SGRAメールマガジン バックナンバー

Joseph OFOSU “Future Perspective of Iitatemura in Fukushima”

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SGRAかわらばん700号(2017年11月23日)
【1】エッセイ:ジョセフ・オフォス「飯舘村の展望」
【2】第11回SGRAチャイナ・フォーラムへのお誘い(最終案内)
「東アジアからみた中国美術史学」(11月25日、北京)
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【1】SGRAエッセイ#552
◆ジョセフ・アンペドゥ・オフォス「飯舘村の展望:第6回SGRAふくしまスタディツアーに参加して」
◇はじめに
原発の問題点、課題は無数にあり、複雑かつ微妙にからみあっています。政府、科学者、産業界、そして一般社会がオープンで誠実な、そして協調的なやりとりをしてはじめてバランスのとれた共通の理解が得られるのです。また、こうしたやりとりには偏見があってはならないし、これに参加する各組織、各人の納得が得られるような前向きなものでなければなりません。
渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)により企画され、NPO法人「ふくしま再生の会」の受入れにより行われたこのツアーは、私にとって目を開かせてくれる経験となりました。このエッセイで述べる私の意見は決して専門家の意見では無く、あくまでツアーに参加した私個人の素人の見方である点をお断りしておきます。
飯舘村は福島県相馬郡にあり、2011年3月11日の福島第一原発事故の影響を受けた村のひとつです。豊かな草木、農地に恵まれていましたが、原発事故により、全住民が6年間の避難生活を余儀なくされ、お年寄りの中には見捨てられたかのように亡くなられた方もいらっしゃいました。今年の4月、政府による避難指示が解除されて帰宅は許されましたが、多くの住民は未だに懐疑的で、放射能の生物学上の影響を懸念して、帰還を躊躇しているのが現状です。
◇精神的な衝撃
飯舘村の住民がこの不条理な事故により、どれほどの精神的な衝撃を受けたかを、外部の者が推し測ることはできません。人生の「終の棲家」と思って造った家を追われるように去らねばならず、避難している間も、家族とも別れ別れになりました。これらは一人一人に忘れることのできない心の傷を残したに違いありません。彼らに罪は無いが故にこれらの記憶は、彼らに、心の痛み、不安、怒り以外の何物も残すことはないでしょう。そして、この様な状況は、いくら経済的な救済、支援をして貰っても癒されるものではありません。こうした精神的な衝撃に対して慎重な対応をしなければ、その影響は次の世代に引き継がれ、後世に有害な影響を及ぼすことでしょう。
◇経済的な衝撃
飯舘村を回っていて、多くの田畑、小規模な工場が放置されているのを目にしました。稲作田が放射能汚染の為、表層土が剥がされ、もともと豊かであった農地が汚染土を詰め込んだ袋(フレコンパック)の置き場になっていました。こうした状況は、この地域の生活の糧や住民の福利にも影響し、想像以上に深刻な問題をもたらしています。避難制限は解除されましたが、多くの農家が作った野菜には、放射能汚染の作物という「とんでもない」レッテルが貼られてしまうのです。自分たちの作物を買ってくれる人がいるのか、市場があるのか、彼らも先行きを見通すことはできません。
また一方、消費者は福島地区からの作物を買う勇気があるのでしょうか?福島県からの産物は検査に合格していて安全であるという政府のお墨付きにもかかわらず、福島県以外の人達は福島産品を買おうとはしないのです。こうして住民たちは帰還したとしても、生活の糧を失う結果となります。
◇生物学上の衝撃
放射能による健康上のリスクは、避難民が飯舘村に戻るのを躊躇する理由のひとつでしょう。
飯舘訪問の3日間、我々は「ふくしま再生の会」から貸与された個人用の放射線計測装置を身に着けていました。帰還が許されない一部地域を除き、再び住むことが許された地域は、放射線レベルは極めて通常でした。しかしながら、飯舘村住民の多くは、帰ることを真剣に考えてはいるものの、低レベルの放射線被害を恐れ、「自分たちには分からない何かに自分たちの命をさらすリスク」をとる気にはならず、帰還をためらっているのです。
この様な状況にある村民に対し、科学的なデータによる証明だけで説得することは不可能でしょう。彼等の帰還を進めるために、将来の生活に展望を与えるにあたって、もっと幅の広いいろいろな方法、アプローチが必要となっています。
◇再活性化の活動
原発の悲劇が起きる前の、もとの飯舘村に戻そうとする政府機関やNPOの様々な努力がなされています。例えば飯舘村役場は新しい診療所や福祉施設などさまざまな施設の建設を進めています。現在、新しい学校を作っています。この学校は小、中学校で無償教育、無料バスがあります。「ふくしま再生の会」は、膨大な科学的なデータをもとにして、地域再生のパイロット事業や研究活動を通して、住民の帰還と新しい村づくりに向けて、必死の努力をしています。
今回のツアーでは、私たちは大根の種を植える作業のお手伝いをしました。これは収穫を目的とするのではなく、除染された畑に新しい土を入れ、できあがった大根の放射線量を計測する実験農場なのです。冬になったら、この大根が収穫されます。放射線の数値が計測され、私たちが植えた大根の安全が証明され、食卓に上ることを祈らずにはいられません。(この数値は「ふくしま再生の会」のHPに掲載されます)こうした科学的なデータをもとにした、新しい村づくりの活動に、住民たちは勇気付けられるに違いありません。
◇謝意
先ず今回の3日間のスタディツアーを企画してくださったSGRAと「ふくしま再生の会」の皆さん、ありがとうございました。また、ツアーの期間中、ずっとお付き合い頂いた飯舘村の皆さんにも感謝申し上げます。私にとって今回のツアーは、原発に関連した現実、科学技術の課題、或いは社会経済学的な問題に目を向けさせてもらう機会となりました。また、このツアーを通して原発に関連した複雑さ、更には私のような科学者を含めて、関連するすべての組織や個人が、社会の安全を保障する「仕組み」を真剣に考えることの必要性を再認識させられました。
(原文は英語、河村一雄訳)
<ジョセフ・アンペドゥ・オフォス Joseph_Ampadu_OFOSU>
ガーナ出身。東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー専攻小紫研究室博士課程。研究テーマは、未来の宇宙推進応用のためのレーザープラズマ物理とレーザー支持爆轟波。
※スタディツアーの報告は下記リンクよりご覧いただけます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/news/2017/9767/
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【2】第11回SGRAチャイナ・フォーラムへのお誘い(最終案内)
下記の通りSGRAチャイナ・フォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は直接会場へお越しください。
◆テーマ:「東アジアからみた中国美術史学」
日 時:2017年11月25日(土)午後2時~5時
会 場:北京師範大学後主楼419 ※会場が変更になりました
主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
共 催:北京師範大学外国語学院、清華東亜文化講座
助 成:国際交流基金北京日本文化センター、鹿島美術財団
※お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] 03-3943-7612)
◇フォーラムの趣旨
作品の持つ芸術性を編述し、それを取り巻く社会や歴史そして作品の「場」やコンテキストを明らかにすることによって作品の価値づけを行う美術史学は、近代的社会制度の中で歴史学と美学、文化財保存・保護に裏打ちされた学問体系として確立した。とりわけ中国美術史学の成立過程においては、前時代までに形成された古物の造形世界を、日本や欧米にて先立って成立した近代的「美術」観とその歴史叙述を継承しながらいかに近代的学問として体系化するか、そして大学と博物館という近代的制度のなかにいかに再編するかというジレンマに直面した。この歴史的転換と密接に連動しながら形成されたのが、中国美術研究をめぐる中国・日本・アメリカの「美術史家」たちと、それぞれの地域に形成された中国美術コレクションである。このような中国美術あるいは中国美術史が内包する時代と地域を越えた文化的多様性を検証することによって、大局的な東アジア広域文化史を理解する一助としたい。
◇プログラム
総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部)
【問題提起】林少陽(東京大学大学院総合文化研究科)
【発表1】塚本麿充(東京大学東洋文化研究所)
「近代中国学への架け橋―江戸時代の中国絵画コレクション―」
【発表2】呉孟晋(京都国立博物館)
「漢学と中国学のはざまで―長尾雨山と近代日本の中国書画コレクション―」
【円卓会議】
進行:王志松(北京師範大学)
討論:
趙京華(北京第二外国語学院文学院)
王中忱(清華大学中国文学科)
劉暁峰(清華大学歴史学科)
総括:董炳月(中国社会科学院文学研究所)
同時通訳(日本語⇔中国語):丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学)
※プログラムの詳細は、下記URLをご参照ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/9574/
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★☆★SGRAカレンダー
◇第58回SGRAフォーラム「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」
(11月18日、東京)<盛会裏に終了しました>

第58回SGRAフォーラム「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」へのお誘い


◇第11回SGRAチャイナ・フォーラム「東アジアからみた中国美術史学」
(11月25日、北京)<参加者募集中>

第11回SGRAチャイナ・フォーラム「東アジアからみた中国美術史学」へのお誘い


◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
<論文募集中(締切:2018年2月28日)>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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