SGRAメールマガジン バックナンバー

LEE Chung-sun “You Are Still Here”

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SGRAかわらばん1036号(2024年10月24日)

【1】エッセイ:李貞善「あなたはまだここに」

【2】催事紹介:第2回東北アジア未来国際フォーラム(11月16日、金沢+オンライン)
「激変する国際秩序の中の東北アジア地域協力の可能性と課題」

【3】第11回日台アジア未来フォーラムのご案内(11月10日、淡江)(再送)
「疫病と東アジアの医学知識――知の連鎖と比較」
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【1】SGRAエッセイ#776

◆李貞善「あなたはまだここに」

ソウル中心部の光化門(グァンファムン)は今日も多くの人たちで賑わっている。おそらくその一部は大韓民国歴史博物館を訪れる来場客であろう。朝鮮王朝の歴史を物語る景福宮(キョンボックン)と米大使館に隣接した歴史を学ぶ最適な場所で、2012年に開館されて以来、近現代の韓国歴史にちなんだ常設展と特別展を企画してきた。

7月27日から3カ月間にかけては特別展が開催されている。タイトルは「あなたはまだここに」。朝鮮戦争で犠牲になった国連軍および民間人を記憶にとどめるために企画された。展示会は、大きく4つのセクションに区分される。「国連の名前で」、「1129日間の戦争」、「救護の手助け」、最後に「見知らぬ土地に刻まれた名前」。

初日の7月27日は、1953年に国連軍と共産軍の両側が朝鮮戦争の休戦協定を結んだ日となる。韓国政府はこの日を「国連軍参戦の日」に指定して、毎年国連軍の参戦勇士の貢献と犠牲を称えており、博物館側の公式説明には以下のように書かれている。

…戦争の残酷な瞬間を経験した多くの人々が、私たちの記憶の向こうに消えていきます。同族間の争いの悲劇で廃墟と化したこの地に、平和の花が咲くまで、実に多くの人々の努力と犠牲がありました。それぞれ違う国から来たが、一つになって戦った国連軍。戦争で苦しんだ軍人と民間人のために献身した人々。私たちが覚えている英雄より隠された英雄がはるかに多いという事実を私たちはもしかしたら忘れていたかもしれません… (大韓民国歴史博物館のホームページ、特別展示会に関する説明)

70年前に起きた朝鮮戦争のことであるが、朝鮮半島の危機は依然として続いている。最近北朝鮮が韓国内へ飛ばしたゴミ風船は、未完の戦争の生きた証であろう。朝鮮戦争勃発75周年を迎える2025年を控えて、韓国では各分野で戦争の教訓を改めて考察する動きがみられる。特別展示会「あなたはまだここに」も、まさにその一環として行われる活動である。

この展示会の最後のセクション「見知らぬ土地に刻まれた名前」に、私の研究論文が学術資料として引用されている。私が渥美奨学生であった2021年に韓国・釜山広域市の発行したジャーナル『港都釜山』に掲載された拙稿である。タイトルは「1951年国連墓地の戦没将兵献呈式―1950~1951年臨時国連墓地の統合から献呈式に至る過程の考察―」。国連墓地の設立70周年を記念して、博士論文を完成していく中でその一部を投稿したものであった。研究を遂行しながら、求めていた史料をデジタル・アーカイブズから偶然に見つけた瞬間の興奮が今も脳裏に焼き付いている。

私が見つけたのは、国連墓地の設立直後の1951年4月6日に開かれた最初の献呈式(Dedication_Ceremony)の様相を表す史料であった。献呈式の記念式典では、緊迫感溢れる戦争の最中、李承晩(イ・スンマン)大統領を含め、マッカーサー(MacArthur)国連軍司令官の後任となったリッジウェイ(Ridgway)中将、多くの国連軍参戦国の要人が出席した。雨の中、決意に満ちた要人らの様子の厳かな気配にとらわれ、論文を書き終わった後のしばらくの間、私はその余韻に包まれていた。

その資料の一部が、大韓民国歴史博物館の特別展に展示されている。私の研究を直接引用した史料は、国連墓地の象徴区域に表れている国連軍参戦国の配置図である。博物館側は、拙稿の分析内容をほぼそのまま展示物の説明文に採択して掲載した。担当キュレーターによると、拙稿を通して接した史料が今の国連記念公園の象徴区域をよく具現しているため、基礎データのエクセルファイルにて拙稿の内容を記録しておいたという。

論文を基にした形の学術監修ではあっても、自分の論文が国の知られざる歴史を伝える博物館の展示会の参考資料として用いられたことは、研究者として感無量である。他方で、3年前のKBSドキュメンタリー番組の学術監修の経験もあり、今後の使命や責任を考えるとさらに複雑な心境にもなる。結果的に展示物の説明文の下段と、展示場のクレジットタイトル、そして博物館のホームページに、自分の名前が記された。数年前に朝鮮戦争の国連軍戦没者、あの「見知らぬ土地に刻まれた名前」たちを想いながら書いた拙稿と私自身も、大韓民国歴史博物館という地に小さな足跡として刻まれた。

戦争は今なお世界各地で繰り返されている。ロシア・ウクライナ戦争や、イスラエルとヒズボラの紛争など、人間の尊厳を害する悲劇が相次いでいる。地球市民として我々は、苦難の時に人たちを救う英雄のみならず、名も知らなき全ての犠牲者――戦争捕虜、失郷民、拉致被害者、失踪者など――見知らぬ土地に刻まれた名前とともに、争乱の今を生きるあの無数な存在を記憶にとどめるべきであろう。展示会の閉幕を目の前にした今、そのタイトルが心の奥に響き渡り続ける。「あなたはまだここに」。

国連軍参戦の日記念特別展[あなたはまだここに]ホームページ(下段に拙稿表記)
https://www.much.go.kr/museum/exhibition/exhibitionViewUser.do?exhCode=EXH_0000000216

SGRAエッセイ#710 李貞善「『あの時・あそこ』から『今・ここ』へ」

エッセイ710:李貞善「『あの時・あそこ』から『今・ここ』へ」

SGRAエッセイ#694 李貞善「記憶の地、国連墓地が遺すもの」

エッセイ694:李貞善「記憶の地、国連墓地が遺すもの」

<李貞善(イ・ジョンソン)LEE Chung-sun>
東京大学大学院人文社会系研究科附属次世代人文学開発センターの特任助教。2021年度渥美奨学生として2023年2月に東京大学で博士号取得。高麗大学卒業後、韓国電力公社在職中に労使協力増進優秀社員の社長賞1等級を受賞。2015年来日以来、2022年国際軍史事学会・新進研究者賞等、様々な研究賞受賞。大韓民国国防部・軍史編纂研究所が発刊する『軍史』を始め、国連教育科学文化機関(ユネスコ)関連の国際学術会議で研究成果を発表。2018年日本の世界遺産検定で最高レベルであるマイスター取得後、公式講師としても活動。

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【2】催事紹介

SGRA会員で一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんから国際フォーラムのお知らせをいただきましたのでご紹介します。興味のある方は直接お申込みください。

◆第2回東北アジア未来国際フォーラム
[テーマ]「激変する国際秩序の中の東北アジア地域協力の可能性と課題」
[日 時]2024年11月16日(土)10:00~18:30 17日(日)エクスカーション
[場 所]石川県青少年総合研修センター第1研修室
[形 式]対面+オンライン(ハイブリッド:zoom)

世界情勢は激動の時代を迎えている。欧米中心に形成された世界秩序は、新興国の台頭により、深刻な挑戦を受けている。とりわけ、BRICSを始めとするグローバル・サウスが国際社会での存在感を高め、新しい多極化した世界秩序の模索期に入っている。
他方、コロナ過で深刻な打撃を受けて停滞していた世界経済は徐々に回復に向かっているが、国際社会では戦争と紛争が相次いで起き、また欧米と中ロなどの間には「新冷戦」による分断が進行しつつある。
その中で本年5月には日中韓サミットがソウルで再開され、対立の中での協力関係を模索しているのも事実である。このような情勢の中、INAF研究所は、その趣旨の通り、未来に向けた知的交流を進めるためのプラット・フォームとして、本フォーラムを昨年8月ソウルでの第1回を皮切りに、第2回を地方の中核都市金沢市で開催することになった。本フォーラムは、日中韓朝蒙露等の識者が一堂に集まり、国境を越えた東北アジア地域協力の可能性を探るための議論を交わし、新時代を切り開くための知的創造を目指す。

[プログラム]
第1部 基調講演
金泳鎬・INAF最高顧問・元韓国産業資源部長官
劉傑・早稲田大学教授・東アジア国際関係研究所

第2部 日中関係の歴史的な検証
第1報告:李鋼哲・INAF所長「毛沢東の対日認識と日中関係」
第2報告:兪敏浩・INAF理事・名古屋商科大学教授「鄧小平の対日認識と日中関係」
第3報告:李昊・東京大学大学院法学政治学研究科准教授「習近平の対日認識と日中関係」
第4報告:王培ロ・INAF研究員・早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程「文化大革命の中の日本メディアの報道と特派員(仮)」

第3部 「世界の多極化と東アジア国際秩序の変容」
問題提起1:三村光弘・INAF常任理事・新潟県立大学「朝鮮半島の平和と協力(仮)」
問題提起2:石川幸一・元亜細亜大学教授・JETRO研究員「東南アジアのBRICSへの接近と東アジアの新しい秩序」

第4部 「コリアン・ディアスポラー越境アクターとしての朝鮮族の役割―」
基調報告:李鋼哲・INAF所長・朝鮮族研究学会顧問・元会長「朝鮮族のグローバル・ネットワークの構築に向けて」

プログラムの詳細・参加方法についてはINAFホームページをご覧ください。
https://inaf.or.jp/

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【3】第11回日台アジア未来フォーラムのご案内(再送)

下記の通り第11回日台アジア未来フォーラムを開催いたします。東アジア日本研究者協議会第8回国際学術大会内で開催するため、ご希望の方は同大会への参加申込(会場参加のみ)をお願い致します。

テーマ:「疫病と東アジアの医学知識――知の連鎖と比較」
日 時:2024年11月10日(日)9:00~12:10(台湾時間)
会 場:淡江大学淡水キャンパス驚声大楼
言 語:日本語
主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会 [SGRA]
共 催:中央研究院史語所世界史研究室
協 力:東アジア日本研究者協議会 賛助:中鹿營造、他
申 込:東アジア日本研究者協議会第8回国際学術大会HPよりお申し込みください
https://www.taiwanjapanese.url.tw/eacjs2024/
お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]

■ 開催趣旨

2019年12月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が中国の武漢市から流行し、多くの死者が出て全世界的なパンデミックを引き起こした。人と物の流れが遮断され、世界経済も甚大な打撃を受けた。この出来事によって、私たちは東アジアの歴史における疫病の流行と対処の仕方、また治療、予防の医学知識はどのように構築されていたか、さらに東アジアという地域の中で、どのように知の連鎖を引き起こして共有されたかということに、大きな関心を持つようになった。会議では中国、台湾、日本、韓国における疫病の歴史とその予防対策、またそれに関わる知識の構築と伝播を巡って議論をする。

■ プログラム

〔第1部 報告〕
報告1 李尚仁(中央研究院歴史語言研究所)「コロナから疫病史を考え直す――比較史研究はまだ可能であろうか」
報告2 朴漢珉(東北亜歴史財)「清日戦争以前朝鮮開港場の検疫規則」
報告3 松村紀明(帝京平成大学)「幕末から明治初期の種痘について」
報告4 町泉寿郎(二松学舎大学)「感染症と東アジア伝統医学」

〔第2部 指定討論〕
討論1 市川智生(沖縄国際大学)
討論2 祝平一(中央研究院歴史語言研究所)
討論3 巫毓セン(中央研究院歴史語言研究所)
討論4 小曽戸洋(北里大学東洋医学総合研究所)

〔第3部 自由討論〕

※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/10/JTAFF11Program.pdf

※ポスター
https://00m.in/xngrW

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