SGRAメールマガジン バックナンバー

Yeh Wenchang “Is SONTAKU originally Japanese?”

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SGRAかわらばん678号(2017年6月22日)

【1】エッセイ:葉文昌「忖度は日本の特性か」

【2】レポート紹介:「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性(1)」
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【1】SGRAエッセイ#539

◆葉文昌「忖度は日本の特性か」

ここのところいろいろな事件によって、忖度という言葉が注目されている。既に今年の流行語大賞の有力候補であろう。そして、ニュースで、日本外国特派員協会において「忖度」の英訳に困って「Sontaku」というローマ字が使われたと報道されたように、忖度とは日本の特性と認識されている節がある。

しかし、そもそも「忖度」が初めて出現したのは少なくとも2700年前の詩経である。意味も「他人の心を読む」とある。中国から日本へ伝わったものであるから、日本人にはあって中国人にはないとは考えにくい。私の経験からしても忖度は中国や台湾でも日本以上にまかり通っている手法であり、私が台湾で初めて社会経験をした義務兵役でも、忖度することはとても大事だと先輩から教わり、実際に軍隊の中で忖度できる人は常にいい思いをしていたものだ。正門の衛兵が、夜中に直属ではない見知らぬ上官が外で飲んだくれて身分証明も見せずに入って来た時、あるいは上官が夜中に外部の女性を連れて入って来た時、銃を向けて「これ以上入ると銃を撃つぞ!」と言った日には、反省として一週間牢屋にぶち込まれ、先輩や直属上官からは「察しが利かないやつだ」、と笑われるに違いない。

ここまで察しや忖度などの力学で組織が動くようになると組織は危うくなるものだ。法治ではなくて人治になるからである。私は除隊後4か月で東京の大学へ入学した時の、人間関係の忖度や察しから解放された自由でクリアな気分を覚えている。このように、忖度の文化は、当時は日本よりも人治国家であった台湾の方が強かったというのが私の認識である。もっともこれは私の主観なので客観的にどこまで正しいかは断定できないが、少なくとも忖度は日本特有のものではないのである。

「日本人は以心伝心ができる」「日本人は味覚が鋭い」「日本人は繊細」とか「日本人はXX」という言い方をよく聞くが、私はあまり好きではない。裏を返せば「外国人は他人の心情領域にまで踏み込んでデリカシーがない」「外国人は味覚が鈍感」「外国人は粗削り」ということになり、差別意識を埋め込んでしまうことになるからだ。島根の中海では赤貝(実際はサルボウ貝)の養殖が盛んで、煮物が地元の味として食べられている。私は「蛤の美味しさは理解できるが、赤貝の美味しさがまだ理解できていない。」と人に言ったことがある。どういうところに旨味を感じるのかを教えてもらえば私もそこに注意してみたいと思ったのだが、「日本人の繊細な舌にしか理解できない」で片付けられるのが大抵のオチなのである。

なんとも歯がゆい。味覚については、どこの国でも自国メディアは国内のめでたいことしか報道しないから、自国民は秀でていると勘違いしがちなだけである。人口が日本の1/5の台湾が豊かになってからは、パン職人は欧米のコンクールで優勝しているし、地元のウィスキーが日本のウィスキー会社以上の賞を取ったこともある。従って台湾人の味覚が劣っているとは言えない。これからは豊かになった中国人が賞を取る時代が来るだろう。味覚は人間である以上人種によってそう変わるものではない。

「日本人は何事もオブラートに包む、空気を読む、相手の『察し』に期待して断片的にしか言葉にしない」と聞く。しかし京都人の「お茶漬けでもいかがどす?」に対して日本人にもいろいろな考えがあるように、私は日本人すべてが一様な考えとは思わない。私は20年近く前に「中国人はXX」と蔑んだことがあるが、私が未熟だったために偏見に満ちていたと今は気付いて反省している。人種や国籍による差異は、経済状況などのバイアスを受けるものの根本的な部分は小さく、それよりも内部の多様性による差異の方が大きいものである。何もかも人種の違いに解釈を見出すことは偏見を助長しかねないので不安を感じる。

<葉 文昌(よう・ぶんしょう) ☆ Yeh Wenchang>
SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。

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【2】SGRAレポート紹介

SGRAレポート第79号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。冊子本は6月中旬にSGRA賛助会員と特別会員の皆様にお送りいたしましたが、その他でも送付ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。

第52回SGRAフォーラム講演録
◆「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」
2017年6月9日刊行

本文:http://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report79light.pdf
表紙:http://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report79_Cover.pdf

<フォーラムの趣旨>

渥美国際交流財団は、過去2回のアジア未来会議で円卓会議を開催し、日本研究のあり方について検討してきた。2015年7月に東京で開催されたフォーラム「日本研究の新しいパラタイムを求めて」においては、公共財としての日本研究に焦点を当てた。東アジアにおける長期的な平和と安定を保障するものは、信頼に基づく協力関係である。1930年代の日中全面戦争までのプロセスが物語るように、経済・貿易関係だけでは、平和は確立できない。そして、終戦70年を迎えたいま、この地域の信頼醸成に不可欠な「和解」は未だ実現されていないという現実に、我々は直面しているのである。

戦後の東アジアでは、部分的に和解は達成された。しかし、このような和解は政府同士の「戦略的」判断と民間の「友好的」運動に支えられてきたものであり、持続できるものではなかった。現在、この地域で求められているものは、共有する「知」を基礎にした和解である。

日本研究をこのような「公共知」に育成することの意味は無視できない。近代日本はアジア諸国と複雑な関係を歩んできた。日本が経験した成功と失敗をアジア全体が共有する財産に昇華させることは、歴史を乗り越えることでもある。このような認識に基づいて、渥美国際交流財団は連続2年間「日本研究」をテーマに議論を深めてきた。

次のフェーズの課題は、「中国研究」や「韓国研究」も「日本研究」と同様に東アジアの「公共知」に仕上げる可能性を探ることである。しかし、三カ国が知の共有空間を構築するために、まず歴史認識の違いを意識しつつ、重なる部分を探し、造り出さねばならない。いままで三カ国の研究者の間ではさまざまな対話が行われてきたが、各国の歴史認識を左右する「国史研究者」同士の対話は、まだ深められていない。「国史たち」を対話させることで、共有する「日本研究」「中国研究」および「韓国研究」への道が開かれる。そして、このような研究環境の整備と研究成果の発信は、東アジアにおける和解の実現に大きく貢献するに違いない。

<もくじ>

◇第一部
【問題提起】「なぜ『国史たちの対話』が必要なのか-『国史』と『歴史』の間-」
劉傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
【報告1】「韓国の国史(研究/教科書)において語られる東アジア」
趙珖(ソウル特別市歴史編纂委員会委員長/高麗大学校名誉教授)
【報告2】「中国の国史(研究/教科書)において語られる東アジア
-13世紀以降東アジアにおける三つの歴史事件を例に」
葛兆光(復旦大学文史研究院教授)
【報告3】「日本の国史(研究/教科書)におけて語られる東アジア」
三谷博(跡見学園女子大学教授)

◇第二部:討論
【討論1】「国民国家と近代東アジア」
八百啓介(北九州市立大学教授)
【討論2】「歴史認識と個別実証の関係-『蕃国接詔図」を例に-」
橋本雄(北海道大学)
【討論3】「中国の教科書に書かれた日本-教育の『革命史観』から『文明史観』への転換-」
松田麻美子 (早稲田大学)
【討論4】「東アジアの歴史を正しく認識するために」
徐静波(復旦大学教授)
【討論4】「『国史たちの対話』の進展のための提言」
鄭淳一(高麗大学助教授)
【討論4】「国史における用語統一と目標設定」
金キョンテ(高麗大学校人文力量強化事業団研究教授)

【円卓会議・ディスカッション】
モデレーター:南基正(ソウル大学日本研究所副教授)、討論者:上記発表者ほか

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★☆★SGRAカレンダー
◇第10回SGRAカフェへのお誘い(7月29日東京)<参加者募集中>
「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」

第10回SGRAカフェ「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?  『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」へのお誘い


◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中>
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を受け付けています。
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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