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[SGRA_Kawaraban] S. Numata “What can we learn from the past for the future?”
2014年9月17日 11:05:38
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SGRAかわらばん535号(2014年9月17日)
【1】エッセイ:沼田貞昭「未来に向けて過去から何を学びとれるか」
【2】日台アジア未来フォーラム報告(その3)
「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流」
【3】SGRAふくしまスタディツアー参加者募集(10月17日〜19日)
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【1】SGRAエッセイ#422
■ 沼田貞昭「未来に向けて過去から何を学びとれるか」
筆者は、公益財団法人渥美国際交流財団主催でインドネシアのバリ島で8月22日?24日
に開催された第2回アジア未来会議に参加した。昨年3月にバンコックで開かれた第1
回会議にも参加し、「戦後和解」のセッションの座長を務めたが、今回、日本で博士
号を修得した人々を中心とするアジアおよび他の地域の研究者等380名が参加し、真
摯に、忌憚なく、かつ和気あいあいと議論する姿に再び接して、感銘を新たにした。
筆者が担当した「平和」のセッション(日本語)では、戦前の「日ソ中立条約」と内
モンゴル問題、日清修交条規にかかわる副島種臣外務卿の北京訪問時の外交儀礼問
題、インドネシアの国家理念パンチャシラと憲法、日韓漁業協定前史としてのGHQの
政策が取り上げられた。正直の所、この中から何か共通の要素を見出せるか否か、
セッションが始まるまでは自信が無かったが、振り返ってみると、過去を調べて未来
について何かを学ぶとの観点から、幾つか示唆に富む点があったので、筆者の主観を
交えて以下に記す。
第1に、我々が今日および将来の近隣諸国との関係を考えるに当たって、明治から昭
和にかけて、後発国として列強に仲間入りをした日本が帝国主義的拡張を試み、結局
失敗に終わったことの意味合いを忘れてはならないと言うことである。
1873年に副島種臣外務卿が特命全権大使に任命されて北京に赴き、同治帝への謁見形
式をめぐり日本側の主張を通したことは、「国権外交」を実現したものとして日本国
内で高く評価された。他方、本ペーパーを発表した白春岩早稲田大学助教(中国)
は、清国側において、重臣李鴻章が日本との「相互利益」を重視して、現実的解決を
求めて努力したことを指摘している。当時、列強との対比においては平等な存在で
あった日清間の駆け引きの中で、「国権」と「相互利益」のバランスを如何に取るか
が問題であったことを想起すると、今日、それぞれ「大国」を自負している中国と日
本が、各々の「国権」にこだわって「相互利益」を軽んじる場合、どのような結果を
招くかと言うことも考えておく必要があると感じた。
ガンガバナ国際教養大学助教(内モンゴル)は、内モンゴルに焦点を当てつつ、松岡
洋右外務大臣の日独伊ソ四国同盟構想が実現に至らなかった経緯を考察した。筆者の
感想は、領土の取り合いないし分割と言ったパワー・ポリテイックスの権謀術数の一
環として構成される同盟は脆弱なものだったと言うことと、後発帝国主義国として列
強間の駆け引きに加わろうとした松岡大臣は多分にナイーブだったのではないかと言
うことである。将来においても、国際政治においてパワー・ポリテイックスは重要な
要素ではあり続けるだろうが、わが国としては、普遍的理念とか価値に根ざす外交と
か同盟関係を重視して行くべきものと思う。
第2に、日韓関係について、柔軟性と大局的思考が必要であるとの感を強くした。竹
島問題もあり、日韓間での摩擦要因である日韓漁業協定について、連合軍による日本
占領下のマッカーサー・ライン、1952年のいわゆる「李承晩ライン」に遡って論じる
朴昶建国民大学教授(韓国)は、「解決しないもので解決したものとみなす」という
1965年の日韓漁業協定の合意方式はいつでも再点火可能な時限爆弾のようなものだっ
たとしている。外交の実務に携わって来た筆者としては、双方が完全に合意すると言
うことは現実にあり得ず、ある程度の立場の相違を残しつつも、それはそれとして実
際の関係を処理して行くという柔軟性が特に今日の日韓関係に求められていると思
う。また、同教授は、当時、日韓両国には反共体制に属するとの共通の枠が存在して
いたと指摘しているが、今日必要なのは、日韓2国間の問題を越えて、より大局的な
共通利益を見つけて行くことではないかと思う。
なお、筆者がもう一つ共同座長を務めた「公平(Equity)」のセッション(英語)に
おいて、日本統治下の朝鮮には、「国家の宗祀」として900を越える神社が建立され
たことの背景として、「日鮮同祖論」等、日本人と朝鮮民族の同質性を強調しつつも
日本が兄貴分であり、朝鮮が弟分であるとの意識があったとする菅浩二国学院大学教
授の発表が行われた。「公平(Equity)」との観点から言えば、民族のアイデンティ
ティという根本的な問題について、「日本人と朝鮮人はそもそも同じなのだ」と言っ
て、同質性を先方に押し付けつつ、日本人の方が上に立つとのアプローチには、そも
そも無理があったと思わざるを得ない。この観点からも、今日では、日韓双方が対等
な立場に立ちつつ追求すべき大局的な共通利益を考える必要があるとの感を強くし
た。
第三に、1976年から1978年にジャカルタで勤務して以来、インドネシアを離れて久し
い筆者にとって、トマス・ヌグロホ・アリ氏(国士舘大学博士課程、インドネシア)
のインドネシアの建国理念および憲法についての解説は懐かしいものだった。と同時
に、筆者の在勤時代の国軍の「二重機能」からスハルト体制の崩壊を経て、今般の
ジャカルタ特別州知事ジョコ・ウィドド氏の大統領当選へと民主化プロセスが一層進
行していることは、西欧型民主主義の定着と言うよりも、インドネシア型民主主義が
育って来たことを意味するのだろうと感じた。
以上のように、わが国が近隣諸国などとの関係で今日直面する問題とは一見迂遠なよ
うに感じられるテーマの考察を通じて、種々学ぶべき点があることを実感でき、アジ
ア未来会議の意義を改めて認識することができた。
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<沼田 貞昭(ぬまた さだあき)NUMATA Sadaaki>
東京大学法学部卒業。オックスフォード大学修士(哲学・政治・経済)。
1966年外務省入省。1978-82年在米大使館。1984-85年北米局安全保障課長。
1994?1998年、在英国日本大使館特命全権公使。1998?2000年外務報道官。2000?2002
年パキスタン大使。2005?2007年カナダ大使。2007?2009年国際交流基金日米センター
所長。鹿島建設株式会社顧問。日本英語交流連盟会長。
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【2】第4回日台アジア未来フォーラム報告(その3)
■ 梁 蘊嫻「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流—文学・思
想・言語—(その3)」
2014年6月14日の会議は元智大学で開催された。開会式では、元智大学通識中心・劉
阿栄主任が本学を代表して、ご来場の皆様を歓迎した。大衆教育基金会の簡明仁董事
長もわざわざ駆けつけてくださった。簡董事長のご尊父は1920年代の農民運動家・簡
吉氏である。簡董事長は、ご父君の事蹟の整理をきっかけに、台日の歴史研究に携
わった。台湾と日本との思想の交流は早くから始まり、具体例として1920年から1930
年までの間、台湾の社会運動の思潮は日本の学界からの影響によるものだとの、大変
印象深いご挨拶だった。続いて、今西淳子渥美国際交流財団常務理事が、元智大学と
ご縁を結ぶことができて嬉しいこと、簡董事長の詳しい解説に感心したこと、そし
て、フォーラムの今後のテーマの一つとして、日台思想交流史を取り上げたいと述べ
られた。
フォーラムでは、川瀬健一先生が「戦後、台湾で上映された映画—民國34(1945)年〜
民國38(1949)年」という題目で講演された。1945年、第二次世界大戦が終わり、世界
情勢が大きく変動したが、日本敗戦直後には台湾では多くの日本映画が上映されてい
た。1946年4月からは上映できなくなったが、その後も日本語の映画が1947年2月頃ま
で上映されていた。特に、1947年に起きた二・二八事件前後の映画上映状況、及びソ
連映画(1946年4月〜1948年7月まで)、中国共産党の映画(1948年7月〜1949年末ま
で)の台湾での上映状況が詳しく紹介された。当時上映されたアメリカ映画は字幕が
日本語だったという興味深い現象も紹介された。このことから、世界情勢や政策が急
激に変わっても、文化はすぐに変えられるものではない事実が窺えるが、その一方、
政策が文化に大きな影響を与えていることもよくわかる。
閉幕式では、元智大学の王佳煌副教務長が、「今回だけではなく、元智大学は今後と
もフォーラムの開催に尽力したい」と挨拶され、元智大学応用外国語学科楊薇雲主任
は、「人間は歴史から学んで未来を創る。そのため、未来フォーラムで歴史を語る川
瀬先生の講演は、非常に考えさせられるものがあった」と、会議を締めくくった。
午後は、大渓保健植物厨房で食事をした。名前の通り、この厨房の料理は健康によい
薬膳料理である。漢方薬の鶏スープ、枸杞そうめん、紅麹のご飯、磯巾着、木耳のエ
キスなど、珍しい料理が次々に出された。食事の後、陶磁器の産地・鶯歌へ向かい、
台華窯という陶磁器の工房を参観した。美しい芸術品がたくさん展示されていた。続
いて、鶯歌の古い商店街を散策。ここは時間をかけて探せば、掘出物がたくさん見つ
かる楽しい町である。皆、鶯歌を満喫した。
今回のフォーラムのプログラムはバラエティに富んでおり、充実した会議であった。
多国籍(日本、台湾、韓国、スウェーデンなど)、かつ多領域の学者や専門家162名
の参加を得て、大盛況であった。各領域の研究の交流、国際交流を促進し、また、学
術研究を深め、広めることができ、大成功であった。
フォーラムを無事に開催することができたのは、数多くの団体が協力してくださった
おかげである。特筆すべきは、台湾の政府機関・科技部からの助成をいただいたこと
で、これは台日の交流においては非常に有意義なことである。公益財団法人交流協会
からも助成をいただき光栄であった。中鹿営造(股)からは今回も多大なるご支援を
いただいた。そして、例年どおり、台湾日本人会にご協力いただき、多くの日系企業
(ケミカルグラウト、全日本空輸(ANA)、台湾住友商事、みずほ銀行台北支店な
ど)からの協賛をいただいた。学術団体では、台湾大学、台湾日本研究学会などから
経験や資源を提供していただいた。また、財団法人大衆教育基金会、財団法人中日文
教基金会から支援していただき、台湾の公益法人との交流が一歩前進したといえよ
う。ご支援、ご協力いただいた台日の各団体に心からの感謝を申し上げたい。
<関連リンク>
梁 蘊嫻「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流—文学・思想・
言語—(その1)」
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/_4.php
梁 蘊嫻「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流—文学・思想・
言語—(その2)」
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/news/_4_1.php
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<梁蘊嫻(リョウ・ウンカン)Liang Yun-hsien>
2010年10月東京大学大学院総合文化研究科博士号取得。博士論文のテーマは「江戸文
学における『三国志演義の受容』−義概念及び挿絵の世界を中心に—」である。現
在、元智大学応用外国語学科の助理教授を務めている。
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【3】第3回ふくしまスタディツアー「飯舘村、あれから3年」参加者募集
渥美国際交流財団/SGRAでは2012年から毎年、福島第一原発事故の被災地である福島
県飯舘(いいたて)村でのスタディツアーを行ってきました。そのスタディツアーで
の体験や考察をもとにしてSGRAワークショップ、SGRAフォーラム、SGRAカフェ、そし
てバリ島で開催された「アジア未来会議」でのExhibition & Talk Session
「Fukushima and its aftermath-Lesson from Man-made Disaster」などを開催して
きました。今年も10月に3回目の「SGRAふくしまスタディツアー」を行います。お友
達を誘って、ご参加ください。
日程:2014年10月17日(金)、18日(土)、19日(日)2泊3日
参加メンバー:SGRA/ラクーンメンバー、その他
人数: 10〜15人程度
宿泊: ふくしま再生の会-霊山(りょうぜん)センター
参加費: 15,000円(ラクーンメンバーには補助金が出ます)
申込み締切: 9月30日(火)
申込み・問合せ: 渥美国際交流財団 角田(つのだ)
Email:[email protected]
Tel: 03-3943-7612
参加募集チラシ
http://www.aisf.or.jp/sgra/info/fukushima2014.pdf
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● SGRAカレンダー
【1】第3回SGRAふくしまスタディツアー<参加者募集中>
「飯舘村、あれから3年」(2014年10月17日〜19日)
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/33.php
【2】第8回SGRAチャイナフォーラム
「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください>
(2014年11月22日北京)
【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム
「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください>
(2015年2月7日東京)
●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員
のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読
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だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。
http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/
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● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。
● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務
局より著者へ転送いたします。
● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。
● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ
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http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/
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