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[SGRA_Kawaraban] Yeh Wenchang “National Flag”; Sun Jianjun “AFC#2 Round Table Discussion Report”

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SGRAかわらばん539号(2014年10月15日)

【1】エッセイ:葉 文昌「国旗」

【2】活動報告:孫 建軍「第2回アジア未来会議円卓会議報告」
     『これからの日本研究:学術共同体の夢に向かって』
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【1】SGRAエッセイ#426

■ 葉 文昌「国旗」

今年のお正月に台湾へ帰国した時のことである。台湾の元旦では早朝に総統府前で政
府主催の国旗掲揚大会があり、愛国的な人達が国内外から集まって、国歌を歌ったり
して中華民国の新年を祝う。なかには中華民国の国旗をモチーフにした、鮮やかな
藍、赤、白からなるマフラーなどの装着品を身に着けていたりする。

台湾ではこういうことが愛国的とみなされる。すでに国外へ移住している人達でも、
この日に戻ってきて国旗を振って「愛台湾」とでも口にすれば、台湾の人々はこの人
達を愛国者と認定する。または外国人がその場で国旗を振れば、写真がクローズアッ
プされて翌日のニュースには「愛台湾的外国人」として報道されるであろう。

こういう光景を見ると、私は口先だけ「I love you」の軽い人間を思い浮かべてしま
う。或は一昔前のドラマの中の「同情するなら金をくれ」の名セリフ。口先なら誰で
もできる。でも国旗を全身に纏っていようが、感無量で涙を流して国歌を歌おうが、
それは国を利する行為とは関係ないはずだ。

社会での役割を全うしていれば、それで社会に貢献していることになる。海外へ移住
している人は台湾では働いていないのだから、彼らがお祭の時に戻ってきて愛国と主
張しても私は共感できない。台湾で真面目に働いていれば、それは台湾の社会に尽く
していることになる。今や台湾の社会に貢献している人は、国籍が台湾とは限らな
い。外国人配偶者や外国人労働者も多くいる。外国人でも社会に求められて真面目に
その役割を全うしていれば、それ以上の愛国はないと私は思う。

世の中では、象徴的で表面的なことばかりが礼讃されているようだと私は悲しい気持
ちになる。象徴的で表面的なものが嫌いな私は台湾では国歌を歌いたくないし、国旗
への敬礼もしたくない。もちろん、私に国や社会に対する愛がないわけではない。し
かし、世の中でうわべで判断されている価値観から見ると、私は非国民のレッテルを
貼られてしまうだろう。

私のこのような考えは日本で培った部分が大きい。日本が近隣アジア諸国と比べて国
家の象徴に対して狂信的ではない所に日本社会の先進性を感じていた。しかし日本も
ここ数年で少し変化しているようである。今でも近隣諸国と比較して先進的であるこ
とは確かではあるが、冒頭で示した私が嫌う価値観に近づく方向へ進むのは、やはり
後退と言える。

私も今や日本社会の一員となった。自分が所属する社会に貢献し、その発展を願って
いるのは言うまでもない。この先、グローバル化に伴って国際的な人々の往来が盛ん
になるのは確実である。日本に居住する外国人も、外国に居住する日本人も増えてい
くはずだ。このような状況の中では、国籍や人種はあまり意味を持たなくなりつつあ
ると私は思う。どの国であっても、うわべの行動や、国籍や人種だけでその国や社会
への忠誠を判断されることがないことを願っている。

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう)Yeh Wenchang>
SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾
へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教
授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。
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【2】活動報告

■ 孫 建軍「第2回アジア未来会議円卓会議『これからの日本研究:学術共同体の夢
に向かって』実施報告書 」

本円卓会議は、漢字圏を中心としたアジア各地の日本研究機関に所属する研究者が集
まり、グローバル時代における日本研究のあり方について議論する場として、第1回
に引き続き、第2回アジア未来会議の二日目に開催された。会議は日本語で行われ、
円卓を囲んだ10名の発表者と討論者、および各地から駆けつけた多くのオブザーバー
が参加した。

円卓会議は2部からなり、前半は提案の代読及び指定発表者の報告であった。提案者
である早稲田大学劉傑教授は都合で来場できなかったが、提案は文章として寄せら
れ、司会者の桜美林大学李恩民教授によって代読された。内容は主に四つの部分から
なり、(1)未来に向けての「東アジア学術共同体」の意味、(2)「東アジア学術共同
体」の実験として、「日本研究」を設定することの意味、(3)アジアないし世界が共
有できる「日本研究」とはどのようなものなのか、そして(4)東アジアの日本研究の
仕組みをどのように構築していくのか、というものだった。

続いて、4人の指定報告者による報告が行なわれ、日本を除く東アジア地域の代表的
な日本研究所の歴史や活動などの最新情報が紹介された。ソウル大学日本研究所の南
基正副教授は、当研究所で展開中のHK企画研究の紹介を通じた企業との連携の実績
や、次世代研究者の養成に力を入れていることを紹介した。復旦大学日本研究所の徐
静波教授は、日本の総領事館や企業の支援を受けることは、レベルの高い日本研究を
維持していく重要な前提であると語った。中国社会科学院日本研究所の張建立副研究
員からは、中国一を誇る研究陣営、政府のシンクタンクの役割を十分果たす国家レベ
ルの研究所の紹介があった。台湾大学の辻本雅史教授は、発足したばかりの台湾大学
文学院日本研究センターを紹介し諸機関との連携を呼びかけた。

後半は北京大学准教授で早稲田大学孔子学院長を兼任している私の司会で始まり、6
名の指定討論者からコメントがあった。中国社会科学院文学研究所の趙京華研究員は
日本研究の厳しい現状を報告した上で、学術共同体という言葉遣いに疑問を投げかけ
た。学術共同体を目指すのではなく、東アジア各国の間における軽蔑感情を取り除く
べく、問題意識の共有を提案した。また、他者を意識させかねないことを防ぐため、
他分野の学者も討論に呼ぶべきだと提案した。北京大学外国語学院の王京副教授も、
学術共同体は外部が必要なため派閥が生まれやすいと指摘した。また、統合されてい
ない北京大学における日本研究の現状を例に挙げ、情報共有の大切さを訴えた。

韓国国民大学日本研究所の李元徳教授は学術共同体を目指す提案者の意見に賛同する
一方、日中韓の間における独自の問題を指摘した。また衰退しつつある韓国の日本研
究は、魅力をなくしつつある日本に起因することを慨嘆した。ジャーナリストの川崎
剛氏は東アジアの概論の必要性を訴えた。SGRA今西淳子代表は、関口グローバル研究
会として組織ではなく人の繋がりを心がけ、小さいながらも大きな組織の間を繋ぐ触
媒的な存在でありたいと説明した。「学術共同体」については、中国大陸の学者の反
対的意見を尊重し、使用を控えたほうがよいと語った。一方で、提案者劉傑教授の意
図は既にある情報インフラをもっと活用できないかという観点からであると補足説明
し、相互情報交換に力を入れる意向を明らかにした。また日本は魅力をなくしたとは
言い切れないと指摘した。中国社会科学院文学研究所の董炳月研究員は、学術から出
発して国家概念を超えた協力関係の構築を提案した。最後に台湾中央研究院の林泉忠
副研究員は日本研究の厳しい現状の再確認を促し、一刻も早く苦境の脱出を図らなけ
ればならないと指摘した。

円卓会議にはアジアのほかの地域の学者も参加し、タイ、インドなどからの学者の発
言もあった。話題は日本研究のみではなく、各大学の教育現場における新しい動向や
悩みにまで及び、予定時刻を若干オーバーして有意義な意見交換を行った。今までの
2回の議論を踏まえて、多くの参加者は、第3回アジア未来会議の場においても、引き
続きこのようなセッションを設けてほしいと望んでいる。

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<孫建軍 Sun Jianjun>
1969年生まれ。1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課
程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研
究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。現在早稲田大学
社会科学学術院客員准教授、早稲田大学孔子学院中国側院長を兼任中。専門は日本語
学、近代日中語彙交流史。

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『飯舘村、あれから3年』(2014年10月17日〜19日)
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【2】第8回SGRAチャイナフォーラム<ご予定ください>
『近代日本美術史と近代中国』
(2014年11月22日北京)
【3】第6回SGRAカフェ⇒調整中
【4】第7回SGRAカフェ<ご予定ください>
『アラブ/イスラームをもっと知ろう』
(2014年12月20日東京)
【5】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム
『ダイナミックなアジア経済—物流を中心に』
(2015年2月7日東京)<ご予定ください>

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