SGRAメールマガジン バックナンバー
Nora WEINEK “Grimm’s Fairytales and Archetypes”
2023年10月5日 12:23:06
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SGRAかわらばん984号(2023年10月5日)
【1】エッセイ:ノーラ・ワイネク「グリム童話とアーキタイプ」
【2】寄贈書紹介:林少陽『戦後思想と日本ポストモダン』
【3】第19回SGRAカフェへのお誘い(再送)
「国境を超える『遠距離ケア』」(10月14日、東京+オンライン)
【4】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送)
「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市)
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【1】SGRAエッセイ#746
◆ノーラ・ワイネク「グリム童話とアーキタイプ」
グリム童話はヨーロッパの文化的遺産であり、世界中で愛されている童話の一つでもある。グリム兄弟が編集した童話には、豊かな人間の内面に対する洞察が含まれている。しかし、昔の人の単なる物語ではなく、無意識に常識を共有し、感情やトラウマを昇華する重要なツールでもあった。
グリム童話は人間の共通の心の構造であるアーキタイプ(心理的原型)を体現する物語を多く含んでいる。アーキタイプは人間に生まれ持ってそなわる集合的無意識で働く「人類に共通する心の動き方のパターン」である。ユング心理学の中核的な概念で人間の共通の心の構造でもあり、無意識に作用する力を持つ。人間の不可解な部分を理解し、何を望んでいるか、そして何を恐れているかを理解するための重要な要素だ。
名作『シンデレラ』を分析してみよう。アーキタイプを象徴する要素がたくさん含まれている。主人公は母親を失った孤独な少女であり、悪意ある義母と義姉たちに虐待されている。家庭の状況に対して自分自身を犠牲にしているように見えるが、彼女の真の力は内面にある。彼女は偽りのない心、博愛、そして自己犠牲精神を象徴するアーキタイプを体現している。
シンデレラは魔法使いである「フェアリーゴッドマザー」というアーキタイプともつながっている。フェアリーゴッドマザーは無限の可能性を象徴し、新しい始まりと成長をもたらす力を代表する。シンデレラに魔法をかけ、魔法のカボチャの馬車と美しい衣装を与える。これらのシンボルは新しい可能性と、自己変革を象徴する。また、シンデレラに「真実を言いなさい」という言葉を残すが、これは自分自身を認識し、自分自身を表現するための重要性を強調するアドバイスでもある。
そして王子との出会いを通じて、シンデレラは愛のアーキタイプを体現する。王子はシンデレラの魂の深い部分を理解し、彼女を愛することができる。この愛の関係は自己認識と成長を促し、シンデレラを真の幸福へ導く。ユング心理学的な観点から見ると、私たちが内面に持つアーキタイプを通じて、潜在意識の深い部分を認識することが可能となる。
『白雪姫』は美と嫉妬というアーキタイプを体現する物語である。白雪姫の美しさは彼女を破滅に追いやり、王妃の嫉妬心を引き起こす。王妃は魔法の鏡に自分の美しさを問い、鏡が白雪姫を美しいと答えたことで、白雪姫を殺すために彼女を追い詰める。この物語は美と嫉妬のアーキタイプが、人間の深層心理にどのように作用するかを示している。
『ラプンツェル』は自由、成長、そして愛のアーキタイプを体現する。主人公は塔に閉じ込められ自由を奪われている。しかし、自分自身を表現する方法を見つけ、自分自身を解放する。王子との出会いを通じて愛を見つけ、自分自身の成長につながる新しい始まりを迎える。この物語は人間が自由を手に入れ、自己表現を追求するプロセスが、成長と愛につながることを示している。
このように、グリム童話は人間の深層心理に影響を与えるアーキタイプを体現する物語を多く含んでいる。ユング心理学的な分析を通じて隠された意味を理解することができ、私たちは自分自身をより深く理解し、自己受容と成長を促すことができる。グリム童話は人間の心の深い部分を探求するための貴重な資源であり、人生の新しい始まりを迎えるためのヒントを提供している。私たちの人生において何か障壁に直面した時、グリム童話を読むことをお勧めする。きっと様々な問題に対して、より深い理解を与え、何らかの解決策もしくはヒントを提示してくれるだろう。
<ノーラ・ワイネク Nora_Beryll_WEINEK>
オーストリアのウィーン出身。2011年日本文化研修留学生として琉球大学に1年留学。2013年オーストリアのウィーン大学日本学学部卒業。2017年一橋大学大学院社会学研究科の修士課程卒業し、博士課程に進学。
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【2】寄贈書紹介
SGRA会員で澳門大学教授の林少陽さんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。
◆林少陽『戦後思想と日本ポストモダン:その連続と断絶』
70年代末からおよそ40年にわたるポストモダンの流行は日本の思想界に何をもたらしたのか。丸山眞男「悔恨の共同体」から柄谷行人「世界史の構造」へと至る戦後思想の連続と断絶を、東アジアの視点から描く現代日本思想史。
発行 白澤社、発売 現代書館
定価 3,300円(本体3,000円)
体裁 四六判上製、264頁
ISBNコード 978-4-7684-7998-8
発売日 2023年8月
詳細は下記リンクをご覧ください。
https://hakutakusha.co.jp/book/9784768479988/
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【3】第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」へのお誘い(再送)
仕事や子育てなど日々の暮らしを支えている要素は様々ですが、自分を育ててくれた家族の存在も年齢を重ねるごとに実感します。コロナのように渡航ができなくなればなおのこと、そばにいないでどこまで家族をケアできるのかが問題になります。
今回のカフェでは、進学やキャリアで母国から遠く離れて暮らす世代が、親や家族をどうケアできるかを出発点として、グローバル化、ITの力、そして、家族の寄り添い方など多様な観点からいろいろな体験談を交えて議論します。
参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。
テーマ:「国境を超える『遠距離ケア』」
日 時:2023年10月14日(土)14:00~16:00
方 法:会場(渥美財団ホール)およびオンライン(Zoomミーティング)
言 語:日本語
主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA]
※参加申込:下記リンクより参加登録をお願いします。
https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZEldeGvqDIoHtGhPStPxtyAE8hKB4YAyGdw#/registration
お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■フォーラムの趣旨
社会がグローバル化する中で世界を移動する人々の数も急激に増加している。国連の2013年の調査によると世界人口の約3.2%が移動人口に当たると言われている。日本に目を向けると、外国人移住者数も年々増加しており、滞在の長期化も進んでいる。出入国在留管理庁のデータによると、2022年6月末の在留外国人数は296万人で、前年末に比べ20万人(7.3%)も増加したことが分かった。
こうした変化の中、在日外国人移住者もまた新たな課題に直面している。在日外国人移住者は日本での生活基盤を自ら構築することはもちろん、母国に残る家族の健康、介護問題も考えざるをえない。こういった外国人ならではのライフワークバランスはキャリアにも影響する。またコロナ禍では、日本における外国人の(再)入国制限のため自由に日本と母国の間に行き来できず、帰国したくてもできなかった事例や、家族のために日本での生活を諦めて帰国を選択した者も見られる。
今回のカフェでは
・日本における国境を超える遠距離介護の実態と背景
・海外における事例と取組み
・課題の改善策
の3点について参加者と一緒に考え、ディスカッションを通して継続的に成長するグローバル社会に有意な示唆を得る事を目的とする。
■プログラム
14:00 開会挨拶
14:05 ケア状況や遠距離ケア問題について紹介
14:55 質疑応答
15:10 ディスカッションの準備(グループ分けと課題の提起)
15:15 グループディスカッション
15:35 ディスカッション内容の報告
15:55 閉会挨拶
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/Cafe19_Program.pdf
※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/cage19_poster.jpg
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【4】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送)
日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。
テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」
日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分
会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478-18)
https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8
言 語:日本語・中国語(同時通訳)
※参加申込(クリックして登録してください)
http://bit.ly/JTAFF10
お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)
◆開催趣旨
東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。
◆プログラム
講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授)
講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター)
講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社)
全体質疑応答
※詳細は下記リンクをご参照ください。
※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10PosterJ_Lite.png
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