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Yanming Li and June Park “SGRA Forum #58 Report”

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SGRAかわらばん706号(2018年1月11日)
新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
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◆李彦銘「『一帯一路』―中国の戦略の含意を探る:第58回SGRAフォーラム報告」
「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」と題する第58回SGRAフォーラムが2017年11月18日(土)午後、東京国際フォーラムガラス棟にて開催された。基調講演者(朱建栄/東洋学園大学)及び報告者(李彦銘/東京大学、朴栄濬/韓国国防大学校、朴准儀/ソウル大学アジア研究所、古賀慶/シンガポール南洋理工大学)、討論者(西村豪太/『週刊東洋経済』)の構成から見れば、日中韓の3カ国からそれぞれ2名と非常にバランスの取れるものになった。また、パネルにおけるパネリストは国際政治、国際政治経済を専門とする研究者が中心だが、全体司会/モデレーター(平川均/国士館大学)と討論者の設定により、経済学からの視点とジャーナリスト/実務レベルの視点も組み込まれたといえよう。
今回のフォーラム開催の直前にあった中国共産党の第19回党大会(10月18-24日)では、「一帯一路」は習近平総書記が繰り返し強調したキーワードの1つとなり、さらに共産党の党章(党の性格や目標、組織構成を規定する規約)の、党の求める対外政策の性質を説明する部分に書き込まれた。その結果、フォーラム開催は非常にタイムリーなものとなり、多くの方々の関心を得た。その後、年末に安倍首相が日本の対外政策を「一帯一路」と連携する意向があると明らかにし、2018年は日中の政治関係が漸く改善すると見込まれる。「一帯一路」をはじめとする日中の経済協力は今後、より一層注目されるだろう。
基調講演では、「一帯一路」構想の具体的内容、推進された背景、経緯とその主な手段、戦略的目的についての分析がまず紹介され、後半の報告は各国の反応を中心に展開された。発展途上国のインフラ整備需要にうまくマッチしていることから中央アジアを中心とするいくつかの地域では支持を得られやすい一方、米欧日、そしてロシアとインドにも地政学における警戒と懸念をもたらしている。それに対し中国政府も一定の対応策を示し、各国の開発戦略、構想との連携性を強調しつつ、「海」ではなく「陸」のほうを優先的に、そして経済を前面に推進して来ていると見られる。その点で日中協力の余地も大きいのではないかと論じられた。
個別報告セッションでは、まずはかつて日本が70年代から推進したプラント(インフラもプラントの一種)輸出戦略や、80年代後半からの対アジア直接投資、技術移転と対日貿易拡大が三位一体になった「ニューエイドプラン」が紹介され、中国の「一帯一路」との類似性及び、さらなる経済成長のための対外経済政策であることがその本質だと理解できると、李によって提起された。
朴(栄)報告は、国家の対外戦略と海軍力の立場からの検討であるが、「一帯一路」は地政学から見てもアメリカとの海での直接対決を避けるために中国が取った陸での戦略だととらえられると言う。
朴(准)報告は、中東地域を取り上げ、これらの地域における中国の政策、援助や港湾建設などが紹介された。しかし当地域では複雑な国内・国際政治(米ロの競争)が展開されているため、パワーの空白の中その経済利益を守るためにも、今後中国は自身の政治と軍事的プレゼンスを増大させざるを得ないだろうと言う。
最後は、ASEAN諸国のような大国ではないアクターの態度と立場、担いうる役割が古賀報告によって検討された。小国でありながらも、米中のような大国の間で、自らの利益を守るためにバランスをとる可能性があると論じられた。この点、韓国も似ているような戦略を取っていると朴(栄)からも主張された。
フリーディスカッションでは、フロアを含め様々な質問があったが、全体としてまとめると、やはり「一帯一路」に対する警戒や危惧というようなものはまだまだ強いと言える。これは今までの日本社会での論じ方と概ね一致するものだろう。パネルからは「一帯一路」は1990年代後半からすでに始まっていた中国企業による「走出去」の成果、その延長線上にあるという指摘や、今まで中国が2国間でやってきたものを束ねたものにすぎないという指摘があったものの、「一帯一路」というように世界地図で示されるようになると、地政学による心配が一層高くなるのは当然のことかもしれない。
一方、中国が2013年に「一帯一路」を正式に打ち出した後、その内実についてまだ内外に対し十分説明できていないことや、政策形成のプロセスがやはり不透明であると言わざるを得ない。ただし全貌が不透明の中でありながらも、「一帯一路」のサポート役であるAIIBの運営実態からは中国は開かれた姿勢を保っている現状も確認できると西村が指摘した。グローバルスタンダードが中国のリードで形成されることを危惧するのであれば、「一帯一路」を静観/敬遠するのではなく、日本がより積極的に参加し、自らのイニシアティブを発揮していくことも必要であろうという西村の論点はパネリストたちの共通する見方となった。またグローバル経済史や人類史の長いスパンから見る場合、世界の中心が移動することなど、多様な論点が提起され、地政学におけるパワーバランスのみではなく、「一帯一路」が持ちうる、より大きな意味にも気付く必要がある。
紙幅の関係で個々の論点について展開できないが、フォーラムを企画した当時の目的は概ね達成され、「一帯一路」に関する知識と考える場、多様な思考回路を少しばかり提供できたといえよう。フォーラム当日の具体的な報告は、2018年の秋までにSGRAレポートとして纏められる予定なので、関心がある方は是非ともご参照いただきたい。
今回のフォーラムを企画した当初は、確かに日本ではまだあまり「一帯一路」の話は表に出ていなかった。もちろん専門家や経済界等、特定のオーディエンスを対象とする勉強会や講演会などは開かれていたと思うが、今回のように一般向けで、そして政策当局に少し距離を置く学者の立場から議論したものは少なかった。
また、企画者としての感想となるが、「一帯一路」の政策形成プロセス、つまり具体的に誰がどのように案を練り上げ、そしてアクター間のどのような力関係を経て、このような政策結果ができてきたのかを明らかにしたい、というさらなる研究課題が与えられたような気がする。
最後は、今回の企画に賛同し、隅々までサポートしてくれたSGRA事務局と、報告を快諾してくださったパネリストの先生方にお礼を申し上げたい。当日足を運んで、たくさんの質問を熱心に寄せてくだったオーディエンスの皆様や、フォーラムの内容に個人的に関心を示してくれた方々にも深く感謝したい。
(文中は敬称を略した)
当日の写真は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/photo-gallery/2018/9958/
<李彦銘(り・えんみん)Yanming_Li>
北京大学国際関係学院学士、慶應義塾大学法学研究科修士・博士、現在:東京大学教養学部特任講師。専門分野は日中関係、政策形成過程、国際政治経済。主な著作に『日中関係と日本経済界――国交正常化から「政冷経熱」まで』(単著、勁草書房、2016年)、『中国対外行動の源泉』(共著、慶應義塾大学出版会、2017年)ほか。
◆朴准儀「一帯一路フォーラム開催まで」
シンガポール国立大学でポストドクター/博士後研究員2年目を過ごしていた2017年初めに、慶應大学の訪問研究員として派遣された私は、久しぶりに2011年度渥美奨学生(ラクーン)の同期であった李彦銘博士と東京で再開した。東アジアを中心とする国際政治経済を勉強し共通点が多い私たちは、話すことがたくさんあった。ある時、ランチをしながら話し続けるうちに、彼女が私に「もしも機会があれば、一緒にパネルを作ってみない?」と言い、私はもちろん「そうしましょう!」と答えた。
そして私はシンガポールに戻り、彼女は東京で研究活動を続けていたが、私が7月頃シンガポールから韓国に移る準備をするためソウルに一時帰国していた時に、偶然2018年8月にソウルで渥美財団が主催する予定のアジア未来会議(AFC)の準備会議に出席し、今西さん(渥美財団常務理事)から渥美財団が元奨学生を対象にパネル企画を募集していることを知らされた。それが切掛けとなり、ちょうどシンガポールでエネルギー市場の動きを研究し、中東での中国の戦略を見ていた私は、李さんに「一帯一路」政策の研究に興味があるかと聞いたところ、日本ではあまりに語られていないが、興味を持っているということだった。
渥美財団のパネル企画案募集は中国や日本で開催されるいくつかの日程が計画されていたので、私は、中国の関連の内容である一帯一路政策関連のパネルを日本で行うのはどうか、そしてそのプレフォーラムとしてSGRAフォーラムを考えるのはどうかと提案した。応募するためには渥美奨学生出身者が3人以上必要であったので、先輩の朴栄濬教授の参加の意思を確認してから、私と李さんが他に関心を持ってくれると思うパネリストに接触した。
このパネルは日中韓出身の学者に揃って欲しかったため、パネルの構成は、発表者数を、少なくとも国籍に限っては、均等にしたかった(日本2人、中国2人、韓国2人)。参加する学者たちは各自の個人研究で国際安全保障、国際経済、地政学、外交政策、エネルギーなどの場面で活発な活動をしている方々であり、北東アジアやアメリカ、そして東南アジアをめぐる両国関係や地域関係を専門にしている方が望ましい。その上、一帯一路のテーマの特性上、中国の国内政治と外交政策、米中競争とそれに反応する隣国の立場、そして中国の南シナ海(地政学的な拡張)や中東での進出(エネルギー貿易)等、北東アジア圏外の地域を含めることにし、北東アジアや太平洋での地政学に限らず、全世界がカバーできなくても主に一帯一路に現れた中国の世界戦略に近づいてそれを読み解く機会にしたかった。
最初はアメリカの先生を含めたほうがいいかと思ったが、そうするとアジアの国々からの立場がよく現れなくなるのではないかと思った。その結果、司会者をのぞいて日本を代表し古賀さんと西村さんが、韓国を代表し朴(栄)先生と私が、そして中国を代表し朱先生と李さんに決まった。司会者としては国士舘大学の平川先生にお世話になることになった。この構成であれば、アメリカの発表者がいなくても十分だと思った。
SGRAフォーラムでパネルを作る初めての経験であったが、私はこのテーマについてどうしても日本人の一般の方々にたくさん参加して欲しかった。一帯一路政策については中国では無論、韓国やアメリカ、特にワシントンでは頻繁に論争されているが、5月に中国でこのテーマで発表を行った時に、中国の学者たちから中国の拡張について否定的な反応を見かけ、日本の人々はどう考えているのかを一般の参加者に聞いてみたかったからだ。それで、観客を集めるため、ポスター作りを渥美財団に提案し、それをSNS(Eventbrite, Facebook)に乗せて幅広く広報した。SGRAフォーラムとしては初めての試みであったが、結果としては良い戦略だったと思う。そして次の機会には、画期的な案(例:マスコミの使用)でさらに一般の観客に近づきたい。それが政策の複雑さをもっと多くの人々に説明する学者やパブリックインテレクチュアルの義務だと思っている。
最後に、このフォーラムを実現するためにお世話になった渥美財団へもう一度感謝の気持ちを伝えたい。
<朴准儀(パク・ジュンイ)June_Park>
高麗大学政治学学士、高麗大学国際政治学大学院碩士、ボストン大学政治学大学院博士。
東京大学社会科学研究所訪問研究員、日本財務総合政策研究所訪問研究員、北京大学国際関係学大学院訪問研究生、シンガポール国立大学李光耀行政政策大学院博士後課程研究員等を経て、現在ソウル大学アジア研究所北東アジア選任研究員、Pacific_Forum_CSIS ジェームス・ケリーフェロー、アジアソサエティアジア21フェロー。専門分野は国際政治経済、貿易保護主義、エネルギー(アメリカ―東アジア、中東)。
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第11回SGRAチャイナ・フォーラム「東アジアからみた中国美術史学」へのお誘い


◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」
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