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CHIANG Yung-Po “The 10th Nittai Asia Future Forum ’Sake and Shaoxing Wine’ Report”
2023年11月16日 15:25:38
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SGRAかわらばん991号(2023年11月16日)
【1】江永博「第10回日台アジア未来フォーラム報告」
「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」
【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送)
「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド)
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【1】江永博「第10回日台アジア未来フォーラム『日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒』報告」
2011年から始まった日台アジア未来フォーラム(JTAFF)は19年5月に国立台湾大学で実施された第9回までは連続して開催され、本来であれば20年5月に初めて日本で第10回が行なわれる予定であった。しかしながら、周知の通り日本では同年1月に最初の新型コロナウイルス感染者が確認され、イベントの中止・延期・自粛をはじめ、組織・機関も時短・利用制限による一時的閉館や立入禁止を余儀なくされた。その後は在宅勤務・オンライン授業・会議などの形式が活用されていった。オンラインの利便性・安全性のメリットにより現在でもハイブリッド方式が活用されているが、対面でなければ共有・体験できない場合がある。4年半ぶりに開催された本フォーラムは、その代表的な一例である。
前置きが長くなったが23年10月21日(土)に島根県のJR松江駅前施設「松江テルサ」で開催されたフォーラムがなぜ対面でないと真価を問うことが難しいかというと、『日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒』というテーマに尽きる。日本最古の歴史書『古事記』にも登場し日本酒発祥の地とされる島根県で、醸造酒をテーマに日台の関係者が相互理解を深めるために対面で開催することに大きな意味があった。
フォーラムは渥美財団今西常務理事の開会挨拶でスタートした。
最初は島根大学法文学部の要木純一先生の講演「近代山陰の酒と漢詩」。詩仙と称される李白の代表作の一つ「月下独酌」の冒頭「花間一壺酒 獨酌無相親 舉杯邀明月 對影成三人(後略)」(花間[かかん]一壺[いっこ]の酒、独り酌[く]んで相親しむもの無し、杯[さかずき]を挙[あ]げて名月を迎え、影に対して三人と成る(後略))からもうかがえるように、酒と作詩のような「知的創造」との付き合いは長い歴史を持つ。要木先生は明治36年(1903年)から戦後まで松江に存在していた「剪松吟社」の活動を通して、近代山陰地方に於ける事例を紹介した。明治30年代に入ると漢詩・漢学的教養はすでに衰退の兆しがあったため、剪松吟社は最初から漢詩・漢学的教養の振興を目標として、機関誌『剪松詩文』の発刊や詩人大会の開催を行い、一時的には全国的な漢詩復興運動の一拠点と見なされるほど、活発な活動を進めていた。
昭和に入ると高齢な指導者を相次いで失い、詩人の力量低下と相俟って活動は衰退に向かい、戦後自然消滅したが、今回取り上げたのは昭和5年(1930年)10月の『剪松詩文』に収録された「若槻克堂公歓迎雅集」。若槻克堂とは日本首席全権として同年のロンドン軍縮会議に参加した若槻礼次郎のことである。国内では一部反対の声もあったが、軍縮会議は難航の末合意されたため、松江に帰った若槻に対して剪松吟社は「錦衣帰郷」の歓迎雅集を行なった。そこでは柏梁体連句が詠まれ、その中に「詩酒応忘利名栄」「共仰高風挙杯迎」「一醉似忘衣錦栄」「誰是詩弟誰酒兄」「平和会裏闘酒兵」「対月豪飲気如鯨」のような句が見られ、酒と漢詩・歓迎雅会との相乗効果が句の内容から見て取れる。最後は若槻により軍縮会議後の心境をうかがわせる「詩中天地自和平」で締められたが、午後7時から始まった歓迎雅集は三更(午後11時~午前1時の間)まで盛り上がったという。
次の島根県産業技術センターの土佐典照先生の講演「島根県の日本酒について」は、「神様はお酒が好き」という島根と神話から展開された。島根県にある酒蔵30社および二つの酒造り職人集団を紹介した上で、日本酒の造り方についての詳細な説明があった。製造技術の基礎知識として環境と気象(気温・降水量)、水(硬度)、米(品種)とその処理(精米)、麹(生育・製造工程・品質)、酒母と酵母(製造操作)、仕込みと管理と搾りについて詳しく説明。普段何も考えずただ美味しくいただく日本酒の生産過程で、今まで「伝統」として引き継がれてきた酒造技術が更に科学的な技術を通して検証・進化されていくことに筆者は驚きを禁じ得なかった。
講演の後半では日本酒のラベルの見方、吟醸・大吟醸など特定名称の清酒の分類、甘辛度と濃淡度など「実用的」な知識のほか、島根の酒の味と食生活に於ける地域の特性に焦点が当てられた。日本列島沿いに北上する対馬暖流の恩恵もあって島根県で採れる日本海の漁業資源は豊富であり、その魚を活かした島根料理の代表として「へかやき」が取り上げられた。この甘辛い醤油で味付けられた魚のすき焼きに合うように、島根の酒も旨味重視の傾向が見られる。最後は魚料理に留まらず、今後は果実を使った和風料理にも合う香り高い吟醸酒に注目し、酒の新たな魅力の発見に力を注ぐという。
休憩時間には島根県の日本酒(きもと原酒)と台湾紹興酒・中国紹興酒・酒肴が供され、前半の講演を思い出しながら試飲・試食を楽しみ盛り上がった。
台湾煙酒株式会社埔里酒廠の江銘峻先生による最後の講演「台湾紹興酒のお話」は、台湾紹興酒の歴史から始まった。紹興酒は世界三大古酒の一つであり、中国大陸を起源とするが、いつ台湾に渡ったかについては定かではない。ただし、台湾総督府専売局時代にはすでに生産記録があった。戦後、1949年に蒋介石の指示により埔里で紹興酒の試醸造が始まり、50年代に入ると市場化に成功して世界30余国に輸出された。80年代には年間の最大生産量が230万ダースに達した。90年代以後は、国民の飲酒嗜好の変化により徐々に市場を失い、95年頃には紹興酒を使ったおこわ、煮物などの特色食品・料理が開発された。現在、製品の高度化に成功した「状元紅」・「女児紅」・20年以上の「陳年紹興酒」以外、台湾における紹興酒の主な用途は料理になった。
台湾紹興酒の歴史を把握した上で、「紹興酒の伝統的な醸造法」と「台湾紹興酒の作成工程」が紹介された。同じ紹興酒にも関わらず、伝統的な醸造法に対して、台湾紹興酒はどのように独自の進化を遂げたかが浮き彫りになった。さらに同じ醸造酒の日本酒と比較し、最後は「夏は常温か冷蔵」「冬は38~42度ぐらいまで間接加熱したら、より香り高い」「味変(あじへん)には台湾梅干し・生姜・レモン、カクテルにはソーダ・コーラ・ジュース」など紹興酒のお勧めの飲み方や、「適量の飲用では血液循環と新陳代謝を促進し、体力を増強し、耐寒性を増す」と言った紹興酒の栄養価など「実用的」な情報を教えてくださった。
質疑応答では、「中国紹興酒・台湾紹興酒・日本酒における仕込みの段数の差」「紹興酒の伝統的な醸造過程でヤナギタデの粉を入れる理由は何か」などの質問があった。筆者にとって一番興味深かったのは、台湾紹興酒の市場占有率であった。台湾では2002年1月まで煙草・酒の生産・流通・販売は煙酒専売局に独占されていたが、専売制度が廃止されてから、台湾煙酒専売局は「台湾煙酒株式会社」に変わり、煙草・酒の生産・流通・販売も国営の専売事業ではなくなったにも関わらず、生産・流通・販売する紹興酒は、台湾市場全体の99%を占めている。換言すれば前述した「台湾では現在製品の高度化に成功したが、主な用途は料理に取って代わられた」紹興酒の現在の位置付けも、これからの方向性もこの会社の方針に左右される。これに対して、冒頭で紹介したように日本酒を醸造している蔵は島根県だけでも30社に及ぶ。環境・気象・水・米と製造過程などの差によって「薫・爽・醇・熟」など多様な風味が味わえる日本酒は、「ボディが醇厚」で基本的に「アミノ酸味がメイン」の紹興酒とは異なる道を歩んできた。どちらが正しいか断言できないが、今回のフォーラムを通して得られた経験は今後互いにいかなる道を歩むかを検討する際に参考になるだろう。
質疑応答後、隣の会議室で懇親会が行われ、今回のフォーラムのテーマでもある島根の日本酒と台湾紹興酒のほか、講演の中で言及された島根の魚も大きな舟盛で提供された。参加者一同おいしい料理をいただきながら7種類の日本酒と6種類の紹興酒を飲み比べ、対面でなければ共有・体験できない貴重な経験を積むことができた。約4年半ぶりに開催された日台アジア未来フォーラムは、日本各地および台湾からの参加者が50名ほど集まった。台湾での開催と比べ規模は多少小さくなったが、筆者にとって会得できたものは決して少なくなかった。日本酒発祥の地とされている島根県で『日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒』に参加できたことは、まさに「百聞は一見に如かず」「万巻の書を読み 千里の道を行く」の体現だと信じている。今後は基本的に今まで通り台湾で行われるであろうが、時には今回のように地域の特性を活かしたテーマと内容を選定・計画すれば予想外の収穫が得られるかもしれない。
当日の写真は下記リンクからご覧いただけます。
<江永博(こう・えいはく)CHIANG_Yung-Po>
2018年度渥美奨学生。台湾出身。東呉大学歴史学科・日本語学科卒業。2011年早稲田大学文学研究科日本史学コースにて修士号取得。2020年10月から常勤嘱託として早稲田大学大学史資料センターに所属、『早稲田大学百五十年史』第一巻の編纂に携わった。2023年4月より助手として早稲田大学歴史館に所属、現在『早稲田大学百五十年史』第二巻の編纂業務に従事しながら、「台湾総督府の文化政策と植民地台湾における歴史文化」を題目に博士論文の完成を目指す。専門は日本近現代史、植民地期台湾史、大学沿革史編纂。
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【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送)
下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。
テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」
日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間)
会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式
◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php
◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象
言語:日中同時通訳
共同主催:
◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
◇北京大学日本文化研究所
◇清華東亜文化講座
後援:国際交流基金北京日本文化センター
協賛:鹿島建設(中国)有限公司
※参加申込(リンクをクリックして登録してください)
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration
お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■要旨
東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。
フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。
こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。
この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。
■プログラム
総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA)
【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA)
【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター)
【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」
【指定討論】
◇熊燃(北京大学外国語学院)
◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール)
【自由討論】
モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座)
【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
日本語版
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf
中国語版
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf
ポスター
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png
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