SGRAメールマガジン バックナンバー

TOKUNAGA Yoshiaki “First Iran Survey in Four Years”

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SGRAかわらばん1020号(2024年6月14日)

【1】エッセイ:徳永佳晃「4年ぶりのイラン調査」

【2】催事紹介:第13回村上春樹国際シンポジウム(7月13~14日、東京)
「村上春樹文学における『ウェイ・オブ・ライフ』」

【3】催事紹介:東北亞未来構想研究所(INAF)研究会のお知らせ

【4】第73回SGRAフォーラムへのお誘い(再送)
「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」(6月25日、東京+オンライン)
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【1】SGRAエッセイ#767

◆徳永佳晃「4年ぶりのイラン調査」

2024年2月23日から3月7日にかけて、イラン・イスラーム共和国の首都テヘランに赴き、史料調査を行った。イラン立憲制史を研究対象として同地に2年間留学していた筆者にとって、ある程度勝手の知った場所である。しかしながら、コロナ禍後4年ぶりに訪れ、少なからず時の変化も感じられた。このエッセイでは、自分が外国人の研究者として体験した出来事を紹介し、そこから浮かびあがるイランの大学、学界の現状について簡単な展望を示したい。

まず史料調査の環境に関して、結論を先取りして述べれば、4年前と同様かむしろ改善の傾向が見られた。この結果は意外であった。イランの現状として欧米諸国との関係改善が絶望的になり、外国人への管理を強化する傾向が強まっていると聞いていたからである。もちろん、歴史史料の複写・閲覧はおろか外国人の立ち入り自体を禁止している文書館があるほか、調査可能ではあるものの担当者によって閲覧ルールが異なるなど、利用者を当惑させる状況は続いている。しかしながら、文書の閲覧申請を許可するまで数週間待たせることや、文書館に持参する紹介状の文言に細かな注文を付けるなど、文書を出し渋るような対応は見られなかった。

文書館が幾分ながら協力的となった背景には、いくつかの理由が推測できる。一つ目は文書を含めた歴史史料のデジタル化・公開の促進である。これは欧米諸国をはじめ世界的な潮流を踏まえた動きであり、非常にゆっくりとした歩み(かつしばしば逆行する)ではあるものの、イランにおいても確実に進展している。少し前までは刊行史料のみに依拠したイラン近代史の学術書、論文が多く出版されていたが、現在少なくとも同国内においては、文書その他の未刊行史料を一切用いない研究を見つけることのほうが難しい。

二つ目の理由としては、訪問する海外研究者が急減したことが考えられる。欧米諸国との関係改善が絶望的な現状において、国内の大学その他の機関で活動できる研究者はトルコ、イラク、シリアなどの近隣諸国、そして中国、韓国、日本といった東アジア地域の出身者に事実上限定されている。そのなかで曲りなりにも「先進国」であり、政治、経済的にもイランとの大きな軋轢がない日本は、学術交流の相手として概ね歓迎されている。さらに、日本人は研究もしくは学問目的で現地に渡航する割合が他国と比べて大きめであり、少人数ながら政治、経済状況に比較的影響を受けず、継続的な往来がある点も特徴である。このように地味ながら着実に積み重ねてきた交流の実績に、K-POPや日本のアニメ・漫画の流行による東アジア全体の文化イメージ向上が加わり、日本人研究者への好感が官民ともに維持されている。

日本人研究者に対する(あくまで他国との比較の上ではあるが)好意的な対応は、文書館だけではなく現地の大学においても確認できた。研究ビザの取得においては窓口となる現地の大学の国際局が迅速に対応してくれたことにより、想定より大幅に短い3週間ほどで終えることができた。また、今回の調査では何名かの現地の研究者や教授の方々と面会したが、皆好意的に応対してくださったことに加え、国際会議の開催や更なる日本人留学生の受け入れを繰返し打診されたことが印象的であった。筆者が一介の博士課程学生に過ぎず、そのような学術交流を行う予算も権限もないことは、先生方も十分に分かっている。それでも、敢えて何度もこれらの話題が出たことに、日本との交流に積極的な現地の先生方の姿勢を窺い知ることができた。

コロナ禍後の国際情勢緊迫化、それに伴う外国人への管理強化といったイラン政治の現状にもかかわらず、日本人研究者の調査環境は、好転とまでは言えないまでも従来通り維持されている。この4年間の環境変化は、現地大学への留学や調査が事実上不可能になりつつある欧米諸国の研究者のそれとは、対照的である。このような日本人研究者への「好待遇」から、欧米諸国と早期の関係改善が絶望的になった今、その他の国々との関係性を維持、強化することで生き残りを図るイランの戦術を読み解くことができる。日本に対する「好待遇」は、政治、経済面、さらには大学や学界をも含めイランが置かれている厳しい現状を反映した現象であると言えるかもしれない。

<徳永佳晃(とくなが・よしあき)TOKUNAGA_Yoshiaki>
東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員PD(日本大学)、2023年度渥美奨学生。専門はイラン地域研究・近代政治史で、主な論文に「「不法な影響力の排除」を目指して:パフラヴィー朝成立期のイランにおける1304年選挙法改正(1925)」『歴史学研究』(1044)などがある。

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【2】催事紹介

台湾淡江大学の曽秋桂先生から村上春樹国際シンポジウムの案内をいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接お申込みください。

2024年第13回村上春樹国際シンポジウム
◆「村上春樹文学における『ウェイ・オブ・ライフ(way_of_life)』

進行形式:対面式のみといたします。オンライン参加は現在のところ予定しておりません。
会  場:早稲田大学早稲田キャンパス(東京都新宿区西早稲田1-6-1)
開催期日:2024年7月13日(土)・7月14日(日)
参加申込サイト:https://forms.gle/CrZMwPEPAJfWpPrP9
参加申込締切:2024年6月30日(日)23:59まで

会議プログラムは下記リンクよりご覧ください。
https://tku365-my.sharepoint.com/:f:/g/personal/152790_o365_tku_edu_tw/EnICO_FVoqhDix_RFrjofkAB5JpnBEtxJlUjNYWaUr-Slg?e=ble7mm

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【3】INAF研究会のお知らせ

SGRA会員で(一社)東北亞未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。興味のある方は直接お申込みください。

(1)INAF第24回研究会は6月15日午前中にアジア政経学会の自由論題特別セッションとして開催されます。報告者と討論者は中国研究(台湾研究も含む)の一流の専門家たちですので、是非ともご参加を検討してください。神奈川大学みらいみなとキャンパスで開催されますが、zoomでも参加できるようにいたします。

(2)INAF第25回研究会は6月29日夕方19:00~21時までにオンライン(zoom)で開催されます。INAFメンバーの中で博士学位を取得した李娜先生と松本理可子先生の博論発表会です。

(3)INAF第26回研究会を7月29日午後16:30~18:00、新潟県立大学と共催で開催します。この研究会はINAF常任理事の陳先生と共同企画し、大学での特別講演会と合わせて開催するものです。テーマは国際気候変動に関するCOP28に関するもので、INAFのエンクバヤル副理事長と台湾の簡赫琳教授が講演し、二人の討論者が討論します。司会はINAF羽場久美子副理事長で、言語は全部英語で行います。オンライン参加も可能です。

詳細はホームページをご覧ください。
https://inaf.or.jp/

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【4】第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」へのお誘い(再送)

下記の通り第73回SGRAフォーラムを昭和女子大学の会場及びオンラインのハイブリット方式開催いたします。参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。

テーマ:「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」
日 時:2024年6月25日(火)17:30~19:00(終了後に懇親会*)
方 法:会場及びZoomウェビナー

会 場:昭和女子大学学園本部館3F中会議室
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/05/SGRAForum73Map.pdf
アクセス
https://office.swu.ac.jp/other/campusmap.html

言 語:日本語・英語(同時通訳**)
申 込:下記リンクからお申し込みください
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_UH6bfz9cTO6OsLWIzMi8Hw#/registration

*フォーラム終了後、パレスチナ料理の懇親会にもぜひご参加ください!(参加費無料)
**同時通訳はZoomで行うため、会場にて同時通訳を利用する方は、端末(スマートフォン、ノートパソコン等)およびイヤホンをご持参ください。

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]

■ フォーラムの趣旨

パレスチナ問題は「複雑すぎる」と言われます。しかし、客観的な事実や人道的な観点から考えると、この問題はすべての人に関わっています。フォーラムでは専門家、パレスチナ出身者、パレスチナ支持の活動を行っている学生の声を取り上げ、なぜこの問題が全ての人にとって重要なのか、そしてその問題を取り上げようとするときに直面する壁について話し合います。

「壁」という言葉には複数の意味が込められています。一つは、パレスチナ問題について公然と話すことを阻む見えない壁であり、タブーと言論の自由への抑圧を象徴しています。もう一つは、パレスチナ領土での継続的なアパルトヘイト(人種隔離)と植民地化の結果として存在する物理的な分離の壁です。世界中での学生の抗議活動は、これらの見えない壁を取り壊す試みであり、パレスチナ問題に対する公開討論を促進する力となっています。これはパレスチナ問題に対する新たな視点を提供すると同時に、世代間の意識の違いとその変化を示唆しています。

フォーラムを通じて、参加者がパレスチナ問題に対する多面的な理解を深め、グローバルおよびローカル、マクロとミクロな視点からのアプローチを考察する機会になると期待しています。

■プログラム

17:30開始
司会(シェッダーディ・アキル、慶応大学訪問講師)
挨拶(今西淳子、渥美財団SGRA代表)

17:35発表1 ハディ ハーニ(明治大学特任講師)
「パレスチナ問題の基礎知識:改めて、歴史と政治的構図の要点を抑える」(日本語)

18:05発表2 ウィアム・ヌマン(東京工業大学大学院生)
「建築の支配:植民地主義の武器としての建築環境」(英語)

18:20発表3 溝川貴己(早稲田大学学部生)
「立ち上がる学生、クィア、環境活動家たち:2023年10月以降の東京のパレスチナ解放運動」(日本語)

18:35質疑応答・ディスカッション(日本語・英語)
モデレーター:徳永佳晃(日本学術振興会特別研究員PD 日本大学)
オンラインQ&A担当:郭立夫(筑波大学助教)

19:00閉会・懇親会開始

【発表概要】

発表1「パレスチナ問題の基礎知識:改めて、歴史と政治的構図の要点を抑える」
(ハディ ハーニ、明治大学特任講師)

現在、世界中でパレスチナ人と連帯する運動が巻き起こっており、日本社会にも多くの参加者がいます。ただし「停戦」のみならず、その先に正義を実現するためには、構造的かつ本質的な変化へとつながる長期的な視野を持つことも重要です。そのために第一に重要なことは、シンパシーだけではなく、知識と論理に裏打ちされた正しさに則って行動することだと考えられます。このため今回のイベントでは、最新情勢や新事実の解説というよりは、パレスチナ問題の長く複雑な歴史や、現状の政治的構図を理解するうえで重要かつ基本的なポイントを解説し、全ての人が共有すべき基礎を確認することを目的としています。

発表2「建築の支配:植民地主義の武器としての建造環境」
(ウィアム・ヌマン、東京工業大学大学院生)

建築は政治を具現している。設計者の世界観を表すものであると同時に、政治的コントロールのための装置として使われることもある。このことは、ヨルダン川西岸やガザの植民地建築にはっきりと表れているが、東京や世界中のパレスチナ支持デモの場所として選ばれている公共空間にも、目に見えない形で表れている。本発表では、パレスチナ人に対する日常的な抑圧と統制に寄与している建築装置と、世界中の公共空間におけるそれに匹敵する、しかし控えめな建築的統制装置との類似性を描き出そうと試みる。

発表3「立ち上がる学生、クィア、環境活動家たち:2023年10月以降の東京のパレスチナ解放運動」
(溝川貴己、早稲田大学学部生)

2023年10月以降、在日パレスチナ人だけでなく、学生、クィアコミュニティ、環境活動家といった様々な人々のコミュニティが、即時停戦とパレスチナ解放を訴えて、デモやイベントを行っていた。ここでは、この人々がパレスチナ/イスラエルにどのように向き合い、この7か月間どのような試みを行ってきたか、東京での事例を紹介する。

※プログラムの詳細は、下記リンクからご参照ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/05/SGRAForum73Program.pdf

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