SGRAメールマガジン バックナンバー
Kim Do-young “Apprentice at Japanese Sword Workshop”
2018年6月14日 13:14:40
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SGRAかわらばん728号(2018年6月14日)
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SGRAエッセイ#572(私の日本留学シリーズ#22)
◆金跳咏「日本刀工房に弟子入り」
日本刀は日本国内を超え、全世界的に有名である。素敵な形のみならず、強くて折れない高度な性能が世界的に認められたからだ。しかし、「日本刀はどのように作られるのか」と聞いても詳しく答えられる人は意外と少ない。ここでは日本人なら誰でも知っていながらも、意外に詳しくは知らない日本刀、そして6ヵ月間過ごした日本刀工房での経験について少し話したい。
刀に関心を持つようになったのは、韓国の大学で考古学を専攻してからである。学部4年生の時に卒業論文テーマを何にしようか悩んでいた時、指導教員から派手な装飾で飾られた裝飾大刀を研究してみないかという提案を受けた。三国時代(韓半島に高句麗、新羅、百済が競合していた4-6世紀)に製作され、古墳に副葬された裝飾大刀の研究を進めつつ、自然と刀に関心をもち、結局修士課程まで大刀の研究が続いた。しかし、学部・修士課程で進めた裝飾大刀の研究は、素直に言うと、刀身そのものに関する研究というより刀柄に関する研究であった。1500年前に製作された「装飾」大刀は、その名称からも分かるように、刀柄に龍、鳳凰を金、銀、銅などの貴金属を使用して華やかに完成される。私をはじめとする古代刀の研究者たちは、刀身より刀柄を集中的に研究しているのだ。
しかし、殺傷という刀の本来の目的を考えると、大刀研究の核心は刀身にあるといえよう。「どうすれば刀身の研究ができるだろう」という悩みに対する解答は、修士課程を卒業する頃突然に訪れた。東京工芸文化研究所の鈴木勉先生から連絡が来たのだ。国立九州博物館との共同プロジェクトで福岡県宮地嶽古墳から出土した7世紀代の大刀を復元するが、研究員として参加しないかというお誘いであった。私の日本留学は、このメール1通から始まった。
工芸文化財研究所に到着した日が2013年3月20日、東京から福島市立子山にある日本刀工房を訪ねたのが27日。来日してから東京にいた時間は僅か1週間だけであった。当然ながら日本語も下手だったため、日本刀工房での生活はすべてのことが予想外だった。振り返れば、日本刀のみならず、日本文化や日本語などについても全く知らなかったため、却って勇気をもって工房に行くことができたのかも知れない。
工房での生活は極めて単純である。朝6時に起き、工房を掃除する。工房や庭の床を掃き、ほこりが飛ばないように水をまく。終わったら師匠が使用する道具を整理する。朝7時30分に朝食をする。朝食が終わったら皿を洗い、ゴミを分別する。朝9時から午後5時半までが仕事である。毎日、仕事は異なるが、刀製作に必須である炭を切る作業が多い。師匠が刀を作るときは、補助の仕事を手伝う。昼食は、午後12時から1時まで。日課を、このように整理すると、簡単なように思われるかもしれないが、それが言葉のようには簡単でない。ほとんど力仕事であるため、肉体的に容易なことではない。
日本刀の製作工程を簡単にまとめると以下のようになる。材料は玉鋼(たまはがね)だ。たたら製鉄によって作られた玉鋼は、純度が非常に高い良質の鉄である。適当量の炭素が含まれ、焼き入れ(熱処理)によって高性能の刀を製作することが可能である。丈夫であり、折れない日本刀の秘訣は、この玉鋼という優れた素材にある。刀を製作するのに重要な作業の一つが、玉鋼を炭素量ごとに分けることである。玉鋼内には、炭素量が多い部分(高炭素)と少ない部分(低炭素)がある。高炭素の玉鋼は、焼き入れによって硬くなるが、低炭素の玉鋼は焼き入れ効果が効かない。ゆえに、高炭素の玉鋼は刀の刃に、低炭素の玉鋼は刀身の背中に使用する。
このように玉鋼に含まれた炭素量を区分するため行う作業を「水べし」と「小割り」という。次に、炭素量ごとに分けた玉鋼を鍛える。炉で加熱した玉鋼を数回折り、組織を均一にする。この工程を「折り返し鍛錬」という。その後、折り返し鍛錬した高炭素の玉鋼で、低炭素の玉鋼を包み込むようにするが、この工程が「造り込み」である。「造り込み」によって高炭素の玉鋼が刃に、低炭素の玉鋼を背中に配置される。こうやって合わせた鋼塊を鍛造して刀身のように延ばすが、この過程が「素延べ」である。「素延べ」で長い棒の形になった玉鋼に刃を立てる「火造り」を行う。刀の形になると「焼き入れ」をする。焼き入れとは、真っ赤に焼けた刀を水などに入れ、一気に冷やすことである。焼き入れによって刀身内にマルテンサイトという組織ができ、刀として機能を果たすことができるようになる。
こうやって完成される刀の長さは、普通1m前後である。しかし、私が参加して作った宮地嶽古墳の刀は全長が240cmに達する。6ヵ月にわたって復元した刀身に柄や鞘まで組み合わせると3mを超え、長さでは日本一である。復元した大刀は現在、九州国立博物館に展示されている。片手では振ることさえできない3mの大刀を、1500年前の九州の人々はどうして作ったのだろうか。おそらく武器よりは祭りに使用されたのではないだろうか。
福島で過ごした6ヵ月間の刀身製作の経験は、以後、日本で留学を決める決定的なきっかけとなった。博士課程で進めた金工品も、鉄製工具を使用して製作するため、日本刀工房での経験は研究の重要な土台となった。
日本刀工房で学んだのは、単に刀の製作技術だけではない。一生何かにはまって生きること。朝から晩まで、ひたすら刀を作り続けることに集中する「刀鍛冶」の精神である。もしかしたら忙しい現代を生きていく私たちに必要なものかもしれない。発掘現場で見つかる遺物を作った昔の人々も、「刀鍛冶」のような心構えであったのであろう。
<金跳咏(キム・ドヨン)Kim_Do-young>
2017年度渥美奨学生。韓国出身。専攻は考古学。2013年度来日。2018年総合研究大学院大学文化科学研究科博士号取得(文学)。現在、国立歴史民俗博物館外来研究員。
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