SGRAメールマガジン バックナンバー
Juliana Buritica Alzate “I Came to Japan as a Girl, then Became a Mother.”
2017年3月16日 15:50:07
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SGRAかわらばん664号(2017年3月16日)
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SGRAエッセイ#525(『私の日本留学』シリーズ#7)
◆フリアナ・ブリティカ・アルサテ「娘として来て、母になった」
このエッセイでは、「私の日本」について考えてみたい。広い課題だが、「私の日本」というのは、日本における私の個人的な経験になるだろう。日本で生活することによって、どのように自分自身の人生が変わってきたかを考えてみたい。特に、「娘として来て、母になった」という個人的な道のりについて書いてみよう。そのことによって、私の視点から「日本」を見られるのではないかと思う。
日本に来てからそろそろ7年になる。日本に来る前の私はコロンビアのボゴタで両親と一緒に住んでいた。ロス・アンデス大学で言語哲学および社会文化研究を主専攻、哲学を副専攻として学士号を取得した。大学生のときには、6つのレベルの日本語クラスを終了し、文化、歴史、現代思想、文学、映画、アジアのルーツや地域研究など、開講されている日本に関するすべてのクラスを受講した。また、大学の文化祭の企画に積極的に関わり、生け花や折り紙のワークショップや日本からコロンビアへの移民に関する会議なども企画した。時には、家に持ち帰ってお寿司を作ったり、書道をしたり、日本映画を見たりもした。私はとても楽しかったのだが、母から見るとそれはおかしな行為だったようだ。「大学も時代が変わってきたよね」、「これは何のため?どういう仕事ができる?」「卒業したらどうするの?」とよく言われた。
日本に来る前から日本のイメージを持っていた。日本のことや日本語を知っていると思ってはいたが、さらに自分の知識を広め深めようと日本の大学院に行くことを決めた。夢が今や現実のものとなり興奮していた私だったが、成田空港に到着した時は、電車のチケットを買おうとしてもどうしたらいいか分からなかった。それで最初の会話は英語になってしまった。意外ではないかもしれないが、私に日本語で話してくれる人は少なかった。7年経った今でも、まだ最初から日本語で話してくれる人と会うのは珍しい。外国人が日本語を話せるということを期待している人は少ないようだ。日本に来てから「外国人の大学院生」としてさらに日本語の勉強を進め、日本文学を研究しながら夢中に過ごしたが、それによってどのように人生が変わるかを想像するのは難しかった。
私は22歳から東京で生活しているので、日本で「大人」になっている。母が初めて来日した時、私が2年間で様々なことを乗り越え、十分に成長したという印象を持ったそうだ。2回目は私が日本に来てから5年目、結婚式のために来た。その時は「もう大人になった」と言われた。私は自立し、新しい家族を作った。3回目は孫の世話をするために来た。私は「娘として来て、母になった」のだ。これは大きな人生の変化だ。
そして、母からは「あなたはだんだん日本人になっている」と何回も言われた。どういう意味かを考えてみたい。それは日本文化、価値観や態度を自分の性格の一部として受け入れるようになってきたということだと思う。例えば、約束の時間に間に合うように頑張ることで「日本人みたい」と評価してくれる。確かに私は時間を守る人になったが、私にとってそれは「日本人になっている」より、「日本で(大)人になっている」の方が、自分の人生にとってより大きな意味があると思う。言い換えれば、人生を変えるような出来事が日本で起こったのだ。そして自分の職業や人間関係、考え方は日本が背景になっているのだと思う。
日本で初めて自立した生活をし、修士号を取得し、結婚し、母になった。そして、今は博士号の取得に向けて取組んでいる。東京では保育園が不足しているという社会問題があるのに、ラッキーなことに子どもを保育園に入れて、これからは子育てをしながら研究者として活動しようとしている。本当にありがたいことである。
博士論文では日本の現代女性作家の作品における女性の身体表象について研究している。自尊心や自己受容に基づき、自分の体とポジティブな関係を築く手段として文学を用いたい。私が選んだのは川上未映子の『乳と卵』、桐野夏生の『東京島』、伊藤比呂美の「カノ子殺し」である。この研究が私の生活にも繋がっている。とりわけ、この研究は間違いなく、私が母親になるという個人的な道のりを助け、導いてくれていると感じる。これらの作家たちは妊娠、出産、授乳、子育てをする体について新しい見方を与えてくれた。まず、人生の変化は身体の変化であるということを理解できた。私が研究している日本文学に出てくる子育ては、皆あいまいで、矛盾し、もろく、完璧な、あるいは理想の母親は存在しないということを示している。
最後に、私にとって日本は、つまり「私の日本」は、母親になるために素晴らしい国だと思う。日本で「娘として来て、母になった」という個人的な道のりによって成長できる機会が与えられていることに日々感謝している。
<フリアナ・ブリティカ・アルサテ☆Juliana_Buritica_Alzate>
渥美国際交流財団2015年度奨学生。2010年4月に来日。国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科比較文化専攻で修士号を取得。現在、同研究科博士後期課程在学中。専門は比較文学およびジェンダー研究。
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