SGRAメールマガジン バックナンバー
CHEN Xi “Live in Multiple Hometowns”
2023年2月16日 15:19:45
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SGRAかわらばん957号(2023年2月16日)
【1】エッセイ:陳希「複数の故郷で生きる」
【2】第70回SGRAフォーラムへのお誘い(2月18日、オンライン)
「木造建築文化財の修復・保存について考える」(最終案内)
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【1】SGRAエッセイ#731
◆陳希「複数の故郷で生きる」
日本に留学に来たのは2013年秋のことでした。もともと日本に留学したいと思っていたので、公募を知りすぐに応募したところ、運良く国費留学生として選ばれて都内の大学院で研究生活を始めることになりました。異なる言語に囲まれて生活し、異なる言語で研究を続けるのは決して簡単なことではありません。しかし、私は言葉の面で窮地に立たされた記憶がほとんどありません。理由として考えられるのは次の2つです。
1つは、留学する前に大学で日本語を学び、日本人の先生方や留学生たちとコミュニケーションを取った経験があるからです。おかげで比較的すんなりと日本社会に馴染むことができました。
もう1つは、小さい頃から中国・貴州省の中で学校を転々としていたことが挙げられます。同じ省とはいえ話される言葉はかなり異なっているので、最初に苦労するのは言葉でした。しかも、当時は共通語としての「普通話」(中国における民族共通語)は今ほど普及していなかったため、日常生活はもちろん、教室の使用言語も方言が使われることが普通でした。子供であっても、現地の言葉に順応するのには時間と工夫が必要でした。
何度も転校を繰り返して気づいたのは、話す言葉は場所によって違う、ある場所では常識であることが別の場所に行けば常識ではなくなる、ということです。多くの人々が絶対的だと信じてしまう考え方や価値観は相対的なものでしかない、ということを子供の時になんとなく感じ取っていたようです。
この経験から「異なる道を歩み、異なる地に逃げて、異なる人々を探し出しにいく」(魯迅『吶喊・自序』)かのように、日本留学を選びました。幸いなことに日本で何人かの「異なる人々」と出会いました。この「異なる人々」の協力と支えがあったからこそコロナ禍でも博士論文が書け、無事に学位を取得し、研究者としての第一歩を踏み出すことができました。
限られた時間と能力のなかでの執筆であり、史料の発掘、テキストの分析などに関しては十分であったとは思えませんし、別の観点、別の論点から考察を行うこともできたと思います。これらの反省は今後の課題です。
留学生活のなかで度々実感したのは、もう帰るべき故郷がないということです。幼年期と少年期は貴州で過ごしたので、大雑把に言えば故郷は貴州です。しかし、大学進学のために貴州から離れ、その後は天津で6年ほど、東京で8年ほどと、ずっと遠く離れた所に住み続けてきました。いつのまにか故郷であるはずの貴州は、ほんの一時住んでいた土地の1つ、という程度でしかなくなりました。
しかし、これは不幸なことではないと思います。なぜなら、私は帰るべき故郷を喪失することによって、複数の故郷を手に入れることができたからです。
哲学者のジル・ドゥルーズと精神分析家のフェリックス・ガタリの共著に『千のプラトー』という本があります。この中で2人の思想家は、人間の言語、文化、性、そして人間そのものの歴史といったものは、決してひとつの原理によって成り立っているわけではないと述べています。つまり、人間は、さまざまな言語、文化、性、歴史によって生きている。ドゥルーズとガタリはこのような「多数性」あるいは「複数性」の原理を提唱しています。
「複数性」の原理は、人間には多様性があるといった単純な事実を掲げるだけではなく、世界を変える可能性をもはらんでいる、と私は考えます。今後、私は単に「お客さん」としてではなく、一定の責任を持った立場で「複数の故郷で生きる」ことを実践し続けていきたいと思います。
<陳希(チン・キ)CHEN_Xi>
中国貴州省生まれ。2013年に文部科学省国費留学生として来日。2021年度渥美財団奨学生。中国近現代史を専攻、2022年3月に東京大学大学院地域文化研究専攻にて博士(学術)学位取得。現在、東京大学東アジア藝文書院特任研究員、津田塾大学非常勤講師。2022年度太田勝洪中国学術研究賞を受賞。
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【2】第70回SGRAフォーラム「木造建築文化財の修復・保存について考える」へのお誘い(最終案内)
下記の通り第70回SGRAフォーラム「木造建築文化財の修復・保存について考える」をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。
テーマ:「木造建築文化財の修復・保存について考える」
日時:2023年2月18 日(土)午後1時~午後4時(日本時間)
方法: オンライン(Zoom ウェビナーによる)
言語:日中韓3言語同時通訳付き
※参加申込(クリックして登録してください)
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_4_Fcwt3uRY2lTujxvUmi_w
お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■フォーラムの趣旨
東アジアの諸国は共通した木造建築文化圏に属しており、西洋と異なる文化遺産の形態を持っています。第70回SGRAフォーラムでは、国宝金峯山寺(きんぷせんじ)二王門の保存修理工事を取り上げ、日本の修理技術者から現在進行中の文化財修理現場をライブ中継で紹介していただきます。続いて韓国・中国・ヨーロッパの専門家と市民の代表からコメントを頂いた上で、視聴者からの質問も取り上げながら、専門家と市民の方々との間に文化財の修復と保存について議論の場を設けます。
今回のフォーラムを通じて、木造建築文化財の修復方法と保存実態をありのままお伝えし、専門家と市民の方々との相互理解を推進したいと考えております。
今回のフォーラムを実現することを可能にしてくださった、金峯山寺と奈良県文化財保存事務所に心からお礼を申し上げます。
■プログラム
総合司会: 李暉(奈良文化財研究所アソシエイトフェロー/SGRA)
13:00 フォーラムの趣旨、登壇者の紹介
13:10 開会挨拶 五條良知(金峯山寺管長)
13:15 [話題提供] 竹口泰生(奈良県文化財保存事務所金峯山寺出張所主任)
[討論]
モデレーター: 金ミン淑(京都大学防災研究所民間等共同研究員/SGRA)
14:20 韓国専門家によるコメント
――――― 姜ソン慧(伝統建築修理技術振興財団企画行政チームリーダー)
14:35 中国専門家によるコメント
――――― 永昕群(中国文化遺産研究院研究館員)
14:50 ヨーロッパ専門家によるコメント
――――― アレハンドロ・マルティネス(京都工芸繊維大学助教)
15:05 市民によるコメント
――――― 塩原フローニ・フリデリケ(BMW_GROUP_Japan/SGRA)
15:20 視聴者からの質疑応答(Q&A機能を使って)
※同時通訳:
日本語⇔中国語:丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学/SGRA)
日本語⇔韓国語:李ヘリ(韓国外国語大学)、安ヨンヒ(韓国外国語大学)
中国語⇔韓国語:朴賢(京都大学)、金恵蘭(フリーランス)
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
プロジェクト概要(日本語版)
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/12/J_SGRAForum70_Program.pdf
ポスター
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/01/J_70thSGRAforumLite.jpg
中国語版ウェブサイト
韓国語版ウェブサイト
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