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[SGRA_Kawaraban] Che Kyounghun “Paralyzed in Sleep by the Ghost Next to
2015年6月25日 18:13:43
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SGRAかわらばん574号(2015年6月25日)
【1】エッセイ: 蔡 炅勳「隣の幽霊の金縛り」
【2】第7回SGRAカフェへのお誘い(7月11日東京)(再送)
「中国台頭時代の台湾・香港の若者のアイデンティティ」
【3】第49回SGRAフォーラムへのお誘い(7月18日東京)(再送)
「日本研究の新しいパラダイムを求めて」
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【1】SGRAエッセイ#463
■ 蔡 炅勳「隣の幽霊の金縛り」
日本のホラー映画が世界的に有名であることに異論のある人はあまりいないだろう。
最近では少し停滞しているが、一時期『リング』や『呪怨』のような日本のホラー映
画が外国で注目を集め、ついにハリウッド映画でリメイクされることにもなった。
『リング』の場合は、韓国でもリメイクされ、『リング』に出た幽霊の貞子は、長い
間人々の話題となっていた。ホラー映画は、他ジャンルの映画に比べて好き嫌いが
はっきりと分かれ、観客層が限られている。そのため、映画ランキングの第1位を占
めるのは容易ではない。正確な記憶ではないが、『リング』や『呪怨』も 映画ラン
キング1位を占めたことはなかったと思う。にもかかわらず、それらの映画をはじ
め、日本のホラー映画が注目を浴びたのには何か特別な理由があるのだろう。
その理由の一つとして、私は日本映画に出てくる幽霊のそれぞれの存在理由が、主人
公に劣らず詳しく描かれ、物語がより豊かになっているからだと言いたい。幽霊の存
在感を浮き彫りにするこのような傾向は、他者を眺める日本人の視線に関係があると
思う。字数が限られおり、また映画の批評でもないため、複雑な話は省略したいが、
重要なことは、幽霊や怪物がこの社会の他者を形象化した存在であり、日本のホラー
映画の幽霊は他者としての強力な存在根拠を持ち、主人公に決して避けられない恐怖
を与えるのだ。
映画のみならず、アニメーション、漫画、小説、ビデオゲームなど、日本の大衆文化
の中には幽霊や妖怪や怪物のような異質の存在がしばしば登場する。これらは通常、
恐ろしくてグロテスクだが、時には『隣のトトロ』のように親しみやすく、『ポケッ
トモンスター』のように可愛く、そして『うる星やつら』のように人間と大きく変わ
らない存在としても出てくる。もしかすると、日本人の中に、主流の特定宗教がな
く、唯一神の信仰が定着していないこととも関係があるのかもしれない。また、八百
万の神を祀っているという話のように、あまりにも多くの異質の存在が到る所にいる
からかもしれない。私はこのような日本文化の特徴の中に、現代人に求められる人間
的な価値や美徳の大きな可能性があると思う。
前述したように、幽霊、妖怪、怪物のような異質のものは、その社会の他者の形状を
通じて生まれた、つまり他者化された存在である。すべての他者がそのようなもので
はないのだが、ほとんどの他者は、個人にとっても社会においても脅威の存在とみな
される。そのため、他者は追放されるか封印されるべき存在であり、社会追放と封印
の過程を経て、全体性の中に整然と統合される。中世の魔女狩りが共同体の構成員の
同質性を回復し、共同体の存立のためになされる他者化の代表的な例であろう。我ら
人間は、このような他者の犠牲のおかげで自分の世界を維持することができたのだ。
そして、魔女狩りは現在も続いている。
しかし、現代社会は他者に関する新たな視点と理解を求めている。特に、様々な人々
が国境を越えて自由に移動し、コミュニケーションをとっている現代社会で、他者と
のコミュニケーションはますます重要な問題となっている。2年前のOECDの調査報告
書でも、移住の問題は、宗教、民族、人種などが幅広く関連しているため、現代社会
の中で最も重要な問題の一つだと指摘されている。激しい宗教紛争、民族問題、人種
差別、領土紛争などが起きている今日、自分に代表される同一者と他者との葛藤は、
もはや従来の認識論的体系では解決不可能の状態にある。これまでの同一者中心の欧
米のロゴス的認識体系では、他者とのコミュニケーションに限界があることを知り、
他者に関する新たな模索を試み、他者を他者本来の位置に戻そうとしている。
他者も皆それぞれの歴史を持ち、自分なりの物語を持つ。それを私たちが判断し、評
価を下すことはできない。そもそもそのような権利さえない。他者は他者として、幽
霊は幽霊として、妖怪は妖怪として存在しなければならない。また何よりも、私たち
自身も幽霊の姿をしている他者であることを覚えておかなければならない。このよう
なことから、私は他者との共存可能性の糸口が日本の文化の中にあると思うのだ。ハ
リウッド映画の優しいモンスターは常に人間の味方で人間のために戦い、ある意味で
は、神のような特別な存在である。一方、日本の怪物は日常の中で生きながら人々と
付き合い、時には葛藤したり、喧嘩したりして共存する存在として登場する。もちろ
ん、最終的には物語の主人公の世界観や社会の一般常識によって異質性が評価され、
統合されてしまう限界はあるが、怪物を怪物として、幽霊を幽霊として認識し、受け
入れようとする試みが見られるのが日本の大衆文化の特徴だと思われる。
八百万の神を祀っていることは、一方で八百万以上の犠牲になった他者(即ち幽霊や
妖怪や怪物のような異質のもの)が存在していると考えることもできるかもしれな
い。その分、他者を徹底的に排除してきたとも言えるが、同時に幽霊や怪物は、すで
に消えた他者を記憶して哀悼する方法でもある。実際に私たちの社会は他者の犠牲に
よって存立しているが、すでに忘れ去られて幽霊や怪物にもならなかった無数の犠牲
者がいたことも忘れてはいけない。他者を少しでも多く、より長い間覚えて悼もうと
するために、八百万にも達する神を祀っているのかもしれない。このように考えて、
私は日本文化に他者とのコミュニケーションの取り方の可能性を見るのである。
しかしながら、現代の日本社会は、本来日本文化の中に存在しているはずの「異質な
ものをそのまま受け入れる」力が失われてしまっているのではないだろうか。現代の
日本社会は、他者に関する想像力が非常に低いようにみえる。この問題は、自分自身
も鬼の姿をしている他者でもあるということを認めようとしていないためではないだ
ろうか。「おもてなし」に代表される他人への配慮は、むしろ他者に向かって自分の
ことを隠して他者の視線から避ける行為のように見える。他人のことを先に考え自分
のことを譲るのも、他者に対する配慮ではなく、他者との衝突を避ける卑怯な行為の
ようにも見える。日本人は他者を認めようと努力はしているが、自分自身が異質の存
在として他者の位置に置かれることは恐れているようだ。しかし、自分もまた他者と
して、他者の生を規定し、規定されるのは、あまりにも当然のことで、避けることは
絶対に不可能なのである。
ということで、他者の怖い目つきに堪えなければいけない。恐怖そのものであるけれ
ども、私たちは他者という異質の存在に直面しなければならない。これがエマニュエ
ル・レヴィナスの話した他者に向かう無限の責任であり、他者に対する倫理ではない
だろうか。『リング』の貞子がテレビの画面を突き抜けて私たちの前に顕現すること
をちゃんと見つめ、『ステキな金縛り』の武士の幽霊と一緒に過去の真実を裁判所で
証言しなければならない。他者との出会いで葛藤は避けられないが、重要なことは、
葛藤と向き合うことによって他者に一歩近づくことができるということであり、それ
はまた、他者の金縛りになった我らを自ら解放させることなのである。
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<蔡炅勳(チェ・キョンフン)Che Kyounghun>
韓国外国語大学校卒業、東国大学校大学院文学修士号取得。映画評論家として活動。
2010年来日。現在、東京芸術大学大学院映像研究科博士後期課程映像メディア学博士
号候補者。実験映画監督として作品活動。研究テーマは、他者性を基にして記憶と空
間の問題を扱い、在日韓国・朝鮮人の映画的な表象と映画の中の風景との関係を研究
している。論文のタイトルは、『風景として現われた在日朝鮮人−映画的な記憶と在
日朝鮮人の表象』。
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【2】第7回SGRAカフェへのお誘い(再送)
SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まり
いただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回は、
「SGRAメンバーと話して世界をもっと知ろう」という主旨で、台湾から来日する林泉
忠さんのお話を伺います。準備の都合がありますので、参加ご希望の方は、事前に、
SGRA事務局へお名前、ご所属、連絡用メールアドレスをご連絡ください。
■ 林 泉忠「中国台頭時代の台湾・香港の若者のアイデンティティ」
〜『ひまわり』と『あまがさ』の現場から〜
日時:2015年7月11日(土)14時〜17時
会場:寺島文庫Cafe「みねるばの森」
http://terashima-bunko.com/bunko-cafe/access.html
会費:無料
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局 [email protected]
講師からのメッセージ:
2001年、私は、近現代における「中心⇔辺境」関係の変遷に着目し、共に「帰属変
更」という特殊な経験をもつ台湾、香港、沖縄において出現したアイデンティティの
ダイナミズムに、「辺境東アジア」という概念を提出して説明した。興味深いこと
に、この3つの「辺境」地域はいずれも2014年において「中心」に対して再び激しい
反発とアイデンティティの躍動を見せている。今回のSGRAカフェでは、「中国の台
頭」という新しい時代を迎えるなか、なぜ台湾と香港では「ひまわり」と「あまが
さ」という若者中心の市民運動がそれぞれ起きたのか、変化する台湾と香港の若者の
アイデンティティと彼らの新しい中国観についてお話しします。
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<林 泉忠 John Chuan-Tiong LIM>
台湾中央研究院近代史研究所副研究員、国際政治学専攻。2002年東京大学より博士号
(法学)を取得、琉球大学法文学部准教授、またハーバード大学フェアバンク・セン
ター客員研究員などを歴任。2012年より現職。著作に『「辺境東アジア」のアイデン
ティティ・ポリティクス:沖縄・台湾・香港』(単著、明石書店、2005年)。
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【3】第49回SGRAフォーラムへのお誘い(再送)
下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご
所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。SGRAフォーラムはどなたにも参加
していただけますので、ご所属のメーリングリスト等で宣伝をお願いいたします。
テーマ:「日本研究の新しいパラダイムを求めて」
日時:2015年7月18日(土)午前9時30分〜午後5時
会場:早稲田大学大隈会館 (N棟2階 201、202号室)
http://www.waseda.jp/somu-d2/kaigishitsu/#link7
参加費:無料
使用言語:日本語
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局 [email protected]
◇フォーラムの趣旨
渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)は、2014年8月にインドネシア・バ
リ島で開催した第2回アジア未来会議において、円卓会議「これからの日本研究:学
術共同体の夢に向かって」を開催した。この円卓会議に参加したアジア各国の日本研
究者、特にこれまで「日本研究」の中心的役割を担ってきた東アジアの研究者から
「日本研究」の衰退と研究環境の悪化を危惧する報告が相次いだ。
こうした状況の外的要因として、アジア・世界における日本の国際プレゼンスの低下
と、近隣諸国との政治外交関係の悪化が指摘されている。一方では東アジアの日本研
究が日本語研究からスタートし、日本語や日本文学・歴史の研究が「日本研究」の主
流となってきたことにより、現代の要請に見合った学際的・統合的な「日本研究」の
基盤が創成されていないこと、また各国で日本研究に関する学会が乱立し、国内のみ
ならず国際的な連携を図りづらいこと、などが内的要因として指摘されている。
今回のフォーラムでは、下記の4つのテーマを柱とした議論を行い、東アジアの「日
本研究」の現状を検討するとともに「日本研究の新しいパラダイム」を切り開く契機
としたい。
1.東アジアの「日本研究」の現状と課題、問題点などの考察
2.アジアで共有できる「公共知」としての「日本研究」の位置づけ及び「アジア研
究」の枠組みの中での再構築
3.「アジアの公共知としての日本研究」を創成するための基盤づくりと知の共有の
ための基盤づくり、国際研究ネットワーク/情報インフラの整備等の構想
4.日本の研究者、学識者との連携と日本の関係諸機関の協力と支援の重要性
詳細は下記リンクをご覧ください。
http://goo.gl/5xYAie
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● SGRAカレンダー
○第4回SGRAワークショップin蓼科
(2015年7月4日〜5日)<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3137/
○第7回SGRAカフェ
「中国台頭時代の台湾・香港の若者のアイデンティティ」
(2015年7月11日東京)<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3240/
○第49回SGRAフォーラム
「日本研究の新しいパラダイムを求めて」
(2015年7月18日東京)<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3144/
★☆★第3回アジア未来会議
(2016年9月29日〜10月3日、北九州市)<論文(要旨)募集中>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/
奨学金・優秀論文賞の対象となる論文(要旨)の投稿締め切りは2015年8月31日で
す。
一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来に
ついて語る<場>を提供します。
●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員
のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読
いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。
●自動登録および配信解除は下記リンクから行えます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/mailing_form/
● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。
● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務
局より著者へ転送します。
● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。
● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ
けます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11
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