SGRAメールマガジン バックナンバー
HUANG Jo Hsiang “What Studying in Japan Taught Me”
2025年2月27日 12:43:21
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SGRAかわらばん1052号(2025年2月27日)
【1】SGRAエッセイ:黄若翔「日本留学が教えてくれたこと~比較法の重要性と人との出会い~」
【2】国史対話エッセイ紹介:金賢善「歴史と私」
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【1】SGRAエッセイ#784
◆黄若翔「日本留学が教えてくれたこと~比較法の重要性と人との出会い~」
2016年4月、私は東京大学大学院法学政治学研究科修士課程に入学し、労働法を専攻することになりました。それまで台湾の大学で法学を学んできましたが、日本の大学院で学ぶことは私にとって大きなチャレンジでした。
東京大学の労働法の指導教員や先輩たちは、私を暖かく迎え入れてくれました。ゼミでは活発な議論が行われ、教授からは丁寧な指導を受けることができました。当時労働法専攻の大学院生は私1人だけで、寂しさを感じることもありました。日本語での議論についていくのは容易ではなく、日本の社会や文化になじむのにも時間がかかりました。
そんな中、私は渥美国際交流財団に出会いました。財団の奨学金を受け、イベントに参加したりする中で、同じように日本で学ぶ留学生たちと交流を深めることができました。来日6年目にして、初めて日本で帰属意識を感じる場所が見つかりました。母国を離れ、異国の地で学ぶ私たちにとって、渥美財団は心の支えとなりました。財団を通して出会った友人たちは、今でも大切な存在です。
振り返ってみると、「留学」を通じて初めて比較法の重要性と価値を理解することができました。どの国でも、市場の背景や社会状況は異なりますが、共通の問題点が存在することに気づきました。この共通認識を踏まえた上で、各国の市場背景の違いなどに基づいて法政策を分析することが可能になるのです。
例えば、学部時代に台湾大学法学部で日本の労働法に関する論文を読む機会がありました。東亜ペイント事件の判決で示された転勤命令について、業務上の必要性がない場合や不当な動機・目的がある場合や、労働者に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合」等、特段の事情がない限り権利の濫用に当たらないとされた点が当時は理解できませんでした。日本の判例法理はなぜ使用者の配転命令をそこまで認めるのだろうと疑問に思っていました(東大法学政治学研究科への入学にあたり、この問題意識とワークライフバランスをテーマに研究計画書を提出しました)。
その後、東大で本格的に労働法を学ぶ中で、日本の労働市場が長期雇用慣行・終身雇用制を採用し、厳しい解雇規制によってこの制度が支えられていることを理解しました。特に能力不足の労働者に対する解雇制限が極めて厳しい状況で、使用者に広範な配転命令権を認めることで、不適任の労働者を他の部門に配置換えできるようにし、長期雇用慣行と厳しい解雇規制を成り立たせていることが初めて分かりました。
逆に、台湾の労働市場は雇用の流動性が高く、能力不足の労働者に対する解雇に関する規制が相対的に緩やかであり、これが台湾及び日本の法政策の違いを浮き彫りにしています。日本へ留学しなかったら、他者の目となって自国や他国の法制度を分析する機会は得られず、比較法という学問の真髄を体験することは難しかったかもしれません。
大学院での研究は決して楽なものではありませんでしたが、指導教員や先輩、そして渥美財団の支援があったからこそ、乗り越えることができました。日本での経験は、私の人生を大きく変えてくれました。日本の社会や文化に触れ、多様な価値観に出会ったことで、視野が広がりました。
渥美財団で出会った仲間たちとは今でも交流を続けており、互いに刺激し合いながらそれぞれの道を歩んでいます。日本留学は、私にとってかけがえのない経験となりました。東京大学の恩師や先輩方、渥美財団の皆様には心から感謝しています。これからも日本と台湾の架け橋となるべく、研究と教育に励んでいきたいと思います。
<黄若翔 HUANG_Jo-Hsiang>
台湾の新竹県で生まれ育つ。中学校卒業後台北に進学し、国立台湾大学法学部を卒業(2016)。同年、思鴻教育財団の奨学金を得て、日本の東京大学大学院法学政治学研究科へ留学し、修士号(2019)および博士号(2024)を取得。在学期間中、東京大学先端ビジネスロー国際卓越大学院奨学生、渥美財団奨学生および日本学術振興会特別研究員(DC2)に選出される。博士号取得後、日本独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)にて研究助手を務めた。現在は台湾の国立清華大学科技法律研究所に助理教授として勤めている。
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【2】国史対話エッセイ紹介
昨年12月18日に配信した国史対話メールマガジン第63号のエッセイをご紹介します。
◆金賢善「歴史と私」
私は、他の先生方のように渦巻く歴史のど真ん中に立たされたわけでもなかったし、だからといって強い使命感で歴史の勉強を始めたわけでもない。そのため、先生方の前で自分を「歴史家」と名乗ることすら気恥ずかしく感じる。この文章では、壮大な物語でも優れているわけでもいない自分の研究について、ただ単に若い歴史家の旅程とその悩みを率直に述べたい。
学生時代、私は特別な才能もなく、また世界を眺める視野も非常に狭かった。教科の中で最も好きな科目が国史(訳注:韓国史)であり、単純に教員採用試験を受けて先生になろうという思いで史学科に入学した。大学3年生の時、偶然学校の支援を受けてスペインのバレンシアへボランティア活動に行くことになった。当時、旅行者があまり多くはなかったスペインの小さな田舎町でも、さりげなくある中国系の商店と飲食店を見かけた。この経験は私の中国に対する好奇心を刺激した。ボランティア活動を終え、フランスとベルギー、イタリアを一人で旅行しながら、地理的に近い中国と韓国が欧州連合のように統合し共存できない理由について考えた。スペインでのボランティア活動とヨーロッパ旅行を通じて私は漠然と中国について勉強する夢を見始めた。
旅を終えた後、中国へ行くことを決意した。アルバイトをし、中国のハルビンで語学研修を始めた。新しい言語と文化を学ぶことはとても楽しかったし、中国で生活する間、中国についてもっと勉強したいという思いがより切実になった。しかし、私の切実さとは裏腹に、周辺の人々は「歴史学を勉強してまともに生計を立てることができるか」と心配し、私を慰留した。その上、私には大学院の学費と生活費を賄える力さえなかった。強がりだったかもしれないが、引き止める友人に対して私は、お金を稼げなくても「一生ブランド物のカバンを持てなくても後悔しなさそう」と言った。その後、借金をして大学院に入学した。
全文は下記リンクよりお読みください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2024KimHyunsunEssay.pdf
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