だけが搭乗しているボーイング777-300機内の光景に驚かされた。コロナ以前、日本行きの便は常に観光客で満員だった。帰りの便には預入荷物の許容ギリギリまで詰めたお土産品が載せられ、これで飛行機はまだ飛べるのかという笑い話がよく聞こえたことを思い出す。あの爆買い時代は、もう遠い昔のように感じる。 爆買い時代、銀座やお台場で買い物している母国の人々と遭遇すると、いつも少し恥ずかしい気持ちになった。しかし最近、彼らの行為や心境を徐々に理解できるようになった。それは、モノに対する執着というより、モノを作った人の考えや工夫などに対する愛着だと言ったほうが妥当かもしれない。モノの背後にある製造者の知恵への憧れだ。商品と呼ばれるモノの移動を通して、中国人は使いやすい道具を作ってくれた日本人、綺麗な商品パッケージをデザインした日本人を理解した。 私にも経験がある。側面がデコボコしたチューハイ「氷結」などのダイヤカット缶が「ミウラ折り」という技術を応用していることを、何年か前にあるデザイナーから教わった。「ミウラ折り」とは、航空宇宙工学者の三浦公亮さんが考案した紙の折り方である。大きな紙をコンパクトに一瞬でたたむことができるため、太陽光パネルを小さく折りたたんで宇宙に持って行き、宇宙空間でぱっと広げることが可能な技術である。また菱形のような規則的な折り目を与えることで構造物の強度を補強するという成型技術でもある。そのため「ミウラ折り」はNASA宇宙探査にとってきわめて重要な技術と言える。「ミウラ折り」の歴史を知った私はその後、コンビニで並んでいる缶を観察することが癖になった。それは研究者やデザイナーの知恵の威力といってもよいであろう。宇宙探査から飲料の缶にまで使われている「ミウラ折り」から、日本人の発想には、とてもシンプルだが役に立つという特徴があることを理解した。 一方、長い鎖国の歴史を持つ日本もモノを通して中国を理解した。モノによる理解は古い歴史のある日中貿易史、ないし私の専門であった美術史でもよく研究されるテーマである。 中国の王朝交代の際、自ら仕えた王朝への忠誠から、新たな君主や他の王朝に仕えない遺民たち(明朝遺民や清朝遺民)は日本に避難した。その際、遺民の心境を理解することに大きく貢献したのは書画、篆刻、工芸品などの美術品というモノであった。当然、儒学の共通認識や漢字文化圏で筆談によって理解し合えたこともあったであろうが、漢文や儒学の普及には限界があり、全ての人が理解していたわけではないと思われる。江戸時代の庶民たちは浮世絵に描かれた三国志演義、水滸伝の物語から中国をイメージしたのだろう。 また、浮世絵の主題だけでなく、表現方法も蘇州民間版画に由来するものであったことも明らかにされている。蘇州民間版画を手本に浮世絵を制作した絵師、職人たちはその時代の中国通だったかもしれない。 さらに日本では古くから、中国舶来のモノに憧れを抱き、それを唐物と呼んだ。鎌倉、室町時代に中国から将来した天目茶碗という陶磁器や金襴という織物などはそれである。そしてお茶をたしなむ文化の普及とともに、唐物の美意識も広がった。鎖国の歴史が長くても日中間にモノの交換・交流が途絶えたことはない。 相手にとって必要なモノを作り交換することは、人間の最も素朴な交流だが実に重要である。そのため、西洋は中国の英訳Chinaを小文字にして陶磁器(china)、日本の英訳Japanを小文字にして漆器(japan)という言葉をモノの代名詞として使用する。こうしたモノと国名の結び付きにとどまらず、店名や社名がモノに結び付けられることもよく見られる。それはモノによるアイデンティティーの表出である。 ところがこの2年間、コロナの影響によりモノの交流が激減し、マスメディア、ネット上の架空の情報交換が理解の主要手段となった。その結果、日本の世論調査で中国人の日本への好感度が大幅低下した。それは通常のモノと言語の二次元的理解から、言語やデータだけの一次元的理解へと変化したことが要因だと考えられる。そこで失われたのは実際に見たり触ったり、使ったりするモノである。相手の国の言語を理解できなくても、生活必需品、嗜好品、美術品などを通して他国のことを理解することができる。言説だけに留まるのでなく、モノを媒介とした二次元的理解こそが理想であると考えられる。 <李趙雪(り・ちょうせつ)LI Zhaoxue> 2021年度渥美奨学生。東京芸術大学大学院美術研究科日本・東洋美術史専攻(博士)、京都市立芸術大学大学院美術研究科芸術学(修士)、中央美術学院人文学院美術史専攻(学士)。研究方向は中国近代美術史、日中近代美術交流史。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。SGRAフォーラムはどなたにでもご覧いただけますので、ご関心をお持ちの方にご宣伝いただけますと幸いです。 ◆テーマ「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」 日時:2022年5月14日(土)15:00~17:00 方法: Zoomウェビナー による 言語:日本語・韓国語(同時通訳付き) 主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共催:(財)未来人力研究院(韓国) 申込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Gsv7xgH3R-GFJled06s0BA お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 BTSは国籍や人種を超え、一種の地球市民を一つにしたコンテンツとして、グローバルファンダムを形成し、BTS現象として世界的な注目を集めている。一体BTSの文化力の源泉をなすものは何か。BTS現象は日韓関係、地域協力、そしてグローバル化にどのようなインプリケーションをもつものなのか。本フォーラムでは日韓、アジアの関連専門家を招き、これらの問題について幅広い観点から議論してみたい。日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行う。 ■プログラム 司会:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学教授) 【開会挨拶】:今西淳子(いまにし・じゅんこ、SGRA代表) 第1部:講演 【講演1】「文化と政治・外交をめぐるモヤモヤする『眺め』」 小針進(こはり・すすむ、静岡県立大学教授) 【講演2】「BTSのグローバルな魅力」 韓準(ハン・ジュン、延世大学教授) 第2部:討論 【ミニ報告】「ベトナムにおけるKポップ・Jポップ」 チュ・スワン・ザオ(Chu_Xuan_Giao、ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員) 【講演者と討論者の自由討論】 金賢旭(キム・ヒョンウク、国民大学教授) 平田由紀江(ひらた・ゆきえ、日本女子大学教授) 第3部:質疑応答 ZoomウェビナーのQ&A機能を使い質問やコメントを視聴者より受け付けます アシスタント: 金崇培(キム・スンベ、釜慶大学日語日文学部准教授) 金銀恵(キム・ウンヘ、釜山大学社会学科准教授) 【閉会挨拶】:徐載鎭(ソ・ゼジン、未来人力研究院院長) プログラムは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/J_JKAFF20_program.pdf ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/JKAFF20poster_light.jpg 韓国語版サイトは下記をご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/04/08/jkaff20/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************    
  • XIE Zhihai “It’s Time for Japan’s Unicorns to take flight!”

    ********************************************* SGRAかわらばん918号(2022年4月21日) 【1】エッセイ:謝志海「日本のユニコーンも翔び立つ時」 【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」(5月14日オンライン) ********************************************* 【1】 SGRAエッセイ#702 ◆謝志海「日本のユニコーンも翔び立つ時」 3月11日、経団連は5年後の2027年までに起業の数を10倍にし、最も成功するスタートアップのレベルも10倍に高めるという目標とともに、政府に「スタートアップ庁」の創設を提言した。まず驚いた。日本からユニコーン企業を増やそうと言い出したのは、日本を代表する企業が軒を連ねる経団連なのだから。これは日本の経済にとって、とても革新的だと思う。こうして公に発表されたのなら、早急に具現化した方が良いし、日本からGAFAMのような企業が生まれる様を見てみたいと感じた。日本発のユニコーン企業、実はとても少ないのだ。米国のCBインサイツのデータによると、日本のユニコーン企業数はアジアの中では5位で、1位は中国。全体での1位はもちろん米国である。 そして近年、ユニコーン企業の発掘に国を挙げてサポートしているのが韓国である。こんなことを私が堂々と紹介する資格など実はない。恥ずかしながら、韓国の経済と言えばサムスン、LG、ヒュンダイといった財閥系企業主導だと思っていたのだから。だが、ひとたび韓国のユニコーン企業の勢いの仕組みを知ると驚きの連続であった。韓国、そこは世界の投資家が目を光らせている市場だったのである。ちなみに先述のユニコーン企業数の統計では、韓国はアジアの中では4位である。 まず、スタートアップがユニコーン企業になるには、株式の上場前で企業価値が10億ドルを超える企業にまで成長させることだ。ゆえに企業投資家は将来有望なスタートアップ探しに余念がなく、これまではスタートアップが生まれる場所は米国、特にシリコンバレーなどが知られていたが、今やその視野はグローバル化している。ベンチャーキャピタルにとってはスタートアップが鉱脈と思えば、世界中で目を光らせておくことは必至だろう。実際のところ、世界の10大企業のうち7社がベンチャービジネス支援を受けているという(英エコノミスト誌2021年11/27-12/3号)。では韓国はどのようにして、スタートアップへの資金調達に成功しているのだろう。 韓国の多産なユニコーン企業創出には国のバックアップが大きかった。本格的なスタートアップ支援は、朴槿恵政権が発端だったそうだが、文在寅政権に変わっても立ち消えることはなかった。ここが韓国の底力の発揮だったのか、それからは政府出資のベンチャーファンドの組成など次々と目標と政策を掲げ、2017年には中小ベンチャー企業部は「庁」から「部」に昇格している。さらにベンチャー投資制度を一元化し、規制緩和を通じ投資機会の拡大をすることで、民間企業からの投資チャンスを得やすくなった。さらなる投資の増加が見込める、勢いが止まらないエコサイクルが出来上がった。 既存のビジネスでは韓国のユニコーン企業とはどのようなものがあるかというと、やはり人々が持つスマートフォンに深く関わるビジネスだ。もうニューヨーク株式市場に上場してしまったが、韓国版アマゾンと呼ばれているEコマース大手のクーパン(Coupang)は国外のベンチャー企業から投資を受けた韓国発ユニコーン企業として名高い。カーシェアサービスのソカー(Socar)、生鮮食品を早く届けるカーリー(Kurly)もユニコーン企業になった。こうしたスタートアップ、なにも全く新しいビジネス形態ではない。Eコマースもカーシェアリングも他国ですでに存在している。よってユニコーン企業になれたのは既存のアイデアを用い、韓国人が欲しいサービスをタイムリーに提供できたことによる。実際のところ韓国の上記の企業は独自の物流網を整え、顧客の欲しい時間帯に確実に届けるなどで差をつけることで成長している。このスピード感、日本は見習わないといけない。 一方、日本のスタートアップといえばニッチなものが多い。言い換えれば、革新的でまだ市場にないもの、市場に定着するかどうかも分からないものが多い。これが韓国のスタートアップとは大きく違う点だ。週刊東洋経済が毎年特集を組む「すごいベンチャー100」を見ていると、スタートアップの業種が他種多様にわたっていて、とても興味深い。こうして将来有望なスタートアップを目の前にすると、日本政府は早急に資金調達や制度の政策を整え、一刻も早くスタートアップの生まれやすい国へ、そしてそれらをユニコーン企業へと後押しできるエコシステムを用意すべきだ。 今の日本に欠けているものはスピード感と海外投資家へのアピールではないだろうか。「すごいベンチャー100」を細かく読んで気づいたことがある。日本人は気づいていないのかもしれないが、物事を丁寧にコツコツと積み上げて製品もビジネスモデルも細部まで綺麗に仕上げること、海外ではそれが出来ない人が多いのだ。日本人の唯一無二の強みをもっと売り込んだ方が良いと思う。そして創業者たちを資金調達に奔走させるのではなくイノベーションに集中できるよう、韓国のように国家レベルでスタートアップに対し変革を起こすべきだ。同時に国内の民間主体による投資機会も増やすことが望まれる。経団連の政策提言にも書かれていたが、VC(ベンチャーキャピタル)に対する出資者の比率を欧米と比較した際に、出資者の多様性が乏しい。韓国では財閥系企業とスタートアップはライバルどころか、むしろスタートアップ創出の機会を応援している。これも韓国政府による規制緩和で、民間企業が直接スタートアップに投資できるようになったことで実現している。 それでも日本は韓国のユニコーン企業創出の勢いに負けない土壌があると確信できたのは、やはり冒頭で伝えた経団連の日本国内でスタートアップを増やし大きくするための提言だろう。今の日本のニッチなビジネス(スタートアップ)が近い将来、世界のスタンダードになるかもしれない。最後に、この提言を発表したのが女性(経団連副会長)だったこともまた、日本の未来に一筋の光が差した気がしたのは私だけだろうか。 参考文献: 1)経団連「スタートアップ躍進ビジョン~10X10Xを目指して?」 https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/024_honbun.html#s2 2)CB_Insights https://www.cbinsights.com 3)The_Economist_2021_November_27th~December_3rd_2022 Adventure_Capitalism~Startup_finance_goes_global 4)JETRO地域・分析レポート「加速する韓国のスタートアップ支援」 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/417fba92dd5a946a.html 5)「週刊東洋経済」2021年9月4日特大号 特集すごいベンチャー100 <謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai> 共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。SGRAフォーラムはどなたにでもご覧いただけますので、ご関心をお持ちの方にご宣伝いただけますと幸いです。 ◆テーマ「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」 日時:2022年5月14日(土)15:00~17:00 方法: Zoomウェビナー による 言語:日本語・韓国語(同時通訳付き) 主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共催:(財)未来人力研究院(韓国) 申込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Gsv7xgH3R-GFJled06s0BA お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 BTSは国籍や人種を超え、一種の地球市民を一つにしたコンテンツとして、グローバルファンダムを形成し、BTS現象として世界的な注目を集めている。一体BTSの文化力の源泉をなすものは何か。BTS現象は日韓関係、地域協力、そしてグローバル化にどのようなインプリケーションをもつものなのか。本フォーラムでは日韓、アジアの関連専門家を招き、これらの問題について幅広い観点から議論してみたい。日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行う。 ■プログラム 司会:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学教授) 【開会挨拶】:今西淳子(いまにし・じゅんこ、SGRA代表) 第1部:講演 【講演1】「文化と政治・外交をめぐるモヤモヤする『眺め』」 小針進(こはり・すすむ、静岡県立大学教授) 【講演2】「BTSのグローバルな魅力」 韓準(ハン・ジュン、延世大学教授) 第2部:討論 【ミニ報告】「ベトナムにおけるKポップ・Jポップ」 チュ・スワン・ザオ(Chu_Xuan_Giao、ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員) 【講演者と討論者の自由討論】 金賢旭(キム・ヒョンウク、国民大学教授) 平田由紀江(ひらた・ゆきえ、日本女子大学教授) 第3部:質疑応答 ZoomウェビナーのQ&A機能を使い質問やコメントを視聴者より受け付けます アシスタント: 金崇培(キム・スンベ、釜慶大学日語日文学部准教授) 金銀恵(キム・ウンヘ、釜山大学社会学科准教授) 【閉会挨拶】:徐載鎭(ソ・ゼジン、未来人力研究院院長) プログラムは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/J_JKAFF20_program.pdf ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/JKAFF20poster_light.jpg 韓国語版サイトは下記をご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/04/08/jkaff20/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 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  • Invitation to the Nikkan Asia Future Forum #20 “Progressive K-Culture”

    ********************************************* SGRAかわらばん917号(2022年4月14日) ********************************************* 第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い 下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。SGRAフォーラムはどなたにでもご覧いただけますので、ご関心をお持ちの方にご宣伝いただけますと幸いです。 ◆テーマ「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」 日時:2022年5月14日(土)15:00~17:00 方法: Zoomウェビナー による 言語:日本語・韓国語(同時通訳付き) 主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA] 共催:(財)未来人力研究院(韓国) 申込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Gsv7xgH3R-GFJled06s0BA お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 BTSは国籍や人種を超え、一種の地球市民を一つにしたコンテンツとして、グローバルファンダムを形成し、BTS現象として世界的な注目を集めている。一体BTSの文化力の源泉をなすものは何か。BTS現象は日韓関係、地域協力、そしてグローバル化にどのようなインプリケーションをもつものなのか。本フォーラムでは日韓、アジアの関連専門家を招き、これらの問題について幅広い観点から議論してみたい。日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行う。 ■プログラム 司会:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学教授) 【開会挨拶】:今西淳子(いまにし・じゅんこ、SGRA代表) 第1部:講演 【講演1】「文化と政治・外交をめぐるモヤモヤする『眺め』」 小針進(こはり・すすむ、静岡県立大学教授) 【講演2】「BTSのグローバルな魅力」 韓準(ハン・ジュン、延世大学教授) 【休憩】 第2部:討論 【ミニ報告】「ベトナムにおけるKポップ・Jポップ」 チュ・スワン・ザオ(Chu_Xuan_Giao、ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員) 【講演者と討論者の自由討論】 金賢旭(キム・ヒョンウク、国民大学教授) 平田由紀江(ひらた・ゆきえ、日本女子大学教授) 第3部:質疑応答 ZoomウェビナーのQ&A機能を使い質問やコメントを視聴者より受け付けます アシスタント: 金崇培(キム・スンベ、釜慶大学日語日文学部准教授) 金銀恵(キム・ウンヘ、釜山大学社会学科准教授) 【閉会挨拶】:徐載鎭(ソ・ゼジン、未来人力研究院院長) プログラムは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/J_JKAFF20_program.pdf ポスターは下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/JKAFF20poster_light.jpg 韓国語版サイトは下記をご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/04/08/jkaff20/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • SGRA Cafe #17 “Ukrainians Beyond Borders” Report

    ********************************************* SGRAかわらばん916号(2022年4月7日) 【1】第17回SGRAカフェ「国境を超えたウクライナ人」報告 【2】フスレ編著『21世紀のグローバリズムからみたチンギス・ハーン』 ********************************************* 【1】第17回SGRAカフェ報告 ◆三宅綾「第17回SGRAカフェ『国境を超えたウクライナ人』報告」 2022年3月21日20時から1時間半にわたり、第17回SGRAカフェ「国境を超えたウクライナ人」がZoomウェビナーで開催されました。今回のカフェは、奇しくもロシアによるウクライナ侵攻開始と同じ2月に発行されたばかりの『国境を超えたウクライナ人』(2022年、群像社)の著者であり、2004年度渥美奨学生でもあるオリガ・ホメンコさんを講師にお迎えして、著作からウクライナとウクライナ人の歴史、文化的背景まで幅広くお話しいただきました。オリガさんは風邪で体調がすぐれない状態でしたが、最後まで情熱をもってお話しくださいました。当日は以前からオリガさんと親交の深い群像社編集発行人の島田進矢さんにゲスト、中央大学教授の大川真先生にコーディネーターとして参加いただきました。 最初に司会の今西淳子SGRA代表よりオリガさんの渥美奨学生当時の懐かしい写真、最初の著作『ウクライナから愛をこめて』(2014年、群像社)の元となったメールマガジン「SGRAかわらばん」(毎週木曜日に日本語で配信)への長年にわたるウクライナに関する投稿や最新作の内容とともにオリガさんの紹介がありました。続いてオリガさん、島田さんから短いご挨拶をいただいた後、『国境を超えたウクライナ人』執筆の経緯や「国境」、「超える」がキーワードとなった経緯について対談していただきました。 オリガさんからはウクライナの歴史と文化、ウクライナ人の精神的背景について日本との関わりも交えてお話しいただきました。特にウクライナのたどってきた歴史や置かれてきた状況についての話は、日本ではほとんど知られていない事ばかりで、物事や状況を多方面から見て考えることの大切さと、与えられる情報だけではなく、自ら知ろうとする事の大切さを教えられるものでした。これまでの支配のトラウマを乗り越え、今まさに自分たちの事を語り始めようとしているウクライナの方々の気持ちがオリガさんを通じて切々と伝わってきました。 最後に大川先生が参加者からの質問やコメントを紹介し、オリガさん、島田さん、今西さんの4人でお話しいただきました。ウクライナでは自由な自己表現ができなかった時代から詩人と作家がウクライナの主張を伝える上で大きな役割を果たしてきたという説明がありましたが、その作品は必ずしもウクライナ語で表現されるものだけではないという指摘が印象的でした。 自分たちの言語はもちろん大切にするべきものだが、それがアイデンティティの全てではなく、大切なのは意識であり、文化であるということ、ウクライナのアイデンティティは歌、刺繍、踊り、生活習慣、生活風土などいろいろなものを含むとても豊かなものであることを理解してもらいたいし、それを通じて自己表現していくことが大切であるというオリガさんの一貫した主張が心に響きました。そういう意味でも、オリガさんの著作はウクライナを理解するうえで素晴らしい案内役ではないでしょうか。そして、ただ心を痛めるだけではなく、自ら知ろうとすること、多面的に考えようとすることの大切さが分かっているようで分かっていなかったことに気づかされました。 カフェの参加者からは、ウェビナーを通じてオリガさんにお話しいただいた事への感謝とオリガさんの気持ちに寄り添おうとする温かい応援がたくさん寄せられました。厳しい状況の中、また体調が万全ではない中で、力強いメッセージを伝えてくださったオリガ・ホメンコさんに改めて感謝いたします。 下記リンクより当日の写真とオリガさんの著書の紹介をご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/cafe17photos.pdf 下記リンクよりアンケートの集計をご覧ください。アンケートに書いてくださったオリガさんへのメッセージは直接お渡ししました。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/cafe17questionnaire.pdf <三宅綾(みやけ・あや)MIYAKE Aya> 東京都出身。博物館学修士(ジョージワシントン大学)、哲学修士(美術史系)(学習院大学)。独立行政法人科学技術振興機構(JST)(現・国立研究開発法人科学技術振興機構)勤務を経て2020年より渥美国際交流財団に勤務。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員で昭和女子大教授のボルジギン・フスレさんから編著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆ボルジギン・フスレ編『21世紀のグローバリズムからみたチンギス・ハーン』 日蒙で開かれた国際シンポジウムの成果。歴史・社会・政治・文化など最新の研究からチンギス・ハーンとその時代を再評価。 --------------- チンギス・ハーンとモンゴル帝国について、かつてはさまざまな偏見や誤解がくりかえされ、歪曲、誹謗もされていた。近年、とりわけ1990年代以降、チンギス・ハーンとモンゴル帝国に対する認識は変わりつづけ、研究、論著の面で大きな成果がえられ、画期的な展開をみせてきた。チンギス・ハーンとその騎馬軍団の挑戦は世界を揺るがしたと同時に、アフロ・ユーラシアの交流の道を大きくひらいたことは、今では、国際的に共通の認識になっている。上記シンポジウムはモンゴルという小さな遊牧の民が、いったいどのような熱情にかられてこのような奇跡をなしとげ、はじめて「ユーラシア」とよびうる歴史的空間を創り出すことができたのか、そのなぞに迫ること、そして21世紀のグローバリズムからチンギス・ハーンとモンゴル帝国、およびその遺産を再評価し、創造的な議論を展開することを目的とした。 (フスレ「まえがき」より) 発行所:風響社(アジア研究報告シリーズNo.8) 出版年月日:2022/02/20 ISBN:9784894898080 判型・ページ数:A5・302ページ 定価:本体3、500円+税 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.fukyo.co.jp/book/b601071.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************