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KABA Melek “Suriyeliler – New Turkish Word and its Implication”

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SGRAかわらばん761号(2019年3月7日)
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SGRAエッセイ#589

◆カバ・メレキ「トルコ語の新しい単語『シリア人達』の意味合い」

私の国はトルコ。トルコの日常生活の中で「今日はいい天気ですね」のような会話は少ない。その代わりに政治・経済と宗教という3つの大問題についての議論こそ、人々が飽きることなく話題にし続ける最も重要なもの。この頃「Suriyeliler(シリア人達)」がその議論に仲間入りをした。「シリア人達」という新しい言葉は「シリア難民」「シリア人」「シリアの人」と言った民族的または出身国に関する属性を指す「無邪気な」言葉ではない。その言葉は、道を歩いている時、バスに乗っている時、あるいは大学の授業の時など、様々な場面で耳にする。毎回その言葉が気になって仕方がない。

少し具体的にみると、2011年3月15日からトルコにシリアからの難民が入ってくるようになった。トルコ政府内務省入国管理局によると、現在(2019年2月)は357万人のシリア人が我々トルコ人と一緒に暮らしている。トルコ以外にもヨルダン、レバノン、イラクやヨーロッパ諸国にもシリア難民はいるが、トルコは地理的に近いし、国境を歩いて越えられるという容易さがある。

ただし、数字は人々の日常生活の現実をどの程度語りうるのだろうか。戦争から逃れた人々が、宗教的に親近性があっても文化も言語も異なるトルコ社会に溶け込むのはそう簡単ではない。トルコはオスマントルコ時代から異民族が共に生きる国だと教わった。しかし、今の自分は「私の国の人々は自分とは異なる国の人に対してそれほど寛容なのだろうか」と言う疑問を抱く。

トルコ政府としては様々な形でシリアからの難民を支えようとしている。特に数の多い子供と若者に対して特別学校が設けられたり、学校の先生に対して難民の子供の教育についての講習があったり、大人向けのトルコ語講座や就職サポートが行われたりしている。しかし日常生活の中でシリア人に対するトルコの人々の眼差しには少し疑問を抱かされる。

教室で「『シリア人達』はトルコの大学に試験なしに無条件で入れるみたいですよ。不平等!こっちはずっと受験勉強してるのに」とある大学生が言った。調べてみたらシリア難民は他の留学生と同じ手続きやトルコ語能力試験の点数で入学できることになっていた。大学入学試験を受けずにシリア難民を受け入れる大学もいくつかあったが、その数はとても少なかった。

ある日、近所の年金生活者のおばさんが「『シリア人達』は毎月我々より高いお給料をもらっているみたい。なんか嫌よね」と文句。調べてみたら、無職のシリア難民に普通のレストランで5回外食できる程度の給料の支援が毎月あった。ある大きい新聞の見出しに「シリア難民に1300トルコリラの給料」とあった記事を読むと、これは仕事をするシリア難民に毎月払われる最低賃金の定めのことであり、見出しと記事のニュアンスは違っていた。

シリア難民の女性と子供の問題を書くのは心がつらくなる。女性に対する様々な暴力がある。シリアから来た未亡人を第二婦人として迎える事例、売春の問題。一部には登校もしないで働く子供たちもいる。

一方、引越しの手続きをしに水道局へ行ったら、カッパドキアの典型的な民族衣装を着た中年の女性が一生懸命、トルコ語がわからない難民の借りた家の水道の手続きを手伝っていた。近所の人が皆で家具を揃えてその難民一家が住める部屋を作ったそうだ。心が温まる。

経済的に恵まれているシリア難民はトルコでも豊かな生活をしていることは見てすぐにわかる。ただし貧困者の問題はこの先もまだ続くだろう。

最近になって学術論文でも新たなテーマとしてシリアからの難民を取り上げるようになった。ある論文でシリア難民に関して使われている言葉をメディアの中から調べていた。その中で「人身売買」「違法」「犯罪」「伝染病持ち」「売国奴」「物乞い」「子だくさん」が最も頻繁に使われている。こうしたメディアの言説を見ると、ヨーロッパで非ヨーロッパ圏から来た移民や労働者が受けた差別と偏見を思い起こす。例えばトルコは1950年代から多くの出稼ぎ労働者をドイツへ送った。韓国人も同じ目的でドイツに移住した。時代が変わりトルコの人々は「シリア人達」と言う自らの「他者」を作り上げた。「他者」は「いじめることができる、自分が優越感を感じられる」対象である。インド人がイギリス人にとって、そしてアフリカの人々がフランス人にとってそうであったことと同様に「シリア人達」はトルコ人にとって「他者」として機能している。自分は「善」である、なぜなら「悪」は眼前にいる「シリア人達」だから。

トルコ語の新しい単語「シリア人達」にはなぜか慣れることができない。その意味合いはなぜか気になる。隣の国の人々で文化も近いし同じイスラム教徒でもある。万物を愛するイスラムの教えはこの中東ではもうすでに忘却されていることだけは確かである。

<カバ・メレキ KABA_Melek>
渥美国際交流財団2009年度奨学生。トルコ共和国ネヴシェル・ハジュ・ベクタシュ・ヴェリ大学東洋言語東洋文学部助教授。2011年11月筑波大学人文社会研究科文芸言語専攻の博士号(文学)取得。白百合女子大学、獨協大学、文京学院大学、早稲田大学非常勤講師、トルコ大使館文化部/ユヌス・エムレ・インスティトゥート講師を経て2016年10月より現職。

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