SGRAメールマガジン バックナンバー

CHEN Yan “SGRA Cafe #15 Report”

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SGRAかわらばん869号(2021年5月6日)

【1】第15回SGRA-Vカフェ報告
陳えん「SGRA-Vカフェ『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力の報告」

【2】国史対話メルマガ#29を配信
金賢善「第5回国史たちの対話―伝染病の時代に伝染病の歴史を振り返る」

【3】第19回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送)
「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか」(5月29日、オンライン)
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【1】第15回SGRA-Vカフェ報告

◆陳えん「SGRA-Vカフェ『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力の報告」

3月20日(土)、第15回SGRA-Vカフェが開催された。コロナ禍のためオーディエンスは全員オンラインで参加する形式で行われたが、オンラインだからこそ日中韓「同時通訳・同時翻訳付き」の3言語開催が実現できたとも言える。今回の企画・準備・運営においては、新型コロナウィルス対策や新たなオンラインの可能性を探るさまざまな試みが行われ、視聴者の積極的な参加と財団スタッフの努力によって、世界中から集まった200人を超える参加者を満足させるウェビナーに「仕上げ」ることができた。

今回のテーマ設定の背景にささやかなストーリーがある。2年前に日中映画に関するSGRAチャイナフォーラムが北京で開催されたことをきっかけに、私は「いつか“アニメ”に関連するテーマも取り扱ってみたい」と思い始め、2019年度のチャイナフォーラムで大塚英志先生をお誘いして日本のマンガ・アニメ業界の特徴とされている「メディアミックス」について語っていただいた。その際の反響が良かったので、今度は東京で開催するSGRAカフェでもアニメに関連するテーマを取り上げたいという思いがあった。当初は「アニメの文化研究」をテーマに、と考えたが、具体的な話の「入口」がなかなか決まらなかった。その理由は、アニメ研究の歴史はあまり長くないにもかかわらず、メディアの発展に伴いアニメ自体の在り方も急速に変化し続けているということ、また、代表的な作品・作家・時代と現象の事例が意外と多いと言うことからであった。

悩んでいた時に、タイミングよく話題作が現れた…!――『鬼滅の刃』である。興行収入が『千と千尋の神隠し』を抜いて歴代ランキング第1位になり、原作のファンだけではなく、世界中のアニメファンやそれまでアニメに興味が無かった人々からも注目を集めていた。そこで早速、アニメーション研究家の津堅信之先生に「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」というテーマをお伝えし、講演内容を考えていただいた。偶然にも津堅先生の著書は中国語と韓国語にも翻訳されていたので、今回の3言語開催のウェビナーにとっては最適なゲストだったと言えよう。

当日は、同時通訳はもちろん、投影されるスライドも3言語対応で用意された。また、ウェビナーのQ&Aに寄せられたコメントをリアルタイムで3言語に翻訳するべく、渥美奨学生のみなさんもオンラインで待機してくださった。定時に開会後、2016年度奨学生の全相律さん(韓国出身)が渥美財団とSGRAの紹介をし、筆者(中国出身)から講演ゲストの津堅先生を紹介した。この部分のアレンジも運営側の特別な手配がうかがえる。

第1部の津堅先生の講演は、『鬼滅の刃』がヒットした理由の分析とその実像の説明から始まった。そして、実は『鬼滅』の劇場版(或いは映画版)は原作のファンをターゲットにして制作されただけで、そのビジネスモデルははるか前から日本のアニメ業界で形成されていたもので、一般人にまで広まる空前の大ヒットとなることは誰も想像だにしなかった、と説明された。スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫は、「(興行収入)100億円までは作品の実力、それ以上は社会現象」と語っている。今回その「社会現象」が起きた理由については様々な専門家が分析しているが、津堅先生は無視できない事実として2点挙げられた。一つは、新型コロナウィルスの感染拡大によって、多くの映画の公開が延期になり、映画館に生じた空き時間に『鬼滅』が集中的に上映されたこと。実際、とある映画館の4つのスクリーンで、15分おきに上映が始まるという普段ではありえない状況が起きていた。

もう一つは、劇場版の『鬼滅』の映像美やストーリー性の高さが原作のファンを満足させる質の高いものだったため、初期の段階で見に行った原作ファン(10日間で100億円を超えた)の口コミがかなり良く、原作ファン以外の観客も「それほど評判なら一度は見に行こう」と考え、非常に大きな相乗効果が生まれ、その「相乗効果」が「興行収入歴代トップ」の結果をもたらした。余談として、『鬼滅』の中で、「全集中」という言葉が出てくるが、これが実社会でもあらゆる場面で使われ、津堅先生によると「総理大臣が国会でも使っていた」とのことだった。(注:2020年11月2日の衆院予算委員会で『全集中の呼吸』で答弁させていただく」と答弁。江田憲司立憲民主党代表代行の質問に)

では、この大ヒットとなった『鬼滅の刃』現象は日本アニメの歴史の中ではどのように位置づけられるだろうか。津堅先生は、1960年代から日本アニメがたどってきた道を整理しながら、その「魅力」がどこにあるのを分析された。

戦後の代表作で日本初の長編アニメ『白蛇伝』の公開後、1963年の『鉄腕アトム』テレビシリーズが日本アニメの「特徴」と「伝統」を作り上げた。毎週30分が1話のサイクルで放映するパターンの定着である。当時は世界でもテレビアニメの供給がまだ少なかった時期で、先行していたアメリカのテレビアニメは1話5~10分の長さでギャグネタを1つだけ紹介するのが主流だった。それに対して、日本アニメは1話が30分だったので、キャラクターの感情をより豊かに描くことができた。その後、時代の変化と共にテレビアニメが多く制作されるようになった現在でも、この1話30分パターンが続いている。

70年代に入るとテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)と『機動戦士ガンダム』(1979年)が子ども向けではない複雑なストーリー、キャラクターの心理描写を重視し、「ヤングアダルト」向けという世界的に見て稀なジャンルを確立した。この頃からテレビアニメの人気作において、オリジナルのストーリーから長編アニメが制作され、映画館で公開される「劇場版」という新ジャンルが生まれた。以上の2点から、人気マンガを原作としてテレビアニメ化し、その後劇場版をつくるという一連の制作スタイルが一つの定型となり、これが『鬼滅の刃』へとつながっている。

80年代のアニメ業界はマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」連載のテレビアニメ化の全盛期を迎え、代表作の数々(『ドラゴンボール』『SLAM_DUNK』『幽☆遊☆白書』『るろうに剣心』『One_Piece』など)が、それぞれ異なるブームを形成した。スタジオジブリの活動が本格化した時期も80年代。宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(1984年)、『天空の城ラピュタ』(1986年)、『となりのトトロ』(1988年)など現代を鋭く批判し社会性を帯びた一連の作品が、それまでアニメに興味のなかった観客からも注目された。

90年代以後、人気マンガが原作の制作スタイルとジブリのオリジナルアニメ映画がそれぞれの発展を果たし、それに加えてアニメ制作におけるデジタル化が進み、日本独自のデジタル技術が発達した。

以上のように日本アニメの歴史を整理した後、津堅先生が日本アニメの「独自性」と「文化力」をまとめた。ジャンルが多様でヤングアダルト向け、また、3DCG(=3ディメンション・コンピュータグラフィックス)ではなく2D(=2ディメンション)デジタルを中心に発展してきた日本アニメが、国外に対する新たな日本文化として発信され、アニメの舞台になった国内スポットが注目されたり、登場する日本食が流行したりする現象をもたらした。

盛りだくさんだった講演後、第2部の対談では私自身がインタビュアーとなり、津堅先生と3つの話題を中心に語ってみた。まずは、講演の中では触れられていなかった『鬼滅』の内容について、主人公のキャラクター設定が従来の「ジャンプ系主人公」より「成長のスピードが遅い」「相対的に弱い」点についてお話を聞いた。津堅先生からみれば、これまでと大きな違いはなく、やはり日本アニメの伝統通り主人公が成長するプロセスを強調しながら表現している、と述べられた。また、「これから誰が日本アニメを見るのか」「観客の多様化や変化は日本アニメに影響するか」という話題に対しては、海外の観客が大幅に増えていることを前提として、日本アニメ自体を最初から世界向けに企画・制作すべきだというのが津堅先生のご意見だった。

最後に、津堅先生の研究の重要な論点の一つと繋がる「アニメ」と「アニメーション」の使い分けについて伺った。津堅先生は商業的アニメと芸術系のアニメーションの区別や、ファミリー向けと大人向けのジャンル分け、および制作スタイルの違いあるいは地域などによって言葉の定義が異なると説明された(例えば欧米では、ポケモンはファミリーの棚に、ジブリが「アニメ」に、ディズニーが「アニメーション」になど;中国でも「動画」「動漫」などがある)。また、こうした言葉の使い分けについては、地域の文化の中での変遷を分析することで理解が進むと強調された。

第3部のオーディエンスからのQ&Aでは、多くの質問の中から2012年度渥美奨学生のソンヤ・デールさんに代表的な内容をピックアップしてもらい、「日本アニメの海外展開」や「アニメ研究を始めたきっかけ」、「日本アニメの暴力表現」などについて津堅先生と筆者とがそれぞれの経験と理解からお答えした。

3言語「同時通訳・同時翻訳」を実現した初のオンライン版SGRAカフェが終わったが、SGRAでは今回の経験を生かして「次は英語の同時通訳もつけてさらにグローバルに発信する」を目指すらしい。今後のウェビナーがどのような「盛り上がり」を見せるのか、楽しみである。

当日の写真
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/04/15thSGRA-Vcafe_Photos.pdf

フィードバックの集計
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/04/Cafe15_questionnaires.pdf

当日の録画

<陳えん(ちん・えん)CHEN_Yan>
京都精華大学マンガ学部専任講師。2017 年度渥美奨学生。北京大学学士、東京大学大学院総合文化研究科修士・博士課程単位取得満期退学。研究領域はアニメーション史、日中アニメ・マンガ交流史、「動漫」「IP」の概念史など。研究以外、マルチクリエイター・プロデューサーとして日中コンテンツ業界にて活動中。

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【2】「国史対話」メールマガジン第29号を配信

◆金賢善「第5回国史たちの対話―伝染病の時代に伝染病の歴史を振り返る」

「中国・韓国における国史たちの対話の可能性」は1月9日、オンライン(ウェビナー)で行われ、日中韓3国の19世紀における伝染病の流行と防疫に関する発表と活発な議論が行われた。また、空間を越え、100名以上が参加し、リアルタイムでチャットを通じての質問も行われた。趙珖・国史編纂委員会委員長が開会挨拶で指摘したが、オンラインで開かれた今回の「国史たちの対話」はこれまでとは違った意味が付与されなければならないだろう。コロナの危機の中で新しい形の会議が円滑に行われるように万全を期してくださった関係者のみなさんにまず感謝申し上げたい。

反面敎師

2020年、コロナが韓国を覆った頃「科学が発達した今日、感染症と防疫の歴史を研究することにどんな意味があるか」と聞かれたことがあった。当時、感染者の経路が時々刻々と私たちの携帯電話に伝達され、注意を要する状況であったし、疑いの症状がある時は準備された検査キットで早く検査を受けることができた。そんな状況の中で、感染症と防疫の歴史を研究することが現在の私たちの暮らしにどんな意味があるのかと疑念を持つことは変なことではなかった。疾病史を研究する私はこの質問がしばらくの間気になり、それに対する答えについて悩み始めた。この「国史たちの対話」は気になっていたこの質問に対する答えを探す旅程のようなものであった。

続きは下記リンクからお読みください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2021KimHyunsunEssay.pdf

※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。

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【3】第19回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(再送)

◆「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか」

下記の通り日韓アジア未来フォーラムをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。

テーマ:「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか」
日 時:2021年5月29日(土)14:00~16:20
方 法:Zoomウェビナーによる
言 語:日本語・韓国語(同時通訳)
主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA](日本)
共 催:(財)未来人力研究院(韓国)

申 込:下記リンクよりお申し込みください
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_-25TkTM2QnSHiJtebc6VOg

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)

■概要
歴史、経済、安保がリンケージされた複合方程式をうまく解かなければ、日韓関係は破局を免れないかもしれないといわれて久しい。日韓相互のファティーグ(疲れ)は限界に達し、日韓関係における復元力の低下、日米韓の三角関係の亀裂を憂慮する雰囲気は改善の兆しを見せていない。尖鋭な対立が続いている強制徴用(徴用工)及び慰安婦問題に関連し、韓国政府は日本とともに解決策を模索する方針であるが、日本政府は日本側に受け入れられる解決策をまず韓国が提示すべきであるという立場である。なかなか接点を見つけることが難しい現状である。これからどうすればいいか。果たして現状を打開するためには何をすべきなのか。日韓両国政府は何をすべきで、日韓関係の研究者には何ができるか。本フォーラムでは日韓関係の専門家を日韓それぞれ4名ずつ招き、これらの問題について胸襟を開いて議論してみたい。日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行う。

■プログラム
◇司会
金雄煕(キム・ウンヒ)仁荷大学教授
◇開会の辞
李鎮奎(イ・ジンギュ)未来人力研究院理事長

第1部・講演とコメント(14:05~15:05)
<講演1> 小此木政夫(おこのぎ・まさお)慶応義塾大学名誉教授
「日韓関係の現段階-いま、我々はどこにいるのか」
<コメント> 沈揆先(シム・キュソン)ソウル大学日本研究所客員研究員

<講演2>李元徳(イ・ウォンドク)国民大学教授
「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか-韓国の立場から」
<コメント> 伊集院敦(いじゅういん・あつし)日本経済研究センター首席研究員

第2部・自由討論(15:05~15:45)
講演者と討論者の自由討論

◇討論者
金志英(キム・ジヨン)漢陽大学助教授
小針進(こはり・すすむ)静岡県立大学教授
西野純也(にしの・じゅんや)慶応義塾大学教授
朴栄濬(パク・ヨンジュン)国防大学教授

第3部・質疑応答(15:45~16:15)
ZoomウェビナーのQ&A機能を使い質問やコメントを視聴者より受け付けます。

◇閉会の辞
今西淳子(いまにし・じゅんこ)渥美国際交流財団常務理事・SGRA代表

プログラムの詳細
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/04/J_19th-JKAFF_Program.pdf

ポスター
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/04/19thJKFF_J.png

韓国語ウェブページ

제19회 한일아시아미래포럼「기로에 선 한일관계: 이제 어떻게 해야 하는가」

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★☆★お知らせ
◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応)
SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。
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