SGRAメールマガジン バックナンバー

HONG Sungmin “Study in Japan and Identity of an International Student”

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SGRAかわらばん687号(2017年8月24日)
【1】エッセイ:洪性珉「日本留学と留学生のアイデンティティ」
【2】第4回日比持続可能共有型成長セミナーへのお誘い
「人や自然界を貧しくさせない進歩:地価税や経済地代の役割」
【3】第8回日台アジア未来フォーラム論文募集(再送)
「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」
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【1】SGRAエッセイ#545
◆洪性珉「日本留学と留学生のアイデンティティ」
人生には、予期せぬ経験をすることがある。私は、博士学位の取得を目指して日本に留学したが、留学生活で最初は予想していなかったことを経験した。それは、留学生としての自分のアイデンティティに関する問題である。この話は、留学生のアイデンティティに関する1つの事例として、本人の5年間に亘る日本留学の経験をまとめたものである。
まず、日本留学の環境について整理しておく。僕は、韓国から東洋史を研究するために日本の早稲田大学に留学し、5年余りの時間を過ごした。ところで、専門分野が「東洋史」であるためか、留学期間中、僕が所属している早稲田大学東洋史学専攻に韓国人留学生は僕以外に1人もいなかった。留学生は、中国から来た留学生が4、5人だけであった。一言でいえば、日本の人間関係の中で「韓国」という要素は皆無といっても過言ではなかった。
周りに「韓国」的要素がない環境は、ある意味で緊張感が生まれた。つまり、最初に周りの人たちと良い関係を築けたら留学生活は何の問題もなく過ごせるが、もし築けなかったら人間関係それ自体で苦労してしまう、という心配が出てくる。従って、最初の2年間は日本人学生たちに馴染むように、外国人の訛りのない日本語を話そうとし、日本人学生たちの流行を理解するために努力した。
もちろん、中国人留学生たちとも仲良くしようとした。彼らは自分と国籍が異なったものの、日本人学生と違って「留学生」という共通点を持っているので、すぐ仲良くなった。しかし、彼らは中国人の留学生同士で人間関係を築くことができるので、自分の立場とはやや異なっていると考えられる。
それで日本人学生とも、中国人留学生とも仲良くなり、日本での人間関係は一応安定した。その結果、日本人の学生と交流しながら次第にその社会に馴染み、彼らの冗談や駄洒落、言い回しも問題なく理解出来る水準に達した。そのうち、いつの間にか言葉使いが変わっていた。その変化とは、独り言をしゃべっても日本語が出たり、夢を見ても日本語で見たり、何かを考える時も韓国語より日本語が先に出てくることである。これは、留学3年目の時であった。逆に言えば日本にたった3年しかいなかったのに、そんなに変わっている自分に気づいて驚いた。
一方、同じ時期に日本人学生からはこのような話も聞いた。「韓国語をしゃべっている洪さんには、ちょっと違和感を感じます」とか、「洪さんは留学生だけど、日本人の間では日本人の枠として見ているんだよ」とか。この話をしてくれた日本人学生たちは、決して悪い意味で言ったのではない。むしろ、それは僕が日本人学生のコミュニティの一員となった証しだろう。その話を聞いて安心する一方で、1つ疑問が生じた。「おや、僕は韓国人なのにそれを全く意識していないね。何でだろう。」
この2つの経験が少し時差を置いて起きたら、自分の反応もそれほど激しくはなかっただろう。内面で「韓国」という要素が次第に薄れていくように感じた前者の経験と、周りの日本人が自分の韓国的要素を全く感じ取ってくれない後者の経験が同時に起きたことにより、本人のアイデンティティをものすごく揺さぶる結果をもたらした。私の心の中には「僕は韓国人なのに、何で日本語が先に出てくるの?」とか、「僕は韓国人なのに、何で周りの人々はそれを感じ取ってくれないの?」などのような疑問が浮かびあがった。これは、心の中でまるで絶叫のように響いたのである。
その問題は、学問の領域にも現れる。私が所属していたゼミでは、日本人、中国人、アメリカ人研究者の学説を引用しながら議論が行われる。その中で、本人はハングルが読めて韓国における東洋史研究を把握している点で、他の日本人学生や中国人留学生とは異なる。しかし、議論の際に私が韓国人の東洋史研究者の学説を引用しながら参加すると、ゼミの雰囲気は微妙に変わる。ゼミ生たちはそれに関して興味のない顔をしたり、「何でその学説を紹介するの?」という反応を見せる。甚だしくは「韓国で東洋史の研究はありますか」という発言をする学生もいる。これに対して、私は「(お前、)ハングルを読めないのは分かるけど、和文で紹介されている韓国東洋史の研究史整理の論文を一行も読んでいないのに、よくそんなこと言うな」と思った。
しかし、この経験は「私は韓国人であるのに、何で中国史を研究しなければならないのか」という問いかけをする契機となった。そして、真剣にその答えを求めることになった。それは、自分の学問分野においても予想していなかったできごとである。その解決方法として、韓国の伝統時代、主に朝鮮王朝時代における中国史研究を整理した。その結果、当時の朝鮮王朝では「外国史」としての中国史研究が高いレベルにまで達していたことが分かった。この作業によって、当時の研究で、ある傾向が読み取れたので、1本の論文として纏めることができた。
その後、自分の立場を「朝鮮王朝の中国史研究を継承するために東洋史を研究し、それを発展的に継承するために日本などの東洋史の研究成果を受け入れる」と再定義することができた。恐らく今後は、博士後期課程の在学中に経験したことを繰り返して経験しても、自分のアイデンティティが揺れることはないと固く信じている。その一方で、今までとは違う全く新しい経験をすると、再び自分のアイデンティティは変化すると予想される。それがどう変わるかは分からないが、楽しみにしている。
<洪性珉(ホン・ソンミン)HONG_Sungmin>
渥美国際交流財団2016年度奨学生。韓国の東国大学校大学院碩士課程で歴史(東洋史)を専攻。2012年度より早稲田大学文学研究科博士後期課程に進学。専門は、10~12世紀東アジア国際関係史、史学史。現在、早稲田大学文学学術院総合人文科学研究センターの助手。
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【2】第24回日比持続可能共有型成長セミナーへのお誘い
下記の通り第24回日比持続可能共有型成長セミナーをオーストラリアのシドニー市で開催します。参加ご希望の方は、SGRAフィリピンに事前に申し込んでください。
第24回日比持続可能な共有型成長セミナー
◆「人や自然界を貧しくさせない進歩:地価税や経済地代の役割」
“Progress_Without_Propety_of_People_and_Nature:_The_Role_of_Land_Value_Taxation_and_Economic_Rents”
日時:2017年9月23日(月)9:00~17:00
会場:Sydney_Mechanics_School_of_Arts(オーストラリア、シドニー市)
言語:英語
共催:Association_for_Good_Government(良き政府協会:AGG)
申込み・問合せ:SGRAフィリピン([email protected]
◇セミナーの趣旨
SGRAフィリピンが開催する24回目の持続可能な共有型成長セミナー。
持続可能な共有型成長セミナーは目標が効率・公平・環境ということで、KKKセミナーとも呼ばれている。現在まで、年2回というペースで開催されているが、フィリピン大学ロスバニョス校と協力し、より頻繁に開催される予定である。今回の24回目のセミナーは初めてフィリピンの外で行われることになる。オーストラリアに本部を置く、良き政府協会研究員のジョッフレ・バルセ氏(Joffre_Balce)との議論により、第20回持続可能な共有型成長セミナーで発表された「地価税」がKKKの発表候補者リストに入れられた。バルセ氏は良き政府協会の総書記であり、この協会は19世紀米国の政治経済学者のヘンリー・ジョージ(Henry_George)の政治経済政策を提唱している。そのなかの重要な議論の一つが地価税である。今回のセミナーの開催地及び日時は、特別の意味がある。9月は1901年に設立された良き政府協会の設立月にあたり、開催地は地価税が課税される国である。
◇プログラム
08:00~09:00 登録
09:00~09:15 開会挨拶
09:15~10:00 発表1「ヘンリー・ジョージの社会哲学」リチャード・ガイルス(Richard_Giles)AGG会長
10:00~10:30 発表2「地価税:理論・証拠・実施に関する調査」マックス・マキト(Max_Maquito)フィリピン大学ロスバニョス校・SGRA
10:30~11:00 休憩
11:00~11:30 発表3「地価税の便益:マニラ都内の複数市の事例」グレイス・サプアイ(Grace_Sapuay)SGRAフィリピン運営委員
11:30~12:00 発表4「反貧困が少数派であり続ける理由:フィリピンに対するヘンリー・ジョージ流の改革の関連性」ジョッフレ・バルセ(Joffre_Balce)良き政府協会総書記
12:00~13:00 昼食
13:00~13:30 発表5「土地への平等アクセスやグローバルな移住の問題」フランクリン・オべング・オドーム(Franklin_Obeng-Odoom)シドニー技術大学
13:30~14:00 発表6「先住民の土地所有権に対するジョージ主義の含意の検討」ヨギスワラム・スブラマニアン(Yogeeswaram_Subramanian)マレーシア大学
14:00~14:30 発表7「貧困や金の番人」ロン・ジョンソン(Ron_Johnson)「The_Good_Government」編集長
14:30~15:00 休憩
15:00~17:00 SGRAのビジョン、近況報告+円卓会議(モデレーター:マックス・マキト)
セミナー終了後 シドニー市内見学
◇英文プログラム
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/08/Nippi-Seminar24F.pdf
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【3】第8回日台アジア未来フォーラム論文募集(再送)
SGRAでは、来年5月26日に台北市の東呉大学で共催するシンポジウムで発表する論文を下記の通り募集します。皆さん奮って応募ください。また興味のある方にお知らせください。
第8回日台アジア未来フォーラム並びに台湾東呉大学マンガ・アニメ文化国際シンポジウム
◆「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」
―コミュニケーションツールとして共有・共感する映像文化論から学際的なメディアコンテンツ学の構築に向けて―
主 催:日本公益財団法人渥美国際交流財団、台湾東呉大学日本語学科、東呉大学図書館
共 催:東呉大学英文学科、東呉大学教養教育センター
会 場:東呉大学外双渓キャンパス第一教学研究棟普仁堂(大講堂)
開催日:2018年5月26日(土)
◇シンポジウムの趣旨:
第8回日台アジア未来フォーラムでは、世界な規模に広がったマンガ・アニメ文化の魅力に着目し、「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性―コミュニケーションツールとして共有・共感する映像文化論から学際的なメディアコンテンツ学の構築に向けて―」について議論します。各セッションで取り上げるテーマとして、マンガの収集・保存と利用、マンガ・アニメの翻訳と異文化コミュニケーション、マンガ・リテラシー形成の理論と実践、マンガ・アニメと物語論、視覚芸術論、映像論、マンガ・アニメのメディアミックス化・マルチユース化、マンガ・アニメの文化的経済学、マンガ・アニメ文化と社会学などが予定されています。
本シンポジウムでは、グローバル化したマンガ・アニメ研究のダイナミズムを、研究者・参加者たちの多様な立場と学際的なアプローチによって読み解いた上、新たな可能性を見いだすことを目指している。これにより、日台関係・日台交流、また東アジア地域内の相互交流のさらなる深まりへの理解促進に貢献するものと考えられます。
◇研究発表関連分野・ジャンル・課題
A)マンガの収集・保存と利用(公共・大学図書館におけるマンガの所蔵状況、学術的マンガ研究、マンガと読書、マンガ読書の効果等)
B)マンガ・アニメの翻訳と異文化コミュニケーション、プロ翻訳者の養成と外国語教育、翻訳技術の開発等
C)マンガ(テキストとしてのマンガの本文)を読み解く技法の理論と実践、マンガ読解力/マンガ・リテラシーの形成等
D)マンガ・アニメと物語論(ナラトロジー、記号論、言語学、ディスクール、表現論、文化的要素、視点の分析等)
E)マンガ・アニメと視覚文化論、映像論、視覚芸術論、映像美学、表象等
F)マンガ・アニメのメディアミックス化・マルチユース化、マルチメディア展開(創意工夫、映像デザイン、クリエイティブスキル、映像制作実務と関連技術の応用等)
G)マンガ・アニメと文化的経済学(マンガ・アニメフェアビジネス、マンガ・アニメの市場経済と商品化、コンテンツ産業の現状と課題、今後の発展の方向性等)
H)マンガ・アニメ文化と社会学(政治、歴史、人類学、ジェンダ学、心理学、科学、哲学、生態学、表象等)
◇発表形式:
・使用言語:日本語、中国語、英語、その他
・発表時間:発表20分・質疑応答10分
◇申込方法:
2017年9月4日(月)までに「研究論文発表申込書」(発表要旨【中国語+外国語(日or英)】要提出)をメール添付で送って下さい。
◇詳細は下記リンクをご参照ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2017/9108/
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★☆★SGRAカレンダー
◇第6回SGRAふくしまスタディツアーへのお誘い(9月15~17日福島飯舘村)
「『帰還』-新しい村づくりが始まる」<参加者募集中>

第6回ふくしまスタディツアー「『帰還』-新しい村づくりが始まる」へのお誘い


◇第24回日比持続可能共有型成長セミナ<参加者募集中>(9月23日、シドニー市)
「人や自然界を貧しくさせない進歩:地価税や経済地代の役割」<参加者募集中>
◇第8回日台アジア未来フォーラム(2018年5月26日、台北市)
「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」
<論文募集中(締め切りは9月4日)>

第8回日台アジア未来フォーラム「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」論文募集


◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
<論文募集中(締め切り:奨学金応募者は8月31日、その他は2018年2月28日)>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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