SGRAメールマガジン バックナンバー

XIE Zhihai “It’s Time for Japan’s Unicorns to take flight!”

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SGRAかわらばん918号(2022年4月21日)

【1】エッセイ:謝志海「日本のユニコーンも翔び立つ時」

【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送)
「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」(5月14日オンライン)
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【1】 SGRAエッセイ#702

◆謝志海「日本のユニコーンも翔び立つ時」

3月11日、経団連は5年後の2027年までに起業の数を10倍にし、最も成功するスタートアップのレベルも10倍に高めるという目標とともに、政府に「スタートアップ庁」の創設を提言した。まず驚いた。日本からユニコーン企業を増やそうと言い出したのは、日本を代表する企業が軒を連ねる経団連なのだから。これは日本の経済にとって、とても革新的だと思う。こうして公に発表されたのなら、早急に具現化した方が良いし、日本からGAFAMのような企業が生まれる様を見てみたいと感じた。日本発のユニコーン企業、実はとても少ないのだ。米国のCBインサイツのデータによると、日本のユニコーン企業数はアジアの中では5位で、1位は中国。全体での1位はもちろん米国である。

そして近年、ユニコーン企業の発掘に国を挙げてサポートしているのが韓国である。こんなことを私が堂々と紹介する資格など実はない。恥ずかしながら、韓国の経済と言えばサムスン、LG、ヒュンダイといった財閥系企業主導だと思っていたのだから。だが、ひとたび韓国のユニコーン企業の勢いの仕組みを知ると驚きの連続であった。韓国、そこは世界の投資家が目を光らせている市場だったのである。ちなみに先述のユニコーン企業数の統計では、韓国はアジアの中では4位である。

まず、スタートアップがユニコーン企業になるには、株式の上場前で企業価値が10億ドルを超える企業にまで成長させることだ。ゆえに企業投資家は将来有望なスタートアップ探しに余念がなく、これまではスタートアップが生まれる場所は米国、特にシリコンバレーなどが知られていたが、今やその視野はグローバル化している。ベンチャーキャピタルにとってはスタートアップが鉱脈と思えば、世界中で目を光らせておくことは必至だろう。実際のところ、世界の10大企業のうち7社がベンチャービジネス支援を受けているという(英エコノミスト誌2021年11/27-12/3号)。では韓国はどのようにして、スタートアップへの資金調達に成功しているのだろう。

韓国の多産なユニコーン企業創出には国のバックアップが大きかった。本格的なスタートアップ支援は、朴槿恵政権が発端だったそうだが、文在寅政権に変わっても立ち消えることはなかった。ここが韓国の底力の発揮だったのか、それからは政府出資のベンチャーファンドの組成など次々と目標と政策を掲げ、2017年には中小ベンチャー企業部は「庁」から「部」に昇格している。さらにベンチャー投資制度を一元化し、規制緩和を通じ投資機会の拡大をすることで、民間企業からの投資チャンスを得やすくなった。さらなる投資の増加が見込める、勢いが止まらないエコサイクルが出来上がった。

既存のビジネスでは韓国のユニコーン企業とはどのようなものがあるかというと、やはり人々が持つスマートフォンに深く関わるビジネスだ。もうニューヨーク株式市場に上場してしまったが、韓国版アマゾンと呼ばれているEコマース大手のクーパン(Coupang)は国外のベンチャー企業から投資を受けた韓国発ユニコーン企業として名高い。カーシェアサービスのソカー(Socar)、生鮮食品を早く届けるカーリー(Kurly)もユニコーン企業になった。こうしたスタートアップ、なにも全く新しいビジネス形態ではない。Eコマースもカーシェアリングも他国ですでに存在している。よってユニコーン企業になれたのは既存のアイデアを用い、韓国人が欲しいサービスをタイムリーに提供できたことによる。実際のところ韓国の上記の企業は独自の物流網を整え、顧客の欲しい時間帯に確実に届けるなどで差をつけることで成長している。このスピード感、日本は見習わないといけない。

一方、日本のスタートアップといえばニッチなものが多い。言い換えれば、革新的でまだ市場にないもの、市場に定着するかどうかも分からないものが多い。これが韓国のスタートアップとは大きく違う点だ。週刊東洋経済が毎年特集を組む「すごいベンチャー100」を見ていると、スタートアップの業種が他種多様にわたっていて、とても興味深い。こうして将来有望なスタートアップを目の前にすると、日本政府は早急に資金調達や制度の政策を整え、一刻も早くスタートアップの生まれやすい国へ、そしてそれらをユニコーン企業へと後押しできるエコシステムを用意すべきだ。

今の日本に欠けているものはスピード感と海外投資家へのアピールではないだろうか。「すごいベンチャー100」を細かく読んで気づいたことがある。日本人は気づいていないのかもしれないが、物事を丁寧にコツコツと積み上げて製品もビジネスモデルも細部まで綺麗に仕上げること、海外ではそれが出来ない人が多いのだ。日本人の唯一無二の強みをもっと売り込んだ方が良いと思う。そして創業者たちを資金調達に奔走させるのではなくイノベーションに集中できるよう、韓国のように国家レベルでスタートアップに対し変革を起こすべきだ。同時に国内の民間主体による投資機会も増やすことが望まれる。経団連の政策提言にも書かれていたが、VC(ベンチャーキャピタル)に対する出資者の比率を欧米と比較した際に、出資者の多様性が乏しい。韓国では財閥系企業とスタートアップはライバルどころか、むしろスタートアップ創出の機会を応援している。これも韓国政府による規制緩和で、民間企業が直接スタートアップに投資できるようになったことで実現している。

それでも日本は韓国のユニコーン企業創出の勢いに負けない土壌があると確信できたのは、やはり冒頭で伝えた経団連の日本国内でスタートアップを増やし大きくするための提言だろう。今の日本のニッチなビジネス(スタートアップ)が近い将来、世界のスタンダードになるかもしれない。最後に、この提言を発表したのが女性(経団連副会長)だったこともまた、日本の未来に一筋の光が差した気がしたのは私だけだろうか。

参考文献:
1)経団連「スタートアップ躍進ビジョン~10X10Xを目指して?」
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/024_honbun.html#s2
2)CB_Insights

Homepage


3)The_Economist_2021_November_27th~December_3rd_2022
Adventure_Capitalism~Startup_finance_goes_global
4)JETRO地域・分析レポート「加速する韓国のスタートアップ支援」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/417fba92dd5a946a.html
5)「週刊東洋経済」2021年9月4日特大号 特集すごいベンチャー100

<謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai>
共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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【2】第20回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送)

下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。SGRAフォーラムはどなたにでもご覧いただけますので、ご関心をお持ちの方にご宣伝いただけますと幸いです。

◆テーマ「進撃のKカルチャー:新韓流現象とその影響力」

日時:2022年5月14日(土)15:00~17:00
方法: Zoomウェビナー による
言語:日本語・韓国語(同時通訳付き)
主催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
共催:(財)未来人力研究院(韓国)
申込:下記リンクよりお申し込みください
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Gsv7xgH3R-GFJled06s0BA

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)

■フォーラムの趣旨
BTSは国籍や人種を超え、一種の地球市民を一つにしたコンテンツとして、グローバルファンダムを形成し、BTS現象として世界的な注目を集めている。一体BTSの文化力の源泉をなすものは何か。BTS現象は日韓関係、地域協力、そしてグローバル化にどのようなインプリケーションをもつものなのか。本フォーラムでは日韓、アジアの関連専門家を招き、これらの問題について幅広い観点から議論してみたい。日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行う。

■プログラム
司会:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学教授)
【開会挨拶】:今西淳子(いまにし・じゅんこ、SGRA代表)

第1部:講演
【講演1】「文化と政治・外交をめぐるモヤモヤする『眺め』」
小針進(こはり・すすむ、静岡県立大学教授)

【講演2】「BTSのグローバルな魅力」
韓準(ハン・ジュン、延世大学教授)

第2部:討論
【ミニ報告】「ベトナムにおけるKポップ・Jポップ」
チュ・スワン・ザオ(Chu_Xuan_Giao、ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員)

【講演者と討論者の自由討論】
金賢旭(キム・ヒョンウク、国民大学教授)
平田由紀江(ひらた・ゆきえ、日本女子大学教授)

第3部:質疑応答
ZoomウェビナーのQ&A機能を使い質問やコメントを視聴者より受け付けます
アシスタント:
金崇培(キム・スンベ、釜慶大学日語日文学部准教授)
金銀恵(キム・ウンヘ、釜山大学社会学科准教授)

【閉会挨拶】:徐載鎭(ソ・ゼジン、未来人力研究院院長)

プログラムは下記リンクからご覧ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/J_JKAFF20_program.pdf

ポスターは下記リンクからご覧ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/04/JKAFF20poster_light.jpg

韓国語版サイトは下記をご覧ください。

제20회 한일아시아미래포럼 「진격의 K-컬쳐: 신한류현상과 그 영향력 」

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