SGRAメールマガジン バックナンバー

Bai Zhili “Japan Studies in East Asia as Method”

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SGRAかわらばん588号(2015年10月1日)

(1)エッセイ:白智立「方法としての東アジアの日本研究」

(2)図書紹介:「東アジアにおける近代知の空間の形成」
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(1)SGRAエッセイ#469

◆白智立「方法としての東アジアの日本研究」
 
去る7月18日、東アジアの日本研究の第一線で活躍する研究者20名が一堂に会して、SGRAフォーラム「日本研究の新しいパラダイムを求めて」が開催された。このフォーラムにお招きいただき、多くの研究者との議論と交流の機会を与えていただいた渥美国際交流財団、早稲田大学東アジア国際関係研究所及び早稲田大学の皆さまに心からお礼を申し上げたい。

このフォーラムでの焦点の一つとして、「方法としての日本研究」が議論された。この「方法としての日本研究」、ことさらに「方法としての『東アジアの』日本研究」について、私の日頃の考えを、ここにエッセイとしてまとめて、このフォーラムの報告に換えさせていただきたい。

「日本研究とは何か?」。日本研究を志す研究者、とりわけ中国や韓国といった東アジアの研究者にとっては、答えることが難しい問いかけである。

私だけでなく、多くの東アジアの日本研究者は、特別な想いやきっかけによって日本研究を志している。この特別な想いやきっかけがあるが故に、単純な学術研究から離れて、日本をとおして自己を見つめ、あるいは自己を再確認、再認識するという内面的、精神的な活動に向かわざるを得ないのである。自国、自民族の歴史や発展、あるいは個人の人生経験などの「自」の要素と重ね合わせ、否応無く自国の歴史・発展過程と向かい合わざるを得ない。

つまり、東アジアの研究者にとって「日本研究」は、あたかも自己や自国の在りようを深層まで映し出す「合わせ鏡」のような、自己や自国との内的な対話の一つの方法=「方法としての日本研究」となるのである。

このような考え方は、言うまでもなく東アジアの近隣という地理的な限定、そして近代以来の歴史の複雑な展開を土台にして生まれたものである。

具体的には、日本は明治時代以降、他の東アジアに先駆けて近代化を達成し、戦争の時期を経て、戦後の平和的発展期から今日に至って、欧米諸国に並ぶ経済・社会の発展を遂げた。

この明治以降の日本の近代化の過程は、今日でもなお、身近な東アジアとの相互関係の上に成り立っている。その意味で、東アジアの日本研究は、日本研究であると同時に、東アジア研究であり東アジア諸国の「自国研究」であり、東アジアの日本研究者は無意識のうちに「方法としての日本研究」を繰り広げているのである。

「方法としての日本研究」は純粋な日本研究ではない、との危惧や批判は当然存在する。しかしながら、一人の研究者、一人の人間として日本という研究対象に向かい合い、自他混合と紙一重となるような思索の緊張を保ち続ける中で、自己の精神を磨き、自己の精神を再形成して行く過程を無価値として見過ごすことはできない。こうした思索の緊張関係と自己省察は、学術的な日本研究以上に、予期せぬ結果が得られると考えられるのである。

方法としての東アジアの日本研究の、自己の精神形成という側面を強調する時、研究者は必然的に、過去の被害者歴史と対面せざるを得ない。すなわち、東アジアの最大の課題である「歴史の和解」そのものに直面せざるを得ないのである。

和解は、謝罪による加害者側の自らの心の救済であると同時に、被害者側の心の救済とならなければならない。このリアルな課題に直面し、その解決を模索する時、方法としての東アジアの日本研究の知的蓄積と研究者個人個人の内面的省察が大きな糧となり手がかりになるのではないだろうか。

東アジアの日本研究者は、自国との相互関係性を視野に入れて思索するため、東アジアの日本研究は東アジア研究にシフトすることになる。これは言うまでもなく、東アジア全体を包み込む視点であり、その思索は、前述の歴史の和解の先の、東アジアの知の共同体、ひいては東アジア共同体へと飛躍して行く。

方法としての東アジアの日本研究は、日本の西欧近代化の所産である。依然近代化の過程にある中国にとっては、今後の自国の近代化の展開を探求する上で、いち早く近代化を達成した日本との対話を重ねて行くことが不可欠である。その意味で、「方法としての日本研究」は未だに現実味を失ってはおらず、今後の東アジア、アジア、世界を考える上で、一層その重要性を増していると言えるであろう。

さらに「資本主義の終焉」が語られる今日、すでに近代化の諸過程を歩み終え、大きな転換点にある日本には、ポスト近代の、新しい文明の創造に向けて邁進することが期待されているからである。

日本研究ないし東アジアの日本研究は、これからも重要性を失うことはないであろう。

しかし、東アジアの日本研究に緊張感を持たせ続けるためには、「方法としての日本研究」をさらに一歩進めた「方法としての東アジア研究」にいかにアプローチするか、が一つのポイントとなる。 

「方法としての日本研究」を進化させた「方法としての東アジア研究」を価値あるものとして認めるならば、そして東アジアの知の共同体を指向するのであれば、これまでの無意識的な方法から意識的な方法へと昇華し、さらに精緻化し、体系化し、共有する努力がこれからの東アジアの日本研究者に求められるであろう。

<白智立(はくちりつ)Bai_Zhili>
北京大学政府管理学院副教授・北京大学日本研究センター副院長。1997年法政大学博士課程修了。政治学博士。

(2)寄贈本紹介

SGRA会員の孫建軍さんより、共著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。

◆孫江、劉建輝_編「東アジアにおける近代知の空間形成」

ドイツの概念史、スキナーなどの政治思想史研究の成果を踏まえたうえで、東アジア的概念史研究、および東アジアにおける近代知のシステムの編成過程について討議を重ね、その成果の一部が本論集に収録された諸論文に反映されている。西洋・東洋、日本・中国を軸に「知の伝播」を考察、「民主」と「共和」の弁証関係、新語に対する中国の啓蒙思想家・康有為の反応、『万国公法』、中国文明の「西来説」、『共産党宣言』の翻訳、『致富新書』、清末期中国の歴史教科書編纂、日本と中国近代の知的システムの問いなおし、西周と厳復の「学知」体系の比較、清朝中期に起きた儒学の変遷について取り上げる。

出版社:東方書店
出版年:2014年03月
コード:00775_448p  
ISBN/ISSN 9784497214058

◇目次

第Ⅰ部_知の編成
東アジア近代の知的システムを問いなおす[鈴木貞美]
西周と厳復――その学問観・道徳観をめぐって[高柳信夫]
乾隆・嘉慶期の学術と近代的専門学科の萌芽[張寿安]
清末西学書の編纂にみえる西洋知識の受容[章清]

第Ⅱ部_越境する知
近代知の濫觴――生成の場としての広州十三行[劉建輝]
近代中国における日本情報受容の一側面[潘光哲]
「民主」と「共和」――近代中国でデモクラシーはどのように受容されたのか[川尻文彦]
新語の政治文化史――康有為と日本の新語の関係[黄興涛]

第Ⅲ部 再生産
普遍性を立法する――十九世紀における国際法の流通[リディア・リウ]
三つの『致富新書』とその周辺――S・R・ブラウンが明六社での講演の経緯も探って[孫建軍]
黄帝はバビロンより来たり――ラクーペリ「中国文明西来説」および東アジアへの伝播[孫江]
『共産党宣言』の翻訳の問題――版本の変遷からみた訳語の先鋭化[陳力衛]
清末における国民形成のゆくえ――中国歴史教科書のいくつかの語を素材として[田中比呂志]

https://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/detail?id=4497214058&bookType=jp

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★☆★SGRAカレンダー
◇第4回SGRAスタディツアーin福島
「飯館村:帰還に向けて」(2015年10月2日~4日福島)
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/4363/
◇第8回SGRAカフェ<参加者募集中>
「女子大は、要る?~『女』、『男』と大学について考えよう~」
(2015年10月24日東京)
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/4990/
◇第50回SGRAフォーラム<参加者募集中>
「青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて」
(2015年11月14日北九州市)
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/4961/
◇第9回SGRAチャイナフォーラム<ご予定ください>
「日中200年―文化史からの再検討」
(2015年11月20日フフホト、22日北京)
◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄)
「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/
投稿は締め切りました。

◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中>
(2016年9月29日~10月3日、北九州市)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/
一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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