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Cho Suil “Some Thoughts about Troubled Korea-Japan Relationship (Part 2)”

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SGRAかわらばん797号(2019年11月14日)
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※趙秀一「混迷を極める韓日関係に思うこと(その1)」は下記リンクよりお読みいただけます。

エッセイ611:趙秀一「混迷を極める韓日関係に思うこと(その1)」

SGRAエッセイ#612

◆趙秀一「混迷を極める韓日関係に思うこと(その2)」

【民間交流と両国の国民一人ひとりの声が鍵ではないだろうか?】
まず、昨年からの主な出来事を箇条書きで示したいと思います。

・2018年4月27日、韓国の文在寅大統領と朝鮮民主主義人民共和国の金正恩国務委員長の首脳会談が行なわれ、その日、両者が手を繋いで板門店の軍事境界線を往来。
・2018年6月12日、金正恩国務委員長とアメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領がシンガポールで米朝首脳会談を行う。
・2018年10月30日、韓国の大法院(最高裁判所)は、日本がアジア・太平洋地域を侵略した太平洋戦争中に、「徴用工として日本で強制的に働かされた」として、韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、元徴用工の一人あたり1億ウォン(約1千万円)を支払うよう命じる。
・2018年11月21日、韓国政府は、「韓日慰安婦合意」(2015年12月28日)によって2016年7月設立した「和解・癒やし財団」の解散を宣言。
・2019年3月25日、韓国の大田地方法院は、「勤労挺身隊ハルモニ(お婆さん)と共にする市民の会」の「三菱重工業の商標権2件と特許権6件に対する差し押さえ命令の申請」を承認。
・2019年6月28日~29日、大阪でG20サミットが開催。安倍晋三総理大臣と文在寅大統領との首脳会談は行われず。
・2019年6月30日、G20サミット開幕後に訪韓したドナルド・トランプ大統領が軍事境界線を歩いて越え、金正恩国務委員長と共に南側に入り、そこに文在寅大統領が合流し、三者が話し合う姿が世界を驚かせる。
・2019年7月4日、日本政府は、韓国に対する半導体材料の輸出管理強化措置を発動。8月2日、韓国を「ホワイト国」から外すことが決定。
・2019年8月22日、韓国政府は、GSOMIA(ジーソミア、韓日軍事情報保護協定、2016年11月23日締結)の終了(破棄)を発表。

以上のような出来事や「65年体制の危機」と言われている昨今の韓日関係を考える上で何が必要でしょうか。

1965年6月22日に署名が交わされ、同年12月18日より効力が発生した「大韓民国と日本国との間の基本関係に関する条約(韓日基本条約)」、「財産および請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する大韓民国と日本国との間の協定(韓日請求権協定)」、「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定(日韓法的地位協定)」の一文一文を確認してみる必要があると思います。

また、国家間の請求権と個人の請求権をめぐって解釈に異論が提起される理由を考えてみることも必要だと思います。1991年8月27日、当時の柳井俊二・外務省条約局長は参院予算委員会において、両国間の請求権の問題が「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」としている意味について、国民自身の請求権を基礎とする国の賠償請求権(外交保護権)を日韓両国が相互に放棄したものだと説明しました。と同時に、「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません」と述べています。また、1992年2月26日の衆院外務委員会においては、「韓国の方々がわが国に対して個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない」と答弁しています。個人的に私はこの柳井俊二・外務省条約局長の答弁が正しい解釈であると思っていますが、どうも今の日本政府では有効ではないようです。韓国の最高裁判決が、個人としての請求権は消滅していない、同時に国としての請求権も請求権協定の適用対象に含まれないと判定を下しているためであるかもしれないとも思ったりします。

問題は、外交上の経路を通した対話がなされていないことでしょう。もちろん、両国の関係や現在を超えた未来における様々な利害を考慮せねばならない両政府は、下手に先に動くことを警戒しているのかもしれないです。だとしても、市民同士の個々人レベルでの交流は周りの顔色をうかがうことなく続けていかねばなりません。交流の出会いを通してお互いを理解し合い、自分の声で韓日関係についてきちんと言える個々人を養成していくことが最も大切なことであると思います。そしてそれこそ自分が今後韓日の架け橋として遂行すべき課題ではないかと思っています。

【大韓民国憲法前文と日本国憲法前文】
次は、大韓民国憲法前文です。

悠久な歴史と伝統に輝く我々大韓国民は、3・1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統と、不義に抗拒した4・19民主理念を継承し、祖国の民主改革と平和的統一の使命に立脚して、正義・人道と同胞愛で民族の団結を強固にし、すべての社会的弊習と不義を打破し、自律と調和を土台に自由民主的基本秩序をより確固にし、政治・経済・社会・文化のすべての領域において各人の機会を均等にし、能力を最高度に発揮してもらい、自由と権利に拠る責任と義務を完遂するようにし、内では国民生活の均等な向上を期し、外では恒久的な世界平和と人類共栄に貢献することで、我々と我々の子孫の安全と自由と幸福を永遠に確保することを確認しつつ、1948年7月12日に制定され8次にわたり改正された憲法を再度国会の議決を経て国民投票によって改正する。

大韓民国憲法は、「祖国の民主改革と平和的統一の使命に立脚」するものです。また、「恒久的な世界平和と人類共栄に貢献すること」をも掲げています。しかし、国民というのは一つの生き物ではないので、それぞれ思っていることが違うのは当たり前です。しかし、子供たちに反共ポスターを描かせたり統一を願う歌を歌わせたりする教育も、朝鮮民主主義人民共和国の独裁や核開発などを非難する声も、「恒久的な世界平和」のためであると思います。ところが、文在寅政権の南北平和路線に白い目を向ける日本のメディアが多いです。もちろん韓国国内でも冷ややかな視線を向けるメディアがあります。あまりにもロマンチックな考えとして見做されるかもしれませんが、私は「我々と我々の子孫の安全と自由と幸福」のためにも、六者会合の再開や朝鮮戦争の終戦宣言を通した東アジアの平和を共に追い求めていくべきであると思っています。

日本国憲法前文にも平和を追求する精神がよく表れています。

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によってび戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

「恒久の平和を念願」するという点において、韓国と日本の志は同じであると思います。そして「再び戦争の惨禍が起ることのないように」、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去」するために、もっと力を出し合わなければならないと思います。両国には外交上の路線を通じて解決すべき懸案事項が山積みになっていますが、胸襟を開いて対話する体制を築いてもらいたいと思っています。一方で、民間のレベルでは、文化やスポーツ、教育などの分野における交流が、政治的な紛争で中止になることのない、揺るぎない体制や認識を構築していくために努力すべきではないでしょうか。そして私はその一翼を担う生き方を貫き通す人間になるよう努めていきたいと思っています。

<趙秀一(チョウ・スイル)Cho_Suil>
1982年韓国京畿道生まれ。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了。博士(学術)。「済州島4・3事件を考える会・東京」実行委員。2008年、韓国ソウルの建国大学校師範大学日語教育科卒業。2011年来日。2016年度日本学術振興会特別研究員(DC2)。主要論文としては、「金石範「看守朴書房」論―歴史を現前させる物語」(『朝鮮学報』第244輯、朝鮮学会、2017年)や「金石範『火山島』論―重層する語りの相互作用を中心に」(『社会文学』第47号、日本社会文学会、2018年)などがある。

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