SGRAメールマガジン バックナンバー

Park Wonhwa “Several Questions”

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SGRAかわらばん628号(2016年7月14日)

【1】エッセイ:朴源花「いくつかの問い」

【2】新刊紹介:南基正「基地国家の誕生−日本が戦った朝鮮戦争」(韓国語)

【3】第51回SGRAフォーラムへのお誘い(7月16日東京)(最終案内)
 「『今、再び平和について』:平和のための東アジア知識人連帯を考える」
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【1】SGRAエッセイ#497(『私の日本留学』シリーズ#1)

◆朴源花「いくつかの問い」
         
両親の事情により幼い頃から韓国と日本を行き来する機会があった。年数自体はあまり長くなかったのだが、当時両国の関係は領土問題や教科書問題をめぐって劣悪な状況にあったため、子どもなりに思うところがたくさんあった。

当時私は小学生だったのだが、いかに両国のマスメディアの情報が現実をゆがめているかをうすうすと感じていた。将来専門的な知識をもって、韓国と日本の友好関係に貢献したいという願いを漠然と抱くことになった。

それから十数年、大学院に進みアカデミズムの世界を少し体験する立場になってから痛感したのは、研究者であれ完璧な代案を提示することは到底できないということであった。時には研究者が現実をゆがめることに加担したり、事実としては正しいことを言っているのだけれども、その主張が不本意なかたちで利用されてしまったりする。

私の研究テーマである「マイノリティの社会統合」の問題においても、そのような危険性に気付かされることがたびたびある。

まずは研究内容以前の問題として、現場の状況に対する研究者の配慮が十分でなく、フィールドを研究の「手段」とみなしてしまうケースである。実際私がフィールドワークを行なっている際、今まで出会ってきた研究者たちがいかに「自己中心的であったか」を訴える現場の人々は少なくなかった。インタビューを行なった後、結局その回答がどう扱われたのか事後報告もないということは良く聞く話である。もちろん、ほとんどの研究者は「現場を知りたい」「問題を改善したい」という問題意識から現場に出ているに違いないのだが、時間の制約だったり、研究者自身の性格だったりが原因で、現場との意思疎通が必ずしもうまくいかないことがある。

次に、研究者としては全くそのようなつもりがないにも関わらず、自らの研究がかえって新たな問題を発生させるということがある。

マイノリティ研究において良くありがちな失敗は、研究者のマイノリティ集団に対するグルーピングがかえって彼らを周縁化してしまうケースである。例えば、あるマイノリティ集団に対して、彼らが「いかに長年の差別と困窮に喘ぎ、社会から排除されてきたか」を叙述したとする。彼らがいかにかわいそうで支援されるべき存在かという側面が強調されすぎると、そのマイノリティ集団がもつ主体性、能動性が看過され、「マジョリティ側が与えるべき存在」という従属的な構図が出来上がりやすい。

だからといって、マイノリティ集団の主体性にのみ焦点を当てるとどうなるか。「現実の困難はあまり彼らにとっても障害となり得ず、彼らは彼らなりの方法で幸せに暮らしている」と肯定的な側面に注目した場合、それは今までマイノリティ集団に行なわれてきた社会的抑圧や差別構造を赦免する結果を招きかねない。

つまり問われるはバランスであり、研究者自身の姿勢なのであろう。ここでの「バランス」とは、全ての事象を相対的に扱うという意味ではなく、結局自分がこの研究を通して、「誰」に「何」を伝えたいのかという「価値判断」と研究における「学術性」の均衡を指す。

研究におけるこれらの難しさに加え、日本という地域性の中で研究をどう位置づけていくかということも、私にとっての重要な問いである。 グローバル化が進み、多くの共通する社会問題を抱える韓国と日本はこれからより多くの場面で協力を必要としていくだろう。両国が諸問題を共に解決していく中で、より相互の「対話」の機会が開けていくことを信じている。

幼い頃に経験した日本、そして留学のため再び訪れた日本において、これからも日々の問いを大事にしていきたい。時間をかけてゆっくり向き合いながら私なりの応答を試みていければと思っている。

<朴源花(パク・ウォンファ)Park_ Wonhwa>
2015年度渥美奨学生。韓国出身。2010年早稲田大学卒業。2012年東京大学総合文化研究科にて修士号取得。現在同大学院博士課程に在籍中。関心テーマは韓国の「多文化主義」および日本の「多文化共生」をめぐる言説、マイノリティに対する排外主義、メディアなど。

【2】新刊紹介

SGRA「東アジアの安全保障と世界平和」研究チームチーフの南基正さんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。
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◆南基正「基地国家の誕生−日本が戦った朝鮮戦争」(韓国語)

日本の「戦後レジーム」をいかに定義するか。この質問は「普通の国」を越えて、憲法改正を通じた「戦後レジームからの脱却」が主張される現在の日本を理解するために核心的な問いである。日本は朝鮮戦争の後方基地となり、朝鮮戦争の後は、基地国家として東アジアの休戦体制に組み込まれた。「戦後レジーム」はこの現実と深く関わっている。朝鮮戦争の時期の日本を研究するこの本はこの問いに対する探求である。

著者:南基正
発行:ソウル大学出版文化院
ISBN:978-89-521-1766-3
2016年5月30日刊
定価37,000ウォン

【3】第51回SGRAフォーラムへのお誘い(最終案内)

下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・連絡先・懇親会への出欠をSGRA事務局宛ご連絡ください。当日参加も受け付けますが、準備の都合上、なるべく事前にお申込みいただきますようお願いします。

テーマ:「『今、再び平和について』:平和のための東アジア知識人連帯を考える」
日時:2016年7月16日(土)午後1時30分~5時30分、その後懇親会
会場:東京国際フォーラムガラス棟G701号室
http://www.t-i-forum.co.jp/general/access/
参加費:フォーラムは無料、懇親会は正会員1000円、メール会員・一般2000円
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected] 03-3943-7612)

◇フォーラムの趣旨
今回のフォーラムは、混迷を深める東アジアの国際情勢に対して、国際政治や安全保障論の方向からの現状分析やシナリオの提示ではなく、平和研究または平和論という方向からの問題提起として位置付け、進めていきたい。そのためには、東アジア各国における「平和論」の現状を確認し、各国で「何よりも平和を優先する考え方」が各個撃破されている現状を検証すると共に、こうした現状に風穴をあけるためにはいかなる方法があるのか、そのために学問をする者として、知識人として何ができるのかを議論する場としたい。そして、この地域の研究者たちが知識エンジニアになりつつある現状、あるいは、安全保障の専門家たちに平和が呪縛されている現実に対して、平和を語る知識人としての研究者の役割、東アジアの知識人の連帯の意義を考えたい。

◇プログラム
<問題提起1>「平和問題談話会と東アジア:日本の経験は東アジアの公共財となり得るか」
  南基正(ソウル大学日本研究所副教授)
<問題提起2>「東アジアにおけるパワーシフトと知識人の役割」
  木宮正史(東京大学大学院総合文化研究科教授)
<報告1>「韓国平和論議の展開と課題:民族分断と東アジア対立を越えて」
  朴栄濬(韓国国防大学校安全保障大学院教授)
<報告2>「中国の知識人の平和認識」
  宋均営(中国国際問題研究院アジア太平洋研究所副所長)
<報告3>「台湾社会における『平和論』の特徴と中台関係」
  林泉忠(台湾中央研究院近代史研究所副研究員)
<報告4>「日本の知識人と平和の問題」
  都築勉(信州大学経済学部教授)
<パネルディスカッション>

プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/05/SGRA_Forum_51_Programrevised.pdf

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★☆★SGRAカレンダー
◇第51回SGRAフォーラム(2016年7月16日東京)<参加者募集中>
「『今、再び平和について』平和のための東アジア知識人連帯を考える」
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2016/6704/
◇第3回アジア未来会議「環境と共生」
(2016年9月29日~10月3日、北九州市)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/
<発表論文の募集は締め切りました。オブザーバー参加登録受け付け中>
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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