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YUN Jae-un “The Challenges of Victim Relief”
2023年11月30日 16:59:31
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SGRAかわらばん993号(2023年11月30日)
【1】エッセイ:尹在彦「被害者救済という難題」
【2】催事紹介:朝河貫一生誕150周年記念シンポジウム
「戦争に向かう世界:1930年代と朝河貫一」(12月23日、東京)
【3】催事紹介:第19回INAFセミナー(12月6日、オンライン)
「ウクライナ戦争と日本有事―抑止の罠―『敵基地攻撃能力』保有は時限爆弾」
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【1】SGRAエッセイ#752
◆尹在彦「被害者救済という難題」
国内外の紛争や環境問題、政策等により多くの被害者が発生することがある。ただし、その被害者に対する救済はなかなか容易ではない。救済が進んでいない状況では被害及び加害の当事者に加え、支援者や政府、政治(政党・政治家)が絡み合い「解決」をより困難にする。後から「被害者」を名乗る人々が新たに出てくることもよくある。そのため、「いつまで、そしてどこまで救済すべきか」というのは被害者救済の最重要課題になる。救済の手法に対しても論争は起こり得る。金銭的な補償と加害者もしくは政府の反省的態度は救済のカギになる。
場合によっては国内問題にとどまらず国際問題に発展することもあり、それこそが両国関係を規定し得る。日韓関係や日中関係、日朝関係にはその被害・加害の問題が深く根付いており、それ抜きには語れない。人々のアイデンティティーがその問題に結びついている場合はなおさらだ。
今年9月27日、注目すべき判決が大阪地裁で下された。水俣病被害を受けたと訴える原告128人が国や熊本県、加害企業チッソを相手に起こした訴訟で全面勝訴した。まだ一審判決で、被告側が控訴したため、最終的な結果は見通し難いが、少なくとも同判決で「水俣病の被害ってもう歴史の話じゃない?」と驚いた人も少なくないはずだ。
1956年、熊本県水俣市で同病が初めて公式確認されて以降、被害者やその支援者、チッソ、政府、政治は対立と妥協を何度も繰り返してきた。1970年を前後として公害問題が拡散する中で、水俣病被害者への金銭的補償(主にチッソによる)や環境庁(後に環境省の前身)を中心とした制度的枠組み(行政認定制度)は確立したが、被害を訴える数多くの人々は取り残されたままだった。水俣病被害者として公式認定される基準は複雑で、それを満たさない人々への救済策はなかった。そこで始まったのが日本全国各地の裁判闘争だったが、国の法的責任が最終的に認められたのはなんと2004年の最高裁判決だ。何十年もの時間を要したのだ。
1990年代に入り政治改革が叫ばれ、政府は初めて水俣病被害者との政治決着を試みる。村山政権期の「政治解決」がそれで、約1万人が新たに救済された。当時の村山富市首相は談話を発表する。水俣病を「公害の原点」に位置づけ「当事者の間で合意が成立し、その解決を見ること」ができたと評価した。「率直に反省しなければならない」とも述べた。ただし、法的責任は回避された。これが大阪で起こされた国家賠償請求訴訟が続く背景となり、2004年に国が全面敗訴する。このように水俣病被害者は比較的症状の重い「認定患者」と相対的に軽症の「政治的に救済された水俣病被害者」に分類される奇妙な「二重構造」が出来上ったのだ。
最高裁の確定判決は2000年代に入っても水俣病被害が決して「解決されていない」ことをあらわにした。1995年に救済されなかった約3000人の被害者は新たに訴訟を起こす。「第1次ノーモアミナマタ訴訟」だ。政府は確定判決にも関わらず新たな救済の枠組みは設けなかったため、また新しい裁判闘争が始まる。
被害者救済への議論が進み始めたのは政治の変化があってからのことだ。政権交代を目前にして与野党が2009年7月に「水俣病特措法」(「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」)に合意する。水俣病被害者を救済するための戦後初めての立法措置だった。「2012年7月」という期限が設定された点は救済措置が一時的であることを示していた。同法の前文にはこうある。「地域における紛争を終結させ、水俣病問題の最終解決を図り、環境を守り、安心して暮らしていける社会を実現すべく、この法律を制定する」。つまり、この法律の制定こそが「最終解決」になるとの思惑が反映されていた。約5万人もの被害者が特措法により新たに救済される。2010年5月、鳩山由紀夫首相は政府の代表として戦後初めて水俣市の慰霊式に出席し「被害拡大を防止できなかった責任を認め、衷心よりおわびする」と謝罪した。
ところが、特措法による救済措置の終了後、またもや新しい訴訟が提起された。それが冒頭で紹介した裁判、「第2次ノーモアミナマタ訴訟」だ。「終わった」とされた水俣病問題が裁判での勝訴判決から再度注目されている。半世紀以上にわたる水俣病とその被害者の歴史は、救済や問題解決がどれほど困難かを物語る。金銭的補償や政府代表の謝罪・反省が行われたにも関わらず、被害者救済に関する議論は70年を経た現在も続いている。少なくとも問題の解決策(=救済策)を一時的な措置に留まらせないことが大事だ。
<尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jae-un>
立教大学平和・コミュニティ研究機構特別任用研究員、東洋大学非常勤講師。2020年度渥美奨学生。新聞記者(韓国)を経て、2021年一橋大学法学研究科で博士号(法学)を取得。国際関係論及びメディア・ジャーナリズム研究を専門とし、最近は韓国のファクトチェック報道(NEWSTOF)にも携わっている。
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【2】催事紹介
SGRA会員で立教大学教授の佐藤雄基先生から公開シンポジウムのお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。
◆公開講演会「戦争に向かう世界:1930年代と朝河貫一」
日時:2023年12月23日(土)13:00~16:40
会場:立教大学池袋キャンパス14号館2階 D201教室
https://www.rikkyo.ac.jp/access/ikebukuro/
★事前申し込み必要|参加費無料
https://forms.gle/AVhdBuXbtW17nGwM7
本シンポジウムは、朝河貫一生誕150周年記念シンポジウムとして、日米開戦へと向かう1930年代アメリカにおける歴史学者朝河貫一(1873-1948)を中心にして、戦争に向かう時代の潮流に個人がどのように立ち向かうことができるのかを考える場としたい。朝河は国際関係や互いの国民性の理解を深めるために「歴史」を重視していたが、まさに現在、国際情勢が大きく変容し、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとガザ地区の戦闘と、戦争という危機が現実のものとなる中、戦争を回避して平和を目指した過去の人びとの経験に私たちは学ぶ必要がある。朝河の人生が現在の私たちに何を伝えてくれるのか、そしてどのように未来に伝えていくのか、このシンポジウムで考えていきたい。
13:00 開会 司会:佐藤雄基
13:05~1310 開会挨拶:福田康夫氏
1310~14:00 基調講演「朝河貫一と日系アメリカ人―C.ヤナガとの関係を中心に」:ダニエル・ボツマン氏
休憩
14:10~14:35 報告1「1930年代のキリスト教ネットワークと日米関係」:陶波氏
14:35~15:00 報告2「1930年代のアメリカ美術と朝河貫一」:増井由紀美氏
15:00~15:25 報告3「日米関係から見た朝河貫一」:三牧聖子氏
休憩
15:35~16:35 ラウンドテーブル「戦争に向かう日米関係と朝河貫一」:五百籏頭眞氏、ダニエル・ボツマン氏、三牧聖子氏、増井由紀美氏、陶波氏、山内晴子氏
16:35~16:40 閉会の辞
プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。
https://www.rikkyo.ac.jp/events/2023/12/mknpps000002d4no.html
★問合せ先:[email protected] 又は [email protected]
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【3】催事紹介
SGRA会員で(一社)東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんより研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。
◆第19回INAFセミナー「ウクライナ戦争と日本有事―抑止の罠―『敵基地攻撃能力』保有は時限爆弾」
日時:2023年12月6日(水)15:00 00~17:00 (オンライン)
講師:河信基(ハ_シンギ)・INAF顧問・作家・評論家
司会:李鋼哲・INAF所長
米一国支配から米中二国支配か、多極化か!?
決定的勝利が望めない〝特異な戦争〟ウクライナ戦争をめぐる国際政治の動向、特にプーチン、バイデン、習近平、ゼレンスキー、そして岸田首相の動きを軸に時系列的に詳述することで見えてくる戦争の行方とそれに伴って流動化する国際政治と国際秩序の今後を展望。断絶する日露、緊迫化する日中関係のなかで日本の選択は?
参加申込:INAFメンバー以外の方は、1日前までに参加申し込み(名前、所属、連絡先メルアド)を下記へ送ってください。なお、参加された方はINAFフレンドとしてMLに登録し、今後の研究会の情報発信をさせていただきます。情報発信不要の方はその旨をお伝えください。
Email: [email protected]
詳細は下記をご覧ください。
https://inaf.or.jp/
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