SGRAメールマガジン バックナンバー
Xie Zhihai “Weight of Selection”
2016年8月11日 14:42:39
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SGRAかわらばん634号(2016年8月11日)
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SGRAエッセイ#501
◆謝志海「選択の重み」
実を言うと、私はつい最近まで物事を選択するという事について深く考えることは無かった。何か選択しなければならない時、単純にベストと思える物を選んできた。何も考えずにその時の気分で選んだことも多々ある。しかしながら、今の私があるのは、そうした選択の結果であろう。そう思うと、選択することの重みをひしひしと感じる。
なぜこうも「選択」という事について考えさせられたのか?答えは簡単、先日の英国の国民投票によるEU離脱の是非を問う政治イベントだ。離脱51.9%残留48.1%の僅差で、離脱派が勝利を収めた。この国民投票については前々から知ってはいたが、実際の投票日が来るのは思いの外、早かった。投票日の前日になっても、正直なところ「イギリスは本当にこの大事な事項を国民投票で決めるのか」と実感がわかなかった。まあ私に投票権があるわけでもない。結局のところは「残留」なのだろうなとも思っていた。ところが、蓋を開けて見れば「離脱」だった。
以来、イギリスとEUだけでなく世界がざわついている。この結果に一番動揺しているのは投票した張本人たち、イギリス国民に違いない。離脱に投票した人からも、国民投票をやり直したいという意見までも多数あったそうだ。離脱か残留か、黒か白かのシンプルな問い。投票前の離脱を掲げる街のムードに押され離脱に投票してしまい、後悔している人も多かったとか。重大なことに対してこそ往々にして冷静さを失う。なんだか私も経験がありそうだ。
ではどうすれば選択上手になれるのか?コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授が教える「選択の科学」に答えがあるかもしれない。日本でもNHKで「コロンビア白熱教室」と題し、教授の講義が放送されたので、記憶に新しい方もいらっしゃるだろう。この講義では直接的に「賢い選択をするには」ということは問題提起されてはいないが、こういった、「選択すること」について集中して考えることこそが、冷静に選択し、選んだものに後悔しないことにつながると思う。本来は選択できるということはいいことなのだ。選択の余地なく物事に従うよりずっといい。
しかし、選択肢の多い民主主義社会ではこの有り難みが薄れてきているのだろうか、などと今回の英国国民投票を見ていると感じてしまう。アイエンガー教授は講義の中で「選択日記」をつけることを薦めていた。確かに、今日私は◯◯個の中からAを選んだなどと小さなことまで記載してみれば、自分を客観的に見ることができるかもしれない。もしイギリス国民が、投票日よりも前からこの選択日記をつけていたら、結果は変わっていたかもしれないなどと想像してしまう。
日本では、先日参議院選挙があり、初めて18歳に選挙権が与えられた。18-19歳の投票率は45.45%で全体の投票率の54.70%よりも下回る結果となった。投票という初めての経験をした45.45%に該当する人たちの選択を支持したい。わざわざ投票所まで足を運んだのだから。そしてこの数字が今後も伸び続けることに期待する。
さて、今年はもう一つ、有権者でない人までもが注目する選挙が残っている。アメリカ大統領選だ。大統領となる人によって世界の歴史が変わりかねないことなので、関心の高さもひとしおだ。もっとも、投票する権利を持っているアメリカ国民は、自分が選ぶ1票で世界の歴史が変わってしまうと考えるよりは、自分の国、暮らしにふさわしいと思う人に投票するのだろうが。しかし、大統領を国民投票で選ぶといった4年に一度の政治イベントに悔いのない1票を投じるためには、やはり日々の選択を意識することだろう。
私には選挙に投票に行くという機会が無いが、今回のエッセイは「選択」することについて、「選挙の投票」を例に挙げて書いてみた。選挙権のある人たちは投票したら終わりではなく、投票後も引き続き日々の自分が選んだ事を意識して暮らして欲しい。私も実は、世界を揺るがした英国国民投票の結果を機に、何かを選ぶときに、選ぶ事をより一層意識するようになった。選んだ後も、それが正しかったのか振り返る事にしている。そして、後悔なく少しでも精進できる日々を送れるように心がけている。
<謝志海(しゃ・しかい)Xie Zhihai>
共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。
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