SGRAメールマガジン バックナンバー
LI Kotetsu “Poultry Golden Eggs and Poultry-Taken Eggs”
2022年12月8日 13:22:51
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SGRAかわらばん948号(2022年12月8日)
【1】SGRAエッセイ:李鋼哲「養鶏金卵と殺鶏取卵」
【2】催事紹介:展覧会およびシンポジウム
「ガエ・アウレンティ 日本そして世界へ向けた、そのまなざし」
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【1】SGRAエッセイ#725
◆李鋼哲「養鶏金卵と殺鶏取卵」
11月3日のSGRAかわらばん943号に、筆者のエッセイ『台湾をもっと知ろう』を題とする第6回アジア未来会議の東北亜未来構想研究所(INAF)セッションに関するレポートが掲載された。
筆者もそのセッションで「半導体産業におけるグローバル・サプライ・チェーン再編―米中覇権争いと台湾―」をテーマに発表した。米中貿易摩擦および覇権争いが激しさを増す中、「半導体を制する者は21世紀を制する」と言われるので、それに関する資料を収集・分析して、半導体の開発・生産・販売を巡る米中台3者の関係を明らかにしようとした。
このテーマと関連して11月に注目すべきニュースが流れた。「(バンコク中央社)アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が19日、タイ・バンコクで閉幕した。蔡英文総統の代理として出席した張忠謀(モリス・チャン)氏(91歳)は、会議初日の18日に中国の習近平国家主席と非公式に会話したことを19日夜に開いた記者会見で述べた。張氏によると、2人は18日午前、休憩室であいさつを交わした。張氏は昨年股関節の手術をしたと話すと、習氏は「今は元気そうで何よりです」と応じたという。また、19日にハリス米副大統領と会談したことについては、副大統領は半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)によるアリゾナ州での工場建設を歓迎する他、台湾を支援する米国の決意を改めて示したとした。張氏はTSMCの創業者で、APEC台湾代表に選ばれるのは2006年以来6回目で、蔡政権が発足した16年以降では5回目」、という内容だった。
TSMCは世界屈指の半導体製造企業。台湾経済部(日本の経済産業省に相当)によると、2020年時点で台湾のファウンドリー(半導体の受託生産)は世界シェアの7割を占め、世界1位のTSMCだけでシェア50%を超えるという。特に先端ロジック半導体で世界をリードしており、米国半導体工業会(SIA)によると、線幅10ナノ・メートル(nm、1nm=10億分の1メートル)以下の製造工場の92%が台湾、8%が韓国に立地。特に台湾のファウンドリーは携帯電話から戦闘機まで、すべてのハイテク機器に内蔵される世界最先端のコンピューターチップを製造している。
米中両大国は台湾製半導体に大きく依存している。日経の記事によると、TSMCは、F-35ジェット戦闘機に使用されるXilinx(ザイリンクス)などの米国の兵器サプライヤー向けの高性能チップや、米国防総省承認の軍用チップなども製造。米軍が台湾製チップにどの程度依存しているのかは不明だが、米政府がTSMCに対して米軍用チップの製造工場を米本土に移転するよう圧力をかけていることからも、その重要さがうかがえる。また、米産業界も台湾製半導体に依存している。iPhone_12、MacBook_Air、MacBook_Proといった各種製品で使用されているAppleの5ナノ・プロセッサ・チップを提供しているのはTSMC1社のみだと考えられている。iPhone_13やiPad_miniなどAppleの最新ガジェット内蔵のA15_BionicチップもTSMC製。顧客はAppleだけではない。Qualcomm、NVIDIA、AMD、Intelといった米大手企業もTSMCの顧客だという。
中国も2020年時点で約3000億ドル(約45兆円)相当の半導体チップを大量に輸入しており、言うまでもなく台湾は最大の輸入元である。中国は外国製チップへの依存度を縮小すべく、「中国製造2025」という計画で数千億ドルを投資しているが、その需要を国内のみで賄えるようになるのはまだ先の話である。中国の最先端半導体メーカのSMIC製造プロセスは、TSMCより数世代遅れている。SMICは現在7nm製造のテスト段階に入ったところだが、TSMCはすでに3nm、2nm製造プロセスまで進んでいる。そのため、中国企業は台湾製チップに頼らざるを得ない。中国のハイテク企業Huaweiも20年時点、TSMCの2番目の大手顧客で、5nmと7nmのプロセッサーの大半をTSMCに依存している。HuaweiはTSMCの2021年総収益の12%を占めていると言われている。
このような話が、本エッセイのテーマ「養鶏金卵と殺鶏取卵」とどのような関係があるのか。2つの4文字熟語は中国の諺である。鶏を育てて金の卵を産み続けてもらうのか、鶏を殺して卵を取り出して肉と一緒に食べてしまうのか、という話である。賢いものは前者を選択し、愚かなものは後者を選択するという意味である。
米政府は今年7月から8月にかけて、中国の最大手ファウンドリー、SMIC向けの14nmから先の微細化世代に対応する半導体製造装置の輸出を許可制とし、事実上の禁輸とした。また中国向けの高性能AIチップの輸出を許可制として、軍事目的が疑われる場合の輸出を禁じ、対中国半導体規制は一段と強化された。また、8月9日には米国でCHIPS法が成立、今後5年間で527億ドルの米半導体産業に対する補助金や税額控除により、生産能力、研究開発や供給網(サプライ・チェーン)を強化するとしている。台湾の半導体技術だけではなく人材も米国にとって宝物(金卵)だとわかっているからである。もし、その台湾が中国に飲み込まれてしまうと、「半導体を制する者は世界を制する」ということで、中国が世界を制することになるが、覇権国の米国としては絶対に譲れない。しかし、台湾を巡る米中戦争はどうしても避けたいところだ。
中国の対応はどうなのか。8月2日にペロシ米下院議長が台湾を訪問したが、「中国の核心的利益(レッド・ライン)を犯す」と、複数の機関が声明を一斉に発表して猛反発した。外務省はバーンズ米大使を夜中に呼びつけるという異例の対応で「ペロシ議長は意図的に挑発を行い、台湾海峡の平和と安定を破壊した。その結果は極めて重大で決して見過ごすことはできない。米国は自らの過ちの代償を支払わなければならない」と厳しく非難した。さらにペロシ議長が台湾から帰国後の4日午後、台湾を取り囲むように6か所の海域と空域で11発のミサイル射撃を行い「重要軍事演習」を行うと発表、地域の緊張が高まったことは生々しく覚えているだろう。
10月の第20回共産党大会の報告で、習近平主席は台湾問題に関して、「武力行使を放棄するとは決して約束しない」、「我が国の完全な統一は実現しなければならず、それを実現する」と述べている。習氏が掲げる「中華民族の偉大な復興」の重要な内容は「祖国統一」である。米国をはじめとする西側諸国は、習氏が任期中に台湾統一を目指していると分析している。現状では台湾との平和統一は望めない(民進党は統一反対を表明)と判断した場合、武力を使うことも「なきしもあらず」だと思う。
また、中国国際経済交流センターのエコノミスト陳文玲氏(政策決定に影響力が大きいと言われる)は、5月30日に中国人民大学が主催した講演会で、「米国と西側諸国がロシアに向けたような破壊的な制裁を中国に科すならば、供給網を再構築するという意味で、台湾を取り戻さなければならない。もともと中国のものであったTSMCを中国の手中に収めなければならない」と発言した、とネット・メディア「観察者網」が6月7日に伝えた。
もし当局がこの発言通りに意思決定し実行するとすれば、「台湾解放」の戦争になりかねないし、そうなれば、金卵を産んでいる台湾が中国のものになるという考え方であろうが、結果的には「殺鶏取卵」になるのではないか。中国のリーダーはそんな愚か者ではないことを祈る。「養鶏金卵」という賢者の道を選択すべきだと思うし、それこそ平和への道である。その意味で今回のAPECでのTSMC創業者である張忠謀氏の米中両国首脳との柔軟な外交は重要な意味を持つのだ。
<李鋼哲(り・こうてつ)LI_Kotetsu>
1985年北京の中央民族大学業後、大学院を経て北京の大学で教鞭を執る。91年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程単位修得済み中退後、2001年より東京財団、名古屋大学国際経済動態研究所、内閣府傘下総合研究開発機構(NIRA)を経て、06年11月より北陸大学で教鞭を執る。2020年10月1日に一般社団法人・東北亜未来構想研究所(INAF)を有志たちと共に創設し所長を務め、日中韓+朝露蒙など多言語能力を生かして、東北アジア地域に関する研究・交流活動に情熱を燃やしている。SGRA研究員および「構想アジア」チームの代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』、その他書籍・論文や新聞コラム・エッセイ多数。
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【2】催事紹介
SGRA会員でイタリア文化会館館長のシルバーナ・デマイオさんから展覧会とシンポジウムのご案内をいただきましたのでご紹介します。
◆「ガエ・アウレンティ 日本そして世界へ向けた、そのまなざし」
イタリア文化会館のグランドデザインを手がけた建築家・デザイナーのガエ・アウレンティ(1927-2012)が亡くなって今年で10年になります。アウレンティはポンピドゥー・センター(パリ)国立近代美術館プロジェクトや、オルセー美術館(パリ)やパラッツォ・グラッシ(ヴェネツィア)の改修、アジア美術館(サンフランシスコ)など美術館建築の分野で世界的に活躍した建築家です。しかしその業績は建築だけではなく、インテリアや舞台美術、都市計画まで多岐にわたります。日本での作品はイタリア文化会館とイタリア大使館事務棟で、1991年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞しました。本展ではアウレンティの作品の一部のオリジナルドローイング、写真、模型、建築素材、パネルなど100点以上を展示し、その足跡を辿ります。
【展覧会】
会期:2022年12月11日(日)~2023年3月12日(日)11:00~17:00(入場無料)
休室日:月曜日、2022年12月24日(土)~2023年1月3日(火)、1月31日(火)~2月2日(木)、2月28日(火)~3月2日(木)
会場:イタリア文化会館エキジビションホール
【シンポジウム】
日時:2022年12月11日(日)15:00~17:00(入場無料)
会場:イタリア文化会館ホール
お申込み:https://iictokyobooking.net/rsv/6111/
お問い合せ:[email protected]
プログラム(日伊同時通訳付):
◇第1部:講演
ニーナ・アルティオーリ(ガエ・アウレンティ・アーカイブ所長)
ニーナ・バッソリ(ミラノ・トリエンナーレ キュレーター)
德家統(建築家・合同会社team_AeO一級建築士事務所主宰)
横手義洋(東京電機大学未来科学部建築学科教授)
◇第2部:ディスカッション
モデレーター:陣内秀信(法政大学名誉教授)
登壇者:ニーナ・アルティオーリ、ニーナ・バッソリ、德家統、横手義洋
質疑応答
詳細は下記リンクをご覧ください。
https://iictokyo.esteri.it/iic_tokyo/ja/gli_eventi/calendario/2022/12/mostra-aulenti.html
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