SGRAメールマガジン バックナンバー

LI Dian “Study Abroad Supported by My Partner”

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SGRAかわらばん958号(2023年2月23日)

【1】エッセイ:李典「パートナーに支えられた留学生活」

【2】会員だより:オリガ・ホメンゴ「侵攻から1年。特別番組のお知らせ」

【3】会員だより:カバ・メレキ「トルコより」
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【1】SGRAエッセイ#732

◆李典「パートナーに支えられた留学生活」

この春、7年間の博士課程でのトレーニングを終了し、新たな道を歩み出す。10年も留学で日本にいたことになるが、その間の出来事を振り返ってみたい。

初めて日本に来たのは6歳の時で、両親の仕事の都合で北京から大阪に引っ越し、2年間住むことになった。小学校の担任が私や両親とスムーズにコミュニケーションが取れるように中国語を勉強したり、クラスメートたちも親切に接したりしてくれて、日本を離れる時にまたいつか来たいと強く思ったのを覚えている。

再び日本に来たのは13年後の2011年春。東日本大震災の直後だった。生物学専攻の学部生の私は交換留学で横浜に1年間留学することになった。余震が絶えなかったので、ビクビクしながら初の海外での一人暮らしだったが、面白い授業や実習のおかげで充実した毎日を過ごした。当時指導していただいた先生の紹介で私がその後所属する研究室を訪ねる機会があり、運よく修士課程から受け入れてくれることになった。

北京の大学の学部を卒業し、2014年春、東京で新生活が始まったが、まさか9年間も慶應義塾大学にいることになるとは思ってもみなかった。修士課程はそれほど難しくなく、授業を受けながら残りの時間を実験に使った。チャレンジングなプロジェクトに入っていたが、順調に進んで結果も出始めた。実験手法を磨き、きれいなデータを出すのが楽しくて、2年間はあっという間に過ぎていった。

その後も学問を追求したいという思いから、迷うことなく博士課程に進学した。しかし、そこからさまざまな変化があった。実験がうまくいかず、プロジェクトが進まない。試行錯誤し続けても改善が見られない。実験などいろいろなことを教えてくれた仲の良い先輩たちが卒業していき、ライフワークバランスが崩れ始めた。学会発表でも研究について厳しく指摘され、追い討ちをかけられた。研究や対人関係で心細い思いをし、一時期はあまり動けず、朝布団から出られず、研究室に行けなくなってしまうまで調子を崩した。

そんな時に一番心の支えになってくれたのが夫だった。中国から駆けつけてくれて、私が立ち直るまで一緒にいてくれた。時間がかかったが、なんとか回復して、研究も方向を変えて新しいプロジェクトをゼロからスタートさせた。もう博士課程3年目だったが、余計なことを考えずもう一度研究を楽しもうと決心した。夫も中国での仕事を辞め、日本に来て博士課程に入り、同じ研究室で研究を始めた。

4年が経ち、この3月に私たちはようやくプロジェクトを完了し、博士号を取得する。この間はもちろん全てが順調ではなかったし、研究をしていると毎日のように問題に直面し、時には挫折する。そんな中でも心のバランスを保ち、困難を乗り越えていくには心の支えを持つことと、身の回りの些細なことに気を取られないことが重要だと知った。生活面での心の支えは一般的に家族になるのだが仕事面まで理解が得られない場合が多い。しかし、仕事面でのサポートも生活面と同じくらい重要だと感じている。私の場合、運良く生活でも仕事でも理解してくれるパートナーに出会えたことで困難を乗り越えられた。

もう一つ私にとって大事な心掛けは、些細なことに気を取られないようにし、日々の生活の中で余計なエネルギーを使わないことだ。一つの実験結果に一喜一憂していると時間もエネルギーも無駄になるし、ニュースや会員制交流サイト(SNS)の情報で落ち込んでいられない。感情的になるよりも論理的に物事を分析することのほうがよほど効率が良い。エネルギーを使いすぎてしまうと次の日がどうしてもしんどくなってしまうので、無駄な消費を抑えることが自分にとって一定のコンディションを保つ有効な方法だと感じている。たまに感情が薄いと言われることもあるが、それも気にしない。

ここまでこられたのは、大勢の方々からの助けがあったからこそで、恵まれていたと感じている。失敗も挫折も経験したが、それらに向き合ってきたからこそ成長できたと思う。感謝の気持ちを忘れずに、目の前のプロジェクトに挑み続けたい。

<李典(り・てん)LI_Dian>
2021年度渥美財団奨学生。中国北京市出身。慶應義塾大学医学研究科博士課程在学中。哺乳類着床前初期胚発生時に、ゲノム中でとびまわる特殊なDNA配列の動態を研究。3月に博士号取得見込み。4月からは所属が変わり、アメリカ・ペンシルベニア大学で研究活動を継続する。

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【2】会員だより:オリガ・ホメンコ

ロシアのウクライナ侵攻から1年。私が関わった特別番組をご紹介します。結構面白いと思いますので、是非見ていただきたいです

◆NHK BS1特集「ウクライナ 子どもたちの1000枚の絵」
ロシアによる軍事侵攻が始まって1年。ウクライナの子どもたちは、戦火の中をどんな思いを抱えて生きてきたのか。彼らが描いた絵から心の内側を探る特集番組。
2月23日(木)18:00-19:50
3月1日(水)9:00-10:50

※ドイツとウクライナで取材しました。

◆NHKスペシャル「ウクライナ 家族の戦場」
祖国が戦場となり急ぎ帰国した大学院生。医療品を配るボランティア活動を始めた。しかし1年たった今、自らの決断を後悔し始めている。「夢は奪われた」と嘆く。ウクライナの音楽シーン活躍していたミュージシャンは兵士となり戦場へ。「音楽に戦争を止める力はない」と語る。戦場の人々を撮影するカメラマン。「この1年で、絶望、徒労、悲しみ、ありとあらゆる負の感情を味わった」と言う。絶望の淵(ふち)を生きる人々の記録。

2月25日(土)17:15-18:00

※一般市民、家族に戦争がどのように影響してきたか。レーシさんとリーダさんという教え子、写真家のワレンティンさん、ロックバンドの歌手のアンドリーイさんという友達もでます。私が提案し、出演者を選び、インタビュー、翻訳、編集に関わりました。

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【3】会員だより:カバ・メレキ

2019年度の奨学生、トルコのメレキです。
皆様はお元気でお過ごしでしょうか。友達に手紙を書く気持ちで書かせてください。
私は今トルコ西部のチャナッカレ市のチャナッカレ大学にいます。震源地から1200キロほど離れているところです。

2023年2月6日(月)の朝早く目覚めてテレビをつけた瞬間、リビングのソファに座ってしばらく言葉がでてきませんでした。テレビの画面に「地震の大きさは震度7.7」と書いてありました。死者は287人。トルコの建物と以前4年間住んでいたトルコ東部のことを思い出し、「これじゃ何倍も死者がでますよ」と夫に話しました。夫は「そんなにいかないよ」と答えましたが、やはり建物の作り方や工事の不備のことがよく分かっているので「夕方には5000人になる」と言いました。涙がポロポロ落ちました。これから何週間も瓦礫の下から次々と負傷者や死体が出される風景が現実のように目に見えたのです。残念ながら、その後は皆さんがご存知の通りで、地獄のような毎日です。つらい気持ちはどうにもなりません。

2月20日開始する予定の春学期は遠隔授業に決まり、学生の多くは被災地に行って手伝っています。チャナッカレ大学日本語学科の学生10人と先生も現地に行き、日本から支援に来てくださった皆様の通訳をしています。学生から「日本チームと一緒に瓦礫からもう一人救い出せたよ」というメッセージが数回来ています。日本も故郷のような場所なので、日本チームの活動を見る時、誇り、懐かしさ、悲しみと感謝がごちゃ混ぜです。

今トルコでは、冬用の衣料、食品などをそれぞれの町で集めてカフラマンマラシュに送っています。チャナッカレや他の町にも、地震で家を失った人々が移ってきました。トルコ中のすべての大学の宿舎を被災者のための住居として使うことが決まりましたので、全大学の春学期が遠隔教育になりました。ここに来た被災者のために募金し、衣料、食品を集めています。多分どの町も同じです。
家族の絆プロジェクトが始まりました。被災者の家族と姉妹家族になるボランティア活動です。広い家に住む人が被災者を自分の家に招き、今後一緒に暮らすことになるのです。

寄付金は世界中から送られてきています。「世界市民」はやはり存在するのです。
日本から何かお手伝いできるか聞かれました。その気持ちありがとうございます。できることなら、私は日本の免震・耐震技術をトルコの建築家や政府機関にいちいち細かく紹介するプロジェクトを立ち上げたいです。今は生後5か月の赤ちゃんがいますが、それでも決めたので頑張りたいと思います。渥美の先輩方、SGRAの皆さん、力を貸してください。まだ頭の整理もできない状態ですが、少し調べ始めて、どのように進めるか計画しようとしています。アドバイス、ご意見、ご指導どうぞよろしくお願いいたします。

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