SGRAメールマガジン バックナンバー
XIE Zhihai “Vacant Houses in Japan and China”
2023年4月6日 14:40:22
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SGRAかわらばん964号(2023年4月6日)
【1】エッセイ:謝志海「日中両国の空き家事情」
【2】第37回共有型成長セミナー@東京へのお誘い(4月10日、ハイブリッド)
「東アジアダイナミクス―東アジアの地域化と地方分権化―」(最終案内)
【3】第21回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(4月22日、ハイブリッド)
「新たな脅威・新たな安全保障―これからの政策への挑戦―」(再送)
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【1】SGRAエッセイ#736
◆謝志海「日中両国の空き家事情」
大学で教えているProblem-Based Trainingという授業では、学生たちが自分で様々な社会問題について英語で提起し、みんなで解決策を考える。最近よく挙げられるテーマの一つは空き家問題である。少し調べてみると、これは地方の大学生たちが実感した問題であるだけでなく、マスメディアでもよく取り上げられていることがわかった。
昨年のフィナンシャルタイムズ電子版で、日本の空き家が多いことと中国の不動産バブルがかつてのように「日本化」するのではないかと危惧する記事を読んだ。日本の空き家と中国の空き家に類似点など無いように思えたし、日本の空き家から中国は一体なにを学べばいいのかと、特に気づきが生まれることもなく記事*を読み終えた。しかし、それからというもの両国の空き家について悶々と考えることになってしまった。
あくまでも自分の勝手なイメージだが、日本の空き家と言えば、かつて長い間人が住んでいた家屋が、住人が亡くなるなどで次の住み手がおらず、ずっと手付かずのままの状態の事である。実際、私の家から最寄り駅までの徒歩15分の間でもこの3年の間にそういう家が数軒現れて、今では立派な空き家地区と言える。
一方で中国の空き家のイメージとは、投機目的で高層の集合住宅をいくつも建てたものの、人が居住している様子が全くない建物とそういった建物が群立する地域である。どちらも人が住んでいない住居に変わりはないが、成り立ちは全く違う。私は日中の空き家をそう区別していたのだ。
実際のところ、中国はそういった高層住宅群が未入居のまま手付かずになっていて、そのようなエリアは「鬼城」と呼ばれている。これは日本でも結構知られていることだろう。一方、日本のゴーストタウンと言うと、かつて人々が居住していた痕跡だけが残り、住む人が消えた町を言う。日本にも住宅街にぽつりぽつりとある空き家の他にも、ごっそり人が居なくなったゴーストタウンは確かにある。そしてそれらの増加はしっかり数値にも現れていて、総務省の土地統計調査(5年ごと)によると、平成30年の空き家率は13.6%で過去最高であり、20年間ずっと右肩上がりだ。
日本でも中国でもない国から見れば、日中の空き家はただの空き家でしかないのだろうとにわかに思いはじめた。FTの記事では80年代の日本における不動産バブル崩壊からの経済回復がないまま現在に至ることを引き合いに、中国の現在の過剰なまでの住宅投資建設を懸念している。なるほど、日本のバブル期まで時を戻せば、中国の空き家事情と類似点は見出せる。
さらにFTの記事では、このままだと中国の不動産市場も日本の不動産バブル崩壊の二の舞になりかねないことに警鐘を鳴らしている。なぜなら中国もとうとう人口減少へ傾きはじめたからだ。一方、日本はとうに人口減少国であり、高齢者が多い。空き家が増えているのもこれが大きな原因で、そこには相続問題が大きく横たわる。土地家屋の相続がうまく片付かないと空き家は空き家のままであり続ける。このような誰も手をつけられない土地家屋は治安の悪化や都市開発の遅滞を招く。
中国だけでなく日本も不動産問題は多岐に渡っていると分かったところで、中国は日本から何を学べるのだろうか?中国恒大集団の過剰債務問題は記憶に新しく、過剰なまでの不動産向け融資や高騰するばかりの不動産価格が浮き彫りになった。これは日本の不動産バブルの崩壊前と似ている。恒大の規制後、実は資金繰りに困っていたり、負債を抱えたりする不動産会社がどんどんあらわになった。不信感を抱いた購入者が恒大の不動産の購入取り消しに動き出したりすると、混乱は一般市民にまで及んだ。日本総合研究所の関辰一主任研究員は「しかし、中国政府も十分に日本から学んでいる」としている。住宅ローン金利の引き下げや不動産会社向け融資規制の緩和措置などを行なっているためだ(週刊エコノミスト 2022年9月13日 毎日新聞出版)。これ以上問題が大きくなっていないと良いのだが。
日中両国にとって不動産がいかに尊い資産扱いされているかがわかる。(もちろんそれは日中だけにとどまらないが。)また、とにかく建てることで経済が活性化すると信じられているということも両国を見ていると痛感する。人口減少、少子化、高齢化社会、とにかく毎日それらのいずれかがニュースのトピックになっていると言っても過言ではない日本で、これらの重大問題を尻目に今も日々住宅は建設されている。実際のところ、2022年の新設住宅着工数は前年比の0.4%増と2年連続増加した(国土交通省データ)。中国はまだ高齢化社会とは言えないが、人口は昨年初めて減少に転じた。日中両国共に互いの不動産事情を俯瞰的に見て、自国の未来の人口予測と住宅供給のバランスを見直すことができたらと思う。
* Japan’s Empty Villages Are a Warning for China, Financial Times, October 30, 2022
<謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai>
共愛学園前橋国際大学教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師、准教授を経て、2023年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。
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【2】第37回共有型セミナー@東京「東アジアダイナミクス」へのお誘い(最終案内)
第37回共有型セミナーをハイブリッド形式で開催いたします。参加ご希望の方は事前登録をお願いします。
テーマ:「東アジアダイナミクス」
日 時:2023年4月10日(月)10:00~13:00(日本時間)
会 場:渥美国際交流財団ホール(東京都文京区)
方 法:会場参加およびオンライン(Zoom_Meeting)
会 費:無料
参加申込:https://tinyurl.com/KKK37
※登録していただいた方に参加用リンクをお送りします。
問い合せ:SGRA事務局 [email protected]
主催:公益財団法人渥美国際交流財団(AISF)関口グローバル研究会(SGRA)
共催:フィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)公共政策開発大学院(CPAf)
共催:一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)
◇趣旨
日本を含む東アジア8カ国が実現した高度成長を研究する世界銀行の「東アジアの奇跡レポート」(1993)は、あらゆる意味で論争の的になったが、特記すべきは「成長と公平」というテーマに注目したことだ。このテーマは、トマ・ピケティの「21世紀の資本」(2014)やJ.E.スティグリッツの「世界の99%を貧困にする経済」(2013)であらためて人気を集めている。この議論から刺激を受けた本セミナーシリーズの総合テーマは「共有型成長」(SHARED GROWTH)で、富の分配と経済成長が同時に進むことを目指す。
しかしながら、今回のセミナーでは「東アジアの奇跡レポート」にはカバーされていない側面、国際的な「地域化」(東アジア地域化)と「地方分権化」をとりあげ、東アジアの経済発展ダイナミックスを「共有型成長」の観点からより深く理解することを目的とする。「地域化」の議論では、日本の研究者・赤松愛が1930年に発想するに至った「雁行形態論」の積極的側面に目を向ける。雁行形態論は1980年代に東アジアの目覚ましい経済発展の説明理論として再注目されたが、それから50年たった現在、この地域のさらなる発展を鑑みて赤松理論の意義について再検討を行う。東アジアで1990年代に起こったもう一つの流れが「地方分権化」である。経済成長はそれを支える社会によって支えられる。地方の成長が国の成長を支え、広げるメカニズムとしても考えられる。
◇プログラム
【第1部】問題提起
◆平川均(INAF理事長、渥美財団理事、名古屋大学)
「東アジアの地域化」
◆マックス・マキト(CPAf/UPLB、SGRA/AISF)
「東アジアにおける地方分権化」
【第2部】討論
・ダムセル・コルテス(CPAf/UPLB)
・李鋼哲(INAF、SGRA/AISF)
・ジャクファル・イドラス(国士舘大学、SGRA/AISF)
詳細は下記リンクをご覧ください。
日本語版プログラム
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/03/KKK37-Program_J.pdf
英語版ウェブページ
Sustainable Shared Growth Seminar #37 (KKK 37) – East Asia Dynamics –
ポスター
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/03/KKK37FlyerF.png
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【3】第21回日韓アジア未来フォーラム「新たな脅威・新たな安全保障」へのお誘い(再送)
下記の通り第21回日韓アジア未来フォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。
テーマ:「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)―これからの政策への挑戦―」
日 時:2023年4月22日(土)14:00~17:00
方 法:渥美財団ホールおよびZoomウェビナー
言 語:日本語・韓国語(同時通訳)
参加費:無料
問合せ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)
参加登録:下記よりお申し込みください
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_JD7WveroRJKymQHj9K-CIA
主催:第21回日韓アジア未来フォーラム実行委員会
共催:公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会/財団法人未来人力研究院(韓国)
◇趣旨
冷戦後の国際関係において非軍事的要素の重要性を背景にグローバルな経済対立、貧富格差の拡大、そして気候変動、先端技術の侵害、サイバー攻撃、パンデミックなどが新しい安全保障の範疇に含まれるようになってきた。伝統的な安全保障問題が地理的に近接した国家間で発生する事案抑止を前提とするのに対して、新たな安全保障上のリスクは突発的に発生し、急速に拡大し、さらにグローバルネットワークを通じて国境を超える。多岐にわたり複雑に絡み合う新しい安全保障のパラダイムを的確に捉えるためには、より精緻で包括的な分析やアプローチが必要なのではないだろうか。
フォーラムでは、韓国における「エマージング・セキュリティー(新たな安全保障)」研究と日本における「経済安全保障」研究を事例として取り上げ、今日の安全保障論と政策開発の新たな争点と課題について考察する。
◇プログラム
【第1部】基調講演(14:00~15:05)
◆講演1 金湘培(ソウル大学政治外交学部教授)
「エマージング・セキュリティー、新たな安全保障パラダイムの浮上」
◆講演2 鈴木一人(東京大学公共政策大学院教授)
「日本における経済安全保障をめぐる議論」
【第2部】コメント(15:15~15:55)
・李元徳(国民大学校社会科学大学教授)
・西野純也(慶應義塾大学法学部政治学科教授・オンライン)
・林恩廷(公州大学国際学部副教授)
・金崇培(国立釜慶大学人文社会科学部助教授)
【第3部】自由討論/質疑応答(15:55~16:45)
モデレータ 金雄熙(韓国仁荷大学教授)
【総括・閉会挨拶】(16:45~17:00)
平川均(名古屋大学名誉教授/渥美国際交流財団理事)
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
プロジェクト概要
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/03/JKAFF21ProgramJ.pdf
ポスター
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/03/JKAFF21JF_LITE.jpg
韓国語版ウェブサイト
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