SGRAメールマガジン バックナンバー

XIE Zhihai “Private Companies Leading the Way to a Decarbonized Society”

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SGRAかわらばん896号(2021年11月11日)

【1】謝志海「脱炭素社会を先導する民間企業あれこれ」

【2】国史対話エッセイ「鄭潔西『歴史と私―私の対外関係史研究の道のり―』」紹介

【3】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(11月20日オンライン)(再送)
「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」
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【1】 SGRAエッセイ#686

◆謝志海「脱炭素社会を先導する民間企業あれこれ」

前回のSGRAかわらばんで、レジ袋をもらわないことによってエコになるかどうか、個人に環境問題を問うたが、日々の生活で痛感するのは地球の温暖化をくい止めるのは個人だけでは難しいということだ。

日本政府は今年4月の「気候変動サミット」で、2030年までの二酸化炭素排出量削減目標を2013年度比46%減とする新目標を発表した。これは日本政府がパリ協定後に国連に提出した削減目標の2013年比26%減から大幅な引き上げだ。同サミットでの米国の目標は2030年までに2005年比で50~52%削減。中国は2030年までにGDPあたりの二酸化炭素排出量を2005年比65%以上削減することや、2060年のカーボンニュートラル実現を掲げている(ジェトロ調査レポートより)。

日本がこの数値を達成するには、我々は今の暮らしをどのように、そしてどのくらい変えなければならないのか正直わからない。政府の掲げたこの大きな目標と、同じく政府が打ち出したプラスチック使い捨て品の有料化が国民にうまくリンクしていない。あくまでも私の推測だが、学校教育ではしっかりSDGsという大きな枠組みを教え、学校生活を通じ学内でリサイクル品の分別など行うことで、環境問題に真剣に取り組んでいると思う。しかしすでに成人し、社会で働いている人々は日々の忙しさにかまけて、環境問題なんて二の次のような人も多いのではないか。

その理由としては2つあると思う。まず社会人の新聞、テレビ離れの激しいこと。誰もが自分の欲しい情報しか取りにいかないので、環境問題に興味の無い人にはエコな情報など皆無であろう。もう一つは捨てられた家庭ごみの山からもわかるが、今でも生ゴミの日にダンボールやペットボトルを出す人があとをたたない。(住んでいるエリアによってごみ分別の意識が違うことは重々承知している。都会に住む人は人の目が多いからか、ごみ分別はしっかり行っているように感じる)環境問題を真摯に受け止め、行動する市民がどれだけ頑張っても、2030年に二酸化炭素排出量が今より数十パーセントも減るとは推測しにくい。

しかし、「日本はすごい!」と思うのは、政府と市民の間にどれだけ大きな隔たりがあっても、民間企業はいつだって頑張っているし、民間企業がそれぞれ独自の環境問題への取り組みを行っているところだ。私は日本が目標に近いレベルまで到達できるのも夢ではないかもしれないと期待している。挙げるときりがないが、私が感動したいくつかの企業の環境問題への取り組みを紹介したい。

まず、プラスチック(PETボトル)の循環利用事業を構築した三菱商事。なにがすごいのかと言うと、リサイクルするのがキャップラベルを外され、ボトルの中がきれいなものだけでなく、ラベルやキャップはそのまま、ボトルには飲み残しが入ったままという質の悪いものをもリサイクルできる手法(ケミカルリサイクル技術)をスイスの企業から取り入れ、三菱商事と付き合いの古い台湾の企業と協業し、タイで再生PET樹脂の製造に取り組むことができるまでにしたこと。商社の強みを活かして環境問題を解決に向けた好例だと思う。さらに全く同じ手法を用いた事業を日本でも立ち上げたそうで、期待が高まる。

ここで気になるのが、工場が稼働に必要とするエネルギーではないだろうか。エコなことをして電力を使い、CO2を排出しているようでは元も子もない。三菱商事は2020年に欧州で総合エネルギー事業を展開する会社を中部電力と共に買収し、低炭素社会へ向け次世代の電力事業モデルを構築しようとしている。欧州では遠浅の地形を活かし、洋上風力発電が日本より進んでいるし、消費地の近くで小規模な発電を行う分散型太陽光発電の新規事業に取り組んでいる。エネルギーの地産地消モデルなどを日本に持って来ることができれば、日本国内でCO2の排出が抑えられるだろう。

商社だけが多角的に環境問題に取り組んでいるかというと、そうではない金融サービス業で知られるオリックスは再生可能エネルギー事業にも注力している。オリックスのすごいところは、グループ全体を通してのモニタリング力である。オリックスグループとして2020年3月末時点で、国内において約130万トンのCO2を排出していた。一方、同社がグローバル展開する再生可能エネルギー事業を通じ、約300万トンのCO2排出量の削減を可能にした。この再生可能エネルギー源の内訳としては、風力、地熱、太陽光発電がメインで、太陽光発電においては大規模な太陽光発電所やメガソーラーを日本国内でも100カ所ほど設置し、風力発電や地熱発電は欧州、北米、アジアの企業に出資している。

もちろんこの2社だけでなく、数多くの会社が脱炭素社会を意識した経営をしていて、どれも自社の事業とうまく組み合わせており、感心するばかりだ。何より素晴らしいと思うのは、天然資源の少ない日本だからと諦めずに、海外で先行する再生エネルギー会社を開拓し、パートナーシップを結び協業していること。その知見から、例えば、日本の深い海では不向きの洋上風力発電を、海面に浮かべた状態で風車を設置するという開発を行っている。日本の地形を嘆くだけで終わらせないところがすごい。

このように企業の取り組みを一つずつ見ていくのはとても興味深い。今我々にできることも浮き彫りになってくる。とりあえず私はペットボトルを空にしたら、ラベルを剥がしゴミ箱へ、キャップとボトルはそれぞれのリサイクルボックスへ分別しようとここに誓う。

この論考を書くにあたり、下記の情報を参照しました。
三菱商事 電力ソリューショングループ
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/bg/power-solution-group/
オリックス株式会社 サステナビリティレポート
https://www.orix.co.jp/grp/pdf/company/sustainability/sustainability_report/SR2021J.pdf

<謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai>
共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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【2】国史対話エッセイのご紹介

10月7日に配信した国史対話メールマガジン第35号のエッセイをご紹介します。

◆鄭潔西(寧波大学)「歴史と私―私の対外関係史研究の道のり―」

最初に歴史と出会ったのは、中学校の頃だった。1990年代の前半、県内の中学校に入学していた私は、普段は寮に住み、月に2回くらい田舎にある実家に帰っていた。初夏のある週末に、実家で文化大革命から生き延びた古紙の小山を漁ったとき、一冊の糸綴じの『綱鑒易知録』(編者注:こうかんいちろく/清代後期の歴史書)の「明紀」の部分を見つけた。当時はすでに中国語授業で古文の基礎を学んでいたが、分からない繁体字がまだ多かった。小学校卒業の両親から役に立つ助言を得られなかったので、半分推測でかろうじて理解できる一部の段落だけを追っていった。皮相な理解にすぎなかっただろう。が、学校では決して教わらない歴史の細部を知ることができたのは、当時の私にとって至上の喜びだった。『綱鑒易知録』との邂逅は歴史に関する知識の自己学習の契機になった。自主的な史学経典の読み漁りを通じて、私は歴史研究の基礎体力をつけた。それも後に私が万暦朝鮮戦争(文禄・慶長の役)を中心とする明代の対外関係史を主な研究テーマとして選んだきっかけだった。

続きは下記リンクからお読みください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2021ZhengJiexiEssay.pdf

※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。

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【3】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(再送)

下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式ですので、お気軽にご参加ください

テーマ:「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」

日時:2021年11月20日(土)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(京都時間)
方法:Zoom_Webinarによる/日中同時通訳付き

共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、北京大学日本文化研究所、清華東亜文化講座、
後援:国際交流基金北京日本文化センター

※参加申込(下記URLより登録してください)
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_oefAUZ69QMaxwXm1GvLrjw

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)

■フォーラムの趣旨

山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりとして、「アジアという空間が翻訳・留学などによっていかに作られたのか?」さらに、その時空間において「modernやglobalizationなどがいかなる生活様式・思考様式の変容をもたらしたのか?」を概念語や日常語の視点からいかに捉えるのかを検討する。

■プログラム

総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部)
開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団)
挨拶:野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター)
講演:山室信一(京都大学名誉教授)
「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」
コメント:王中忱(清華大学中国文学科)、劉暁峰(清華大学歴史系)、趙京華(北京第二外国語学院)、林少陽(香港城市大学中文及歴史学科)
閉会挨拶:王中忱(清華大学中国文学科)

■講師からのメッセージ

討議では、まずアジアというヨーロッパから与えられた空間概念が、いかにして当該空間に住む人々によって自らのアイデンティティーの対象となっていったのか、を翻訳や留学などによる思想連鎖の中で生まれた意義について考えたいと思います。そこではローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルという4つの空間層と思想の存在態様をいかに関連させて捉えるか、という問題が重要になってきます。

次に、そうして生まれたアジアという空間の中で、人々の生活様式はどのように変容していったのか、を近代と現代という「二つのモダン」の次元で検討したいと思います。そこではモダン・ガールが髪や服装の長短の変化と関連して毛断嬢や裳短嬢などと表記されるなど、どのようなモダン語などで表象され、それが写真や絵画・漫画などでいかに視覚化されたのか、が重要な鍵となります。

こうした議論を通して、アジアにとってモダンやグローバリゼーションさらにはアメリカニズムとは何だったのか、を検討したいと思います。その討議においては、単に思想や研究の次元の問題に限らず、広く社会生活のありかたとしてのway_of_lifeを考え直すための意見交換ができればと願っております。ここにはウイズ・コロナ時代におけるアジアとそこでの生活様式・思考様式を展望することも含まれるはずです。

今回の討議では、空間と社会生活と言葉(概念や流行語)という3つの次元をいかに結びつけていくのか、という方法論を模索するなかで「思想連鎖」や「思詞学」という研究視角を提言するに至った経緯についても触れ、忌憚のない御批判を戴きたいと切望しています。

※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。

日本語版
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/J_SGRAChinaVForum15.pdf

中国語版
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/C_SGRAChinaVForum15.pdf

ポスター
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/16thSGRAchinaForumV10(Medium).png

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