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Lim Chuan-Tiong “Subtle Triangular Relationship”

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SGRAかわらばん727号(2018年6月7日)
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SGRAエッセイ#571

◆林泉忠「日台関係は日中関係に従属するのか?」
(原文は『明報』(2018年5月14日付)に掲載。平井新訳)

10項目の協力協定に調印するだけでなく、天皇陛下や安倍晋三首相との会見を特別に調整したのも、日本が中国ナンパー2の訪日を重視していることを示すためであり、安倍首相自ら、李克強総理の北海道訪問に全スケジュールを同行する力の入れようであった。前例のない空港での見送りまで行い、中国の歓心を得ようという露骨な「親中劇」を演じてみせ、その待遇は、まさに日本の最重要同盟国であるアメリカのトランプ大統領訪日に匹敵するレベルであった。

○台湾は「結局は日本に捨てられる」のか?

安倍首相が、なぜここまで心を砕いて、李克強に破格の高待遇を行ったのか、それはここ数年来の日中関係の発展と安倍政権自身の目論見と関係があるが、これについては別稿で論じる。興味深いのは、北京で交わされている台湾に関する世論の中に、「最も親日」の台湾は「結局は日本に捨てられる」とか、「一番損するのは台湾だ」云々といった種の論調が見受けられることだ。これが中国のネット住民達の自らの立場に基づいた自然な反応であるとすれば、それほど気にする事もないかもしれない。しかし、少なくない中国の対台湾政策の専門家がこうした世論に同調しており、これはおそらく北京の日台関係の本質と構造に対する正確な理解と判断に影響を与えることになるだろう。

ここで問題となるのは、日中関係と日台関係の間は、いったいどのような関係にあるのかということである。北京における政権のブレーンや専門家の基本的な認識は、「日台関係は日中関係に従属している」というものである。この見方は相当程度、「台湾は中国の一部であり、中国の一部としての台湾と日本の関係は、日中関係と同等な関係であり得ない」という思考に基づいている。ここでしばらくポリティカルコレクトネスから離れ、客観的に考えれば、こうした認識は必ずしも正しいとは言えないだろう。なぜなら、台湾の対外関係は完全に北京の対外関係に制約されているわけではないからである。

たとえ台湾の外交空間が頻繁に北京の圧力を受けるとしても、いかなる理由であれ、台湾が一定程度の活動空間を維持しているというのは事実である。輝かしいとは言えない18の「外交関係国」及び、中国大陸をはるかに凌ぐ139カ国以上のビザ免除待遇以外に、さらに重要なのは、たとえ国交がなくてもアメリカ及び日本と緊密な関係を維持し続けているということである。アメリカを例にとれば、「台湾関係法」がまったく動揺することなく40年近く継続されているだけでなく、最近では、さらに台湾との関係を強化する「国防授権法案」と「台湾旅行法」が登場した。これは、台湾の対外関係が完全に北京の制約を受けているわけではないことの証である。日台関係もまた同様で、双方の関係は日本が1972年に北京を選択したために台北との断交とあいなったが、それでも日台間で現在までに調印した協定は61項目に上る。

李克強の今回の訪日日程の成功は、日中関係が、経済貿易関係を含め、尖閣諸島(中国名:釣魚島)をめぐる衝突により最悪の状態となった2012年より前の水準にまで完全に回復したことを象徴する出来事である。このような日中関係の全面回復が、日台関係の発展にとってプラスとなるか否かは、検討に値する問題である。

○日台関係の「黄金期」はすでに過ぎ去った?

両岸(中台)関係と日台関係の関係について、日本の学者の間で多く見られる一つの認識とは、「両岸関係が良ければ、それは日台関係にとっても良いことだ」というものである。この認識における基本ロジックは、両岸関係が良好な際、北京側は台湾による対米及び対日関係の強化の動きを「大目に見る」というものだ。馬英九は、自らの政権8年の間に日本と28項目の協定に調印した。その中には影響の大きな「日台漁業協定」や「日台租税協定」なども含まれ、こうした認識の由来を窺い知ることができよう。

こうした考えについて、筆者はその一定程度の有効性は否定しない。一方、中国の台頭以後、両岸関係のパワーの差は日増しに大きなものとなっており、アメリカ側においても日本側においても、台湾海峡のパワーバランスが崩れることへの戦略上の焦りが存在している。蔡英文総統の就任以後、北京側は蔡英文政権が「92年コンセンサスを承認しない」ことへの不満から、軍事的にも外交的にも、さらには民間交流においても台湾に圧力をかけ続けている。このことによって、アメリカが台湾との関係の強化策を次々と打ち出す情勢を生み出し、「国防授権法案」及び「台湾旅行法」以外にも、台湾側に「国産の潜水艦」を建造するために必要な技術協力等の提供を許可している。

言うまでもない事だが、日台関係に影響を与える要素と米台関係に影響を与える要素は異なる。戦前の台湾植民地統治という「原罪」から、日本にはアメリカのような「台湾関係法」の成立を欠いており、また46年前の日華断交ならびに北京との「国交正常化」以後、台湾との関係の処理において、日本側は非常に慎ましく、北京との約束を遵守して台北との「民間交流」という枠組みを維持しており、台湾との政治的な関係の強化はたいへん厳しい道のりとなった。そしてさらにデリケートな安全保障上の日台協力となれば、最近までほとんど空白状態といわざるを得ないだろう。

しかし、中国の台頭に対する不信と台湾海峡におけるパワーバランスの崩壊に対する憂慮は、特に1960年代以来日本の歴代の政権の中で最も親台湾派の安倍首相就任以降、日本側は台湾との関係強化の機運に明確な転機が見られるようになったと言える。たとえ、日本にとって台湾側が完全に安心できる相手とは言えなかった馬英九政権期ですら、馬政権が完全に「中国へ傾倒」するのを防ぐために、双方の関係強化への尽力は忘れられることはなかった。

そして2016年蔡英文政権が発足してからは、日台関係は数十年に一度の「黄金期」を迎えたといえる。日本は蔡英文政権時代に対し高い期待を抱いてきた。台湾側が日本食品輸入制限の解禁に関して取り付く島もない対応を見せている間であっても、日本は北京からの圧力を押しのけて「交流協会」を「日本台湾交流協会」へと改名し、また赤間二郎総務副大臣を台湾に派遣し、断交後初の副大臣級の日本官僚による訪台を行うなどしているのがその証左である。しかし、日中関係が昨年後半から明らかに穏やかな兆しを見せ始めた状況において、今後はこうした台湾との政治的関係強化の措置は停止されてしまうのだろうか。

○日台関係は日中関係に従属するのか?

日中関係は今般の李克強の訪日後に全面回復の機運を得ることとなった。特に、安倍首相は今年後半に中国訪問を期待しており、さらには来年6月に開かれるG20サミットに習近平国家主席を招待し、国賓としての習の来日を待望しているとされる。日本がこうした「中国を求める」機運の下で、台湾との政治関係のさらなる発展を模索し続けることはないだろうと予測するのは難しくない。

しかし、このことは双方の実質的関係に全く発展の余地がないことを意味しない。「敏感ではない」経済貿易関係や地方交流および文化交流をさらに継続して進めていく以外にも、「敏感」な問題である安全保障分野を切り拓いていく余地はあるだろう。日台関係は国交がなくとも、共に東シナ海の側に位置しており、「不測の事態を防ぐ」ために、双方の専門家は安全保障分野における対話の必要性を認めるだろう。ちょうど5月に成立した台湾国防部直轄の「国防安全研究院」が、日本防衛研究所などとの間に制度化した「日台安全保障対話メカニズム」を発足させることは想像に難くない。

東アジアの両大国である中国と日本の関係は、現在のところ全面的回復という歴史の転換点にあり、そのことは東アジア地域の平和と安定にプラスであることは疑いようもない。しかし、日中互いの国家戦略は決してそのことで変化するというわけではなく、習近平の「新時代」における中国の「グローバルガバナンス」思想を反映する「一帯一路」が依然として進展しつつあり、日本側の中国への牽制を主軸とした「インド太平洋戦略」も変わらずに続くだろう。民主主義を拒絶する中国の台頭に対する不信と、両岸統一が日米の国益にそぐわないというアジア太平洋戦略の方向に関する基本的な思考枠組みに基づけば、日中関係は確かに「小春日和」を迎えたと言えるものの、そのことによって日本が台湾との「民間交流という枠組み」の下での親密な友好関係の推進を変えたり疎かにしたりすることを意味しない。この点を理解すれば、日中関係と日台関係の間は単純な従属関係ではないことが理解できるだろう。

<林 泉忠(リン・センチュウ)John_Chuan-Tiong_Lim>
国際政治専攻。2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年より2年間ハーバード大学客員研究員、2010年夏台湾大学客員研究員。2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員、2014年より国立台湾大学兼任副教授。

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